特許第6223760号(P6223760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223760非水電解質二次電池用活物質、非水電解質二次電池、電池パック及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223760
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用活物質、非水電解質二次電池、電池パック及び車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20171023BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 2/34 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/485
   H01M4/13
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M2/02 K
   H01M2/34 A
   H01M4/36 A
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-193558(P2013-193558)
(22)【出願日】2013年9月18日
(65)【公開番号】特開2015-60713(P2015-60713A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100172580
【弁理士】
【氏名又は名称】赤穂 隆雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】張 文
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】高見 則雄
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−048947(JP,A)
【文献】 特開2012−059467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む非水電解質二次電池用活物質であって、表面の少なくとも一部に炭酸イオンが配されており、
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430±30cm−1、1500±30cm−1および2350±30cm−1の少なくとも1つの領域に炭酸イオン(CO2−)に帰属されるピークを有する非水電解質二次電池用活物質。
【請求項2】
前記炭酸イオンは、炭酸リチウムの形態で配されている請求項1に記載の非水電解質二次電池用活物質。
【請求項3】
前記非水電解質二次電池用活物質の炭素含有量は、前記非水電解質二次電池用活物質全体に対して0.02から3質量%である請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用活物質。
【請求項4】
前記非水電解質二次電池用活物質の形態は、繊維状粒子または繊維状粒子の凝集体である請求項1乃至3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用活物質。
【請求項5】
正極と、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用活物質を含む負極と、
非水電解質と
を備える非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極はポリフッ化ビニリデンを含む請求項5に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
ラミネートフィルム製の外装材をさらに備える請求項5又は6に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項5乃至7の何れか1項に記載の非水電解質二次電池を1以上備える電池パック。
【請求項9】
電気的に接続された複数の前記非水電解質二次電池を具備し、各非水電解質二次電池の電圧が検知可能な保護回路をさらに備える請求項8に記載の電池パック。
【請求項10】
通電用の外部端子をさらに備える請求項9に記載の電池パック。
【請求項11】
複数の前記非水電解質二次電池を具備し、
前記非水電解質二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項8乃至10の何れか1項に記載の電池パック。
【請求項12】
請求項8乃至11の何れか1項に記載の電池パックを搭載した車両。
【請求項13】
前記電池パックは、前記車両の運動エネルギーを回生した電力を回収するものである請求項12に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電池用活物質、非水電解質電池および電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単斜晶系β型構造を有するチタン酸化物が非水電解質電池用活物質として注目されている。
【0003】
従来実用されているスピネル型チタン酸リチウム(LiTi12)は、単位化学式当たりの挿入および脱離可能なリチウムイオンの数が3つである。このため、チタンイオン1つあたりに挿入および脱離可能なリチウムイオンの数の理論的な最大値は、3/5、すなわち0.6であった。
【0004】
これに対して、単斜晶系β型構造を有するチタン酸化物は、チタンイオン1つあたりに挿入および脱離可能なリチウムイオンの数の最大値は1.0であり、約335mAh/gという高い理論容量を有する。したがって、単斜晶系β型構造を有するチタン酸化物を用いた優れた性能を有する電池の開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−34368号公報
【特許文献2】特開2008−117625号公報
【特許文献3】国際公開第2009/028553号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. Marchand, L. Brohan, M. Tournoux, Material Research Bulletin 15, 1129 (1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高い初回充放電効率を有し、高いエネルギー密度を提供できる電池用活物質、そのような電池用活物質を含む非水電解質電池、およびそのような非水電解質電池を含む電池パックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の非水電解質二次電池用活物質は、単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む。この非水電解質二次電池用活物質では、表面の少なくとも一部に炭酸イオンが配されている。この非水電解質二次電池用活物質は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430±30cm−1、1500±30cm−1および2350±30cm−1の少なくとも1つの領域に炭酸イオン(CO2−)に帰属されるピークを有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態の電池用活物質における、単斜晶系β型チタン酸化物の結晶構造(TiO(B))を示す模式図である。
図2図2は、第2実施形態に係る扁平型非水電解質電池を示す断面図である。
図3図3は、図2のA部の拡大断面図である。
図4図4は、第3実施形態に係る電池パックを示す分解斜視図である。
図5図5は、図4の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
図6図6は、実施例1における単斜晶系β型チタン複合酸化物のX線回折パターンである。
図7図7は、実施例1および比較例1における単斜晶系β型チタン複合酸化物の赤外拡散反射スペクトル(2600〜3800cm−1)である。
図8図8は、実施例1および比較例1における単斜晶系β型チタン複合酸化物の赤外拡散反射スペクトル(1300〜1800cm−1)である。
図9図9は、実施例1および比較例1における単斜晶系β型チタン複合酸化物の赤外拡散反射スペクトル(2000〜2500cm−1)である
図10図10は、実施例1、比較例1および比較例2における単斜晶系β型チタン複合酸化物のピリジン吸着後の赤外拡散反射スペクトルである。
