【実施例1】
【0012】
図1乃至
図4Cを参照して、本発明に係る第一実施例について説明する。
図1は本実施例に係るアキシャルギャップ型モータ1の断面図である。
図2は本実施例に係る固定子2の斜視図である。
図3は、本実施例に係る固定子巻線の結線図である。
図4は本実施例に係る1相分のコイルの組立手順の説明図であり、
図4Aはその第一手順を示す図、
図4Bはその第二手順を示す図、
図4Cはその第三手順を示す図である。
【0013】
このアキシャルギャップ型モータ1は、偏平な円筒形状に形成された固定子2と、固定子2の軸方向両面に所定の空隙(ギャップ)を隔てて対向配置される一対の永久磁石回転子3、31とを備えている。永久磁石回転子3、31は、回転駆動力を出力する出力軸4に固定されている。なお、固定子2および永久磁石回転子3、31はハウジング5内に収納される。
【0014】
本実施例において、永久磁石回転子3、31は固定子2を挟んで軸方向両面に配置されているが、いずれか一方のみであっても良く、本実施例において永久磁石回転子の構成はアキシャルギャップ型モータ1を構成するのに必要な機能を備えていれば良い。
図2に示すように、固定子2には出力軸となる回転軸4を中心軸として円周方向に複数個のコア21(21a〜21i)が配置されている。コア21(21a〜21i)の外周には巻線コイル6(U1+、U2-、U3+、V1+、V2-、V3+、W1+、W2-、W3+)が巻回されている。
【0015】
コア21aには巻線コイルU1+が巻回され、コア21bには巻線コイルU2-が巻回され、コア21cには巻線コイルU3+が巻回され、コア21dには巻線コイルV1+が巻回され、コア21eには巻線コイルV2-が巻回され、コア21fには巻線コイルV3+が巻回され、コア21gには巻線コイルW1+が巻回され、コア21hには巻線コイルW2-が巻回され、コア21iには巻線コイルW3+が巻回されている。すなわち、本実施例では、コアが9個で構成された9スロットの構成を採用しており、巻線コイルはU、V及びWの各相に3個ずつ配設されている。
【0016】
固定子2の中心部には一対のベアリング221、222が配置されている。この例において、ベアリング221、222はボールベアリングで構成しており、その内輪は出力軸4に挿入され、外輪はベアリングホルダ24に挿入されている。本実施例においてベアリング221、222の構成は、ボールベアリングに限定するものではなく、ころがり軸受、すべり軸受などのボールベアリング以外のベアリングを採用してもよい。またその個数も2個に限定するものではない。
【0017】
図1、
図2によって本実施例の要部の説明を行う。アキシャルギャップ型モータ1の固定子2のコア(スロット)21a〜21iの外周には、それぞれU相巻線(U1+、U2-、U3+)、V相巻線(V1+、V2-、V3+)、W相巻線(W1+、W2-、W3+)が巻回され、コア21a〜21iが固定子2の周方向に配列されている。
【0018】
図2の9個の巻線コイル6(U1+、U2-、U3+、V1+、V2-、V3+、W1+、W2-、W3+)の接続法は、例えば、
図3に示したデルタ結線にできる。自動車用の永久磁石回転電機では、駆動電源がバッテリであるために、12Vと低い。従ってスター結線に比較してデルタ結線では巻線コイル6の端子電圧を√3倍に増加させることができる。それによって同一出力では相電流を小さくできるために巻線コイル6の径を小さくすることができる。前記のデルタ結線の実施例では、巻線作業をし易くすることができ、コア間における巻線コイル6の占積率を向上させることができる。これによって高効率のアキシャルギャップ型モータ1を提供できる。
【0019】
図2および
図3に示す形態を成す固定子の巻線作業は、U相巻線(U3+、U2-、U1+)、V相巻線(V3+、V2-、V1+)、W相巻線(W3+、W2-、W1+)の相ごとに巻回し、各相を構成する3つの巻線を1本の線によって
