特許第6223814号(P6223814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6223814形状記憶特性を有する金属製多孔体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6223814
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】形状記憶特性を有する金属製多孔体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20171023BHJP
   B01D 39/12 20060101ALI20171023BHJP
   A61L 29/12 20060101ALN20171023BHJP
   A61L 29/14 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   B01D39/20 A
   B01D39/12
   !A61L29/12
   !A61L29/14 400
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-266194(P2013-266194)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-120127(P2015-120127A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000237167
【氏名又は名称】富士フィルター工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】岸 陽一
(72)【発明者】
【氏名】大東 勉
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴志
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−095242(JP,A)
【文献】 特開2006−181015(JP,A)
【文献】 実開昭59−150572(JP,U)
【文献】 特開2011−178212(JP,A)
【文献】 特表2009−533221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 39/12
A61L 29/00
A61L 17/00
B60R 21/26
B21F
B07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶特性を有さない芯材と、前記芯材の外周に設けられた形状記憶特性を有する形状記憶層とで構成された複合線で巻き回され、当該複合線同士の接合部が焼結により接合されてなる多孔体であって、
前記複合線が一方向に傾斜し、軸の周りに所定のピッチで巻き付けられて形成された第1層と、前記複合線が前記一方向とは逆向きの方向に傾斜し、前記軸の周りに所定のピッチで巻き付けられて、前記第1層に接して形成された第2層とが順次積層されて成る金属製多孔体であって、
前記多孔体の形状が前記形状記憶層の変態点を境にして変化することを特徴とする金属製多孔体。
【請求項2】
前記複合線は、チタン芯材の外周にニッケルチタン金属間化合物層を有している、請求項1に記載の金属製多孔体。
【請求項3】
前記複合線の断面積Aと、前記複合線のうち前記形状記憶層の断面積Bとの比(B/A)が、0.3以上0.8以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の金属製多孔体。
【請求項4】
前記複合線が平角線である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属製多孔体。
【請求項5】
形状記憶特性を有さない第1金属成分を含む金属線の外周に前記第1金属成分と化合して形状記憶層を形成する第2金属成分を含む金属層が設けられた素線を準備する工程と、
前記素線を一方向に傾斜させながら軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第1サブ工程と前記素線を前記一方向とは逆向きの方向に傾斜させながら前記軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第2サブ工程とを繰り返す巻き付け工程と、
前記巻き付けた素線を加熱して、前記第1金属成分と前記第2金属成分とを拡散させた形状記憶層を外周に有する複合線を形成する工程と、
