(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6224871
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】水素製造用部材および水素製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/06 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
C01B3/06
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-521172(P2017-521172)
(86)(22)【出願日】2016年11月15日
(86)【国際出願番号】JP2016083771
【審査請求日】2017年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-243303(P2015-243303)
(32)【優先日】2015年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-101596(P2016-101596)
(32)【優先日】2016年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雅英
(72)【発明者】
【氏名】大隈 丈司
【審査官】
浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/203996(WO,A1)
【文献】
特開2009−263165(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/141385(WO,A1)
【文献】
特開2004−154657(JP,A)
【文献】
DEMONT, Antoine, et al.,Investigation of Perovskite Structures as Oxygen-Exchange Redox Materials for Hydrogen Production from Thermochemical Two-Step Water-Splitting Cycles,The Journal of Physical Chemistry C,米国,2014年 5月28日,Vol.118, No.24,PP.12682-12692,ISSN 1932-7447, DOI:10.1021/jp5034849
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C01B 3/00−6/34
C01D 17/00
C01G 25/02
C01G 49/00
C04B 35/50
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5〜200nmである複数のセラミック粒子が、該セラミック粒子とは異なる組成を有する多孔質の絶縁体中に分散されたセラミック複合体によって構成された水素製造用部材であって、前記セラミック粒子が、AXO3±δ(但し、0≦δ≦1、A:希土類元素、アルカリ土類元素、およびアルカリ金属元素のうちの少なくとも一種、X:遷移金属元素およびメタロイド元素のうちの少なくとも一種、O:酸素)、酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムの群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものであることを特徴とする水素製造用部材。
【請求項2】
前記セラミック複合体中における前記セラミック粒子の割合が20〜80体積%であることを特徴とする請求項1に記載の水素製造用部材。
【請求項3】
前記複数のセラミック粒子は、個数比で90%以上が孤立して存在していることを特徴とする請求項1または2に記載の水素製造用部材。
【請求項4】
前記セラミック複合体上に、光吸収部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれかに記載の水素製造用部材。
【請求項5】
前記光吸収部材が、誘電体中に金属粒子が分散された金属粒子含有複合体、または金属系膜と誘電体とが積層された金属系膜積層体であることを特徴とする請求項4に記載の水素製造用部材。
【請求項6】
前記セラミック複合体と前記光吸収部材との間に金属膜が設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の水素製造用部材。
【請求項7】
太陽光エネルギーを受けて酸化・還元反応を起こす反応部と、該反応部に水を供給する水供給部と、前記反応部から発生する水素ガスを回収する回収部とを備えている水素製造装置であって、前記反応部に請求項4乃至6のうちいずれかに記載の水素製造用部材が設けられていることを特徴とする水素製造装置。