図11図11は、実施例1および比較例1の電池においてリチウムを放出させた後、それぞれから抽出した負極の表面における赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る電池用活物質は、単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む。さらに、第1実施形態に係る電池用活物質の表面の少なくとも一部には、炭酸イオンが配されている。
【0012】
本願では、単斜晶系β型チタン酸化物をTiO(B)と表記する場合がある。TiO(B)は、主に空間群C2/mに属し、図1に例示されるようなトンネル構造の結晶構造を有する。TiO(B)の詳細な結晶構造に関しては、R. Marchand, L. Brohan, M. Tournoux, Material Research Bulletin 15, 1129 (1980)(非特許文献1)に記載されている。なお、単斜晶系β型チタン複合酸化物とは、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有するチタン複合酸化物を示す。
【0013】
図1に示すように、TiO(B)の結晶構造では、チタンイオン73および酸化物イオン72が骨格構造部分71aを構成しており、さらに、この骨格構造部分71aが交互に配置されている。骨格構造部分71a同士の間には空隙部分71bが形成されている。この空隙部分71bは、異原子種のインターカレート(挿入)のホストサイトとなることができる。また、TiO(B)では、結晶表面にも異原子種を吸蔵放出可能なホストサイトが存在するといわれている。リチウムイオンがこれらのホストサイトに挿入および脱離することにより、TiO(B)はリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することができる。
【0014】
リチウムイオンが空隙部分71bに挿入されると、骨格を構成するTi4+がTi3+へと還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。TiO(B)は化学式あたり1つのTi4+を有するため、理論上、層間に最大1つのリチウムイオンを挿入することが可能である。このため、TiO(B)は一般式LiTiO(0≦x≦1)により表わすことができる。この場合、理論容量335mAh/gが得られる。
【0015】
単斜晶系β型チタン酸化物は合成過程において水酸基が残留し易く、固体酸点濃度が高いことが分かってきた。チタン酸化物に存在する水酸基は、電解液を分解してフッ化リチウム及び酸化リチウムのような分解生成物を生じさせ、活物質表面の抵抗成分となる。さらに、水酸基は、非水電解液に含まれるリチウム塩と即座に反応して遊離酸を生じさせる。また、固体酸点では電解液の分解反応が進行し易く、充放電効率を低下させる要因となる。これらはいずれも、寿命性能や大電流性能などの電池性能を低下させる要因となる。
【0016】
単斜晶系β型チタン酸化物に水酸基が残留するのは、その合成過程において中間生成物を焼成する際の焼成温度が低いためであると考えられる。通常の合成方法では、中間生成物であるプロトン交換体を400℃程度の温度で焼成することにより脱水反応を行っている。水酸基を完全に除去するためには、プロトン交換体を800℃程度の高温で熱処理する必要があるが、その場合、結晶構造が変化してしまうという問題がある。
【0017】
そこで、第1実施形態に係る電池用活物質では、表面の少なくとも一部に炭酸イオンが配されている単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む。表面の少なくとも一部に炭酸イオンが配されることにより、表面の水酸基を低減させると共に、固体酸点濃度を大幅に低減させ、初回充放電効率を飛躍的に高めることが可能となる。特に、この炭酸イオンが炭酸リチウムの形態である場合、すなわち、表面の少なくとも一部に炭酸リチウムが配されている場合、初回充放電効率は劇的に高まり、さらに優れた充放電特性を実現することが可能となる。
【0018】
第1実施形態の効果は、表面の一部に炭酸イオンを配することで得られるが、炭酸イオンが配される面積が高いほど効果は高まると考えられる。特に、表面全体が覆われた場合には、より高い効果が得られると考えられる。第1実施形態に係る電池用活物質は、電池に使用した場合に、電池用活物質と電解液との反応性を抑制することができ、初回充放電効率を高め、さらに大電流特性及び優れた充放電サイクル性能に寄与することができる。
【0019】
第1実施形態の電池用活物質に含まれる単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物は粒子状であってよい。好ましくは、第1実施形態の電池用活物質において、単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物の粒子(一次粒子)は凝集体(二次粒子)を形成している。
【0020】
このような粒子(一次粒子)は、球状または球状に近い形態であってよい。あるいは、このような粒子(一次粒子)は、繊維状であってよい。
【0021】
粒子(一次粒子)が、球状または球状に近い形態である場合、平均粒径は10nm以上1μm以下であることが好ましい。粒子の平均粒径が10nm以上である場合には、工業生産上、扱い易くなり、1μm以下である場合には、単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物の固体内でリチウムイオンを円滑に拡散させることが可能である。
【0022】
粒子(一次粒子)が、繊維状である場合、平均直径は例えば10nm以上1μm以下であり、平均長さは例えば1μm以上10μm以下である。特に、平均直径が約200nmであり、平均長さが約1μmであることが好ましい。
【0023】
二次粒子は、平均粒径が1μm以上100μm以下であることが好ましい。平均粒径が1μm以上であると、工業生産上扱い易くなり、100μm以下であると、電極を作製するため塗膜において、質量及び厚さを均一にしやすく、また、表面平滑性が向上する。
【0024】
また、二次粒子は、比表面積が5m/g以上50m/g以下であることが好ましい。比表面積が5m/g以上である場合には、リチウムイオンの吸蔵および脱離サイトを十分に確保することが可能になる。比表面積が50m/g以下である場合には、工業生産上扱い易くなる。
【0025】
さらに、第1実施形態の電池用活物質の炭素含有量は、例えば電池用活物質全体に対して0.01質量%以上3質量%以下である。好ましくは、0.02質量%以上である。また、好ましくは、1質量%以下である。炭素濃度が0.01質量%以上の炭酸イオンを配することにより、十分な効果を得ることができ、電解液との副反応を低減し、高抵抗皮膜の過剰形成を抑制することができる。表面の炭酸イオンが多くても第1実施形態の効果は失われないが、活物質容量の低下に繋がるほか、それ自体が抵抗成分となってしまうため、炭素濃度は3質量%以下にすることが好ましい。
【0026】
単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物に含まれる炭素量は、高周波加熱−赤外線吸収法により定量することができる。例えば、電池から取り出したチタン複合酸化物を150℃で12時間乾燥して、容器に測り取った後、測定装置(例えば、LECO社製 CS−444LS)により測定することができる。
【0027】
炭素の存在状態は、活物質断面に対する電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyser:EPMA)を用いて、ライン分析、或いは炭素のマッピング等で判定することができる。
【0028】
また、第1実施形態における炭酸イオン(CO2−)の存在は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって確認することが可能である。炭酸イオン(CO2−)に由来するピークは赤外反射スペクトルの1430±30cm−1、1500±30cm−1および2350±30cm−1の少なくとも1つの領域に現れる。
【0029】
単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物は、例えば以下の方法により電池から取り出すことができる。まず、放電状態で電池を解体し、電極(例えば負極)を取り出してメチルエチルカーボネートで洗浄する。洗浄した負極層を水中で失活し、遠心分離装置等を用いて負極層中のチタン複合酸化物を抽出する。
【0030】