前記複合線同士を接合させる工程と、を有することを特徴とする金属製多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記第1金属成分がチタンであり、前記第2金属成分がニッケルである、請求項5に記載の金属製多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記複合線の断面積Aと、前記複合線のうち前記形状記憶層の断面積Bとの比(B/A)が、0.3以上0.8以下の範囲内である、請求項5又は6に記載の金属製多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶特性を有する金属製多孔体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、形状記憶特性を有する複合線で構成され、温度によって目開きが変化する金属製多孔体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属線を軸の周りに巻き付けて形成された金属製多孔体は、従来から知られている。特許文献1には、内燃機関の燃料から不要な物質等を除去するフィルターとして用いられる金属製多孔体が提案されている。この金属製多孔体は、ステンレス鋼線等の金属線を軸の周りに巻き付けて円筒状に成形し、その後に線同士を焼結して形成されている。
【0003】
特許文献2には、エアバッグインフレーター用フィルターとして用いられる金属製多孔体が提案されている。この金属製多孔体は、断面形状が長方形(平角形状)に形成された一本の金属線を用い、その線の一端をジグの適所に係止させ、このジグに線を巻き付けて円筒体とし、次いで、線の他端を円筒体の適所に接合し、この円筒体からジグを抜き取って中空形状に形成されている。
【0004】
なお、特許文献3には、金属繊維の接触部に金属間化合物が形成され形状記憶特性、超弾性特性に優れた金属繊維三次元構造体等の提供を目的とした技術が提案されている。この技術は、純チタン繊維と純ニッケル繊維が所定の空隙率をもった三次元構造をなし、かつ両繊維の接触部に金属間化合物が形成されているように構成したものである。こうした金属繊維三次元構造体は、高空隙率をもった不織布状の構造体であり、高い保形性を有し、かつ形状記憶特性を有することから冠動脈ステント、人工骨、人工歯根、電気機器の電極及び空調機器等のフィルター等複雑な形状の部材も容易に作製できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−178212号公報
【特許文献2】特表2009−533221号公報
【特許文献3】特開2006−241582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2で提案されている従来のフィルター用途の金属製多孔体は、焼結によって金属線を接合して線の動きを無くし、目開きを固定して安定したフィルター機能を保つように製造されている。しかしながら、目開きを任意に変化させることができれば、様々なフィルター用途が拡大する可能性がある。
【0007】
また、特許文献3で提案されている金属繊維三次元構造体は、高い保形性が、純チタン繊維と純ニッケル繊維との接触部で形成された形状記憶特性を有する金属間化合物によってもたらされている。しかしながら、こうした金属繊維三次元構造体においても、上記のように、目開きを任意に変化させることができれば、様々なフィルター用途が拡大する可能性がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、フィルター等に使用可能な金属製多孔体の目開きの程度を任意に変化させることができる新しい金属製多孔体及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するための本発明に係る金属製多孔体は、形状記憶特性を有する形状記憶層を外周に有する複合線で巻き回され、当該複合線同士が接合されてなる多孔体であって、前記多孔体の形状が前記形状記憶層の変態点を境にして変化することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、形状記憶層を外周に有する複合線で巻き回され、その複合線同士が接合された多孔体の形状が、その形状記憶層の変態点を境にして変化するので、変態点未満の温度での形状と、その変態点以上の温度での形状とを変化させることができ、フィルター等に使用可能な金属製多孔体の目開きの程度を任意に変化させることができる。例えば、常温では所定の目開き状態であったものを、加熱によって目開き状態を拡大又は縮小させ、さらに常温に戻すことにより当初の目開き状態に戻すことができる。こうした拡大又は縮小は、例えばフィルター用途においては、金属製多孔体を加熱することによって、目開きの変化に基づくフィルター効果を変化させることができるという利点がある。なお、複合線は、焼結によって複合線同士が接合されているので、金属製多孔体の全体形状を大きな乱れなく保持することができる。目開きの程度を温度によって変化させることができる本発明に係る金属製多孔体は、複合線を強固に焼結して複合線の動きを無くして目開きが固定された従来のフィルターとは異なり、温度によって目開きを制御でき、様々なフィルターとして利用可能である。
