(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
初めに、一般的なフェーズドアレイ超音波探傷方法(以下、超音波探傷をUT(Ultrasonic Testing)と記載する。)の原理を説明する。
図8に示されるように、UTセンサを構成する直方体の超音波素子(以下、素子と記述する。)は、平行配列される。素子間の超音波発信開始時間差(以下、遅延時間と記述する。)を調整することで焦点に同時に超音波を到達させ、焦点の音圧を高めて探傷を行う。遅延時間を調整することで焦点位置を変更し、超音波を走査する。
【0003】
この構成よりなるアレイセンサの素子ピッチの制約因子は次の通りである。メインローブ(以下、MLと記述する。)を焦点に収束させる際に、
図9に示すように、ML以外にも超音波の位相が揃うグレーティングローブ(以下、GLと記述する。)が生じる。GLのMLに対する発生角Δφは、数式(1)で記述される(例えば、非特許文献1のp.3の16行目参照)。
【0004】
2d・sinΔφ=n・λ 数式(1)
ここで、
d:素子ピッチ [mm]
n:整数
λ:超音波波長 [mm]
を表す。
【0005】
GLの入射方向に反射源がある場合、MLの反射波として誤認識される疑似信号が発生する。このため、センサの素子ピッチdは数式(2)で記述されるGLが発生しない範囲に限定されていた。
【0006】
n・λ÷2d=sinθ>1
d<λ÷2 (n=1) 数式(2)
【0007】
一方、センサ面積拡大によるフェーズドアレイUTの感度向上方法として、超音波素子ピッチをλ/2以上とするセンサが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、検査対象に対する設置角が異なる複数のアレイセンサを組み合わせた超音波プローブが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるGL識別方法の概念図である。
【
図2A】GLの識別を行わない超音波探傷において必要な受信センサの最短長さの説明図である。
【
図2B】本発明の第1の実施形態による超音波探傷センサの構成図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態による超音波探傷方法のフロー図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態による超音波探傷センサを備えた超音波探傷システムのフロー図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態によるGL識別方法の概念図である。
【
図6A】GLの識別を行わない超音波探傷において必要な送信センサの最短長さの説明図である。
【
図6B】本発明の第2の実施形態による超音波探傷センサの構成図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態による超音波探傷方法のフロー図である。
【
図8】フェーズドアレイ超音波探傷方法の原理の説明図である。
【
図10】検査対象に対する設置角が異なる複数のアレイセンサを組み合わせたセンサを用いたGLの識別方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
図1〜
図4及び数式(1)、数式(3)〜(4)を用いて、本発明の第1実施形態による超音波探傷センサおよび超音波探傷方法について説明する。
【0018】
最初に、
図1を用いて、第1の実施形態におけるGL識別方法の概要について説明する。UTセンサ1は、送信センサ1Tと受信センサ1Rを備える。送信センサ1Tと受信センサ1Rは検査対象301を挟むように配置される。送信センサ1Tは、直方体の素子(圧電素子)を1次元配列して構成し、超音波を送信する。受信センサ1Rも、直方体の素子を1次元配列して構成し、検査対象内301で生じる超音波の反射波を受信する。
【0019】
本実施形態のUTにおいては、
(i)超音波探傷により検査対象上におけるセンサの位置を測定する。
【0020】
図1に示される矢印AR1は、送信センサ1Tから送信された入射波が検査対象301の角で反射された反射波を示す。また、矢印AR2は、受信センサ1Rから送信された入射波が、検査対象301の角で反射された反射波を示す。このように、送信センサ1Tあるいは受信センサ1Rと検査対象301の角等の超音波反射率が高い特徴エコー源との距離と角度を測定することにより、送信センサ1T及び受信センサ1Rの検査対象301に対する位置を測定する。さらに、送信センサ1Tと受信センサ1R間で超音波を送受信することにより、センサ間の相対位置を計測することで、位置測定精度を向上させてもよい。