第1実施形態における活物質を負極活物質として用いる場合、単独で用いてもよいが、他の活物質とともに用いてもよい。他の活物質は、例えば、スピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物(LiTi12など)、アナターゼ型またはルチル型構造を有するチタン複合酸化物(a−TiO、r−TiOなど)、ニオブ複合酸化物(Nb、NbTiOなど)、鉄複合硫化物(FeS、FeSなど)等を用いることができる。
【0031】
また、第1実施形態における活物質を正極活物質として用いる場合、単独で用いてもよいが、他の活物質とともに用いてもよい。他の活物質は、例えば、スピネル型構造を有するリチウムチタン複合酸化物(LiTi12など)、アナターゼ型またはルチル型構造を有するチタン複合酸化物(a−TiO、r−TiOなど)、ニオブ複合酸化物(Nb、NbTiOなど)、鉄複合硫化物(FeS、FeSなど)等を用いることができる。
【0032】
第1実施形態に係る電池用活物質を負極および正極のいずれに用いる場合であっても、優れた充放電サイクル性能を得ることができる。すなわち、充放電サイクル性能は表面に炭酸イオンを配することで得られる効果であり、負極に用いても正極に用いてもその効果は変わらず、どちらの場合にも同様な効果を得ることができる。
【0033】
第1実施形態に係る電池用活物質を正極に用いる場合、対極としての負極の活物質は金属リチウム、リチウム合金、またはグラファイト、コークスなどの炭素系材料を用いてもよい。
【0034】
電極中に他の活物質も含まれる場合は、以下のように測定することができる。電極中から取り出した負極活物質をエネルギー分散型X線分光法(Transmission Electron Microscope−Energy Dispersive X−ray spectrometry:TEM−EDX)に供し、制限視野回折法によって各々の粒子の結晶構造を特定する。TiO(B)に帰属される回折パターンを有する粒子を選定し、炭素含有量を測定する。このとき、EDXで炭素マッピングを取得すれば炭素の存在領域を知ることができる。
【0035】
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)についても、同様の手法により抽出したチタン複合酸化物を測定治具に固定して測定する。例えば、以下の装置および条件により測定できる。
【0036】
フーリエ変換型FTIR 装置:FTS−60A(BioRad Digilab 社製)
光源:特殊セラミックス
検出器:DTGS
波数分解能:4cm−1
積算回数:256回
付属装置:拡散反射測定装置(PIKE Technologies 社製)、窓板 CaF
リファレンス:金。
【0037】
(製造方法)
次に、第1実施形態の電池用活物質の製造方法を説明する。
【0038】
この製造方法は、プロトン交換前駆体を得る工程と、このプロトン交換前駆体に酸を反応させてアルカリカチオンをプロトン交換することによりプロトン交換体を得る工程と、このプロトン交換体を熱処理することにより、単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物を得る工程と、炭酸イオンを表面に配する工程を含む。
【0039】
プロトン交換前駆体は、通常用いられる任意の方法により合成することができる。例えば、一般的な固相反応法に従って、出発原料を熱処理することにより合成することができる。プロトン交換前駆体は何れの結晶形状であってもよい。プロトン交換前駆体としてチタン酸カリウム(KTi)を用いる場合は、例えばフラックス法により合成することも可能である。
【0040】
まず、出発原料を所定比率で混合して熱処理し、チタン酸アルカリ化合物を得る。このチタン酸アルカリ化合物はプロトン交換前駆体として用いられる。熱処理は、800〜1200℃の温度範囲で、1〜100時間の間行われることが好ましい。
【0041】
出発原料には、チタンを含む化合物、およびアルカリカチオンを含む化合物を用いることができ、例えば、アナターゼ構造を有するTiO、KCO、NaCOまたはCsCOなどを用いることができる。
【0042】
チタン酸アルカリ化合物は、これらに限定されないが、NaTi、KTiまたはCsTi12のような、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウムまたはチタン酸セシウムであることが好ましい。より好ましいチタン酸アルカリ化合物は、KTiである。所望のチタン酸アルカリ化合物に合わせて出発原料を混合する比率を決定する。
【0043】
次に、プロトン交換を行う。得られたプロトン交換前駆体を純水で十分に水洗し、不純物を取り除く。その後、酸で処理することにより、アルカリカチオンをプロトンに交換する。酸処理は、例えばプロトン交換前駆体を濃度1Mの塩酸に加えて攪拌することによって行うことができる。酸処理は、充分にプロトン交換が完了するまで行われることが望ましい。プロトン交換の完了後、再び純水で水洗する。チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム及びチタン酸セシウムは、結晶構造を崩さずにアルカリカチオンをプロトンに交換することが可能である。
【0044】
プロトン交換を行なう前に、プロトン交換前駆体を予めボールミルで粉砕することが好ましい。プロトン交換前駆体を粉砕することにより、プロトン交換を円滑に行うことが可能になる。粉砕条件は、試料をジルコニア容器にジルコニアボールと共に投入し、600〜1000rpmの回転速度で1〜3時間ほど回転させることにより行うことができる。粉砕を1時間以上行うことにより、プロトン交換前駆体を十分に粉砕することができる。粉砕時間を3時間以下にすることにより、メカノケミカル反応が進み目的生成物と異なる化合物に相分離することを防ぐことができる。
【0045】
次に、プロトン交換を終了した生成物を水洗及び乾燥することにより、中間生成物であるプロトン交換体を得る。このプロトン交換体を熱処理することにより、単斜晶系β型チタン複合酸化物を得ることができる。
【0046】
プロトン交換体の熱処理は、250℃〜500℃で行われることが好ましい。加熱温度を250℃以上にすることにより、結晶性が向上し、電極容量、充放電効率、繰り返し特性を向上させることができる。一方、加熱温度を500℃以下にすることにより、アナターゼ相のような不純物相の生成を抑制し、容量低下を防ぐことができる。より好ましい加熱温度は、300℃〜400℃である。
【0047】
なお、一次粒子及び二次粒子の平均粒径は、熱処理の温度と時間を変化させることによって調節することができる。
【0048】
次に、単斜晶系β型チタン複合酸化物を処理することにより、炭酸イオンを表面に配する単斜晶系β型チタン複合酸化物を得る方法について説明する。
【0049】
上記の通り作製した単斜晶系β型チタン複合酸化物を、炭酸イオン含有溶液または水酸化物イオン含有溶液に直接接触させることにより実施できる。例えば、以下のように処方する。
【0050】
所定量の炭酸リチウム(炭酸イオン)、あるいは水酸化リチウム(水酸化物イオン)の水溶液に上記方法で合成した単斜晶系β型チタン複合酸化物を投入および攪拌する。この溶液を、例えば80℃で乾燥して水を蒸発させれば、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを配した単斜晶系β型チタン複合酸化物を得ることができる。水酸化リチウムは大気中で比較的速やかに炭酸リチウムに変質する。
【0051】
炭酸イオンが付着した上記単斜晶系β型チタン複合酸化物に再度熱処理を施すことが好ましい。熱処理は大気中で行えばよく、処理条件は100℃〜600℃(好ましくは300℃〜450℃)、10分〜100時間(好ましくは1時間〜24時間)である。このような条件で再度熱処理を施すことで、より緻密で密着性に富む炭酸イオンを付着させることができる。
【0052】
このような処理により、単斜晶系β型チタン複合酸化物の表面の少なくとも一部に炭酸イオンを付着させることができる。
【0053】
水酸化物塩を用いて、再熱処理の前後で炭酸ガスと直接接触させて、炭酸イオンとしてもよい。
【0054】
以上説明した第1実施形態によれば、優れた充放電サイクル性能に寄与する電池用活物質を提供することができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る非水電解質電池を説明する。
【0056】
第2実施形態の非水電解質電池は、正極と、第1実施形態の電池用活物質を含む負極と、非水電解質とを備える。第2実施形態の非水電解質電池は、外装材を含んでよく、この場合、この非水電解質電池は、外装材と、外装材内に収納された正極と、外装材内に正極と空間的に離間して、例えばセパレータを介在して収納された活物質を含む負極と、外装材内に充填された非水電解質とを具備する。
【0057】
