(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゴムやプラスチックの材料には、シリカのような硬度が高い粒子が含まれる。このため、保護管やシースのような管状部材の表面のうち、混練物と接触する箇所は、徐々に摩耗するので、管状部材の強度が低下する。その結果、混練物の生成中に、管状部材が曲がったり、破損したりすることがある。特に、管状部材が破損すれば、破損片が混練物に混ざり、ゴム製品やプラスチック製品が不良品となる原因になる。
【0008】
上記先行技術として紹介した熱電対劣化検知装置は、熱電対素線の劣化を検知する装置であり、混練物と接触する箇所の摩耗を検査する装置ではない。よって、その箇所の摩耗を検査できる技術が望まれる。
【0009】
本発明は、混練物の温度の測定に用いられる熱電対に備えられ、熱電対素線が収容される管状部材において、混練物と接触する箇所が摩耗しているか検査できる熱電対検査装置及び熱電対検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の局面に係る熱電対検査装置は、混練室と、前記混練室から混練物を取り出すときに開けられるドア部と、を備える混練機と、前記混練物と接触する箇所となる接触箇所を有する管状部材と、前記管状部材に収容された熱電対素線と、を含む熱電対を利用し、前記混練室で生成されている前記混練物の温度を測定する温度測定装置と、を備えるシステムに適用される熱電対検査装置であって、前記ドア部が開けられた状態で、予め定められた第1の期間において前記熱電対素線に電流を供給し、かつ、前記第1の期間の経過後において前記熱電対素線に電流を供給することを停止する電流供給制御部と、前記第1の期間の経過後において、前記温度測定装置が測定する温度の低下を推定する式を算出する式算出部と、前記第1の期間の経過後に前記温度測定装置が測定した温度から、前記式算出部が算出した前記式が示す温度を減算した減算値を算出する減算部と、前記減算値に基づいて、前記接触箇所が摩耗しているか判定する摩耗判定部と、前記摩耗判定部が判定した結果を報知する報知部と、を備える。
【0011】
本発明の第1の局面に係る熱電対検査装置では、接触箇所が摩耗している場合、接触箇所が摩耗していない場合よりも、熱電対素線に電流が供給されたときに、温度測定装置が測定する温度の上昇量が大きくなることを利用して、接触箇所の摩耗を判定する。
【0012】
混練室のドア部が開かれた状態で、接触箇所の摩耗検査をする場合、ドア部が開けられることにより、温度測定装置によって測定される温度が急激に下がる影響をなくさなければならない。
【0013】
ドア部が開けられた状態で、熱電対素線に電流が供給された場合に、温度測定装置が測定した温度を、実温度とする。ドア部が開けられた状態で、熱電対素線に電流が供給されなかったとした場合に、温度測定装置が測定したと推定される温度を、推定温度とする。本発明では、式算出部が算出した式が示す温度を、推定温度としている。熱電対素線に電流が供給されることにより、熱電対素線の測温接点が発熱したことが原因で、温度測定装置が測定した温度の上昇量を温度上昇量とする。
【0014】
実温度から推定温度を減算すれば、上記影響を除去なくすことができる。すなわち、実温度から推定温度を減算した値が、温度上昇量となる。
【0015】
以上より、本発明の第1の局面に係る熱電対検査装置によれば、混練物の温度の測定に用いられる熱電対に備えられ、熱電対素線が収容される管状部材において、混練物と接触する箇所が摩耗しているか検査できる。
【0016】
上記構成において、前記第1の期間が経過してから、予め定められた第2の期間が経過したか否かを判断する期間経過判断部を備え、前記式算出部は、前記第2の期間が経過した後、予め定められたサンプリング期間に前記温度測定装置が測定した温度を用いて、前記式を算出する。
【0017】
第1の期間において熱電対素線に電流を供給することにより、熱電対素線の測温接点が発熱する。この影響が残っている期間を第2の期間とし、その影響が残っていない期間をサンプリング期間とする。この構成によれば、上記影響が残っていないサンプリング期間に温度測定装置が測定した温度を用いて、上記式を算出するので、温度測定装置が測定する温度の低下を正確に推定することができる。
【0018】
上記構成において、前記接触箇所は、メッキ層を含む。
【0019】
