(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
mass%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上0.7%以下、Cu:0.01%以上0.3%以下、Mn:0.3%以上0.8%未満、Mg:0.2%以上0.8%未満を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成され、引張強さが200MPa以上300MPa以下であり、最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm2以上1000ヶ/mm2以下であって、耳率が−3%以上+3%以下であることを特徴とするキャップ用アルミニウム合金板。
mass%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上0.7%以下、Cu:0.01%以上0.3%以下、Mn:0.3%以上0.8%未満、Mg:0.2%以上0.8%未満を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を30mm/min以上60mm/min以下の鋳造速度で鋳造する鋳造工程と、得られた鋳塊に540℃以上610℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理を施す均質化処理工程と、前記鋳塊に熱間圧延を施し、熱間仕上げ圧延の終了温度を330℃以上370℃以下とし、熱間仕上げ圧延終了後のコイルに巻き取った状態で再結晶状態とする熱間圧延工程と、当該熱間圧延工程後に70%以上の圧延率で1次冷間圧延を施す第1の冷間圧延工程と、第1の冷間圧延後に連続焼鈍炉を用いて1℃/秒以上の昇温速度で到達温度400℃以上550℃以下で2分間以内保持後に1℃/秒以上の冷却速度で100℃以下まで冷却する中間焼鈍工程と、当該中間焼鈍工程後に圧延材に30%以上60%以下の冷間圧延率にて冷間圧延を施して最終板厚とする第2の冷間圧延工程と、当該第2の冷間圧延工程後に180℃以上270℃以下で0.5時間以上4時間以内の安定化焼鈍を行う安定化焼鈍工程とを施すことにより、引張強さが200MPa以上300MPa以下であり、最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm2以上1000ヶ/mm2以下であって、耳率が−3%以上+3%以下である合金板を得ることを特徴とするキャップ用アルミニウム合金板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のキャップ用アルミニウム合金板及びその製造方法について詳細に説明する。
[A.キャップ用アルミニウム合金板]
本発明に係るキャップ用アルミニウム合金板は、所定の合金組成、引張強さ、金属間化合物の面積占有率と個数密度、及び耳率を有する。以下に、これらについて順に説明する。
【0018】
[A−1.アルミニウム合金の組成]
アルミニウム合金は、mass%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上0.7%以下、Cu:0.01%以上0.3%以下、Mn:0.3%以上0.8%未満、Mg:0.2%以上0.8%未満を含有し、残部Al及び不可避的不純物から構成される。以下において、各成分の限定理由について説明する。
【0019】
(Si:0.1%以上0.6%以下)
Siは金属間化合物を形成して亀裂伝播性に寄与し、開栓性の向上に寄与する元素である。Si量が0.1%未満ではその効果が十分に得られず、一方0.6%を超えれば45°方向の耳が高くなり、キャップとしての印刷文字や模様の曲がりを引起すおそれがある。そこで、Si量は0.1%以上0.6%以下の範囲内とした。好ましくは、0.1%以上0.4%以下の範囲内である。
【0020】
(Fe:0.2%以上0.7%以下)
Feは金属間化合物を形成して亀裂伝播性に寄与し、開栓性の向上に寄与する元素である。Fe量が0.2%未満ではその効果が十分に得られず、一方0.7%を超えれば45°方向の耳が高くなり、キャップとしての印刷文字や模様の曲がりを引起すおそれがある。そこで、Fe量は0.2%以上0.7%以下の範囲内とした。好ましくは、0.3%以上0.6%以下の範囲内である。
