(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
まず、中性子捕捉療法システム100全体の構成について、
図1〜
図3を参照して説明する。中性子捕捉療法システム100は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)を用いたがん治療を行う装置である。中性子捕捉療法は、ホウ素(
10B)が投与された患者(被照射体)に対して中性子線を照射することによりがん治療を行う治療法である。
図1に示されるように、中性子捕捉療法システム100は、患者が治療台(移動体)80上に寝た状態で患者を治療台80に拘束する等の準備作業を準備室50Aの室内で行うステップと、患者ごと治療台80を照射室30Aに移動させるステップと、照射室30Aの室内において患者に中性子線を照射するステップとを含む中性子捕捉療法を実施する。中性子捕捉療法システム100は、
図2及び
図3に示されるように、中性子線発生部10と、照射室30A,30Bと、準備室50A,50Bと、軌道60と、管理室70と、治療台80とを備える。以下に、各部の構成について説明する。
【0018】
[中性子線発生部]
中性子線発生部10は、照射室30A,30Bの室内に中性子線Nを発生させて患者Sに対し中性子線Nを照射する。中性子線発生部10は、
図2及び
図3に示されるように、加速器11(例えばサイクロトロン)と、荷電粒子線Pから中性子線Nを生成する中性子線出力部12A,12Bと、荷電粒子線Pを中性子線出力部12A,12Bまで輸送するビーム輸送路13とを備える。加速器11及びビーム輸送路13は、Y字状をなす荷電粒子線生成室10aの室内に配置されている(
図3参照)。荷電粒子線生成室10aは、コンクリート製の遮蔽壁Wに覆われた閉鎖空間である。
【0019】
加速器11は、荷電粒子(例えば陽子)を加速して、荷電粒子線P(例えば陽子線)を作りだし、出射する。加速器11は、例えばビーム半径40mm、60kW(=30MeV×2mA)の荷電粒子線Pを生成する能力を有している。
【0020】
ビーム輸送路13は、荷電粒子線Pを中性子線出力部12A,12Bのうちのいずれか一方に選択的に出射する。ビーム輸送路13は、加速器11に接続された第1輸送部14と、荷電粒子線Pの進行方向を切り替えるビーム方向切替器15と、荷電粒子線Pを中性子線出力部12Aに輸送するための第2輸送部16Aと、荷電粒子線Pを中性子線出力部12Bに輸送するための第3輸送部16Bとを有する。第2輸送部16Aは、ビーム方向切替器15及び中性子線出力部12Aに接続されている。第3輸送部16Bは、ビーム方向切替器15及び中性子線出力部12Bに接続されている。すなわち、ビーム輸送路13は、ビーム方向切替器15において第2輸送部16Aと第3輸送部16Bとに分岐している。
【0021】
ビーム方向切替器15は、スイッチング電磁石を利用して荷電粒子線Pの進行方向を制御する。ビーム方向切替器15は、荷電粒子線Pを正規の軌道から外してビームダンプ(図示せず)に導くことも可能である。ビームダンプは、治療前などにおいて荷電粒子線Pの出力確認を行う。中性子捕捉療法システム100は、ビームダンプを備えていなくてもよい。この場合、ビーム方向切替器15が、ビームダンプには接続されることはない。
【0022】
第1輸送部14、第2輸送部16A及び第3輸送部16Bのそれぞれは、荷電粒子線Pのためのビーム調整部17を含む。ビーム調整部17は、荷電粒子線Pの軸調整のための水平型ステアリング及び水平垂直型ステアリング、荷電粒子線Pの発散を抑制するための四十極電磁石、並びに荷電粒子線Pの整形のための四方向スリット等を含む。第1輸送部14、第2輸送部16A及び第3輸送部16Bのそれぞれは、ビーム調整部17を備えていなくてもよい。
【0023】
第2輸送部16A及び第3輸送部16Bは、必要に応じて電流モニタを含んでいてもよい。電流モニタは、中性子線出力部12A,12Bに照射される荷電粒子線Pの電流値(つまり、電荷,照射線量率)をリアルタイムで測定する。第2輸送部16A及び第3輸送部16Bは、必要に応じて荷電粒子線走査部18(
図4参照)を含んでいてもよい。荷電粒子線走査部18は、荷電粒子線Pを走査し、ターゲットT(
図4参照)に対する荷電粒子線Pの照射制御を行う。荷電粒子線走査部18は、例えば、荷電粒子線PのターゲットTに対する照射位置を制御する。
【0024】
中性子線出力部12Aは、
図4に示されるように、中性子線Nを生成するためのターゲットTと、中性子線Nを減速するための減速材12aと、遮蔽体12bとを含む。減速材12a及び遮蔽体12bは、モデレータを構成する。中性子線出力部12Aと中性子線出力部12Bとは互いに同様の構成を有するので、本書では中性子線出力部12Aについて説明し、中性子線出力部12Bの説明を省略する。