【0011】
本発明に係る金属製多孔体において、前記複合線は、チタン芯材の外周にニッケルチタン金属間化合物層を有しているように構成できる。
【0012】
この発明によれば、チタン芯材の外周に形状記憶層であるニッケルチタン金属間化合物層を有するので、そのニッケルチタン金属間化合物層が有する変態点を境にして上記した形状記憶特性を発揮することができる。
【0013】
本発明に係る金属製多孔体において、前記複合線の断面積Aと、前記複合線のうち前記形状記憶層の断面積Bとの比(B/A)が、0.3以上0.8以下の範囲内であることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、複合線の断面積Aと形状記憶層の断面積Bとの比(B/A)が上記範囲内のときに、変態点を境にした変形がより効果的に生じ、目開き状態を変化させることができるので、例えば温度によって目開きを制御できるフィルター用途として好ましく適用できる。
【0015】
本発明に係る金属製多孔体において、前記複合線が平角線であることが好ましい。
【0016】
(2)上記課題を解決するための本発明に係る金属製多孔体の製造方法は、第1金属成分を含む金属線の外周に前記第1金属成分と化合して形状記憶層を形成する第2金属成分を含む金属層が設けられた素線を準備する工程と、前記素線を一方向に傾斜させながら軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第1サブ工程と前記素線を前記一方向とは逆向きの方向に傾斜させながら前記軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第2サブ工程とを繰り返す巻き付け工程と、前記巻き付けた素線を加熱して、前記第1金属成分と前記第2金属成分とを拡散させた形状記憶層を外周に有する複合線を形成する工程と、前記複合線同士を接合させる工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、素線を軸に巻き付けた後に加熱して、金属線に含まれる第1金属成分と金属層に含まれる第2金属成分とを拡散させた形状記憶層を外周に有する複合線を形成するので、形状記憶層が持つ変態点を境にして複合線の形状を変化させ、金属製多孔体の形状を変化させることができる。その結果、変態点未満の温度での形状と、その変態点以上の温度での形状とを変化させることができ、目開きの程度を任意に変化させることができる金属製多孔体を製造することができ、様々なフィルター等に使用することができる。また、複合線同同士が接合されるので、全体形状を大きな乱れなく保持可能な金属製多孔体を製造することができる。
【0018】
本発明に係る金属製多孔体の製造方法において、前記第1金属成分がチタンであり、前記第2金属成分がニッケルであるように構成できる。特に、前記金属線がチタン線であり、前記金属層がニッケル層であることが好ましい。
【0019】
この発明によれば、第1金属成分がチタンであり、第2金属成分がニッケルであるので、それらが拡散したニッケルチタン金属間化合物層は形状記憶特性を発現することができる。
【0020】
本発明に係る金属製多孔体の製造方法において、前記複合線の断面積Aと、前記複合線のうち前記形状記憶層の断面積Bとの比(B/A)が、0.3以上0.8以下の範囲内であることが好ましい。
【0021】
この発明によれば、複合線の断面積Aと形状記憶層の断面積Bとの比(B/A)が上記範囲内のときに、変態点を境にした変形がより効果的に生じ、目開き状態を変化させることができるので、例えば温度によって目開きを制御できるフィルター用途として好ましく適用できる。
【0022】
本発明に係る金属製多孔体の製造方法において、前記複合線が平角線であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フィルター等に使用可能な金属製多孔体の目開きの程度を任意に変化させることが可能な新しい金属製多孔体及び製造方法を提供することができる。特に、フィルター等に使用できる金属製多孔体の目開きの程度を任意に変化させることができる。目開きの程度を温度によって変化させることができる金属製多孔体は、複合線を強固に焼結して複合線の動きを無くして目開きが固定された従来のフィルターとは異なり、様々なフィルターとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る金属製多孔体の一例を示す斜視図である。
