特許第6225054号(P6225054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマデンタルの特許一覧

特許6225054歯科用重合性単量体、歯科用組成物、歯科用硬化性組成物および歯科用充填修復キット
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6225054
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】歯科用重合性単量体、歯科用組成物、歯科用硬化性組成物および歯科用充填修復キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/083 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   A61K6/083 500
【請求項の数】4
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-58486(P2014-58486)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-182963(P2015-182963A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英武
(72)【発明者】
【氏名】山川 潤一郎
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−224441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される歯科用重合性単量体を含むことを特徴とする充填修復材
【化1】
〔前記一般式(1)中、Xはn価の炭素数2〜100の炭化水素基であり、nは2〜4の範囲から選択される整数であり、Rは水素またはメチル基である。〕
【請求項2】
請求項1に記載の充填修復材において、
前記一般式(1)に示されるXが芳香族基を含むことを特徴とする充填修復材
【請求項3】
請求項1または2に記載の充填修復材において、
光重合開始剤をさらに含むことを特徴とする充填修復材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の充填修復材と、歯科用接着材とを含むことを特徴とする歯科用充填修復キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用重合性単量体、歯科用組成物、歯科用硬化性組成物および歯科用充填修復キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科用材料として用いられている(メタ)アクリレート系の重合性単量体としては、たとえば、Bis−GMA(2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン)、3G(トリエチレングリコールジメタクリレート、「TEGDMA」と称される場合もある)、UDMA(1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサン)などが一般的に広く利用されている(たとえば特許文献1等)。
【0003】
これらのモノマーの中でも、UDMA等のウレタン(メタ)アクリレートモノマーは、コーティング材料、UV硬化塗料及び熱硬化塗料、成形材料、接着剤、インキ、レジスト、光学材料、光造形材料、印刷版材料、歯科材料、ポリマー電池材料、及びポリマーの原料などの広範な分野で使用されている(たとえば特許文献2等)。そして、典型的な2官能型のウレタン(メタ)アクリレートモノマーの合成は、(1)分子の両末端に1つのヒドロキシル基と1つの(メタ)アクリレート基とを各々有する化合物2モルに対して、分子の両末端に2つのイソシアネート基を有する化合物1モルとを反応させるか、あるいは、分子の両末端に1つのイソシアネート基と1つの(メタ)アクリレート基とを各々有する化合物2モルに対して、分子の両末端に2つのヒドロキシル基を有する化合物1モルを反応させることにより行われる(たとえば特許文献2〜4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2002−518419号公報
【特許文献2】特開2007−197564号公報
【特許文献3】特開平11−315059号公報
【特許文献4】国際公開第WO2010/048067号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、一般的に(メタ)アクリレート系重合性単量体を重合させて硬化物を得る場合、重合に伴う体積の収縮(重合収縮)が発生する。このため、(メタ)アクリレート系重合性単量体の使用用途によっては、重合収縮が問題となる場合がある。たとえば、接着材と充填修復材とから成る歯牙の充填修復システムにおいて、充填修復材であるコンポジットレジンの主成分として(メタ)アクリレート系重合性単量体を使用した場合において、重合収縮が問題となることが多い。重合収縮が生じた場合、歯牙の窩洞内壁に塗布されたボンディング材と、窩洞内に充填されたコンポジットレジンの硬化物との間で剥離が生じ易いためである。
【0006】
このような重合収縮を抑制する一般的な方法としては、重合性単量体の分子量を大きくする方法と、重合時に生じる収縮応力を低減できるように重合性単量体の分子構造を改良する方法とがある。しかし、重合性単量体の分子量を大きくする方法では、分子量の増大に伴い重合収縮を低減できるが、同時に架橋密度も低下する。このため、結果的には硬化物の機械的強度も低下する。また、重合時に生じる収縮応力を低減できるように重合性単量体の分子構造を改良する方法においても、結局は、架橋密度を低下させる方向で分子構造を改良することになる。このため、この場合も硬化物の機械的強度が低下する。すなわち、従来の(メタ)アクリレート系重合性単量体では、重合収縮の抑制と、硬化物の硬度の向上とはトレードオフの関係にあり、重合収縮をより抑制すると同時に硬化物の機械的強度をより向上させることは困難である。
【0007】
しかしながら、歯科材料として用いられる(メタ)アクリレート系重合性単量体の硬化物には、歯の噛みあわせに際して強い力が加わるため、高い機械的強度も要求される。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来の歯科用重合性単量体を用いた充填修復材と比べて、重合収縮の抑制および機械的強度の向上の双方をより高いレベルで同時に実現できる充填修復材および歯科用充填修復キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明の充填修復材は、下記一般式(1)で示される歯科用重合性単量体を含むことを特徴とする。
