特許第6223719号(P6223719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFE建材株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6223719-防護柵支柱 図000002
  • 特許6223719-防護柵支柱 図000003
  • 特許6223719-防護柵支柱 図000004
  • 特許6223719-防護柵支柱 図000005
  • 特許6223719-防護柵支柱 図000006
  • 特許6223719-防護柵支柱 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223719
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】防護柵支柱
(51)【国際特許分類】
   E01F 15/04 20060101AFI20171023BHJP
   E01F 15/02 20060101ALI20171023BHJP
   E01F 15/06 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   E01F15/04 B
   E01F15/02
   E01F15/06 A
   E01F15/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-119977(P2013-119977)
(22)【出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-237936(P2014-237936A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年6月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 本願出願人であるJFE建材株式会社は、平成25年5月31日に下記アドレスのウェブサイト(1)〜(3)にて、永石充と岡本直とが発明した防護柵支柱について公開した。 ウェブサイト(1)http://www.jfe−kenzai.co.jp/ ウェブサイト(2)http://www.jfe−kenzai.co.jp/product/13/01/index.html ウェブサイト(3)http://www.jfe−kenzai.co.jp/product/13/01/images/03.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】永石 充
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−105274(JP,U)
【文献】 特開2010−156167(JP,A)
【文献】 特開2008−202393(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3156486(JP,U)
【文献】 特開2011−157715(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0035340(US,A1)
【文献】 特開2014−214415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 1/00
E01F 13/00〜 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎に固定されるベースプレートと、前記ベースプレート上に立設して接合された閉断面中空状の支柱本体と、を備える防護柵支柱であって、
前記ベースプレートは、道路の車線方向を幅方向として固定部材によって前記基礎に固定されており、
前記ベースプレートにおける前記幅方向中央部を通過し前記道路の車線方向に略直交する線を仮想折曲線とした場合、前記固定部材は、横梁部材を介して前記支柱本体が荷重を受けた際の前記ベースプレートにおける前記仮想折曲線を軸とする折曲を抑制する折曲抑制位置に配置されており、
前記支柱本体の内部には、前記ベースプレートと前記支柱本体との接合部分近傍に前記支柱本体に対して与えられる荷重方向に沿って立設した補強プレートが設けられており、
前記補強プレートは、当該補強プレートの下方に形成された略方形部分である剛性保持部と、当該剛性保持部の上方に形成されて前記補強プレートの前記荷重方向に対向する側の高さが延伸する略三角形部分である荷重分散部とから形成されていることを特徴とする防護柵支柱。
【請求項2】
前記固定部材が前記ベースプレートにおける道路側に配置されているとともに、反道路側に反道路側固定部材が配置され、前記反道路側固定部材として、前記道路の車線方向に離間する2本の反道路側固定部材が配設されており、
前記折曲抑制位置は、前記2本の反道路側固定部材上を通過し、前記仮想折曲線に略平行となる2本の領域規定線の間であって、前記支柱本体の中心から前記道路の車線方向に略45度の範囲に含まれる位置であることを特徴とする請求項1に記載の防護柵支柱。
【請求項3】
前記折曲抑制位置は、前記ベースプレート表面における前記支柱本体の外面を通過し、前記仮想折曲線に略平行となる2本の領域規定線の間であって、前記支柱本体の中心から前記道路の車線方向に略45度の範囲に含まれる位置であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防護柵支柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路の路側や中央分離帯などに設けられる防護柵に用いられる防護柵支柱に係り、特に、車両の衝突等による衝撃を吸収する防護柵支柱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路に設置されるガードレール、ガードパイプ、ガードケーブル、また橋梁に設置される高欄等(以下、これらを「防護柵等」という。)は、間隔を設けて設置された支柱に固定されている。このような支柱は、車両が衝突した際の衝撃力を吸収して車両を受け止め、乗員の安全を図る目的を有する。そのため、支柱は、所定の支持力を有する鋼管(丸形金属管や角形金属管を含む)やH形鋼によって製造され、地中に打ち込まれ又は基礎に固定されたベースプレートに溶接接合されている。
