(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6224411
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】安全帯
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
A62B35/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-219571(P2013-219571)
(22)【出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2015-80578(P2015-80578A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149930
【氏名又は名称】株式会社谷沢製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 雅一
【審査官】
菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06253874(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0209868(US,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第00807451(EP,A1)
【文献】
特開2013−027523(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0065272(US,A1)
【文献】
米国特許第5957091(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00 − 35/04
A61G 7/10 − 7/16
A63B 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、
前記装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯とを備える安全帯であって、
一対の前記肩帯が前記装着者の背中で重ね合わされた状態から、対応する前記装着者の肩に向かって分岐する上方分岐部材と、
一対の前記肩帯が前記装着者の背中で重ね合わされた状態から、対応する前記腿帯に向かって分岐する下方分岐部材とを備え、
前記上方分岐部材は、前記装着者の両肩の一方に向かう前記肩帯を通す第1挿通孔と、前記装着者の両肩の他方に向かう前記肩帯を通す第2挿通孔とを備え、
前記第1挿通孔と前記第2挿通孔とは、上下方向において一部が重なるように配置され、
前記第1挿通孔と前記第2挿通孔とが重なる部分において、前記第1挿通孔の部分は、前記第2挿通孔の部分よりも上方に位置し、
前記下方分岐部材は、前記第1挿通孔を通って前記装着者の一方の肩に掛け回される肩帯を前記装着者の他方の腿に巻き回される他方の腿帯に向かうように設けられた第3挿通孔と、前記第2挿通孔を通って、前記装着者の他方の肩に掛け回される肩帯を前記装着者の一方の腿に巻き回される一方の腿帯に向かうように設けられた第4挿通孔とを備え、
前記第3挿通孔と前記第4挿通孔とは、上下方向において一部が重なるように配置され、
前記第3挿通孔と前記第4挿通孔とが重なる部分において、前記第3挿通孔の部分は、前記第4挿通孔の部分よりも下方に位置し、
前記上方分岐部材には、前記第2挿通孔よりも下方に位置させて上下方向に間隔を存して複数のスリットが設けられ、
前記複数のスリットには、前記一対の肩帯が重ね合わされた状態で挿通され、
前記複数のスリットは、上方に向かうにしたがって次第に幅広に形成されていることを特徴とする安全帯。
【請求項2】
請求項1に記載の安全帯であって、
前記装着者の腰に巻き回される腰帯を備え、
前記下方分岐部材には、前記肩帯を固定する固定部と、前記腰帯を通す腰帯孔とが設けられ、
前記固定部は、前記第4挿通孔よりも上方に位置させて上下方向に間隔を存して設けられた複数のスリットであり、
前記固定部である複数のスリットには、前記一対の肩帯が重ね合わされた状態で挿通され、