【0010】
【化1】
【0011】
〔前記一般式(1)中、Xはn価の炭素数2〜100の炭化水素基であり、nは2〜4の範囲から選択される整数であり、Rは水素またはメチル基である。〕
【0012】
本発明の充填修復材の一実施形態は、一般式(1)に示されるXが芳香族基を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の歯科用充填修復キットは、本発明の充填修復材と、歯科用接着材とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の歯科用重合性単量体を用いた充填修復材と比べて、重合収縮の抑制および機械的強度の向上の双方をより高いレベルで同時に実現できる充填修復材および歯科用充填修復キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の歯科用重合性単量体は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0018】
【化2】
【0019】
一般式(1)中、Xはn価の炭素数2〜100の炭化水素基であり、nは2〜4の範囲から選択される整数であり、Rは水素またはメチル基である。
【0020】
本実施形態の歯科用重合性単量体では、炭化水素基Xに結合する反応性官能基(一般式(1)中のXの左側に示される基)には、その末端に位置する反応性の(メタ)アクリル基が含まれるため、この基が反応して重合することで硬化物を得ることができる。また、反応性官能基の炭化水素基X側に位置するウレタン結合を構成する水素原子は、他の重合性単量体と水素結合を形成するため、歯科用途に適した硬化物の強度を維持・確保しやすい。一方、重合に際しては、重合性単量体分子同士の結合により分子間の距離が縮まるため、通常であれば重合時に硬化物の体積収縮(重合収縮)が生じる。
【0021】
しかしながら、反応性官能基の中央部分(一般式(1)中の(メタ)アクリル基部分とウレタン結合部分との間の部分)にはエチレングリコール鎖構造が存在する。このエチレングリコール鎖構造は、変形容易で柔軟性に富む。このため、ウレタン結合と(メタ)アクリル基との間に存在するエチレングリコール鎖構造は、重合に伴い発生する収縮応力を緩和する上に、ウレタン結合を構成する水素結合に起因する重合体(硬化物)中の分子鎖の柔軟性の低下を相殺することもできるため、結果的に重合収縮を抑制できかつ硬化物の曲げ強度を向上させることもできる。したがって、本実施形態の歯科用重合性単量体では、従来の歯科用重合性単量体と比べて、重合収縮の抑制および機械的強度の向上の双方をより高いレベルで同時に実現することができる。
【0022】
なお、一般式(1)中に示す炭化水素基Xは、(1)脂肪族炭化水素基、あるいは、(2)芳香族炭化水素基のいずれでもよい。脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、1つ以上の置換基を有していてもよいが、置換基の有無に係らず、基全体としてその炭素数は2〜100の範囲内である。
【0023】
(1)炭化水素基Xが、脂肪族炭化水素基である場合は、主鎖を構成する炭素原子の一部が、酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子で置換されていてもよい。また、脂肪族炭化水素基は、主鎖部分のみから構成される直鎖型でもよく、主鎖の炭素原子(あるいは当該炭素原子と置換したヘテロ原子)に置換基が結合した分岐型でもよい。また、主鎖中には、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素が含まれていてもよい。また、主鎖の炭素数(但し、当該炭素数とは、主鎖を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子に置換されている場合は、主鎖を構成するヘテロ原子の数および炭素原子の数の総和を意味する)は2〜100の範囲内であり、4〜50の範囲内が好ましく、6〜30の範囲内がより好ましい。
【0024】
主鎖は、アルキレン基のみから構成されていてもよいが、−OCHCH−、−OCHCHCH−あるいは−OCHCHCHCH−等のアルキレングリコール鎖からなる繰り返し単位構造を1つ以上含むものであることが好ましい。また、主鎖に含まれるアルキレングリコール鎖からなる繰り返し単位構造の上限は、たとえば、炭素数2〜3のアルキレングリコール鎖であれば、30以下であることが好ましく、炭素数4のアルキレングリコール鎖であれば、20以下であることが好ましい。
【0025】
脂肪族炭化水素基の置換基Rとしては、炭素数1〜99の炭化水素基(但し、ベンゼン環および/または複素環を含むものを除く)であればよいが、この炭化水素基の炭素数は1〜8の範囲内が好ましく、1〜4の範囲内がより好ましい。置換基Rの具体例としては、炭素数1〜8の直鎖状または分岐状のアルキル基等が挙げられる。
【0026】
脂肪族炭化水素基の具体例としては、下記構造式X1〜X4を挙げることができる。ここで、構造式X1〜X4中、aは2〜50の範囲から選択される整数を意味し、bは0〜30の範囲から選択される整数を意味し、cは0〜20の範囲から選択される整数を意味し、dは0〜15の範囲から選択される整数を意味する。また、下記構造式X1〜X4は、炭化水素基Xの価数が2価である場合について示す具体例であり、構造式X1〜X4中、*印で示す2つの結合手(1番目の結合手および2番目の結合手)は、一般式(1)中に示す炭化水素基Xと結合している基の酸素原子と結合するものである。
【0027】
【化3】
【0028】
なお、炭化水素基Xの価数が3価または4価である場合、3番目の結合手および4番目の結合手は、たとえば、構造式X1〜X4中において1番目の結合手を持つ炭素原子および/または2番目の結合手を持つ炭素原子に設けることができる。しかし、この場合、1つの炭素原子が、反応性官能基と結合するための結合手を2つ以上持つことになるため、特に酸性条件下では分子が不安定となり易い。したがって、構造式X1〜X4中において、1番目の結合手を持つ炭素原子および2番目の結合手を持つ炭素原子(構造式X1〜X4中、*印が付された炭素原子)の各々に対して、2価の分岐鎖Bを2つ接続して分岐させるか、あるいは、1番目の結合手を持つ炭素原子および2番目の結合手を持つ炭素原子のいずれかに対して、2価の分岐鎖Bを3つ接続して分岐させることが好ましい。この場合、2価の分岐鎖Bの一端が上記炭素原子に結合し、他端が反応性官能基と結合する結合手として利用される。なお、2価の分岐鎖Bとしては、主鎖の炭素数が1〜3の炭化水素基(たとえば、メチレン基などのアルキレン基)などが挙げられる。
