特許第6223778号(P6223778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223778微生物、水質浄化方法、廃水の処理方法、並びに、陰イオン性物質吸着材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223778
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】微生物、水質浄化方法、廃水の処理方法、並びに、陰イオン性物質吸着材
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20171023BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20171023BHJP
   B01J 20/22 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C12N1/14 AZNA
   C02F1/28 A
   B01J20/22 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-223140(P2013-223140)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-84659(P2015-84659A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月6日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01668
(73)【特許権者】
【識別番号】000002451
【氏名又は名称】積水アクアシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500433225
【氏名又は名称】学校法人中部大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】黒住 悟
(72)【発明者】
【氏名】倉根 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 晃久
【審査官】 安居 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−046194(JP,A)
【文献】 特開2009−061367(JP,A)
【文献】 青山晃久,日本生物工学会大会講演要旨集,2011年,Vol.63rd,p.32
【文献】 Akihisa AOYAMA,Journal of Bioscience and Bioengineering,2013年10月22日,Vol.115, No.3,pp.279-283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A592−4B(NITE P−01668)である微生物。
【請求項2】
Penicillium属に属し、かつ陰イオン性物質に対する吸着能を有する微生物と、陰イオン性物質を含有する水とを接触させて、水中の陰イオン性物質を前記微生物に吸着させ、陰イオン性物質を除去する水質浄化方法であって、
前記陰イオン性物質は、アルキルベンゼンスルホン酸塩であることを特徴とする水質浄化方法。
【請求項3】
前記微生物は、Penicillium oxalicumに属するものであることを特徴とする請求項2に記載の水質浄化方法。
【請求項4】
請求項1に記載の微生物と、陰イオン性物質を含有する水とを接触させて、水中の陰イオン性物質を前記微生物に吸着させ、陰イオン性物質を除去することを特徴とする水質浄化方法。
【請求項5】
前記陰イオン性物質は、アルキルベンゼンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項4に記載の水質浄化方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載の水質浄化方法によって、陰イオン性物質を含有する廃水を処理することを特徴とする廃水の処理方法。
【請求項7】
