特許第6225059号(P6225059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6225059
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】天井の落下防止構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/18 20060101AFI20171023BHJP
   E04B 9/20 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   E04B9/18 E
   E04B9/20 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-70921(P2014-70921)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-190301(P2015-190301A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 孝
(72)【発明者】
【氏名】東 裕明
(72)【発明者】
【氏名】末本 直己
(72)【発明者】
【氏名】海野 功
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−177801(JP,A)
【文献】 実開昭55−082410(JP,U)
【文献】 特開平06−193183(JP,A)
【文献】 特開2008−121371(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3172917(JP,U)
【文献】 特開平06−073833(JP,A)
【文献】 特開平08−232454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 9/18
E04B 9/20
E04B 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面に天井パネルが取り付けられる複数の野縁及びこの野縁の上に略直交して結合される複数の野縁受けと、この野縁受けを吊支する複数の吊ボルトとを備える天井において、天井パネルの下面に配置されて前記野縁受けと略平行な方向へ延びる支持材と、前記天井パネルに開設した貫通孔に挿通されると共に上部が前記野縁受けに掛止され下部が前記支持材の下面に当接される吊金具を備えることを特徴とする天井の落下防止構造。
【請求項2】
吊金具は、天井パネルに開設された貫通孔に挿通されて上端が野縁受けに掛止可能な屈曲形状のフックが形成され下部に雄螺子が形成された軸部材と、前記雄螺子に螺合されるナットと、前記軸部材の周りに回転可能かつ軸方向移動可能に設けられると共に前記ナットによって支持材に押し付けられる受け板からなるものであり、前記貫通孔が、前記フックを通すことが可能なスリット状をなすことを特徴とする請求項1に記載の天井の落下防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井パネルが取り付けられる野縁と野縁受けからなる天井下地材を吊りボルトによって吊支した天井であって、特に、既存天井の落下防止に有用な構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鉄筋コンクリート造のオフィスビル、商業施設などの建物の天井には、吊り天井が多く用いられている。この種の天井は、所定間隔で水平かつ互いに平行に並設される複数の野縁と、この野縁と直交する方向へ延び、水平かつ互いに平行に並設されると共に前記複数の野縁の上に金具(クリップ)を介して結合される複数の野縁受けによって天井下地材を構築し、この天井下地材を、下端が前記野縁受けに金具(ハンガー)を介して結合されると共に上端が上階の床スラブ等に固定される複数の吊りボルトによって吊支し、下階の天井面を形成する天井パネルを前記野縁の下面にビス等によって一体に取り付けた構造となっている(例えば下記の特許文献1参照)。
【0003】
また、従来このような構造の既存の天井は、地震発生時に大きく横揺れすると、その端部が壁などに衝突して、その衝撃によって天井パネルやそれを取り付けた野縁が落下するおそれがある。そして、このような落下事故を防止するための方策としては、天井パネルの下面に防護ネットを設置したり(例えば下記の特許文献2参照)、天井裏空間にワイヤを設置して二次部材で野縁などを緊結したり、補強金具で野縁と野縁受けの結合部を補強すること(例えば下記の特許文献3参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291761号公報
【特許文献2】特開2013−087530号公報