【0003】
ところで、ベースプレートに溶接接合された支柱は、車両が衝突した際に衝撃力を受けた場合、支柱とベースプレートとの溶接接合された部分(溶接部)が破断すると、支柱における衝撃エネルギーの吸収量が急激に低下してしまうことが懸念される。このように溶接部が破断するのは、支柱の変形に溶接部が追従しないことによる。このような課題に対応して、従来、衝撃力により支柱の座屈する側の下部における支柱断面を欠損させて切欠や穴を設けることにより、支柱の座屈を促進させ、結果として溶接部への荷重負担を軽減して溶接部の破断を防いだ技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−95472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術のように、支柱に穴を設けた場合、当該穴からの雨水や塵埃の浸入が考えられる。特に、雨水は、平面位置でベースプレートから穴の下端まで溜まることが考えられ、防錆上好ましくない。また、支柱に設けられた切欠や穴は、外部から視認可能で欠損した部分となるため、景観上好ましくなかった。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、支柱を欠損させることなく支柱本体とベースプレートとの溶接部分の破断を抑制し、支持力の向上を発揮することができ、また腐食の防止を図った防護柵支柱を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載した本発明の防護柵支柱は、基礎に固定されるベースプレートと、前記ベースプレート上に立設して接合された閉断面中空状の支柱本体と、を備える防護柵支柱であって、前記ベースプレートは、道路の車線方向を幅方向として固定部材によって前記基礎に固定されており、前記ベースプレートにおける幅方向中央部を通過し前記道路の車線方向に略直交する線を仮想折曲線とした場合、前記固定部材は、前記横梁部材を介して前記支柱本体が荷重を受けた際の前記ベースプレートにおける前記仮想折曲線を軸とする折曲を抑制する折曲抑制位置に配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載した本発明の防護柵支柱によれば、ベースプレートにおける幅方向中央部を通過し道路の車線方向に略直交する線を仮想折曲線とした場合に、この仮想折曲線を軸とする折曲を抑制する折曲抑制位置に固定部材を配置することによりベースプレートの折曲を抑制する。
【0009】
つまり、ベースプレートの折曲を抑制することにより、支柱本体とベースプレートとの溶接部分の破断を抑制し、支持力の向上と腐食の防止を図った防護柵支柱を提供することができる。
【0010】
請求項2に記載した本発明の防護柵支柱は、請求項1に記載の防護柵支柱であって、前記固定部材が前記ベースプレートにおける道路側に配置されているとともに、反道路側に反道路側固定部材が配置され、前記反道路側固定部材として、前記道路の車線方向に離間する2本の反道路側固定部材が配設されており、前記折曲抑制位置は、前記2本の反道路側固定部材上を通過し、前記仮想折曲線に略平行となる2本の領域規定線の間であって、前記支柱本体の中心から前記道路の車線方向に略45度の範囲に含まれる位置であることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した本発明の防護柵支柱によれば、折曲抑制位置として、道路の車線方向に離間する2本の反道路側固定部材上を通過し、仮想折曲線に略平行となる2本の領域規定線の間であって、支柱本体の中心から道路の車線方向に略45度の範囲に含まれる位置に固定部材を配置することによりベースプレートの折曲を抑制する。このため、より支柱本体とベースプレートとの溶接部分の破断を抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載した本発明の防護柵支柱は、請求項1又は請求項2に記載の防護柵支柱であって、前記折曲抑制位置は、前記ベースプレート表面における前記支柱本体の外面を通過し、前記仮想折曲線に略平行となる2本の領域規定線の間であって、前記支柱本体の中心から前記道路の車線方向に略45度の範囲に含まれる位置であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載した本発明の防護柵支柱によれば、折曲抑制位置として、ベースプレート表面における支柱本体の外面を通過し、仮想折曲線に略平行となる2本の領域規定線の間であって、支柱本体の中心から道路の車線方向に略45度の範囲に含まれる位置に固定部材を配置することによりベースプレートの折曲を抑制する。このため、より支柱本体とベースプレートとの溶接部分の破断を抑制することができる。
【0014】
請求項4に記載した本発明の防護柵支柱は、請求項1に記載の防護柵支柱であって、前記支柱本体の内部には、前記ベースプレートと前記支柱本体との溶接部分近傍に補強プレートが設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載した本発明の防護柵支柱によれば、支柱本体の内部に補強プレートが設けられているため、支柱本体とベースプレートとの間の溶接部分の破断を防止し、支持力の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に係る防護柵支柱によれば、支柱本体とベースプレートとの溶接部分の破断を抑制し、支持力の向上と腐食の防止を図った防護柵支柱を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る防護柵支柱を示す側面図及び平面図である。
