(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記解析条件設定手段及び前記安定度判定手段を有する複数の装置における演算時間の差が低減されるように、処理を分担させる演算ケース管理手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の系統安定化システム。
【背景技術】
【0002】
電力系統に落雷などの事故が発生した場合、事故除去リレーシステムによって、高速かつ最小範囲での事故除去が行われる。これにより、系統への事故の影響を、最小限に抑えることができる。
【0003】
しかし、事故除去リレーシステムの動作にもかかわらず、遮断器不動作などによる事故除去時間の遅延、広範囲な事故遮断、ルート断事故などの重大事故発生により、事故除去後の系統構成が大幅に変化する場合がある。かかる場合には、潮流急変、大幅な需給アンバランスなどを引き起こし、系統の異常現象が発生する可能性がある。これを放置すると、発生した異常現象が電力系統全体へ波及して、大停電に拡大することも想定される。
【0004】
かかる異常現象の発生の未然防止、系統全体への波及拡大防止のために、事故波及防止リレーシステムが存在する。この事故波及防止リレーシステムは、通称、系統安定化システム若しくは系統安定化装置と呼ばれる(以下、系統安定化システムとする)。
【0005】
系統安定化システムは、対象とする異常現象(脱調現象、周波数異常、電圧異常、過負荷等)に応じて、様々な種類のものが開発されている。このような系統安定化システムの一例として、発電機の脱調を未然に防止するシステム(脱調未然防止リレーシステム)が挙げられる。
【0006】
ここで、脱調とは、故障時の電圧低下に伴い、同期発電機の機械的入力と電気的出力のバランスが崩れて、発電機が同期運転を保つことができなくなる現象である。この脱調を放置すると、多数の発電機の連鎖的な停止を引き起こし、広域な停電に波及する可能性がある。
【0007】
このため、脱調未然防止リレーシステムによって発電機の脱調を防止して、系統間の安定を図ることが必要となる。なお、他の異常現象(周波数異常、電圧異常、過負荷)を対象とする系統安定化システムも、その基本的な構成は、脱調未然防止リレーシステムと同様である。
【0008】
このような系統安定化システムを、制御内容の演算方式で分類すると、大きく分けて(A)事後演算型、(B)事前演算型の2つに分類される。そして、事前演算型は、(B−1)オフライン事前演算型、(B−2)オンライン事前演算型に分類される。以下、これらを簡単に説明する。
【0009】
(A)事後演算型
事後演算型の方式では、まず、システムが、事故中および事故後の系統情報をオンラインで取得する。そして、取得した系統情報に基づいて、将来の現象について、システムが予測演算を行う。さらに、予測演算の結果に基づいて、システムが制御対象発電機などの制御量を演算し、即座に制御を実施する。
【0010】
(B)事前演算型
事前演算型の方式では、まず、システムが、事故発生前の系統情報に基づいて、あらかじめ事故および系統現象を想定して、制御量を演算し、設定しておく。そして、実際に事故が発生した場合、あらかじめ設定しておいた制御量をシステムが参照し、即座に制御を実施する。かかる事前演算型は、オフライン事前演算型とオンライン事前演算型に区分できる。
【0011】
(B−1)オフライン事前演算型
オフライン事前演算型は、想定した事故や系統状態について、事前にオフラインで詳細安定度計算を繰り返し実施して、予め制御テーブルを決定する方式である。
【0012】
(B−2)オンライン事前演算型
オンライン事前演算型は、実系統の潮流状況、遮断器入切情報など、オンラインで入手した現在の系統情報(オンラインデータ)を用いて、詳細安定度計算を繰り返し実施して、制御テーブルを作成する方式である。
【0013】
制御テーブルは、想定する事故種別に応じて、遮断すべき発電機を設定したテーブルである。この制御テーブルを用意しておくことにより、事故発生時には、発生した事故種別と制御テーブルを照合することにより、制御内容としての遮断すべき発電機である電制発電機を決定できる。
【0014】
ここで、事故種別とは、事故の発生と種別に関する情報である。例えば、何相何線地絡事故というような情報は、事故種別の一例である。より具体的には、2回線送電線において1回線の1相だけで事故検出した場合の事故種別は1相1線地絡事故(1φ1LG)、1回線の3相で事故検出した場合は3相3線地絡事故(3φ3LG)、などと表現される。なお、この事故種別は、事故様相を決定しうる情報であり、事故条件に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1の実施形態]
[構成]
[1.全体構成]