【請求項8】
前記反応部が減圧可能な容器内に収容されていることを特徴とする請求項7に記載の水素製造装置。
【請求項9】
前記容器には、2つ以上の吸気口が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の水素製造装置。
【請求項10】
前記2つの吸気口のうちの一方は、前記容器内全体の減圧に供するものであり、他方は前記反応部内の減圧に供するものであることを特徴とする請求項9に記載の水素製造装置。
【請求項11】
前記容器には、太陽光を取り込むための窓が設けられていることを特徴とする請求項8乃至10のうちいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項12】
前記反応部が、平板状の前記セラミック複合体を平板状の前記光吸収部材で上下から挟んだ平板型の積層構造体であることを特徴とする請求項7乃至11のうちいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項13】
前記反応部が、円筒形状の前記セラミック複合体を円筒形状の前記光吸収部材が取り巻く中空円筒型の積層構造体であることを特徴とする請求項7乃至11のうちいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項14】
前記中空円筒型の積層構造体は、円筒形状の前記セラミック複合体の断面の中心軸が円筒形状の前記光吸収部材の断面の中心軸と重なっていない非同軸構造であることを特徴とする請求項13に記載の水素製造装置。
【請求項15】
前記反応部に隣接して水素吸蔵部材が設けられていることを特徴とする請求項7乃至14のうちいずれかに記載の水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素製造用部材および水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の消費に伴う二酸化炭素の増加による地球温暖化などの問題の解決策として、化石燃料に代わって二酸化炭素を排出しないクリーンな再生可能エネルギーが注目されている。
【0003】
再生可能エネルギーの一つである太陽光エネルギーは枯渇の心配が無い。また、温室効果ガスの削減に貢献できる。このような状況の中、一次エネルギーを太陽光に求め、二次エネルギーを水素で支える形は、理想的なクリーンエネルギーシステムの一つであり、その確立が急務である。
【0004】
例えば、太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する方法の一つとして、セリア(CeO
2)などのセラミック部材を反応系担体として用いることが提案されている。これは反応系担体に発生する2段階水分解反応を利用するものである(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
具体的には、まず、第1のステップにおいて、太陽光エネルギーを用いて反応系担体であるセラミック部材を1400〜1800℃に加熱する。この第1のステップでは、当該セラミック部材が還元されて酸素が発生する。
【0006】
次に、第2のステップにおいて、還元されたセラミック部材を300〜1200℃まで冷却する。この第2のステップでは、セラミック部材を水と反応させる。このとき還元されたセラミック部材が酸化されて水素が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−263165号公報
【発明の概要】
【0008】
本開示の水素製造用部材は、平均粒径が5〜200nmである複数のセラミック粒子が、該セラミック粒子とは異なる組成を有する多孔質の絶縁体中に分散されたセラミック複合体によって構成された水素製造用部材であって、前記セラミック粒子が、AXO
3±δ(但し、0≦δ≦1、A:希土類元素、アルカリ土類元素、およびアルカリ金属元素のうちの少なくとも一種、X:遷移金属元素およびメタロイド元素のうちの少なくとも一種、O:酸素)、酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムの群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものである。
【0009】
本開示の水素製造装置は、太陽光エネルギーを受けて酸化・還元反応を起こす反応部と、該反応部に水を供給する水供給部と、前記反応部から発生する水素ガスを回収する回収部とを備えている水素製造装置であって、前記反応部に上記の水素製造用部材が設けられているものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の水素製造用部材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】本実施形態の他の態様を示すものであり、セラミック複合体上に光吸収部材が設けられた水素製造用部材を示す模式図であり、(a)は、光吸収部材が金属粒子含有複合体である場合、(b)は、光吸収部材が金属系膜積層体である場合である。