図2図1に示す金属製多孔体を構成する複合線からなる層を2層分だけ示した拡大図である。
図3】金属製多孔体を構成する複合線の断面形態図である。
図4】金属製多孔体を構成する複合線がなす巻き角度を示す説明図である。
図5】実施例で作製した金属製多孔体の平面写真(A)とその拡大写真(B)である。
図6】素線の断面写真(A)と複合線の断面写真(B)である。
図7】実施例1の金属製多孔体を室温で変形させた後の形態(A)と、変形させた金属製多孔体を加熱したときの形態(B)である。
図8】実施例2の金属製多孔体から剥がした複合線の写真(A)と、その複合線を加熱したときの形態(B)である。
図9】実施例2の金属製多孔体から剥がした複合線の形状記憶特性を示す示差走査熱量測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る金属製多孔体及びその製造方法について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の記載や図面にのみ限定されるものではない。
【0026】
[金属製多孔体]
本発明に係る金属製多孔体1は、図1図3に示すように、形状記憶特性を有する形状記憶層4を外周に有する複合線2で巻き回され、その複合線同士2,2が接合されてなる多孔体である。そして、その多孔体の形状が形状記憶層4の変態点を境にして変化するように構成されている。この金属製多孔体1は、図1に示すように、全体としては管状になっている。
【0027】
この金属製多孔体1においては、形状記憶層4を外周に有する複合線2で巻き回され、その複合線同士2,2が接合された金属製多孔体1の形状が、その形状記憶層4の変態点を境にして変化する。そのため、変態点未満の温度での形状と、その変態点以上の温度での形状とを変化させることができ、フィルター等に使用可能な金属製多孔体1の目開きの程度を任意に変化させることができるという従来にない新しい効果を奏する。
【0028】
例えば、常温では所定の目開き状態であったものを、加熱によって目開き状態を拡大又は縮小させ、さらに常温に戻すことにより当初の目開き状態に戻すことができる。こうした拡大又は縮小は、例えばフィルター用途においては、金属製多孔体1を加熱することによって、目開きの変化に基づくフィルター効果を変化させることができるという利点がある。なお、複合線2は、複合線同士2,2が焼結によって接合されているので、金属製多孔体1の全体形状を大きな乱れなく保持することができる。目開きの程度を温度によって変化させることができる本発明に係る金属製多孔体1は、複合線2を強固に焼結して複合線2の動きを無くして目開きが固定された従来のフィルターとは異なり、温度によって目開きを制御でき、様々なフィルターとして利用可能である。
【0029】
以下、金属製多孔体の構成要素について詳しく説明する。
【0030】
(複合線)
複合線2は、形状記憶特性を有している。その形状記憶特性は、図3に示すように、複合線2を構成する芯材3の外周に設けられている形状記憶層4によって生じている。ここで、形状記憶特性は、JIS H7001:2009「形状記憶合金用語」で定義されており、ある形状の合金を低温相(マルテンサイト)の状態で異なる形状に変形させても、高温で安定な相(オーステナイト)になる温度に加熱するとマルテンサイト逆変態が起こることで、変形前の形状に戻る現象(形状記憶効果とも言う)を示すという特性である。
【0031】
形状記憶層4は、形状記憶特性を発現する層であれば特に限定されない。形状記憶層4としては、例えば、ニッケルチタン、チタンニオブ、鉄パラジウム等の二元系層を好ましく挙げることができる。これらのうち、ニッケルチタン金属間化合物層が好ましい。
【0032】
芯材3は、形状記憶特性を有していてもよいし有していなくてもよい。後述する実施例では、芯材3は形状記憶特性を有さないチタンであり、チタンの芯材3の外周には形状記憶特性を有するニッケルチタン金属間化合物層が形状記憶層4として設けられている。それ以外にも、例えば、芯材3は形状記憶特性を有さないチタンであり、チタン芯材3の外周には形状記憶特性を有するチタンニオブが形状記憶層4として設けられていてもよいし、芯材3は形状記憶特性を有さない鉄であり、鉄芯材3の外周には形状記憶特性を有する鉄パラジウムが形状記憶層4として設けられていてもよい。
【0033】