混練物の材料に対する耐摩耗性を高めるために、メッキ層を接触箇所とする熱電対がある。しかし、熱電対の長期の使用により、メッキ層も摩耗する。この構成は、メッキ層を接触箇所とする熱電対に本発明を適用している。
【0020】
本発明の第2の局面に係る熱電対検査方法は、混練室と、前記混練室から混練物を取り出すときに開けられるドア部と、を備える混練機と、前記混練物と接触する箇所となる接触箇所を有する管状部材と、前記管状部材に収容された熱電対素線と、を含む熱電対を利用し、前記混練室で生成されている前記混練物の温度を測定する温度測定装置と、を備えるシステムに適用される熱電対検査方法であって、前記ドア部が開けられた状態で、予め定められた第1の期間において前記熱電対素線に電流を供給し、かつ、前記第1の期間の経過後において前記熱電対素線に電流を供給することを停止する電流供給制御ステップと、前記第1の期間の経過後において、前記温度測定装置が測定する温度の低下を推定する式を算出する式算出ステップと、前記第1の期間の経過後に前記温度測定装置が測定した温度から、前記式算出ステップが算出した前記式が示す温度を減算した減算値を算出する減算ステップと、前記減算値に基づいて、前記接触箇所が摩耗しているか判定する摩耗判定ステップと、前記摩耗判定部が判定した結果を報知する報知ステップと、を備える。
【0021】
本発明の第2の局面に係る熱電対検査方法は、本発明の第1の局面に係る熱電対検査装置を方法として規定したものであり、本発明の第1の局面に係る熱電対検査装置と同様の作用効果を有する。
【0022】
本発明の第3の局面に係る熱電対検査装置は、混練物と接触する箇所となる接触箇所を有する管状部材と、前記管状部材に収容された熱電対素線と、を含む熱電対を検査する熱電対検査装置であって、予め定められた第1の期間において前記熱電対素線に電流を供給し、かつ、前記第1の期間の経過後において前記熱電対素線に電流を供給することを停止する電流供給制御部と、前記第1の期間が経過してから、予め定められた第2の期間が経過したか否かを判断する期間経過判断部と、前記熱電対を利用して測定された温度のうち、前記期間経過判断部によって前記第2の期間が経過したと判断された後のサンプリング期間に測定された温度を用いて、前記第1の期間に前記熱電対素線に電流が供給されなかったとすれば、前記第2の期間に前記熱電対を利用して温度を測定した場合に、測定したと推定される温度を示す近似式を算出する近似式算出部と、前記第2の期間に前記熱電対を利用して測定した温度から、前記近似式算出部が算出した前記近似式が示す温度を減算した減算値を算出する減算部と、前記減算値に基づいて、前記接触箇所が摩耗しているか判定する摩耗判定部と、前記摩耗判定部が判定した結果を報知する報知部と、を備える。
【0023】
本発明の第3の局面に係る熱電対検査装置によれば、本発明の第1の局面に係る熱電対検査装置と同様の理由で、混練物の温度の測定に用いられる熱電対に備えられ、熱電対素線が収容される管状部材において、混練物と接触する箇所が摩耗しているか検査できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、混練物の温度の測定に用いられる熱電対に備えられ、熱電対素線が収容される管状部材において、混練物と接触する箇所が摩耗しているか検査できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態を詳細に説明する。
図1は、混練機3の一例を示す模式図である。
図2は、
図1に示す混練機3において、混練物Mが生成されている状態を示す模式図である。
図3は、
図1に示す混練機3において、混練物Mが取り出されている状態を示す模式図である。
【0027】
図1を参照して、混練機3は、材料供給管31、混練室32、ドア部33、生成制御部37及びドア制御部38を備える。
【0028】
材料供給管31は、混練室32の天井の上に配置されている。材料供給管31の先端が混練室32の天井を通って混練室32に案内されている。混練物Mの材料は、材料供給管31を通って、混練室32に供給される。
【0029】
混練室32は、断面図で示されている。混練室32は、所定の材料が混練されて混練物Mが生成されているとき、常温より温度が高く設定されている。例えば、ゴム混練物であれば、混練室32は、百数十℃に設定される。混練室32には、2つのローラー34,35が配置されている。
図2を参照して、2つのローラーを回転させることにより、混練室32に供給された材料が混練りされ、混練物Mが生成される。
