【実施例1】
【0009】
図1は、本実施例の多室空気調和機の冷凍サイクル構成図の一例である。
室外機100は、室外熱交換器101、室外ファン102、室外膨張弁103、圧縮機104、アキュムレータ105、四方弁106、吐出温度センサ107、吐出圧力センサ108で構成されている。室内機200は、室内熱交換器201、室内ファン202、室内膨張弁203、冷媒液側温度センサ204で構成されている。室外機100と室内機200は液配管121とガス配管122で接続されている。
【0010】
次に、動作を説明する。
冷房運転時は、圧縮機104から吐出した高温のガス冷媒は四方弁106を通って室外熱交換器101へ送られる。室外熱交換器101へ入った高温のガス冷媒は室外ファン102によって送られた室外空気と熱交換して凝縮して、液冷媒になる。その後、室外膨張弁103を通過後、液配管121を介して室内機200へ送られる。室内機200へ送られた冷媒は、室内膨張弁203で減圧されて室内熱交換器201へ入る。室内熱交換器201で室内ファン202によって送られた室内空気と熱交換して蒸発して、ガス冷媒になる。この時、室内機200から冷風が室内に送られて冷房が行われる。室内機200を出たガス冷媒は、ガス配管122を介して室外機100へ送られる。室外機100に入ったガス冷媒は四方弁106を通ってアキュムレータ105へ入る。アキュムレータ105は過渡的に液冷媒が戻った際に液冷媒を貯めるバッファタンクとして作用し、圧縮機104に液冷媒が戻ることによる液圧縮を防止する。通常時にはガス冷媒がアキュムレータ105から圧縮機104へ入り圧縮される。
【0011】
暖房運転は、圧縮機104から吐出した高温のガス冷媒は四方弁106を通ってガス配管122へ送られる。ガス配管122へ入った高温のガス冷媒は、室内機200へ送られる。室内機200へ入った高温のガス冷媒は室内熱交換器201で室内ファン202によって送られた室内空気と熱交換して凝縮して液冷媒になり、室内膨張弁203を通って室内機200から出る。室内熱交換器200で高温冷媒と室内空気が熱交換することによって暖房が行われる。室内機200を出た液冷媒は、その後、液配管121を介して室外機100へ流れる。室外機100へ入った液冷媒は室外膨張弁103を通過する際に減圧され、室外熱交換器101へ入る。室外熱交換器101で室外ファン102によって送られた室外空気と熱交換して蒸発して、ガス冷媒になる。ガス冷媒は四方弁106を通ってアキュムレータ105へ入る。アキュムレータ105では、過渡的に多く液冷媒が通過した際にバッファタンクとして作用し、液圧縮により圧縮機が損傷することを防止する。通常時にはガス冷媒がアキュムレータ105から圧縮機104へ入り圧縮される。
【0012】
暖房運転時には室内機200の冷媒液側温度センサ204で室内熱交換器201を出た冷媒温度が検知される。また、室外機100の吐出圧力センサ108で圧縮機104の吐出圧力が検知されている。圧縮機104の出口側から室内熱交換器201の出口側では、冷媒が高圧状態であるため、圧力損失が比較的小さい。よって、室内熱交換器201の出口側の過冷却度は以下の(1)式で推定することが出来る。
SC=Tsat(Pd)−TL−C ・・・ (1)
ここで、SC(K)は室内熱交換器出口過冷却度、Tsat( )は圧力の飽和温度、Pdは圧縮機吐出圧力(MPa)、TLは室内熱交換器出口温度(℃)、Cは冷媒圧力損失に関わる補正係数である。
また、SC≦0(K)と算出された場合には、室内熱交換器201の出口側では気液二相状態と判定することができる。
【0013】
図2はR32冷媒を使用した空気調和機における暖房運転時の圧縮機104の吐出温度抑制による凝縮器の出口側における状態変化の説明図である。
冷媒R32を単一で又は70%以上の割合で使用する空気調和機においては、冷媒物性の影響により冷媒R410Aを使用した場合に比べて吐出温度が高くなる傾向がある。特に吐出温度の高くなりやすい条件としては、圧縮機104の圧力比が大きくなりやすい外気低温での暖房運転が挙げられる。
【0014】
図2は暖房低温での運転状態を示したモリエル線図であり、実線で示した運転状態は、圧縮機104の吸入側の冷媒の状態として若干(2〜3K)の過熱度SH(K)をつけた状態で運転した状態を示している。このような運転状態においては、圧縮機104の吐出温度Td1が圧縮機104の信頼性上の許容上限温度(例えば、120℃)を超えてしまう場合がある。そのため、室外膨張弁103の開度を大きくすることにより、圧縮機104の吸入側の冷媒を湿り状態(吸入乾き度Xs)にして、圧縮機104の吐出温度をTd2(例えば、100℃)まで低下させることが望ましい。これにより、圧縮機104内の冷凍機油や高分子材料の劣化および希土類磁石の減磁などの圧縮機104の信頼性低下が生じることが防止される。
【0015】
