(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性高分子の含有量が、前記水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方を含む溶媒100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性高分子溶液。
前記有機物の含有量が、前記導電性高分子100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性高分子溶液。
前記導電性高分子が、3,4−エチレンジオキシチオフェン、ピロール、アニリンまたはその誘導体の繰り返し単位を含む重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性高分子溶液。
前記ポリ酸が、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、または、これらの構造単位を有する共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性高分子溶液。
請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性高分子溶液を加熱して乾燥し、前記水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去する工程と、前記カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物を重縮合反応させる工程とを含む導電性高分子材料の製造方法。
弁作用金属からなる多孔質体の表面に誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層の表面に、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性高分子溶液を含浸または塗布し、前記導電性高分子溶液から前記水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去して得られる導電性高分子材料を含む固体電解質層を形成する工程とを含む固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、自己乳化型ポリエステル樹脂水分散体を含有することにより、基材に対する密着性や塗膜の耐水性の向上は見込めるが、絶縁性の樹脂を添加することになるため、膜の導電性は低下してしまうという問題がある。また、帯電防止材としては十分な導電率でも、この水系の帯電防止コーティング用組成物を、例えばコンデンサの電極として用いた場合には、導電率が低く、コンデンサへの低ESR化の要求を十分に満足させることは困難である。
【0008】
また、特許文献2に開示された技術は、特許文献1の課題を解決することは可能であるが、カルボキシル基等を2つ以上持つ水溶性有機物と水溶性多価アルコールが反応する際にエステル結合に寄与せず、未反応物として残留する場合があり、導電率の発現の低下や、耐熱性が不十分になるという課題があった。
【0009】
本発明は、未反応物の発生を抑制し、導電率の発現が向上し、十分な耐熱性を持つことが可能な導電性高分子溶液、導電性高分子材料、ならびに固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の導電性高分子溶液は、導電性高分子と、水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方と、ドーパントと、化合物とを少なくとも含む導電性高分子溶液であって、前記化合物は、カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物の少なくとも一種からなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の導電性高分子溶液は、前記有機物が、
前記水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方に対して溶解性を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の導電性高分子溶液は、前記有機物が、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の導電性高分子溶液は、前記導電性高分子の含有量が、前記溶媒
100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の導電性高分子溶液は、前記有機物の含有量が、前記導電性高分子
100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の前記導電性高分子溶液は、前記導電性高分子が、3,4−エチレンジオキシチオフェン、ピロール、アニリンまたはその誘導体の繰り返し単位を含む重合体であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の導電性高分子溶液は、前記ドーパントが、ポリスチレンスルホン酸であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の導電性高分子材料は、前記導電性高分子溶液を加熱して乾燥し、前記水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去して得られる導電性高分子材料であって、前記カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物を重縮合反応させて得られることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の固体電解コンデンサは、前記導電性高分子材料を含む固体電解質層を備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の導電性高分子溶液の製造方法は、導電性高分子と、水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方と、ドーパントとからなる導電性高分子溶液に、カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物の少なくとも一種を分散または溶解することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の導電性高分子溶液の製造方法は、前記導電性高分子溶液を加熱して乾燥し、前記水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去する工程と、前記カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物を重縮合反応させる工程とを含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の導電性高分子溶液の製造方法は、弁作用金属からなる多孔質体の表面に誘電体層を形成する工程と、前記誘電体層の表面に、前記導電性高分子溶液を含浸または塗布し、前記導電性高分子溶液から前記水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去して得られる導電性高分子材料を含む固体電解質層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、導電性高分子溶液において、有機物が、カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備えることにより、導電性高分子溶液を加熱し乾燥させてエステル結合を起こす際に未反応物の発生が抑制される。