特許第6225066号(P6225066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6225066
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】シート形成体、接着シート及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/38 20060101AFI20171023BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20171023BHJP
   C09J 7/00 20060101ALI20171023BHJP
   C09J 181/00 20060101ALI20171023BHJP
   C09J 175/00 20060101ALI20171023BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20171023BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20171023BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C08G18/38 076
   C08J5/18
   C09J7/00
   C09J181/00
   C09J175/00
   B32B27/00 D
   B32B27/40
   B32B25/08
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-86377(P2014-86377)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-205976(P2015-205976A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】石原 健延
(72)【発明者】
【氏名】赤間 秀洋
(72)【発明者】
【氏名】原 淳
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−83773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/38
B32B 25/08
B32B 27/00
B32B 27/40
C08J 5/18
C09J 7/00
C09J 175/00
C09J 181/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1分子中にチオール基を2〜6個有するポリチオール化合物(A)と、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート及びこれらの変性体から選ばれる1種以上のイソシアネート基含有化合物(B)とを配合してなり、
チオウレタン結合を有する化合物及びチオール基を有する化合物を含むシート形成体であって、
赤外吸収スペクトルにおける、前記チオウレタン結合中のカルボニル基に基づくピーク強度Aと、前記チオール基に基づくピーク強度Bとの比(A/B)が、20以上250以下である、シート形成体。
【請求項2】
さらに、ラジカル発生剤(C)を配合してなる、請求項に記載のシート形成体。
【請求項3】
ラジカル発生剤(C)が、過酸化物からなる熱ラジカル発生剤である、請求項に記載のシート形成体。
【請求項4】
液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した過酸化物の含有量が、2質量%以上である、請求項またはに記載のシート形成体。
【請求項5】
前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、前記イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.2以上0.78以下である、請求項のいずれかに記載のシート形成体。
【請求項6】
前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、前記ラジカル発生剤(C)の合計モル数の比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)が0.025以上である、請求項のいずれかに記載のシート形成体。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載のシート形成体を備えた接着シート。
【請求項8】
2つ以上の層が接着されてなる積層体であって、
少なくとも1つの層がゴム層からなり、
前記ゴム層のうちの少なくとも1層が、請求項1〜のいずれかに記載のシート形成体を介して、隣接する層に接着されてなる積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート形成体、接着シート及び積層体に関し、詳しくは、ゴム部材の接着に好適なシート形成体及び接着シートと、該シート形成体を用いてゴム層を接着してなる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、加硫ゴム部材との接着力が良好な材料が求められていたが、十分な接着力を得られる材料がなかった。加硫ゴム部材を接着する方法として、例えば、特許文献1には加硫ゴム部材を表面処理し、当該表面処理面に接着剤を介して他部材を接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−139901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、加硫ゴムを表面処理した後に接着剤を介して他材料に接着するため、表面処理に手間がかかる。また、ポリウレタン系の接着剤を用いているため、その接着力は不十分である。
本発明は、ゴム部材特に加硫ゴム部材を強力に接着することが可能であり、取扱作業性にも優れたシート形成体及び接着シート、並びに、該シート形成体を用いてゴム層を接着してなる積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、チオウレタン結合を有する化合物及びチオール基を有する化合物を含むシート形成体において、赤外吸収スペクトルにおけるチオウレタン結合中のカルボニル基に基づくピーク強度と、前記チオール基に基づくピーク強度との比を所定範囲とすることにより、本発明の課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は、下記〔1〕〜〔9〕に関する。
〔1〕チオウレタン結合を有する化合物及びチオール基を有する化合物を含むシート形成体であって、