本実施形態の全体構成を、
図1及び
図2を参照して説明する。本実施形態は、オンライン事前演算型の系統安定化システムSの一例である。ただし、基本的な構成部分については、オフライン事前演算型とオンライン事前演算型とは同等である。なお、
図2において、N2は給電情報網、1は発電機、2は母線、3は送電線若しくは変圧器、4は遮断器(CB)、5は電流計測器(CT)、6は電圧計測器(VT)、7は負荷、8は通信設備を示す。
【0023】
本実施形態の系統安定化システムSは、
図1及び
図2に示すように、中央演算装置9、演算装置10、事故検出端末装置11、制御端末装置12を有する。中央演算装置9、演算装置10、事故検出端末装置11及び制御端末装置12は、互いに信号線及び送受信部を含む通信設備8を介して、情報を送受信可能に構成されている。以下の説明では、送信については伝送、出力と呼び、受信については入力と呼ぶ場合もある。
【0024】
なお、本実施形態において送受信される情報は、伝送遅延時間を管理あるいは伝送データにタイムスタンプを付与することによって、時刻とともに検出処理、生成処理、送受信処理、記憶処理等の管理がなされる。これにより、各処理のタイミングを把握可能に構成されている。
【0025】
中央演算装置9は、通信設備8を介して、給電情報網N2に接続されている。これにより、中央演算装置9は、給電情報網N2から系統情報をオンラインで入手して、演算により制御テーブルを設定することができる。このような中央演算装置9は、例えば、中央給電指令所などに設置されることが多い。
【0026】
演算装置10は、中央演算装置9、事故検出端末装置11、制御端末装置12との通信可能な箇所に設置されている。これにより、演算装置10は、事故検出端末装置11から受信した事故情報を、中央演算装置9から入力された制御テーブルと照合して制御内容を決定し、制御端末装置12に出力することができる。このような演算装置10は、例えば、事故検出端末装置11若しくは制御端末装置12と同じ場所に設置される場合もある。
【0027】
事故検出端末装置11は、例えば、
図2に示すように、送電系統における遮断器4、電流計測器5、電圧計測器6等に接続されている。このような事故検出端末装置9は、例えば、変電所などに設置されることが多い。
【0028】
制御端末装置12は、例えば、
図2に示すように、発電機1が接続された系統における遮断器4、電流計測器5、電圧計測器6等に接続されている。これにより、制御端末装置12は、演算装置10において決定された制御内容に基づいて、遮断器4へ遮断指令を出力し、発電機の解列等の制御を行うことができる。このような制御端末装置12は、例えば、発電所などに設置されることが多い。
【0029】
なお、上記の
図1及び
図2で例示した各装置は、仮想的に図示したものである。検出対象や制御対象の数や位置に応じて複数用意されてもよい。例えば、複数の事故検出端末装置11からの事故情報に基づいて、演算装置10が処理を行うように構成してもよい。一つの事故検出端末装置11が管理する対象の数や種類も自由である。一つの制御端末装置12が制御する制御対象の数についても自由である。
【0030】
また、上記の各装置は、ディジタル形リレーあるいはコンピュータを所定のプログラムで制御することによって実現できる。つまり、各装置は、いわゆるマイコンを備えた演算装置としての機能を備えている。上記のプログラムは、ハードウェアを物理的に活用することで、以下に説明するような各手段及び各部の処理を実現するものである。
【0031】
さらに、以下の各手段、各部の処理を実行する装置、方法、プログラム及びプログラムを記録した記録媒体等も、実施形態の一態様である。ハードウェアで処理する範囲、プログラムを含むソフトウェアで処理する範囲をどのように設定するかも、特定の態様には限定されない。例えば、以下の各手段及び各部のいずれかを、それぞれの処理を実現する専用の電子回路として構成することも可能である。
【0032】
[2.中央演算装置]
中央演算装置9は、系統情報収集手段101、系統モデル作成手段102、解析条件設定手段103A、安定度判定手段104A等を有する。
【0033】
[2−1.系統情報収集手段]
系統情報収集手段101は、電力系統の接続状態および電力の需給状態を、系統情報として給電情報網N2経由で、定周期で収集する系統情報収集部101aを有する。電力系統の接続状態には、例えば、送電線の接続状態及び遮断器や断路器等の開閉状態が含まれる。電力の需給状態には、例えば、発電機の有効および無効電力出力、負荷の有効および無効電力消費量、発電機および負荷母線の電圧、送電線、変圧器の有効および無効電力潮流等が含まれる。
【0034】
[2−2.系統モデル作成手段]