図2】本発明の実施形態に係る防護柵支柱の補強プレートを示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る実験装置を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係るアンカーボルトの配置パターンを示す図である。
図5図4に示す配置パターンに対して行った荷重の載荷実験の結果を示す表である。
図6】本発明の実施形態に係るアンカーボルトの配置を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る防護柵支柱について図面を参照して説明する。本発明の実施形態に係る防護柵支柱は、ビーム、パイプ又はワイヤーケーブル等の防護柵用材を支持してガードレール、ガイドパイプ、高欄又はガイドケーブル等の防護柵を構成する防護柵支柱であって、特に、車両の衝突等による衝撃を吸収する防護柵支柱に関する。
【0019】
[1−1.防護柵支柱の概略構成]
はじめに、図1を参照して、本発明の実施形態(以下、本実施形態という。)に係る防護柵支柱の構成について説明する。図1は、本実施形態の防護柵支柱1の全体構成を示す側面模式図(a)及び平断面図(b)である。
【0020】
図1(a)に示すように、本実施形態の防護柵支柱1は、基礎に固定されるベースプレート2と、ベースプレート2に立設して接合された閉断面中空状の支柱本体3と、から略構成されている。
【0021】
このような防護柵支柱1は、道路に沿って一定間隔で複数本設置される。そして、図1(a)に示すように、防護柵支柱1は、支柱本体3の高さ方向で中央部分と、上端部分とに、取付部材となるブラケットBr1、Br2を介して横梁部材B1、B2を支持することで、防護柵として機能する。
【0022】
なお、この横梁部材B1、B2と、ブラケットBr1、Br2は、本発明に特有のものではなく、公知の部材を用いることにより構成可能であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0023】
ベースプレート2は、図1(a)及び(b)に示すように、方形の鋼板からなり、所定の位置に貫通穴21a〜21dを有する。この貫通穴21a〜21dを介してアンカーボルトBo(Bo1及びBo2)により地面に設置したコンクリート基礎や鋼製地覆等の取付対象Gに固定される。
【0024】
アンカーボルトBоは、反道路側(図1(a)の左側)に2本の反道路側アンカーボルトBo1と、道路側(図1(a)の右側)に2本の道路側アンカーボルトBo2が配置されている(後述する図6参照)。
【0025】
なお、本実施例では、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを操作してベースプレート2の折曲を抑制することにより、支柱本体3とベースプレート2との溶接部の破断を防止し、車両の衝突による衝撃力を吸収する。
【0026】
具体的には、2本の道路側アンカーボルトBo2は、支柱本体3が荷重を受けた際のベースプレート2における折曲を抑制する折曲抑制位置SP(後述する図6参照)に配置されている。
【0027】
ここで、折曲抑制位置SPとは、ベースプレート2における幅方向Wの中央部Wo(後述する図6(b)及び(c)参照)を通過し、道路の車線方向(後述する図6(b)及び(c)の矢印Ld方向)に略直交する線を仮想折曲線Li2とした場合、支柱本体3が荷重を受けた際のベースプレート2における仮想折曲線Li2を軸とする折曲を抑制する位置である。折曲抑制位置SPの詳細については後述する。
【0028】
そして、2本の道路側アンカーボルトBo2を折曲抑制位置SPに配置すると、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチは、2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチよりも狭くなる(後述する図6(b)及び(c)参照)。
【0029】
このため、上述した貫通穴21a〜21dのうち2本の道路側アンカーボルトBo2が貫通する貫通穴21a、21bの穴ピッチも貫通穴21c、21dの穴ピッチよりも狭くなるように形成されている。折曲抑制位置SPについては、図6を参照して後述する。
【0030】
なお、図示はしないが、このベースプレート2は、地面に設置後、表面をコンクリートやアスファルトによって覆うことで、路面上から露出しないように施工する場合もある。
【0031】
支柱本体3は、路面への設置前にベースプレート2に対して立設した状態で溶接により接合されている。支柱本体3は、鋼板により形成された断面が円形の筒状である。支柱本体3の支柱径や支柱を構成する鋼板の板厚は、防護柵支柱1が設置される道路において要求される最大支持力を考慮して設定される。
【0032】
また、支柱本体3は、内部にベースプレート2と支柱本体3との接合部分近傍に補強部材としての補強プレート31を立上り方向に備える。この補強プレート31は、支柱本体3を取付対象Gに設置した場合に、支柱本体3に対して与えられる荷重方向に沿って立設されている。
【0033】
すなわち、図1(a)及び(b)に矢印で荷重方向を示すように、この荷重方向に沿って、補強プレート31の面が向けられて設置されている。これを防護柵支柱1が路面に設置された状態でいえば、車道における車両の進行方向と直交する方向に向けて補強プレート31が設けられていることになる。