【0029】
(2)炭化水素基Xが芳香族炭化水素基である場合、この芳香族炭化水素基を構成する芳香族基としては、i)ベンゼン環を1つのみ含む芳香族基、ii)ベンゼン環を2つ以上含みかついずれのベンゼン環も縮合している完全縮合型芳香族基(たとえば、2価のナフタレン基、2価のアントラセン基など)、iii)ベンゼン環を2つ以上含み、かつ、いずれのベンゼン環も、一のベンゼン環を構成するいずれかの炭素原子と他のベンゼン環を構成するいずれかの炭素原子とがσ結合により結合している非縮合型芳香族基(たとえば、2価のビフェニル基、2価のテルフェニル基など)、iv)上記ii)に示す分子構造とiii)に示す分子構造とが複合した分子構造を有する部分縮合型芳香族基(たとえば、2価のビナフタレン基など)、v)上記i)〜iv)のいずれかの芳香族基において、芳香族基を構成するベンゼン環の一部または全てを複素環(たとえば、ピリジン、フラン等)に置き換えた複素環含有芳香族基を挙げることができる。
【0030】
芳香族炭化水素基を構成する芳香族基の代表的な具体例としては、2価のベンゼン基(フェニレン基)、2価のビフェニル基、2価のナフタレン基などが挙げられ、これらの芳香族基の2つの結合手は、オルト位、メタ位あるいはパラ位のいずれであってもよい。
【0031】
芳香族炭化水素基は、芳香族基のみから構成されていてもよいが、2つ以上の芳香族基と、1つ以上の連結基とから構成されるものでもよい。ここで、連結基とは、一の芳香族基と他の芳香族基との間を接続する基、および/または、芳香族基と、炭化水素基Xに直接結合する酸素原子(一般式(1)中に示す炭化水素基Xの左隣に位置する酸素原子)との間を接続する基を意味し、いずれの場合においてもベンゼン環および/または複素環を含むものは除かれる。
【0032】
連結基は、主鎖の炭素数(但し、当該炭素数とは、主鎖を構成する炭素原子の一部または全部がヘテロ原子に置換されている場合は、主鎖を構成するヘテロ原子の数および炭素原子の数の総和を意味する)が1〜40の範囲内である基であり、置換基を有していてもよい。また、主鎖の炭素原子を置換するヘテロ原子としては酸素、窒素、硫黄等が挙げられる。ここで、一の芳香族基と他の芳香族基との間を接続する連結基Lの価数は2価、3価または4価から選択される。また、芳香族基と炭化水素基Xに直接結合する酸素原子との間を接続する連結基Lは2価、3価または4価から選択される。ここで、連結基Lの価数および連結基Lの価数は、一般式(1)に示すnが2〜4の範囲内となる範囲で適宜選択できる。たとえば、芳香族炭化水素基が、連結基Lおよび連結基Lを含む場合、連結基Lが2価であれば、芳香族炭化水素基の両末端に位置する2つの連結基Lの価数の組み合わせは、n=2であれば(2価,2価)、n=3であれば(3価、2価)、n=4であれば(3価、3価)あるいは(4価、2価)から選択でき、連結基Lが3価であれば、芳香族炭化水素基の3つの末端に各々位置する3つの連結基Lの価数の組み合わせは、n=3であれば(2価、2価、2価)、n=4であれば(3価、2価、2価)である。
【0033】
一の芳香族基と他の芳香族基との間を接続する連結基Lの具体例としては、−O−、−CR−、−CH<などが挙げられる。ここで、R、Rは水素またはメチル基であり、R、Rは同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
また、芳香族基と炭化水素基Xに直接結合する酸素原子との間を接続する連結基Lの具体例としては、連結基Lの価数が2価である場合には、*AR−CHR5−*、*AR−{O(CH)m}p−*、*AR−CHR5−{O(CH)m}p−*、*AR−C(=O)−{O(CH)m}p−*などが挙げられる。ここで、mは2〜4の範囲から選択される整数であり、pは1〜10の範囲から選択される整数であり、R5は水素または炭素数1〜6のアルキル基である。また、*ARで示す結合手は、芳香族炭化水素基を構成する芳香族基と直接結合する結合手を意味し、*で示す結合手は、一般式(1)中に示す炭化水素基Xに直接結合する酸素原子に対して直接結合する結合手を意味する。
【0035】
また、連結基Lの価数が3価である場合の具体例としては、下記構造式L2−31〜L2−35が挙げられ、連結基Lの価数が4価である場合の具体例としては下記構造式L2−41〜L2−44が挙げられる。ここで、これら構造式中、qは1〜9の範囲から選択される整数であり、R6は炭素数1〜6のアルキル基であり、R、R8、R9、R10、R11、R11、R12は、水素または炭素数1〜6のアルキル基である。また、m、R5は前述したものと同様である。
【0036】
【化4】
【0037】
【化5】
【0038】
芳香族炭化水素基の具体例としては、下記構造式X5〜X21を挙げることができる。ここで、構造式X5〜X21中、eは1〜10の範囲から選択される整数を意味する。また、下記構造式X5〜X21は、炭化水素基Xの価数が2価である場合について示す具体例であり、構造式X5〜X21中、*印で示す2つの結合手(1番目の結合手および2番目の結合手)は、一般式(1)中に示す炭化水素基Xと直接結合している酸素原子と結合するものである。
【0039】
【化6】
【0040】
【化7】
【0041】
【化8】
【0042】
なお、炭化水素基Xの価数が3価または4価である場合、構造式X5〜X9については、たとえば、構造式X5〜X9中に示すベンゼン環の炭素原子から伸びる2本の結合手の各々を、2つの2価の分岐鎖Bが接続されかつベンゼン環の炭素原子に結合した3級の炭素原子に置き換えるか、あるいは、構造式X5〜X9中に示すいずれか1本の結合手を、3つの2価の分岐鎖Bが接続されかつベンゼン環の炭素原子に結合した4級の炭素原子に置き換えることができる。あるいは、構造式X5〜X9中において、ベンゼン環を構成する炭素原子のうち、未だ結合手が設けられていない炭素原子に対して、新たな結合手を設けることもできる。また、構造式X10〜X21については、構造式X1〜X4と同様にして、1番目の結合手を持つ炭素原子および2番目の結合手を持つ炭素原子の各々に対して、2価の分岐鎖Bを2つ接続して分岐させるか、あるいは、1番目の結合手を持つ炭素原子および2番目の結合手を持つ炭素原子のいずれかに対して、2価の分岐鎖Bを3つ接続して分岐させることが好ましい。