【0030】
生成制御部37は、混練室32で混練物Mを生成する制御をする。詳しく説明すると、生成制御部37は、材料供給管31から混練室32に混練物Mの材料を供給する制御、混練室32の温度を設定する制御、及び、ローラー34,35を回転させる制御をする。
【0031】
図1及び
図3を参照して、混練室32の床部には、混練物Mの取出口36が形成されている。ドア部33が閉じられると、取出口36が塞がれる。ドア部33が開けられると、取出口36が開放される。ドア部33が開けられると、混練室32の混練物Mは、取出口36を通って、落下し、次のプロセスへ送られる。ドア部33は、混練室32で混練物Mが生成されているときに閉じられ、混練室32から混練物Mが取り出されるときに開けられる。
【0032】
ドア制御部38は、ドア部33の開閉を制御する。
【0033】
混練機3は、混練室32で混練物Mを生成する動作、生成した混練物Mを混練室32から取り出すためにドア部33を開ける動作、次の混練物Mを混練室32で生成するためにドア部33を閉じる動作を繰り返す。
【0034】
図1を参照して、ドア部33には、保護管式熱電対5が差し込まれている。ドア部33が閉じられた状態で、保護管式熱電対5の保護管51の先端部53が、混練室32内に位置し、ドア部33が開けられた状態で、先端部53が混練室32外に位置するように、先端部53がドア部33から突き出ている。先端部53は、混練物Mの生成中に混練物Mと接触する接触箇所である。
【0035】
図4は、保護管式熱電対5を利用した温度測定装置6の一例を示す模式図である。温度測定装置6は、保護管式熱電対5及び温度演算部7を備える。
【0036】
保護管式熱電対5は、保護管51及び熱電対素線52を備える。
【0037】
保護管51は、管状部材の一例であり、熱電対素線52を収容する。保護管51の先端部53は、断面図で示されている。
【0038】
熱電対素線52は、二本の素線52a,52bにより構成されている。二本の素線52a,52bは、絶縁管54により互いに絶縁されている。熱電対素線52の一方の端部は、測温接点52cを含み、絶縁管54から露出している。測温接点52cは、保護管51の先端部53に溶着されている。
【0039】
保護管51の先端部53は、メッキ層55で覆われている。すなわち、保護管51の先端部53は、メッキ層55を含む先端部53である。メッキ層55を含む先端部53では、メッキ層55が接触箇所となる。メッキ層55については、後で詳しく説明する。
【0040】
保護管51の後端面には、端子56a,56bが設けられている。素線52aは、端子56aによって、外部配線57aと電気的に接続されている。素線52bは、端子56bによって、外部配線57bと電気的に接続されている。
【0041】
本実施形態に適用される熱電対は、保護管式熱電対5に限らず、熱電対素線52を管状部材に収容する構造の熱電対であればよい(例えば、シース熱電対)。
【0042】
温度演算部7は、外部配線57a,57bと電気的に接続されている。測温接点52cに伝達された熱によって、熱電対素線52は熱起電力を発生する。この熱起電力は、外部配線57a,57bによって、温度演算部7に伝達される。温度演算部7は、伝達された熱起電力を用いて、温度(例えば、
図2に示す混練室32の混練物Mの温度)を演算する。このように、温度測定装置6は、熱電対素線52が発生した熱起電力を用いて、温度を測定する装置である。
【0043】
メッキ層55について説明する。保護管51の先端部53は、上述したように、接触箇所である。保護管51の材料は、耐熱性、強度等の観点から、例えば、SCM材(chrome molybdenum steel:クロムモリブデン鋼鋼材)が使用される。ゴムやプラスチックの材料には、シリカのような硬度が高い粒子が含まれる。SCM材は、シリカに対して、耐摩耗性が低い。そこで、保護管51の先端部53にメッキ層55を形成し、メッキ層55を接触箇所とすることにより、接触箇所の耐摩耗性を向上させている。
【0044】
このように、接触箇所をメッキ層55とすることにより、接触箇所の対摩耗性を向上させている。しかし、メッキ層55も、シリカによって摩耗するので、保護管式熱電対5の使用が長期間になると、メッキ層55が摩耗し、保護管51からメッキ層55が剥がれる事態が生じる。
【0045】