形状記憶特性を有さない芯材3と、その芯材3の外周に設けられた形状記憶層4とで構成された複合線2は、例えばチタンからなる金属線3’上にニッケルからなる金属層4’を設けた素線2’、チタンからなる金属線3’上にニオブからなる金属層4’を設けた素線2’、鉄からなる金属線3’上にパラジウムからなる金属層4’を設けた素線2’、等々を熱処理することにより極めて容易に製造できるという大きな利点があるので、特に好ましい。
【0034】
実施例で示した複合線2は、図6に示すように、例えば、チタンからなる金属線3’の外周に、そのチタンと化合して形状記憶層4であるニッケルチタン金属間化合物層を形成するニッケルからなる金属層4’が設けられた素線2’を加熱して得られたものである。その加熱によって、金属線3’を構成するチタン成分と、金属層4’を構成するニッケル成分とが熱拡散して化合し、ニッケルチタン金属間化合物層が形成される。こうした複合線2は、ニッケルチタン金属間化合物層が有する変態点を境にして形状記憶特性を発揮することができる。同様に、上記したチタンニオブや鉄パラジウムが設けられた複合線2についても、が有する変態点を境にして形状記憶特性を発揮することができる。
【0035】
複合線2に設けられている形状記憶層4は、その面積比で特定することができる。面積比での特定としては、複合線2の断面積Aと、複合線2のうち形状記憶層4の断面積Bとの比(B/A)が0.3以上0.8以下の範囲内であることが好ましい。面積比をこの範囲内にしたときに、変態点を境にした変形がより効果的に生じ、得られた金属製多孔体1の目開き状態を変化させることができるので、例えば温度によって目開きを制御できるフィルター用途として好ましく適用できる。特に実施例に記載のように、チタン芯材の外周にニッケルチタン金属間化合物層を形状記憶層4として有する複合線2は、上記範囲内で好ましい形状記憶特性を示す。上記したチタンニオブや鉄パラジウムが設けられた複合線2についても、同様である。面積比は、電子顕微鏡で得られる組成像によって測定した結果で評価した。
【0036】
面積比が上記範囲未満の場合であっても形状記憶特性を発現するが、大きな形状記憶特性に基づいた大きな目開きの変化が生じにくい。一方、面積比が上記範囲を超える場合は、形状記憶特性を十分に発現するが、例えば後述する実施例のような加熱拡散により形状記憶層4を形成するのが難しくなることがある。よって、上記範囲内の面積比であることが好ましい。なお、形状記憶層4の厚さは、上記した面積比に応じて換算することができる。
【0037】
複合線2の形状は、丸線を圧延した平角線であることが好ましい。圧延前の丸線の直径は、例えば、0.05mm以上、0.2mm以下の範囲内であることが好ましい。こうした丸線は、圧延加工されることによって押しつぶされ、例えば図3に示すように、幅方向に伸張され、幅方向に直交する厚さ方向に圧縮される。圧延された後の複合線2の圧延率は、20%以上、70%以下の範囲内であることが好ましい。なお、「圧延率」とは、圧延加工する前の丸線の直径をd1とし、圧延加工されて圧縮された後の平角線の厚さ方向(圧縮された方向)の寸法をd2としたとき、次の(1)式で表される数値をいう。(圧延率)=[(d1−d2)/d1]×100・・(1)
【0038】
形状記憶効果は、ニッケルチタン金属間化合物に限らず熱弾性型マルテンサイト変態をする合金に共通な現象であり、形状記憶層4は、熱弾性型マルテンサイト変態を発現する元素で構成されている。例えばニッケルチタン金属間化合物であればニッケルとチタンであり、チタンニオブであればチタンとニオブであり、鉄パラジウムであれば鉄とパラジウムであるが、その形状記憶特性を阻害しない範囲内でその他の元素が含まれていてもよい。その他の元素としては、銅、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の遷移元素、希土類元素、及び不可避不純物から選ばれる1又は2以上の元素が含まれていてもよい。
【0039】
(巻き形態)
金属製多孔体1は、図2に示すように、複合線2が一方向に傾斜し、軸の周りに所定のピッチで巻き付けられて形成された層11と、複合線2が前記一方向とは逆向きの方向に傾斜し、軸の周りに所定のピッチで巻き付けられて形成された層12とが、順次に積層されているとともに、複合線同士は接合されている。なお、図2は、金属製多孔体1を構成する複合線2によって形成された層を2層分(符号11の層と符号12の層)だけ示している。
【0040】
金属製多孔体1の代表的な形態として、図1に示した管状の金属製多孔体を挙げることができる。この金属製多孔体1は、長手方向の両端が開放された形態である。管状の金属製多孔体1は、図1に示した形態の他に、長手方向の一端が開放され、他端が閉じた形態の金属製多孔体(図示しない)や、円錐状の金属製多孔体(図示しない)等を挙げることができる。