実施形態に係る非水電解質電池100の一例を示した図2および3を参照してより詳細に説明する。図2は、外装材2がラミネートフィルムからなる扁平型非水電解質電池100の断面図であり、図3は、図2のA部の拡大断面図である。なお、各図は説明のための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0058】
扁平状の捲回電極群1は、2枚の樹脂層の間にアルミニウム箔を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装材2内に収納されている。扁平状の捲回電極群1は、外側から負極3、セパレータ4、正極5、セパレータ4の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外殻の負極3は、図3に示すように負極集電体3aの内面側の片面に負極層3bを形成した構成を有する。その他の負極3は、負極集電体3aの両面に負極層3bを形成して構成されている。負極層3b中の活物質は、第1実施形態に係る電池用活物質を含む。正極5は、正極集電体5aの両面に正極層5bを形成して構成されている。
【0059】
捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6は最外殻の負極3の負極集電体3aに電気的に接続され、正極端子7は内側の正極5の正極集電体5aに電気的に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装材2の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装材2の開口部から注入されている。袋状外装材2の開口部を負極端子6及び正極端子7を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群1及び液状非水電解質を完全密封している。
【0060】
負極端子6は、例えばリチウムイオン金属に対する電位が1V以上3V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子6は、負極集電体3aとの接触抵抗を低減するために、負極集電体3aと同様の材料であることが好ましい。
【0061】
正極端子7は、リチウムイオン金属に対する電位が3〜4.25Vの範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子7は、正極集電体5aとの接触抵抗を低減するために、正極集電体5aと同様の材料であることが好ましい。
【0062】
以下、非水電解質電池100の構成部材である外装材2、負極3、正極5、セパレータ4及び非水電解質について詳細に説明する。
【0063】
1)外装材
外装材2は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムから形成される。或いは、外装材は厚さ1.0mm以下の金属製容器が用いられる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
【0064】
外装材2の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、及びボタン型から選択できる。外装材の例には、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装材などが含まれる。
【0065】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔またはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0066】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、Mg、Zn、Si等の元素を含む合金が好ましい。合金中にFe、Cu、Ni、Cr等の遷移金属が含まれる場合、その量は100質量ppm以下にすることが好ましい。
【0067】
2)負極
負極3は、集電体3aと、この集電体3aの片面または両面に形成され、活物質、導電剤及び結着剤を含む負極層3bとを備える。
【0068】
活物質としては、前述した第1実施形態に係る電池用活物質が用いられる。
【0069】
このような活物質を含む負極層3bを備えた負極3を組み込まれた非水電解質電池100は、大電流特性と優れた充放電サイクル性能を有する。
【0070】
導電剤は、活物質の集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例は、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛を含む。
【0071】
結着剤は、活物質と導電剤を結着できる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴムを含む。
【0072】
実施形態に係る負極結着剤はポリフッ化ビニリデン(PVdF)であることが好ましい。単斜晶系β型チタン複合酸化物は、その合成過程においてプロトン交換時に酸処理を施すため、pH3〜4の酸性物質である。したがって、結着剤にポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いる場合には剥離強度が高まらない。実施形態において、単斜晶系β型チタン複合酸化物の表面に炭酸リチウムを配した場合には、pHが塩基性に振れるために結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)の脱フッ素化反応が適度に起こり、剥離強度が格段に向上する。
【0073】
負極層3b中の活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ70質量%以上96質量%以下、2質量%以上28質量%以下及び2質量%以上28質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤の量を2質量%以上とすることにより、負極層3bの集電性能を向上させ、非水電解質電池100の大電流特性を向上させることができる。また、結着剤の量を2質量%以上とすることにより、負極層3bと集電体3aの結着性を高め、サイクル特性を向上させることができる。一方、導電剤及び結着剤はそれぞれ28質量%以下にすることが高容量化を図る上で好ましい。
【0074】
集電体3aは、1Vよりも貴である電位範囲において電気化学的に安定であるアルミニウム箔またはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Siのような元素を含むアルミニウム合金箔であること好ましい。
【0075】
負極3は、例えば活物質、導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体3aに塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。負極3はまた活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して負極層3bとし、これを集電体3a上に形成することにより作製されてもよい。
【0076】
3)正極
正極5は、集電体5aと、この集電体5aの片面または両面に形成され、活物質、導電剤及び結着剤を含む正極層5bとを備える。活物質は、例えば酸化物、ポリマー等を用いることができる。
【0077】
酸化物は、例えばリチウムを吸蔵した二酸化マンガン(MnO)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル及びリチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMnまたはLiMnO)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1−yCo)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLiMnCo1−y)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LiMn2−yNi)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLiFePO、LiFe1−yMnPO、LiCoPO)、硫酸鉄(Fe(SO)、またはバナジウム酸化物(例えばV)を用いることができる。上記のx及びyは、0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0078】
