【実施例】
【0018】
図面を参照して、実施例のはんだ印刷装置10(以下、単に印刷装置と称することがある)について説明する。印刷装置10は、被印刷物である回路基板2に、クリームはんだ4を印刷する装置である。通常、印刷装置10は、電子部品装着装置と共に併設され、印刷装置10がクリームはんだ4を印刷した回路基板2は、電子部品装着装置に送られる。電子部品装着装置は、クリームはんだが印刷された回路基板に、複数の電子部品を装着する。
【0019】
図1に示すように、印刷装置10は、マスク20と、スキージユニット30と、スキージ移動装置40とを備えている。
【0020】
マスク20は、板状の部材であり、印刷パターンに対応する一又は複数の開口24を有する。マスク20は、被印刷物である回路基板2の上に配置される。マスク20は、概して、前記した開口24が形成され、回路基板2の直上に配置される孔版部分26と、孔版部分26の外側に広がる周辺部分28を有している。マスク20の具体的な材質や構造は、特に限定されない。一例ではあるが、本実施例のマスク20は、金属材料で形成されたメタルマスクである。
【0021】
スキージユニット30は、二つのスキージ32と、各々のスキージ32をマスク20に対して進退させるスキージ昇降装置34を備えている。スキージ32は、マスク20の表面22を摺動することによって、クリームはんだ4をマスク20に(正確には、マスク20の開口24)に刷り込む部材である。スキージ32の具体的な材質や構造は、特に限定されない。一例ではあるが、本実施例のスキージ32は、ポリウレタンで形成されている。また、本実施例のスキージユニット30は、移動方向に応じた二つのスキージ32を備えているが、他の実施形態として、スキージユニット30は、単一又は三以上のスキージ32を備えてもよい。
【0022】
スキージ昇降装置34は、各々のスキージ32をマスク20に対して進退させる装置である。スキージユニット30は、スキージ昇降装置34によって、使用する一方のスキージ32をマスク20の表面22に当接させ、使用しない他方のスキージ32をマスク20の表面22から離間させる。また、スキージユニット30は、スキージ昇降装置34によって、マスク20に対するスキージ32の当接圧(いわゆる印圧)を調整することができる。
【0023】
スキージ移動装置40は、マスク20に対してスキージユニット30を移動させる装置である。スキージ移動装置40は、マスク20の表面22に平行な方向に沿って、スキージユニット30を往復させることができる。一例ではあるが、スキージ移動装置40は、ガイドレール42と、送りねじ44と、サーボモータ46を備えている。ガイドレール42は、マスク20の表面22に対して平行に伸びており、スキージユニット30を摺動可能に支持している。サーボモータ46は、スキージユニット30を移動させるモータであり、送りねじ44を介してスキージユニット30に接続されている。即ち、サーボモータ46は、送りねじ44を回転させることにより、スキージユニット30をガイドレール42に沿って移動させる。なお、サーボモータ46は、例えばステッピングモータといった、フィードバック制御可能な他の様式のモータであってもよい。
【0024】
図2は、印刷装置10の電気的な構成を部分的に示すブロック図である。
図2に示すように、印刷装置10は、前述したサーボモータ46に加えて、エンコーダ48と、メインコントローラ50と、モータコントローラ60と、ディスプレイ70とを備えている。エンコーダ48は、サーボモータ46の回転位置を検出するためのセンサであり、その出力信号θはモータコントローラ60へ入力される。ディスプレイ70は、メインコントローラ50からの指示に基づいて、オペレータへ各種の情報を表示する。
【0025】
メインコントローラ50は、コンピュータ装置を用いて構成されており、印刷装置10の全体の動作を制御する。例えば、メインコントローラ50は、モータコントローラ60に対して、スキージ32の目標速度Vtを指示する。モータコントローラ60は、指示された目標速度Vtに基づいて、サーボモータ46の動作を制御する。具体的には、モータコントローラ60は、スキージ32の実際速度が目標速度Vtに等しくなるように、エンコーダ48の出力信号θに基づいて、サーボモータ46に流れる電流Iを制御する。ここで、スキージ32の実際速度や目標速度といった速度とは、スキージ32がマスク20の表面22を摺動するときの速度であり、スキージ移動装置40によるスキージユニット30の移動速度に等しい。
【0026】
図3は、モータコントローラ60の構成を示すブロック図である。なお、
図3は一例を示すものであり、モータコントローラ60の構成を限定するものではない。
図3に示すように、モータコントローラ60は、比較部61と、目標トルク決定部62と、ドライバコントローラ63と、モータドライバ64と、速度計算部65とを備えている。
【0027】