系統モデル作成手段102は、系統情報収集手段101により収集された系統情報と、あらかじめ記憶されている系統設備データ等に基づいて、現在の潮流状態を表わす解析用系統モデルを作成する処理部である。
【0035】
この処理を実現するため、上記系統モデル作成手段102は、系統情報記憶部102a、系統設備記憶部102b、系統モデル作成部102cを有する。系統情報記憶部102aは、系統情報収集部101aにより収集された系統情報を記憶する処理部である。系統設備記憶部102bは、電力系統の送電線、変圧器のインピーダンス、発電機の諸定数等の系統設備データを記憶する処理部である。系統モデル作成部102cは、系統情報記憶部102aに記憶されている系統情報と系統設備記憶部102bに記憶されている送電線のインピーダンスや発電機の諸定数とを用いて、解析用系統モデルを作成する処理部である。
【0036】
[2−3.解析条件設定手段]
解析条件設定手段103Aは、系統モデル作成手段102により作成された解析用系統モデルと、複数の想定事故種別データとに基づいて、複数の解析条件を設定する処理部である。この処理を実現するために、解析条件設定手段103Aは、系統モデル記憶部103a、想定事故種別記憶部103b、解析条件設定部103c等を有している。
【0037】
系統モデル記憶部103aは、系統モデル作成手段102により作成された解析用系統モデルを記憶する記憶部である。想定事故種別記憶部103bは、想定される複数の事故種別データを記憶する記憶部である。
【0038】
解析条件設定部103cは、上記の解析用系統モデル、想定事故種別データ等に基づいて、複数の解析条件を設定する処理部である。本実施形態における解析条件には、例えば、想定される複数の事故種別データに対する電制発電機の複数の組み合わせが含まれる。
【0039】
[2−4.安定度判定手段]
安定度判定手段104Aは、上記の解析条件に基づいて過渡安定度計算を行ない、各解析条件に対する電力系統の安定度を判定し、各想定事故種別が発生した際に電力系統の安定度維持に必要な電制発電機を、制御テーブルとして設定する処理部である。
【0040】
この処理を実現するため、安定度判定手段104Aは、解析条件記憶部104a、過渡安定度計算部104b、安定度判定部104c、制御テーブル設定部104d等を有している。解析条件記憶部104aは、解析条件設定手段103Aにより設定された各解析条件を記憶する記憶部である。過渡安定度計算部104bは、解析条件記憶部104aに記憶されている各解析条件に対して、過渡安定度計算を行なう処理部である。
【0041】
過渡安定度計算は、系統事故が発生した時に起こる各発電機の動揺をシミュレーションする計算である。事故後、時間の経過により発電機間の相対位相角差が拡大する程、安定度は低くなる。このため、制御タイミングが早い解析条件のときの安定度は比較的高く、安定度維持に必要な制御量は少なくなる傾向にある。一方、制御タイミングが遅い解析条件のときは制御量が多くなる傾向にある。
【0042】
安定度判定部104cは、過渡安定度計算部104bによる計算結果を用いて、各解析条件に対する安定度を判定し、各想定事故種別が発生した際に電力系統の安定度維持に必要な電制発電機を求める処理部である。
【0043】
制御テーブル設定部104dは、安定度判定部104cの判定結果を、制御テーブルとして設定する処理部である。
【0044】
[3.演算装置]
演算装置10は、電制発電機決定手段105等を有する。電制発電機決定手段105は、検出された事故情報に応じて、電制発電機を決定する処理部である。この処理を実現するため、電制発電機決定手段105は、制御テーブル記憶部105a、照合処理部105b等を有する。
【0045】
制御テーブル記憶部105aは、安定度判定手段104Aにおいて設定された制御テーブルを記憶する記憶部である。照合処理部105bは、事故種別検出手段106により検出された事故種別について、制御テーブルとの照合を行う処理部である。
【0046】
[4.事故検出端末装置]
事故検出端末装置11は、事故種別検出手段106、解析条件設定手段103B、安定度判定手段104B等を有する。事故種別検出手段106は、電力系統に事故が発生したことを起動条件とし、事故の検出情報毎に事故種別を判定して事故を検出する処理部である。
【0047】
解析条件設定手段103B、安定度判定手段104Bは、上記の解析条件設定手段103A、安定度判定手段104Aと同様の機能を有している。なお、解析条件設定手段103Bの想定事故種別記憶部103bには、各事故検出端末装置11が担当する想定事故ケースが、あらかじめ設定されていてもよい。
【0048】
[5.制御端末装置]
制御端末装置12は、制御手段107を有している。制御手段107は、電制発電機決定手段105により決定された制御内容に応じて、電源制限等の制御を行う処理部である。例えば、電制対象となる発電機に対応する遮断器4へ開動作指示を出力することにより、発電機を電力系統から解列することができる。