これにより、導電率の発現が向上し、十分な耐熱性を持つことが可能な導電性高分子材料、固体電解コンデンサの提供が可能になる。
【0023】
また、本発明によれば、有機物が、カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備えることにより、単体でエステル結合を形成することが可能になる為、部材の削減や製造工程の簡略化が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(導電性高分子溶液)
本発明に係る導電性高分子溶液は、導電性高分子と、水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方と、ドーパントと、化合物とを少なくとも含む導電性高分子溶液であって、化合物は、カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物の少なくとも一種からなる。
【0026】
前述したが、特許文献2の技術では、水溶性多価アルコールの少なくとも1種と、水溶性多価アルコールと重縮合可能な官能基を2つ以上有する水溶性有機物の少なくとも1種からなる物質の反応によりエステル結合を起こしている。このため、導電性高分子溶液を製造する際に、これらの物質において、設定した投入量に対するずれや、混合むらなどが生じた場合、未反応物として残留してしまう。
【0027】
通常、膜等の導電性高分子材料は、導電性高分子溶液を加熱し乾燥させて得ることができる。この時、上記の未反応物が、ポリエステル樹脂を形成せず偏析して、導電性高分子材料中に残留した場合に、導電性高分子の粒子同士が接触する領域を減らすため、導電性の発現が低下する要因となってしまう。また、導電性高分子材料がリフロー工程等の熱履歴を受けた場合、ESRが増加する等の耐熱性の低下を招く要因ともなる。
【0028】
一方、本発明に係る導電性高分子溶液は、カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物が単体で重縮合反応することでエステル結合を起こすことができるため、未反応物の発生を大幅に低減することが可能となる。
【0029】
その結果、本発明の導電性高分子溶液から得た導電性高分子材料や、その導電性高分子材料を用いた固体電解コンデンサ等では、導電性高分子の粒子同士を結びつけるポリエステル樹脂が均一に形成されるため、導電率の発現の向上が可能となり、また、耐熱性の向上も可能になる。
【0030】
カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備える有機物としては、溶媒への溶解性の観点から、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、水溶性の観点からグリセリン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などがさらに好ましく、反応性、安定性の観点から、グリセリン酸がより好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明に係る導電性高分子溶液における有機物の添加量は、導電性高分子
100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下が好ましく、50質量部以上100質量部以下がより好ましい。
【0032】
本発明に係る導電性高分子溶液における有機物の添加量が、10質量部以上200質量部以下であることにより、導電性高分子溶液を用いた導電性高分子材料や固体電解コンデンサ等で導電率の発現の向上が可能となり、また、耐熱性の向上も可能になる。
【0033】
本発明に係る導電性高分子溶液において、導電性高分子溶液を加熱し乾燥することによって、有機物のエステル結合が起こるが、この時、導電性高分子溶液のpHは、低い方が望ましく、特にpHは3未満が望ましい。これは、導電性高分子溶液のpHが、3未満であることにより、有機物のエステル結合を起こす重縮合反応が促進されるためである。
【0034】
本発明に係る導電性高分子は、水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方に溶解または分散している。導電性高分子としては、π共役系導電性高分子を用いることができ、例えばピロール、チオフェン、アニリン等の繰り返し単位を含む高分子が挙げられる。具体的な導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびそれらの誘導体が挙げられる。特に、3,4−エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を含む重合体が好ましい。具体的には、化1式で示される繰り返し単位を含むポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)またはその誘導体が好ましい。
【0036】
3,4−エチレンジオキシチオフェンの誘導体としては、3,4−(1−ヘキシル)エチレンジオキシチオフェン等の3,4−(1−アルキル)エチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。導電性高分子はホモポリマーでもコポリマーでもよい。また、これらの導電性高分子は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0037】
導電性高分子溶液における導電性高分子の含有量は、溶媒の全質量に対して、0.1質量部以上、30質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上、20質量部以下であることがより好ましい。本発明に係る導電性高分子の合成方法は特に限定されないが、例えば、ドーパントを含む溶媒中で導電性高分子を与えるモノマーを、酸化剤を用いて化学酸化重合させることにより合成することができる。
【0038】
