(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、実施形態に係る電子線装置100の構成例を示す図である。電子線装置100は、電子線を試料200に照射することで試料200を処理する。本例の電子線装置100は、測長用走査型電子顕微鏡(CD−SEM)である。ただし電子線装置100は、CD−SEMに限定されない。電子線装置100は、他の種類の走査型電子顕微鏡、電子線露光装置等の、ステージ上に試料を載置して移動する多様な電子線装置であってよい。
【0010】
本例の電子線装置100は、筐体10、電子銃12、集束レンズ14、偏向コイル16、対物レンズ18、検出器20、ビーム制御部22、信号処理部24、ステージ制御部26およびステージ装置30を備える。筐体10は、電子銃12、集束レンズ14、偏向コイル16、対物レンズ18、検出器20、ステージ装置30および試料200を密閉する。
【0011】
電子銃12、集束レンズ14、偏向コイル16および対物レンズ18は、試料200に電子線を照射する照射部として機能する。電子銃12は、印加されるエネルギーに応じて電子を放出する。電子銃12には、ステージ装置30の方向に電子を加速させる電圧が印加される。集束レンズ14は、電子銃12の近傍に設けられ、電子銃12が放出した電子を集束させて電子線を形成する。
【0012】
偏向コイル16は、集束レンズ14が集束させた電子線の偏向方向を制御する。つまり偏向コイル16は、試料200において電子線が照射される位置を制御する。対物レンズ18は、偏向コイル16が集束させた電子線の焦点位置を制御する。例えば対物レンズ18は、試料200の表面に電子線の焦点をあわせる。
【0013】
ビーム制御部22は、集束レンズ14、偏向コイル16および対物レンズ18を制御する。例えばビーム制御部22は、偏向コイル16を制御して、試料200表面の所定の領域内で電子線を走査させる。
【0014】
ステージ装置30は、電子線により処理される試料200を載置して移動する。例えばステージ装置30は、水平方向および垂直方向に移動可能である。これにより、試料200において電子線が照射されるおおまかな位置を調整する。ステージ制御部26は、ステージ装置30の移動を制御する。
【0015】
試料200は、電子線が照射されると二次電子を放出する。検出器20は、試料200が放出した二次電子を、電子線の照射位置(すなわち、偏向コイル16における偏向量)毎に検出する。信号処理部24は、検出器20が検出した二次電子に応じて、試料200表面の状態を示す画像を形成する。
【0016】
図2Aおよび
図2Bは、ステージ装置30の構成例を示す図である。
図2Aは、ステージ装置30および試料200の側面を示す図である。
図2Bは、ステージ装置30において試料200が載置される側の表面を示す図である。ステージ装置30は、絶縁基板32、正側電極36−1、負側電極36−2、複数の支持部34、正側電源38−1および負側電源38−2を備える。
【0017】
絶縁基板32は、絶縁材料で形成される。また、絶縁基板32は、ステージ制御部26により水平方向および垂直方向に移動される。絶縁基板32の表面には、正側電極36−1、負側電極36−2および複数の支持部34が設けられる。なお本明細書において、絶縁基板32および試料200等の部材の表面とは電子銃12側の面を指し、裏面とは筐体10の底部側の面を指す。
【0018】
正側電極36−1および負側電極36−2は、互いに分離して設けられ、チャック用電極として機能する。つまり正側電極36−1および負側電極36−2に電圧が印加されると、正側電極36−1および負側電極36−2の表面と、試料200の裏面とに逆極性の電荷が集まる。当該電荷の静電力により、試料200がステージ装置30に吸着される。本例のステージ装置30は、双極型のチャック用電極を有しているが、ステージ装置30は、絶縁基板32の表面に正側電極または負側電極の一方だけを設けた単極型のチャック用電極を有してもよい。
【0019】
静電チャックで試料200を吸着するので、電子線装置100は、裏面における摩擦係数が比較的に小さい試料200であっても、ステージ装置30の移動中のスリップを防ぐことができる。例えば試料200は、EUV(Extreme Ultra Violet)露光用のマスクである。この場合、試料200の裏面に露出する層202は、例えば窒化クロムである。
【0020】
正側電源38−1は、正側電極36−1の基準電位に対する電位を設定する。負側電源38−2は、負側電極36−2の基準電位に対する電位を設定する。本例において基準電位は接地電位である。本例の正側電源38−1および負側電源38−2は直列に接続され、その接続点に接地電位が与えられる。
【0021】