【0049】
[6.記憶部]
上記の各装置には、図示はしないが、上記で明示的に示した記憶部の他に、各装置において送受信、検出、生成等される情報など、系統安定化システムSの処理に必要な各種の情報を記憶する記憶部が構成されている。この記憶部に記憶される情報には、各手段、各部の処理のための演算式、パラメータ、しきい値等を含む基準値等も含まれている。
【0050】
[7.入力部]
上記各装置には、図示はしないが、入力部が接続されている。この入力部は、系統安定化システムSに必要な情報の入力、処理の選択や指示等を行う構成部である。入力部としては、例えば、スイッチ、タッチパネル、キーボード、マウス等が考えられる。ただし、現在又は将来において利用可能なあらゆる入力装置を含む。
【0051】
[8.出力部]
上記各装置には、図示はしないが、出力部が接続されている。この出力部は、電気量情報、事故情報、動作情報、設定情報等、系統安定化システムSにおける処理の対象となる情報を、運用者等のユーザが認識可能となるように出力する構成部である。この出力部としては、例えば、表示装置、プリンタ等が考えられる。ただし、現在又は将来において利用可能なあらゆる出力装置を含む。
【0052】
[作用]
以上のような構成を有する本実施形態の作用を説明する。
[1.制御テーブルの設定]
事故発生前は、中央演算装置9において、系統情報収集手段101によりオンライン系統情報が収集される。系統モデル作成手段102は、オンライン系統情報と、あらかじめ記憶されている系統設備データとに基づいて、状態推定計算と潮流計算を行い、現在の潮流状態を表す解析用系統モデルを作成する。
【0053】
このように作成された解析用系統モデルは、中央演算装置9から、1以上の事故検出端末装置11に伝送される。事故検出端末装置11における解析条件設定手段103Bは、伝送された解析用系統モデルと、複数の想定事故種別データとに基づいて、複数の解析条件を設定する。つまり、想定される事故の事故種別データに対する電制発電機の複数の組み合わせを設定する。
【0054】
安定度判定手段104Bは、解析条件に基づいて、過渡安定度計算を行い、各解析条件に対する電力系統の安定度を判定し、想定事故種別毎の制御内容である電制発電機を、制御テーブルとして設定する。
【0055】
事故検出端末装置11は、設定された制御テーブルを、演算装置10へ伝送する。演算装置10の制御テーブル記憶部105aは、伝送された制御テーブルを記憶、更新する。
【0056】
制御テーブルの設定のための演算処理は、中央演算装置9における解析条件設定手段103A、安定度判定手段104Aが行うこともできるが、その一部又は全てを、上記のように、1以上の事故検出端末装置11において行うこともできる。事故検出端末装置11、中央演算装置9が、どの範囲の演算処理を分担するかは、自由に設定可能である。
【0057】
全体の演算を、各事故検出端末装置11における複数の事故検出端末装置11が分担して、結果を中央演算装置9に返すようにしてもよい。分担する演算は、ランダムに分けたものであっても、特定の地域、送電線の事故毎に分けてもよい。各事故検出端末装置11が、それぞれが受け持つ事故についての演算のみを行うようにしてもよい。
【0058】
なお、系統情報は、時事刻々と変化しており、これに応じて、適切な制御量も変化する。このため、事故検出端末装置11、中央演算装置9で行う事前演算処理は、定周期で行われる。この周期は、システムが扱う系統規模や想定事故種別数、事故検出端末装置11、中央演算装置9の処理能力、給電用オンラインデータの更新周期などによって決められる。上記のように、系統情報収集手段101、系統モデル作成手段102、解析条件設定手段103A、103B、安定度判定手段104A、104Bにおいて、収集、設定、計算、判定、記憶等される情報も、所定の周期若しくは必要な情報の入力を待って更新されるものとする。したがって、制御テーブルも、常時、最適なものが設定される。
【0059】
[2.事故の検出]
そして、系統事故が発生すると、事故種別検出手段106が、系統情報に基づいて、当該事故の種別を判定して検出し、演算装置10に事故種別を出力する。演算装置10においては、検出された事故種別と設定された各想定事故種別に対する電制発電機を記録した制御テーブルとを照合して、電制発電機を決定し、さらに制御端末装置12において、決定された電制発電機を電力系統から解列する。
【0060】
[効果]
以上のような本実施形態によれば、事故検出端末装置11の演算能力を有効に活用することができる。従前は、事故検出端末装置11のマイコンは、系統に多数存在し、個々の演算能力は高いにもかかわらず、CTからの電流、PTからの電圧、開閉器からの動作信号等の情報を処理する程度であった。