【0043】
なお、連結基Lとしては、下記(a)および(b)を満たすものを用いることができるが、下記(a)および(b)を満たすものを除いたものから選択することもできる。
(a)連結基Lが炭化水素基X(芳香族炭化水素基)を構成するベンゼン環に結合している。
(b)連結基Lを構成するベンジル位の炭素原子に、少なくとも1つの水素原子と少なくとも1つのエーテル結合を形成している酸素原子(当該酸素原子は、連結基Lを構成する酸素原子、または、一般式(1)中に示す炭化水素基Xに直接結合する酸素原子のいずれかを意味する)とが結合している。
【0044】
ここで、上記(a)および(b)を満たす連結基Lの具体例としては、*ARで示される結合手がベンゼン環と結合している場合において、*AR−CHR5−*、*AR−CHR5−{O(CH)m}p−*、構造式L2−34、構造式L2−43などが挙げられる。
【0045】
なお、上記(a)および(b)を満たす連結基Lを含む芳香族炭化水素基(炭化水素基X)の具体例としては、構造式X14〜X19が該当する。また、炭化水素基Xとしては、構造式X1〜X4に例示されるような脂肪族炭化水素基、構造式X7〜X9に例示されるような芳香族基のみを含む芳香族炭化水素基、構造式X5〜X6に例示されるような芳香族基および連結基Lのみを含む芳香族炭化水素基、構造式X13、X21に例示されるような芳香族基および連結基Lのみを含む芳香族炭化水素基(連結基Lが上記(a)および(b)を満たす場合を除く)、ならびに、構造式X10〜X12、X20に例示されるような芳香族基、連結基Lおよび連結基Lを含む芳香族炭化水素基(連結基Lが上記(a)および(b)を満たす場合を除く)から選択してもよい。
【0046】
なお、炭化水素基Xとしては、芳香族基を含む芳香族炭化水素基であることが好ましい。この場合、炭化水素基の剛直性が向上するため、結果的に、本実施形態の重合性単量体を用いた硬化物の硬度をより向上させることが容易になる。
【0047】
なお、本実施形態の歯科用重合性単量体は、本実施形態の重合性単量体を含む歯科用組成物として利用することができる。しかしながら、歯科分野における様々な用途において利用する観点からは、本実施形態の重合性単量体とその他の材料とを主成分として含む歯科用組成物として用いることが好適である。この場合、この歯科用組成物に対してさらに重合開始剤を添加することで、歯科用硬化性組成物を調合してもよい。なお、本実施形態の重合性単量体を含む組成物が重合開始剤を含まない歯科用組成物である場合、この歯科用組成物(A剤)の使用に際しては、重合開始剤を含むその他の歯科用組成物(B剤)と組み合わせて使用することもできる。また、本実施形態の歯科用硬化性組成物(C剤)は、このC剤単体で利用することもできるが、C剤とその他の歯科用組成物(D剤)とを組み合わせて利用することができる。なお、B剤は2種類以上からなるものであってもよく、D剤も同様に2種類以上からなるものであってもよい。
【0048】
本実施形態の重合性単量体と共に用いられるその他の材料としては、特に限定されず、本実施形態の歯科用重合性単量体を含む歯科用組成物あるいは歯科用硬化性組成物の用途に応じて適宜選択することができる。その他の材料の具体例としては、たとえば、本実施形態の歯科用重合性単量体以外のその他の歯科用重合性単量体、樹脂、フィラー、有機−無機複合材料、上述した重合開始剤以外の各種の添加剤、溶媒等を挙げることができ、これら材料を2種類以上組み合わせて用いることもできる。
【0049】
しかしながら、本実施形態の歯科用重合性単量体と組み合わせて用いるその他の材料としては、特に、その他の歯科用重合性単量体が好ましい。ここで、その他の歯科用重合性単量体としては、公知の歯科用重合性単量体を制限なく用いることができ、たとえば、2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis−GMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(3G)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリエチレングリコール(平均重合度14)ジメタクリレート(14G)、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサン(UDMA)、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート(MDP)などの歯科用重合性単量体を用いることができる。
【0050】
本実施形態の重合性単量体を用いた硬化性組成物に用いる重合開始剤としては公知の歯科用途で利用されている重合開始剤を用いることができ、ラジカル型、カチオン型あるいはアニオン型の光重合開始剤や、アゾ系あるいは過酸化物系の熱重合開始剤など、各種の重合開始剤を適宜利用することができる。たとえば、光照射によって重合・硬化させる場合は、たとえば、カンファーキノンやp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの光重合開始剤を用いることができる。また、これらの重合開始剤は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。さらに、重合開始剤と共に、重合禁止剤や増感剤等のその他の添加物を併用することもできる。
【0051】
また、本実施形態の歯科用重合性単量体を用いた歯科用組成物あるいは歯科用硬化性組成物には、フィラーを添加することも好適である。フィラーを用いることで、重合収縮の抑制効果をより大きくすることができる。また、フィラーを用いることにより、硬化前の歯科用組成物あるいは歯科用硬化性組成物の操作性を改良したり、あるいは、硬化後の機械的物性の向上を図ることができる。フィラーとしては、たとえば、非晶質シリカ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、石英、アルミナ等の無機酸化物の粒子からなる無機フィラーを用いることができ、また、有機フィラーや、有機無機複合フィラーを用いることもできる。また、フィラーの粒径、形状は特に限定されないが、たとえば、球形状または不定形状で、平均粒子径0.01μm〜100μm程度の粒子を目的に応じて適宜使用することができる。また、これらのフィラーは、本実施形態の歯科用重合性単量体および必要に応じて併用されるその他の歯科用重合性単量体等のその他の材料とのなじみをよくし、機械的強度や耐水性を向上させる観点から、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていてもよい。