【0025】
ターゲットTは、荷電粒子線Pの照射を受けて中性子線Nを発生させる。ターゲットTは、例えば、ベリリウム(Be)により形成され、直径160mmの円形状をなしている。ターゲットは、板状(固体)に限られず、液状など他の形態であってもよい。
【0026】
減速材12aは、ターゲットTから出射される中性子線Nを減速させる。減速材12aにより減速され、所定のエネルギーに低減された中性子線Nは、治療用中性子線とも呼ばれる。減速材12aは、例えば異なる複数の材料が積層された積層構造をなしていてもよい。減速材12aの材料は、荷電粒子線Pのエネルギー等の諸条件によって適宜選択される。例えば、加速器11(
図2参照)からの出力が30MeVの陽子線であり、ターゲットTとしてベリリウムターゲットを用いる場合には、減速材12aの材料として、鉛、鉄、アルミニウム、又はフッ化カルシウムを用いてもよい。加速器11からの出力が11MeVの陽子線であり、ターゲットTとしてベリリウムターゲットを用いる場合には、減速材12aの材料として、重水(D
2O)又はフッ化鉛を用いてもよい。加速器11からの出力が2.8MeVの陽子線であり、ターゲットTとしてリチウムターゲットを用いる場合には、減速材12aの材料としてフルエンタール(商品名:アルミニウム、フッ化アルミ、フッ化リチウムの混合物)を用いてもよい。加速器11からの出力が50MeVの陽子線であり、ターゲットTとしてタングステンターゲットを用いる場合には、減速材12aの材料として、鉄又はフルエンタールを用いてもよい。
【0027】
遮蔽体12bは、中性子線N及び当該中性子線Nの発生に伴って生じたガンマ線等の放射線が外部に放出されないよう遮蔽する。遮蔽体12bの少なくとも一部は、荷電粒子線生成室10aと照射室30Aとを隔てる壁W1(
図3参照)に埋め込まれている。
【0028】
中性子線出力部12Aにおいては、荷電粒子線PがターゲットTに照射され、これにより中性子線Nが発生する。発生した中性子線Nは、減速材12aで減速される。減速材12aから出射された中性子線Nが、コリメータ86を通過して治療台80上の患者Sに照射される。中性子線Nは、速中性子線、熱外中性子線、及び熱中性子線を含んでおり、ガンマ線も伴っている。このうち主として熱中性子線が、患者Sの体内の腫瘍中に取り込まれたホウ素と核反応して、有効な治療効果を発揮する。中性子線Nのビームに含まれる熱外中性子線の一部も、患者Sの体内で減速されて上記治療効果を発揮する熱外中性子線となる。熱外中性子線は、0.5eV以下のエネルギーの中性子線である。
【0029】
ここで、本書では、中性子線Nの出射方向を基準として、以下のようにXYZ座標系を設定する(
図3及び
図5〜
図8参照)。
X軸:中性子線出力部12Aから出射される中性子線Nの出射方向に沿って延びる軸
Y軸:X軸と直交する方向に沿って延びる軸
Z軸:X軸及びY軸に対して垂直方向(床面Fに対して垂直方向)に沿って延びる軸
【0030】
[照射室]
中性子捕捉療法システム100は、
図2及び
図3に示されるように、2つの照射室30A,30Bを備える。照射室30Aは、第2輸送部16Aが延びた方向の延長線上に配置されている。照射室30Bは、第3輸送部16Bが延びた方向の延長線上に配置されている。
【0031】
中性子線Nは、第2輸送部16A又は第3輸送部16Bが延びた方向と交差する方向に取り出すこともできる。この場合、照射室30Aの配置は、第2輸送部16Aが延びた方向の延長線上に制限されることはなく、中性子線Nの取り出し方向に対応する位置であってもよい。照射室30Bの配置は、第3輸送部16Bが延びた方向の延長線上に制限されることはなく、中性子線Nの取り出し方向に対応する位置であってもよい。照射室30Aと照射室30Bとは互いに同様の構成を有するので、本書では照射室30Aについて説明し、照射室30Bの説明を省略する。
【0032】
照射室30Aは、中性子線Nを患者Sに照射するために、患者Sが室内に配置される部屋である。照射室30Aの大きさは、例えば幅3.5m×奥行き5m×高さ3mである。照射室30Aは、遮蔽壁W2に囲まれた遮蔽空間30Sと、治療台80を出入りさせるための扉D1とを備える。
【0033】
照射室30Aと遮蔽体12bとの間には、
図4に示されるように、カバー(壁体)31が設けられている。カバー31は、照射室30Aの側壁面の一部をなす。カバー31には、中性子線Nの出力口となるコリメータ取付部31aが設けられている。コリメータ取付部31aは、コリメータ86を嵌め込むための開口である。
【0034】
遮蔽壁W2は、