【
図3】
図2(a)に示した水素製造用部材に対して、それぞれ金属膜を設けた構成を示した断面模式図である。
【
図4】本実施形態の水素製造装置を稼働させたときの状態を模式的に示す断面図であり、(a)は、水素製造用部材から酸素が生成している状態、(b)は同水素製造用部材から水素が生成している状態である。
【
図5】反応部の外観構造を模式的に示す斜視図である。(a)は平板型、(b)は同軸タイプの中空円筒型、(c)は非同軸タイプの中空円筒型である。
【
図6】本実施形態の水素製造装置の他の態様を示すものであり、
図4に示した水素製造装置内の反応部に隣接させて水素吸蔵部材を設けた構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本開示の水素製造用部材の一実施形態を模式的に示す断面図である。本実施形態の水素製造用部材は、微細なセラミック粒子1が多孔質の絶縁体3中に分散されたセラミック複合体5によって構成されている。
【0012】
絶縁体3は、セラミック粒子1とは主成分の異なる材料によって形成されている。絶縁体3の材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、アルカリ土類元素の酸化物、希土類元素の酸化物およびこれらの複合酸化物が好適な材料となる。この場合、絶縁体3は多数の開気孔6を有しており、その開気孔6はセラミック複合体5の外表面5aから内部のセラミック粒子1に達するように延びている。この場合、開気孔率は10%以上であるのが良い。絶縁体3の開気孔率はセラミック粒子1を含めたセラミック複合体5について測定した値を用いる。これは、セラミック粒子1が緻密体であり、絶縁体3の気孔率がそのままセラミック複合体5の気孔率に相当するものとなるためである。
【0013】
セラミック粒子1は、AXO
3±δ(但し、0≦δ≦1、A:希土類元素、アルカリ土類元素、およびアルカリ金属元素のうちの少なくとも一種、X:遷移金属元素およびメタロイド元素のうちの少なくとも一種、O:酸素)、酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムの群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものである。この場合、セラミック粒子1の平均粒径(
図1では符号Dとして表す。)は5〜200nmである。ここで、希土類元素としては、周期表第6周期のランタニド元素の中から選ばれる少なくとも1種が良い。遷移金属元素としては、Ti、V、Cr、Mn、Zr、NbおよびTaの群から選ばれる少なくとも1種が良い。メタロイド元素としては、B、Si、Ge、As、Se、Sb、Te、PoおよびAtの群から選ばれる少なくとも1種が良い。なお、AXO
3±δ、酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムの群から複数種を組み合せた例としては、酸化ジルコニウムの一部を酸化セリウムで置換された複合酸化物を挙げることができる。
【0014】
ここで、主成分とは、例えば、セラミック複合体5についてX線回折を用いたリートベルト解析から求められる割合で60質量%以上となっているものを言う。
【0015】
上記の主成分を有するセラミック粒子1は、高温の環境下に置かれると、下記(1)式に示す欠陥反応を起こす。
【0017】
この場合、セラミック複合体5を構成しているセラミック粒子1が微細であることから、上記の欠陥反応によってセラミック粒子1内に生成した電子が、そのセラミック粒子1の表面に止まりやすくなる。これによりセラミック粒子1において表面プラズモン効果が高まる。こうしてセラミック複合体5自体を高温状態に変化させることができる。その結果、セラミック粒子1自体が光を吸収する機能を有するようになる。
【0018】
このような反応を起こすセラミック粒子1を多孔質の絶縁体3中に存在させた状態にすると、セラミック粒子1は、高温の状態では、(2)式のように、酸素が放出する反応(以下、酸素放出反応という場合がある。)を起こすものとなる。一方、酸素放出反応が起きる温度よりも低い温度においては、(3)式に示すような水素が生成する反応(以下、水素生成反応という場合がある。)を起こすものとなる。
【0021】
これはセラミック複合体5を構成する絶縁体3の内部において、セラミック粒子1に上記した欠陥反応によって表面プラズモン効果が現れることに加えて、上記した酸化・還元反応が起きるためである。
【0022】