そこで、メッキ層55が摩耗しているかを検査する必要がある。本実施形態において、熱電対検査とは、この検査のことである。以下、この検査を、「摩耗検査」と簡単に記載することもある。
【0046】
熱電対素線52に電流が供給されると、測温接点52cが発熱する。その熱は、保護管51の先端部53で吸収される。メッキ層55を含まない先端部53は、メッキ層55を含む先端部53よりも、メッキ層55が存在しない分だけ、先端部53の吸熱量が少ない。従って、メッキ層55を含まない先端部53は、メッキ層55を含む先端部53よりも、熱電対素線52に電流が供給されたときに、測温接点52cの温度が高くなる(すなわち、温度測定装置6が測定する温度が高くなる)。これを確認する実験を行った。
【0047】
保護管式熱電対5の熱電対素線52に、1.0Aの電流を供給し続けながら、温度測定装置6により、所定時間の間隔で、温度を測定した。
【0048】
保護管式熱電対5として、アルミ箔付きの保護管式熱電対5と、アルミ箔なしの保護管式熱電対5を用意した。アルミ箔付きの保護管式熱電対5は、保護管51の先端部53にアルミ箔を取り付けた保護管式熱電対5である。アルミ箔なしの保護管式熱電対5は、保護管51の先端部53にアルミ箔を取り付けていない保護管式熱電対5である。アルミ箔の厚みは、0.12mmとした。アルミ箔をメッキ層55と見なした。
【0049】
実験の結果を
図5のグラフに示す。グラフの横軸は、熱電対素線52に電流の供給を開始してから経過した時間を示す。単位は秒である。グラフの縦軸は、熱電対素線52に電流を供給される前に、温度測定装置6により測定された温度を基準にした温度の上昇量を示す。
【0050】
例えば、熱電対素線52に電流を供給される前に、温度測定装置6により測定された温度を30.0℃、熱電対素線52に電流が供給されてから、10秒経過したときに、温度測定装置6により測定された温度を31.0℃とする。この場合、熱電対素線52に電流が供給されてから、10秒経過したときの温度の上昇量は、1.0℃となる。
【0051】
折れ線S1は、アルミ箔付きの保護管式熱電対5の実験結果を示している。線L1は、折れ線S1を線形近似した線である。折れ線S2は、アルミ箔なしの保護管式熱電対5の実験結果を示している。線L2は、折れ線S2を線形近似した線である。
【0052】
折れ線S2で示すアルミ箔なしの保護管式熱電対5は、折れ線S1で示すアルミ箔付きの保護管式熱電対5と比べて、温度の上昇量が大きかった。これは、アルミ箔が存在しないことが原因と思われる。
【0053】
例えば、熱電対素線52に電流を供給する時間を10秒とした場合、折れ線S1で示すアルミ箔付きの保護管式熱電対5では、温度の上昇量が1.0℃、折れ線S2で示すアルミ箔なしの保護管式熱電対5では、温度の上昇量が1.3℃となった。
【0054】
これは、メッキ層55が削れていない保護管式熱電対5では、温度の上昇量が1.0℃、メッキ層55が0.12mm削れた保護管式熱電対5では、温度の上昇量が1.3℃であり、温度の上昇量に、0.3℃の違いが生じる言うことができる。
【0055】
メッキ層55を含む先端部53において、メッキ層55の厚みが小さくなれば、先端部53の吸熱量が小さくなる。従って、メッキ層55の厚みと、測温接点52cの温度の上昇量との間には、メッキ層55の厚みが小さくなれば、測温接点52cの温度の上昇量(言い換えれば、温度測定装置6が測定した温度の上昇量)が大きくなる相関関係があると思われる。よって、熱電対素線52に電流を供給して、測温接点52cを発熱させることにより、温度測定装置6が測定した温度の上昇量を用いれば、メッキ層55の厚み(摩耗量)を推定できる。本実施形態は、この理論を応用し、接触箇所であるメッキ層55が摩耗しているかを検査(摩耗検査)する。
【0056】
次に、摩耗検査を実行する時期について説明する。
図2を参照して、混練物Mの生成中、保護管51の先端部53が混練物Mと接触しているので、摩耗検査をすることができない。混練機3を停止させて、混練室32に混練物Mが存在しない状態で摩耗検査することが考えられる。しかし、混練物Mの生成プロセスが一旦停止することになるので、非効率である。
【0057】
混練機3は、次の(1)〜(4)の動作を繰り返す。(1)ドア部33が閉じられた混練室32に材料を供給する。(2)混練室32で材料を混練して混練物Mを生成する(
図2)。(3)ドア部33を開けて、混練室32の混練物Mを次のプロセスへ送る(
図3)。(4)ドア部33を閉じる。
