(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係るキャリパブレーキ装置100について説明する。
【0011】
まず、
図1から
図3を参照して、キャリパブレーキ装置100の全体構成について説明する。キャリパブレーキ装置100は、フローティング式であるが、対向ピストン式であってもよい。
【0012】
キャリパブレーキ装置100は、作動流体として圧縮空気が用いられる鉄道車両用の空気圧ブレーキである。キャリパブレーキ装置100は、支持枠20を介して図示しない台車(車体)に支持されるキャリパ本体10と、キャリパ本体10に対して進退しブレーキディスク6に摺接して摩擦力を付与可能な一対のブレーキライニング7と、ブレーキライニング7を支持するガイドプレート8と、ガイドプレート8をキャリパ本体10に進退自在に支持する一対のアンカピン43と、圧縮空気の圧力によってブレーキライニング7をブレーキディスク6に押圧する押圧機構50と、を備える。
【0013】
キャリパブレーキ装置100は、車輪5とともに回転するブレーキディスク6を挟んで摩擦力を付与するものである。具体的には、キャリパブレーキ装置100は、ブレーキディスク6をその両面から一対のブレーキライニング7で挟持し、ブレーキディスク6とブレーキライニング7との間の摩擦力によって車輪5の回転を制動する。
【0014】
ブレーキディスク6は、車輪5の表裏両面に形成されて車輪5と一体に回転する。ブレーキディスク6を車輪5と一体に形成する構成に代えて、車輪5とともに回転する別体のブレーキディスク6を設けてもよい。
【0015】
キャリパ本体10は、
図1に示すように、ブレーキディスク6に跨るようにして延びる第一キャリパアーム12及び第二キャリパアーム14と、第一キャリパアーム12と第二キャリパアーム14とを連結するヨーク部13と、キャリパ本体10を台車上に支持するための一対のブラケット部15と、を備える。
【0016】
キャリパ本体10は、
図2に示すように、上スライドピン30と下スライドピン32とによって支持枠20に対して摺動可能にフローティング支持される。
【0017】
上スライドピン30と下スライドピン32とは、支持枠20を貫通して設けられる。上スライドピン30と下スライドピン32との両端部は、キャリパ本体10のブラケット部15に各々連結される。キャリパ本体10は、上スライドピン30と下スライドピン32との軸方向への相対移動が可能なように支持枠20に支持される。上スライドピン30と下スライドピン32との露出部は、
図1に示すように、ゴム製のブーツ34によって覆われ、ダスト等から保護されている。
【0018】
キャリパ本体10は、
図1及び
図3に示すように、ガイドプレート8に向かって突出する四つの突起部11を有する。突起部11は、ガイドプレート8の両側部に二つずつ臨むようにキャリパ本体10に設けられる。また、突起部11は、ガイドプレート8の長手方向の両端側のキャリパ本体10に二つずつ設けられる。
【0019】
突起部11は、ガイドプレート8が後退した場合に、ガイドプレート8の後述する当接部8cと当接する。これにより、突起部11は、ガイドプレート8が後退する際のストロークを規制する。突起部11の高さは、当接部8cと当接したときに、後述する押圧機構50内のダイヤフラム53とキャリパカバー54との間に空隙があるように形成される。
【0020】
突起部11は、ガイドプレート8の側面に臨み、ガイドプレート8の側面との間に所定の隙間を開けて形成される。突起部11は、ガイドプレート8の下部のアンカピン43が取り外され、ガイドプレート8が上部のアンカピン43に支持されて回動したときに、ガイドプレート8の側面と当接する。このように、突起部11は、キャリパ本体10に対するガイドプレート8の回動を規制する。
【0021】
突起部11とガイドプレート8の側面との間の隙間は、アンカピン43とガイドプレート8との間のはめあい公差と比較して大きく形成される。よって、制動時にガイドプレート8がはめあい公差分だけ動いても、突起部11がガイドプレート8の側面と当接することはない。また、突起部11は、ガイドプレート8の側面と当接したときに、後述する押圧機構50内のダイヤフラム53とシリンダ本体51aとの間に空隙があるように形成される。
【0022】