ポリマーは、例えばポリアニリンやポリピロールのような導電性ポリマー材料、またはジスルフィド系ポリマー材料を用いることができる。イオウ(S)、フッ化カーボンもまた活物質として使用できる。
【0079】
好ましい活物質の例には、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi1−yCo)、スピネル構造のリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LiMn2−yNi)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LiMnCo1−y)、及びリチウムリン酸鉄(LiFePO)が含まれる。上記のx及びyは、0<x≦1、0≦y≦1であることが好ましい。
【0080】
さらに好ましい活物質は、リチウムコバルト複合酸化物及びリチウムマンガン複合酸化物である。これらの活物質は、イオン伝導性が高いため、前述した負極活物質との組み合わせにおいて、正極活物質中のリチウムイオンの拡散が律速段階になり難い。このため、前記活物質は前記負極活物質中のリチウムチタン複合酸化物との適合性に優れる。
【0081】
導電剤は、活物質の集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例は、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素質物を含む。
【0082】
結着剤は、活物質と導電剤を結着させる。結着剤の例は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムを含む。
【0083】
正極層5b中の活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ80質量%以上95質量%以下、3質量%以上18質量%以下及び2質量%以上17質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3質量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。導電剤は、18質量%以下の量にすることにより高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2質量%以上の量にすることにより十分な正極強度が得られる。結着剤は、17質量%以下の量にすることにより、正極中の絶縁材料である結着剤の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0084】
集電体は、例えばアルミニウム箔、またはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Siのような元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0085】
正極5は、例えば活物質、導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体5aに塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。正極5はまた活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して正極層5bとし、これを集電体5a上に形成することにより作製されてもよい。
【0086】
4)非水電解質
非水電解質は、例えば電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質、または液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質を用いることができる。
【0087】
液状非水電解質は、電解質を0.5M以上2.5M以下の濃度で有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0088】
電解質の例は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]のリチウム塩、またはこれらの混合物を含む。電解質は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPFが最も好ましい。
【0089】
有機溶媒の例は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトエタン(DEE)のような鎖状エーテル;またはγ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、スルホラン(SL)を含む。これらの有機溶媒は、単独または混合溶媒の形態で用いることができる。
【0090】
高分子材料の例は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)を含む。
【0091】
好ましい有機溶媒は、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)からなる群のうち、少なくとも2つ以上を混合した混合溶媒、またはγ−ブチロラクトン(GBL)を含む混合溶媒である。これらの混合溶媒を用いることにより、高温特性の優れた非水電解質電池を得ることができる。
【0092】
5)セパレータ
セパレータ4は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、もしくはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、または合成樹脂製不織布を用いることができる。好ましい多孔質フィルムは、ポリエチレンまたはポリプロピレンから作られ、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であるために安全性を向上できる。
【0093】
以上記載した第2実施形態によれば、優れた充放電サイクル性能を有する非水電解質電池を提供することができる。
【0094】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る電池パックを詳細に説明する。
【0095】
第3実施形態に係る電池パックは、第2実施形態に係る非水電解質電池(即ち、単電池)を1以上有する。電池パックに複数の単電池が含まれる場合、各単電池は、電気的に直列、並列、または、直列および並列に接続して配置される。
【0096】
図4および図5を参照して電池パック200を具体的に説明する。図4に示す電池パック200では、単電池21として図2に示す非水電解液電池を使用している。
【0097】
複数の単電池21は、外部に延出した負極端子6及び正極端子7が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ22で締結することにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図5に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0098】
プリント配線基板24は、負極端子6および正極端子7が延出する単電池21側面と対向して配置されている。プリント配線基板24には、図5に示すようにサーミスタ25、保護回路26および外部機器への通電用端子27が搭載されている。なお、組電池23と対向する保護回路基板24の面には組電池23の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0099】
正極側リード28は、組電池23の最下層に位置する正極端子7に接続され、その先端はプリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード30は、組電池23の最上層に位置する負極端子6に接続され、その先端はプリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29および31は、プリント配線基板24に形成された配線32および33を通して保護回路26に接続されている。
【0100】