図4A乃至
図4Cに示すように連続的に巻回することによって実施される。ここで、アキシャルギャップ型モータ1の引き出し線部であるT
W3、T
U1、T
U3、T
V1、T
V3、T
W1は図示のように形成されて外部との接続を容易にすることができる。すなわち、引き出し線部であるT
W3とT
U1、T
U3とT
V1、T
V3とT
W1を圧着等により接続し、例えば3相ブラシレスモータのようにU相、V相、W相として外部へ引き出し、モータ駆動のためのインバータ(図示せず)との接続用配線として使用できる。
【0020】
以上の構成によれば、すべての巻線コイル6の接続は隣り合う巻線間の接続のみで済むために引き出し線を短くできる。また、各コア(21a〜21i)の巻線コイル6をすべて切り離して接続すると1相当たり6カ所で、3相では18カ所となるのに対して、本実施例では、T
W3とT
U1間、T
U3とT
V1間、T
V3とT
W1間の計3カ所の接続で済み、接続箇所を大幅に低減でき、電工作業(巻線コイルの接続作業)を大幅に低減することができる。これは、接続部に起因する抵抗損失を大幅に低減することができて効率向上につながる。ここで、各相巻線に示している+および-の符号は、−を右巻きとしたとき、+は−とは逆巻の左巻きに導線を巻回していることを示している。−を左巻きとしたとき、+は−とは逆巻の右巻きに導線を巻回していることを示す。以下、+を右巻き、−を左巻きとして説明する。なお、右巻きを正方向巻きとした場合、左巻きは逆方向巻きであり、左巻きを正方向巻きとした場合、右巻きは逆方向巻きである。-と+とは巻き方向の正逆の関係を示すものであり、-と+とを正逆いずれの方向に定義しても構わない。
【0021】
次に、巻線コイル6の組み立て方法について説明する。
図2において、コア21a〜21cに巻回されたU相巻線(U1+、U2-、U3+)とコア21d〜21fに巻回されたV相巻線(V1+、V2-、V3+)とコア21g〜21iに巻回されたW相巻線(W1+、W2-、W3+)とは同一構成のため、ここではコア21a〜21cに巻回されたU相巻線(U1+、U2-、U3+)を例にとって説明する。
【0022】
本実施例における巻線方法では、コア21a、21b、21cに巻回されているU相巻線U1+、U2-、U3+を1本の導線で連続して巻回する。すなわち、U1+、U2-、U3+の巻線を、1本の導線で連続に同一軸方向でかつ同一周回方向に巻回する巻線治具(図示せず)により、巻線U3-、U2-、U1-の順に巻回する。巻回した巻線を巻線治具から取り外した状態について
図4Aに示す。なお、巻線の巻き方向(左巻き、右巻き)は、
図4A上で、正面(U1-側)から見たときの巻き方向で説明する。この状態では、巻線U1-、巻線U2-、巻線U3-の順に直線状に並んでいる。この状態では、巻線U1-、U2-及びU3-はいずれも左巻きの状態で、巻き方向は同一である。図中に示す矢印は巻き方向を示す。
【0023】
本実施例では、巻線U1-、U2-及びU3-はいずれもコア21a〜21cの外周に二重に巻回されている。巻線U3-を二重に巻回する際は、巻き始めから巻軸方向に沿って巻回していくことにより内周側の巻線を巻回し、内周側の巻線を巻回し終わると巻軸方向に沿って内周側の巻線を巻回する時とは逆方向に巻回していくことにより外周側の巻線を巻回する。本実施例では、内周側の巻線を
図4Aの奥側から手前側に巻き、手前側で折り返して奥側へ向かって巻いて行く。外周側の巻線を巻回し終わると、渡り線6jとなる部分を設けて巻線U2-を巻線U3-と同様に巻回し、続いてU1-を巻線U3-と同様に巻回する。このとき、巻線U1-と巻線U2-との間で渡り線6jとなる部分と、巻線U2-と巻線U3-との間で渡り線6jとなる部分とは、巻線U1-、U2-及びU3-を挟んで両側(