速度計算部65は、エンコーダ48の出力信号θを用いて、スキージ32の実際速度Vaを計算する。比較部61は、目標速度Vtと実際速度Vaとを取得し、その偏差を目標トルク決定部62へ出力する。目標トルク決定部62は、目標速度Vtと実際速度Vaとの偏差に基づいて、サーボモータ46の出力トルクに関する指令値T(以下、トルク指令値Tと称する)を決定する。決定されたトルク指令値Tは、ドライバコントローラ63へ教示される。ドライバコントローラ63は、教示されたトルク指令値Tに基づいて、モータドライバ64へ駆動信号Gを出力する。モータドライバ64は、モータドライバ64からの駆動信号Gに基づいて動作する。その結果、サーボモータ46の出力トルクが、トルク指令値Tに等しくなるように、サーボモータ46に流れる電流Iが調整される。
図2、
図3に示すように、目標トルク決定部62が決定したトルク指令値Tは、メインコントローラ50にも教示される。
【0028】
図4は、メインコントローラ50の構成を部分的に示すブロック図である。
図4に示すように、メインコントローラ50は、印刷制御部52と、粘度判定部54と、対策決定部56と、表示制御部58とを備える。印刷制御部52は、印刷装置10の各部の動作を制御するものであり、例えば、サーボモータ46やスキージ昇降装置34を制御する。前述したスキージ32の目標速度Vtについても、印刷制御部52によって決定される。
【0029】
粘度判定部54は、モータコントローラ60が決定したトルク指令値Tに基づいて、マスク20の上にあるクリームはんだ4の粘度の良否を判定する。スキージ32がマスク20の表面22に沿って移動するとき、スキージ32にはクリームはんだ4の粘度に応じた抵抗力が作用する。よって、サーボモータ46に必要とされるトルクも、クリームはんだ4の粘度に応じて変化する。そのことから、モータコントローラ60が決定したトルク指令値Tに基づいて、マスク20の上にあるクリームはんだ4の粘度の良否を判定することができる。
【0030】
対策決定部56は、粘度判定部54による判定結果に基づいて、その判定結果に対応する対策動作を決定する。そのために、対策決定部56は、判定結果と対策動作とを対応付けて記述するテーブルを記憶している。当該テーブルには、一又は複数の任意の対策動作を記述することができる。考えられる対策動作としては、例えば、クリームはんだ4の練り合わせ、クリームはんだ4の追加又は交換、印圧の調整、スキージ32の目標速度の変更、クリームはんだ4の加熱、クリームはんだ4の冷却などが挙げられる。対策決定部56が決定した対策動作は、表示制御部58及び印刷制御部52に教示される。表示制御部58は、対策決定部56が決定した対策動作を、粘度判定部54による判定結果とともに、ディスプレイ70に表示する処理を実行する。印刷制御部52は、対策決定部56が決定した対策動作のうち、クリームはんだ4の練り合わせ、クリームはんだ4の追加又は交換、印圧の調整、スキージ32の目標速度の変更といった、印刷装置10において自ら実行可能なものを実行する。
【0031】
図5は、クリームはんだ4の粘度の良否を判定するために、粘度判定部54が実行する処理を示すフローチャートである。以下、
図5に示すフローチャートを参照して、粘度判定部54が実行する処理について説明する。なお、
図5は一例を示すものであり、粘度判定部54が実行する処理を限定するものではない。
【0032】
図5に示すように、粘度判定部54は、印刷装置10が生産ロットの一枚目の回路基板2を印刷するときに(S12でYES)、トルク指令値Tに関する許容範囲を決定する処理を実行する(S12〜S18)。先ず、粘度判定部54は、モータコントローラ60がサーボモータ46を制御し、スキージ32がマスク20の表面22を摺動している間(即ち、印刷動作中)、モータコントローラ60が決定したトルク指令値Tを取得する(S14)。このとき、粘度判定部54は、スキージ32が移動を開始してから終了するまでの期間の少なくとも一部において、トルク指令値Tを取得すればよい。一例ではあるが、本実施例の粘度判定部54は、スキージ32が移動を開始してからマスク20の孔版部分26に到達するまでの期間において、トルク指令値Tを取得する。
【0033】
次いで、粘度判定部54は、印刷動作中に取得したトルク指令値Tの経時的データについて、その平均値Tmを算出する(S16)。生産ロットの一枚目の回路基板2を印刷するときは、いわゆる段取り替えの直後であるので、通常、クリームはんだ4の粘度が適正なレベルに調整されている。従って、ここで算出される平均値Tmは、クリームはんだ4の適正な粘度に対応する値であり、その後の粘度の良否を判定する処理において、基準として用いることができる。
【0034】
次いで、粘度判定部54は、算出した平均値Tmに基づいて、トルク指令値Tに関する許容範囲を決定する(S18)。一例ではあるが、本実施例の粘度判定部54は、
図6に示すように、平均値Tmに所定値dTを加算した上限値T1と、平均値Tmに所定値dTを減算した下限値T2とを決定し、上限値T1から下限値T2までの範囲を許容範囲とする。なお、他の実施形態として、粘度判定部54は、上限値T1又は下限値T2の一方のみを決定してもよい。この場合、クリームはんだ4の粘度は、通常、経時的に上昇していく傾向にあることから、少なくとも上限値T1を決定することが好ましい。決定された許容範囲(上限値T1及び下限値T2)は、メインコントローラ50のメモリに記憶される。