この場合、セラミック粒子1としては、平均粒径が小さいほど表面プラズモン効果を期待できる。しかし、セラミック粒子1の平均粒径が5nmよりも小さいものは、現時点で調製することが困難である。一方、セラミック粒子1の平均粒径が200nmよりも大きい場合には、表面プラズモン効果が発現し難くなる。このためセラミック複合体5をそれ自体で高温の状態にすることができなくなる。その結果、水素が生成し難くなる。
【0023】
また、セラミック粒子1の表面プラズモン効果を高められるという点から、セラミック複合体5中に含まれるセラミック粒子1の割合は、体積比で20〜80%であるのが良い。また、セラミック粒子1は、個数比で90%以上が絶縁体3中に単一の粒子として孤立した状態で分散して存在しているのが良い。つまり、本実施形態の水素製造用部材では、セラミック粒子1が絶縁体3を構成する材料を介して個数比で90%以上の割合で個々に存在しているのが良い。
【0024】
セラミック複合体5の内部に存在するセラミック粒子1の割合は、セラミック複合体5の断面を電子顕微鏡およびこれに付設の分析器(EPMA)を用いて求める。例えば、セラミック複合体5を研磨してセラミック粒子1を露出させ、その断面に存在するセラミック粒子1が30〜100個入る所定の領域を指定する。次に、この領域の面積およびこの領域内に存在するセラミック粒子1の合計面積を求め、領域の面積に対するセラミック粒子1の合計面積を求める。こうして求めた面積割合を体積割合とする。セラミック粒子1が絶縁体3中において単一の粒子として孤立した状態で存在しているか否かの判定も上記の観察から個数をカウントして行う。
【0025】
図2は、本実施形態の他の態様を示すものであり、セラミック複合体上に光吸収部材が設けられた水素製造用部材を示す模式図であり、(a)は、光吸収部材が金属粒子含有複合体である場合、(b)は、光吸収部材が金属膜積層体である場合である。
【0026】
本実施形態の水素製造用部材については、セラミック複合体5の温度をより高められる方法として、
図2(a)(b)に示すように、セラミック複合体5上に、外部からの熱媒体となる光吸収部材7を設けても良い。
【0027】
図2(a)に示す金属粒子含有複合体7Aは、緻密なセラミック焼結体7aの内部に金属粒子7bを分散させたものである。この場合、金属粒子含有複合体7Aが太陽光を吸収することによって金属粒子7b中に存在している自由電子が表面プラズモン効果を発現し、これによって金属粒子含有複合体7A自体が発熱する。金属粒子7bとしては、タングステン、モリブデン、ニオブ、ニッケル、銅、銀、金、白金およびパラジウムの群から選ばれる1種の金属を選ぶことができる。また、金属粒子7bとしては、上記した金属の代わりに、金属に炭素(C)または窒素(N)、あるいは炭素(C)および窒素(N)の両方が結合した化合物も適用することができる。当該化合物としては、炭化タンタル(TaC)、炭化バナジウム(VC)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)、炭化ニオブ(NbC)および窒化ニオブ(NbN)の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0028】
この場合も、上記したセラミック複合体5の場合と同様に、金属粒子9bのサイズ(平均粒径)としては、表面プラズモン効果を高められるという点から微細であるのが良い。その平均粒径は、例えば、5〜50nmが良い。一方、金属粒子9bを取り囲むセラミック焼結体7aの開気孔率としては5%以下であるのが良い。セラミック焼結体7aとしては、光の透過性が高く、耐熱性に優れるという点で酸化ケイ素を主成分とする低熱膨張性のガラスが好適なものとなる。なお、セラミック複合体5を構成する絶縁体3の材料と同様の成分からなるものも適用できる。
【0029】
図2(b)に示す金属系膜積層体7Bとしては、例えば、タングステン膜7c、ケイ化鉄(FeSi)膜7dおよび酸化ケイ素膜7eが層状に形成された積層体を挙げることができる。この場合、酸化ケイ素膜7eの下層側に形成されたタングステン膜7cおよびケイ化鉄膜7dが特定の波長領域の光を吸収する役割を担う。また同時に、誘電体である酸化ケイ素膜7eが金属系膜積層体7Bからの輻射を抑える機能を果たすものとなる。
【0030】
さらに、本実施形態の水素製造用部材では、セラミック複合体5と光吸収部材7との間に金属膜9を介層させておくのが良い。
図3(a)(b)に示すように、セラミック複合体5と光吸収部材7との間に金属膜9が設けられると、光吸収部材7に入ってきた光が金属膜9の表面で反射する。このため光吸収部材7に入ってきた光がセラミック複合体5側にまで透過し難くなる。これにより光吸収部材7の内部に光が集中するようになる。このため光吸収部材7の発熱量を高めることができる。金属膜9の材料としては、光の反射性の高い金属であれば良い。例えば、タングステン、モリブデン、ニッケル、銅、銀、金、白金およびパラジウムなどが好適なものとなる。
【0031】