図3に示されるように、照射室30Aの室外から室内へ放射線が侵入すること、及び、室内から室内へ放射線が放出されることが抑制された遮蔽空間30Sを形成する。すなわち、遮蔽壁W2は、照射室30Aの室内から室外への中性子線Nの放射を遮断する。遮蔽壁W2は、荷電粒子線生成室10aを画する遮蔽壁Wと一体的に形成されていてもよい。遮蔽壁W2は、厚さが2m以上のコンクリート製の壁であってもよい。荷電粒子線生成室10aと照射室30Aとの間には、荷電粒子線生成室10aと照射室30Aとを隔てる壁W1が設けられている。壁W1は、遮蔽壁Wの一部をなしている。
【0035】
扉D1は、遮蔽空間30Sにおける放射線が連絡室40Aに放射されることを抑制する。扉D1は、連絡室40Aに連通する出入り口を塞ぐように設けられている。扉D1は、照射室30Aの室内に設けられたレール上をモータ等により駆動力を与えられて、開閉される(
図1参照)。扉D1の開放時には、治療台80が照射室30Aと遮蔽空間30Sとの間を通過することができる。扉D2の閉鎖時には、治療台80が照射室30Aと遮蔽空間30Sとの間を通過することができない。扉D1は重量物であるので、扉D1を駆動するための機構には、高トルクモータや減速機等が用いられる。扉D1は、照射室30Aへの作業者の出入りを報知する機能を有していてもよい。例えば、照射室30Aの室内に治療台80が配置された状態で扉D1を閉めることにより、照射室30Aからの作業者の退避の確認が行われる。
【0036】
照射室30Aの室内には、カメラ32が配置されている。カメラ32は、照射室30Aの室内における患者Sの様子を観察する。カメラ32は、照射室30Aの室内において患者Sを撮影可能な位置に配置されている。カメラ32は、高精度の画像を取得する必要はなく、患者Sの状態を確認可能な画像を取得できればよい。カメラ32として、例えばCCDカメラを用いてもよい。
【0037】
[準備室]
準備室50Aは、照射室30Aおいて患者Sに中性子線Nを照射するために必要な作業を実施するための部屋である。準備室50Aは、Y軸方向に沿って照射室30Aから離間するように配置されている。準備室50Aと準備室50Bとは互いに同様の構成を有するので、本書では準備室50Aについて説明し、準備室50Bの説明を省略する。
【0038】
準備室50Aでは、例えば、治療台80への患者Sの拘束や、コリメータ86と患者Sとの位置合わせが実施される。そのため、準備室50Aは室内に収容された治療台80の周囲で作業者が容易に準備作業をすることができる程度の大きさを有している。
【0039】
準備室50Aと照射室30Aとの間には、準備室50Aと照射室30Aとを隔てる壁W3が設けられている。壁W3の厚さは、例えば3.2mである。すなわち、準備室50Aと照射室30Aとは、Y軸方向に沿って3.2mだけ離間している。
【0040】
壁W3には、準備室50Aから照射室30Aまで連通する連絡室40Aが設けられている。連絡室40Aは、患者Sを拘束した治療台80を準備室50Aと照射室30Aとの間で移動させるための部屋である。連絡室40Aは、治療台80が通過可能な幅を有している。連絡室40Aは、作業者が歩いて通行可能な高さを有している。従って、連絡室40Aの大きさは、一例として幅1.5m×奥行3.2m×高さ2.0mである。準備室50Aと連絡室40Aとの間には、扉D2が配置されている。
【0041】
準備室50A,50Bは、照射室30A,30Bのように遮蔽壁Wに囲まれた遮蔽空間であってもよい。準備室50A,50Bは、遮蔽壁Wに囲まれていない空間であってもよい。
【0042】
[軌道]
軌道60は、
図1及び
図3に示されるように、連絡室40Aを介して照射室30Aと準備室50Aとの間で治療台80を移動させるための構造物からなる道である。同様に、軌道60は、連絡室40Bを介して照射室30Bから準備室50Bにわたって延びている(
図3参照)。そのため、以下では、照射室30A、連絡室40A及び準備室50Aを延びる軌道60について説明し、照射室30B、連絡室40B及び準備室50Bを延びる軌道60についての説明を省略する。軌道60は、
図6〜
図8に示されるように、凹溝部61と、ガイドレール62と、支持部材63とを備える。
【0043】
凹溝部61は、床面Fから下方に窪むように照射室30A、連絡室40A及び準備室50Aの床面Fに設けられている。そのため、凹溝部61は、連絡室40Aを介して照射室30Aから準備室50Bにわたって延びている。凹溝部61の一端は、中性子線出力部12A又は中性子線出力部12Bの近傍に位置している。凹溝部61の他端は、準備室50A内又は準備室50B内に位置している。すなわち、凹溝部61は、中性子線出力部12A又は中性子線出力部12Bの近傍から離れる方向に延びている。本実施形態では、凹溝部61は、直線状を呈している。
