特許第6223798号(P6223798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清紡ホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人群馬大学の特許一覧

特許6223798固体塩基触媒並びにこれに関する方法及び反応装置
<>
  • 特許6223798-固体塩基触媒並びにこれに関する方法及び反応装置 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223798
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】固体塩基触媒並びにこれに関する方法及び反応装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20171023BHJP
   C07C 255/41 20060101ALI20171023BHJP
   C07C 253/30 20060101ALI20171023BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   B01J27/24 Z
   C07C255/41
   C07C253/30
   !C07B61/00 300
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-248548(P2013-248548)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-104708(P2015-104708A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今城 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 純一
(72)【発明者】
【氏名】神成 尚克
(72)【発明者】
【氏名】松永 康傑
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−125693(JP,A)
【文献】 特開2010−083789(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/079956(WO,A1)
【文献】 特開2009−119423(JP,A)
【文献】 S. van Dommele, et al.,Synthesis of heterogeneous base catalysts: nitrogen containing carbon nanotubes,Studies in Surface Science and Catalysis,2006年,Volume 162,pp. 29-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C07B31/00−63/04
C07C1/00−409/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基触媒反応に使用される固体塩基触媒であって、
窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含み、
前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定されるホウ素原子/炭素原子比が0.04〜0.35である
ことを特徴とする固体塩基触媒。
【請求項2】
塩基触媒反応に使用される固体塩基触媒であって、
窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含み、
前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される窒素原子/炭素原子比が0.08〜0.30である
ことを特徴とする固体塩基触媒。
【請求項3】
塩基触媒反応に使用される固体塩基触媒であって、
窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含み、
前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される(ホウ素原子+窒素原子)/炭素原子比が0.12〜0.65である
ことを特徴とする固体塩基触媒。
【請求項4】
前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される窒素原子/炭素原子比が0.08〜0.30である
ことを特徴とする請求項1に記載の固体塩基触媒。
【請求項5】
前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される(ホウ素原子+窒素原子)/炭素原子比が0.12〜0.65である
ことを特徴とする請求項1、2又は4に記載の固体塩基触媒。
【請求項6】
前記炭素化材料は酸素原子をさらに含む
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の固体塩基触媒。
【請求項7】
前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される酸素原子/炭素原子比が0.10〜0.50である
ことを特徴とする請求項6に記載の固体塩基触媒。
【請求項8】
その100mgとシアノ酢酸エチル10mmоlとベンズアルデヒド10mmоlとを含む混合液を還流下、80℃で1時間撹拌して行う化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、前記シアノケイ皮酸エチルの収率が60%以上となるような触媒活性を示す
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の固体塩基触媒。
【請求項9】
その100mgとシアノ酢酸エチル10mmоlとベンズアルデヒド10mmоlとを含む混合液を還流下、80℃で1時間撹拌して行う化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、前記シアノケイ皮酸エチルの選択率が70%以上となるような触媒活性を示す
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の固体塩基触媒。
【請求項10】
塩基触媒反応に使用される固体塩基触媒であって、
窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含み、
その100mgとシアノ酢酸エチル10mmоlとベンズアルデヒド10mmоlとを含む混合液を還流下、80℃で1時間撹拌して行う化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、前記シアノケイ皮酸エチルの収率が60%以上となるような触媒活性を示す
ことを特徴とする固体塩基触媒。
【請求項11】
塩基触媒反応に使用される固体塩基触媒であって、
窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含み、
その100mgとシアノ酢酸エチル10mmоlとベンズアルデヒド10mmоlとを含む混合液を還流下、80℃で1時間撹拌して行う化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、前記シアノケイ皮酸エチルの選択率が70%以上となるような触媒活性を示す