突起部11は、キャリパ本体10と一体に鋳造される。これに限らず、突起部11をキャリパ本体10とは別体に形成して、キャリパ本体10にボルト止め等によって固定してもよい。また、突起部11の先端の一部又は全部をゴム等の弾性材料によって形成してもよい。この場合、ガイドプレート8が後退して突起部11が当接部8cに当接したときの衝撃を緩衝することができる。
【0023】
ブレーキライニング7は、押圧機構50による押圧力を受け、ブレーキディスク6に平行に当接して押圧される。ブレーキライニング7は、ガイドプレート8に固定される裏板部7aと、車輪5とともに回転するブレーキディスク6に当接する摩擦部材7bと、を有する。摩擦部材7bは、複数のセグメントからなり、裏板部7aの表面に固定される。ブレーキライニング7は、摩擦部材7bとブレーキディスク6との当接によって発生する摩擦力によって、車輪5の回転を制動する。
【0024】
ガイドプレート8は、長手方向に沿って形成されブレーキライニング7の裏板部7aが係合するアリ溝8aを有する。ガイドプレート8は、長手方向の両端部が、一対のアンカピン43によってキャリパ本体10に支持される。一対のアンカピン43のうち、ガイドプレート8の一端をキャリパ本体10に回動可能に支持する上部のアンカピン43が第一アンカピンに該当し、ガイドプレート8の他端をキャリパ本体10に係止する下部のアンカピン43が第二アンカピンに該当する。アンカピン43を有するアジャスタ40については、あとで
図5を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
ガイドプレート8は、
図1及び
図3に示すように、キャリパ本体10の突起部11が各々当接可能な四つの当接部8cを有する。当接部8cは、各々の突起部11が当接可能なように、突起部11の先端が臨む位置に各々設けられる。当接部8cは、ガイドプレート本体8bから側方に突出して形成される。これにより、突起部11の先端が当接部8cに当接可能であり、突起部11の側面がガイドプレート本体8bに当接可能である。
【0026】
次に、
図4及び
図5を参照して、キャリパ本体10の内部構造について説明する。
【0027】
キャリパ本体10には、長手方向の両端部に配置される一対のアジャスタ40と、一対のアジャスタ40の間に配置される押圧機構50と、が設けられる。
【0028】
アジャスタ40は、ブレーキディスク6に対するブレーキライニング7の初期位置を調節するものである。アジャスタ40は、アンカボルト42によってキャリパ本体10の上下端部にそれぞれ締結される。
【0029】
アジャスタ40は、アンカボルト42によってキャリパ本体10に固定されるライニング受け41と、ライニング受け41に対して進退可能に設けられてブレーキライニング7をキャリパ本体10に支持するアンカピン43と、ブレーキライニング7をブレーキディスク6から離間する方向に付勢する戻しばね44と、制動解除時にブレーキライニング7とブレーキディスク6との隙間を一定に調整する隙間調整機構45と、を備える。
【0030】
アンカピン43は、略有底円筒状に形成される。アンカピン43は、ガイドプレート8に係合する鍔部43bを有する。アンカピン43は、その底部43aがライニング受け41から突出して設けられ、鍔部43bがガイドプレート8の両端部に嵌まることによって、ブレーキライニング7を支持する。
【0031】
アンカピン43は、ブレーキライニング7がブレーキディスク6に近接する際に、ブレーキライニング7とともに変位するガイドプレート8によってライニング受け41から引き出されて軸方向に変位する。アンカピン43は、ブレーキライニング7がブレーキディスク6に摺接する制動時に、摩擦力によってブレーキディスク6がブレーキライニング7を周方向に移動させようとするのに抗して、ブレーキライニング7を保持する。
【0032】
アンカピン43の内周には、
図5に示すように、戻しばね44と隙間調整機構45とが収装される。アンカピン43は、開口端部付近の内周に平ワッシャ43cを有する。アンカピン43において摺動時に外部に露出する摺動部は、ゴム製のブーツ47によって覆われ、ダスト等から保護されている。
【0033】