【0034】
ここで、この補強プレート31の設置方法は、ベースプレート2に対して、支柱本体3を溶接する前に、ベースプレート2上に、又は支柱本体3の中空管内の最下部に、溶接し、その上で、ベースプレート2に支柱本体を接合する手順で行う。
【0035】
[1−2.補強プレートの詳細な構成]
次に、図2を参照して、本実施形態の防護柵支柱1の補強プレートについて説明する。図2(a)は、本実施形態の防護柵支柱と補強プレートを示す模式図である。図2(b)は、本実施形態の補強プレートを示す模式図である。
【0036】
補強プレート31は、図2(a)に示すように、支柱本体3とベースプレート2との接合部X近傍において、支柱本体3の曲げ剛性に作用する剛性保持部32と、補強プレート31の荷重方向に対向する側の高さを延伸するように形成された荷重分散部33と、から形成される。
【0037】
すなわち、剛性保持部32は、補強プレート31の下方に形成される略方形部分であり、荷重分散部33は、剛性保持部32の上方に形成される略三角形部分である。言い換えれば、補強プレート31は、荷重方向と反対側の端部の高さを上底とし、荷重方向に対向する側の端部の高さを下底とした台形状で形成されている。
【0038】
なお、剛性保持部32と荷重分散部33とは、補強プレート31を機能的に分割して捉えたものであり、補強プレート31は、一枚の鋼板により一体に構成するのが好ましいが、剛性保持部32と荷重分散部33とを分割して形成し、溶接等により組み合わせることも可能である。
【0039】
上述の通り、剛性保持部32は、支柱本体とベースプレート2との接合部X近傍における曲げ剛性を高める部分(域)である。この場合、剛性保持部32の荷重側と反対側の上端部分が、支柱本体が荷重を受けて変位した場合の座屈点Nとなる。
【0040】
一方、荷重分散部33は、支柱本体に対する荷重を変形によって吸収し、荷重による支柱本体3の変形範囲を分散するものである。
【0041】
ここで、補強プレート31の荷重方向に対向する側の端部の高さH及び反対側の端部の高さhは、設定される車両の衝突による衝撃力に対して、支柱本体が良好に衝撃エネルギーを吸収して座屈するような構造設計によって求められている。
【0042】
これを一般化すると、図2(b)に示すように、補強プレート31の荷重方向に対向する側の端部の高さHは、所定の載荷位置L(図1(a)参照)に対して5分の1以下程度で設定される。
【0043】
また、この補強プレート31の荷重方向と反対側の端部の高さhは、荷重方向に対向する側の端部の高さHに対して、3分の1〜3分の2程度に設定されるのが好ましい。なお、プレートの板厚は、衝撃エネルギーの吸収能率に影響するので、設定される車両の衝突による衝撃力に応じて適宜調整することが可能である。
【0044】
[1−3.実験例]
次に、上述したような構成の防護柵支柱1において、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを種々変化させて、支柱本体3の所定の位置を載荷位置として荷重を掛け、その際の支柱本体3の変位量とベースプレート2の浮き量を測定して表(図5)に示した。
【0045】
(実験装置:図3
実験装置の例を図3に示す。図3は、本実施形態に係る実験装置を示す模式図である。本実験例は、図3に示すように、所定の架台Kに、上述した構成からなるベースプレート2に固定された支柱本体(径114.3、板厚4.5mm)を設置し、この支柱本体と対向した架台K上の位置に、反力支柱Pを設置した。
【0046】
また、この反力支柱Pに油圧ジャッキJの軸を水平方向に向けて取り付ける。この油圧ジャッキJは、支柱本体に水平荷重を載荷する支柱保持部材Sを設けている。油圧ジャッキJと支柱保持部材Sとの間には、油圧ジャッキJにより載荷される荷重を検知するセンサとしてロードセルRが設けられる。
【0047】
支柱本体3を挟んで、反力支柱Pと対向する位置には、油圧ジャッキJによる載荷位置と同じ高さに、変位計Mが設けられている。この変位計Mは、支柱本体3に荷重が付加されることによって、剛性又は塑性変形する支柱本体3の変位量を計測するものである。また、ロードセルRと変位計Mからの出力値は、データロガーDに入力されるとともに、この結果がコンピュータCに入力される。
【0048】
ここで、本実験において、支柱本体3に対する荷重の載荷位置は、図3に示すように架台K上から800mmの位置に設定される。これは、社団法人日本道路協会発行の「防護柵の設置基準・同解説」(平成21年6月10日第6刷)において指定される基準に則ったものである。
【0049】
(実験パターン:図4
以上のような実験装置を用いて、図4(a)から図4(c)に示すように、上述した2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを種々変化させた配置パターンA〜Cについて、荷重載荷実験を行った。図4(a)から図4(c)は、本実施形態に係る道路側アンカーボルトの配置パターンA〜Cを示す模式図である。
【0050】
図4(a)に示す配置パターンAは、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチと略同等の場合の例である。具体的には、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを180mmとした例である。なお、反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチは図4(a)から図4(c)に示すように共通して180mmである。
【0051】
図4(b)に示す配置パターンBは、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチよりも狭くした場合の例である。具体的には、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを125mmとした例である。