【0044】
ガイドレール62及び支持部材63は、凹溝部61に沿って延在するように凹溝部61内に設けられている。ガイドレール62及び支持部材63の一端は、凹溝部61の一端に位置する。ガイドレール62及び支持部材63の他端は、凹溝部61の他端に位置する。従って、ガイドレール62及び支持部材63は、凹溝部61と同様に、照射室30Aの内部から外部にかけて延在している。ガイドレール62の先端及び支持部材63の先端は、略同一の高さ位置にあり且つ床面Fよりも下方に位置する。ガイドレール62の先端及び支持部材63の先端と床面Fとの直線距離は、後述するベルトBTの厚さと略同一である。
【0045】
ガイドレール62は、後述するスライダ(レール係合部)82aと係合し、スライダ82aを自身に沿って案内する。支持部材63は、ガイドレール62の両側に一対配置されている。支持部材63は、断面L字形状を呈する(
図7及び
図8参照)。支持部材63は、ガイドレール62の側面に対して、スライダ82aが通過可能な程度に離間している。
【0046】
[管理室]
管理室70は、中性子捕捉療法システム100を用いて実施される全体工程を管理するための部屋である。管理室70には、少なくとも1名の管理者が入室し、管理室70の室内に配置された監視機器及び中性子線発生部10を操作するための制御装置71を用いて全体工程を管理する。
【0047】
例えば、管理室70に入室した管理者は、準備室50A,50Bにおける準備作業の様子を管理室70の室内から目視により確認する。管理室70に入室した管理者は、制御装置71を操作して、例えば、中性子線Nを照射すべき照射室30Aに対応するターゲットTに荷電粒子線Pを照射するようにビーム輸送路13を制御する。管理室70に入室した管理者は、制御装置71を操作して、中性子線Nの照射の開始と停止とを制御する。
【0048】
中性子捕捉療法の実施に際して、患者Sには準備室50A,50Bに入室する前にも種々の準備(例えば、PET検査や、ホウ素(10B)等の投与など)が行われる。そこで、このような前準備の工程も管理室70で管理してもよい。この場合、管理室70は、中性子捕捉療法システム100による照射治療を含めた中性子捕捉療法の全体工程を管理する。
【0049】
管理室70は、2つの準備室50A,50Bに隣接するように、準備室50Aと準備室50Bとの間に配置されている。管理室70は、一の角部において準備室50Aと隣接し、別の角部において準備室50Bと隣接している。管理室70と準備室50Aとの間には、準備室50Aの室内を目視するための窓72Aが配置されている。管理室70と準備室50Bとの間には、準備室50Bの室内を目視するための窓72Bが配置されている。管理室70には、照射室30A,30Bの室内に設けられたカメラ32の画像を表示するためのモニタ73が配置されている。管理者は、このモニタ73に表示されたカメラ画像により、照射室30Aの室内における患者Sの様子を確認することができる。
【0050】
[治療台]
治療台80は、横たわった状態の患者Sを載置し、患者Sが所定の姿勢を維持するように患者Sを拘束する。治療台80は、患者Sの姿勢を拘束したまま、準備室50Aから照射室30Aへ移動させる。治療台80は、
図5に示されるように、土台部81と、土台部81を床面F上で移動させるための駆動部82と、患者Sを載置するための天板(載置部)83と、天板83を土台部81に対して相対的に移動させるためのロボットアーム84と、中性子線Nの照射視野を規定するためのコリメータ86と、コリメータ86を土台部81に固定するためのコリメータ固定部87とを備えている。
【0051】
土台部81は、治療台80の基体部をなす。土台部81は、基礎部81aと基礎部81a上に配置された支持部81bとを有する。基礎部81aは、平面視において辺81c,81dを含む矩形状の形状を呈する。例えば、辺81cは、辺81dよりも長く設定されている。辺81c又は辺81dの少なくとも一方の長さは、連絡室40A,40Bの幅よりも小さく設定されている。支持部81bは、直方体形状を呈している。支持部81bの下面は基礎部81aの上面に取り付けられている。支持部81bの上面には、ロボットアーム84及びコリメータ固定部87が配置されている。
【0052】
駆動部82は、基礎部81aの下面側に設けられている。駆動部82は、土台部81、ロボットアーム84、天板83、コリメータ86、コリメータ固定部87及び患者Sの全ての重量を支持すると共に、それらを床面F上で移動可能にする。駆動部82は、
図5及び
図6に示されるように、スライダ82aと、押さえローラ82bと、持ち上げローラ82cと、テンションローラ82dと、駆動源82eと、ベルトBTとを有する。
【0053】