【0052】
なお、本実施形態の歯科用重合性単量体は、上述したように歯科分野であれば如何なる用途でも利用することが可能であるが、重合収縮の低さおよび高い機械的強度の双方が要求される用途に用いることが特に好ましい。このような観点からは、本実施形態の歯科用重合性単量体は、歯牙の窩洞に充填して使用される歯科用充填修復キットの充填修復材に用いられることが好ましい。この理由は、充填修復材には、(a)歯牙の窩洞内で硬化した充填修復材(硬化物)が、窩洞から脱落するのを抑制するために、重合収縮に起因した窩洞内壁と硬化物との剥離を抑制すること、すなわち優れた窩洞適合性が求められ、かつ、(b)窩洞内に配置された硬化物には、咀嚼時に加わる断続的な強い押圧力に対して破損し難いことも求められるためである。
【0053】
また、現在、広く利用されている歯科用充填修復キットは、充填修復材(コンポジットレジン)と、歯科用接着材(以下、単に「接着材」と略す場合がある)とを含む光硬化性歯科用充填修復キットである。そして、歯牙の治療に際しては、まず、接着材を窩洞の内壁に付与する第一ステップと、内壁に接着材が付与された窩洞内に充填修復材を充填する第二ステップとを含む。そして、第一ステップ終了後かつ第二ステップ開始前に接着材の硬化を目的とした光照射が必要に応じて実施され、第二ステップを終えた後に硬化を目的とした光照射が必ず実施される。なお、第二ステップ後の光照射は、第一ステップ終了後かつ第二ステップ開始前の光照射を省略する場合は、接着材および充填修復材の双方の硬化を目的として実施され、第一ステップ終了後かつ第二ステップ開始前の光照射を省略しない場合は、充填修復材の硬化を目的として実施される。また、接着材を塗布する前にプライマーで歯面を処理したり、リン酸等で予め脱灰処理しても良い。
【0054】
このような歯科治療プロセスにおいては、充填修復材は、接着材と親和性が高いことが好ましい。ここで、歯質に対する浸透性の高さ、脱灰作用、充填修復材と歯牙との接着力の確保などを確保する観点から、接着材としては、酸性物質と水とを含む親水性材料が用いられる。したがって、充填修復材と歯牙との接着力を更に向上させる観点からは、充填修復材に用いられる歯科用重合性単量体も高い親水性を有していることが好ましい。
【0055】
これに対して、本実施形態の歯科用重合性単量体は、炭化水素基Xに結合する反応性官能基(一般式(1)中のXの左側に示される基)に、親水性の高いエチレングリコール鎖構造が含まれる。したがって、本実施形態の歯科用重合性単量体を用いた充填修復材は、接着材との親和性も高いため、窩洞適合性を更に向上させることができる。また、本実施形態の歯科用重合性単量体は、上述したように親水性の高いエチレングリコール鎖構造を含むため、接着材に添加して用いることも好適である。歯質に対して直接付与される接着材には高い親水性が求められる上に、窩洞内壁と充填修復材の硬化物との間に位置する接着材層の重合収縮も抑制できるためである。
【0056】
なお、本実施形態の歯科用重合性単量体を用いた歯科用充填修復キットが、上述した充填修復材と、接着材とからなる2液型の光硬化性歯科用充填修復キットである場合、通常、充填修復材および接着材は、以下の組成物が用いられる。
【0057】
すなわち、充填修復材は、本実施形態の歯科用重合性単量体と光重合開始剤とを少なくとも含み、通常はフィラーがさらに含まれることが好ましい。また、これら材料に加えて、必要に応じてその他の歯科用重合性単量体や、その他各種の添加成分がさらに含まれていてもよい。なお、充填修復材が、本実施形態の歯科用重合性単量体とその他の歯科用重合性単量体とを含む場合、全歯科用重合性単量体に対する本実施形態の歯科用重合性単量体の配合割合は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。配合割合を50質量%以上とすることにより、充填修復材を硬化させた硬化物の曲げ強度をより高くできると共に、高い窩洞適合性を確保することもより容易になる。なお、フィラーおよび光重合開始剤としては既述したような公知の材料から適宜選択して用いることができる。また、その他の歯科用重合性単量体としてもトリエチレングリコールジメタクリレート(3G)など、既述したような公知のその他の歯科用重合性単量体を適宜選択して用いることができる。
【0058】
接着材は、酸性物質と水とを少なくとも含み、必要に応じてその他各種の添加成分がさらに含まれていてもよい。なお、酸性物質としては、10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート(MDP)などの酸性基含有重合性単量体や、リン酸、ビニルスルホン酸などの低分子の有機酸、塩酸などの無機酸等を適宜選択することができる。また、その他の添加成分としてイソプロピルアルコール(IPA)などの親水性有機溶媒や、光重合開始剤などが含まれていてもよい。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明は以下に示す実施例のみに限定されるものではない。以下に、各実施例および比較例のサンプルの作製に用いた物質の略称・略号およびその構造式または物質名と、各種サンプルの調整方法と、各種の評価方法とについて説明する。
【0060】
(1)略称・略号およびその構造式または物質名
[一般式(1)に示す重合性単量体]
【0061】
【化9】
【0062】
【化10】
【0063】
[その他の重合性単量体]
【0064】
【化11】
【0065】
【化12】
【0066】
【化13】
【0067】
【化14】
【0068】
ここで、D−2.6Eの構造式中の単位構造の繰り返し数i+jは平均値を意味し、個々の分子においてはi、jおよびその和の値は0以上の整数値を取り得るものである。
【0069】
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
【0070】
[水溶性重合性単量体]
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
14G:ポリエチレングリコール(平均重合度14)ジメタクリレート
【0071】
[光重合開始剤]
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
【0072】
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
HQME:ハイドロキノンモノメチルエーテル
【0073】
[無機フィラー]