戻しばね44は、アンカピン43の内周に圧縮して介装されるコイルばねである。戻しばね44は、制動状態から非制動状態になったときに、その付勢力によってアンカピン43の鍔部43bがガイドプレート8を介してブレーキライニング7を押し戻し、ブレーキライニング7をブレーキディスク6から所定の距離だけ離間させる。これにより、制動解除時におけるブレーキライニング7とブレーキディスク6との距離を調整して、ブレーキディスク6の放熱性を良好にすることができる。
【0034】
隙間調整機構45は、制動解除時における戻しばね44の付勢力によるブレーキライニング7の戻し量を一定に調整する。つまり、隙間調整機構45は、非制動時におけるブレーキライニング7とブレーキディスク6の間隔を常に一定に保つ。隙間調整機構45は、ライニング受け41に固定される固定ピン45aと、固定ピン45aに対して軸方向に移動可能に設けられるグリップ45bと、固定ピン45aに対して軸方向に移動可能なカラー45cと、を備える。
【0035】
グリップ45bは、制動時のガイドプレート8の移動に伴いアンカピン43が進出して、平ワッシャ43cがカラー45cの段部45dに当接して押圧することで、軸方向に移動可能である。グリップ45bは、戻しばね44の付勢力によっては軸方向に移動できない大きさの力で固定ピン45aの外周を把持している。そのため、制動時にアンカピン43が進出する方向に移動したグリップ45bは、制動解除時に戻しばね44の付勢力によって戻されることはなく、その位置を維持する。
【0036】
ブレーキライニング7の摩耗が小さいうちは、制動時におけるアンカピン43のストローク量が小さい。そのため、アンカピン43が進出しても、平ワッシャ43cはカラー45cの段部45dには当接しない。よって、制動解除時には、アンカピン43は、制動前における元の位置まで戻ることとなる。
【0037】
これに対して、ブレーキライニング7の摩耗が進行し、制動時におけるアンカピン43のストローク量が大きくなった場合、アンカピン43が進出すると、平ワッシャ43cが段部45dに当接してカラー45cを押圧する。平ワッシャ43cは、カラー45cとともにグリップ45bを引きずって移動させる。これにより、制動解除時には、アンカピン43は、カラー45cの移動量と同じ分だけ進出した位置までしか戻らなくなる。
【0038】
よって、非制動時におけるブレーキライニング7の位置を、摩耗した厚さの分だけ前進させることができるため、非制動時におけるブレーキライニング7とブレーキディスク6との間隔を常に一定に保つことができる。
【0039】
図4に示すように、押圧機構50は、キャリパ本体10に形成されるシリンダ51と、シリンダ51に対して進退してガイドプレート8を介してブレーキライニング7を押圧可能なピストン52と、ピストン52の背面52bに当接するとともにキャリパ本体10内に圧力室55を画成し、圧力室55内の圧縮空気の圧力によって弾性変形してピストン52を移動させる弾性膜としてのダイヤフラム53と、ピストン52をアンカピン43に摺動自在に支持するピストンプレート58と、を備える。
【0040】
押圧機構50は、圧力室55における空気圧を調整することでダイヤフラム53を変形させ、ダイヤフラム53の変形によってピストン52をシリンダ51に対して進退させる。押圧機構50は、ピストン52をシリンダ51から退出させることによって、ガイドプレート8を介してブレーキライニング7をブレーキディスク6に押圧する。
【0041】
シリンダ51は、内周をピストン52が進退するシリンダ本体51aと、シリンダ本体51aとの間にダイヤフラム53を挟み込んで固定し、シリンダ本体51aの背面を閉塞して圧力室55を画成するキャリパカバー54と、を備える。
【0042】
シリンダ本体51aは、ピストン52の周囲を環状に囲むような楕円形の筒状に形成される。シリンダ本体51aの内周には、ピストン52の外周面に摺接してダスト等から保護するダストシール51bが設けられる。
【0043】
キャリパカバー54は、シリンダ本体51aに対応する楕円形に形成される板材である。キャリパカバー54は、複数のボルト54aによってシリンダ本体51aの端面に固定される。キャリパカバー54の内側の面は、圧力室55の内壁を構成する。なお、キャリパカバー54とシリンダ本体51aとを別体ではなく一体に形成してもよい。
【0044】
ダイヤフラム53は、圧力室55内の圧力によって弾性変形してピストン52を移動させる。ダイヤフラム53は、最外周を形成する周縁部53aと、最内周に形成される押圧部53cと、周縁部53aと押圧部53cとの間に連続して形成されるベローズ部53bと、を有する。