スライダ82aは、ガイドレール62に沿って摺動可能とされている。スライダ82aは、ガイドレール62と共に直動軸受(リニアガイド)を構成する。スライダ82aは、
図6に示されるように、基礎部81aの下面に設けられている。そのため、スライダ82aがガイドレール62に沿って摺動すると、治療台80もガイドレール62に沿って移動する。
【0054】
スライダ82aは、
図7に示されるように、スライダ本体82a1と、スライダ本体82a1内に収容された転がり部材82a2とを有する。転がり部材82a2は、本実施形態において球状を呈しており、ガイドレール62の表面に接している。転がり部材82a2の表面には、潤滑剤が付着している。そのため、転がり部材82a2は、スライダ82aの移動に伴い回転し、スライダ本体82a1の正確且つスムーズ(滑らか)な直動を実現する。従って、スライダ本体82a1の移動に伴い、転がり部材82a2の表面に付着している潤滑剤の一部がガイドレール62の表面に付着する。
【0055】
一対の押さえローラ82bは、
図5及び
図6に示されるように、基礎部81aの前後にそれぞれ配置されている。押さえローラ82bは、基礎部81aに対して回転可能に取り付けられている。押さえローラ82bの下端は、
図6及び
図8に示されるように、床面Fと略同一の高さ位置にある。押さえローラ82bは、その下面がベルトBTの上面と接し、ベルトBTをガイドレール62及び支持部材63の先端に押さえつける。
【0056】
一対の持ち上げローラ82cは、
図5及び
図6に示されるように、押さえローラ82bと隣り合うように押さえローラ82bの内側にそれぞれ配置されている。持ち上げローラ82cは、押さえローラ82bよりも上方に位置している。持ち上げローラ82cは、基礎部81aに対して回転可能に取り付けられている。持ち上げローラ82cは、周方向に凹凸が並んだ表面を有する歯付きプーリである。持ち上げローラ82cは、ベルトBTの下面と接し、ベルトBTを部分的に持ち上げる。本実施形態において、一対の持ち上げローラ82cのうちの一方は、駆動源82eに接続されており、駆動源82eによって回転駆動される。
【0057】
テンションローラ82dは、
図5及び
図6に示されるように、一対の持ち上げローラ82cの間に位置している。テンションローラ82dは、基礎部81aに対して回転可能に取り付けられている。テンションローラ82dは、図示しない付勢部材により下方に向けて付勢されている。テンションローラ82dは、その下端がベルトBTの上面と接し、ベルトBTを下方に向けて付勢する。
【0058】
ベルトBTは、
図9に示されるようにいわゆる歯付きベルトであり、可撓性を有する。ベルトBTの一方の面は、凹凸がない平坦面であり、本実施形態において上方を向いている(
図6及び
図8参照)。ベルトBTの平坦面側には、複数のワイヤWEが配置されている(
図9参照)。ワイヤWEは、ベルトBTの長さ方向に沿って延在している。ワイヤWEは、ベルトBTの幅方向に複数並んでいる。ベルトBTの他方の面は、ベルトBTの延在方向に凹凸が並ぶ凹凸面であり、本実施形態において下方を向いている(
図6及び
図8参照)。ベルトBTの他方の面(凹凸面)は、持ち上げローラ82cの周面を構成する凹凸と歯合する。
【0059】
ベルトBTは、凹溝部61内に配置されており、ガイドレール62の上面及び支持部材63の上面を覆っている。そのため、ベルトBTの下面は、凹溝部61に向かっている。ベルトBTのうち持ち上げローラ82cによって持ち上げられた部分は、凹溝部61よりも上方に位置している。一方、ベルトBTのうち持ち上げローラ82cによって持ち上げられていない部分の上面は、床面Fと略同一面を構成している(
図8参照)。ベルトBTのうち持ち上げローラ82cによって持ち上げられていない部分の下面(より詳しくはベルトBTの凸部分の先端)は、ガイドレール62の先端及び支持部材63の先端と接している。すなわち、ベルトBTは、ガイドレール62の上面と一対の支持部材63の上面との3点で支持されている。
【0060】
ベルトBTの一端は、凹溝部61の一端に固定されている。ベルトBTの他端は、凹溝部61の他端に固定されている。ベルトBTの幅は、凹溝部61の幅と略同一又は凹溝部61の幅よりも若干小さく設定されている。ベルトBTの幅は、例えば、ベルトの厚さの8倍以下に設定されていてもよい。
【0061】
天板83は、矩形状を呈する平板である。天板83の長手方向の長さは、患者Sが身体を横たえることが可能な長さ(例えば2m程度)に設定される。天板83の一端側は、鉛直軸A3回りに回転可能となるようアーム84cの他端側に取り付けられている。天板83には、患者Sの体を固定するための拘束具(不図示)が設けられている。
【0062】