F1:球状シリカ‐ジルコニア(平均粒径0.4μm)をγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したものと、球状シリカ‐ジルコニア(平均粒径0.07μm)γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより疎水化処理したものとを質量比70:30にて混合した混合物。
【0074】
(2)マトリックスモノマーの調製
主モノマー成分と希釈モノマー成分とを合わせて20gとなるように、各成分を所定量測りとり、暗所にて均一になるまで攪拌し、マトリックスモノマーを得た。
【0075】
(3)ペーストサンプルの調製
マトリックスモノマーを100質量部(3.3g)、無機フィラーF1を203質量部(6.7g)、CQ(カンファーキノン)0.3質量部、DMBE(p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル)0.7質量部、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)0.1質量部およびHQME(ハイドロキノンモノメチルエーテル)0.02質量部を測り取り、メノウ乳鉢で混合して混合物を得た。次に、この混合物を真空下、脱泡して気泡を取り除くことでペーストサンプルを得た。
【0076】
(4)窩洞適合性評価試験
牛を屠殺し、屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去した。抜去した牛前歯を、注水下、ダイヤモンドバーを用い、唇面に直径約4mm、深さ約2mmの窩洞を形成した。次に、窩洞に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させ、接着材(ボンドフォース、トクヤマデンタル社製)を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光を10秒間照射した。更にその上に調製したペーストサンプル(コンポジットレジン)を充填し、可視光線照射器により可視光を30秒間照射してペーストサンプル(コンポジットレジン)を硬化させた。そして、これらの処理によって接着試験片を得た。
【0077】
次に、この接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、ダイヤモンドカッターをもちいて、上記窩洞の中央部分を窩洞の底面にたいして垂直に切断し、切断面を#1500のエメリーペーパーおよび#3000のエメリーペーパーで次いで研磨した。続いて、レーザー顕微鏡(VK−9700、キーエンス社製)により研磨面を観察し、ペーストサンプル(コンポジットレジン)の硬化物と窩洞内壁との接着界面の剥離の有無を確認した。この際、硬化物と窩洞内壁との接着界面の全長に対して、剥離が生じている部分の長さの割合(剥離率%)を、窩洞適合性として評価した。
【0078】
(5)曲げ強さの測定
JIS T 6514によって規定される、クラス2の歯科充填用コンポジットレジンに対する曲げ強さ測定法に従い測定した。尚、測定には万能試験機(オートグラフ、株式会社島津製作所製)を用いた。
【0079】
(6)主モノマーの合成
マトリックスモノマーサンプルの調整に際して用いた主モノマーのうち、一般的な歯科用重合性単量体であるUDMA、Dis−GMA、D−2.6E、14Gを除く歯科用重合性単量体については、以下の手順で合成した。
【0080】
<EGI−1の合成>
20mlのジメチルホルムアミドに、11.8g(0.1mol)の1,6−ヘキサンジオールおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液Aに、41.0g(0.21mol)の2−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナートを加えることで溶液Bを得た。続いて、この溶液Bを室温にて3時間攪拌した。攪拌し終えた溶液Bに対して50mlの塩化メチレンを加えて、分液ロートを用いて蒸留水で3回洗浄し、回収した塩化メチレン層を硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥後、硫酸マグネシウムを濾別し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮物を更に真空乾燥して、EGI−1(50.9g、収率99%)を得た。なお、得られたEGI−1のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.28(t,4H),1.57(t,4H)),1.93(s,6H),3.38(m,4H),3.57(t,4H),3.69(t,4H),4.08(t,4H),4.29(t,4H),5.55(m,2H),6.11(s,2H),8.00(s,2H)
【0081】
<EG−2の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、14.4g(0.1mol)のシクロヘキサン−1,3−ジメタノールおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用いた以外は、EGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、EGI−2(54.0g、収率100%)を得た。なお、得られたEGI−2のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.36−1.45(m,8H),1.93(s,6H),2.03(m,2H)、3.38(m,4H),3.57(t,4H),3.69(t,4H),4.29(t,4H),4.05(d,4H),5.55(m,2H),6.11(s,2H),8.01(s,2H)
【0082】
<EGI−3の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、13.8g(0.1mol)のm−キシリレンジメタノールおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用いた以外は、EGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、EGI−3(54.0g、収率100%)を得た。なお、得られたEGI−2のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.93(s,6H),3.38(m,4H),3.57(t,4H),3.69(t,4H),4.29(t,4H),5.14(s,4H),5.55(m,2H),6.11(s,2H),7.12(m,4H),8.01(s,2H)