図4は、本実施形態の水素製造装置を稼働させたときの状態を模式的に示す断面図であり、(a)は、水素製造用部材から酸素が生成している状態、(b)は同水素製造用部材から水素が生成している状態である。
【0032】
本実施形態の水素製造装置20は、太陽光エネルギー(
図4(a)に示した白地の矢印)を受けて酸化・還元反応を起こす反応部21と、該反応部21に水を供給する水供給部23と、反応部21から発生する水素ガスを回収する回収部25とを備えたものである。この場合、反応部21は、太陽光を熱に変える光吸収部材7と、加熱されたときに水素を生成する水素製造用部材とを有する。水素製造用部材は上記したセラミック複合体5を有している。また、反応部21には酸素を排出させるための排出口27が取り付けられている。さらに、この水素製造装置20には、反応部21が太陽光を受けたり、遮ったりするための遮蔽板29が設けられている。遮蔽板29は、不透明の板状のものであれば良く、材料としては、プラスチック、金属および木材などあらゆるものを使用できる。
【0033】
図4(a)に示すように、反応部21の上面から遮蔽板29を移動させると、水素製造用部材であるセラミック複合体5が光(太陽光)を受けるようになる。これにより反応部21内に設置した水素製造用部材であるセラミック複合体5が高温の状態となり、セラミック複合体5は、上記(2)式で表される還元反応を起こして酸素が発生する。
【0034】
次に、
図4(b)に示すように、反応部21を遮蔽板29で覆うようにすると、反応部21は太陽光が遮られる。このとき反応部21に水を供給して、水をセラミック複合体5に接触させると、セラミック複合体5は、還元反応が起こっていた
図4(a)に示す状態から冷やされる。これにより還元反応が納まる。
【0035】
次に、反応部21において、上記(3)式で表される酸化反応が起こり、セラミック複合体5の内部において水素ガスが発生する。本実施形態の水素製造装置によれば、太陽光からの熱を効率良く吸収して水素の生成効率を高めることができる。
【0036】
ここで、反応部21は、
図4(a)(b)に示すように、容器22の中に減圧された状態で収容されているのが良い。これは光吸収部材7によって生成した熱が反応部21以外の外界へ移動するのを防ぐことができる。また、熱を反応部21のセラミック複合体5へ効率良く供給することができる。
【0037】
反応部21を減圧した状態にすると、反応部21のセラミック複合体5側で酸素欠陥が形成されやすくなることから、セラミック複合体5の還元反応が進み、セラミック複合体5から生成する酸素量を増加させることができる。
【0038】
次に、反応部21を還元させた後に、セラミック複合体5に水蒸気を供給すると、水の分子から酸素が遊離する確率が高くなり、生成する酸素量を増やすことができる。これにより、供給した水蒸気量に対して生成する水素ガスの割合を増やすことができる。
【0039】
この場合、反応部21を設けた容器22には、当然、当該容器22内から気体を吸引するための吸気口を設ける必要があるが、本実施形態の水素製造装置では、容器22に2つの吸気口22a、22bを設けておくのが良い。この場合、
図4(a)(b)に示した模式図を例に取れば、2つの吸気口22a、22bのうち、一方(この場合、吸気口22a)は容器22内の全体を減圧するのに用いる。これは、光吸収部材7の周囲から熱が容器22の周囲に移動するのを抑えるためである。
【0040】
他方の吸気口(この場合、吸気口22b)は、光吸収部材7を貫通させてセラミック複合体5に達するようにしておく。これは、容器22内に設置された反応部21の中で、水素製造用部材であるセラミック複合体5の内部の圧力を調整するためのものである。例えば、光吸収部材7の周囲よりも高い圧力に変化させるためである。こうすると、セラミック複合体5の内部に水蒸気が供給されたときに、その内部において、酸化反応が進みやすくなり、生成する水素ガスの量をさらに増やすことができる。
【0041】
また、本実施形態の水素製造装置20においては、容器22の遮蔽板29側に面した上面板22cには、太陽光を取り込むための窓22dが設けられているのが良い。また、窓22dには透明板が設置されているのが良い。透明板としては耐熱性の高いガラスが好適なものとなる。これにより容器22内に効率良く太陽光を取り込むことができる。また、光吸収部材7およびセラミック複合体5をより高い温度に加熱することができる。その結果、容器22を遮蔽板29で覆っていない状態(
図4(a))と容器22を遮蔽板29で覆った状態(
図4(b))との間で、光吸収部材7およびセラミック多孔質複合体5の温度変化が大きくなり、これによりセラミック複合体5の還元および酸化の反応性をより高めることができる。こうして水素ガスの生成量をまたさらに増加させることができる。
【0042】
図5は、反応部の外観構造を模式的に示す斜視図である。(a)は平板型、(b)は同軸タイプの中空円筒型、(c)は非同軸タイプの中空円筒型である。