ここで、導電性高分子とは、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびそれらの誘導体のことであり、3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にポリスチレンスルホン酸(PSS)をドープしたPEDOT/PSSも含まれる。
【0039】
ドーパントとしては、特に限定されないが、低分子スルホン酸またはポリ酸を用いることが好ましい。
【0040】
低分子スルホン酸としては、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、カンファースルホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられる。これらの低分子スルホン酸は、モノスルホン酸でもジスルホン酸でもトリスルホン酸でもよい。アルキルスルホン酸の誘導体としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。ベンゼンスルホン酸の誘導体としては、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。ナフタレンスルホン酸の誘導体としては、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3−ナフタレンジスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、6−エチル−1−ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。アントラキノンスルホン酸の誘導体としては、アントラキノン−1−スルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸、2−メチルアントラキノン−6−スルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸が好ましい。これらの低分子スルホン酸は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0041】
なお、低分子スルホン酸の重量平均分子量は、100以上、500以下であることが好ましい。
【0042】
ポリ酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸;ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等のポリスルホン酸;およびこれらの構造単位を有する共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリ酸としては化2式で示される繰り返し単位を含むポリスチレンスルホン酸が好ましい。
【0044】
本発明に係る導電性高分子溶液は、溶媒として水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を含む。水混和性有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸等のプロトン性極性溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。水混和性有機溶媒としては、導電率向上の観点から、ジメチルスルホキシドがより好ましい。なお、ジメチルスルホキシドの混合比は、水100質量部に対して、50質量部以下が好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0045】
(導電性高分子溶液の製造方法)
続いて、本発明に係る導電性高分子溶液の製造方法を説明する。
【0046】
水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方からなる溶媒に、ドーパント、酸化剤、導電性高分子を与えるモノマーを添加し、10時間〜50時間空気を導入し、導電性高分子を含む初期溶液を作成する。
【0047】
この初期溶液に、ヒドロキシル基とカルボキシル基を両方持つ有機物を添加し、室温下で、10時間〜50時間攪拌し、本発明の導電性高分子溶液が得られる。
【0048】
なお、初期溶液には、未反応なモノマー、酸化剤由来の残留成分等の導電性の発現に不要な成分が含まれるため、限外濾過、遠心分離等による抽出やイオン交換処理、透析処理等によって除去する。導電性の発現に不要な成分は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析やイオンクロマトグラフィー、UV吸収等により定性定量が可能である。
【0049】
さらに、本発明によれば、有機物が、カルボキシル基とヒドロキシル基の両方を備えていることにより、単体でエステル結合が可能になる為、従来技術よりも部材の削減や製造工程の簡略化が図れる。
【0050】
(導電性高分子材料)
本発明に係る導電性高分子材料は、本発明に係る導電性高分子溶液を加熱して乾燥し、水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去して得られる。この加熱して乾燥する過程で、ヒドロキシ基とカルボキシ基を両方持つ有機物がエステル結合を形成する為の重縮合反応が起こり、ポリエステル樹脂が形成される。
【0051】
このポリエステル樹脂には、未反応物も残留せず、導電性高分子の粒子同士を強固に結びつけるため、得られる導電性高分子材料における導電性の発現が十分に行われる。さらに、耐熱性の向上も図れる。
【0052】
また、このポリエステル樹脂は、導電性高分子の粒子同士を強固に結びつけるため、得られる導電性高分子材料の成膜性、膜強度が向上する。
【0053】
溶媒である水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去するための乾燥の温度は、導電性高分子の分解温度以下であれば特に制限されないが、300℃以下が好ましい。
【0054】
なお、導電率は、導電性高分子材料からなる導電性高分膜の表面抵抗値と膜厚とから、導電率(S/cm)を算出することが可能である。
【0055】
(固体電解コンデンサ)
本発明に係る固体電解コンデンサは、本発明に係る導電性高分子溶液を用いて含浸または塗布し、乾燥することにより、コンデンサ素子における誘電体層の表面やエッジ部に固体電解質層が十分に形成される。これにより導電率が十分得られるものとなり、また低ESRを実現することができる。また、LCの発生も抑制できる。
【0056】
図1は、本発明の実施の形態に係る固体電解コンデンサの一例の構成を説明する概略断面図である。
【0057】
図1に示す固体電解コンデンサには、陽極導体1上に、誘電体層2、固体電解質層3および陰極層4が順次形成されている。
【0058】