【0021】
(Cu:0.01%以上0.3%以下)
Cuは強度を上げるために有効な元素であるが、0.01%未満では十分な効果が得られず、0.3%を超えると強度が高くなり過ぎて開栓性が悪くなるおそれがある。そこで、Cu量は0.01%以上0.3%以下の範囲内とした。好ましくは、0.1%以上0.2%以下の範囲内である。
【0022】
(Mn:0.3%以上0.8%未満)
Mnは強度向上に寄与し、また金属間化合物を形成して開栓性の向上に寄与する。Mn量が0.3%未満ではその効果が十分に得られず、一方0.8%以上では、45°方向の耳が高くなり、キャップとしての印刷文字や模様の曲がりを引起すおそれがある。そこで、Mn量は0.3%以下0.8%未満の範囲内とした。好ましくは、0.4%以上0.8%以下の範囲内である。
【0023】
(Mg:0.2%以上0.8%未満)
Mgはキャップ用アルミニウム合金として必要な強度を付与するために不可欠な元素である。Mg量が0.2%未満ではその効果が十分に得られず、一方0.8%以上では、強度が高くなり過ぎて開栓性が悪くなるおそれがある。そこで、Mg量は0.2%以上0.8%未満の範囲内とした。好ましくは、0.5%以上0.8%未満の範囲内である。
【0024】
以上の各元素の他は、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良いが、通常アルミニウム合金に添加される上記以外の元素も、特性に大きな影響を与えない範囲内で許容される。例えば、鋳造時の微細化剤として添加されるTiやBはそれぞれ0.1%以下、0.01%以下であれば支障はなく、また強度向上のために添加されることがあるCrやV、Zrは、それぞれ0.1%以下、Znは0.4%以下であれば特に問題はない。
【0025】
[A−2.引張強さ(200MPa以上300MPa以下)]
次に、引張強さについて説明する。引張強さは、アルミニウム合金板をキャップとして使用する際、天面強度に影響する。引張強さが200MPa未満では、天面強度が十分ではなく耐圧強度が不足し、一方、引張強さが300MPaを超えると、開栓時において特にブリッジが切れる際のトルク値が高くなり、開栓性が悪くなる。従って、本発明に係るキャップ用アルミニウム合金板では広口用PPキャップとして必要な天面強度を確保するため、引張強さを200MPa以上300MPa以下と規定する。好ましくは、200MPa以上280MPa以下の範囲内である。
【0026】
[A−3.アルミニウム合金板の最終板断面における金属間化合物の面積占有率(1.0%以上3.0%以下)及び、3μm超える金属間化合物の個数密度(300ヶ/mm
2以上1000ヶ/mm
2以下)]
さらに、アルミニウム合金板の最終板断面における金属間化合物の面積占有率及び3μm超える金属間化合物の個数密度について説明する。金属間化合物の分布は、開栓性及び耳率に影響する。ここで、金属間化合物の面積率と個数密度とは、Al
6(Fe、Mn)やMg
2Siなどの全ての金属間化合物の面積率の和と個数密度の和を意味する。
【0027】
金属間化合物の面積占有率が1.0%以上及び、3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm
2以上であれば、PPキャップとして使用した場合、キャップを開栓しようとした時に、キャップに設けられたミシン目からの亀裂がこの金属間化合物を伝わるようにして進行することにより快適な引きちぎり性が得られて、高強度材であっても容易に開栓することが可能となる。
【0028】
また、金属間化合物の周囲はAlマトリックスに比べて、圧延加工中にひずみが蓄積し易いため、その金属間化合物の周囲を核として比較的ランダムな方位の再結晶集合組織が発生する。すなわち、金属間化合物が多数存在すると、相対的に再結晶集合組織に占める0−90°耳成分である立方体方位の割合が低下する。そのため、金属間化合物の面積占有率が3.0%及び、3μmを超える金属間化合物の個数密度が1000ヶ/mm
2以上を超えると、開栓性は確保できるものの、中間焼鈍時の立方体方位の発達を抑制しすぎて、その結果、キャップに成形した時に45°方向の耳が高くなり、キャップとしての印刷文字や模様の曲がりを引起すおそれがある。また、3μmを超える金属間化合物の個数密度が1000ヶ/mm