前記固定部である複数のスリットは、下方に向かうにしたがって次第に幅広に形成されていることを特徴とする安全帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間が高所で作業するときなどに用いられる安全帯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い場所で作業する作業員(装着者)に命綱を付けて装着される所謂フルハーネス型の安全帯であり、装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
所謂フルハーネス型の安全帯では、装着者の右肩に掛け回される右肩帯は、装着者の左腿に巻き回される左腿帯に連結される。反対に装着者の左肩に掛け回される左肩帯は、装着者の右腿に巻き回される右腿帯に連結される。特許文献1の安全帯は、装着者の背中で両肩帯をX字状に交差させるパッドを備える所謂X型安全帯である。
【0004】
また、装着者の動き易さを向上させるべく、両腿帯から延びる2つの肩帯を装着者の腰のあたりに設けられた結束具で一度まとめるように重ね合わせて、その後、装着者の背中のあたりに位置する分岐部材を用いて対応する装着者の肩に向かうように肩帯をY字状に分岐させる安全帯(Y型安全帯)も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
分岐部材には、右肩帯を装着者の右肩へ向けて分岐させる第1挿通孔と、左腿帯を装着者の左肩へ向けて分岐させる第2挿通孔とが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−223639号公報
【特許文献2】特開2013−81597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のY型安全帯では、両肩帯が結束具でまとめられるため、例えば、左腿帯に連結された右肩帯を誤って第2挿通孔へ通し、装着者の左肩へ向けて分岐させるなど、安全帯が誤って組み立てられる誤組みの虞がある。このような安全帯は市場に流通する前の検査で組み立て直されるが、組み立て直すには時間を要し、安全帯の歩留まりの低下へとつながる。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、誤って組み立てられることを抑制できる安全帯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯と、前記装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯とを備える安全帯であって、一対の前記肩帯が前記装着者の背中で重ね合わされた状態から、対応する前記装着者の肩に向かって分岐する上方分岐部材と、一対の前記肩帯が前記装着者の背中で重ね合わされた状態から、対応する前記腿帯に向かって分岐する下方分岐部材とを備え、前記上方分岐部材は、前記装着者の両肩の一方に向かう前記肩帯を通す第1挿通孔と、前記装着者の両肩の他方に向かう前記肩帯を通す第2挿通孔とを備え、前記第1挿通孔と前記第2挿通孔とは、上下方向において一部が重なるように配置され、前記第1挿通孔と前記第2挿通孔とが重なる部分において、前記第1挿通孔の部分は、前記第2挿通孔の部分よりも上方に位置し、前記下方分岐部材は、前記第1挿通孔を通って前記装着者の一方の肩に掛け回される肩帯を前記装着者の他方の腿に巻き回される他方の腿帯に向かうように設けられた第3挿通孔と、前記第2挿通孔を通って、前記装着者の他方の肩に掛け回される肩帯を前記装着者の一方の腿に巻き回される一方の腿帯に向かうように設けられた第4挿通孔とを備え、前記第3挿通孔と前記第4挿通孔とは、上下方向において一部が重なるように配置され、前記第3挿通孔と前記第4挿通孔とが重なる部分において、前記第3挿通孔の部分は、前記第4挿通孔の部分よりも下方に位置
し、前記上方分岐部材には、前記第2挿通孔よりも下方に位置させて上下方向に間隔を存して複数のスリットが設けられ、前記複数のスリットには、前記一対の肩帯が重ね合わされた状態で挿通され、前記複数のスリットは、上方に向かうにしたがって次第に幅広に形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、実施形態で説明するように、上方分岐部材および下方分岐部材に通す肩帯を間違った挿通孔に通して組み立てられることを抑制することができ、安全帯の歩留まりを向上させることができる。
【0011】
また、本発明においては、装着者の腰に巻き回される腰帯を設け、下方分岐部材に、肩帯を固定する固定部と、腰帯を通す腰帯孔とを設け
、固定部は、第4挿通孔よりも上方に位置させて上下方向に間隔を存して設けられた複数のスリットであり、固定部である複数のスリットに、一対の肩帯を重ね合わされた状態で挿通し、固定部である複数のスリットを、下方に向かうにしたがって次第に幅広となるように形成することができる。