ロボットアーム84は、天板83を土台部81に対して相対的に移動させる。すなわち、ロボットアーム84は、天板83の上に拘束された患者Sを、土台部81に固定されたコリメータ86に対して相対的に移動させる。床面Fから天板83までの高さには特に制限はないが、天板83上の患者Sの拘束等を容易に実施できる程度の高さに設定されていることが好ましい。
【0063】
ロボットアーム84は、昇降部84aと、アーム84bと、アーム84cとを含む。昇降部84aは、土台部81の上面側に配置されている。アーム84bの一端側は、鉛直軸A1回りに回転可能となるよう昇降部84aに設けられている。アーム84cの一端側は、鉛直軸A2回りに回転可能となるようアーム84bの他端側に設けられている。すなわち、ロボットアーム84は、水平方向に互いに離間した2つの鉛直軸A1,A2を有する。
【0064】
ロボットアーム84は、アーム84bを昇降部84aに対して鉛直軸A1回りに回転させ、アーム84cをアーム84bに対して鉛直軸A2回りに回転させ、天板83をアーム84cに対して鉛直軸A3回りに回転させることにより、XY平面内において所望の位置に天板83を移動させることができる。すなわち、ロボットアーム84は、中性子線Nの照射方向に対して患者Sの身体を鉛直軸回りに回転させることができる。ロボットアーム84は、昇降部84aを支持部81bに対して上下動させることにより、天板83をZ軸方向に移動させることができる。従って、このようなロボットアーム84によれば、土台部81に固定されたコリメータ86に対する患者Sの姿勢の自由度を高めることが可能となる。
【0065】
コリメータ86は、中性子線Nの照射範囲を規制する。コリメータ86には、照射範囲を規定するための例えば円形の開口86aが設けられている。ロボットアーム84が開口86aに対する患者Sの姿勢を所定の位置に保持することにより、開口86aを通過した中性子線Nを患者Sにおける所定の照射目標に照射することが可能となる。
【0066】
コリメータ86は、例えば矩形状を呈する平板である。コリメータ86の外形形状は、照射室30Aにおけるコリメータ取付部31aの内面形状に対応している。本書において、コリメータ86で規定される照射野の中心(開口86aの中心)を通る仮想の軸線を、照射中心軸線Cと称する。照射中心軸線Cは、治療台80を照射室30A,30Bに配置して中性子線Nを照射したときに、中性子線Nの上下流方向に延在している。
【0067】
コリメータ固定部87は、土台部81の支持部81bにおける上面に固定されている。コリメータ固定部87は、コリメータ86を土台部81に対して一定の位置に保持する。コリメータ固定部87は、水平片87aと起立片87bとを有し、略L字状の形状をなしている。水平片87aは、一端部が支持部81bに固定され、他端部が支持部81bの側面81eからX軸に沿った方向に突出している。起立片87bは、一端部が水平片87aの他端部に固定され上方向に延びた先の他端部にはコリメータ86が取り付けられている。
【0068】
起立片87bは、土台部81の側面81eよりもX軸に沿った方向に突出した水平片87aに固定されているので、コリメータ86は、土台部81の側面81eよりも水平方向に突出した位置に保持されている。このような位置にコリメータ86を保持することにより、コリメータ86をカバー31のコリメータ取付部31aに取り付ける際に、土台部81及び天板83等がカバー31に干渉することを抑制することができる。従って、コリメータ86をコリメータ取付部31aに対して容易に取り付けることが可能となる。
【0069】
[治療の流れ]
続いて、中性子捕捉療法システム100を用いた中性子捕捉療法の流れを説明する。
【0070】
まず、準備室50A(中性子捕捉療法システム100)に入る前の所定の事前準備を患者Sに対して行う。次に、患者S及び作業者が準備室50A内に入室し、作業者が患者Sを天板83の上に横たわらせる。次に、作業者は、拘束具を用いて天板83に対して患者Sの身体を拘束する。次に、患者Sにおける照射目標と、コリメータ86の照射中心軸線Cとの位置合わせを実施する。
【0071】
次に、治療台80が照射室30Aへと移動される。このとき、照射室30Aへの入室の可否は、管理室70の管理者が決定してもよい。例えば、準備室50Aおける作業が完了した旨を、作業者が管理者に報告する。報告を得た管理者は、照射室30Aへの入室が可能であると判断すると、準備室50Aと連絡室40Aとを隔てる扉D2を開放する。
【0072】
治療台80が準備室50Aから連絡室40A内に移動すると、扉D2が閉鎖される。扉D2の閉鎖後、連絡室40Aと照射室30Aとを隔てる扉D1が開放される。扉D1,D2の開閉順序はこの順に限定されることはなく、例えば、扉D1と扉D2とが同時に開放されてもよい。