請求項1に記載の微生物を含有することを特徴とする陰イオン性物質吸着材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物、水質浄化方法、廃水の処理方法、並びに、陰イオン性物質吸着材に関し、さらに詳細には、高い陰イオン性物質吸着能を有する微生物、当該微生物を利用した水質浄化方法、当該水質浄化方法を利用した廃水の処理方法、並びに、当該微生物を含有する陰イオン性物質吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルベンゼンスルホン酸塩などの界面活性剤を含有する廃水や、色素を含有する廃水から当該物質を除去する方策としては、当該物質を強力に分解する能力を有する微生物を選抜して活性汚泥に組み込み、これらの廃水を活性汚泥法による生物処理にて処理し、当該物質を分解及び除去することが挙げられる。しかし、一般に界面活性剤は難分解性であり、生物処理による短時間での完全除去は難しい。
【0003】
一方、廃水中の界面活性剤や色素を吸着除去する方策がある。例えば、染料工場における廃水処理として、凝集剤を利用した廃水中の色素除去が行われている。また、活性炭等の多孔質資材による吸着除去も一般によく行われている。特許文献1には、絹タンパク質を色素吸着材として利用した色素含有廃液の処理技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−167349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
活性汚泥法に代表される従来の生物処理手法で、界面活性剤等の難分解性物質を処理する場合には、以下の問題がある。
(1)目的物質が難分解性であるため、十分な除去速度が得られない。
(2)それぞれの難分解性物質に対して分解性を持つ微生物を別個に準備する必要がある。
(3)一般的に、難分解性物質を分解する微生物はグルコースなどの簡単に利用できる栄養源が含まれる環境の場合、それを消費し、目的物質を消化しない(又は分解率が低下する)ことがある。
【0006】
また活性炭等の多孔質資材を用いた物理的吸着除去の方法では、定期的な資材交換が必要であるため、コスト面で不利である。
【0007】
上記現状に鑑み、本発明は、廃水等から難分解性物質を効率的に除去するための一連の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、陰イオン性物質の吸着能に優れた新規微生物を分離するために、多数の土壌サンプルを分離源として微生物のスクリーニングを行った。その結果、Penicillium属に属する糸状菌であって陰イオン性物質の吸着能に優れた新規微生物を分離することに成功した。そして、当該微生物を利用した陰イオン性物質の吸着除去技術を開発し、本発明を完成した。上記した課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
【0009】
請求項1に記載の発明は、A592−4B(NITE P−01668)である微生物である。
【0010】
本発明の微生物は、陰イオン性物質に対する高い吸着能を有する。本発明の微生物によれば、廃水等に含まれる陰イオン性物質を高効率で吸着除去することができる。例えば、陰イオン界面活性剤や陰イオン性色素を高効率で吸着除去することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、Penicillium属に属し、かつ陰イオン性物質に対する吸着能を有する微生物と、陰イオン性物質を含有する水とを接触させて、水中の陰イオン性物質を前記微生物に吸着させ、陰イオン性物質を除去する水質浄化方法であって、前記陰イオン性物質は、アルキルベンゼンスルホン酸塩であることを特徴とする水質浄化方法である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記微生物は、Penicillium oxalicumに属するものであることを特徴とする請求項2に記載の水質浄化方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の微生物と、陰イオン性物質を含有する水とを接触させて、水中の陰イオン性物質を前記微生物に吸着させ、陰イオン性物質を除去することを特徴とする水質浄化方法である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記陰イオン性物質は、アルキルベンゼンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項4に記載の水質浄化方法である。
【0015】
本発明は水質浄化方法に係るものである。本発明では、陰イオン性物質に対する高い吸着能を有する上記微生物と、陰イオン性物質を含有する水とを接触させて、水中の陰イオン性物質を上記微生物に吸着させ、陰イオン性物質を除去する。本発明では、微生物が有する陰イオン性物質の吸着能を利用するので、陰イオン性物質の種類ごとに微生物を準備する必要がない。また、易分解性有機物が共存する環境であっても問題とならない。さらに、微生物は自己増殖するので基本的に資材交換が不要となり、活性炭等を利用する方法に比べてコスト面で有利である。特に、A592−4B(NITE P−01668)(以下、A592−4B株と略記することがある。)を用いる構成によれば、陰イオン性物質をより高効率で除去することができる。