【0041】
なお、積層の数は、金属製多孔体1の厚さに応じて500層〜3000層に設定される。例えば、後述の実施例の場合は、1000層〜1500層に設定されている。こうした金属製多孔体1は、焼結されることによって、複合線同士が接合されている。
【0042】
複合線2の巻き角度は、5°以上、90°未満の範囲内で金属製多孔体1を形成することができる角度である。より具体的には、巻き角度は40°以上、80°以下の範囲内である。なお、「巻き角度」とは、図4のθで表されている角度であり、一方向に傾斜された複合線11と、この一方向とは逆向きの方向に傾斜された複合線12とがなす角度を意味する。金属製多孔体1の空隙率は、特に限定されないが、例えば、32%以上、62%以下の範囲内である。「空隙率」とは、[(材料比重-製品密度)/材料比重]×100によって表すことができる製品の全容積に対する隙間の容積の割合のことである。また、金属製多孔体1の寸法としては、外径が1mm以上、15mm以下の範囲内に形成され、内径が0.5mm以上、14mm以下の範囲内に形成されている。
【0043】
こうした金属製多孔体1は、フィルター、センサーカバー、カテーテル、消音材、発泡、拡散材、ガイド等の用途に用いることができる。なお、金属製多孔体をフィルターとして使用する場合、長手方向の一端が開放され、他端が閉じているようにしてもよく、金属製多孔体1の周面だけでなく、閉じた他端もフィルターとして機能する。また、円環状の金属製多孔体は、フィルター、消音材、発泡、拡散材、流動材等の用途に用いることができる。
【0044】
[金属製多孔体の製造方法]
本発明に係る金属製多孔体1の製造方法は、第1金属成分を含む金属線3’の外周に第1金属成分と化合して形状記憶層4を形成する第2金属成分を含む金属層4’が設けられた素線2’を準備する工程と、素線2’を一方向に傾斜させながら軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第1サブ工程と素線2’を前記一方向とは逆向きの方向に傾斜させながら前記軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第2サブ工程とを繰り返す巻き付け工程と、巻き付けた素線2’を加熱して、第1金属成分と第2金属成分とを拡散させた形状記憶層4を外周に有する複合線2を形成する工程と、複合線同士2,2を接合させる工程と、を有する。
【0045】
この製造方法は、素線2’を軸に巻き付けた後に加熱して、金属線3’に含まれる第1金属成分と金属層4’に含まれる第2金属成分とを拡散させた形状記憶層4を外周に有する複合線2を形成するので、形状記憶層4が持つ変態点を境にして複合線2の形状を変化させ、金属製多孔体1の形状を変化させることができる。その結果、変態点未満の温度での形状と、その変態点以上の温度での形状とを変化させることができ、目開きの程度を任意に変化させることができる金属製多孔体1を製造することができ、様々なフィルター等に使用することができる。また、複合線同士2,2接合部5で接合されるので、全体形状を大きな乱れなく保持可能な金属製多孔体を製造することができる。
【0046】
以下、製造工程について説明する。ここでは、主にニッケルチタン金属間化合物層を形状記憶層4として形成する場合を例にして説明するが、それに限定されない。
【0047】
(素線の準備工程)
素線2’の準備工程は、第1金属成分を含む金属線3’の外周に、金属層4’が設けられた素線2’を準備する工程である。金属層4’は、金属線3’が有する第1金属成分に化合して形状記憶層4を形成する第2金属成分を含んでいる。
【0048】
素線2’は、その後の熱処理によって形状記憶層4を形成することができる層構造を有する線材である。素線2’としては、図6(A)に示すように、具体的には、例えばチタンからなる金属線3’の外周に、そのチタンと化合してニッケルチタン金属間化合物層(形状記憶層4)を形成するための例えばニッケルからなる金属層4’が設けられたものを挙げることができる。ニッケルチタン金属間化合物層(形状記憶層4)は、素線2’を加熱して得られるものである。
【0049】
素線2’は、丸線でも平角線でもよいが、図6(A)に示すように、予め圧延された平角線であることが好ましい。平角線の形態や圧延率は、上記した複合線2の説明欄で説明したのでここでは省略する。
【0050】
(巻き付け工程)
巻き付け工程は、素線2’を一方向に傾斜させながら軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第1サブ工程と、素線2’を前記一方向とは逆向きの方向に傾斜させながら前記軸の周りに所定のピッチで巻き付ける第2サブ工程とを繰り返す工程である。