ことを特徴とする固体塩基触媒。
【請求項12】
塩基触媒反応に使用される反応装置であって、
請求項1乃至11のいずれかに記載の固体塩基触媒を含む
ことを特徴とする反応装置。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかに記載の固体塩基触媒を塩基触媒反応に使用する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体塩基触媒並びにこれに関する方法及び反応装置に関し、特に、固体塩基触媒の活性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素−炭素結合形成反応等の塩基触媒反応に使用される固体塩基触媒として、例えば、様々な塩基触媒反応に活性を示す酸化マグネシウムがある(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献2及び非特許文献1には、窒素をドープした炭素材料を化学反応における固体塩基触媒として使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−229189号公報
【特許文献2】特開2010−083789号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】N. Kan-nari, S. Okamura, S. Fujita, J. Ozaki and M. Arai, Adv. Synth. Catal., 352 (2010) 1476-1484
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化マグネシウムは、空気中の水分や二酸化炭素と反応するため、空気中で不安定であるといった問題があった。また、上記特許文献2及び非特許文献1に記載されている従来の炭素材料の触媒活性(例えば、反応生成物の収率)は、酸化マグネシウムのそれに比べると、必ずしも十分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、活性の向上した固体塩基触媒並びにこれに関する方法及び反応装置を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る固体塩基触媒は、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含むことを特徴とする。本発明によれば、活性の向上した固体塩基触媒を提供することができる。
【0008】
また、前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定されるホウ素原子/炭素原子比が0.04〜0.35であることとしてもよい。また、前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される窒素原子/炭素原子比が0.08〜0.30であることとしてもよい。また、前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される(ホウ素原子+窒素原子)/炭素原子比が0.12〜0.65であることとしてもよい。また、前記炭素化材料は酸素原子をさらに含むこととしてもよい。この場合、前記炭素化材料のX線光電子分光法により測定される酸素原子/炭素原子比が0.10〜0.50であることとしてもよい。
【0009】
また、前記固体塩基触媒は、シアノ酢酸エチルとベンズアルデヒドとの化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、前記シアノケイ皮酸エチルの収率が60%以上となるような触媒活性を示すこととしてもよい。また、前記固体塩基触媒は、シアノ酢酸エチルとベンズアルデヒドとの化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、前記シアノケイ皮酸エチルの選択率が70%以上となるような触媒活性を示すこととしてもよい。
【0010】
また、前記固体塩基触媒は、有機物を含む原料の炭素化を行うことと、下記(a)及び/又は(b):(a)窒素原子及び/又はホウ素原子を含む前記原料を使用すること;(b)前記炭素化中に窒素原子及び/又はホウ素原子をドープすること;と、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を得ることと、を含む方法により製造された前記炭素化材料を含むこととしてもよい。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る反応装置は、前記いずれかの固体塩基触媒を含むことを特徴とする。本発明によれば、活性の向上した固体塩基触媒を含む反応装置を提供することができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る方法は、前記いずれかの固体塩基触媒を化学反応に使用することを特徴とする。本発明によれば、活性の向上した固体塩基触媒を化学反応に使用する方法を提供することができる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る固体塩基触媒の製造方法は、有機物を含む原料の炭素化を行うことと、下記(a)及び/又は(b):(a)窒素原子及び/又はホウ素原子を含む前記原料を使用すること;(b)前記炭素化中に窒素原子及び/又はホウ素原子をドープすること;と、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含む固体塩基触媒を得ることと、を含むことを特徴とする。本発明によれば、活性の向上した固体塩基触媒の製造方法を提供することができる。
【0014】
また、前記固体塩基触媒の製造方法は、前記(a)として、窒素原子を含む前記原料を使用することを含み、前記(b)として、前記炭素化中にホウ素原子をドープすることを含む、を含むこととしてもよい。また、前記固体塩基触媒の製造方法は、前記(b)として、前記炭素化中にホウ素原子含有ガスを使用してホウ素原子をドープすることを含むこととしてもよい。また、前記固体塩基触媒の製造方法は、前記(a)として、窒素原子及びホウ素原子を含む前記原料を使用することを含むこととしてもよい。
【0015】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る固体塩基触媒は、前記いずれかの方法により製造されたことを特徴とする。本発明によれば、活性の向上した固体塩基触媒を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、活性の向上した固体塩基触媒並びにこれに関する方法及び反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る実施例において、固体塩基触媒を化学反応に使用した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0019】
本実施形態に係る固体塩基触媒(本触媒)は、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含む固体塩基触媒である。すなわち、本触媒は、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素構造を有する炭素化材料を含み、塩基化学反応における触媒活性を示す不均一系触媒である。本触媒に含まれる炭素化材料は、後述のとおり、有機物を含む原料を炭素化することにより得られる。