正側電極36−1および負側電極36−2は、絶縁基板32の表面に露出して設けられる。つまり正側電極36−1および負側電極36−2と、試料200の裏面との間には、空間が設けられる。チャック用電極が絶縁基板32に埋め込まれている場合、試料200の直下に誘電体が配置される。このため、電子線等により当該誘電体がチャージアップされると、試料200に精度よく電子線を照射することができなくなる。本例のステージ装置30は、試料200の直下に空間が設けられ、正側電極36−1および負側電極36−2が露出して設けられているので、上述の誘電体のチャージアップといった問題は発生しない。
【0022】
複数の支持部34は、絶縁基板32の表面に設けられる。それぞれの支持部34は、互いに離間して設けられる。本例のステージ装置30は、
図2Bに示すように3個の支持部34を有する。本例では、絶縁基板32の表面形状は矩形であり、矩形の3辺にそれぞれ支持部34が設けられる。
【0023】
複数の支持部34は、試料200と正側電極36−1および負側電極36−2との間に空間ができるように、試料200を支持する。つまり、支持部34の頂部が、正側電極36−1および負側電極36−2の表面よりも高くなるように支持部34が設けられる。頂部とは、支持部34において最も高い位置にある面または点を指す。本明細書において方向を特に明示しない場合、高さは絶縁基板32の表面と垂直な方向における位置を指す。
【0024】
支持部34は、正側電極36−1および負側電極36−2よりも厚くてよい。本例において支持部34は、頂部の面積が底部の面積より小さい。支持部34の頂部は、ほぼ点であってよい。また、支持部34の先端部は、絶縁材料で形成される。例えば先端部は、サファイアで形成される。支持部34の先端部は、支持部34において試料200と接触する頂部を含む部分を指す。
【0025】
本例のステージ装置30によれば、離間した複数の支持部34で試料200を支持するので、ステージ装置30と試料200との接触面積を減らすことができ、パーティクルの発生を低減することができる。また、静電チャックにより試料200をステージ装置30に吸着するので、摩擦係数の小さい試料200に対しても、ステージの移動速度を落とさずにスリップを防止することができる。このためスループットが向上する。また、支持部34により、試料200と絶縁基板32との間に空間が形成されるので、絶縁基板32の表面に正側電極36−1および負側電極36−2を露出して設けることができる。これにより、静電チャックにより試料200を固定しつつ、試料200の直下におけるチャージアップを防ぐことができる。
【0026】
また、支持部34は、試料200がたわまないように配置されることが好ましい。ただし、電子線装置100がCD−SEMの場合、試料200が垂直方向にたわんだ場合であっても、水平方向の測長精度には影響しない。
【0027】
図3Aおよび
図3Bは、ステージ装置30の他の構成例を示す図である。
図3Aは、ステージ装置30および試料200の側面を示す。
図3Bは、ステージ装置30において試料200が載置される側の表面を示す。
【0028】
本例のステージ装置30は、
図2Aおよび
図2Bに示したステージ装置30の構成に加え、ガードリング40を更に備える。ガードリング40は、正側電極36−1および負側電極36−2を囲んで設けられる。ガードリング40は、正側電極36−1および負側電極36−2から離れて形成される。ステージ装置30は、
図3Aおよび
図3Bに示すように、正側電極36−1および負側電極36−2をまとめて囲む1つのガードリング40を有してよく、正側電極36−1および負側電極36−2をそれぞれ囲む2つのガードリング40を有してもよい。
【0029】
ガードリング40には、基準電位が与えられる。当該基準電位は、正側電源38−1および負側電源38−2の基準電位と同一である。これにより、正側電極36−1および負側電極36−2に電圧を印加したことにより生じる電界の漏れを抑制して、電子線を精度よく制御することができる。
【0030】
ガードリング40は、絶縁基板32の表面に露出して設けられる。また、ガードリング40は、試料200と接しないように設けられる。つまり、ガードリング40の高さは、支持部34よりも低い。
【0031】
本例のガードリング40は、正側電極36−1および負側電極36−2と、複数の支持部34との間に設けられる。他の例では、ガードリング40は、複数の支持部34の外側に設けられてもよい。
【0032】
図4は、ステージ装置30の他の構成例を示す図である。本例のステージ装置30は、
図2Aおよび
図2Bに示したステージ装置30の構成に加え、支持部電位制御部42を更に備える。また、本例において複数の支持部34は、導電材料で形成される。支持部電位制御部42は、複数の支持部34の、接地電位に対する電位を制御する。これにより、試料200の電位を設定することができる。なお本例では、正側電源38−1および負側電源38−2の接続点がフローティングとなる。