【0061】
本実施形態においては、系統に多数存在する事故検出端末装置11が、解析条件設定、安定度判定の演算を分担することにより、従前と比べて、中央演算装置9のハードボリュームを小さくして、コストを抑えることができる。また、従前の中央演算装置9のハードボリュームを維持した場合でも、演算ケース数を節約することなく、多くの演算ケースを実行することが可能となり、正確な事故対応を実現できる。
【0062】
[第2の実施形態]
[構成]
本実施形態は、基本的には、上記の第1の実施形態と同様の構成である。但し、本実施形態においては、
図3に示すように、事故検出端末装置11が、中央演算装置9の系統情報収集手段101Aと同様に、系統情報収集手段101Bを有する。そして、事故検出端末装置11が、第1の系統モデル作成手段102−1を有し、中央演算装置9が、第2の系統モデル作成手段102−2を有する。
【0063】
第1の系統モデル作成手段102−1は、上記の第1の実施形態と同様の系統情報記憶部102a、系統設備記憶部102bを有する。さらに、本実施形態においては、第1の系統モデル作成手段102−1は、系統情報ファイルを作成する系統情報ファイル作成部102c1を有する。
【0064】
系統情報ファイルは、
図4に示すように、系統情報記憶部102aに記憶されている系統情報と、系統設備記憶部102bに記憶されている送電線のインピーダンスを含む諸定数、発電機の諸定数により、あらかじめ定まる静的な回路としての系統の特性を求めたモデルである。
【0065】
この系統情報ファイルは、静的な回路としての状態を示すモデルであるため、
図4の破線で囲んだ部分に示すように、全体の一部である部分系統情報ファイルに分けて、別々に作成することもできる。つまり、複数の事故検出端末装置11における系統情報ファイル作成部102c1は、それぞれが分担された部分系統情報ファイルを作成することができる。
【0066】
第2の系統モデル作成手段102−2は、解析用系統モデル作成部102c2を有する。解析用系統モデル作成部102c2は、部分系統情報ファイルを合わせた全体の系統情報ファイルを用いて、系統に現在の電気量に基づく電流を流した場合の潮流計算の結果を、解析用系統モデルとして作成する処理部である。このように解析用系統モデルは、系統における動的な潮流状況を示すものであるため、部分ではなく、系統全体の状態として求める必要がある。
【0067】
なお、系統情報収集手段101Bは、上記の第1の系統モデル作成手段102−1に必要となる系統情報を収集する処理部である。
【0068】
[作用]
以上のような構成を有する本実施形態の作用を説明する。なお、基本的な作用は、上記の第1の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、各事故検出端末装置11における系統情報収集手段101Bが収集した系統情報に基づいて、第1の系統モデル作成手段102−1の系統情報ファイル作成部102c1が、部分系統情報ファイルを作成する。
【0069】
各事故検出端末装置11において、各々が担当する部分系統情報ファイルは、中央演算装置9に伝送される。中央演算装置9の第2の系統モデル作成手段102−2における解析用系統モデル作成部102c2は、収集された部分系統情報ファイルを用いて、解析用系統モデルを作成する。
【0070】
[効果]
以上のような本実施形態によれば、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られるとともに、複数分担することに適した系統情報ファイルを、各事故検出端末装置11において作成し、全体的な演算に適した解析用系統モデルを、中央演算装置9において作成することにより、効率のよい処理が可能となる。
【0071】
[第3の実施形態]
[構成]
本実施形態は、基本的には上記の第1の実施形態と同様の構成である。但し、本実施形態においては、
図5に示すように、事故検出端末装置11が、第2の実施形態における第2の系統モデル作成手段102−2を有する。
【0072】
一方、中央演算装置9は、第2の実施形態における第1の系統モデル作成手段102−1を有する。この第1の系統モデル作成手段102−1は、系統情報ファイル作成部102c1とともに、解析用系統モデル作成部102c2を有する。
【0073】
[作用]
以上のような構成を有する本実施形態の作用を説明する。なお、基本的な作用は、上記の第1の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、中央演算装置9における系統情報収集手段101が収集した系統情報に基づいて、第1の系統モデル作成手段102−1における系統情報ファイル作成部102c1が、系統情報ファイルを作成する。