【0020】
本触媒の炭素化材料のX線光電子分光法により測定されるホウ素原子/炭素原子比(B/C比)は、例えば、0.04〜0.35であることとしてもよい。なお、炭素化材料のB/C比は、当該炭素化材料のX線光電子分光法において測定される炭素原子の含有率(%)に対する、ホウ素原子の含有率(%)の比である。本触媒の炭素化材料のB/C比がこの範囲内であることは、本触媒が優れた触媒活性を示す上で好ましい。
【0021】
また、本触媒の炭素化材料のB/C比は、例えば、0.06〜0.35であることが好ましい。すなわち、本触媒の炭素化材料のB/C比がこの範囲内であることは、本触媒が優れた触媒活性を示す上で特に好ましい。
【0022】
また、本触媒の炭素化材料のX線光電子分光法により測定される窒素原子/炭素原子比(N/C比)は、例えば、0.08〜0.30であることとしてもよい。本触媒の炭素化材料のN/C比がこの範囲内であることは、本触媒が優れた触媒活性を示す上で好ましい。
【0023】
また、本触媒の炭素化材料のX線光電子分光法により測定される(ホウ素原子+窒素原子)/炭素原子比((B+N)/C比)は、例えば、0.12〜0.65であることとしてもよい。なお、炭素化材料の(B+N)/C比は、当該炭素化材料のX線光電子分光法において測定される炭素原子の含有率(%)に対する、ホウ素原子の含有率(%)と窒素原子の含有率(%)との合計の比である。本触媒の炭素化材料の(B+N)/C比がこの範囲内であることは、本触媒が優れた触媒活性を示す上で好ましい。
【0024】
また、本触媒の炭素化材料の(B+N)/C比は、例えば、0.16〜0.65であることが好ましく、0.17〜0.65であることがより好ましく、0.18〜0.65であることが特に好ましい。すなわち、本触媒の炭素化材料の(B+N)/C比がこれらの範囲内であることは、本触媒が優れた触媒活性を示す上で特に好ましい。
【0025】
また、本触媒に含まれる炭素化材料は、酸素原子をさらに含むこととしてもよい。すなわち、この場合、本触媒は、窒素原子、ホウ素原子及び酸素原子を含む炭素構造を有する炭素化材料を含む。
【0026】
本触媒の炭素化材料が酸素原子を含む場合、当該炭素化材料のX線光電子分光法により測定される酸素原子/炭素原子比(O/C比)は、0.10〜0.50であることとしてもよい。本触媒の炭素化材料のO/C比がこの範囲内であることは、本触媒が優れた触媒活性を示す上で好ましい。
【0027】
また、本触媒の炭素化材料のO/C比は、例えば、0.16〜0.50であることが好ましく、0.17〜0.50であることがより好ましく、0.18〜0.50であることが特に好ましい。すなわち、本触媒の炭素化材料のO/C比がこれらの範囲内であることは、本触媒が優れた触媒活性を示す上で特に好ましい。
【0028】
本触媒の炭素化材料のB/C比、N/C比、(B+N)/C比及びO/C比は、上述した範囲の任意の組み合わせであることとしてもよい。すなわち、例えば、本触媒の炭素化材料は、例えば、B/C比が0.04〜0.35であり、(B+N)/C比が0.12〜0.65であることとしてもよい。
【0029】
この場合、本触媒の炭素化材料は、例えば、B/C比が0.06〜0.35であり、(B+N)/C比が0.12〜0.65であることが好ましい。さらに、この場合、本触媒の炭素化材料の(B+N)/C比は、0.16〜0.65であることが好ましく、0.17〜0.65であることがより好ましく、0.18〜0.65であることが特に好ましい。
【0030】
また、本触媒の炭素化材料は、例えば、B/C比が0.04〜0.35であり、(B+N)/C比が0.16〜0.65であることが好ましく、0.17〜0.65であることがより好ましく、0.18〜0.65であることが特に好ましい。さらに、この場合、本触媒の炭素化材料のB/C比は、0.06〜0.35であることが好ましい。
【0031】
さらに、上述したB/C比と(B+N)/C比との組み合わせのいずれかにおいて、本触媒の炭素化材料のO/C比が0.10〜0.50であることとしてもよい。この場合、本触媒の炭素化材料のO/C比は、例えば、0.16〜0.50であることが好ましく、0.17〜0.50であることがより好ましく、0.18〜0.50であることが特に好ましい。また、上述したB/C比と(B+N)/C比との組み合わせのいずれか、又は上述したB/C比と(B+N)/C比とO/C比との組み合わせのいずれかにおいて、本触媒の炭素化材料のN/C比が0.08〜0.30であることとしてもよい。
【0032】
本触媒の炭素化材料は、内部に金属(例えば、遷移金属)を含まないこととしてもよい。すなわち、この場合、本触媒は、窒素原子及びホウ素原子を含み、且つ内部に金属(例えば、遷移金属)を含まない炭素化材料を含む。また、本触媒は、有機物を含み、金属(例えば、遷移金属)を含まない原料の炭素化により得られた、窒素原子及びホウ素原子を含み、且つ内部に当該金属を含まない炭素化材料を含むこととしてもよい。
【0033】
また、本触媒の炭素化材料は、表面に金属(例えば、遷移金属)を含まないこととしてもよい。また、本触媒の炭素化材料は、表面に貴金属(例えば、白金)を含まないこととしてもよい。また、本触媒の炭素化材料は、表面及び内部に金属(例えば、遷移金属)を含まないこととしてもよい。
【0034】
本触媒は、化学反応における固体塩基触媒として使用される。すなわち、本実施形態に係る方法の一つは、上述した固体塩基触媒(本触媒)を化学反応に使用する方法である。この方法においては、例えば、溶液中で、反応物質と本触媒とを接触させて、当該反応物質の化学反応により生成された反応生成物を得る。
【0035】
本触媒は、例えば、塩基触媒反応(塩基により触媒される化学反応)に使用される。塩基触媒反応は、例えば、炭素−炭素結合形成反応及び/又はエステル交換反応であることとしてもよい。
【0036】
炭素−炭素結合形成反応は、例えば、医薬品や基礎化学品を合成する精密化学において、分子骨格を形成するための重要な化学反応である。また、エステル交換反応は、例えば、バイオディーゼル燃料を合成するために利用される重要な化学反応である。
【0037】
本触媒が使用される化学反応が、炭素−炭素結合形成反応である場合、当該炭素−炭素結合形成反応は、例えば、クネーフェナーゲル反応(クネーフェナーゲル縮合)、アルドール反応(アルドール縮合)及びマイケル反応(マイケル付加)からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0038】
具体的に、本触媒をクネーフェナーゲル反応に使用する場合には、例えば、本触媒の存在下、活性メチレン化合物と、アルデヒド又はケトンと、を化学的に反応(脱水縮合)させることにより、反応生成物を得ることとしてもよい。
【0039】
また、本触媒をエステル交換反応に使用する場合には、例えば、本触媒の存在下、植物油脂等の油脂(トリグリセリド)と、メタノール等の低級アルコールと、を化学的に反応させることにより、脂肪酸メチルエステル等の反応生成物を得ることとしてもよい。なお、脂肪酸メチルエステルは、バイオディーゼル燃料として利用可能である。
【0040】