(ii)素子ピッチから数式(1)を用いてGL発生角を計算し、
(iii)GL入射方向における反射源の有無を評価(判断)し、
(iv)GL入射方向に反射源がある場合、反射波の受信位置を測定(評価)する。受信センサ1R上におけるMLの受信位置とGLの受信位置は異なるため、受信位置の測定結果に基づきMLとGLを識別する。
【0021】
次に、
図2を用いて、本発明の第1の実施形態によるUT方法の実施に必要なセンサ構成を示す。
図2Aは、GLの識別を行わないUTにおいて必要な受信センサの最短長さLmin1を説明するための図である。Lmin1は、数式(3)で記述される。
【0022】
Lmin1 = W{tan(Φmax) -tan(Φmin)}+L0 (3)
ここで、
W:検査対象幅(試験体幅)
Φmax:超音波走査角の最大値
Φmin:超音波走査角の最小値
L0:欠陥検出に必要なセンサの長さ
を表す。
【0023】
図2Aにおいて、太線で示される検査範囲ΔWは、走査角がΦmin以上、かつ、Φmax以下のMLで走査される。欠陥検出に必要な送信センサ1Tの長さL0は、所定の大きさの欠陥を検出するために必要な送信センサ1Tの長さの最小値であり、所定値である。
【0024】
図2Bは、本発明の第1の実施形態によるUTセンサ1の構成図である。
図2Bに記載のように本実施形態においては、受信角度がGLの発生角Δφだけ広くなるので、超音波探傷に必要な受信センサ1Rの最短長さLmin2は数式(4)で記述される。
【0025】
Lmin2 = W{tan(Φmax+ Δφ) -tan(Φmin- Δφ)}+L0 (4)
このように、本実施形態においては反射波の受信位置に基づきMLとGLを識別するため、MLとGLの識別を行わない従来のUT方法のセンサよりも長い受信センサ1Rを用いる。これにより、受信センサ1Rで、検査範囲ΔWで反射したML走査時に生じるGLを受信可能とした。
【0026】
次に、
図3及び
図4を用いて、第1の実施形態のGL識別ステップについて説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態によるUT方法のフロー図である。
図4は、本発明の第1の実施形態によるUTセンサ1を備えたUTシステム100のフロー図である。UTシステム100は、制御PC9、UT装置8、UTセンサ1から構成される。
【0027】
図3に示すステップ101は、制御PC9への試験体形状、試験体音速、超音波探傷位置、構成素子数、素子ピッチの入力ステップである。これらの入力パラメータは、制御PC9のキーボード26、記録メディア27のうち1つ以上の装置を用いて入力され、制御PC9のI/Oポート25を介してCPU21に伝達される。そして、入力パラメータは、ランダムアクセスメモリ23(RAM)、ハードディスクドライブ22(HDD)のうち1つ以上の記憶媒体に記録される。記録メディア27としては、DVD、ブルーレイ等を用いる。また、HDD22としては、磁気記憶媒体、SSD等を用いる。
【0028】
ステップ102は、検査対象301上のセンサ位置測定ステップである。検査対象301の角等の反射源位置と送信用センサ1T、受信用センサ1Rとの距離、角度をUTにより測定し、検査対象301上におけるセンサ位置及びセンサ間の相対位置を測定する。
【0029】
ステップ103は、GL発生角の計算ステップである。リードオンリーメモリ24(ROM)、RAM23、HDD22のうち1つ以上の記憶媒体に格納された数式(1)の計算プログラムをCPU21で実行し、GL発生角Δφを計算する。計算結果は、RAM23、HDD22のうち1つ以上の記憶媒体に記憶するとともに、I/Oポート25を介してモニタ28に表示する。
【0030】
ステップ104は、GL発生方向の反射源有無の評価ステップである。ステップ101で入力した検査対象形状と、ステップ102で測定した検査対象上のセンサ位置の測定結果から、CPU21でGL発生方向の反射源の有無を評価し、反射源が有る場合には受信位置を計算する。計算結果はRAM23、HDD22のうち1つ以上の記憶媒体に記憶するとともに、I/Oポート25を介してモニタ28に表示する。
【0031】
ステップ105は、受信センサ1R上における反射波の受信位置の測定ステップである。CPU21で受信強度が最も強い受信センサ1Rの素子位置から受信位置を測定する。受信位置の測定結果はRAM23、HDD22のうち1つ以上の記憶媒体に格納するとともに、I/Oポート25を介してモニタ28に表示する。
【0032】