【0074】
中央演算装置9において作成された系統情報ファイルは、各事故検出端末装置11に伝送される。各事故検出端末装置11の第2の系統モデル作成手段102−2における解析用系統モデル作成部102c2が、伝送された系統情報ファイルを用いて解析用系統モデルを作成する。
【0075】
[効果]
以上のような本実施形態によれば、中央演算装置9から事故検出端末装置11へ伝送される情報が、解析用系統モデルではなく、系統情報ファイルとなる。系統情報ファイルは、解析用系統モデルに比べて、情報量が少ない。このため、伝送量を減らして、トラフィックの負荷を軽減できる。
【0076】
解析用系統モデルは、通常は一か所で演算すればよく、事故点によって変わるものでもないので、各事故検出端末装置11においては、重複した演算が行われることになる。
【0077】
しかし、解析用系統モデルは、上記のように、回路に対して流れる電流電圧の情報が付加されたものであるため、データ量は非常に多くなる。このため、通信設備8を介して伝送するよりも、それぞれの事故検出端末装置11の内部で演算して求めることにより、伝送負荷を下げることができる。たとえ演算が重複することになっても、各事故検出端末装置11が自ら演算した結果を保持する方が、伝送負荷が軽減できる。一方、系統情報ファイルは、データ量は少ないため、伝送してもトラフィックに与える影響は少ない。
【0078】
[第4の実施形態]
[構成]
本実施形態は、基本的には上記の第1の実施形態と同様の構成である。但し、本実施形態においては、
図6に示すように、事故検出端末装置11は、基本的な機能としての事故種別検出手段106を有するだけの装置である。そして、制御端末装置12は、電制発電機決定手段105を有している。
【0079】
つまり、第1の実施形態においては、演算装置10が、電制発電機決定手段105を有し、制御テーブルに基づいて電制発電機を決定し、制御端末装置12に伝送していたが、本実施形態では、制御端末装置12において、電制発電機の決定及び遮断指令の出力を行う機能を有する。
【0080】
[作用]
以上のような構成を有する本実施形態の作用を説明する。なお、基本的な作用は、上記の第1の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、中央演算装置9において作成された制御テーブルが、全ての制御端末装置12に伝送される。
【0081】
一方、事故検出端末装置11は、検出した事故種別を、中央演算装置9を介して、制御端末装置12に伝送する。制御端末装置12においては、照合処理部105bが、伝送された事故種別と、制御テーブル記憶部105aが記憶した制御テーブルを照合して、事故のケース毎に設定されている電制発電機を決定する。さらに、制御手段107は、決定された電制発電機の遮断指令を出力する。
【0082】
[効果]
以上のような本実施形態では、演算装置10が、電制発電機決定手段105に必要な制御テーブル記憶部105aと、照合処理部105bを持つ必要が無い。このため、演算装置10のハードボリュームを小さくして、コストを節約することが可能となる。
【0083】
[第5の実施形態]
[構成]
本実施形態は、基本的には上記の第4の実施形態と同様の構成である。但し、本実施形態においては、
図7に示すように、事故検出端末装置11から、中央演算装置9を経由しない各制御端末装置12への伝送路が設けられている。
【0084】
[作用]
以上のような構成を有する本実施形態では、事故検出端末装置11が事故を検出した場合に、事故種別を、中央演算装置9を経由させずに、全ての制御端末装置12に伝送する。
【0085】
[効果]
以上のような本実施形態によれば、事故後に事故種別を一旦中央演算装置9に集めてから伝送する場合に比べて、伝達する経路に、経由する装置数が少なくなるため、制御のタイミングを早くすることができる。
【0086】
[第6の実施形態]
[構成]
本実施形態は、基本的には上記の第1の実施形態と同様の構成である。但し、本実施形態においては、
図8に示すように、中央演算装置9が、演算ケース管理手段109を有する。演算ケース管理手段109は、事故検出端末装置11における演算ケースの分配を行う演算ケース管理部109aを有する。
【0087】
演算ケース管理部109aは、各事故検出端末装置11から、演算に関する情報を受信し、個々の事故検出端末装置11の演算処理能力が許す範囲で、動的に演算する内容の分配を変更する処理部である。
【0088】
演算ケース管理部109aによる演算ケースの分配は、演算時間計測部108aにおいて計測した各演算ケースの演算時間に基づいて、各事故検出端末装置11における演算のボリュームの差が少なくなるように行う。
【0089】