本触媒は、優れた塩基触媒活性を示すため、当該本触媒を上述のような化学反応に使用することにより、高い収率で生成物を得ることができる。すなわち、本触媒は、例えば、シアノ酢酸エチルとベンズアルデヒドとの化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、当該シアノケイ皮酸エチルの収率が60%以上となるような触媒活性を示すこととしてもよい。この場合、本触媒は、シアノケイ皮酸エチルの収率が70%以上となるような触媒活性を示すことが好ましく、75%以上となるような触媒活性を示すことがより好ましい。なお、シアノケイ皮酸エチルの収率(%)は、理論上得ることのできるシアノケイ皮酸エチルの量に対する、実際に得られたシアノケイ皮酸エチルの量の割合を百分率で表した値として算出される。
【0041】
また、本触媒は、例えば、シアノ酢酸エチルとベンズアルデヒドとの化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、当該シアノケイ皮酸エチルの選択率が70%以上となるような触媒活性を示すこととしてもよい。この場合、本触媒は、シアノケイ皮酸エチルの選択率が75%以上となるような触媒活性を示すことが好ましい。なお、シアノケイ皮酸エチルの選択率(%)は、反応選択性(目的生成物が得られる割合)を示し、ベンズアルデヒドの消費量に対するシアノケイ皮酸エチルの生成量の割合を百分率で表した値として算出される。
【0042】
また、本触媒は、例えば、シアノ酢酸エチルとベンズアルデヒドとの化学反応によりシアノケイ皮酸エチルを得るクネーフェナーゲル反応に使用された場合に、当該シアノケイ皮酸エチルの収率が60%以上であり、当該シアノケイ皮酸エチルの選択率が70%以上となるような触媒活性を示すこととしてもよい。
【0043】
この場合、本触媒は、シアノケイ皮酸エチルの収率が70%以上となるような触媒活性を示すことが好ましく、75%以上となるような触媒活性を示すことがより好ましい。また、これらの場合、本触媒は、シアノケイ皮酸エチルの選択率が75%以上となるような触媒活性を示すことが好ましい。
【0044】
本実施形態に係る反応装置(本装置)は、上述した固体塩基触媒(本触媒)を含む。本装置は、上述した本触媒を化学反応に使用する方法に好ましく使用される。本装置は、例えば、本触媒が担持された基材と、当該基材を、当該本触媒と反応物質とが接触可能となるように含む筐体部と、を有する。この場合、例えば、本装置の筐体部に、反応物質を含む液体又は気体を保持し又は流通させることにより、当該筐体部内で、基材に担持された本触媒と当該反応物質とを接触させて化学反応を行い、当該化学反応により生成された反応生成物を得ることができる。
【0045】
次に、本実施形態に係る固体塩基触媒の製造方法(本製造方法)について説明する。本製造方法は、有機物を含む原料の炭素化を行うことと、下記(a)及び/又は(b):(a)窒素原子及び/又はホウ素原子を含む当該原料を使用すること;(b)当該炭素化中に窒素原子及び/又はホウ素原子をドープすること;と、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含む固体塩基触媒を得ることと、を含む。
【0046】
原料に含まれる有機物は、炭素化される有機物であれば特に限られない。すなわち、原料は、有機化合物を含むこととしてもよい。有機化合物は、例えば、有機高分子(合成高分子及び/又は天然高分子)であることとしてもよく、低分子量の有機化合物であることとしてもよい。また、原料は、バイオマスを含むこととしてもよい。
【0047】
具体的に、有機物は、例えば、アクリロニトリル、ポリアクリロニトリル、メラミン、メラミン樹脂、ピロール、ポリピロール、3−メチルポリピロール、ポリビニルピロール、チアゾール、ピラゾール、ビニルピリジン、ポリビニルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピペラジン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾ−ル、キノキサリン、アニリン、ポリアニリン、ベンゾイミダゾ−ル、ポリベンゾイミダゾ−ル、ヒドラジン、ポリカルバゾール、トリアジン、ポリカルボジイミド、キレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体、オキサゾール、モルホリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリビスマレイミド、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリアクリルアミド、ポリアミド、キチン、キトサン、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、ポリアミノ酸、核酸、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリウレタン、ポリアミドアミン、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリフルフリルアルコール、フラン、フラン樹脂、エポキシ樹脂、ピラン、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエ−テル、ポリ乳酸、ポリエ−テルエ−テルケトン、セルロ−ス、カルボキシメチルセルロース、リグニン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリ塩化ビニリデン、チオフェン、ピッチ及び褐炭からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0048】
本製造方法においては、上記(a)として、窒素原子及び/又はホウ素原子を含む原料を使用することとしてもよい。すなわち、この場合、本製造方法は、有機物を含み、窒素原子及び/又はホウ素原子を含む原料の炭素化を行うことを含む。より具体的に、原料は、例えば、有機物を含み、窒素原子を含むこととしてもよく、有機物を含み、ホウ素原子を含むこととしてもよく、有機物を含み、窒素原子及びホウ素原子を含むこととしてもよい。窒素原子及び/又はホウ素原子を含む原料を炭素化することにより、窒素原子及び/又はホウ素原子を含む炭素化材料が得られる。
【0049】
本製造方法が、窒素原子を含む原料を使用する場合、当該原料は、例えば、窒素原子含有化合物を含むこととしてもよい。なお、原料が窒素原子を含む場合、当該原料は、ホウ素原子を含まないこととしてもよい。
【0050】
窒素原子含有化合物は、その分子内に窒素原子を含む化合物であれば特に限られない。具体的に、窒素原子含有化合物は、例えば、アクリロニトリル、ポリアクリロニトリル、メラミン、メラミン樹脂、ピロール、ポリピロール、3−メチルポリピロール、ポリビニルピロール、チアゾール、ピラゾール、ビニルピリジン、ポリビニルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピペラジン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾ−ル、キノキサリン、アニリン、ポリアニリン、ベンゾイミダゾ−ル、ポリベンゾイミダゾ−ル、ヒドラジン、ポリカルバゾール、トリアジン、ポリカルボジイミド、キレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体、オキサゾール、モルホリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリビスマレイミド、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリアクリルアミド、ポリアミド、キチン、キトサン、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、ポリアミノ酸、核酸、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリウレタン及びポリアミドアミンからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0051】