【0052】
図4(c)に示す配置パターンCは、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチよりも短くした場合の例である。具体的には、図4(b)に示す2本の道路側アンカーボルトBo2のピッチよりも狭い70mmとした例である。
【0053】
(実験結果:図5
次に、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチに変化を持たせた配置パターンA〜C(図4(a)〜(c)参照)の実験結果を図5に示す。図5は、図4に示す配置パターンに対して行った荷重の載荷実験の結果を示す表である。
【0054】
(配置パターンA)
図5に示すように、配置パターンA(ボルトピッチ180mm)では、支柱本体の変位320mmの位置において、ベースプレート2が架台K(図3参照)から6mm浮き、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分(図2(a)の接合部X近傍)に破断が生じた。
【0055】
(配置パターンB)
図5に示すように、配置パターンB(ボルトピッチ125mm)では、支柱本体の変位400mmの位置において、ベースプレート2が架台K(図3参照)から4mm浮き、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分に破断が生じた。
【0056】
(配置パターンC)
図5に示すように、配置パターンC(ボルトピッチ70mm)では、支柱本体の変位400mmの位置において、ベースプレート2が架台K(図3参照)から2.5mm浮いたが、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分に破断は生じなかった。なお実験装置の都合で変位は400mmまでしか測定できなかった。
【0057】
(実験結果の考察:図5
図5から明らかなように、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチと略同等の場合(配置パターンA)、支柱本体の変位量が350mmまでにベースプレート2と支柱本体3との接合部分に破断が生じているのがわかる。
【0058】
つまり、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが広い場合、支柱本体の変位量が350mmまでにベースプレート2と支柱本体3との接合部分に破断が生じる。破断はベースプレート2が仮想折曲線Li2(後述する図6参照)を軸として変形することにより、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分から破断することが要因となっている。
【0059】
一方で、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチよりも狭い場合(配置パターンB、C)、支柱本体の変位量が350mmまでにベースプレート2と支柱本体3との接合部分に破断が生じていないことがわかる。
【0060】
つまり、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチよりも狭い場合、2本の道路側アンカーボルトBo2の存在により、支柱本体の変位量が350mmまでのベースプレート2の浮き量が小さく抑え、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分からの破断を抑制している。
【0061】
[1−4.道路側アンカーボルトの配置]
次に、上記実験結果から本実施形態の2本の道路側アンカーボルトBo2の配置について詳細に説明する。本実施形態では、2本の道路側アンカーボルトBo2を折曲抑制位置SPに配置する。このため、2本の道路側アンカーボルトBo2が貫通する貫通穴21a、21b(図1(b)参照)も折曲抑制位置SPに形成する。
【0062】
なお、図6(a)から図6(c)は、本実施形態に係る道路側アンカーボルトを配置する折曲抑制位置を説明するための模式図である。
【0063】
上述したように、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが広い場合、ベースプレート2が変形することによりベースプレート2と支柱本体3との接合部分に破断が生じる。
【0064】
例えば、ベースプレートの板厚を厚くすれば、ベースプレートの変形を抑制することができる。しかしコストが増し、重量も重くなる。そこで、ベースプレート2のコスト削減と、重量を軽くするために、ベースプレート2の板厚を薄くする方法がある。しかし、ベースプレート2の板厚が薄い場合、支柱本体3が受ける衝撃力により、ベースプレート2の前面が引っ張られ「く」字状に変形する。
【0065】
つまり、ベースプレート3が過大に変形すると、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分に引張荷重が「く」字状の先端に集中して破断に至る。接合部分が破断すると、衝撃エネルギーの吸収量が著しく低下する。
【0066】
そこで、本実施形態では、2本の道路側アンカーボルトBo2を折曲抑制位置SPに配置することにより、ベースプレート2の変形を小さくし、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分からの破断を抑制している。
【0067】