かかる構成によれば、腰帯に工具などをぶら下げてもその荷重を肩帯でしっかりと支えることができる。これにより、別途腰帯用のサスペンダーなどを取り付けて工具の荷重を支える必要がなく、便利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2Aは本実施形態の上方分岐部材を示す説明図。
図2Bは本実施形態の上方分岐部材を示す断面図
【
図3】
図3Aは本実施形態の下方分岐部材を示す説明図。
図3Bは本実施形態の下方分岐部材を示す断面図。
【
図4】本発明の安全帯の他の実施形態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1から
図3を参照して本発明の安全帯の実施形態を説明する。
図1に示すように、本実施形態の安全帯1は、高い場所で作業する作業員(装着者)に命綱を付けて装着される所謂フルハーネス型のものであり、装着者の両肩に夫々掛け回される一対の肩帯2,3と、装着者の両腿に夫々巻き回される一対の腿帯4,5と、装着者の腰に巻き回される腰帯6とを備える。
【0014】
装着者の一方の肩(右肩)に掛け回される右肩帯2の後端は、装着者の他方の腿(左腿)に巻き回される環状の左腿帯4の後部分に接続される。また、右肩帯2の前端は、装着者の一方の腿(右腿)に巻き回される環状の右腿帯5の前部分に接続される。
【0015】
装着者の他方の肩(左肩)に掛け回される左肩帯3の後端は、装着者の一方の腿(右腿)に巻き回される環状の右腿帯5の後部分に接続される。また、左肩帯3の前端は、装着者の他方の腿(左腿)に巻き回される環状の左腿帯4の前部分に接続される。
【0016】
一対の肩帯2,3は、下方分岐部材7により装着者の背中で一度束ねられる様に重ね合わせてから、上方分岐部材8を通って、両肩に向かって分かれる。
【0017】
図2に示すように、上方分岐部材8は、固定部としての5つのスリット9と、第1挿通孔10と、第2挿通孔11とを備える。第1挿通孔10は、右肩帯2を通す挿通孔であり、第2挿通孔11は、左肩帯3を通す挿通孔である。第1挿通孔10と第2挿通孔11とは、互いに接近する内端部10a,11aが上下方向に間隔を存して重なるように配置されている。第1挿通孔10と第2挿通孔11とが重なる部分(内端部10a,11a)において、第1挿通孔10の内端部10aは、第2挿通孔11の内端部11aよりも上方に位置している。
【0018】
5つのスリット9のうち最も下方に位置するスリット9は、そのスリット9に挿通される両肩帯2,3の幅より若干大きめに形成されている。そして、残りの4つのスリット9は、上方に向かうにしたがって次第に幅広となるように形成されている。5つのスリット9のうち最も上方に位置するスリット9は、第1挿通孔10と第2挿通孔11の互いに離隔する方向に位置する外端部10b,11bの距離よりも若干小さくなるように形成されている。
【0019】
これにより、5つのスリット9で肩帯2,3をしっかりと固定できるとともに、右肩帯2を第1挿通孔10に通して装着者の右肩へ向かうように、また左肩帯3を第2挿通孔11に通して装着者の左肩へ向かうように、肩帯2,3のヨレを防ぎながら容易に分けることができる。
【0020】
図3に示すように、下方分岐部材7は、主に上方分岐部材8を180度回転させたものと同一形状の上方分岐部材8の点対称形状となっており、下から順に第3挿通孔12と、第4挿通孔13と、固定部としての5つのスリット9とを備える。第3挿通孔12は、左腿帯4に連結される右肩帯2を通す挿通孔であり、第4挿通孔13は、右腿帯5に連結される左肩帯3を通す挿通孔である。
【0021】
第3挿通孔12と第4挿通孔13とは、互いに接近する内端部12a,13aが上下方向に間隔を存して重なるように配置されている。第3挿通孔12と第4挿通孔13とが重なる部分(内端部12a,13a)において、第3挿通孔12の内端部12aは、第4挿通孔13の内端部13aよりも下方に位置している。
【0022】
5つのスリット9のうち最も上方に位置するスリット9は、そのスリット9に挿通される両肩帯2,3の幅より若干大きめに形成されている。そして、残りの4つのスリット9は、下方に向かうにしたがって次第に幅広となるように形成されている。5つのスリット9のうち最も下方に位置するスリット9は、第3挿通孔12と第4挿通孔13の互いに離隔する方向に位置する外端部12b,13bの距離よりも若干小さくなるように形成されている。
【0023】