赤外吸収スペクトルにおける、前記チオウレタン結合中のカルボニル基に基づくピーク強度Aと、前記チオール基に基づくピーク強度Bとの比(A/B)が、20以上250以下である、シート形成体。
〔2〕少なくともポリチオール化合物(A)及びイソシアネート基含有化合物(B)を配合してなる、〔1〕に記載のシート形成体。
〔3〕さらに、ラジカル発生剤(C)を配合してなる、〔2〕に記載のシート形成体。
〔4〕ラジカル発生剤(C)が、過酸化物からなる熱ラジカル発生剤である、〔3〕に記載のシート形成体。
〔5〕液体クロマトグラフィー質量分析法により測定した過酸化物の含有量が、2質量%以上である、〔3〕または〔4〕に記載のシート形成体。
〔6〕前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、前記イソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)が0.2以上0.78以下である、〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載のシート形成体。
〔7〕前記ポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、前記ラジカル発生剤(C)の合計モル数の比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)が0.025以上である、〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載のシート形成体。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のシート形成体を備えた接着シート。
〔9〕2つ以上の層が接着されてなる積層体であって、
少なくとも1つの層がゴム層からなり、
前記ゴム層のうちの少なくとも1層が、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のシート形成体を介して、隣接する層に接着されてなる積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゴム部材特に加硫ゴム部材を強力に接着することが可能であり、取扱作業性にも優れたシート形成体及び接着シート、並びに、該シート形成体を用いてゴム層を接着してなる積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[シート形成体]
本発明のシート形成体は、チオウレタン結合を有する化合物及びチオール基を有する化合物を含み、赤外吸収スペクトルにおける、前記チオウレタン結合中のカルボニル基に基づくピーク強度Aと、前記チオール基に基づくピーク強度Bとの比(A/B)が、20以上250以下であるものである。
【0009】
本発明におけるチオウレタン結合を有する化合物は、基本的に後述するポリチール化合物のようなチオール基を有する化合物とイソシアネート基含有化合物とを反応させて得られるものである。そして、本発明のシート形成体は、少なくとも1層がゴム層である2つの層の間に配置されてゴム層の接着に用いられるため、シート形成体はゴム表面の二重結合といわゆるチオール・エン反応する必要があることから、前記チオール基を有する化合物とイソシアネート基含有化合物との反応がほぼ完結した状態でも、チオール基が(すなわち未反応のチオール基を有する化合物が)シート形成体中に過剰に残っていることが重要となる。
【0010】
上記観点から、本発明においては、シート形成体の赤外吸収スペクトルにおけるチオウレタン結合中のカルボニル基に基づくピーク強度Aと、前記チオール基に基づくピーク強度Bとの比(A/B)が20以上250以下であることが必要である。
上記比が20未満では、シート形成体の膜としての凝集力が十分でなく結果としてゴム層との接着時の接着性が低下してしまう。一方上記比が250を超えると、シート形成体中のチオール基量が不足することとなり、この場合もゴム層との接着時に前記チオール・エン反応の反応点が少なくなるため接着性が低下してしまう。
【0011】
前記チオール基に基づくピーク強度Bとの比(A/B)は30以上200以下であることが好ましく、40以上170以下であることがより好ましい。
また、本発明のシート形成体は、その取扱作業性の観点から、ある程度の柔軟性を有し、しかも、後述する積層体の製造における貼り合わせ作業に耐え得る強度を有する膜であることが好ましい。その観点からも、シート形成体におけるA/B比が上記範囲にあることが好ましい。
なお、本発明における前記赤外吸収スペクトルのピーク強度は、具体的にはシート上のサンプルについてFTIR装置により測定されるものであるが、その測定条件等の詳細については後述する。
【0012】
<チオウレタン結合を有する化合物>
前記のように、本発明におけるチオウレタン結合を有する化合物は、基本的にチオール基を有する化合物とイソシアネート基含有化合物とを反応させて得られるものである。当該チオール基を有する化合物としては、特に制限されないが、膜としてのシート形成体の凝集力を高める観点から、1分子中にチオール基を2つ以上有するポリチール化合物であることが好ましい。すなわち、本発明のシート形成体は、ポリチオール化合物(A)及びイソシアネート基含有化合物(B)を配合してなるものであることが好適である。
なお、本明細書において、ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)、さらに後述のラジカル発生剤(C)、ウレタン化触媒(D)及び表面調整剤(E)を、それぞれ、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)及び成分(E)ということがある。
【0013】
(ポリチオール化合物(A))
前記のように、本発明において、ポリチオール化合物(A)とは、1分子中にチオール基を2つ以上有する化合物のことをいい、ポリチオール化合物(A)には特に制限はないが、接着性を向上させる観点から、1分子中にチオール基を2〜6個有するものが好ましい。
また、ポリチオール化合物(A)には、第一級炭素にチオール基が結合している化合物、第二級炭素にチオール基が結合している化合物、第三級炭素にチオール基が結合している化合物や、その他の元素に結合した化合物などが含まれるが、本発明においては、ポリチオール化合物(A)として第一級炭素にチオール基が結合している化合物を用いることが、後述するイソシアネート基含有化合物(B)とのウレタン化反応による組成物の硬化時間が短縮されること等から好ましい。
ポリチオール化合物(A)の分子量は、接着性を向上させる観点から、好ましくは3000以下であり、より好ましくは2000以下であり、更に好ましくは1000以下であり、より更に好ましくは900以下であり、より更に好ましくは800以下である。なお、ポリチオール化合物(A)がポリマーの場合、分子量とは、スチレン換算の数平均分子量のことをいう。