【0058】
ドア部33が開けられて、混練室32から混練物Mが取り出されている期間に、摩耗検査を実行すれば、混練機3の動作を停止しなくてもよいので、効率がよい。
【0059】
しかし、ドア部33が開けられると、保護管51の先端部53は、常温環境下に晒されるので、温度測定装置6が測定する温度が急激に低下する。
【0060】
従って、ドア部33が開けられた状態で、熱電対素線52に電流を供給することによって、温度測定装置6が測定した温度の上昇量を知るには、ドア部33が開けられることにより、温度が急激に低下する影響をなくさなければならない。
【0061】
ドア部33が開けられた状態で、熱電対素線52に電流が供給された場合に、温度測定装置6が測定した温度を、実温度とする。ドア部33が開けられた状態で、熱電対素線52に電流が供給されなかったとした場合に、温度測定装置6が測定したと推定される温度を、推定温度とする。熱電対素線52に電流が供給されることにより、測温接点52cが発熱したことが原因で、温度測定装置6が測定した温度の上昇量を温度上昇量とする。実温度から推定温度を減算すれば、上記影響をなくすことができる。すなわち、実温度から推定温度を減算した値が、温度上昇量となる。
【0062】
推定温度は、式1に示す指数関数式を用いて求めることができる。式1は、温度低下を表す一般的な式である。
【0063】
y=a×exp(b×x)・・・(式1)
ここで、「y」は、温度を示し、「x」は、経過時間を示し、「a」及び「b」は、係数である。このうち、「b」は、温度の下がり具合、すなわち、温度が急激に下がるのか、温度が緩やかに下がるのかを示す。後で説明する近似式算出部86(
図6)は、式1を利用して、近似式(すなわち、推定温度を求める式)を算出する。
【0064】
次に、熱電対検査装置8について説明する。
図6は、本実施形態に係る熱電対検査装置8の構成を示すブロック図である。
【0065】
熱電対検査装置8は、
図4に示す温度測定装置6が測定した温度を利用して、摩耗検査をする。
【0066】
温度測定装置6は、
図2及び
図3に示すように、保護管式熱電対5を利用し、混練室32で生成されている混練物Mの温度を測定すると共に、ドア部33が開けられ、メッキ層55が混練物Mに接触していない状態において、メッキ層55の周囲の温度を測定する。
【0067】
熱電対検査装置8は、ドア開閉判断部81、電源部82、スイッチ部83、電流供給制御部84、期間経過判断部85、近似式算出部86、減算部87、摩耗判定部88、及び、報知部89を備える。
【0068】
ドア開閉判断部81は、不図示のセンサーから出力された信号を基にして、ドア部33が開かれた状態か、又は、ドア部33が閉じられた状態かを判断する。そのセンサーは、ドア部33が開かれた状態とドア部33が閉じられた状態とで異なる信号を出力する。
【0069】
電源部82は、熱電対素線52に供給する電流を生成する。
【0070】
スイッチ部83は、例えば、トランジスタにより構成される。スイッチ部83がオン状態のとき、電源部82で生成された電流が外部配線57bに供給される。スイッチ部83がオフ状態のとき、電源部82で生成された電流が外部配線57bに供給されない。
【0071】
電流供給制御部84は、スイッチ部83をオンオフ制御する。詳しく説明すると、電流供給制御部84は、混練室32から混練物Mを取り出すために、ドア部33が開けられたとき、スイッチ部83をオフからオンに切り替え、予め定められた第1の期間が経過したとき、スイッチ部83をオンからオフに切り替える。これにより、混練室32から混練物Mを取り出すために、混練機3がドア部33を開ける動作をすることにより、ドア部33が開けられた状態で、第1の期間において熱電対素線52に電流を供給し、かつ、第1の期間の経過後において熱電対素線52に電流を供給することを停止する。
【0072】
期間経過判断部85は、第1の期間が経過してから、ドア部33が開けられた状態で、予め定められた第2の期間が経過したか否かを判断する。
図7は、摩耗検査の期間を示すタイムチャートである。摩耗検査の期間T0は、第1の期間T1と、第2の期間T2と、サンプリング期間T3とに分けられる。摩耗検査の期間T0が、例えば、4秒の場合、第1の期間T1は、例えば、1秒であり、第2の期間T2は、例えば、2秒であり、サンプリング期間T3は、例えば、1秒である。
【0073】
第1の期間T1に熱電対素線52に対して電流を供給することにより、測温接点52c(