これにより、5つのスリット9で肩帯2,3をしっかりと固定できるとともに、右肩帯2を第3挿通孔12に通して左腿帯4へ向かうように、また左肩帯3を第4挿通孔13に通して右腿帯5へ向かうように、肩帯2,3のヨレを防ぎながら容易に分けることができる。
【0024】
また、
図1及び
図3Bに示すように、下方分岐部材7の内側の両側縁には、下方分岐部材7の縁に沿うように一対の側片14が突設されている。両側片14には、腰帯6を通す一対の腰帯孔15が設けられている。下方分岐部材7は、固定部としての5つのスリット9で肩帯2,3にしっかりと固定される。そして、腰帯6は、左右方向に間隔を存して下方分岐部材7に設けられた腰帯孔15に通される。これにより、腰帯6に工具を入れた工具袋などをぶら下げても、別途腰帯用のサスペンダーなどを取り付けることなく、肩帯2,3で腰帯6をしっかりと支えることができる。
【0025】
次に、本実施形態の安全帯の組み立て方法の一例について説明する。
【0026】
まず、第1工程として、左腿帯4に連結される右肩帯2を第1挿通孔10に通し、右腿帯5に連結される左肩帯3を第2挿通孔11に通す。そして、第2工程として、両肩帯2,3を、重ね合わせた状態で上方分岐部材8の5つのスリット9へ上から順に通した後、重ね合わされた両肩帯2,3を、下方分岐部材7の5つのスリット9へ上から順に通す。次に、第3工程として、右腿帯5に連結される左肩帯3を、第4挿通孔13に通す。そして、第4工程として、左腿帯4に連結さえる右肩帯2を、第3挿通孔12に通す。
【0027】
このとき、下方分岐部材7と上方分岐部材8との間では、右肩帯2が外側、左肩帯3が内側となるように両肩帯2,3が重なり合っている。従って、第3工程で左肩帯3を誤って第3挿通孔12に通している場合には、第3挿通孔12の内端部12aと上下方向で重なり合う第4挿通孔13の内端部13aが左肩帯3によって覆い隠される。よって、右肩帯2を第4挿通孔13に通すことができず、安全帯1の生産者は左肩帯3を誤って第3挿通孔12に通していることに気付くことができる。
【0028】
これにより、本実施形態の安全帯1によれば、従来のように、安全帯1が完全に組み上がってから、その後のチェックにより、安全帯1が誤って組み立てられていること(誤組み)に気付く場合と比較して、誤組みを抑制して、安全帯1の歩留まりの向上を図ることができる。
【0029】
なお、組み立て方法としては、肩帯2,3を下方分岐部材7に通してから上方分岐部材8に通してもよい。また、本実施形態では本発明の一方を右とし、他方を左として説明したが、本発明の一方を左とし、他方を右としてもよい。また、肩帯2,3は左右を区別するための色や模様などを付してもよい。色や模様を伏す場合、安全帯の製造コストが嵩む虞があるものの、安全帯の誤組みを更に抑制し易くなる。
【0030】
図4は、下方分岐部材7又は上方分岐部材8の他の実施形態を示したものである。なお、
図4の他の実施形態において、前述した実施形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
図4に示す他の実施形態の下方分岐部材7又は上方分岐部材8は、スリット9と挿通孔10〜13との間に位置させて、肩帯2,3のヨレをより防止し易くすべく肩帯2,3の幅方向外側部分を外側に膨らませるように突出する突部16を設けている。
【0032】
ここで、肩帯2,3は、上方分岐部材8で装着者の両肩に向かって分かれる。このとき、肩帯2,3の幅方向外側で必要な折れ曲がり量は小さく、反対に肩帯2,3の幅方向内側で必要な折れ曲がり量は大きい。従って、肩帯2,3の折れ曲がり部分では、幅方向外側の部分でヨレが発生し易い。
【0033】
そこで、上述の如く、肩帯2,3の折れ曲がり部分で、肩帯2,3の幅方向外側部分を外側に膨らませるように突出する突部16を設ければ、突部16で肩帯2,3の外側部分が膨らむため、肩帯2,3のヨレをより防止し易くすることができる。換言すれば、突部16で意図的なヨレを発生させて、肩帯2,3の左右不揃いの所謂波うち(ヨレ)が発生し、肩帯2,3の折れ曲がり部分の美観が損なわれることを防止できる。
【符号の説明】
【0034】
1 安全帯
2 右肩帯
3 左肩帯
4 左腿帯
5 右腿帯
6 腰帯
7 下方分岐部材
8 上方分岐部材
9 スリット
10 第1挿通孔
10a 内端部
10b 外端部
11 第2挿通孔
11a 内端部
11b 外端部
12 第3挿通孔
12a 内端部
12b 外端部
13 第4挿通孔
13a 内端部
13b 外端部
14 側片
15 腰帯孔
16 突部