【0051】
この巻き付け工程は、圧延された素線2’を巻き軸(図示しない)に巻き付けるワインド工程と、巻き軸に巻き付けられた素線2’を焼結する焼結工程と、焼結された素線2’を、巻き軸に巻き付けられた状態でスウェージングするスウェージング工程と、スウェージング工程が終了した後に、素線2’が巻き付けられている巻き軸を抜き取る巻き軸抜き取り工程とを備えている。
【0052】
ワインド工程は、巻き軸に素線2’を巻き付けて管状の部材を形成する工程である。ワインド工程は、素線2’を巻き軸に巻き付ける際に一般的に使用されているワインダー(巻き付け装置)を用いて行われる。素線2’は、圧延機で事前に圧延加工されたものを使用してワインダーで巻き軸の外周面に巻き付けられたり、ワインダーの内部で圧延しつつ巻き軸の外周面に巻き付けられたりする。
【0053】
素線2’を巻き軸に巻き付けるとき、素線2’は、巻き軸に対して一方向に傾斜されて、巻き軸の軸方向に所定のピッチで巻き軸の一端側から他端側に向けて順次巻き付けられる。このように巻き軸に巻き付けられた素線2’は、図2に示すように、巻き軸の外周面で1つの層11を形成する。素線2’は、こうして形成された1つの層11の外周にさらに巻き付けられて、図2に示すように、別の層12が形成される。この際、素線2’は、巻き軸に対して上記した一方向とは逆方向に傾斜されて、巻き軸の軸方向に所定のピッチで巻き軸の他端側から一端側に向けて巻き付けられる。
【0054】
ワインド工程は、こうした、一方向に傾斜させて巻き軸の周りに所定のピッチで巻き付けて形成された層11と、一方向とは逆向きの方向に傾斜させて巻き軸の周りに所定のピッチで巻き付けて形成された層12とを順次に形成して素線2’の層を積層して管状の部材を形成する工程である。
【0055】
(複合線の形成工程)
複合線2の形成工程は、巻き付けた素線2’を加熱して、第1金属成分と第2金属成分とを拡散させた形状記憶層4を外周に有する複合線2を形成する工程である。素線2’を加熱するによって、金属線3’を構成するチタン成分と、金属層4’を構成するニッケル成分とが熱拡散して化合し、ニッケルチタン金属間化合物層が形成される。こうした複合線2は、ニッケルチタン金属間化合物層が有する変態点を境にして形状記憶特性を発揮することができる。
【0056】
形成された複合線2の断面積Aと、複合線2のうち形状記憶層4の断面積Bとの比(B/A)が、0.3以上0.8以下の範囲内であることが好ましい。断面積比(B/A)が上記範囲内のときに、変態点を境にした変形がより効果的に生じ、目開き状態を変化させることができるので、例えば温度によって目開きを制御できるフィルター用途として好ましく適用できる。
【0057】
(接合工程)
接合工程は、複合線同士2,2を接合させる工程である。焼結工程は、複合線2からなる管状の部材を巻き軸ごと炉に入れて焼結し、複合線同士を接合する。炉は、真空炉であってもよいし、酸化を防ぐための還元ガスを含む炉であってもよい。焼結は、800℃以上、1300℃以下の範囲内の温度で180分程度行われる。こうした焼結工程によって複合線同士は、拡散接合される。なお、この焼結工程は、次のスウェージング工程の前後の2回に分けて行ってもよい。
【0058】
このときのスウェージング工程は、複合線2からなる管状の部材の外径を所望の寸法に整える冷間鍛造加工工程である。スウェージング工程は、例えば、分割された金型を回転させて、叩きながら管状の部材の外径を絞っていくことによって行われる。
【0059】
巻き軸抜き取り工程は、複合線2からなる管状の部材から巻き軸を抜き出して、所望の内径と外径とを有する金属製多孔体1を形成させる工程である。巻き軸が抜き出された管状の部材は、図5(A)(B)に示すように、巻き軸の外径と一致する内径を有すると共に、積層された複合線2の層の数に応じた外径を有する金属製多孔体1となる。
【0060】
以上に説明した工程を経た後、金属製多孔体1は洗浄され、必要な検査を経て完成される。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0062】
[実施例1]
素線2’として、図6(A)に示すように、直径0.1mmのチタンからなる金属線3’の外周に、その金属3’のチタン成分と化合して形状記憶層4であるニッケルチタン金属間化合物層を形成する厚さ12μmのニッケルめっきからなる金属層4’が設けられたものを圧延率40%で圧延して準備した。この素線2’を用いて金属製多孔体1を作製した。作製した金属製多孔体1は、内径が1.6mm、外径が2.5mm、全長が34.9mm、重量が0.27gである。また、金属製多孔体1は、嵩密度が2.61g/cm、空隙率が67.2%である。また、巻き角度は、47.4°である。