【0073】
治療台80が連絡室40Aから照射室30A内に移動すると、コリメータ86がコリメータ取付部31aに取り付けられる。次に、扉D1が閉鎖される。その後、管理者が制御装置71を操作すると、中性子線Nの照射が開始され、患者Sの治療が行われる。照射時間は、一例として1時間程度である。治療中の患者Sの様子は、照射室30Aの室内に設けられたカメラ32で撮像される。カメラ32で撮像された画像は管理室70のモニタ73に映し出される。管理者は、モニタ73を用いて、治療中の患者Sの様子を管理する。管理者は、治療中の患者Sに異常を認めた場合、照射中止の判断を行う。
【0074】
所定の照射時間が経過すると、制御装置71は自動的に中性子線Nの照射を停止する。次に、治療台80を準備室50Aまで移動させる。次に、作業者は、準備室50Aの室内において拘束具による患者Sの固定を解除し、患者Sを準備室50Aの室外へ誘導する。以上により、中性子捕捉療法システム100を用いた中性子捕捉療法が完了する。
【0075】
[作用・効果]
中性子捕捉療法システム100によれば、複数の照射室30A,30Bのそれぞれに選択的に中性子線Nを照射することができる。中性子捕捉療法システム100によれば、それぞれの準備室50A,50Bにおいて、患者Sに中性子線Nを照射するための準備作業を実施できるので、照射室30A,30Bにおける準備作業の時間が短縮される。従って、患者Sが照射室30A,30Bに配置されている時間における中性子線Nの照射時間が占める割合が高まるので、照射室30A,30Bの利用効率を高めることができる。
【0076】
中性子捕捉療法は、X線治療や陽子線治療といった放射線治療よりも照射時間が長い。そのため、中性子捕捉療法システム100において、例えば一方の照射室30Aにおける治療と並行して、他方の照射室30B又は準備室50Bにおいて準備作業を実施することによる効率化は、システム全体の稼働効率の向上に大きく貢献する。中性子捕捉療法システム100によれば、中性子線Nを照射室30A,30Bへ照射するための制御が一の管理室70において実施されるので、中性子線占有の調整を効率化して、加速器11の利用効率を高めることができる。
【0077】
このように、中性子捕捉療法システム100によれば、照射室30A,30Bの利用効率を高めると共に加速器11の利用効率を高めることができる。その結果、システム全体の稼働効率を高めることが可能となる。
【0078】
中性子捕捉療法システム100は、管理室70から準備室50A,50Bの室内を観察可能な窓72A,72Bを備えている。そのため、窓2A,72Bを通じて、管理室70からそれぞれの準備室50A,50Bの室内を観察することができる。従って、それぞれの準備室50A,50Bに対する患者Sの出入り及び準備室50A,50Bの室内における準備作業の進行度合いを管理者が把握することができる。その結果、中性子捕捉療法システム100の稼働効率をさらに高めることができる。
【0079】
中性子捕捉療法システム100は、管理室70から照射室30A,30Bの室内を観察するためのカメラ32を備えている。そのため、カメラ32を通じて管理室70からそれぞれの照射室30A,30Bの室内を観察することができる。従って、それぞれの照射室30A,30Bにおける患者Sの様子を管理者が把握することができる。その結果、中性子捕捉療法システム100の安全性を高めることができる。
【0080】
中性子捕捉療法システム100は、治療台80が照射室30A,30Bの室内と室外との間を移動可能である。そのため、患者Sに中性子線Nを照射するための準備作業を照射室30A,30Bの室外において実施することができる。従って、患者Sが照射室30A,30B内に留まる時間を短縮化することが可能となる。
【0081】
中性子捕捉療法システム100は、加速器11で発生させた荷電粒子線PをターゲットTに照射して中性子を発生させる。このような中性子線発生部10によれば、中性子捕捉療法システム100を小型化することができる。
【0082】
中性子捕捉療法システム100は、ガイドレール62が凹溝部61内に設けられている。そのため、ガイドレール62が床面F上に突出していない。従って、床面Fから突出するガイドレール62に人が躓く虞がない。中性子捕捉療法システム100は、凹溝部61が床面Fに設けられているものの、ベルトBTが、ガイドレール62の上面を覆うように凹溝部61内に設けられている。加えて、ベルトBTのうち持ち上げローラ82cによって持ち上げられていない部分の上面は、床面Fと略同一面を構成している。そのため、凹溝部61がベルトBTによって塞がれているので、床面Fの凹溝部61に人が躓く虞がない。よって、安全性の向上を図ることが可能となる。