【0083】
<EGI−4の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、16.0g(0.1mol)の1,5−ジヒドロキシナフタレンおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用いた以外は、EGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、EGI−4(55.1g、収率99%)を得た。なお、得られたEGI−4のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.93(s,6H),3.40(m,4H),3.58(t,4H),3.70(t,4H),4.30(t,4H),5.55(m,2H),6.12(s,2H),6.62(d,2H),7.23(t,2H),7.75(d、2H),8.01(s,2H)
【0084】
<EGI−5の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、23.0g(0.1mol)のビス(4−ヒドロキシメチルフェニル)エーテルおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用いた以外は、EGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、EGI−5(61.0g、収率97%)を得た。なお、得られたEGI−5のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.94(s,6H),3.38(m,4H),3.56(t,4H),3.70(t,4H),4.29(t,4H),5.07(s,4H),5.55(m,2H),6.11(s,2H),6.98(d,4H),7.33(d、4H),8.01(s,2H)
【0085】
<EGI−6の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、16.8g(0.1mol)の1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼンおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して2−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアナートの添加量を61.8g(0.31mol)に変更した以外は、EGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、EGI−6(76.2g、収率99%)を得た。なお、得られたEGI−6のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.93(s,9H),3.38(m,6H),3.57(t,6H),3.69(t,6H),4.29(t,6H),5.12(s,6H),5.55(m,3H),6.11(s,3H),7.05(s,3H),8.01(s,3H)
【0086】
<MOI−1>
EGI−1の合成に際して用いた溶液Aに、32.6g(0.21mol)の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを加えて調製した溶液Bを用いた以外は、EGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、MOI−1(42.7g、収率100%)を得た。なお、得られたMOI−1のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.29(t,4H),1.58(t,4H)),1.94(s,6H),3.51(m,4H),4.06(t,4H),4.23(t,4H),5.58(m,2H),6.10(s,2H),8.01(s,2H)
【0087】
<MOI−2>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、14.4g(0.1mol)のシクロヘキサン−1,3−ジメタノールおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに32.6g(0.21mol)の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、MOI−2(45.1g、収率99%)を得た。なお、得られたMOI−2のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.36−1.45(m,8H),1.29(t,4H),1.58(t,4H)),1.94(s,6H),2.03(m,2H)、3.51(m,4H),4.06(t,4H),4.23(t,4H),5.58(m,2H),6.10(s,2H),8.00(s,2H)
【0088】
<MOI−3の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、13.8g(0.1mol)のm−キシリレンジメタノールおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに32.6g(0.21mol)の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、MOI−3(44.0g、収率98%)を得た。なお、得られたMOI−3のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.94(s,6H),2.03(m,2H)、3.51(m,4H),4.06(t,4H),4.23(t,4H),5.14(s,4H),5.55(m,2H),6.11(s,2H),7.12(m,4H),8.01(s,2H)
【0089】
<MOI−4の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、16.0g(0.1mol)の1,5−ジヒドロキシナフタレンおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに32.6g(0.21mol)の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、MOI−4(55.1g、収率99%)を得た。なお、得られたMOI−4のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ ,1.93(s,6H),3.40(m,4H),4.30(t,4H),5.55(m,2H),6.12(s,2H),6.62(d,2H),7.23(t,2H),7.75(d、2H),8.01(s,2H)