図4BのL面側とR面側)に分かれて位置するように巻回する。
【0024】
渡り線6jを
図2のように配置するためには、巻線U1-、U2-及びU3-は偶数回の重ね巻きにすると良い。なお、本実施例においては、二重(二層)の重ね巻きにしている。
【0025】
次に、
図4B及び
図4Cに示すように、真ん中の巻線U2-を基準として、一方の巻線U1-を、R面を基準にして180°反転させることにより、巻線U2-の右側面に配置して巻線U1+とする。このとき、巻線U1は軸方向における上下が入れ替わり、巻線U1は左巻きの巻線U1-から右巻きの巻線U1+に変わる。次に、巻線U2-を基準として、他方の巻線U3-を巻線U2-のL面を基準に180°反転させて巻線U2-の左側面に配置する。このとき、巻線U3は軸方向における上下が入れ替わり、巻線U3は左巻きの巻線U3-から右巻きの巻線U3+に変わる。これにより、
図4Cに示すように、U相巻線U1+、U2-、U3+が同一平面上で円周状に配置される。
【0026】
図4A、
図4B及び
図4Cで説明した巻線方法によれば、第1の巻線コイルである巻線U1+の一方の巻線端部は引き出し線T
U1として引き出される。巻線U1+の他方の巻線端部は第1の渡り線6jを経て第2の巻線コイルである巻線U2-の一方の巻線端部となる。巻線U2-の他方の巻線端部は第2の渡り線6jを経て第3の巻線コイルである巻線U3+一方の巻線端部となる。巻線U3+の他方の巻線端部は引き出し線T
U3として引き出される。巻線U1+の一方の巻線端部と巻線U3+の他方の巻線端部とは回転軸方向の同じ側に位置する。巻線U2-の一方の巻線端部と他方の巻線端部とは、回転軸方向の同じ側に位置し、且つ巻線U1+の一方の巻線端部及び巻線U3+の他方の巻線端部に対して回転軸方向の反対側に位置する。
【0027】
次に、他の相(V相およびW相)も同様の行程を繰り返して、残りのV相、W相の各巻線コイルV1+、V2-、V3+とW1+、W2-、W3+とをそれぞれ配置し、各巻線コイル(U1+〜W3+)にコア21a〜21iを挿入することで、巻線コイル6が巻回されたコア21a〜21iを有するアキシャルギャップ型モータの固定子2が完成する。なお、前記巻線コイル6とコア21a〜21iとは樹脂モールドなどにより一体化されている。
【0028】
本実施例では、同一軸方向で、かつ、同一周回方向に巻線コイル6を巻回することによって、巻線コイル6の製作精度、作業性は向上する。さらに、渡り線6jを各相の巻線コイル(U相巻線U1+、U2-、U3+とV相巻線V1+、V2-、V3+およびV相巻線V1+、V2-、V3+とW相巻線W1+、W2-、W3+およびW相巻線W1+、W2-、W3+とU相巻線U1+、U2-、U3+)間に配置することができるため、固定子2のギャップ面側に渡り線をなくすることができる。このため、回転子の面ブレや異物混入などによる渡り線の損傷をなくすことができ、信頼性の高いモータとすることができる。
【0029】
また、隣り合う2つのコアに巻回された巻線コイル6同士の間には、外周側のコイル巻線6の曲がり部に回転軸方向に伸びる筋状の溝6a(
図2参照)が形成される。この溝6aに渡り線6jが配置されることにより、径方向寸法の拡大も抑制することができる。
【実施例2】
【0030】
図5A,
図5B及び
図6を参照して、本発明に係る第二実施例について説明する。
図5Aは、本実施例に関わる固定子の概略的な斜視図であり、コイルを並列接続した例を示す図である。
図5Bは、
図5Aに示すVB部(波線部)の拡大図である。
図6は、本実施例に関わる固定子巻線の結線図であり、コイルを並列接続した例を示す図である。
【0031】
本実施例では、二組の巻線コイル6を回転子3,31の回転軸方向に積層して配置している。
図1のアキシャルギャップ型モータの断面図において、出力軸4の軸心方向に一段(一層)に構成された巻線コイル6が二段(二層)に構成されていると考えればよい。