【0043】
ここで、本実施形態の水素製造装置20を構成する反応部21としては、
図5(a)に示す平板型の積層構造体、
図5(b)に示す同軸タイプの中空円筒管型の積層構造体あるいは
図5(c)に示す非同軸タイプの中空円筒型の積層構造体が好適なものとなる。
【0044】
ここで、中空円筒管型の積層構造体に関して、同軸タイプとは、円筒形状のセラミック複合体5の断面の中心軸C1と円筒形状の光吸収部材の断面の中心軸C2とが同じ位置にある構造のことを言う。言い換えると、反応部21の内側に配置されたセラミック複合体5の中心軸C1が反応部21の外周を周縁としたときの中心軸C0と重なっている構造である。
【0045】
一方、非同軸タイプとは、円筒形状のセラミック複合体5の断面の中心軸C1と円筒形状の光吸収部材の断面の中心軸C2とが重なっていない構造(非同軸構造)のことを言う。言い換えると、反応部21の内側に配置されたセラミック複合体5の中心軸C1が反応部21の外周を周縁としたときの中心軸C0からずれた位置にある。
【0046】
つまり、非同軸タイプでは、例えば、
図5(c)に示すように、光吸収部材7の断面の厚みがt1>t2の関係となり異なっている。この場合、円筒形状のセラミック複合体5の断面も光吸収部材7の断面の形状に相似形であるのが良い。
【0047】
平板型の積層構造体の場合、平板状の水素製造用部材(セラミック複合体5)を上下から光吸収部材7が挟む構造となるため、装置の薄型化が可能である。これにより軽量化が可能になるため家屋の屋根などに設置するのに好適なものとなる。
【0048】
中空円筒管型の積層構造は円筒形状のセラミック複合体5の外側に円筒形状の光吸収部材7が取り巻く構造となるため、中空円筒管型の反応部21が複数本並列に並ぶように配置させた構造にすると、光吸収部材7の表面積を大きくすることができる。これにより光吸収率の高い反応部21を完成させることができる。
【0049】
中空円筒管型の積層構造体については、光吸収率を高められるという点で、同軸タイプの中空円筒管型よりも非同軸タイプの中空円筒型の積層構造体の方が良い。非同軸タイプの中空円筒型の積層構造体の場合、
図5(c)に示すように、光吸収部材7の断面の厚みの厚い方を太陽光が照射される上側にすると、光吸収部材7の体積割合が大きくなり、光の吸収量を高めることができる。
【0050】
このとき円筒形状のセラミック複合体5の断面の形状と光吸収部材7の断面の形状とが相似形であり、セラミック複合体5の厚みの厚い側と光吸収部材7の断面の厚みの厚い側とが、中心軸C0を中心にして同じ側にあると、太陽光が照射される方向において、光吸収量および水素の生成量の両方を同時に高めることができる。
【0051】
図6は、本実施形態の水素製造装置の他の態様を示すものであり、
図4に示した水素製造装置内の反応部に隣接させて水素吸蔵部材を設けた構成を示す断面模式図である。
【0052】
本実施形態の水素製造装置では、水素を生成させる反応部21に水素吸蔵部材31を設けておくのが良い。この場合、水素吸蔵部材31としては、以下に例示する水素吸蔵合金を適用するのが良い。反応部21に水素吸蔵部材31を隣接させておくと、反応部21から排出される水素ガスを一旦固体である水素吸蔵部材31中に溜めることができる。
【0053】
この場合、反応部21を含む容器22内の水素量を一時的に減らすことができるため、上記化3式で示される水素の生成反応を右辺側へ向くようにできる。これにより水素の反応速度を高めることができる。また、生成する水素ガスの体積を小さくすることができることから、反応部21が収納された容器22および回収部25の小型化を図ることができる。
【0054】
また、この水素製造装置において、水素吸蔵部材31は、反応部21に接した状態で配置するのではなく、
図6に示すように、反応部21との間に空間33を設けて配置するのが良い。水素吸蔵部材31を反応部21との間に空間33を設けて配置すると、反応部21において生成した水素を一旦空間33に溜めることができるため、水素が水素吸蔵部材31へ吸蔵されるときの速度を調整することができるようになり、上記化3式に示した水素の生成反応を安定化させることが可能になる。
【0055】
水素吸蔵部材31に適用可能な水素吸蔵合金としては、AB2型である、チタン、マンガン、ジルコニウム、ニッケルなどの遷移元素の合金をベースとしたもの。AB5型である、希土類元素、ニオブ、ジルコニウムに対して触媒効果を持つ遷移元素(ニッケル、コバルト、アルミニウムなど)を含む合金をベースとしたもの(LaNi
5、ReNi
5など)。ならびに、Ti−Fe系、V系、Mg合金、Pd系およびCa系合金を挙げることができる。
【実施例】
【0056】
以下、水素製造用部材を表1に示す構成となるように作製し、水素が生成するか否かを評価した。
【0057】
この場合、セラミック複合体には、La
0.8Sr
0.2MnO