図4)が発熱する。この影響が残っている期間を第2の期間T2とし、その影響が残っていない期間をサンプリング期間T3とする。サンプリング期間T3については、次の近似式算出部86で説明する。
【0074】
近似式算出部86は、上述した式1で示す指数関数式を用いて、上記推定温度を求める式を算出する。すなわち、第1の期間T1に熱電対素線52に電流が供給されなかったとすれば、第2の期間T2に温度測定装置6が測定したと推定される温度を示す近似式を算出する。言い換えれば、第1の期間T1に熱電対素線52に電流が供給されなかったとすれば、第2の期間T2に保護管式熱電対5を利用して温度を測定した場合に、測定したと推定される温度を示す近似式を算出する。
【0075】
近似式算出部86は、式算出部の一例である。式算出部は、ドア部33が開けられて、保護管式熱電対5が混練室32の外部雰囲気に晒されることにより、第1の期間T1の経過後において、温度測定装置6が測定する温度の低下を推定する式を算出する。
【0076】
近似式の算出には、ドア部33が開けられた状態で、温度測定装置6が測定した温度のうち、期間経過判断部85によって第2の期間T2が経過したと判断された後(サンプリング期間T3)に測定された温度が用いられる。サンプリング期間T3は、第1の期間T1に熱電対素線52に対して電流を供給したことにより、測温接点52cが発熱した影響が残っていない期間として規定されているからである。
【0077】
近似式は、上述したように、第1の期間T1に熱電対素線52に対して電流が供給されなかったとした場合に第2の期間T2において、温度測定装置6が測定したと推定される温度(推定温度)を示す式である。測温接点52cが発熱した影響が残っている期間(すなわち、第2の期間T2)で測定された温度を利用して近似式を算出すれば、近似式が正確な推定温度を示さないからである。
【0078】
近似式算出部86は、サンプリング期間T3において、所定の間隔で、温度測定装置6が測定した温度のデータを取得する。
【0079】
減算部87は、第2の期間T2に温度測定装置6が測定した温度から、近似式算出部86が算出した近似式が示す温度を減算した減算値を算出する。近似式算出部86が、上記式算出部の場合、減算部87は、第1の期間T1の経過後に温度測定装置6が測定した温度から、式算出部が算出した式が示す温度を減算した減算値を算出する。
【0080】
摩耗判定部88は、メッキ層55が摩耗している場合、メッキ層55が摩耗していない場合よりも、減算値が大きくなることを利用して、メッキ層55が摩耗しているか判定する。
【0081】
報知部89は、例えば、ディスプレイであり、摩耗判定部88が判定した結果を報知する。
【0082】
次に、本実施形態に係る熱電対検査装置8の動作について説明する。
図8は、その動作を説明するフローチャートである。
【0083】
図3に示す混練機3の生成制御部37が、混練物Mの生成が完了したと判断したとき、混練室32から混練物Mを取り出すために、ドア制御部38が、ドア部33を開ける制御をする。これにより、
図6に示すドア開閉判断部81が、ドア部33が開けられたと判断する(ステップS1)。
【0084】
ドア開閉判断部81が、ドア部33が開けられたと判断したので、電流供給制御部84は、熱電対素線52に電流を供給する(ステップS3)。詳しく説明すると、
図6に示す電流供給制御部84は、スイッチ部83をオフからオンに切り替え、それから第1の期間T1(
図7)が経過した後、スイッチ部83をオンからオフに切り替える。これにより、第1の期間T1において、熱電対素線52に電流が供給されるので、測温接点52c(
図4)が発熱する。
【0085】
期間経過判断部85は、第1の期間T1が経過してから、ドア部33が開けられた状態で、第2の期間T2(
図7)が経過したか否かを判断する(ステップS5)。ドア部33が開けられた状態は、ドア開閉判断部81が判断する。
【0086】
期間経過判断部85は、第2の期間T2が経過していないと判断した場合(ステップS5でNo)、ステップS5の処理を繰り返す。
【0087】
期間経過判断部85は、第2の期間T2が経過したと判断した場合(ステップS5でYes)、近似式算出部86は、近似式を算出する(ステップS7)。これについて、詳しく説明する。
【0088】
図9は、第2の期間T2及びサンプリング期間T3において、温度測定装置6が測定した温度を示すグラフ、すなわち、実温度を示すグラフである。