【0014】
ポリチオール化合物(A)としては、第一級炭素にチオール基が結合しているヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオール(以下、「ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオール」という)及び第一級炭素にチオール基が結合しているヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族ポリチオール(以下、「ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族ポリチオール」という)が挙げられ、接着性を向上させる観点から、ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオールが好ましい。
ここで、ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオールとは、1分子中に第一級炭素に結合したチオール基を2つ以上有する、ヘテロ原子を含んでもよい脂肪族化合物のことをいう。また、ヘテロ原子を含んでいてもよい芳香族ポリチオールとは、1分子中に第一級炭素に結合したチオール基を2つ以上有する、ヘテロ原子を含んでもよい芳香族化合物のことをいう。
またヘテロ原子は、接着力の向上の観点から、好ましくは酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲン原子、ケイ素から選択される少なくとも1種であり、より好ましくは酸素、窒素、硫黄、リン及びハロゲン原子から選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは酸素、窒素及び硫黄から選択される少なくとも1種である。
【0015】
ヘテロ原子を含んでいてもよい脂肪族ポリチオールとしては、例えば、炭素数2〜20のアルカンジチオール等のようにチオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオール、アルコールのハロヒドリン付加物のハロゲン原子をチオール基で置換してなるポリチオール、ポリエポキシド化合物の硫化水素反応生成物からなるポリチオール、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコールとチオグリコール酸とのエステル化により得られるチオグリコール酸エステル化物、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコールとメルカプト脂肪酸とのエステル化により得られるメルカプト脂肪酸エステル化物などのヘテロ原子を含んでもよい非環式脂肪族化合物;イソシアヌレート化合物とチオールとを反応させてなるチオールイソシアヌレート化合物などのイソシアヌレート環構造を有する化合物;ポリスルフィド基を含有するチオール;チオール基で変性されたシリコーン、チオール基で変性されたシルセスキオキサン等が挙げられるが、これらの中では、ヘテロ原子を含んでもよい非環式脂肪族化合物やイソシアヌレート環構造を有する化合物が、組成物としたときの硬化時間の短縮や接着力の観点から好ましく用いられる。
なお、上記の分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコール類としては、炭素数2〜20のアルカンジオール、ポリ(オキシアルキレン)グリコール、グリセロール、ジグリセロール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0016】
(ヘテロ原子を含んでもよい非環式脂肪族化合物)
ヘテロ原子を含んでもよい非環式脂肪族化合物としては、接着性の向上の観点から、チオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオール、アルコールのハロヒドリン付加物のハロゲン原子をチオール基で置換してなるポリチオール、ポリエポキシド化合物の硫化水素反応生成物からなるポリチオール、チオグリコール酸エステル化物、メルカプト脂肪酸エステル化物、及びチオールイソシアヌレート化合物がより好ましく、メルカプト脂肪酸エステル化物及びチオールイソシアヌレート化合物が更に好ましく、メルカプト脂肪酸エステル化物がより更に好ましい。同様の観点から、ポリスルフィド基やシロキサン結合を含有しないチオールがより好ましい。
【0017】
また、本発明に用いられるヘテロ原子を含んでもよい非環式脂肪族化合物としては、分子内に前記チオール基を4〜6つ有する(4〜6官能)化合物であることが好ましく、 分子内に前記チオール基を4つ有する(4官能)化合物及び分子内に前記チオール基を6つ有する(6官能)化合物から選ばれる少なくとも1種であることが、前記硬化時間の短縮、接着性向上の観点からより好ましい。
【0018】
(チオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオール)
チオール基以外の部分が脂肪族炭化水素であるポリチオールの例としては炭素数2〜20のアルカンジチオールがある。
前記炭素数2〜20のアルカンジチオールとしては、1,2−エタンジチオール、1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール等が挙げられる。
【0019】
(チオグリコール酸エステル化物)
前記チオグリコール酸エステル化物としては、1,4−ブタンジオールビスチオグリコレート、1,6−ヘキサンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート等が挙げられる。これらの中で、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートが好ましい。
【0020】
(メルカプト脂肪酸エステル化物)
メルカプト脂肪酸エステル化物としては、接着性の向上の観点から、第一級炭素に結合したチオール基を有するメルカプト脂肪酸エステル化物が好ましく、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコールの、β−メルカプトプロピオン酸エステル化物がより好ましい。また、第一級炭素に結合したチオール基を有するメルカプト脂肪酸エステル化物は、接着性の向上の観点から、1分子中におけるチオール基の数が4〜6個(4〜6官能)であることが好ましく、4個又は6個であることが好ましく、4個であることがより好ましい。
【0021】