具体的には、図6(a)に示すように、上述した実験結果より、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向(図6(b)及び(c)の矢印Ld方向)に略45度の範囲に含まれる位置であって、図6(b)及び(c)に示すように、上記実験結果から2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチより狭い位置を折曲抑制位置SPとする。
【0068】
具体的には、図6(b)に示すように、ベースプレート2における幅方向Wの中央部Woを通過し、道路の車線方向Ldに略直交する線を仮想折曲線Li2とする。そして、2本の反道路側アンカーボルトBo1上を通過し、上記仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li3の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置を折曲抑制位置SPとする。なお、ベースプレート2における幅方向Wとは、道路の車線方向Ldと略平行に位置する方向である。
【0069】
つまり、2本の反道路側アンカーボルトBo1上を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li3の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置に2本の道路側アンカーボルトBo2を配置する。
【0070】
このように、折曲抑制位置SPに2本の道路側アンカーボルトBo2を配置することにより、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチよりも狭くなり、配置パターンB(図4(b)参照)と同様に、ベースプレート2の仮想折曲線Li2を軸とする変形を抑制することができる。
【0071】
また、図6(c)に示すように、図6(b)と同様にベースプレート2における幅方向Wの中央部Woを通過し、道路の車線方向Ldに略直交する線を仮想折曲線Li2とする。そして、ベースプレート2の表面における支柱本体3の外面を通過し、上記仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li4の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置を折曲抑制位置SPとしてもよい。
【0072】
つまり、ベースプレート2の表面における支柱本体3の外面を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li4の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置に2本の道路側アンカーボルトBo2を配置する。
【0073】
このように、折曲抑制位置SPに2本の道路側アンカーボルトBo2を配置することにより、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチが2本の反道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチよりも狭くなり、配置パターンC(図4(c)参照)と同様に、ベースプレート2の仮想折曲線Li2を軸とする変形をより抑制することができる。
【0074】
なお、2本の道路側アンカーボルトBo2が貫通する貫通穴21a、21bも折曲抑制位置SPに形成する。つまり、2本の反道路側アンカーボルトBo1上を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li3の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置に貫通穴21a、21bを形成する。
【0075】
また、ベースプレート2の表面における支柱本体3の外面を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li4の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置に貫通穴21a、21bを形成してもよい。
【0076】
このように、ベースプレート2を固定するための道路側アンカーボルトのボルトピッチを操作してベースプレート2の変形を抑制することにより、支柱本体3とベースプレート2との溶接部の破断を防止し、車両の衝突による衝撃力を吸収する。
【0077】
[1−5.本実施形態の作用効果]
このようにして、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1は、基礎(取付対象G)に固定されるベースプレート2と、ベースプレート2上に立設して接合された閉断面中空状の支柱本体3と、を備える防護柵支柱1であって、ベースプレート2は、道路の車線方向Ldを幅方向Wとして固定部材Boによって基礎に固定されており、ベースプレート2における幅方向Wの中央部Woを通過し道路の車線方向Ldに略直交する線を仮想折曲線Li2とした場合、固定部材は、横梁部材Bを介して支柱本体3が荷重を受けた際のベースプレートに2おける仮想折曲線Li2を軸とする折曲を抑制する折曲抑制位置SPに配置されている。
【0078】
また、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1は、固定部材(道路側アンカーボルトBo2)がベースプレート2における道路側に配置されているとともに、反道路側に反道路側固定部材(反道路側アンカーボルトBo1)が配置され、反道路側固定部材として、道路の車線方向Ldに離間する2本の反道路側固定部材が配設されており、折曲抑制位置SPは、2本の反道路側固定部材上を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li3の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置である。
【0079】