図10は、第2の期間T2及びサンプリング期間T3において、近似式算出部86が算出した近似式を示すグラフ、すなわち、推定温度を示すグラフである。
図11は、
図9のグラフと
図10のグラフとを重ねたグラフである。
図9〜
図11において、横軸は、時間(秒)を示し、縦軸は、温度測定装置6が測定した温度(℃)を示している。横軸において、0.00秒から2.00秒までの期間が、第2の期間T2であり、2.00秒から3.00秒までの期間が、サンプリング期間T3である。
【0089】
図9を参照して、0.00秒(すなわち、第1の期間T1の経過直後)において、熱電対素線52に電流を供給することが停止され、測温接点52c(
図4)の発熱が止まる。このため、0.00秒において、温度測定装置6が測定した温度が急激に低下している。
【0090】
その後も、温度測定装置6が測定した温度は低下する。これは、
図3に示すように、混練室32のドア部33が開けられた状態なので、保護管式熱電対5が常温環境に晒されているからである。
【0091】
近似式算出部86は、サンプリング期間T3において、例えば、10μ秒毎に、温度測定装置6が測定した温度のデータを取得する。サンプリング期間T3が、1秒であれば、100個の温度データを取得する。
【0092】
近似式算出部86は、取得した温度データ、及び、式1で示す指数関数式を用いて、近似式を算出する。近似式は、例えば、以下の通りとなる。
【0093】
y=127.74e
−0.0206x・・・(式2)
式2をグラフで示したのが、
図10である。このグラフは、上述したように、推定温度を示すグラフである。
【0094】
減算部87は、第2の期間T2及びサンプル期間T3に温度測定装置6が測定した温度から、近似式算出部86が算出した近似式が示す温度を減算した減算値を算出する(ステップS9)。減算値は、実温度から推定温度を減算した値であり、温度上昇量を示している。温度上昇量とは、第1の期間T1で測温接点52cが発熱したことが原因で、温度測定装置6が測定した温度の上昇量である。
【0095】
詳しく説明すると、減算部87は、
図12に示すように、
図9のグラフが示す値から
図10のグラフが示す値を引いた値を示すグラフを算出する。
図12において、横軸は、時間(秒)を示す。縦軸は、温度上昇量(℃)を示している。
【0096】
上述したように
図9に示すグラフは、第1の期間T1に熱電対素線52に対して電流が供給された場合に、第2の期間T2及びサンプリング期間T3において、温度測定装置6が測定した温度(実温度)を示すグラフである。これに対して、
図10に示すグラフは、第1の期間T1に熱電対素線52に対して電流が供給されなかったとした場合に、第2の期間T2及びサンプリング期間T3において、温度測定装置6が測定したと推定される温度(推定温度)を示すグラフである。
【0097】
第2の期間T2では、温度上昇量が0より大きい。これは、第1の期間T1に熱電対素線52に対して電流を供給したことにより、測温接点52cが発熱した影響が第2の期間T2に残っているからである。サンプリング期間T3では、温度上昇量が略0である。これは、その影響がサンプリング期間T3に残っていないからである。
【0098】
摩耗判定部88は、
図12に示す第2の期間T2の温度上昇量(減算値)を利用して、メッキ層55が摩耗しているか判断する(ステップS11)。メッキ層55が摩耗しているか判断する方法は、いくつか考えられる。例えば、第2の期間T2中の予め定められた時(例えば、0.50秒)の温度上昇量が、予め定められたしきい値を超えていれば、メッキ層55が摩耗していると判断し、超えていなければ、メッキ層55が摩耗していないと判断する。
【0099】
また、第2の期間T2中の予め定められた時において、
図12に示すグラフの傾きが、予め定められたしきい値を超えていれば、メッキ層55が摩耗していると判断し、超えていなければ、メッキ層55が摩耗していないと判断する。
【0100】
図12に示す第2の期間T2において、
図12のグラフを移動平均する処理をした後、それらの方法を適用してもよい。移動平均により
図12のグラフが滑らかになるので、誤差を小さくできるからである。
【0101】
摩耗判定部88が、メッキ層55が摩耗していると判断した場合(ステップS11でYes)、報知部89は、保護管式熱電対5の交換を警告する表示をする(ステップS13)。
【0102】