上記の第一級炭素に結合したチオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物としては、好ましくはテトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)(EGMP−4)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(TMMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)、及びジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(DPMP)が挙げられる。これらの中で、PEMP及びDPMPが好ましく、PEMPがより好ましい。
【0022】
なお、第二級炭素に結合したチオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物としては、分子内に水酸基2〜6個を有する多価アルコール類と、β−メルカプトブタン酸とのエステル化物が挙げられ、具体的には、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等が挙げられる。
【0023】
(イソシアヌレート環構造を有する化合物)
イソシアヌレート環構造を有する化合物としては、接着力の向上の観点から、第一級炭素に結合したチオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物が好ましい。また、第一級炭素に結合したチオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物としては、接着性の向上の観点から、1分子中におけるチオール基の数が2〜4個であることが好ましく、3個であることがより好ましい。
上記の第一級炭素に結合したチオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物としては、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)が好ましい。
【0024】
(チオール基で変性されたシリコーン)
チオール基で変性されたシリコーンとしては、商品名KF−2001、KF−2004、X−22−167B(信越化学工業)、SMS042、SMS022(Gelest社)、PS849、PS850(UCT社)等が挙げられる。
【0025】
(芳香族ポリチオール)
芳香族ポリチオールとしては、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3−トリメルカプトベンゼン、1,2,4−トリメルカプトベンゼン、1,3,5−トリメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0026】
<イソシアネート基含有化合物(B)>
イソシアネート基含有化合物(B)としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネート、これらの変性体等が挙げられる。
【0027】
芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート(PPDI)、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、メチルシクロへキサンジイソシアネート(水素化TDI)、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート(水素化MDI)、シクロへキサンジイソシアネート(水素化PPDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロへキサン(水素化XDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ブタンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルへキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルへキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0028】
配合されるポリチオール化合物(A)が、メルカプト脂肪酸エステル化物及びチオールイソシアヌレート化合物である場合、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)は、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の1種又は2種以上が好ましい。また、これらの中では、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロへキサン(水素化XDI)及びトリレンジイソシアネート(TDI)の1種又は2種以上がより好ましい。
【0029】
また、芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネートの変性体としては、トリメチロールプロパンとイソシアネートとの反応により得られるTMP(トリメチロールプロパン)アダクト型変性体、イソシアネートの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、ウレアとイソシアネートとの反応により得られるビューレット型変性体、ウレタンとイソシアネートとの反応により得られるアロファネート型変性体、ポリオールとの反応で得られるプレポリマー体等が挙げられ、適宜、使用することができる。
【0030】
なお、TMPアダクト型変性体、イソシアヌレート型変性体、ビューレット型変性体、アロファネート型変性体としては、接着性の向上の観点から、次の変性体が好ましい。
すなわち、TMPアダクト型変性体としては、TMPとTDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPとXDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPと水添XDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPとIPDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、TMPとHDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体、及びTMPとMDIとの反応により得られるTMPアダクト型変性体が好ましい。