サーミスタ25は、単電池21の温度を検出するために用いられ、その検出信号は保護回路26に送信される。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34aおよびマイナス側配線34bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ25の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21または単電池21全体について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位または負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池21中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図5および図6の場合、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35を接続し、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
【0101】
正極端子7および負極端子6が突出する側面を除く組電池23の三側面には、ゴムまたは樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
【0102】
組電池23は、各保護シート36およびプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納される。すなわち、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート36が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板24が配置される。組電池23は、保護シート36およびプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置する。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
【0103】
なお、組電池23の固定には粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0104】
図4および図5では単電池21を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、または直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列および/または並列に接続することもできる。
【0105】
以上記載した第3実施形態によれば、第2実施形態における優れた充放電サイクル性能を有する非水電解質電池を備えることにより、優れた充放電サイクル性能を有する電池パックを提供することができる。
【0106】
なお、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途は、大電流を取り出したときに優れたサイクル特性を示すものが好ましい。具体的には、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。特に、高温特性の優れた非水電解質電池を用いた電池パックは車載用に好適に用いられる。
【0107】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る自動車は、第3実施形態に係る電池パックを備える。ここでいう自動車としては、二輪〜四輪のハイブリッド電気自動車、二輪〜四輪の電気自動車、アシスト自転車などが挙げられる。
【0108】
第4実施形態の例として、内燃機関と電池駆動の電動機とを組み合わせて走行動力源としたハイブリッドタイプの自動車が挙げられる。自動車の駆動力には、その走行条件に応じ、広範囲な回転数及びトルクの動力源が必要となる。一般的に内燃機関は理想的なエネルギー効率を示すトルクおよび回転数が限られているため、それ以外の運転条件ではエネルギー効率が低下する。ハイブリッドタイプの自動車は、内燃機関を最適条件で稼動させて発電すると共に、車輪を高効率な電動機にて駆動することによって、あるいは内燃機関と電動機の動力を合わせて駆動したりすることによって、自動車全体のエネルギー効率を向上できるという特徴を有する。また、減速時に車両のもつ運動エネルギーを電力として回生することによって、通常の内燃機関単独走行の自動車に比較して、単位燃料当りの走行距離を飛躍的に増大させることができる。
【0109】
ハイブリッド自動車は、内燃機関と電動機の組み合わせ方によって、大きく3つに分類することができる。
【0110】
1つ目は、一般にシリーズハイブリッド自動車と呼ばれるハイブリッド自動車である。このようなハイブリッド自動車では、内燃機関の動力を一旦すべて発電機で電力に変換し、この電力を、インバータを通じて電池パックに蓄える。この電池パックとして、第3実施形態に係る電池パックを使用することができる。電池パックの電力はインバータを通じて電動機に供給され、電動機により車輪が駆動する。電気自動車に発電機が複合されたようなシステムである。内燃機関は高効率な条件で運転でき、電力回生も可能である。その反面、車輪の駆動は電動機のみによって行われるため、高出力な電動機が必要となる。また、電池パックも比較的大容量のものが必要となる。電池パックの定格容量は、5〜50Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は10〜20Ahである。ここで、定格容量とは、0.2Cレートで放電した時の容量を意味する。
【0111】
2つ目は、一般にパラレルハイブリッド自動車と呼ばれるハイブリッド自動車である。このようなハイブリッド自動車は、発電機を兼ねた電動機を有する。内燃機関は主に車輪を駆動し、場合によりその動力の一部を発電機に与え、電力に変換させ、その電力で電池パックが充電される。負荷が重くなる発進や加速時には電動機により駆動力を補助する。通常の自動車がベースになっており、内燃機関の負荷変動を少なくして高効率化を図り、電力回生なども合わせて行うシステムである。車輪の駆動は主に内燃機関によって行うため、電動機の出力は必要な補助の割合によって任意に決定することができる。比較的小さな電動機および電池パックを用いてもシステムを構成することができる。電池パックの定格容量は、1〜20Ahの範囲にすることができる。より好ましい範囲は5〜10Ahである。
【0112】
3つ目は、一般にシリーズ・パラレルハイブリッド車と呼ばれるハイブリッド自動車である。このハイブリッド自動車は、シリーズとパラレルの両方を組み合わせた方式を有する。動力分割機構が備わっており、この機構が、内燃機関の出力を、発電用と車輪駆動用とに分割する。パラレル方式よりもきめ細かくエンジンの負荷制御を行い、エネルギー効率を高めることができる。電池パックの定格容量は、1〜20Ahの範囲にすることが望ましい。より好ましい範囲は5〜10Ahである。
【0113】
上述した3種のハイブリッド自動車に搭載される電池パックの公称電圧は、200〜600Vの範囲にすることが望ましい。
【0114】
電池パックは、一般に外気温度変化の影響を受けにくく、衝突時などに衝撃を受けにくい場所に配置されるのが好ましい。例えば、セダンタイプの自動車では、後部座席後方のトランクルーム内などに配置することができる。また、座席の下や後ろに配置することができる。電池質量が大きい場合には、車両全体を低重心化するため、座席の下や床下などに配置するのが好ましい。
【0115】
第4実施形態によれば、第3実施形態に係る優れたサイクル特性を有する電池パックを備えることにより、優れた性能を有する自動車を提供することができる。
【0116】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例】
【0117】
(実施例1)
<単斜晶系β型チタン複合酸化物の合成>
炭酸カリウム(KCO)、アナターゼ構造の酸化チタン(TiO)および酸化ニオブ(Nb)を混合し、1000℃で24時間焼成して、チタン酸アルカリ化合物K(Ti,Nb)を合成した。得られたK(Ti,Nb)をジルコニアビーズで乾式粉砕して粒度調整した後、純水で洗浄してプロトン交換前駆体とした。得られたプロトン交換前駆体を1Mの塩酸溶液中に投入し、25℃の環境下で12時間攪拌して、プロトン交換体を得た。得られたプロトン交換体を大気中で400℃、3時間の焼成を行い、単斜晶系β型チタン複合酸化物(Ti0.94Nb0.06)を製造した(サンプルA)。
【0118】
得られた物質が単斜晶系β型チタン複合酸化物であることは、以下の条件で測定した広角X線回折法によって同定された。また、本物質のBET比表面積は17m/gであり、2%pHは3.4であった。なお、2%pHとは、純水50gに活物質1gを投入して攪拌した後、上澄み液のpHを測定した値である。
【0119】
<広角X線回折法>
得られたチタン複合酸化物を直径25mmの標準ガラスホルダーに詰め、広角X線回折法による測定を行った。その結果、図6に示すX線回折パターンを得た。この回折パターンから、得られたチタン複合酸化物を構成する主物質がJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards):46−1237に帰属される単斜晶系β型チタン複合酸化物であることが確認された。以下に、測定装置および条件を示す。