【0083】
中性子捕捉療法システム100は、持ち上げローラ82cが、凹溝部61内に位置するベルトBTを部分的に凹溝部61よりも上方に持ち上げている。そのため、持ち上げローラ82cによってベルトBTが持ち上げられた箇所において、凹溝部61内のガイドレール62が外部に露出している。治療台80のスライダ82aは、この外部に露出しているガイドレール62と係合し、ガイドレール62に沿って摺動する。従って、スライダ82aがガイドレール62上を移動するのに伴って、ベルトBTのうちスライダ82aとガイドレール62とが係合する箇所に対応する部分が持ち上げローラ82cによって持ち上げられ、ベルトBTの残部(ベルトBTのうち持ち上げローラ82cによって持ち上げられていない部分)が凹溝部61内に設けられ且つ床面Fと同一面を構成する。その結果、安全性の向上を図りつつ、治療台80をガイドレール62に沿って移動させることが可能となる。これにより、治療台80の移動と安全性の確保との両立を達成することができる。
【0084】
ベルトBTは、ガイドレール62の上面と一対の支持部材63の上面との3点で支持されている。そのため、ベルトBTがガイドレール62及び支持部材63によって確実に支持される。
【0085】
治療台80は、ベルトBTの凹凸面と歯合する持ち上げローラ82cを有している。そのため、駆動源82eによって持ち上げローラ82cを回転させることで、持ち上げローラ82cと歯合するベルトBTに動力が伝達される。従って、その反力により治療台80をガイドレール62に沿って移動させることが可能となる。
【0086】
ガイドレール62の上面は、ベルトBTによって覆われている。そのため、ガイドレール62の表面に存在する潤滑剤は、ベルトBTの下面にのみ移転し、ベルトBTの上面には移転しない。ベルトBTの下面は外部に露出していないので、潤滑剤の床面F等への付着が防止される。そのため、潤滑剤によって床面F等が汚れることがない。これに伴い、人が潤滑剤で足を滑らせる虞もないので、安全性をより高めることが可能となる。
【0087】
治療台80には、駆動部82が設けられているので、コリメータ86に対する患者Sの姿勢を保持したまま移動することができる。従って、患者Sにおける照射目標と、コリメータ86の照射中心軸線Cとの位置合わせを照射室30A,30Bにおいて実施することなく、予め準備室50A,50Bにおいて実施することが可能となる。治療台80を照射室30A,30Bの室外に移動させて治療台80のメンテナンスを行うことにより、放射線量の高い場所における治療台80のメンテナンスに要する作業時間を低減することができる。
【0088】
治療台80は、土台部81に対して天板83を鉛直軸A1,A2,A3回りに回転させることにより、天板83の長手方向を治療台80の移動方向に合わせることができる。このため、治療台80が通過する出入り口等の大きさは、天板83の長手方向の長さではなく、土台部81の大きさにより規定されることになる。従って、治療台80が通過する出入り口等の大きさが可及的に小さく設定されるので、照射室30A、30Bからの放射線の漏出を一層抑制することができる。すなわち、治療台80が移動する連絡室40A,40Bの幅は、辺81c又は辺81dにより規定されることになる。
【0089】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、準備室及び照射室の数は2組に限られず、1組であってもよいし3組以上であってもよい。
【0090】
ベルトBTは、歯付きベルトでなくてもよい。この場合、治療台80を移動させるための他の駆動を採用してもよい。
【0091】
一対の支持部材63が凹溝部61内に設けられていなくてもよい。凹溝部61の入口部分の幅をベルトBTの幅と略同一又は若干大きく設定すると共に、凹溝部61の奥側部分の幅をベルトBTの幅よりも小さく設定してもよい。この場合、凹溝部61の入口部分に、奥に向かうにつれて幅が小さくなる段差が設けられる。これにより、一対の支持部材63に代えて、当該段差によってベルトBTが支持される。
【0092】
ベルトBTは、ガイドレール62の先端(上面)又は支持部材63の先端(上面)と接していなくてもよい。
【0093】
ベルトBTと歯合するローラ82cを駆動源82eによって回転駆動することで治療台80をガイドレール62に沿って移動させていたが、治療台80を移動させる方法はこれに限られない。例えば、治療台80の駆動部82がガイドレール62と接触する車輪を有しており、当該車輪を駆動源82eによって回転駆動することで治療台80をガイドレール62に沿って移動させてもよい。
【0094】
転がり部材82a2の表面に潤滑剤が付着していなくてもよい。