本製造方法が、ホウ素原子を含む原料を使用する場合、当該原料は、例えば、ホウ素原子含有化合物を含むこととしてもよい。なお、原料がホウ素原子を含む場合、当該原料は、窒素原子を含まないこととしてもよい。
【0052】
ホウ素原子含有有機化合物は、その分子内にホウ素原子を含む化合物であれば特に限られない。具体的に、ホウ素原子含有化合物は、例えば、ホウ酸、三フッ化ホウ素メタノール錯体、9−BBN(9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン)、炭化ホウ素及び酸化ホウ素からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0053】
本製造方法が、窒素原子及びホウ素原子を含む原料を使用する場合、当該原料は、例えば、窒素原子含有化合物及びホウ素原子含有化合物を含むこととしてもよい。具体的に、窒素原子含有化合物及びホウ素原子含有化合物は、例えば、上述した窒素原子含有化合物とホウ素原子含有化合物との任意の組み合わせであることとしてもよい。
【0054】
また、原料は、酸素原子を含むこととしてもよい。すなわち、この場合、本製造方法は、有機物を含み、酸素原子を含む原料の炭素化を行うことを含む。より具体的に、原料は、例えば、有機物を含み、窒素原子及び酸素原子を含むこととしてもよく、有機物を含み、ホウ素原子及び酸素原子を含むこととしてもよく、有機物を含み、窒素原子、ホウ素原子及び酸素原子を含むこととしてもよい。酸素原子を含む原料を炭素化することにより、酸素原子を含む炭素化材料が得られる。
【0055】
原料が酸素原子を含む場合、当該原料は、例えば、酸素原子含有化合物を含むこととしてもよい。酸素原子含有化合物は、その分子内に酸素原子を含む化合物であれば特に限られない。
【0056】
具体的に、酸素原子含有化合物は、例えば、フェノール樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリフルフリルアルコール、フラン、フラン樹脂、エポキシ樹脂、ピラン、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリエ−テル、ポリ乳酸、ポリエ−テルエ−テルケトン、セルロ−ス、カルボキシメチルセルロース、リグニン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、キレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体、オキサゾール、モルホリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリビスマレイミド、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリアクリルアミド、ポリアミド、キチン、キトサン、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、ポリアミノ酸、核酸、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリウレタン及びポリアミドアミンからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0057】
原料が窒素原子及び酸素原子を含む場合、当該原料は、その分子内に窒素原子及び酸素原子を含む化合物を含むこととしてもよい。具体的に、その分子内に窒素原子及び酸素原子を含む化合物は、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体、オキサゾール、モルホリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリビスマレイミド、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリアクリルアミド、ポリアミド、キチン、キトサン、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、ポリアミノ酸、核酸、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリウレタン、ポリアミドアミン及びキレート樹脂からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0058】
原料がホウ素原子及び酸素原子を含む場合、当該原料は、その分子内にホウ素原子及び酸素原子を含む化合物を含むこととしてもよい。具体的に、その分子内にホウ素原子及び酸素原子を含む化合物は、例えば、ホウ酸、三フッ化ホウ素メタノール錯体、9−BBN(9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン)、炭化ホウ素及び酸化ホウ素からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0059】
また、原料は、金属(例えば、遷移金属)を含まないこととしてもよい。すなわち、この場合、本製造方法は、有機物を含み、金属(例えば、遷移金属)を含まない原料の炭素化を行うことを含む。金属(例えば、遷移金属)を含まない原料を炭素化することにより、当該金属を含まない炭素化材料が得られる。
【0060】
原料の炭素化は、当該原料を加熱して、その温度を所定の温度(炭素化温度)まで上昇させるとともに、当該原料を当該炭素化温度で保持することにより行う。炭素化温度は、原料に含まれる有機物が炭素化される温度であれば特に限られず、例えば、300℃以上であることとしてもよく、400℃以上であることとしてもよく、500℃以上であることとしてもよい。炭素化温度の上限値は、特に限られないが、当該炭素化温度は、例えば、1500℃以下であることとしてもよい。
【0061】
原料を炭素化温度まで加熱する際の昇温速度は、特に限られず、例えば、0.5℃/分以上、300℃/分以下であることとしてもよい。原料を炭素化温度で保持する時間(炭素化時間)は、原料に含まれる有機物が炭素化される時間であれば特に限られず、例えば、5分以上であることとしてもよい。炭素化時間の上限値は、特に限られないが、当該炭素化時間は、例えば、900分以下であることとしてもよい。
【0062】
本製造方法においては、上記(b)として、炭素化中に窒素原子及び/又はホウ素原子をドープすることとしてもよい。すなわち、この場合、原料の炭素化中に、当該炭素化によって窒素原子及び/又はホウ素原子を含む炭素化材料が得られるよう、窒素原子をドープする処理及び/又はホウ素原子をドープする処理を行う。
【0063】
なお、本実施形態において、原料の炭素化中とは、当該原料を加熱して、その温度を所定の炭素化温度まで上昇させる間、及び/又は当該原料を当該炭素化温度で保持する間を意味する。すなわち、炭素化中のドープ処理は、原料を加熱して、その温度を所定の炭素化温度まで上昇させる間のみ当該ドープ処理を行うこととしてもよいし、当該温度が当該炭素化温度に到達した後、当該原料を当該炭素化温度で保持する間のみ当該ドープ処理を行うこととしてもよいし、当該原料を加熱して、その温度を所定の炭素化温度まで上昇させる間、及び当該原料を当該炭素化温度で保持する間に当該ドープ処理を行うこととしてもよい。