【0032】
本実施例では、
図5Aに示すように、二組の巻線コイル6を並列接続する。
図5A及び
図5Bにおいて、前記の巻線を軸方向に、例えば、2段に積層して、各巻線コイル(U1+〜W3+)の引き出し線の各端子部(T
U1、T
U21とT
W3、T
W23およびT
U3、T
U23とT
V1、T
V21およびT
V3、T
V23とT
W1、T
W22)を接続することで、各相とも
図6の接続図で示すようにU相巻線U1+、U21+とW相巻線W3+、W23+およびU相巻線U3+、U23+とV相巻線V1+、V21+およびV相巻線V3+、V23+とW相巻線W1+、W21+をそれぞれ簡単に並列接続することができる。この場合、2段目の巻線コイル6の引き出し線を1段目の引き出し線と同じ高さになるように、2段目の引き出しの長さを長めにして、固定子2の一方のギャップ面側で接続できるようにすると良い。
【0033】
本実施例の構成では、各相2つの並列回路を有するために1本あたりの巻線コイル6の導体径を下げることができる(例えばφ2→φ1.4)。従って巻線作業を更に容易にすることができるとともに、巻線コイル6のコア(21a〜21i)間における占積率を高め、より小型軽量で、高効率のモータとすることができる。
【0034】
ここで、巻線コイル6が多段に配置された構成における引き出し線長さについて説明する。巻線コイル6が多段に配置された構成では、1段目の引き出し線長さをLh、一段の巻線コイル6の軸方向長さをLciとしたとき、n段目の引き出し線長さLnを、概ね、Ln=Lh+(n−1)×Lci(但し、nは固定子の段数で正の整数)とするとよい。例えば、各段の引き出し線長さを全て同じ長さとすると巻線コイル(U相とV相、V相とW相、W相とU相)間のデルタ結線や引き出し線の配線が巻線コイル間で行うことになり、複雑な配線作業や絶縁処理が発生する。また、巻線コイル間での短絡などによるモータ損傷が発生する危険性が高まる。なお、本実施例では、1段目の巻線コイル6が巻回されるコアと2段目の巻線コイル6が巻回されるコアとを一体としたが、一段毎にコアを分割してもよい。この場合、上式で用いた巻線コイル6の軸方向長さLciは、一段のコアにおける軸方向長さLcoとしてもよい。
【0035】
本実施例では、n段目の引き出し線長さLnを上述したように設定することにより、引き出し線の端子部(T
U1〜T
W3およびT
U21〜T
W23)の配線を一方のギャップ面側で、かつ巻線コイル6の外側で実施できる。このため、巻線コイル(U相とV相、V相とW相、W相とU相)間での短絡等によるモータ損傷が無くなり、信頼性の高いモータを提供できる。さらには、各段の固定子コイル6を、絶縁紙を介して積層するとよい。この場合、モールド成型時等で、積層した固定子コイル6に対して軸方向の成形圧力を高めることができるので、より占積率を向上させることが可能となる。
【0036】
以上の実施例では、コイル数が9個配置(9スロット)で、永久磁石回転子の永久磁石磁極数は8極とした例を示しているが、永久磁石磁極数を10極としても同様の効果が得られる。この場合、コアと永久磁石間の反発吸引力で発生するコギングトルクの更なる低減が可能となり、モータおよびモータを組み込んだシステムの振動、騒音低減ができる。また、スロット数は9スロットに限らず、9の倍数個のスロットを備えた構成であれば良い。
【0037】
本実施例では平角線を基本としたが、丸線を基調としても同様の効果が得られる。また、コア材料については本実施例の中では開示していないが、特に限定するものではなく、電磁鋼板、圧粉磁心、アモルファスなどモータの仕様などによって任意に使い分けることは可能である。
【0038】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。