摩耗判定部88が、メッキ層55が摩耗していないと判断した場合(ステップS11でNo)、
図1に示す混練機3のドア制御部38は、ドア部33を閉じる制御をする(ステップS15)。そして、生成制御部37は、ドア部33が閉じられた後、混練室32で次の混練物Mの生成を制御する。
【0103】
ドア部33の一回の開閉で摩耗検査を一回だけ実行する例で説明したが、ドア部33の一回の開閉で、摩耗検査を複数回実行してもよい。第1の期間T1が1.0秒、第2の期間T2が2.0秒、サンプリング期間T3が1.0秒とし、ドア部33が開けられた時間が、15秒であれば、摩耗検査を3回実行する。そして、3回の摩耗検査において、摩耗判断部が1回でも、メッキ層55が摩耗していると判断した場合、報知部89は、保護管式熱電対5の交換を警告する表示をする。
【0104】
ドア部33を開閉する毎に、摩耗検査を実行してもよいし、予め定められた期間が経過する毎に(例えば、一日に一回)、摩耗検査を実行してもよい。
【0105】
本実施形態の主な効果を説明する。本実施形態では、
図4を参照して、メッキ層55(接触箇所)が摩耗している場合、メッキ層55が摩耗していない場合よりも、熱電対素線52に電流が供給されたときに、温度測定装置6が測定する温度の上昇量が大きくなることを利用して、メッキ層55の摩耗を判定する。
【0106】
図3を参照して、混練室32のドア部33が開かれた状態で、メッキ層55の摩耗検査をする場合、ドア部33が開けられることにより、温度測定装置6によって測定される温度が急激に下がる影響をなくさなければならない。
【0107】
ドア部33が開けられた状態で、熱電対素線52に電流が供給された場合に、温度測定装置6が測定した温度を、実温度とする(
図9)。ドア部33が開けられた状態で、熱電対素線52に電流が供給されなかったとした場合に、温度測定装置6が測定したと推定される温度を、推定温度とする。本実施形態では、近似式算出部86が算出した近似式が示す温度を、推定温度としている(
図10)。熱電対素線52に電流が供給されることにより、測温接点52cが発熱したことが原因で、温度測定装置6が測定した温度の上昇量を温度上昇量とする。
【0108】
実温度から推定温度を減算すれば、上記影響をなくすことができる。すなわち、実温度から推定温度を減算した値が、温度上昇量となる(
図12)。
【0109】
以上より、本実施形態によれば、混練物Mの温度の測定に用いられる熱電対(保護管式熱電対5)に備えられ、熱電対素線52が収容される管状部材(保護管51)において、混練物Mと接触する箇所(メッキ層55)が摩耗しているかを検査できる。
【0110】
また、本実施形態によれば、
図8のフローチャートで説明したように、混練物Mを混練室32から取り出すために、ドア部33を開けたときに、摩耗検査をしている。従って、混練機3の動作中に、摩耗検査をすることができる。混練機3の動作中とは、混練室32で混練物Mを生成し、混練物Mを取り出すためにドア部33を開け、ドア部33を閉じ、混練室32で次の混練物Mを生成する処理を繰り返すことである。よって、本実施形態によれば、摩耗検査をするために、混練機3の動作を停止させる必要がない。
【0111】
メッキ層55(
図4)の厚みと、温度上昇量との間には、メッキ層55の厚みが小さくなれば、温度上昇量が大きくなる相関関係がある。本実施形態によれば、メッキ層55の摩耗量(摩耗された厚み)を予測できるので、メッキ層55が摩耗によりなくなり、保護管51が破損する前に、適切なタイミングで、保護管式熱電対5の交換をする報知をすることができる。
【0112】
図4を参照して、保護管51の肉厚を小さくすれば、保護管51の熱容量が小さくなるので、応答性に優れた保護管式熱電対5となる。しかし、保護管51の肉厚が小さい場合、メッキ層55が摩耗により剥がれれば、直ぐに保護管51が破損してしまう。本実施形態では、メッキ層55の摩耗量を予測できるので、肉厚が小さい保護管51を使用できる。
【0113】
肉厚が小さい保護管51の場合、保護管51の熱容量が小さいので、摩耗検査をした場合、温度上昇量が大きくなる。よって、メッキ層55が摩耗しているか否かをより正確に判定することができる。
【0114】
本実施形態では、保護管51の先端部53を覆うメッキ層55が接触箇所である例で説明したが、保護管51の先端部53がメッキ層55で覆われていない場合、すなわち、メッキ層55を含まない先端部53の場合にも、本発明を適用することができる。