また、事故検出端末装置11及び中央演算装置9は、演算ケース変更手段108を有する。演算ケース変更手段108は、演算時間計測部108a、演算ケース記憶部108bを有する。
【0090】
演算時間計測部108aは、事故検出端末装置11の解析条件設定及び安定度判定の演算時間を計測する処理部である。演算ケース記憶部108bは、演算ケースを記憶する処理部である。
【0091】
[作用]
以上のような構成を有する本実施形態の作用を説明する。なお、基本的な作用は、上記の第1の実施形態と同様である。但し、本実施形態においては、演算時間計測部108aにより計測された事故検出端末装置11の解析条件設定及び安定度判定の演算時間が、中央演算装置9に伝送される。
【0092】
中央演算装置9における演算ケース管理手段109においては、伝送された演算時間を管理する。つまり、各事故検出端末装置11の演算時間の差が少なくなるように、各事故検出端末装置11の担当する演算ケースの分配を決定し、各事故検出端末装置11に演算ケースを伝送する。
【0093】
例えば、1つの演算ケースあたり演算に5秒かかるとする。ある事故検出端末装置11においては、A、B、Cという3つの事故を演算すればよいので、演算に15秒間かかる。制御テーブルを作成、更新するタイミングがが30秒に1回とすると、制御テーブルを15秒間演算した後は、アイドル時間となり、負荷としては小さくなる。
【0094】
一方、他の事故検出端末装置11においては、送電線が多数ある等により、A、B、C、D、E…というように、演算ケースが多数想定されるとする。すると、この事故検出端末装置11は、演算時間が長く、負荷が大きくなってしまう。このような場合に、各事故検出端末装置11の負荷が平等に近づくように、負荷の大きい事故検出端末装置11の演算ケースを、負荷の小さい事故検出端末装置11に分担させる。
【0095】
事故の演算は、1つ目の発電機を遮断した場合に安定するかどうかを演算し、不十分な場合には2つ目の発電機を遮断した場合に安定するかどうかを演算し、不十分な場合は3つ目の発電機を遮断した場合に安定するかどうかを演算し、というように行われる。このため、事故条件が過酷になればなる程、演算に時間がかかることになり、このような事故検出端末装置11の負荷を軽減させる必要がある。
【0096】
[効果]
以上のような本実施形態においては、個々の事故検出端末装置11の演算処理能力が許す範囲で、演算する内容を動的に変更することができる。これにより、事故検出端末装置11の負荷が均一化され、特定の事故検出端末装置11の負荷が過大となって全体の処理の遅れが生じることが防止される。
【0097】
[第7の実施形態]
[構成]
本実施形態は、系統を保護する保護継電装置に適用される。例えば、
図9に示すように、送電線保護継電装置A21、送電線保護継電装置B22、母線保護継電装置23が、系統に設けられているとする。送電線保護継電装置A21は、対象とする事故の保護範囲が、送電線20Aである。送電線保護継電装置B22は、対象とする事故の保護範囲が、送電線20Bである。母線保護継電装置23は、対象とする事故の保護範囲が、母線20Cである。
【0098】
中央演算装置9は、上記の実施形態と同様に、系統情報収集手段101、系統モデル作成手段102、解析条件設定手段103A、安定度判定手段104Aを有し、さらに、電制発電機決定手段105を有する。
【0099】
そして、送電線保護継電装置A21は、事故種別検出手段106、解析条件設定手段103B、安定度判定手段104Bを有する。母線保護継電装置23は、事故種別検出手段106を有する。送電線保護装置B22は、制御手段107を有する。
【0100】
[作用]
以上のような構成を有する本実施形態の作用を説明する。まず、中央演算装置9において、解析用系統モデルが作成され、解析条件設定手段103Bと安定度判定手段104Bを持つ送電線保護継電装置A21に伝送される。
【0101】
送電線保護継電装置A21においては、伝送された解析系統モデルを用いて、解析条件設定手段103Bと安定度判定手段104Bによって、制御テーブルが作成され、中央演算装置9に伝送される。
【0102】
送電線保護継電装置A21、母線保護継電装置23は、事故種別検出手段106で検出した事故種別を、中央演算装置9に伝送する。中央演算装置9においては、事前に送電線保護継電装置A21から受信した制御テーブルと、事後に送電線保護継電装置A21又は母線保護継電装置23から受信した事故種別とを用いて、電制発電機決定手段105により電制発電機を決定し、送電線保護継電装置B22に電制発電機を伝送する。電制発電機を受信した送電線保護継電装置B22から、遮断器4へ遮断指令が出力される。
【0103】
[効果]