【0016】
アルキルベンゼンスルホン酸塩(以下、「LAS」と略記することがある。)は、陰イオン界面活性剤の一種であり、生物処理による除去が難しい物質である。本発明によれば、難分解性であるアルキルベンゼンスルホン酸塩を効率的に吸着除去することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜5のいずれかに記載の水質浄化方法によって、陰イオン性物質を含有する廃水を処理することを特徴とする廃水の処理方法である。
【0018】
本発明は廃水の処理方法に係るものであり、上記した水質浄化方法を利用して陰イオン性物質を含有する廃水を処理する。かかる構成により、廃水中の陰イオン性物質を高効率で吸着除去することができる。例えば、廃水中のLASを高効率で吸着除去することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の微生物を含有することを特徴とする陰イオン性物質吸着材である。
【0020】
本発明は陰イオン性物質吸着材に係るものであり、A592−4B株を含有することを特徴とする。本発明の陰イオン性物質吸着材に陰イオン性物質を含む廃水等を接触させることにより、廃水等に含まれる陰イオン性物質を効率よく吸着除去することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、廃水等に含まれる陰イオン性物質(LAS等の陰イオン界面活性剤、陰イオン性色素など)を効率よく吸着除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】A592−4B株の顕微鏡写真である。
図2】A592−4B株の分生子とフィアライドの部分の顕微鏡写真である。
図3】A592−4B株の分生子の顕微鏡写真である。
図4】培養液中におけるLAS濃度の経時変化を表すグラフである。
図5】各色素の脱色率を表すグラフである。
図6】リグニンスルホン酸濃度ごとの脱色率と除去量を表すグラフである。
図7】培地ごとの脱色率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の微生物は、A592−4B(NITE P−01668)である微生物である。当該微生物は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託されている。寄託の詳細を以下に示す。
【0024】
表示:A592−4B
受託番号:NITE P−01668
受領日:2013年7月26日
【0025】
A592−4B(NITE P−01668)の巨視的形態、微視的形態、及びrDNA塩基配列の相同性は、以下のとおりである。
【0026】
A1.ポテトデキストロース寒天培地で培養した際のコロニーの巨視的形態
(1)表面の色調:濃緑色(Dark green)〜灰色がかった緑(Deep green)
(2)裏側の色調:黄味を帯びた白(Pale yellow)
(3)表面性状:ビロード状
(4)可溶性色素:なし
(5)形:円形
【0027】
A2.モルト寒天培地で培養した際のコロニーの巨視的形態
(1)表面の色調:灰色がかった緑(Deep green)〜黄緑色(Yellowish green)
(2)表面性状:ビロード状
(3)可溶性色素:なし
(4)形:円形
【0028】
A3.バクトオートミール寒天培地で培養した際のコロニーの巨視的形態
(1)表面の色調:濃緑色(Dark green)〜淡緑色(Pale green)
(2)表面性状:ビロード状
(3)可溶性色素:なし
(4)形:円形
【0029】
A5.LcA培地(三浦培地)で培養した際のコロニーの巨視的形態
(1)表面の色調:濃緑色(Deep green)〜緑色を帯びた白(Greenish white)
(2)表面性状:ビロード状
(3)可溶性色素:なし
(4)形:円形
【0030】
B.ポテトデキストロース寒天培地で培養した際の微視的形態
(1)栄養菌糸
(イ)形成箇所:寒天表面上及び寒天内の少なくともいずれか
(ロ)色調:無色
(ハ)隔壁:あり
(2)分生子柄の形態(図1図2参照):栄養菌糸より直生し、分生子柄の先端部から円筒形のメトレが形成され、その先に皮針形のフィアライドが形成される。
(3)分生子(図2図3参照)
(イ)分生子形成型:フィアロ型
(ロ)形態:楕円形
(ハ)単位:1細胞
(ニ)表面性状:平滑〜粗面
(4)2週間培養中の有性生殖器官の形成:なし