【0064】
炭素化中に窒素原子をドープする方法は、特に限られないが、例えば、当該炭素化中に窒素原子含有ガスを使用して窒素原子をドープすることとしてもよい。すなわち、この場合、炭素化中に原料を窒素原子含有ガスと接触させて、窒素原子がドープされた炭素化材料を得る。
【0065】
窒素原子含有ガスは、窒素原子含有化合物を含むガスであって、炭素化中の温度において、原料と接触することにより、窒素原子がドープされた炭素化材料が得られるようなガスであれば特に限られない。
【0066】
窒素原子含有ガスに含まれる窒素原子含有化合物は、その分子内に窒素原子を含む化合物であって、炭素化中の温度において、原料と接触することにより、窒素原子がドープされた炭素化材料が得られるような化合物であれば特に限られないが、例えば、アンモニア(NH)、一酸化窒素、二酸化窒素、アセトニトリル、アクリロニトリル、ピリジン、ピロール、ピリミジン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ピペリジン、ピペラジン、アニリン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン及びテトラメチルエチレンジアミンからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0067】
窒素原子含有ガスにおける窒素原子含有化合物の含有量は、窒素原子がドープされる範囲であれば特に限られないが、当該窒素原子含有ガスは、例えば、当該窒素原子含有化合物を5〜100体積%含むこととしてもよい。
【0068】
原料を窒素原子含有ガスと接触させる時間は、窒素原子がドープされる範囲であれば特に限られないが、例えば、10〜300分であることとしてもよい。なお、炭素化中に窒素原子をドープする場合、当該炭素化中にホウ素原子はドープしないこととしてもよい。
【0069】
窒素原子のドープは、アンモオキシデーション法により行うこととしてもよい。アンモオキシデーション法により窒素原子をドープする場合、炭素化中に、酸素を含む雰囲気中で、原料をアンモニア含有ガスと接触させることにより、窒素原子がドープされた炭素化材料を得る。
【0070】
アンモニア含有ガスは、例えば、アンモニア(NH)を5〜100体積%含むガスであることとしてもよい。なお、酸素を含む雰囲気中での、原料とアンモニア含有ガスとの接触は、例えば、当該原料に、アンモニアと酸素とを含むガス(例えば、アンモニアと空気とを含むガス)を接触させることにより行うこととしてもよい。
【0071】
また、窒素原子のドープは、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により行うこととしてもよい。CVD法により窒素原子をドープする場合、炭素化中に、原料を、アセトニトリル等の窒素原子含有化合物を含むガスと接触させることにより、窒素原子がドープされた炭素化材料を得る。
【0072】
窒素原子含有化合物を含むガスは、例えば、当該窒素原子含有化合物と不活性ガス(例えば、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガス及びアルゴン(Ar)ガスからなる群より選択される1種以上)とを含むガスであることとしてもよい。
【0073】
また、炭素化中にホウ素原子をドープする方法は、特に限られないが、例えば、炭素化中にホウ素原子含有ガスを使用してホウ素原子をドープすることとしてもよい。すなわち、この場合、炭素化中に原料をホウ素原子含有ガスと接触させて、ホウ素原子がドープされた炭素化材料を得る。
【0074】
ホウ素原子含有ガスは、ホウ素原子含有化合物を含むガスであって、炭素化中の温度において、原料と接触することにより、ホウ素原子がドープされた炭素化材料が得られるようなガスであれば特に限られない。
【0075】
ホウ素原子含有ガスに含まれるホウ素原子含有化合物は、その分子内にホウ素原子を含む化合物であって、炭素化中の温度において、原料と接触することにより、ホウ素原子がドープされた炭素化材料が得られるような化合物であれば特に限られないが、例えば、三塩化ホウ素(BCl)、三フッ化ホウ素(BF)、ジボラン(B)及びトリメチルボロンからなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0076】
ホウ素原子含有化合物を含むガスは、例えば、当該ホウ素原子含有化合物と不活性ガス(例えば、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガス及びアルゴン(Ar)ガスからなる群より選択される1種以上)とを含むガスであることとしてもよい。
【0077】
ホウ素原子含有ガスにおけるホウ素含有化合物の含有量は、ホウ素原子がドープされる範囲であれば特に限られないが、当該ホウ素原子含有ガスは、例えば、当該ホウ素原子含有化合物を0.1〜100体積%含むこととしてもよい。
【0078】
具体的に、例えば、ホウ素原子含有ガスがBClを含む場合、当該ホウ素原子含有ガスは、当該BClを0.1〜100体積%含むこととしてもよく、0.5〜5体積%含むこととしてもよい。
【0079】
原料をホウ素原子含有ガスと接触させる時間は、ホウ素原子がドープされる範囲であれば特に限られないが、例えば、5〜300分であることとしてもよい。なお、炭素化中にホウ素原子をドープする場合、当該炭素化中に窒素原子はドープしないこととしてもよい。
【0080】
炭素化中に窒素原子及びホウ素原子をドープする方法は、特に限られないが、例えば、当該炭素化中に、まず窒素原子含有ガスを使用して窒素原子をドープし、次いで、ホウ素原子含有ガスを使用してホウ素原子をドープすることとしてもよい。
【0081】
より具体的に、この場合、炭素化中に、まず窒素原子含有ガスを使用して窒素原子をドープし、次いで、当該窒素原子含有ガスを不活性ガス(例えば、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガス及びアルゴン(Ar)ガスからなる群より選択される1種以上)に置換し、さらに、当該不活性ガスをホウ素原子含有ガスに置換し、その後、当該ホウ素原子含有ガスを使用してホウ素原子をドープすることとしてもよい。
【0082】
本製造方法は、上述した上記(a)及び(b)の一方又は両方として、上述した上記(a)に係る原料の使用と、上記(b)に係るドープ処理とを任意に組み合わせて採用することができる。
【0083】
すなわち、本製造方法は、例えば、上記(a)として、窒素原子を含む原料を使用することを含み、上記(b)として、炭素化中にホウ素原子をドープすることを含むこととしてもよい。
【0084】
この場合、本製造方法は、例えば、上記(b)として、炭素化中にホウ素原子含有ガスを使用してホウ素原子をドープすることを含むこととしてもよい。この場合、本製造方法は、例えば、上記(a)として、窒素原子を含む原料を使用することを含み、上記(b)として、炭素化中にホウ素原子含有ガスを使用してホウ素原子をドープすることを含むこととしてもよい。ホウ素原子含有ガスを使用することにより、ホウ素原子が効果的にドープされた炭素化材料を得ることができる。
【0085】