陽極導体1は、弁作用金属を有する金属の板、箔または線、弁作用を有する金属微粒子からなる焼結体、エッチングによって拡面処理された多孔質体金属などによって形成される。弁作用金属としては、タンタル、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、弁作用金属としては、タンタル、アルミニウムおよびニオブからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0059】
誘電体層2は、陽極導体1の表面を電解酸化させた膜であり、焼結体や多孔質体金属などの空孔部にも形成される。誘電体層2の厚みは、電解酸化の電圧によって適宜調整できる。
【0060】
固体電解質層3は、少なくとも本発明に係る導電性高分子材料を含む。固体電解質層3には、本発明に係る導電性高分子材料以外にも、二酸化マンガン、酸化ルテニウム等の酸化物誘導体、TCNQ(7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタンコンプレックス塩)等の有機物半導体等が含まれていてもよい。
【0061】
固体電解質層3の形成方法としては、例えば、陽極導体1の表面に形成された誘電体層2上に本発明に係る導電性高分子溶液を塗布または含浸し、乾燥して固体電解質層3を形成する方法が挙げられる。
【0062】
また、固体電解質層3は二層以上の層からなっていてもよい。
図1に示す第一の導電性高分子層3aおよび第二の導電性高分子層3bからなる固体電解質層3の形成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0063】
陽極導体1の表面に形成された誘電体層2上に、単量体と、ドーパントと、金属塩、硫酸塩等の酸化剤と、を塗布または浸漬し、化学酸化重合または電解重合することにより第一の導電性高分子層3aを形成する。
【0064】
単量体としては、ピロール、チオフェン、アニリン等を用いることができる。この中でも、後述する第二の導電性高分子層3bの形成に用いる導電性高分子溶液に含まれる導電性高分子を構成する単量体と同じ単量体を用いることが好ましい。即ち、第一の導電性高分子層3aと第二の導電性高分子層3bとにおいて、同じ導電性高分子を用いることが好ましい。
【0065】
ドーパントとしては、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその誘導体などのスルホン酸系化合物が好ましい。ドーパントの分子量としては、単量体から高分子量体まで適宜選択して用いることができる。
【0066】
その後、第一の導電性高分子層3a上に本発明に係る導電性高分子溶液を塗布または含浸し、乾燥して第二の導電性高分子層3bを形成する。乾燥して溶媒を除去する際の乾燥温度としては、溶媒除去が可能な温度範囲であれば特に限定されないが、熱による素子劣化防止の観点から300℃未満であることが好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によって適宜最適化する必要があるが、導電性が損なわれない範囲であれば特に制限されない。
【0067】
第二の導電性高分子層3bは、第一の導電性高分子層3aを完全に被覆していることが好ましい。これにより、固体電解質層3と陰極層4とが十分に接続され、より低いESRを示す。
【0068】
陰極層4は、導体であれば特に限定されない。例えば、グラファイト等からなるカーボン層4aと、銀導電性樹脂層4bとからなる2層構造としてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本実施の形態を実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
まず、重量平均分子量50000のポリスチレンスルホン酸(5g)、3,4−エチレンジオキシチオフェン(1.25g)及び硫酸鉄(III)(0.125g)を、水(500ml)とジメチルスルホキシド(100ml)を混合した溶媒に溶解した。この溶液に24時間にわたって空気を導入し、導電性高分子の初期溶液である、ポリチオフェン溶液を製造した。
【0071】
続いて、ポリチオフェン溶液中の導電性高分子100質量部に対して、ヒドロキシル基とカルボキシル基を両方持つ有機物であるグリセリン酸を10質量部添加し、この溶液を室温下、24時間攪拌して、本発明の導電性高分子溶液を得た。
【0072】
得られた導電性高分子溶液を、ガラス基板上に15μl滴下し、125℃の恒温槽中で水を揮発させ乾燥し、導電性高分子材料として、膜厚約5μmの導電性高分子膜を作製した。この導電性高分子膜における、表面抵抗(Ω/□)を測定した。測定は、四探針法の抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学アナリテック社製)を用いて行った。
【0073】
膜厚はインジケータ検査機(アイ・チェッカ IC1000、ミツトヨ社製)を用いて測定した。測定した表面抵抗値と膜厚とから、導電率(S/cm)を算出した。
【0074】
次に、この導電性高分子膜を、125℃の恒温槽に放置し、500時間後に取り出して再び導電率を計測した。これにより、導電性高分子膜の熱履歴後の導電率の変化率を測定した。以上の測定結果を表1に示す。
【0075】
(実施例2)
導電性高分子100質量部に対する、グリセリン酸の添加量を100質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例3)
導電性高分子100質量部に対する、グリセリン酸の添加量を200質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例4)
ヒドロキシル基とカルボキシル基を両方持つ有機物として、グリコール酸を用いた以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例5)
導電性高分子100質量部に対する、グリコール酸の添加量を100質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例6)
導電性高分子100質量部に対する、グリコール酸の添加量を200質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例7)
ヒドロキシル基とカルボキシル基を両方持つ有機物として、乳酸を用いた以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例8)
導電性高分子100質量部に対する、乳酸の添加量を200質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例9)
ヒドロキシル基とカルボキシル基を両方持つ有機物として、リンゴ酸を用いた以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例10)