【0031】
ポテトデキストロース寒天培地で培養したコロニー形態(図1,2,3参照)について、特に、栄養菌糸の隔壁があり、分生子柄の形態である栄養菌糸から分生子が直生し、分生子柄の先端部からメトレが形成されその先に皮針形のファライドが形成し、分生子は楕円形で1細胞であることより、Penicillium属の糸状菌であることは明らかである。
【0032】
C.rDNA塩基配列の相同性
(1)ITS1-5.8S rDNA-ITS2領域:Penicillium oxalicumと99%以上
(2)28SrDNA D1/D2領域:Penicillium oxalicumと99%以上
【0033】
D.至適生育温度
25℃〜37℃で生育及び胞子形成ともに良好。至適生育温度は37℃付近。
【0034】
E.至適生育pH
pH5〜pH6で生育及び胞子形成ともに良好。
【0035】
以上の巨視的・微視的形態、rDNA塩基配列の相同性、等より、A592−4B株はPenicillium oxalicumと同定された。
【0036】
本発明の微生物を培養する方法としては、好気性微生物の培養方法として一般的な方法をそのまま採用することができる。例えば、適当な炭素源等を含有する液体培地を用いて、通気及び撹拌して培養することができる。培養温度としては、例えば5℃〜40℃、好ましくは15℃〜40℃、より好ましくは25℃〜37℃の範囲を選択することができる。
培養に用いる培地としては特に限定はなく、安価な合成培地や半合成培地、廃糖蜜であるモラセスなどを用いることができる。
培地の炭素源としては特に限定はなく、グルコース、キシロース、フルクトース、マンノース、トレハロース、ラクトース、可溶性デンプンなどの、糸状菌の培養に通常用いられている炭素源を用いることができる。
【0037】
本発明の水質浄化方法は、陰イオン性物質に対する高い吸着能を有する上記微生物と、陰イオン性物質を含有する水とを接触させて、水中の陰イオン性物質を当該微生物に吸着させ、陰イオン性物質を除去するものである。また本発明の廃液の処理方法は、上記の水質浄化方法によって陰イオン性物質を含有する廃水を処理するものである。好ましくは、当該微生物はPenicillium oxalicumに属するものである。さらに好ましくは、A592−4B株である。
【0038】
本発明の水質浄化方法において、陰イオン性物質を含有する水に対する上記微生物の接触量や接触時間は、処理対象物(廃水等)の性状、陰イオン性物質の種類、等によって適宜選択すればよい。接触させる際の温度としては、本発明の微生物の生育可能範囲であればよく、例えば上記したA592−4B株の培養温度をそのまま適用することができる。本発明を廃水処理に適用する場合も同様である。
【0039】
陰イオン性物質を含有する水に上記微生物を接触させる形態の具体例としては、陰イオン性物質を含有する水に上記微生物を添加することが挙げられる(バッチ処理)。他の形態としては、支持体等に上記微生物を固定化し、そこに陰イオン性物質を含有する水を連続的に通すことが挙げられる(連続処理)。
【0040】
また本発明では、上記微生物を増殖させながら陰イオン性物質を含有する水に接触させることが好ましい。例えば、陰イオン性物質を含有する水(廃液等)が富栄養であれば、廃液等に上記微生物を直接植菌して増殖させ、陰イオン性物質を吸着除去することができる。
【0041】
本発明における吸着処理対象となる陰イオン性物質としては、陰イオン界面活性剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤としては、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、カルボン酸塩などが挙げられる。硫酸エステル塩の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)、アルキル硫酸エステルナトリウム(AS)、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム(AES)が挙げられる。スルホン酸塩の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)、α−オレフィンスルホン酸塩(AOS)、アルカンスルホン酸ナトリウム(SAS)が挙げられる。カルボン酸塩の例としては、ヤシ油やパーム油を原料とした脂肪酸石鹸、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩(MES)が挙げられる。