ここで、圧縮機104の吸入側冷媒の吸入かわき度Xsを過剰に低下させると、冷凍機油の冷媒による希釈による粘度低下が生じることから、圧縮機104内部の摺動部の潤滑が不十分になるため、圧縮機104の吸入乾き度はXs>0.85とすることが望ましい。なお、ここで吸入乾き度とは、冷媒ガス質量流量を冷媒全質量流量で除した値であり、吸入乾き度≒冷媒ガス質量流量/冷媒全質量流量であり、冷媒中の冷凍機油は除いたものとする。したがって、圧縮機104には吸入乾き度がXs>0.85となる冷媒が吸入されるようにする。
【0016】
ここで、圧縮機104の吸入かわき度Xsを低下させると、その上流側に位置するアキュムレータ105や蒸発器として作用する室外熱交換器101の出口側でもかわき度が低い状態となる。そのため、アキュムレータ105と室外熱交換器101の内部に保有される冷媒量が増加することになる。すると、サイクル内の全冷媒量は不変であるため、凝縮器として作用する室内熱交換器201内の冷媒保有量が減少し、
図2のXcoで示すように室内熱交換器201の出口側の冷媒状態が気液二相状態のかわき度Xco(例えばXco=0.01〜0.1)となる。室内熱交換器201の出口側には室内膨張弁203が設置されており、通過する冷媒状態によっては冷媒流動音を発生させ、空気調和機の室内機200からの異音として在室者への不快感を生じさせることになる。
【0017】
図3は垂直上昇流におけるフローパターン判定図(Heiwitt−Roberts線図)である(出典:気液二相流ハンドブック 10頁 日本機会学会編 1989年)。この
図3は暖房運転時における、室内膨張弁203の入口側の配管部での冷媒流動様式を推定するために用いる。
図3の横軸に示すのは、液冷媒の見かけの運動量ρ
L(j
L)
2であり、ここで、ρ
Lは液冷媒密度(kg/m
3)、j
L(m/s)は液冷媒が全断面積を満たして流れたとした液冷媒の見かけ流速である。
図3の縦軸に示すのは、ガス冷媒の見かけの運動量ρ
G(j
G)
2であり、ここで、ρ
Gはガス冷媒密度(kg/m
3)、j
G(m/s)はガス冷媒が全断面積を満たして流れたとしたガス冷媒の見かけ流速である。
【0018】
また、
図3の中で領域が分割されているのは、スラグ流やチャーン流、環状流など流動様式のタイプであり、どの領域に入っているかを検証することで、おおよその流動様式を推定することができる。例として、暖房運転時の状態を線図に載せてみると、配管内径10.7mmでは●、7.93mmでは△、5.0mmでは◆で示すことが出来る。また、かわき度Xcoの値によって状態が変化し、Xco=0.01ではスラグ流または、気泡流、Xco=0.1以上では環状流に遷移することが分かる。冷媒流動音が特に不快に感じるのは間欠的にガスの塊が膨張弁を通過するスラグ流または、チャーン流の領域であり、この領域を常に避けて、たとえば気泡流の領域にすることが望ましい。
【0019】
図3から配管内径を細くすれば右上側の領域になるため、気泡流の領域になると考えられる。しかし、圧縮機104の容量制御が行われる場合には冷媒循環量は一定ではないため、このように配管内径を細くして冷媒流動音を低減することは難しい。また、冷媒R410Aを用いた空気調和機と冷媒R32を用いた空気調和機で、室内機を共用した際においては、配管内径が変わらないと冷媒R32の方が冷媒R410Aよりも冷媒流量を少なくすることができる。よって冷媒流速が小さくなるため、よりスラグ流やチャーン流の領域となりやすく室内熱交換器201の出口側が二相域となることに起因する冷媒流動音が発生してしまう可能性がある。
【0020】
そこで、本実施例の空気調和機では
図4に示す室内膨張弁制御を実施するものである。
図4は本実施例の室内膨張弁203の制御による暖房運転時の冷媒流動音抑制の動作説明図である。吐出温度抑制のために吸入かわき度Xsを例えば0.9程度に制御すると、前述のように室内熱交換器201の出口側の冷媒は気液二相状態(かわき度Xco=0.01〜0.1程度)になるが、このとき、室内膨張弁203はほぼ全開状態に制御されているため、その減圧量はΔPexpiと小さく、蒸発器として作用する室外熱交換器101の前に設けられている室外膨張弁103での減圧量ΔPexpoは大きく制御されている。このときの液配管121のかわき度はXLpである。
【0021】
これに対して、本実施例の空気調和器では、前述の室内熱交換器201の出口側の過冷却度の演算式(1)を用いて過冷却度がゼロと判定されると、室内膨張弁203を絞るように制御する。これにより、室内膨張弁203による減圧量がΔPexpi’と大きくなるので、液配管のかわき度XLp’までかわき度を大きくさせる。これにより、液配管121の冷媒保有量を低減させるとともに、不足していた室内熱交換器201の冷媒保有量を増やすことができる。よって、室内熱交換器201の出口側の冷媒状態は過冷却度SCが2〜3K以上確保して液状態とすることが出来る。したがって、室内膨張弁203で生じていた不快な冷媒流動音の発生を防止することが可能となる。また、また、冷媒R410Aを用いた空気調和機と冷媒R32を用いた空気調和機で、室内機が冷媒R410Aを用いた室内機から共用して用いられた場合、つまり室内機を共用した際に配管内径が変わらない場合であっても本実施例の制御方法によれば、不快な冷媒流動音の低減が可能となる。