【0035】
印刷装置10が二枚目以降の回路基板2の印刷に移行すると(S12でNO)、粘度判定部54は、先に決定した許容範囲(上限値T1及び下限値T2)を用いて、クリームはんだ4の粘度を判定する処理を開始する(S20〜S32)。先ず、粘度判定部54は、前述したステップS14と同様に、印刷動作中、モータコントローラ60が決定したトルク指令値Tを取得する(S20)。即ち、粘度判定部54は、スキージ32が移動を開始してからマスク20の孔版部分26に到達するまでの期間において、トルク指令値Tを取得する。次いで、粘度判定部54は、印刷動作中に取得したトルク指令値Tの経時的データについて、その平均値を算出する(S22)。以降では、当該平均値をトルク指令値Tと称する。
【0036】
次いで、粘度判定部54は、トルク指令値Tが上限値T1を下回り(S24でYES)、かつ、トルク指令値Tが下限値T2を上回るとき(S26でYES)、クリームはんだ4の粘度は正常であると判定する(S30)。一方、粘度判定部54は、トルク指令値Tが上限値T1を上回るとき(S24でNO)、クリームはんだ4の粘度は過剰であると判定し(S28)、トルク指令値Tが下限値T2を下回るとき(S26でNO)、クリームはんだ4の粘度は不足していると判定する(S32)。
【0037】
以上のように、本実施例の印刷装置10は、マスク20の上にあるクリームはんだ4の粘度の良否を判定しながら、クリームはんだ4の印刷を行うことができる。従って、クリームはんだ4の粘度が経時的に変化したときでも、印刷不良が発生することを未然に防止することができる。さらに、印刷装置10は、クリームはんだ4の粘度を不良と判定したときに、その判定結果及び対策動作をオペレータに報知することができるとともに、対策動作を自ら実行することもできる。
【0038】
本実施例の印刷装置10は、モータコントローラ60が決定するトルク指令値Tに基づいて、クリームはんだ4の粘度の良否を判定することができる。このように、モータコントローラ60が決定する指標を用いる構成であると、サーボモータ46の出力トルク又はそれに対応する指標を検出するセンサが必要とされず、印刷装置10の構成を簡素にすることができる。
【0039】
本実施例の印刷装置10は、スキージ32が移動を開始してからマスク20の孔版部分26に到達するまでの期間において、モータコントローラ60が決定するトルク指令値Tを取得し、それに基づいてクリームはんだ4の粘度の良否を判定する。このような構成であると、クリームはんだ4が回路基板2へ実際に印刷される前に、クリームはんだ4の粘度の良否を判定して、印刷不良を未然に避けることができる。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0041】
例えば、本実施例の印刷装置10は、モータコントローラ60が決定したトルク指令値Tに基づいて、クリームはんだ4の粘度の良否を判定する。しかしながら、印刷装置10は、トルク指令値Tに代えて、サーボモータ46の出力トルクに対応するその他の指標(例えば、サーボモータ46に流れる電流値又は当該電流値に関する指令値)や、サーボモータ46が現に出力しているトルクに基づいて、クリームはんだ4の粘度の良否を判定してもよい。その場合、印刷装置10は、それらの指標又はトルクを検出するセンサをさらに備えるとよい。
【0042】
例えば、本実施例の印刷装置10は、トルク指令値Tに関する許容範囲を、生産ロットの一枚目の回路基板2の印刷時に自ら決定する(
図5参照)。しかしながら、他の実施形態として、印刷装置10は、トルク指令値Tに関する許容範囲を、予め外部から教示され、記憶する構成であってもよい。
【0043】
トルク指令値T(又はその他の指標)に関する許容範囲については、
図7に示すように、スキージ32の目標速度Vtに応じて修正することも好ましい。なぜなら、スキージ32の受ける抵抗は、スキージ32の移動速度に応じて変化するためである。同様の観点から、当該許容範囲は、例えば、マスク20の上に存在するクリームはんだ4の残量に応じて修正することも好ましい。この場合、クリームはんだ4の残量は、センサ等によって検出することもできるし、印刷した回路基板2の枚数から推定することもできる。
【0044】
また、トルク指令値T(又はその他の指標)に関する許容範囲については、クリームはんだの型式や製造メーカが異なるときに、それに応じて修正してもよい。また、スキージの素材に応じて、当該許容範囲を修正することも有効である。これらの修正は、印刷装置10によって自動的に行われてもよいし、印刷装置10のユーザ又はオペレータによって行われてもよい。
【0045】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。