本発明では、アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)を吸着除去対象とする実施形態が特に好ましい。LASのアルキル基の炭素数としては特に限定されないが、例えば、C10〜C14のLASを吸着除去対象とすることができる。
【0042】
陰イオン性物質の他の例としては、陰イオン性色素が挙げられる。陰イオン性色素としては、リグニンスルホン酸、クラフトリグニン等のリグニン誘導体、エバンスブルー、コンゴレッド、ダイレクトイエロー50、DATS、ダイサルフィンブルー、等が挙げられる。陰イオン性物質のさらに他の例としては、ヒ素化合物(ヒ酸、亜ヒ酸、アルソン酸、メチルアルソン酸等)等の毒物、等が挙げられる。さらに、一般廃水処理においては硫黄化合物、硫黄酸化物、窒素酸化物、フッ素イオン、等も吸着除去対象とすることができる。これら陰イオン性物質を含有する水(廃水等)としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩は家庭用洗濯洗剤から、クリーニング・厨房・車両洗浄などの業務用洗浄剤、繊維染色加工・水性塗料の分散剤、農薬の乳化剤などに広く使用され各種の廃水に混入する。エバンスブルー、コンゴレッド、ダイレクトイエロー50等染料色素は、繊維染色工場廃水に含まれる。リグニン誘導体であるリグニンスルホン酸塩や、クラフトリグニンは製紙工場廃水に含有され、また、しいたけ等きのこ栽培工場廃水中に含有される。また、フッ素、セレン、ヒ素等は金属等の採掘、精錬にかかる廃水中に含まれるほか、地下水の汚染原因としても知られている。
【0043】
本発明の陰イオン性物質吸着材は、上記微生物を含有するものである。例えば、A592−4B株を適宜の担体や支持体に担持させることにより、本発明の陰イオン性物質吸着材を構成することができる。そして、本発明の陰イオン性物質吸着材と陰イオン性物質を含有する水(廃水等)とを接触させることにより、陰イオン性物質を吸着除去することができる。
前記担体(支持体)としては、例えば、樹脂製の流動床、固定床、揺動床、等が挙げられる。天然物では砂利、砂、蠣殻、等が挙げられる。さらに、微生物集合体では活性汚泥のフロックやバイオフィルムが挙げられる。
【0044】
なお、担体や支持体を使用せずに、上記微生物の菌体のみで本発明の陰イオン性物質吸着材を構成してもよい。
【0045】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
(1)新規微生物のスクリーニング
自然界の様々な環境から採取した土壌を新規微生物の分離源とした。陰イオン性物質に対する吸着能を指標としてスクリーニングを行い、1つのPenicillium属糸状菌を分離した。当該糸状菌は上述した巨視的および微視的形態を有していた。
さらに、rDNAの塩基配列を解析した。その結果、ITS1-5.8S rDNA-ITS2領域の塩基配列は、配列番号1に示すとおりであり、Penicillium oxalicumの当該配列と99%以上の相同性を有していた。また、28SrDNA D1/D2領域の塩基配列は、配列番号2に示すとおりであり、Penicillium oxalicumの当該配列と99%以上の相同性を有していた。
以上の結果より、新規微生物はPenicillium oxalicumと同定された。当該微生物を「A592−4B」と命名し、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(NITE P−01668)。
【0047】
(2)A592−4B株によるLASの吸着除去
A592−4B株をYM培地(Difco YM Broth (271120)、組成:5.0g/L ペプトン、3.0g/L 酵母エキス、3.0g/L 麦芽エキス、10.0g/L ブドウ糖)10mLにて、250spm、30℃で5日間培養した(前培養)。300mL容三角フラスコに、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C10〜C14の混合物、東京化成工業社製)を150ppm含有するYM培地を仕込み、オートクレーブ滅菌した。この培地に前培養液を添加し、30℃、200rpm(高崎科学器械社製、BIO SHAKER)にて培養を行った、培養開始から0時間(培養開始前)、1時間、3時間、6時間、12時間、24時間、および48時間目に培養液をサンプリングした。サンプリング液を遠心分離して上清を回収した。上清をフィルター(0.2μm)でろ過し、ODSカラムを用いたHPLCにてLASを直接測定した。
【0048】
<HPLCの条件>
・カラム:ジーエルサイエンス社 Inertsil ODS-3(3.0mm×150mm、3.0μm)
・カラム温度:室温(約26℃)
・移動相:A液:75%アセトニトリル、B液:水