2を超えると、成形時に割れ等の不具合を生じるおそれがある。
【0029】
従って、開栓性と耳制御のために、金属間化合物の面積占有率は1.0%以上3.0%以下の範囲内で、3μm超える金属間化合物の個数密度は300ヶ/mm
2以上1000ヶ/mm
2以下の範囲内とした。好ましくは、金属間化合物の面積占有率は1.0%以上2.5%以下の範囲内で、3μm超える金属間化合物の個数密度は300ヶ/mm
2以上900ヶ/mm
2以下の範囲内である。
【0030】
[A−4.耳率(−3%以上+3%以下)]
次に耳率について説明する。耳の発生は、キャップとしての印刷文字や模様の曲がりに影響する。前述の通り、PPキャップはアルミニウム板の状態で文字や模様などを印刷してからキャップ形状に成形することから、キャップ用アルミニウム合金板の耳率が大きいと耳が高い部分の印刷文字がその高さに対応するように曲がる(歪む)という問題もある。この耳率は、アルミニウム合金板を絞りカップを成形した後、圧延方向に対してカップ高さを測定し、次式(1)より算出したものである。
耳率(%)=[{(45°耳の平均値)−(0°−90°耳の平均値)}/(45°耳及び0°−90°耳の平均値の最小値)]×100・・・(1)
【0031】
ここで、45°耳とは、45°位置、135°位置、225°位置及び315°位置の耳高さ、0°−90°耳とは、0°位置、90°位置、180°位置及び270°位置の耳高さをそれぞれ意味し、0°、90°位置と45°位置を比較して0°、90°位置が高い場合をマイナス、45°位置が高い場合をプラスで表すものとする。
【0032】
耳率が−3%未満、或いは+3%を超えれば、キャップとしてその側面の印刷文字、模様の曲がりを引起すおそれがある。従って、本発明に係る缶胴用アルミニウム合金板では、耳率を−3%以上+3%以下と規定する。なお、0−90°耳の場合、たとえ耳率が+3%以下であっても、2点耳(0−180°耳)が強くなって、0°、180°位置のみ強い山が現れてしまう場合は、やはり印刷文字、模様の曲がりを引起す場合もあるため、耳率は45°耳側であることが好ましい。即ち、好ましくは0%以上+3%以下の範囲内である。
【0033】
[B.キャップ用アルミニウム合金板の製造方法]
次に、本発明のキャップ用アルミニウム合金板の製造方法について説明する。本発明のキャップ用アルミニウム合金板は、鋳造工程、均質化処理工程、熱間圧延工程、第1の冷間圧延工程、中間焼鈍工程、第2の冷間圧延工程、安定化焼鈍工程によって製造される。以下、製造プロセス毎に詳述する。
【0034】
[B−1.鋳造工程(30mm/min以上60mm/min以下の鋳造速度)]
まず、上述の合金組成を有するアルミニウム合金溶湯は、常法に従ってDC鋳造(半連続鋳造)される。
【0035】
鋳造速度は、鋳塊内の金属間化合物の分布に影響する。鋳造速度が30mm/min未満では、鋳塊中に3μmを超える金属間化合物が多くなり、後の圧延工程後において、3μmを超える金属間化合物が1000個/mm
2を超える場合がある。この場合、後工程の中間焼鈍時の立方体方位の発達を抑制しすぎて、その結果、キャップに成形した時に45°方向の耳が高くなり、キャップとしての印刷文字や模様の曲がりを引起すおそれがある。一方、鋳造速度が60mm/minを超えると、3μmを超える金属間化合物が少なくなり、後の圧延工程後において、3μmを超える金属間化合物が300個/mm
2を下回る場合があり、良好な開栓性を確保できない。好ましくは、35mm/min以上55mm/minの範囲内である。
【0036】
[B−2.均質化処理工程(540℃以上610℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理)]
DC鋳造により得られた鋳塊は、均質化処理が施される。均質化処理は、鋳塊の偏析を均質化する目的で行なわれる。ここで、表層部の偏析においては、面削することにより除去される。均質化処理の温度が540℃未満では、鋳塊の偏析が解消されず、また析出物の分布が密となって再結晶しにくい組織となってしまい、そのため熱間圧延工程上がりの状態(熱間圧延を終了してコイルに巻き取った状態)で再結晶状態とすることが困難となってしまう。一方、均質化処理温度が610℃を超えれば、局所的な溶融が発生して、表面品質が低下してしまう。均質化処理の保持時間については、1時間未満では均質化処理の効果を確実に得ることができず、48時間を超えると上記効果が飽和するばかりでなく、生産性やコストの観点から好ましくない。なお、保持時間は1時間以上6時間以内が好ましい。