【0033】
本例の複数の支持部34には、同一の電位が設定される。本例の支持部電位制御部42は、接地電位と、複数の支持部34との間に設けられた可変電源である。他の例では、それぞれの支持部34の電位を個別に設定する複数の支持部電位制御部42が設けられてもよい。
【0034】
それぞれの支持部34は、導電材料のみで形成されなくともよい。支持部34は、試料200と支持部電位制御部42とを電気的に接続できれば、絶縁材料を含んでいてもよい。本例のステージ装置30によれば、支持部34で試料200を支持することでパーティクルの発生を抑制しつつ、支持部34の電位を制御することで簡単な構成で試料200の電位を制御することができる。
【0035】
図5は、ステージ装置30の他の構成例を示す図である。本例のステージ装置30は、
図4に示したステージ装置30の構成に加え、ガードリング40を更に備える。ガードリング40は、
図3Aおよび
図3Bにおいて説明したガードリング40と同一である。本例の支持部電位制御部42は、ガードリング40の電位を、複数の支持部34の電位とあわせて制御する。これにより、試料200の裏面の電位を設定しつつ、電界の漏れを低減することができる。なお、支持部電位制御部42は、ガードリング40の電位と、複数の支持部34の電位とを別個に制御してもよい。
【0036】
ガードリング40および複数の支持部34とは接していてもよい。複数の支持部34は、ガードリング40の外周または内周と接していてよく、ガードリング40の表面に形成されてもよい。
【0037】
図6は、ステージ装置30の他の構成例を示す図である。本例のステージ装置30は、
図2Aおよび
図2Bに示したステージ装置30の構成に加え、基準電源44および電源制御部50を更に備える。
【0038】
基準電源44は、正側電源38−1および負側電源38−2の接続点における基準電位を制御する。本例の基準電源44は、当該接続点と、接地電位との間に設けられた可変電源である。これにより、正側電源38−1および負側電源38−2の基準電位を設定することができる。電源制御部50は、基準電源44の電圧を制御する。
【0039】
図7は、正側電源38−1、負側電源38−2、試料200と正側電極36−1との間の容量C1、および、試料200と負側電極36−2との間の容量C2の等価回路を示す図である。また、試料200の電位をVa、正側電源38−1の電圧をV1、負側電源38−2の電圧をV2、基準電源44の電圧をVosとする。
【0040】
容量C1の電荷Q1および容量C2の電荷Q2は、下式で与えられる。
Q1=C1(Vos+V1−Va)
Q2=C2(Va−Vos+V2)
試料200にチャージアップが無ければ、−Q1+Q2=0となる。従って、
−C1(Vos+V1−Va)+C2(Va−Vos+V2)=0
つまり、
Va=Vos+(C1V1−C2V2)/(C1+C2)・・・式(1)
となる。なお、C1=C2、V1=V2の場合、Va=Vosとなる。
【0041】
電源制御部50は、試料200に設定すべき電位Vaに基づいて、基準電源44の電圧Vosを制御する。上述したように、C1=C2、V1=V2の場合、電源制御部50は、試料200に設定すべき電位Vaに等しい電圧Vosを、基準電源44に設定する。
【0042】
また、電源制御部50は、容量C1および容量C2に基づいて、基準電源44の電圧を制御してもよい。この場合、電源制御部50は、試料200に設定すべき電位Vaに更に基づいて、式(1)に従って基準電源44の電圧を制御してよい。なお、電圧V1およびV2は既知である。
【0043】
ステージ装置30は、容量C1および容量C2を測定する測定部を更に備えてよい。当該測定部は、新たな試料200を処理する場合に、容量C1および容量C2を測定してよい。電源制御部50は、当該測定部の測定結果に基づいて、基準電源44の電圧を制御する。当該測定部は、正側電極36−1および負側電極36−2のそれぞれの面積を検出して、当該面積に基づいて容量C1および容量C2を算出してよい。
【0044】
図8は、支持部34の構造例を示す図である。本例の支持部34は、先端部46および調整部48を有する。先端部46は、試料200と接触する。本例の先端部46は、錘形状を有する。調整部48は、先端部46の高さを調整する。例えば調整部48は、複数の層を積層することで先端部46の高さを調整する。それぞれの支持部34における調整部48の層数は、先端部46の高さのバラツキを調整するように設定される。これにより、試料200を水平に保持することができる。
【0045】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0046】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。