以上のような本実施形態においては、系統内に多数存在する保護継電装置の演算能力を有効活用することにより、上記の実施形態と同様に、中央演算装置9等の系統安定化システムの専用の装置のハードボリュームを小さくすることができる。保護継電装置は、そもそも事故種別検出機能を有しているため、これを事故種別検出手段106とすることにより、全体として装置を簡略化できる。
【0104】
[他の実施形態]
本実施形態は上記のような態様には限定されない。
(1)事故検出端末装置、制御端末装置、保護継電装置、計測端末装置のいずれか1つ又は複数に、演算能力を分担させることにより、本実施形態の効果が得られる。
【0105】
例えば、上記の実施形態において、制御端末装置の一部又は全てに、解析条件設定手段、安定度判定手段を配置しても、制御端末装置の演算能力を有効活用することができ、上記と同様の効果が得られる。
【0106】
また、系統情報については、給電情報網からではなく、計測手段をもった計測端末装置から受け取ることも可能である。その場合、計測端末装置に、解析条件設定手段、安定度判定手段を配置しても、計測端末の演算能力を有効活用することができ、上記と同様の効果が得られる。
【0107】
(2)系統情報収集手段、系統モデル作成手段(第1の系統モデル作成手段、第2の系統モデル作成手段とした場合も含む)、解析条件設定手段、安定度判定手段を、全て事故検出端末装置、演算装置、制御端末装置、保護継電装置、計測端末装置のいずれか又はこれらに分散させて設けることにより、中央演算装置9を不要とすることもできる。
【0108】
(3)制御端末装置に伝送する制御テーブルは、各制御端末装置が管轄する制御対象に該当する制御テーブルだけを伝送してもよい。これにより、伝送量を減らすことができるとともに、各制御端末装置の小さなハードボリュームで、制御テーブルを記憶することができる。
【0109】
(4)事故検出端末装置は、必ずしも事故種別を全ての制御端末装置に伝送する必要はない。あらかじめ設定された制御端末装置にのみ、事故種別を伝送することにより、処理及び伝送の高速化を図ってもよい。例えば、事故検出端末装置が、自己が担当している事故のみを演算している場合、これに対応する制御端末装置12に、事故種別を伝送すればよい。
【0110】
(5)演算ケース管理手段は、送電線が多い、少ない等の系統の構成等から、負荷が大きい事故検出端末装置11と負荷が小さい事故検出端末装置とを、あらかじめ特定できる場合には、デフォルトで負荷が平等に近くなるように演算ケースを分担させておくこともできる。
【0111】
(6)演算ケース管理手段は、中央演算装置ではなく、事故検出端末装置、制御端末装置、保護継電装置、計測端末装置のいずれかが有していてもよい。また、演算時間が、所定のしきい値を超過する装置がある場合にのみ、演算ケースの変更を行い、処理負担の軽減を図ってもよい。
【0112】
(7)保護継電装置については、OFF状態となっている場合もあるため、他の保護継電装置、演算装置、制御端末装置、事故検出端末装置、計測端末装置、中央演算装置において、同様の機能を備えたバックアップ機をあらかじめ設定しておいてもよい。
【0113】
(8)上記の各種の記憶部は、典型的には、内蔵された若しくは外部接続された各種メモリ、ハードディスク、光ディスク等により構成できる。ただし、記憶部としては、現在又は将来において利用可能なあらゆる記憶媒体を利用可能である。演算に用いるレジスタ等も、記憶部として捉えることができる。すでに情報が記憶された記憶媒体を、読み取り装置に装着することにより、演算に利用可能となる態様でもよい。記憶の態様も、長時間記憶が保持される態様のみならず、処理のために一時的に記憶され、短時間で消去若しくは更新される態様も含まれる。
【0114】
(9)通信設備としてのネットワークは、情報の送受信が可能な伝送路(伝送回線)を広く含む。伝送路としては、有線若しくは無線のあらゆる伝送媒体を適用可能であり、どのようなLANやWANを経由するか若しくは経由しないかは問わない。通信プロトコルについても、現在又は将来において利用可能なあらゆるものを適用可能である。
【0115】
(10)系統モデル作成、解析条件設定、安定度判定等のための演算の手法も特定のものには限定されず、現在又は将来において利用可能なあらゆる手法が含まれる。制御テーブルについても、その作成の手法は問わない。何らかの方法によって、外部から入力されたものが、制御テーブル記憶部に記憶されていれば、本実施形態の制御内容決定処理は可能となる。例えば、あらかじめユーザが作成した制御テーブル若しくは外部の演算装置が作成した制御テーブルを、入力して用いることもできる。このため、本実施形態は、オフライン事前演算型のシステムとしても、シミュレーション用のシステムとしても構成可能である。
【0116】
(11)本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。