【0045】
周縁部53aは、シリンダ本体51aとキャリパカバー54との間に挟まれて固定される。このとき、周縁部53aがパッキンの役割を果たすため、圧力室55の気密性が確保される。
【0046】
ベローズ部53bは、シリンダ本体51aの内周面とピストン52の外周面との間に位置する。ベローズ部53bは、圧力室55の圧力が上昇すると折りたたまれた状態(
図4の状態)から伸長し、圧力室55の圧力が下降すると折りたたまれた状態に戻る。つまり、ベローズ部53bは、圧力室55に供給される空気圧によって、折りたたまれた状態と伸長した状態とに変形可能である。
【0047】
押圧部53cは、ピストン52と当接しており、折りたたまれていたベローズ部53bが伸長することによってピストン52の退出方向に変位する。押圧部53cが変位することによって、ピストン52は押圧されてシリンダ51内を移動する。
【0048】
圧力室55は、シリンダ51の内部に、ダイヤフラム53とキャリパカバー54とによって画成される。圧力室55は、その容積の拡縮に伴って、ピストン52を進退させる。圧力室55には、通孔56(
図1及び
図2参照)が設けられる。制動時にダイヤフラム53を変形させるための圧縮空気は、外部の空気圧源から通孔56を通じて供給される。
【0049】
ピストン52は、ガイドプレート8の背面に当接する。ピストン52は、ダイヤフラム53によってシリンダ51内に保持される。ピストン52は、ガイドプレート8に当接する押圧面52aと、押圧面52aの反対側に形成されダイヤフラム53と当接する背面52bと、を有する。ピストン52は、背面52bに当接するダイヤフラム53の変形によってシリンダ51内を進退する。
【0050】
ピストンプレート58は、ガイドプレート8と平行に設けられる板材である。ピストンプレート58は、ピストン52とともに変位して、ガイドプレート8に対して平行移動する。ピストンプレート58は、制動時にはガイドプレート8に近接し、制動解除時にはガイドプレート8から離間する。ピストンプレート58は、ピストン52と一体に形成される。ピストンプレート58をピストン52と別体に形成し、ピストン52をピストンプレート58に固定して用いてもよい。
【0051】
ピストンプレート58は、長手方向の両端に、アンカピン43が挿入される一対の摺動孔58aを有する。ピストンプレート58は、摺動孔58aに挿入されるアンカピン43に係合し、アンカピン43の軸方向に摺動自在に設けられる。ピストンプレート58は、両端の摺動孔58aがアンカピン43に係合することで、シリンダ51内におけるピストン52の位置を規定する。
【0052】
次に、キャリパブレーキ装置100の作用について説明する。
【0053】
鉄道車両の走行時には、車輪5は高速で回転している。ここで、運転士の操作等によってキャリパブレーキ装置100が制動状態に切り換えられると、空気圧源から供給される圧縮空気が、通孔56を介して圧力室55内に送られ、ダイヤフラム53を変形させる。すると、ダイヤフラム53のベローズ部53bが伸長して、押圧部53cがピストン52をブレーキディスク6方向へ摺動させる。
【0054】
ダイヤフラム53の押圧部53cは、車輪5方向へ変位し、ピストン52を介してブレーキライニング7を車輪5に設けられたブレーキディスク6に押圧する。ダイヤフラム53によって押圧されたブレーキライニング7とブレーキディスク6とが当接して摩擦力が発生すると、車輪5の回転は制動される。これにより、鉄道車両は、速度が低下してやがて停止することとなる。
【0055】
運転士の操作等によってキャリパブレーキ装置100による車輪5の制動が解除されると、アジャスタ40内部に設けられた戻しばね44の復元力によって、ブレーキライニング7はブレーキディスク6に当接した状態から離間する。また、圧力室55内の圧縮空気は通孔56から排出されて、ダイヤフラム53のベローズ部53bは制動前の折りたたまれた形状に戻り、押圧部53cは制動前の位置に戻る。すると、ピストン52も制動前の位置に戻る。
【0056】
これにより、ブレーキディスク6とブレーキライニング7とは、隙間調整機構45の作用によって再び一定の間隔をもって対峙することとなる。よって、車輪5は、キャリパブレーキ装置100の影響を受けることなく回転することが可能となる。