さらに、本発明の実施形態に係る防護柵支柱は、折曲抑制位置SPは、ベースプレート2表面における支柱本体3の外面を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li4の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置である。
【0080】
また、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1は、支柱本体3の内部には、ベースプレート2と支柱本体3との接合部分近傍(接合部X)に補強プレートが設けられている。
【0081】
本発明の実施形態に係る防護柵支柱1によれば、ベースプレート2における幅方向Wの中央部Woを通過し道路の車線方向Ldに略直交する線を仮想折曲線Li2とした場合に、この仮想折曲線Li2を軸とする折曲を抑制する折曲抑制位置SPに固定部材(道路側アンカーボルトBo2)を配置することによりベースプレート2の折曲を抑制する。
【0082】
つまり、ベースプレート2の折曲を抑制することにより、支柱本体3とベースプレート2との溶接部分(接合部X)の破断を抑制し、支持力の向上と腐食の防止を図った防護柵支柱1を提供することができる。
【0083】
また、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1によれば、折曲抑制位置SPとして、道路の車線方向Ldに離間する2本の反道路側固定部材(反道路側アンカーボルトBo1)上を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li3の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置に固定部材(道路側アンカーボルトBo2)を配置することによりベースプレート2の折曲を抑制する。このため、より支柱本体3とベースプレート2との溶接部分(接合部X)の破断を抑制することができる。
【0084】
さらに、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1によれば、折曲抑制位置SPとして、ベースプレート2表面における支柱本体3の外面を通過し、仮想折曲線Li2に略平行となる2本の領域規定線Li4の間であって、支柱本体3の中心Oから道路の車線方向Ldに略45度の範囲に含まれる位置に固定部材(道路側アンカーボルトBo2)を配置することによりベースプレート2の折曲を抑制する。このため、より支柱本体3とベースプレート2との溶接部分(接合部X)の破断を抑制することができる。
【0085】
また、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1によれば、支柱本体3の内部に補強材(補強プレート31)が設けられているため、支柱本体3とベースプレート2との間の溶接部分(接合部)Xの破断を防止し、支持力の向上と腐食の防止を図ることができる。
【0086】
さらに、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1によれば、2本の道路側アンカーボルトBo2のボルトピッチを狭くすることにより折曲を抑制している。このため、2本の道路側アンカーボルトBo1のボルトピッチを狭くすることによりベースプレート2が大型化することがなく、ベースプレート2の製造コストの低減を図ることができる。
【0087】
以上、本発明の防護柵支柱1図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0088】
例えば、本発明の実施形態では、閉断面中空状の支柱本体の一例として、円筒形の支柱本体3を示したが、これに限られず、支柱本体3を四角柱やその他の多角柱形状によって形成することも可能である。例えば、四角柱であれば、補強プレート31を中央部分に一枚設ける態様が通常であるが、剛性と荷重分散とを高めるには、等間隔で2枚やそれ以上の枚数の補強プレート31を設けることも可能である。なお、支柱本体3は、鋼管に限られず、アルミ管等の金属管であってもよい。
【0089】
また、本発明の実施形態では、折曲抑制位置SPに道路側アンカーボルトBo2を2本配置する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、折曲制御位置SPに道路側アンカーボルトBo1を折曲制御位置SPの略中央等に1本配置してもよいが、より支柱本体3が荷重を受けた際の支持力を向上するために、2本以上(例えば、3本)の道路側アンカーボルトBo2を配置するように構成してもよい。
【0090】
さらに、本発明の実施形態では、固定部材としてアンカーボルトの場合について説明したが、これに限定されない。つまり、ベースプレート2を基礎(取付対象G)に固定するための他の部材へ適宜変更が可能である。
【0091】
以上のように、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換え等しても、本発明の実施形態に係る防護柵支柱1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0092】
1 防護柵支柱
2 ベースプレート
21 貫通穴
3 支柱本体
31 補強プレート
32 剛性保持部
33 荷重分散部
34b 脆弱部
B1、B2 横梁部材
Bo アンカーボルト
Bo1 反道路側アンカーボルト
Bo2 道路側アンカーボルト
C コンピュータ
D データロガー
G 取付対象
J 油圧ジャッキ
K 架台
M 変位計
N 座屈点
P 反力支柱
R ロードセル
S 支柱保持部材
SP 折曲抑制位置
X 接合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6