【0037】
[B−3.熱間圧延工程(終了温度を330℃以上370℃以下)]
熱間圧延に先立ち、均質化処理工程にて処理しきれない表層部においては、面削により偏析部を除去するが、均質化処理後に面削し、鋳塊を熱間圧延の所望温度に加熱後、熱間圧延を施してもよいし、均質質化処理前に鋳塊を面削し、均質化処理後に引き続き熱間圧延を施してもよい。熱間圧延工程は、リバース式の圧延機により粗圧延を行う工程と、その後に、シングルリバース式又はタンデム式の圧延機により圧延され、コイル状に巻き取るまでの仕上げ圧延を行う工程(以下、熱間仕上げ圧延という。)とからなる。
【0038】
本発明では、熱間仕上げ圧延の終了温度を規定する。熱間仕上げ圧延の終了温度が330℃未満では、熱間仕上げ圧延終了後、つまり熱間圧延工程終了後に再結晶状態とすることが困難となり、その後の冷間圧延中途での中間焼鈍時において適度な立方体方位が発達しないため、最終板の耳率が極端な45°耳となってしまう。一方、熱間仕上げ圧延の終了温度が370℃を超えれば、熱間仕上げ圧延時に、圧延ロール表面に形成されたロールコーティングの一部が剥がれて板表面に埋め込まれる欠陥が多発し、表面品質が低下し、最終製品にフローマークが出現してしまう場合がある。好ましくは、330℃以上360℃以下の範囲内である。
【0039】
[B−4.第1の冷間圧延工程(70%以上の1次圧延率)]
熱間圧延終了後に冷間圧延(1次冷間圧延)を施す。この1次冷間圧延では、歪みを十分に蓄積させて、中間焼鈍時に立方体方位を揃えるとともに、その後の中間焼鈍時の結晶粒を微細化させる必要があり、そこで1次冷間圧延率を70%以上とする。1次冷間圧延率が70%未満では、焼鈍時に立方体方位が揃い難く、この発明で規定する最終冷間圧延率では45°耳が強くなり過ぎてしまう。また、焼鈍時に結晶粒が大きくなりやすく、成形後に肌荒れを招く場合がある。好ましくは、80%以上の範囲内である。
【0040】
[B−5.中間焼鈍工程(1℃/秒以上の昇温速度、到達温度400℃以上550℃以下で2分間以内の保持、1℃/秒以上の冷却速度で100℃以下まで冷却)]
1次冷間圧延後には、中間焼鈍を施す。中間焼鈍は、1次冷間圧延された加工組織を再結晶状態とし、適度に立方体方位が発達させる目的で行われる。昇温速度が1℃/秒未満では上記効果が十分に得られない。また、到達温度が400℃未満では、再結晶状態とすることが困難となり、最終板の強度が異常に高くなって開栓性が悪くなり、さらに本来発達させるべき立方体方位が発達しないため、45°耳も異常に強くなってしまう。一方、到達温度が550℃を超えたり、保持時間が2分間を超えれば、再結晶粒が粗大化して成形後に肌荒れが生じる或いは、成形性が低下する等の不具合が発生する場合がある。
【0041】
また、100℃以下までの冷却速度が1℃/秒未満では、冷却中に固溶元素の析出が生じるため、十分な固溶強化を得ることが出来ない。この中間焼鈍工程は、上記効果や生産性の観点より急速加熱、急速冷却する連続焼鈍(CAL)により実現できる。通常のバッチ式でのコイル単位の熱処理に比べて連続焼鈍の方が、結晶粒微細化による外観劣化の防止と成形性の向上、固溶強化による高強度化及び、生産性の向上が望める観点より好ましい。到達温度については、好ましくは、400℃以上520℃以下の範囲内である。
【0042】
[B−6.第2の冷間圧延工程(30%以上60%以下の冷間圧延率)]
中間焼鈍後には、キャップ用材料として適切な厚さまで最終冷間圧延を施す。冷間圧延率が30%未満では、十分な加工硬化が得られず、強度が不足するとともに、中間焼鈍で発達させた立方体方位に見合うだけの圧延集合組織を発達させることができず、0−90°耳が高くなる。一方、冷間圧延率が60%を超えると、圧延集合組織が発達しすぎて45°耳が強くなる。また、強度が高くなり過ぎて開栓性が悪化する場合もある。好ましくは、40%以上60%以下の範囲内である。
【0043】
[B−7.安定化焼鈍(180℃以上270℃以下で0.5時間以上4時間以内)]