【特許文献3】特開2013−085002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、天井の下面に防護ネットを設置することは、外観上好ましいとは言えないものであり、ワイヤや補強金具で野縁と野縁受けの結合部などを緊結して補強する方法は、天井裏空間内での工事となるため、施工の際に天井内足場などの設置が必要となり、しかも施工対象個所が多いため、工期が長くなったり費用がかさんだりするといった問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、天井の外観を損なわず、かつ工期が長くなったり費用がかさんだりせずに施工することの可能な天井の落下防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る天井の落下防止構造は、下面に天井パネルが取り付けられる複数の野縁及びこの野縁の上に略直交して結合される複数の野縁受けと、この野縁受けを吊支する複数の吊ボルトとを備える天井において、天井パネルの下面に配置されて前記野縁受けと略平行な方向へ延びる支持材と、前記天井パネルに開設した貫通孔に挿通されると共に上部が前記野縁受けに掛止され下部が前記支持材の下面に当接される吊金具を備えるものである。
【0008】
請求項1の構成によれば、吊金具は、支持材を介して天井パネルを野縁受けに吊支するものであり、言い換えれば、野縁とその下面に取り付けられた天井パネルを野縁受けと支持材との間に挟み込んだ状態に設けることによって、野縁からの天井パネルの分離あるいは野縁受けからの野縁の分離による落下を防止するものである。そしてこの吊金具は、天井パネルの下側から、この天井パネルに開設した貫通孔を通して上部を野縁受けに掛止させると共に、下部を天井パネルの下面に配置した支持材に当接させることで取り付けることができる。
【0009】
請求項2の発明に係る天井の落下防止構造は、請求項1に記載された構成において、吊金具は、天井パネルに開設された貫通孔に挿通されて上端が野縁受けに掛止可能な屈曲形状のフックが形成され下部に雄螺子が形成された軸部材と、前記雄螺子に螺合されるナットと、前記軸部材の周りに回転可能かつ軸方向移動可能に設けられると共に前記ナットによって支持材に押し付けられる受け板からなるものであり、前記貫通孔が、前記フックを通すことが可能なスリット状をなすものである。
【0010】
請求項2の構成によれば、天井パネルに開設したスリット状の貫通孔を通して軸部材のフックを野縁受けの高さ以上まで押し上げてから、これを適当に回転させながら野縁受けに引っ掛け、軸部材の下部の雄螺子にナットで受け板を支持材に締め付けることによって、野縁とその下面に取り付けられた天井パネルを野縁受けと支持材との間に挟み込んだ状態に設けることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る天井の落下防止構造によれば、吊金具によって、支持材を介して天井パネル及び野縁を野縁受けに懸吊するものであるため、地震などによる野縁及び天井パネルの落下事故を有効に防止することができる。そして天井パネルの下側から、この天井パネルに開設した貫通孔を通して吊金具の上部を野縁受けに掛止させ、下部を天井パネルの下面に配置した支持材に緊結することで施工されるため、天井内足場などの設置が不要であり、工期や費用を軽減することができ、しかも防護ネットのように天井の下面全体を覆うものではないため、外観を損なわない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る天井の落下防止構造の好ましい実施の形態を、室内空間と共に示す説明図である。
図2】本発明に係る天井の落下防止構造の好ましい実施の形態を示す要部断面図である。
図3】本発明に係る天井の落下防止構造の好ましい実施の形態を示す要部下面図である。
図4】本発明に係る天井の落下防止構造の好ましい実施の形態において、天井パネルに開設した貫通孔へ吊金具の上部を挿入する作業を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る天井の落下防止構造の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。まず図1において、参照符号1は天井、参照符号100は鉄骨鉄筋コンクリート造などの建物における躯体スラブ、101は建物における壁面、102は天井1の外周部の下面に沿ってと壁面101に設けた天井廻縁、103は床面、104は壁面101の下部に設けた幅木(蹴込)、S1は天井1の下側の室内空間、S2は天井1の上側の天井裏空間である。
【0014】
天井1は、既設の天井であって吊天井構造となっており、図1及び図2に示すように、躯体スラブ100に垂設した多数の吊りボルト11の下端に吊金具であるハンガー12を介してめっき鋼板等を断面コ字形に成形した棒状の複数の野縁受け13を水平かつ互いに平行に吊支し、この野縁受け13の下に、不図示の結合金具を介してめっき鋼板等を断面コ字形に成形した棒状の複数の野縁14を直交するように、水平かつ互いに平行に取り付けることによって、格子状の天井下地材を構築し、野縁14の下面に耐火ボードからなる多数の天井パネル15を互いに縦横に並べて敷き詰めた状態に取り付けたものである。なお、参照符号16は天井1に取り付けられた照明器具である。