【0057】
ブレーキライニング7の摩擦部材7bの摩耗量が一定に達すると、新しいブレーキライニング7に交換する必要がある。このとき、隙間調整機構45が設けられるため、ガイドプレート8は、摩擦部材7bが摩耗した分だけブレーキディスク6に向かって前進している。よって、ブレーキライニング7を交換する際には、作業者は、隙間調整機構45のグリップ45bを引きずって移動させながら、ガイドプレート8を初期位置に押し戻す必要がある。
【0058】
ここで、突起部11と当接部8cとを有さないキャリパブレーキ装置では、作業者がガイドプレート8を無理に押し戻そうとすると、ピストン52が後退してダイヤフラム53を挟んだ状態でキャリパカバー54にぶつかるおそれがある。
【0059】
これに対して、キャリパブレーキ装置100では、キャリパ本体10が突起部11を有し、ガイドプレート8が当接部8cを有する。そのため、ブレーキライニング7の交換時に、作業者がガイドプレート8を初期位置に押し戻そうとして後退させると、突起部11と当接部8cとが当接する。このとき、ダイヤフラム53とキャリパカバー54との間には空隙がある。
【0060】
よって、ピストン52が後退してダイヤフラム53を挟んだ状態でキャリパカバー54にぶつかることはない。したがって、ガイドプレート8を無理に押し戻そうとしてキャリパブレーキ装置100の機構部分に無理な力が作用することが防止されるため、ブレーキライニング7の交換時の安全性を向上させることができる。
【0061】
また、ブレーキライニング7を交換する際には、作業者は、ガイドプレート8を初期位置に押し戻した後、ブレーキライニング7をガイドプレート8から引き抜く必要がある。
【0062】
ブレーキライニング7は、ガイドプレート8のアリ溝8aに差し込まれている。また、ブレーキライニング7の両端部は、各々アンカピン43に係合してガイドプレート8に対する抜け止めがされている。ブレーキライニング7の交換時には、下部のアンカピン43がキャリパ本体10から取り外され、上部のアンカピン43にガイドプレート8が吊り下げられた状態で、下方へ向けてブレーキライニング7がアリ溝8aから引き抜かれる。
【0063】
このとき、制動時の摩擦熱によるブレーキライニング7の裏板部7aの変形等によって、ブレーキライニング7の交換時に、ブレーキライニング7をアリ溝8aから引き抜きにくくなっていることがある。上部のアンカピン43にガイドプレート8が吊り下げられた状態では、ガイドプレート8は上部アンカピン43を中心として自由に回動可能である。そのため、作業者は、ブレーキライニング7を無理に引き抜こうと左右に振ることがあり、押圧機構50などの機構部分に無理な力が作用するおそれがある。
【0064】
これに対して、キャリパブレーキ装置100では、ブレーキライニング7の交換時に、下部のアンカピン43が取り外された状態で、上部のアンカピン43に支持されたガイドプレート8を作業者が回動させようとすると、ガイドプレート8の側面に突起部11が当接する。よって、ブレーキライニング7を無理に引き抜こうと左右に振ったときに、ピストン52がダイヤフラム53を挟んだ状態でシリンダ本体51aとぶつかることはない。したがって、ガイドプレート8が左右に大きく振られて押圧機構50に無理な力が作用することが防止されるため、ブレーキライニング7の交換時の安全性を向上させることができる。
【0065】
なお、ブレーキライニング7をガイドプレート8から引き抜く際には、作業者はキャリパ本体10のヨーク部13側からブレーキライニング7を保持して手前側に振ることが多い。よって、突起部11は、少なくともヨーク部13側におけるガイドプレート8の下端の側方に設けられればよい。
【0066】
また、本実施の形態では、突起部11は、ガイドプレート8の両側部に各々臨むように設けられる。これにより、作業者がブレーキライニング7を保持して手前側だけでなく奥側へ振った場合にも、ピストン52がダイヤフラム53を挟んだ状態でシリンダ本体51aとぶつかることが防止される。
【0067】