3を主成分とし、MnサイトにFeを0.5モル置換したペロブスカイト材料を用いた。このペロブスカイト材料は、それぞれ金属アルコキシドを準備し、上記組成となるように調製した後、噴霧熱分解を行って合成した。次いで、合成した粉末を水中に投入し、時間毎の沈降状態を確認して分級操作を行い、表1に示す平均粒径のペロブスカイト材料(セラミック粒子)の粉末を得た。
【0058】
次に、得られたペロブスカイト材料の粉末にガラス粉末(ホウ珪酸ガラス)を混合して複合粉末を調製した。この場合、混合粉末の組成は、ペロブスカイト材料の粉末が70質量%、ガラス粉末が30質量%となるようにした。これはセラミック複合体中におけるペロブスカイト材料の割合が45体積%となる割合である。
【0059】
次に、得られた複合粉末に有機バインダとしてPVA(ポリビニルアルコール)を10質量%添加して、成形体を作製し、脱脂後、大気中、赤外線イメージ炉を用いて最高温度1400℃、保持時間約1秒の条件にて加熱を行い、セラミック複合体を作製した。また、比較例として、ペロブスカイト材料の粉末だけを用いた成形体から作製した試料を作製し、同様に評価した(試料No.9)。
【0060】
作製したセラミック複合体は、サイズが10mm×10mm×5mmとなるように研磨加工した。また、作製したセラミック複合体の断面を電子顕微鏡およびこれに付設の分析器(EPMA)を用いて分析した。この場合、セラミック複合体を構成しているセラミック粒子は粒成長がほとんど無く、その平均粒径は表1に示す値と同等であった。また、試料No.9を除いて、セラミック粒子は個数比で90%以上がガラス相中に孤立して存在している状態であることが認められた。
【0061】
光吸収部材には、平均粒径が40nmのタングステン粒子を30質量%ほどシリカガラス中に分散させた金属粒子含有複合体を適用した。また、セラミック複合体と光吸収部材との層間に金属膜(Au)を形成した試料(試料No.8)も作製し、同様に評価した。反応部は
図2(a)(b)の構造を適用した。
【0062】
水素ガスの生成量は水素製造装置の回収部にガスクロマトグラフ装置を設置して測定した。この場合、水素製造装置は、光吸収部材およびセラミック複合体によって形成された反応部を減圧した上で太陽光を1SUNの状態で受けるようにして、10サイクルを経て得られた生成量を表1に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から明らかなように、試料No.1〜5、7および8では、0.5ml/g以上の水素生成量が確認されたが、セラミック粒子の平均粒径を280nmにした試料(試料No.6)およびセラミック粒子だけを焼結させて作製した試料(試料No.9)では、水素の生成量が0.01ml/g以下であった。
【0065】
光吸収部材を設けた試料(試料No.7、8)は、同じセラミック粒子を用いて作製した試料(試料No.3)に比べて水素生成量が多かった。
【0066】
また、水素製造用部材として試料No.8のセラミック複合体を用いた水素製造装置において、反応部に
図6に示した構成で水素吸蔵部材としてLaNi
5を取り付けて可動させた。この場合、水素の生成量は表1に示した試料No.8の1.5倍であった。
【符号の説明】
【0067】
1・・・・・・・・・・・・・セラミック粒子
3・・・・・・・・・・・・・絶縁体
5・・・・・・・・・・・・・セラミック複合体
7・・・・・・・・・・・・・光吸収部材
7A・・・・・・・・・・・・金属粒子含有複合体
7a・・・・・・・・・・・・セラミック焼結体
7b・・・・・・・・・・・・金属粒子
7B・・・・・・・・・・・・金属系膜積層体
7c・・・・・・・・・・・・タングステン膜
7d・・・・・・・・・・・・ケイ化鉄(FeSi)膜
7e・・・・・・・・・・・・酸化ケイ素膜
9・・・・・・・・・・・・・金属膜
20・・・・・・・・・・・・水素製造装置
21・・・・・・・・・・・・反応部
22・・・・・・・・・・・・容器
22a、22b・・・・・・・吸気口
22c・・・・・・・・・・・上面板
22d・・・・・・・・・・・窓
23・・・・・・・・・・・・水供給部
25・・・・・・・・・・・・回収部
27・・・・・・・・・・・・排出口
29・・・・・・・・・・・・遮蔽板
【要約】
平均粒径が5〜200nmである複数のセラミック粒子1が、該セラミック粒子1とは異なる組成を有する多孔質の絶縁体3中に分散されたセラミック複合体5によって構成されており、セラミック粒子1が、AXO
3±δ(但し、0≦δ≦1、A:希土類元素、アルカリ土類元素、およびアルカリ金属元素のうちの少なくとも一種、X:遷移金属元素およびメタロイド元素のうちの少なくとも一種、O:酸素)、酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムの群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものである。
【選択図】
図1