【0063】
実施例1の金属製多孔体1の作製は、以下の工程を経て行った。最初にワインダーの内部で丸線を圧延加工し、図6(A)に示すように、圧延率が40%の素線を形成した。次に、圧延加工された素線を巻き軸(図示しない)に巻き付けて巻き軸の外周面に管状の部材を形成した。具体的には、図2に示すように、まず、素線2’を巻き軸に対して一方向に傾斜させ、巻き軸の周りに一定のピッチで巻き軸の軸方向の一方向に順次巻き付けて1つの層11を形成した。次に、この1つの層11の外周から素線2’を巻き軸に対して逆向きの方向に傾斜させ、巻き軸の周りに一定のピッチで巻き軸の軸方向の逆方向に巻き付けてさらに層12を形成した。こうした手順を300回繰り返して行い、複合線2からなる複数の層を巻き軸の外周面に形成して管状の部材を巻き軸の外周面に作製した。
【0064】
次いで、熱処理を行った。熱処理は、管状の部材を巻き軸ごと真空炉に入れて、温度を900℃にして180分行った。こうした熱処理を行うことによって、素線2’にニッケルチタン金属間化合物層を形成し、ニッケルチタン金属間化合物層が形成された複合線2に変化させた。この変化と同時に、複合線同士を焼結した。図6(B)は、焼結後の複合線2の断面形態である。
【0065】
その後、管状の部材の外径が所定の寸法に形成されるように、巻き軸の外周面に巻かれた管状の部材をスウェージングした。スウェージングを行った後、管状の部材を巻き軸ごと真空炉に入れてもう一度熱処理を行った。熱処理は、温度を900℃にして180分行った。2回目の熱処理後、巻き軸を取り外し、図5(A)(B)に示すような実施例1の金属製多孔体1を得た。
【0066】
図5は、実施例1の金属製多孔体1の平面写真(A)とその拡大写真である。図7(A)は、実施例1の金属製多孔体1を、その長手方向である軸方向に室温(25℃前後)で引っ張り延ばした形態であり、図7(B)は、引っ張り延ばした金属製多孔体1を180℃で加熱した後の形態である。図示のように、加熱によって、形状記憶層4が形状記憶効果を発現し、延びていた金属製多孔体1が初期形状に回復したことを確認した。
【0067】
[実施例2]
実施例1と同様の素線2’を用い、実施例1と同様の方法で金属製多孔体1を作製し、形状記憶特性の発現を確認した。作製した金属製多孔体1は、内径が6.03mm、外径が8.28mm、全長が11.51mmで、重量が0.28gであった。なお、この金属製多孔体への熱処理は、900℃、8時間で行った。
【0068】
こうして作製した金属製多孔体をテンシロン万能試験機(株式会社オリエンテック製、型名:RTG−1310)で室温(25℃前後)にて圧縮し、その寸法を表1に示した。その後、熱風機で発生した400℃の熱風を1分間照射した後の寸法を測定した。実施例2での寸法測定は、ライトマチック(株式会社ミツトヨ製、型名:VL−50A)で行い。その結果を表1にまとめた。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示す形態の変化は、複合線2が有する形状記憶層4の作用であり、その結果、形状記憶層4の作用によって、金属製多孔体1の目開き状態を変化させることができることを確認した。
【0071】
図8は、実施例2の金属製多孔体1から剥がした複合線2の写真(A)と、その複合線2を180℃で加熱したときの形態(B)である。この結果より、金属製多孔体1から複合線2を剥がし取る際に延びた複合線2は、加熱によって形態が変化し、螺旋状に変形し、形状記憶特性を示した。
【0072】
また、図9は、実施例2の金属製多孔体から剥がした複合線2の形状記憶特性を示す示差走査熱量測定の結果(DSC曲線)である。DSC曲線は、示差走査熱量計(株式会社リガク製、型名:DSC8230)を用い、温度を180℃から−100℃に下げ、その後180℃まで上げて測定した。その結果、図9に見られるような、形状記憶特性を示した。なお、こうしたDSC曲線は、JIS H 7101に準拠して計測しているので、上記した示差走査熱量計以外の装置であっても同様の結果を測定できる。
【符号の説明】
【0073】
1 金属製多孔体
2 複合線
2’ 素線
3 芯材
3’ 金属線
4 形状記憶層
4’ 金属
5 接合部
11 複合線又はその複合線を一方向に傾斜させて中心軸の周りに巻いて形成された層
12 複合線又はその複合線を逆方向に傾斜させて中心軸の周りに巻いて形成された層


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9