最終冷間圧延後には、安定化焼鈍を施す。安定化焼鈍温度が180℃未満、あるいは保持時間が0.5時間未満では、十分な軟化状態を得るのが困難となる。特にキャップ材に関しては、塗装・焼付け処理を行う際に仕切り板で隔てられた状態で立てかけたまま炉内を通過させるのが通常であるため、熱により残留応力が開放され、板が反り返って隣の板と接触し、表面の塗装・印刷を損なうおそれがある。一方、安定焼鈍温度が270℃を超え、あるいは4時間を超えると、過度に強度が低下し、十分な天面強度を得ることができない。好ましくは、190℃以上250℃以下の範囲内である。
【実施例】
【0044】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0045】
[実施例1〜13及び比較例1〜23]
表1に示す組成のアルミニウム合金をDC鋳造法により厚さ500mmの鋳塊とした。上記合金鋳塊に対して、表2に示す条件で均質化処理、熱間圧延、1次冷間圧延、中間焼鈍、最終冷間圧延、安定化焼鈍を施し板厚0.23mmのアルミニウム合金板を得た。なお、表2には、均質化処理、鋳造速度等の製造条件を示した。
【表1】
【表2】
【0046】
上記のようにして作製したアルミニウム合金板について、引張強さ、アルミニウム板断面における金属間化合物の面積占有率及び個数密度等を評価した。結果を表3に示す。
【0047】
以下に、評価方法について説明する。
【0048】
(引張強さ)
JIS5号試験片を使用して、圧延方向と平行方向で引張試験を実施し、引張強さを測定した。引張強さが200MPa以上300MPa以下を合格(○)とし、200MPa未満或いは300MPaを超えるものを不合格(×)とした。
【0049】
(アルミニウム板断面における金属間化合物の面積占有率及び個数密度)
アルミニウム板の最終板ND−RD断面を鏡面研磨した後、板厚中央層について光学顕微鏡によって400倍の倍率で10視野を写真撮影し、測定面積が0.5mm
2の領域から、画像解析(旭化成エンジニアリング製画像解析ソフト「A像君」)により1μm以上の大きさの金属間化合物の面積占有率及び、3μm超える金属間化合物の個数密度を測定した。この際、金属間化合物としては、Al
6(Fe、Mn)やMg
2Siが観察されるが、これらの合計を採用した。面積占有率については、1.0%以上3.0%以下を合格(○)とし、1.0%未満或いは3.0%を越えるものを不合格(×)とした。また、個数密度については、300ヶ/mm
2以上1000ヶ/mm
2以下を合格(○)とし、300ヶ/mm
2未満或いは1000ヶ/mm
2を超えるものを不合格(×)とした。
【0050】
(耳率)
パンチ径33mm、パンチ肩R1.5mm、ブランク径61mm、しわ押さえ250kgfで絞りカップを成形した後、圧延方向に対してカップ高さを測定し、次式(2)より耳率を算出した。
耳率(%)=[{(45°耳の平均値)−(0°−90°耳の平均値)}/(45°耳及び0°−90°耳の平均値の最小値)]×100・・・(2)
【0051】
ここで、45°耳とは、45°位置、135°位置、225°位置及び315°位置の耳高さを意味し、0°−90°耳とは、0°位置、90°位置、180°位置及び270°位置の耳高さをそれぞれ意味する。また、上記計算式では、45°耳の場合はプラス(+)、0−90°耳の場合はマイナス(−)で表記した。耳率が−3.0%以上+3.0%以下を合格(○)とし、−3.0%未満或いは+3.0%を超えるものを不合格(×)とした。
【0052】
さらに、前述のようにして得られたアルミニウム合金板に塗装処理を施して、プレス、ロール成形により直径38mmのキャップを作製した後、外観観察を行って成形上の問題がないか確認した後、容器に巻き締めて、その開栓トルクを測定した。その結果を表3に併せて示す。
【0053】
上記のキャップ外観観察、開栓トルクの測定もしくは評価方法について以下に説明する。
【0054】
(外観観察)
特に問題がないものを良好と判定して合格(○)とし、肌荒れやフローマークが生じたものは不良として不合格(×)とした。
【0055】
(開栓トルク)
キャップが容器に対して回転し始めて、最初にブリッジが切れる際のトルク値を測定し、トルク値が200N・cm以下の場合を開栓性良好と判定して合格(○)とし、200N・cmを超えるものを不合格(×)とした。