(1) X線発生装置 理学電機社製 RU−200R(回転対陰極型)
X線源 : CuKα線
湾曲結晶モノクロメータ(グラファイト)使用
出力 : 50kV、200mA
(2) ゴニオメータ 理学電機社製 2155S2 型
スリット系: 1°−1°−0.15mm−0.45mm
検出器 : シンチレーションカウンター
(3) 計数記録装置 理学電機社製 RINT1400 型
(4) スキャン方式 2θ/θ連続スキャン
(5) 定性分析
測定範囲(2θ) 5〜100°
スキャン速度 2°/分
ステップ幅(2θ) 0.02°。
【0120】
次いで、3gの水酸化リチウムを溶かした水100gに単斜晶系β型チタン複合酸化物100gを投入し、攪拌しながら70℃の乾燥機中に放置して水分を蒸発させ、単斜晶系β型チタン複合酸化物を得た(サンプルB)。サンプルBの比表面積は17m/gであり、2%pHは11.4であった。
【0121】
さらに、サンプルBを大気中400℃で3時間加熱して、サンプルCを得た。サンプルCの比表面積は14m/gであり、2%pHは11.3であった。
【0122】
<炭素含有量>
得られたチタン複合酸化物の炭素含有量を赤外線吸収法によって測定した。その結果、サンプルCに含まれる炭素含有量は0.14質量%であることが確認された。
【0123】
<電極の作製>
活物質として得られたチタン複合酸化物粉末(サンプルC)80質量%、導電剤としてのアセチレンブラック10質量%、およびポリフッ化ビニリデン(PVdF)10質量%をN−メチルピロリドン(NMP)に加え、混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ12μmのアルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥させた。その後、プレスすることにより電極密度が2.2g/cmの負極を作製した。なお、プレス前の電極を2cm幅で切り出したサンプルを剥離強度試験片として測定した剥離強度は180gf/2cmであった。
【0124】
<液状非水電解質の調製>
エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)を1:2の体積比率で混合して混合溶媒とした。この混合溶媒に電解質であるLiPFを1Mとなるように溶解することにより液状非水電解質を調製した。
【0125】
<ビーカーセルの製造>
作製した電極を作用極とし、対極および参照極にリチウム金属を用いたビーカーセルを作製し、上述の液状非水電解質を注入してビーカーセルを完成させた(実施例1)。
【0126】
(実施例2から5)
実施例1に記載される製造方法において、水酸化リチウム水溶液の水酸化リチウムの量を変えて、炭酸イオンが表面に配された4種の単斜晶系β型チタン複合酸化物(サンプルDからG)を合成した。具体的には、100gの水に投入する水酸化リチウムの量を、サンプルDでは0.3g、サンプルEでは5g、サンプルFでは10gおよびサンプルGでは15gとした。それぞれの単斜晶系β型チタン複合酸化物の比表面積および2%pHは、後述する表1に記載する。
【0127】
さらに、活物質としてサンプルDからGの1つをそれぞれ使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(それぞれ実施例2から5)。
【0128】
(実施例6)
実施例1に記載される製造方法において、3gの水酸化リチウム水溶液を4.6gの炭酸リチウムに変えて、炭酸イオンが表面に配された単斜晶系β型チタン複合酸化物(サンプルH)を合成した。合成した単斜晶系β型チタン複合酸化物の比表面積は15m/gであり、2%pHは11.2であった。
【0129】
さらに、活物質としてサンプルHを使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(実施例6)。
【0130】
(比較例1)
活物質としてサンプルAを使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(比較例1)。
【0131】
(比較例2)
活物質としてサンプルBを使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(比較例2)。
【0132】
(実施例7)
<単斜晶系β型チタン複合酸化物の合成>
炭酸カリウム(KCO)およびアナターゼ構造の酸化チタン(TiO)を混合し、1000℃で24時間焼成して、チタン酸アルカリ化合物KTiを合成した。得られたKTiをジルコニアビーズで乾式粉砕して粒度調整した後、純水で洗浄してプロトン交換前駆体とした。得られたプロトン交換前駆体を1Mの塩酸溶液中に投入し、25℃の環境下で12時間攪拌して、プロトン交換体を得た。得られたプロトン交換体を大気中で400℃、3時間の焼成を行い、単斜晶系β型チタン酸化物(TiO)を製造した(サンプルA’)。得られた物質が単斜晶系β型チタン酸化物であることを、上述の条件で測定した広角X線回折法によって同定した。この物質の2%pHは3.3であった。
【0133】
次いで、3gの水酸化リチウムを溶かした水100gに単斜晶系β型チタン酸化物100gを投入し、攪拌しながら70℃の乾燥機中に放置して水分を蒸発させ本発明の単斜晶系β型チタン酸化物を得た(サンプルB’)。サンプルB’の2%pHは11.4であった。
【0134】
さらに、サンプルB’を大気中400℃で3時間加熱してサンプルC’を得た。サンプルC’の2%pHは11.3であった。
【0135】
<炭素含有量>
得られたチタン酸化物の炭素含有量を赤外線吸収法によって測定した。その結果、サンプルC’に含まれる炭素含有量は0.20質量%であることが確認された。
【0136】
<ビーカーセルの製造>
活物質としてサンプルC’を使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(実施例7)。
【0137】
(比較例3)
活物質としてサンプルA’を使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(比較例3)。
【0138】
(比較例4)
活物質としてサンプルB’を使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(比較例4)。
【0139】
(比較例5から7)
<スピネル型チタン複合酸化物の合成>
炭酸リチウム(LiCO)、及びアナターゼ構造の酸化チタン(TiO)を混合し、850℃で24時間焼成して、スピネル型チタン複合酸化物(LiTi12)(サンプルA’’)を合成した。得られた物質がスピネル型チタン複合酸化物であることを、上述と同様の条件で測定した広角X線回折法によって同定した。また、この物質の2%pHは11.0であった。
【0140】
次いで、3gの水酸化リチウムを溶かした水100gにスピネル型チタン複合酸化物100gを投入し、攪拌しながら70℃の乾燥機中に放置して水分を蒸発させスピネル型チタン複合酸化物を得た(サンプルB’’)。サンプルB’’の2%pHは11.1であった。
【0141】
さらに、サンプルB’’を大気中400℃で3時間加熱してサンプルC’’を得た。サンプルC’’の2%pHは11.0であった。
【0142】
<炭素含有量>
得られたチタン酸化物の炭素含有量を赤外線吸収法によって測定した。その結果、サンプルC’’に含まれる炭素含有量は0.62質量%であることが確認された。
【0143】
<ビーカーセルの製造>
活物質としてサンプルC’’を使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(比較例5)。
【0144】
(比較例6)
活物質としてサンプルA’’を使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(比較例6)。
【0145】
(比較例7)
活物質としてサンプルB’’を使用して、実施例1と同様にビーカーセルを製造した(比較例7)。
【0146】
(測定結果)
上述の通り合成したサンプルAからH、サンプルA’からC’およびサンプルA’’からC’’のBET比表面積(m/g)および2%pHを以下の表1にまとめる。
【表1】
【0147】
サンプルAからH、サンプルA’からC’およびサンプルA’’からC’’について、高周波加熱−赤外線吸収法による炭素量の測定、およびフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた赤外拡散反射測定を実施した。炭素濃度の値、並びにFT−IRスペクトルにおける約1430cm−1、1500cm−1および2350cm−1に炭酸イオン(CO)に帰属されるピークの有無を後述する表2に記載する。