また、本製造方法は、例えば、上記(a)として、窒素原子及びホウ素原子を含む原料を使用することを含むこととしてもよい。すなわち、この場合、本製造方法は、例えば、有機物を含む原料の炭素化を行うことと、下記(a):(a)窒素原子及びホウ素原子を含む当該原料を使用すること;と、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を含む固体塩基触媒を得ることと、を含むこととしてもよい。
【0086】
そして、本製造方法においては、上記(a)及び(b)により、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を得る。すなわち、本製造方法において、上述のような炭素化により得られる炭素化材料は、それ自身が固体塩基触媒としての触媒活性を示す。したがって、本製造方法においては、上述のような炭素化により得られる炭素化材料を、固体塩基触媒として得ることとしてもよい。
【0087】
また、上述した本触媒は、本製造方法により好ましく製造される。すなわち、本触媒は、例えば、有機物を含む原料の炭素化を行うことと、下記(a)及び/又は(b):(a)窒素原子及び/又はホウ素原子を含む当該原料を使用すること;(b)当該炭素化中に窒素原子及び/又はホウ素原子をドープすること;と、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を得ることと、を含む方法により製造された当該炭素化材料を含むこととしてもよい。
【0088】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0089】
[実施例1−1]
まず、有機物を含み、窒素原子を含む原料を調製した。すなわち、ポリアクリロニトリルを大気雰囲気下で加熱して、その温度を室温から150℃まで30分で上昇させ、さらに150℃から220℃まで2時間で上昇させ、その後、220℃で3時間保持することにより不融化を行った。次いで、不融化により得られた試料を、遊星型ボールミルを用いて、750rpm、90分の条件で粉砕した。こうして粉砕された試料を、炭素化の原料として得た。
【0090】
次いで、原料の炭素化を行うとともに、当該炭素化中にホウ素原子をドープして、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を、固体塩基触媒として得た。すなわち、上述のようにして得られた粉砕された試料をBCl/N混合ガス(BCl濃度:1体積%)の流通下で加熱して、その温度を室温から600℃まで10℃/分で上昇させ、続いて、当該試料を600℃で50分保持した。
【0091】
その後、流通ガスをNガスに切り替え、当該Nガス流通下で、試料を600℃で10分保持した。そして、Nガス流通下で、温度を自然に低下させ、炭素化材料を得た。さらに、この炭素化材料を、遊星型ボールミルを用いて、750rpm、90分の条件で粉砕し、当該炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0092】
[実施例1−2]
炭素化中に試料をBCl/N混合ガス流通下及びNガス流通下、600℃で保持する代わりに、試料をBCl/N混合ガス流通下及びNガス流通下、800℃で保持したこと以外は上述の実施例1−1と同様にして、炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0093】
[実施例1−3]
炭素化中に試料をBCl/N混合ガス流通下及びNガス流通下、600℃で保持する代わりに、試料をBCl/N混合ガス流通下及びNガス流通下、1000℃で保持したこと以外は上述の実施例1−1と同様にして、炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0094】
[実施例2]
上述の実施例1−1と同様にして、ポリアクリロニトリルの不融化を行い、粉砕された試料を、炭素化の原料として得た。次いで、原料の炭素化を行うとともに、当該炭素化中にホウ素原子をドープして、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を、固体塩基触媒として得た。
【0095】
すなわち、上述のようにして得られた粉砕された試料をBCl/N混合ガス(BCl濃度:1体積%)の流通下で加熱して、その温度を室温から400℃まで10℃/分で上昇させ、続いて、当該試料を400℃で1時間保持した。
【0096】
その後、試料をさらに加熱して、その温度を1000℃まで10℃/分で上昇させ、BCl/N混合ガス(BCl濃度:1体積%)の流通下、当該試料を1000℃で50分保持した。
【0097】
その後、流通ガスをNガスに切り替え、当該Nガス流通下で、試料を1000℃で10分保持した。そして、Nガス流通下で、温度を自然に低下させ、炭素化材料を得た。さらに、この炭素化材料を、遊星型ボールミルを用いて、750rpm、90分の条件で粉砕し、当該炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0098】
[実施例3]
上述の実施例1−1と同様にして、ポリアクリロニトリルの不融化を行い、粉砕された試料を、炭素化の原料として得た。次いで、原料の炭素化を行うとともに、当該炭素化中にホウ素原子をドープして、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を、固体塩基触媒として得た。
【0099】
すなわち、上述のようにして得られた粉砕された試料をBCl/N混合ガス(BCl濃度:1体積%)の流通下で加熱して、その温度を室温から1000℃まで10℃/分で上昇させた。
【0100】
その後、流通ガスをNガスに切り替え、当該Nガス流通下で、試料を1000℃で1時間保持した。そして、Nガス流通下で、温度を自然に低下させ、炭素化材料を得た。さらに、この炭素化材料を、遊星型ボールミルを用いて、750rpm、90分の条件で粉砕し、当該炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0101】
[実施例4−1]
まず、有機物を含み、窒素原子及びホウ素原子を含む原料を調製した。すなわち、ポリアクリロニトリル(PAN)をジメチルホルムアミド(DMF)に添加し、30分間超音波照射することで、PANを溶解させた。
【0102】
その後、PANに含まれる窒素原子と、ホウ酸に含まれるホウ素原子との比(N:B)が2:1となるようにホウ酸を添加した(ホウ酸の添加量:36.9重量%)。さらに、得られた混合液を30分間超音波照射することで、ホウ酸を溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて、混合液の溶媒(DMF)を除去し、固形物を得た。この固形物を減圧下、100℃で1晩乾燥させ、乾燥後の試料を、炭素化の原料として得た。
【0103】
次いで、原料の炭素化を行い、窒素原子及びホウ素原子を含む炭素化材料を、固体塩基触媒として得た。すなわち、上述のようにして得られた試料をNガスの流通下で加熱して、その温度を室温から1000℃まで10℃/分で上昇させ、続いて、当該試料を1000℃で1時間保持した。
【0104】
その後、Nガス流通下で、温度を自然に低下させ、炭素化材料を得た。さらに、この炭素化材料を、遊星型ボールミルを用いて、750rpm、90分の条件で粉砕し、当該炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0105】
[実施例4−2]