【0015】
天井1の天井パネル15の下面には、複数の細長い支持材2が互いに平行に配置されている。この支持材2は、例えばCFRPラミネート(炭素繊維板)、軽量鉄骨、鋼板などから選択された材料からなるものであって、図3に示すように、野縁受け13と略平行な方向(野縁14と略直交する方向)へ延びている。
【0016】
支持材2は、それぞれその長手方向複数個所で、吊金具3によって野縁受け13に吊支されている。詳しくは、この吊金具3は、図2及び図4などに示すように、天井パネル15に開設された貫通孔15aに挿通されて上端が野縁受け13に掛止可能な屈曲形状のフック31aが形成され下部に雄螺子31bが形成された軸部材31と、この軸部材31の雄螺子31bに螺合されるナット(好ましくはダブルナット)32と、軸部材31の下部の周りに回転可能かつ軸方向移動可能に設けられると共にナット32によって支持材2の下面に押し付けられる受け板33と、ナット32と受け板33の間に介在されるワッシャ34からなるものである。軸部材31は、野縁受け13の上面と天井パネル15の下面との距離h(図2参照)よりも、少なくともナット32とワッシャ34と受け板33の厚さの和以上長いものとなっている。
【0017】
天井パネル15の貫通孔15aは、吊金具3の軸部材31のフック31aを通すことが可能で支持材2(言い換えれば野縁受け13)の長手方向に細長いスリット状をなし、図3及び図4に示すように、野縁受け13の縁の真下に位置して開設されている。
【0018】
上記構成を備える天井の落下防止構造によれば、吊金具3は、支持材2を介して天井パネル15を、吊りボルト11によって躯体スラブ100に吊支された野縁受け13に懸吊するものであり、すなわち、野縁14とその下面に取り付けられた天井パネル15を、野縁受け13と支持材2の間に挟み込んだ状態に設けることによって、野縁14からの天井パネル15の脱落あるいは野縁受け13からの野縁14の脱落による落下を防止するものである。したがって、地震によって天井1が大きく揺れた場合に、野縁14及び天井パネル15が落下するのを有効に防止し、安全性を高めることができる。
【0019】
しかも支持材2は防護ネットのように天井パネル15の下面を覆うものではないため、下側(室内空間S1)から見た外観を損なわないものであり、吊金具3は、溶接部などが存在しないため、安価に提供することができる。
【0020】
上記構成を備える天井の落下防止構造によって、既存の天井の耐震性を向上させるには、図3に示すように、天井パネル15の下面に、支持材2を野縁受け13と略平行に配置し、この支持材2に沿って、図4に示すように、細長いスリット状の貫通孔15aを天井パネル15に開設する。なお好ましくは、支持材2は接着剤もしくは他の適切な手段によって天井パネル15の下面に仮止めしておく。
【0021】
次に、野縁受け13と支持材2の間に吊金具3を取り付ける。詳しくは、軸部材31には予めナット32、ワッシャ34及び受け板33を組み込んでおき、図4に示すように、軸部材31の上部のフック31aを、天井パネル15に開設されたスリット状の貫通孔15aを通して、天井裏空間S2内へ挿入し、野縁受け13の高さ以上まで押し上げてから、軸部材31を適当に回転させることによって、図2に示すようにフック31aを野縁受け13に引っ掛ける。軸部材31は、野縁受け13の上面と天井パネル15の下面との距離hよりもやや長いため、軸部材31の雄螺子31bは、天井パネル15の貫通孔15aから下側へ突出した状態となる。
【0022】
そして、軸部材31の雄螺子31bに組み込まれた受け板33を支持材33の下側に位置するように適宜回転させ、この受け板33をナット32で支持材33に締め付けることによって、吊金具3は、野縁14とその下面に取り付けられた天井パネル15を野縁受け13に懸吊した状態、言い換えれば野縁受け13と支持材2との間に挟み込んだ状態に取り付けられる。
【0023】
したがって、これらの作業はすべて天井1の下側、すなわち室内空間S1で行うことができるため、天井裏空間S2への天井内足場などの設置が不要であり、工期や費用を軽減することができる。また、ナット32はダブルナットとすることによって、緩んだり脱落したりすることがなく、受け板33をしっかりと支持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明による天井の耐震構造は、既存天井の耐震補強工事において好適に実施することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 天井(既存天井)
13 野縁受け
14 野縁
15 天井パネル
15a 貫通孔
2 支持材
3 吊金具
31 軸部材
31a フック
31b 雄螺子
32 ナット
33 受け板
34 ワッシャ
100 躯体スラブ
図1
図2
図3
図4