更に、ステップ104で計算したGLの受信位置と測定された反射波の位置を比較することによりGLで生じた疑似信号か否かを評価する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、検査対象の平面部分にセンサを設置した場合にもGLを識別することができる。そのため、フェーズドアレイUTの高感度化と高S/N化が可能となる。
【0034】
(第2の実施形態)
図5〜
図7及び数式(1)、数式(5)を用いて、本発明の第2の実施形態におけるUTセンサおよびUT方法について説明する。なお、
図5〜
図7において、
図1〜
図4と同一部分には、同一符号を付する。
【0035】
最初に、
図5を用いて、第2の実施形態におけるGL識別方法の概要について説明する。
【0036】
本実施形態の超音波探傷においても第1の実施形態と同様に、
(i)超音波探傷により検査対象上におけるセンサの位置を測定し、
(ii)数式(1)を用いてGL発生角を計算し、
(iii)GL入射方向における反射源の有無を評価する。
【0037】
第1の実施形態と異なるのは、
(iv)反射源がある場合にMLをGL発生方向に入射させ、GL入射時とML入射時の反射強度を比較することによりGLを識別する点である。
【0038】
図6に本実施形態におけるセンサ構成を示す。
図6Aは、GLの識別を行わない従来のUTにおいて必要な送信センサの最短長さL1の説明図である。L1は、数式(5)で記述される。
【0039】
L1=h1-W1・tan(Φmax)+L0 (5)
ここで、
h1:検査位置と最小走査角発信中心位置との距離
W1:送信センサ設置位置から検査対象位置までの距離
を表す。
【0040】
GLを発生させないUTセンサとするためには、L1全長にわたって素子ピッチをλ/2以下とする必要がある。
【0041】
一方、
図6Bの本実施形態の送信センサ1Tの長さLtは、Lt≧L1とするとともに、最小走査角発信中心位置から±L0/2の範囲だけ素子ピッチdをλ/2以下とする。こうすることで最小走査角の超音波発信位置からはGLを発生させないセンサ構成とする。
【0042】
また、最大走査角を超音波反射効率が高い最大値55°として、GLの入射角を55°以上、即ち反射効率が低い入射角とする。この場合、送信センサ両端で探傷した場合にはGLは発生しないためその識別は不要となる。また、最小走査角発信中心位置から±L0/2以外の長さ範囲においては、本実施例における超音波探傷方法でGLを識別可能であるため、素子ピッチdをλ/2以上とすることが可能である。
【0043】
このため、送信センサ1Tの素子数を減らすことが可能である。また、第1の実施形態とは異なり、受信センサ1Rを数式(3)で記述される従来のUTにおける受信センサ1Rの長さとしてもGLを識別可能である。
【0044】
次に、
図7及び
図4を用いて、第2の実施形態のGL識別ステップについて説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態によるUT方法のフロー図である。
【0045】
ステップ201はステップ101と同様の、試験体形状、試験体音速、超音波探傷位置、構成素子数、素子ピッチの制御PC9への入力ステップである。
【0046】
ステップ202はステップ102と同様の、検査対象301上におけるセンサ位置の測定ステップである。
【0047】
ステップ203はステップ103と同様の、GL発生角の計算ステップである。
【0048】
ステップ204はステップ104と同様の、GL発生方向の反射源有無の評価ステップである。
【0049】
ステップ205は、GL発生方向をMLで探傷するステップである。MLはGLに比し強度が強いため、ML入射時に強い反射が測定された場合、GLの反射により生じたノイズと判断可能である。計算されたGL発生方向へMLを入射させた場合に強い反射が測定された場合、疑似信号と判断する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、検査対象の平面部分にセンサを設置した場合にもGLを識別することができる。そのため、フェーズドアレイUTの高感度化と高S/N化が可能となる。
【0051】
「なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施例は本発明を分かりやすく説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。」
【0052】
また、第1実施形態におけるUTにおいて、ステップ105の後にステップ205を実施してもよい。
【0053】
また、第1の実施形態の受信センサ1Rを第2の実施形態におけるUT方法に用いてもよく、第2の実施形態の送信センサ1Tを第1実施形態におけるUT方法に用いてもよい。