【0148】
また、製造した実施例1から7および比較例1から7に係るビーカーセルの電池性能を測定した。すなわち、25℃環境において、0.2C、1Vおよび10時間の定電流−定電圧放電を行った後(リチウム挿入)、0.2C定電流充電(リチウム放出)を3Vまで行った。リチウム挿入量に対するリチウム放出量を初回充放電効率(%)として表2に記載する。
【表2】
【0149】
また、実施例1および比較例1で用いた活物質(それぞれサンプルCおよびサンプルA)に対して30℃環境で実施した赤外拡散反射測定の結果を図7図8および図9に示す。なお、図7には、2600〜3800cm−1のスペクトルが示され、図8には、1300〜1800cm−1のスペクトルが示され、図9には2000〜2500cm−1のスペクトルが示される。
【0150】
図7によると、実施例1および比較例1のそれぞれにおいて、3660cm−1付近および3450cm−1付近にピークが見られる。3660cm−1付近の吸収ピークは比較的孤立したTi−OHのOH伸縮振動に由来し、3450cm−1付近の吸収ピークはTi−OHや吸着水と水素結合を形成しているTi−OHのOH伸縮振動に由来するものと思われる。また、図8によると、実施例1および比較例1のそれぞれにおいて、1635〜1620cm−1付近にピークが見られる。このピークは吸着水のOH変角振動に由来するものと思われる。これらの測定結果から、実施例1は比較例1に比べて表面水酸基が格段に少ないことが分かる。
【0151】
また、図8から、実施例1では1500および1430cm−1付近に吸収ピークが見られ、これは炭酸イオン(主に炭酸リチウム)に由来するものと推定された。一方、比較例1では、このようなピークは確認されなかった。
【0152】
更に、図9から、実施例1では2350cm−1付近に吸収ピークが見られ、これは炭酸イオン(主に炭酸リチウム)に由来するものと推定された。一方、比較例1では、このようなピークは確認されなかった。
【0153】
次に、実施例1、比較例1および比較例2で用いた活物質(それぞれサンプルC、AおよびB)に対して、ピリジン吸着後の赤外拡散反射測定を行った。この測定によると、試料表面におけるブレンステッド(B)酸点およびルイス(L)酸点の存在状態を調べることができる。測定手法を以下に示す。また、測定結果を図10に示す。
【0154】
<拡散反射法測定装置>
フーリエ変換型FTIR 装置:Varian 7000(Varian 社製)
光源:特殊セラミックス
検出器:DTGS
波数分解能:4cm−1
積算回数:128回以上
付属装置:拡散反射測定装置(PIKE Technologies 社製)
リファレンス:金蒸着フィルム。
【0155】
<測定手順>
(1)試料粉末をそのままセットし、Nを50ml/minで流通しながら150℃まで昇温し、150℃で30分以上保持した。
【0156】
(2)そのまま室温付近に戻し、再びさらに100℃まで加熱した。
【0157】
(3)油拡散ポンプでセルを減圧して、そこにピリジン蒸気を導入し、15分以上吸着させた。
【0158】
(4)Nを100ml/minで流通させながら100℃で30分以上、さらに150℃に加熱して30分以上保持し、物理吸着または水素結合したピリジン(HPY)を脱離させ、in situ赤外スペクトル測定を行った。
【0159】
関連するピークを、ブレンステッド(B)酸点に結合したピリジン(BPY、図中ではB)、ルイス(L)酸点に結合したピリジン(LPY、図中ではL)および水素結合したピリジン(HPY、図中ではH)の3種類に分類して図10に示した。さらに、各試料の酸点に吸着したピリジンに由来する1447、1540および1608cm−1付近の吸収ピーク面積(S1447、S1540およびS1608とする)を計算した値を表3に示した。S1447およびS1540については、ピリジンに由来する吸収ピークにベースラインを引き、囲まれた部分の面積を求めた。S1608については、ガウス関数によるピーク分割を行い、算出した。
【表3】
【0160】
また、実施例6で用いた活物質(サンプルH)についても同様の測定を実施し、酸点に吸着したピリジンの吸収ピークの面積を算出した。その結果を表4に示す。
【表4】
【0161】
実施例1で用いた活物質(サンプルC)のB酸点濃度については、検出限界以下であり、1480および1425cm−1付近に炭酸リチウム(LiCO)に由来する吸収ピークが確認された。
【0162】
試験後の実施例1および比較例1の電池について、リチウムを放出させた状態で電池を解体して負極を取り出し、メチルエチルカーボネートで十分に洗浄した後、電極表面のIR測定を実施した。この測定結果を図11に示す。
【0163】
図11から、サンプルCを活物質として用いた実施例1の電池から抽出した負極のIRスペクトルでは、1500cm−1に炭酸イオンのピークが明瞭に確認されることがわかる。一方、比較例1の電池から抽出した負極のIRスペクトルでは、そのようなピークは確認できない。
【0164】
また、抽出した負極を超音波洗浄し、遠心分離によって負極活物質のみを抽出し、抽出した負極活物質を300℃で加熱処理した後、赤外線吸収法によって活物質に含まれる炭素含有量を測定した。その結果、実施例1から抽出した活物質の炭素含有量は0.13質量%であり、比較例1から抽出した活物質の炭素含有量は測定下限以下であった。
【0165】
表2によると、単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物を検討した場合、実施例1から7の電池は、比較例1から4の電池に比べて、電極の剥離強度が高く、初回充放電効率も高いことが示された。実施例1から6が、比較例1および2に比べて、電極の剥離強度が高く、初回充放電効率も高いことから、単斜晶系β型チタン複合酸化物の表面に炭酸リチウムを配したことにより、副反応が抑制されたことが示された。
【0166】
一方、スピネル型チタン複合酸化物を検討すると、比較例5から7に示されるように、実施例1から7のような効果は確認できなかった。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
単斜晶系β型チタン酸化物または単斜晶系β型チタン複合酸化物を含む電池用活物質であって、表面の少なくとも一部に炭酸イオンが配されている電池用活物質。
[2]
前記炭酸イオンは、炭酸リチウムの形態で配されている[1]に記載の電池用活物質。
[3]
前記電池用活物質の炭素含有量は、前記電池用活物質全体に対して0.02から3質量%である[1]に記載の電池用活物質。
[4]
前記電池用活物質の形態は、繊維状粒子または繊維状粒子の凝集体である[1]に記載の電池用活物質。
[5]
前記電池用活物質は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いた赤外拡散反射スペクトルにおいて、1430±30cm−1、1500±30cm−1および2350±30cm−1の少なくとも1つの領域に炭酸イオン(CO)に帰属されるピークを有する[1]に記載の電池用活物質。
[6]
正極と、
[1]に記載の電池用活物質を含む負極と、
非水電解質と
を備える非水電解質電池。
[7]
前記負極はポリフッ化ビニリデンを含む[6]に記載の非水電解質電池。
[8]
ラミネートフィルム製の外装材をさらに備える[6]に記載の非水電解質電池。
[9]
[6]に記載の非水電解質電池を1以上備える電池パック。
[10]
電気的に接続された複数の前記非水電解質電池を具備し、各非水電解質電池の電圧が検知可能な保護回路をさらに備える[9]に記載の電池パック。
【符号の説明】
【0167】
1…捲回電極群、2…外装材、3…負極、3a…負極集電体、3b…負極層、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極層、6…負極端子、7…正極端子、21…単電池、22…粘着テープ、23…組電池、24…プリント配線基板、25…サーミスタ、26…保護回路、27…通電用端子、28…正極側リード、29…正極側コネクタ、30…負極側リード、31…負極側コネクタ、32…配線、33…配線、34a…プラス側配線、34b…マイナス側配線、35…配線、36…保護シート、37…収納容器、38…蓋、71a…骨格構造部分、71b…空隙部分、72…酸化物イオン、73…チタンイオン、100…非水電解質二次電池、200…電池パック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11