・流量:0.40ml/min
・注入量:5.0μl
・測定波長:222nm
【0049】
結果を図4に示す。図4は、培養液中のLAS濃度の経時変化を表すグラフである。すなわち、培養1時間目で培養液中のLAS濃度が50%以下となり、培養24時間目ではLASは検出されなかった。
以上より、A592−4B株を培養することにより、150ppm程度のLASを24時間以内に完全除去できることが示された。
【0050】
(3)A592−4B株による各種色素の脱色
各種色素を含有するYM培地を作製し、試験管に8mLを仕込み、オートクレーブ滅菌した。各試験管にA592−4B株を1白金耳植菌し、20℃、200spmで5〜7日間培養した。培養終了後、培養上清を回収し、下記の波長における吸光度を測定した。下記式にて脱色率(%)を算出した。なお、ブランクとして色素を入れないものを測定した場合にはほとんど吸収がなかったため、この下記式を適用した。
【0051】
脱色率(%)=(培養前の吸光度−培養後の吸光度)/(培養前の吸光度)×100
【0052】
表1に、色素の種類、イオン性、測定波長、培養日数、及び脱色率を示す。図5に色素ごとの脱色率を示す。すなわち、いずれの陰イオン性色素についても高い脱色率が得られた。一方、陽イオン性色素については脱色率が非常に低いか、脱色が見られなかった。
【0053】
【表1】
【0054】
(4)リグニンスルホン酸の脱色時における最適炭素源の検討
半合成培地(10g/L (NH4)2SO4, 10g/L NaNO3, 5g/L H2KPO4, 1g/L HK2PO4, 1g/L MgSO4・5H2O, 1g/L yeast extract, 1g/L NaCl, 0.5 g/L CaCl2・2H2O (pH5.6))に、終濃度0.1%となるようにリグニンスルホン酸を添加し、さらに以下に示すいずれかの糖を終濃度2%となるように添加した。
<糖の種類>
マンノース、デンプン、乳糖、トレハロース、キシロース、グルコース、アラビノース、スクラロース
【0055】
25mL試験管に各培地を10mL調製し、オートクレーブ滅菌した。各試験管にA592−4B株の分生子懸濁液を0.1mL加え、30℃、20spmで6日間培養した。培養後の培養上清の480nmにおける吸光度(A480)を測定した。
コントロールとして、糖を含まない上記培地を用いて同様に培養した。
上記(3)と同様にして脱色率(%)を算出した。
【0056】
結果を表2に示す。まず、糖未添加(コントロール)の培地とスクラロースを含む培地では、A592−4B株は増殖できなかった。そのため、リグニンスルホン酸の脱色があまりみられなかった。一方、他の培地ではいずれもA592−4B株は増殖可能であった。そして、増殖可能であった培地では、90%程度の高い脱色率を示した。このように、炭素源の種類にかかわらず、A592−4B株が増殖可能であればリグニンスルホン酸を高効率で脱色できることが示された。
【0057】
【表2】
【0058】
(5)リグニンスルホン酸の脱色時における最適濃度の検討
上記半合成培地に炭素源として2%グルコースを加え、さらにリグニンスルホン酸を、0.1%、0.2%、0.4%、0.6%、0.8%、又は1.0%となるように加えた。25mL試験管に各培地を10mL調製し、オートクレーブ滅菌した。各試験管にA592−4B株の分生子懸濁液を0.1mL加え、250spm、30℃で5日間培養した。培養後の培養上清の480nmにおける吸光度(A480)を測定した。各リグニンスルホン酸濃度における除去率(%)と、培地1Lあたりの除去量(g/L)を算出した。結果を図6に示す。図6において、白のバーは除去率(%)、黒のバーは除去量(g/L)を示す。
すなわち、リグニンスルホン酸濃度0.8%までは90%程度の高い除去率を示した。そして、リグニンスルホン酸濃度0.8%において、7g/Lの最大除去量が得られた。
【0059】
(6)クラフトリグニン試薬の脱色
2%グルコースを含む半合成培地(基本培地)に、クラフトリグニン試薬(シグマ−アルドリッチ社、製品番号370959、CAS No. 8068-05-1)を0.2%、0.4%、0.6%、0.8%、又は1.0%加えた。25mL試験管に各培地を10mL調製し、オートクレーブ滅菌した。各試験管にA592−4B株を1白金耳植菌し、250spm、30℃で5日間培養した。培養上清のA480を測定し、脱色率(%)を算出した。結果を図7に示す。すなわち、リグニン濃度0.8%まで高い脱色率(>85%)を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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