【0090】
<MOI−5の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、23.0g(0.1mol)のビス(4−ヒドロキシメチルフェニル)エーテルおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに32.6g(0.21mol)の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、MOI−5(56.0g、収率96%)を得た。なお、得られたMOI−5のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.94(s,6H),3.51(m,4H),4.23(t,4H),5.08(s,4H),5.58(m,2H),6.10(s,2H),6.98(d,4H),7.33(d、4H),8.01(s,2H)
【0091】
<MOI−6>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、16.8g(0.1mol)の1,3,5−トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼンおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに48.1g(0.31mol)の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナートを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、MOI−6(62.0g、収率98%)を得た。なお、得られたMOI−6のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.93(s,9H),3.40(m,6H),4.31(t,6H),5.12(s,6H),5.55(m,3H),6.12(s,3H),7.05(s,3H),8.01(s,3H)
【0092】
<PCI−1>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、27.3g(0.21mol)の2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに16.8g(0.1mol)のヘキサン−1,6−ジイソシアネートを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、PCI−1(42.5g、収率99%)を得た。なお、得られたPCI−1のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.28(m,4H),1.56(m,4H),1.93(s,6H),3.02(m,4H),4.32(t,4H),4.42(t,4H),5.55(m,2H),6.12(s,2H),8.00(s,2H)
【0093】
<PIC−2の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、27.3g(0.21mol)の2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに19.4g(0.1mol)の1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、PCI−2(44.1g、収率97%)を得た。なお、得られたPCI−2のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.32−1.44(m,8H),2.06(m,2H),1.93(s,6H),2.91(m,4H),4.32(t,4H),4.42(t,4H),5.55(m,2H),6.12(s,2H),8.00(s,2H)
【0094】
<PIC−3の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、27.3g(0.21mol)の2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに18.8g(0.1mol)の1,3−ビス(イソシアネートメチル)ベンゼンを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、PCI−3(44.6g、収率99%)を得た。なお、得られたPCI−3のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.93(s,6H),2.91(m,4H),4.21(d,4H)、4.32(t,4H),4.42(t,4H),5.55(m,2H),6.12(s,2H),6.86(m,3H),7.04(t,1H),8.00(s,2H)
【0095】
<PIC−4の合成>
溶液Aとして、20mlのジメチルホルムアミドに、27.3g(0.21mol)の2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび0.32g(0.5mmol)のジブチルチンジラウレートを溶解させた溶液を用い、かつ、溶液Bの調整に際して、溶液Aに21.0g(0.1mol)のナフタレン−1,5−ジイソシアネートを添加した以外はEGI−1の合成手順と同様にして合成を行うことで、PCI−4(46.3g、収率98%)を得た。なお、得られたPCI−4のH NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
H NMR δ 1.93(s,6H),2.91(m,4H),4.34(t,4H),4.42(t,4H),5.55(m,2H),6.11(s,2H),6.53(d,2H),7.15(m,4H)8.01(s,2H)
【0096】
(7)サンプルの評価
(実施例1〜6および比較例1〜15)
表1および表2に示す組成を有するマトリックスモノマーおよびペーストサンプルを調整し、各実施例および比較例のペーストサンプルについて窩洞適合性および曲げ強度を評価した。結果を表1に示す
【0097】
【表1】