PANに含まれる窒素原子と、ホウ酸に含まれるホウ素原子との比(N:B)が5:1となるようにホウ酸を添加した(ホウ酸の添加量:18.9重量%)こと以外は上述の実施例4−1と同様にして、炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0106】
[実施例4−3]
PANに含まれる窒素原子と、ホウ酸に含まれるホウ素原子との比(N:B)が10:1となるようにホウ酸を添加した(ホウ酸の添加量:10.4重量%)こと以外は上述の実施例4−1と同様にして、炭素化材料からなる固体塩基触媒を得た。
【0107】
[比較例1−1]
上述の実施例1−1と同様にして、ポリアクリロニトリルの不融化を行い、粉砕された試料を、有機物を含み、窒素原子を含む原料として得た。次いで、原料の炭素化を行った。すなわち、上述のようにして得られた試料をNガス流通下で加熱して、その温度を室温から600℃まで10℃/分で上昇させ、続いて、当該試料を600℃で1時間保持した。
【0108】
その後、Nガス流通下で、温度を自然に低下させ、炭素化材料を得た。さらに、この炭素化材料を、遊星型ボールミルを用いて、750rpm、90分の条件で粉砕し、粉砕された炭素化材料を得た。
【0109】
[比較例1−2]
炭素化中に試料を600℃で1時間保持する代わりに、試料を800℃で1時間保持したこと以外は上述の比較例1−1と同様にして、炭素化材料を得た。
【0110】
[比較例1−3]
炭素化中に試料を600℃で1時間保持する代わりに、試料を1000℃で1時間保持したこと以外は上述の比較例1−1と同様にして、炭素化材料を得た。
【0111】
[比較例2]
まず、有機物を含み、ホウ素原子を含む原料を調製した。すなわち、フェノール樹脂をメタノールに添加し、30分間超音波照射することで、フェノール樹脂を溶解させた。
【0112】
その後、ホウ酸を添加し、得られた混合液を30分間超音波照射することで、ホウ酸を溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いて、混合液の溶媒(メタノール)を除去し、固形物を得た。この固形物を減圧下、60℃で1晩乾燥させ、乾燥後の試料を、炭素化の原料として得た。
【0113】
次いで、原料の炭素化を行った。すなわち、上述のようにして得られた試料をNガス流通下で加熱して、その温度を室温から1000℃まで10℃/分で上昇させ、続いて、当該試料を1000℃で1時間保持した。
【0114】
その後、Nガス流通下で、温度を自然に低下させ、炭素化材料を得た。さらに、この炭素化材料を、遊星型ボールミルを用いて、750rpm、90分の条件で粉砕し、粉砕された炭素化材料を得た。
【0115】
[比較例3−1]
電気炉内において、アンモニア(NH)と空気との混合ガス(NH濃度:90体積%)の流通下、市販の活性炭を700℃で1時間保持した。その後、電気炉を開けて空冷し、活性炭を取り出した。こうして窒素原子がドープされた活性炭を得た。
【0116】
[比較例3−2]
電気炉内において、アンモニア(NH)と空気との混合ガス(NH濃度:70体積%)の流通下、市販のケッチェンブラックを600℃で2時間保持した。その後、電気炉を開けて空冷し、ケッチェンブラックを取り出した。こうして窒素原子がドープされたケッチェンブラックを得た。
【0117】
[比較例4]
従来使用されている代表的な固体塩基触媒として、市販の酸化マグネシウムを用意した。
【0118】
[X線光電子分光法]
上述のようにして得られた固体塩基触媒をX線光電子分光法(XPS)により分析した。すなわち、X線光電子分光装置(Kratos AXIS NOVA、株式会社島津製作所製)(X線:AlKα線、出力:10mA×15kV)により、炭素化材料の表面元素を分析した。具体的に、XPS測定により得られたスペクトルの各ピークの面積と検出感度係数とから、炭素原子、ホウ素原子、窒素原子及び酸素原子の表面元素濃度(%)を求め、当該各元素の濃度の比として、表面におけるホウ素原子の炭素原子に対する比(B/C比)、窒素原子の炭素原子に対する比(N/C比)、ホウ素原子と窒素原子との合計の炭素原子に対する比((B+N)/C比)、及び酸素原子の炭素原子に対する比(O/C比)の値を算出した。また、定量計算の際のバックグラウンドはShirley法により決定した。
【0119】
[塩基触媒反応]
上述のようにして得られた固体塩基触媒を塩基触媒反応に使用して、当該固体塩基触媒の特性を評価した。すなわち、撹拌子の入った体積20mLのナスフラスコに、触媒100mg、ベンズアルデヒド10mmol、シアノ酢酸エチル10mmol、1−ブタノール5mLを秤量して入れた。得られた混合液を還流下、80℃で1時間撹拌した。反応後、ナスフラスコを冷水で冷やした。吸引ろ過で反応液と触媒とを分離した。
【0120】
分離された反応液にトルエン0.5mLを内部標準として入れ、1−ブタノールで25mLに希釈後、水素炎イオン化検出器ガスクロマトグラフィー(GC−FID)(GC−4000、ジーエルサイエンス株式会社製)で定量を行った。クネーフェナーゲル反応における生成物であるシアノケイ皮酸エチルの収率は、ベンズアルデヒド基準で求めた。
【0121】
[結果]
図1には、各固体塩基触媒について、その表面のB/C比、N/C比、(B+N)/C比及びO/C比と、塩基触媒反応におけるシアノケイ皮酸エチルの収率(%)及び選択率(%)とを示す。収率(%)は、理論上得ることのできるシアノケイ皮酸エチルの量に対する、実際に得られたシアノケイ皮酸エチルの量の割合を百分率で表した値として算出した。また、選択率(%)は、反応選択性(目的生成物が得られる割合)を示し、ベンズアルデヒドの消費量に対するシアノケイ皮酸エチルの生成量の割合を百分率で表した値として算出した。
【0122】
なお、比較例1−1〜1−3及び比較例3−1,3−2のXPS測定においては、ホウ素は検出されなかった。また、比較例4のXPS測定は行わなかった。比較例3−1の選択率は測定されなかった。また、比較例2においては、積極的には窒素原子を含む原料の使用及び窒素原子のドープ処理は行っていないが、XPS測定において窒素原子が検出された。この原因は不明であるが、例えば、原料に使用したフェノール樹脂の合成過程で使用された微量の窒素分による影響が考えられた。
【0123】
図1に示すように、実施例に係る固体塩基触媒のB/C比は0.055〜0.242であり、N/C比は0.098〜0.220であり、(B+N)/C比は0.153〜0.462であり、O/C比は0.149〜0.381であった。
【0124】
そして、実施例に係る固体塩基触媒は、クネーフェナーゲル反応における収率が62.5〜84.9%であり、選択率が75.5〜85.2%となるような優れた触媒活性を示した。
【0125】
特に、実施例4−3を除く実施例に係る固体塩基触媒は、クネーフェナーゲル反応における収率が75.5〜84.9%であり、選択率が75.5〜85.2%となるような極めて優れた触媒活性を示した。
【0126】
なお、これら実施例4−3を除く実施例に係る固体塩基触媒のB/C比は0.070〜0.242であり、N/C比は0.100〜0.220であり、(B+N)/C比は0.197〜0.462であり、O/C比は0.195〜0.381であった。
【0127】
このように、実施例に係る固体塩基触媒は、酸化マグネシウム(比較例4)と同等以上の触媒活性を示した。これに対し、比較例4を除く比較例に係る固体塩基触媒をクネーフェナーゲル反応に使用した場合の収率は、1.3〜60.0%であり、選択率は13.7〜68.9%であった。
図1