導電性高分子100質量部に対する、リンゴ酸の添加量を200質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例11)
ヒドロキシル基とカルボキシル基を両方持つ有機物として、酒石酸を用いた以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例12)
導電性高分子100質量部に対する、酒石酸の添加量を200質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例13)
ヒドロキシル基とカルボキシル基を両方持つ有機物として、クエン酸を用いた以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例14)
導電性高分子100質量部に対する、クエン酸の添加量を200質量部とした以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例1)
添加剤であるエリスリトール及びオルトフタル酸の添加量の合計を、実施例1と同様のポリチオフェン溶液の導電性高分子100質量部に対して、200質量部とし、エリスリトールとオルトフタル酸のモル比を1:1になるようにしたこと以外は、実施例1と同様に導電性高分子膜を作製し、評価を実施した。結果を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(実施例15)
実施例1で調製した導電性高分子溶液を用いて、固体電解コンデンサを作製した。
【0091】
弁作用金属からなるアルミニウム箔をエッチングにより拡面処理し、陽極導体とした。陽極酸化により、アルミニウム箔の表面に酸化皮膜からなる誘電体層を形成した。陽極部と陰極部は、絶縁性樹脂で分離した。
【0092】
次いで、誘電体層を形成した陽極導体の陰極部を、3,4−エチレンジオキシチオフェンを含むモノマー溶液と、ドーパントとしての1,3,6−ナフタレントリスルホン酸と、酸化剤であるペルオキソ二硫酸アンモニウムを含む酸化剤溶液と、を含む溶液に浸漬させた。浸漬を数回繰り返し、化学酸化重合法によってポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンを含む第一の導電性高分子層を形成した。
【0093】
次に、実施例1で調製した導電性高分子溶液に、第一の導電性高分子層を形成した陽極導体の陰極部を浸漬し、引き上げた後、125℃の恒温槽中で乾燥し、固化させた。これにより、第一の導電性高分子層の表面に第二の導電性高分子層を形成した。その後、第二の導電性高分子層の表面に、グラファイト層、銀導電性樹脂層を順次形成し、コンデンサ素子を得た。このコンデンサ素子を、外部接続端子を備えた基板に接続し、絶縁性樹脂で外装して、本発明の固体電解コンデンサを作製した。固体電解コンデンサは100個作製した。
【0094】
作製した固体電解コンデンサに対し、LCRメーターを用いて、100kHzの周波数でESRを測定した。次に、この固体電解コンデンサを、125℃の恒温槽に放置し、500時間後に取り出して再びESRを計測した。これにより、固体電解コンデンサの熱履歴後のESRの変化率を測定した。結果を表2に示す。
【0095】
(実施例16)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例2で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0096】
(実施例17)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例3で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0097】
(実施例18)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例4で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0098】
(実施例19)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例5で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0099】
(実施例20)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例6で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0100】
(実施例21)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例7で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0101】
(実施例22)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例8で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0102】
(実施例23)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例10で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0103】
(実施例24)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例12で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0104】
(実施例25)
第二の導電性高分子層の形成において、実施例14で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例15と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0105】
(比較例2)
第二の導電性高分子層の形成において、比較例1で作製した導電性高分子溶液を用いた以外は実施例17と同様に固体電解コンデンサを作製し、評価、測定を行った。結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表1に示したように、実施例1〜14で作製した導電性高分子溶液より得られた導電性高分子膜は、比較例1で得られた導電性高分子膜に比べて、導電率の発現の増加が確認され、耐熱性も向上している。
【0108】
表2に示したように、実施例15〜25で得られた固体電解コンデンサは、比較例2で得られた
固体電解コンデンサに比べて、ESRの値が低減され、耐熱性も向上している。
【0109】
本発明は、上記で説明した固体電解コンデンサに限定されるものではなく、帯電防止膜、透明導電膜(ITO代替材料)、有機EL、太陽電池、フレキシブルプリント配線板等に利用することができる。