【表3】
【0056】
表3から明らかなように、本発明に従い製造、評価された実施例1〜13では、アルミニウム合金板の引張強さ、アルミニウム断面における金属間化合物の面積占有率及び個数密度、耳率、キャップ外観、開栓トルクの全てが合格であった。
【0057】
これに対して、比較例1では、アルミニウム合金板のSi含有量が少な過ぎたため、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、開栓トルクが不合格であった。
【0058】
比較例2では、アルミニウム合金板のSi含有量が多過ぎたため、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、耳率が不合格であった。
【0059】
比較例3では、アルミニウム合金板のFe含有量が少な過ぎたため、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、開栓トルクが不合格であった。
【0060】
比較例4では、アルミニウム合金板のFe含有量が多過ぎたため、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、耳率が不合格であった。
【0061】
比較例5では、アルミニウム合金板のCu含有量が少な過ぎたため、引張強さが不合格であった。
【0062】
比較例6では、アルミニウム合金板のCu含有量が多過ぎたため、引張強さ、開栓トルクが不合格であった。
【0063】
比較例7では、アルミニウム合金板のMn含有量が少な過ぎたため、引張強さ、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、開栓トルクが不合格であった。
【0064】
比較例8では、アルミニウム合金板のMn含有量が多過ぎたため、引張強さ、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、耳率、開栓トルクが不合格であった。
【0065】
比較例9では、アルミニウム合金板のMg含有量が少な過ぎたため、引張強さが不合格であった。
【0066】
比較例10では、アルミニウム合金板のMg含有量が多過ぎたため、引張強さ、開栓トルクが不合格であった。
【0067】
比較例11では、鋳造速度が遅すぎたため、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、耳率が不合格であった。
【0068】
比較例12では、鋳造速度が速すぎたため、金属間化合物の面積占有率及び個数密度、開栓トルクが不合格であった。
【0069】
比較例13では、均質化温度が低過ぎたため、熱間圧延工程終了後に再結晶状態とすることが困難となり、その後の冷間圧延中途での中間焼鈍時において適度な立方体方位が発達しないため、耳率が不合格であった。
【0070】
比較例14では、熱間仕上げ圧延の終了温度が低過ぎたため、熱間圧延工程終了後に再結晶状態とすることが困難となり、その後の冷間圧延中途での中間焼鈍時において適度な立方体方位が発達しないため、耳率が不合格であった。
【0071】
比較例15では、1次冷延率が低過ぎたため、焼鈍時に立方体方位が揃い難く、かつ、最終冷延率が高過ぎたため、圧延集合組織が発達しすぎて、耳率が不合格であった。
【0072】
比較例16では、中間焼鈍方式がバッチ焼鈍炉で、昇温速度が遅過ぎたため、適度に立方体方位が発達せず、保持時間が長過ぎたため、再結晶粒が粗大化し、かつ、冷却速度が遅過ぎたため、冷却中に固溶元素の析出が生じ十分な固溶強化を得ることが出来ず、引張強さ、耳率、キャップ外観が不合格であった。
【0073】
比較例17では、中間焼鈍の温度が低過ぎたため、再結晶状態とすることが困難となり、耳率が不合格であった。
【0074】
比較例18では、最終冷延率が低過ぎたため、十分な加工硬化が得られず、引張強さが不合格であった。
【0075】
比較例19では、最終冷延率が高過ぎたため、圧延集合組織が発達しすぎて、耳率が不合格であった。
【0076】
比較例20では、安定化焼鈍の温度が低過ぎたため、十分な軟化状態を得ることが出来ず、引張強さ、開栓トルクが不合格であった。
【0077】
比較例21では、安定化焼鈍の温度が高過ぎたため、過度に強度が低下し、引張強さが不合格であった。