また、キャリパブレーキ装置100は、鉄道車両の左右の車輪5に各々設けられる。キャリパブレーキ装置100は、左右いずれの車輪5に設けられる場合にも、左右の車輪5の間に押圧機構50が位置するように台車に取り付けられる。そのため、キャリパ本体10は、左右の車輪5の一方に設けられる場合と他方に設けられる場合とでは、上部と下部とを反転させて取り付けられる。本実施の形態では、突起部11がガイドプレート8の長手方向の両端に二つずつ設けられるため、左右のいずれの車輪5に適用された場合にも、ブレーキライニング7の交換時のガイドプレート8の回動を規制することが可能である。
【0068】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0069】
ブレーキライニング7の交換時に、ガイドプレート8を初期位置に押し戻そうとして後退させると、突起部11と当接部8cとは、ダイヤフラム53とキャリパカバー54との間に空隙がある状態で当接する。よって、ピストン52が後退してダイヤフラム53を挟んだ状態でキャリパカバー54にぶつかることはない。したがって、ガイドプレート8を無理に押し戻そうとしてキャリパブレーキ装置100の機構部分に無理な力が作用することが防止されるため、ブレーキライニング7の交換時の安全性を向上させることができる。
【0070】
また、ブレーキライニング7の交換時に、下部のアンカピン43が取り外された状態で、上部のアンカピン43に支持されたガイドプレート8を作業者が回動させようとすると、ガイドプレート8の側面に突起部11が当接する。よって、ブレーキライニング7を無理に引き抜こうと左右に振ったときに、ピストン52がダイヤフラム53を挟んだ状態でシリンダ本体51aとぶつかることはない。したがって、ガイドプレート8が左右に大きく振られて押圧機構50に無理な力が作用することが防止されため、ブレーキライニング7の交換時の安全性を向上させることができる。
【0071】
次に、
図6を参照して、本発明の実施の形態の変形例に係るキャリパブレーキ装置101について説明する。以下に示す変形例では、上述した本発明の実施の形態と異なる点を中心に説明し、同様の機能を有する構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
キャリパブレーキ装置101は、ガイドプレート8が突起部8dを有し、キャリパ本体10が当接部としての第一当接部11a及び第二当接部11bを有する点で、キャリパブレーキ装置100とは相違する。
【0073】
ガイドプレート8は、キャリパ本体10に向かって突出する四つの突起部8dを有する。突起部8dは、ガイドプレート8の両側部から突出するように二つずつ設けられる。また、突起部8dは、ガイドプレートの長手方向の両端側に二つずつ設けられる。
【0074】
突起部8dは、ガイドプレート8が後退した場合に、キャリパ本体10の第一当接部11aと当接する。これにより、突起部8dは、ガイドプレート8が後退する際のストロークを規制する。
【0075】
突起部8dは、キャリパ本体10の第二当接部11bとの間に所定の隙間を開けて形成される。突起部8dは、ガイドプレート8の下部のアンカピン43が取り外され、ガイドプレート8が上部のアンカピン43に支持されて回動したときに、キャリパ本体10の第二当接部11bと当接する。このように、突起部8dは、キャリパ本体10に対するガイドプレート8の回動を規制する。
【0076】
キャリパ本体10は、ガイドプレート8の突起部8dの先端が各々当接可能な四つの第一当接部11aを有する。第一当接部11aは、各々の突起部8dが当接可能なように、突起部8dの先端が臨む位置に各々設けられる。また、キャリパ本体10は、ガイドプレート8の突起部8dの側面が当接可能な四つの第二当接部11bを有する。第二当接部11bは、キャリパ本体10からガイドプレート8に向かって突出する。これにより、突起部8dの先端が第一当接部11aに当接可能であり、突起部8dの側面が第二当接部11bに当接可能である。
【0077】
このように、ガイドプレート8が突起部8dを有し、キャリパ本体10が当接部としての第一当接部11a及び第二当接部11bを有する場合にも、上述した実施の形態と同様の効果を奏する。即ち、キャリパ本体10とガイドプレート8とのいずれか一方が、他方に向かって突出する突起部11,8dを有し、キャリパ本体10とガイドプレート8とのいずれか他方が、ガイドプレート8が後退した場合に突起部11,8dが当接する当接部8c,11a,11bを有していればよい。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。