また、イソシアヌレート型変性体としては、HDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、IPDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、TDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、及び水添XDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体が好ましく、HDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体、IPDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体及び水添XDIの3量化により得られるイソシアヌレート型変性体の少なくとも1種以上がさらに好ましい。
また、ビューレット型変性体としては、ウレアとHDIとの反応により得られるビューレット型変性体が好ましい。
また、アロファネート型変性体としては、ウレタンとIPDIとの反応により得られるアロファネート型変性体が好ましい。
【0031】
上記TMPアダクト型変性体、イソシアヌレート型変性体、ビューレット型変性体及びアロファネート型変性体の少なくとも1種と組み合せて使用されるポリチオール化合物(A)としては、好ましくはチオグリコール酸エステル化物または、第一級炭素に結合したチオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物及び第一級炭素に結合したチオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物の1種又は2種である。
ここで、チオグリコール酸エステル化物としては、好ましくはペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートである。第一級炭素に結合したチオール基を有するβ−メルカプトプロピオン酸エステル化物としては、好ましくはペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)及びジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)DPMPの少なくとも1種である。また、この第一級炭素に結合したチオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物としては、好ましくは1分子中におけるチオール基の数が3個である第一級炭素に結合したチオール基を有するチオールイソシアヌレート化合物であり、より好ましくはトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)である。
【0032】
<ラジカル発生剤(C)>
本発明のシート形成体には、さらにラジカル発生剤(C)を配合することが好ましい。ラジカル発生剤(C)としては、熱ラジカル発生剤及び光ラジカル発生剤の少なくとも1種を用いることができる。これらの中で、接着力の向上の観点及び透明ではない(光を通さない)ゴムを接着できるという観点から、熱ラジカル発生剤が好ましく、過酸化物からなる熱ラジカル発生剤がより好ましく、有機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤が更に好ましい。
ラジカル発生剤(C)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
有機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤としては、例えば、t−ブチル−2−エチルペルオキシヘキサノアート、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサノン、ジ−t―ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ(t−ブチル)パーオキサイド、過酸化ベンゾイル1,1’−ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、過酸化ベンゾイル、1,1’−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、ジクミルパーオキサイド等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、t−ブチル−2−エチルペルオキシヘキサノアート、ジラウロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサノン、ジ−t―ブチルパーオキサイド、及びt−ブチルクミルパーオキサイドの少なくとも1種である。有機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0034】
無機過酸化物からなる熱ラジカル発生剤としては、過酸化水素と鉄(II)塩との組み合わせ、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、等の酸化剤と還元剤の組み合わせからなるレドックス発生剤が挙げられる。無機化酸化物からなる熱ラジカル発生剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
光ラジカル発生剤としては、公知のものを広く用いることができ、特に制限されるものではない。
例えば分子内開裂型の光ラジカル発生剤が挙げられ、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル系光ラジカル発生剤;2,2−ジエトキシアセトフェノン、4'−フェノキシ−2,2−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系光ラジカル発生剤;2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4'−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、4'−ドデシル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン等のプロピオフェノン系光ラジカル発生剤;ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−エチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン等のアントラキノン系光ラジカル発生剤;アシルフォスフィンオキサイド系光ラジカル発生剤等が挙げられる。
【0036】
また、その他水素引き抜き型の光ラジカル発生剤としてベンゾフェノン/アミン系光ラジカル発生剤、ミヒラーケトン/ベンゾフェノン系光ラジカル発生剤、チオキサントン/アミン系光ラジカル発生剤等を挙げることができる。また未反応光ラジカル発生剤のマイグレーションを避けるため非抽出型光ラジカル発生剤を用いることができる。例えばアセトフェノン系ラジカル発生剤を高分子化したもの、ベンゾフェノンにアクリル基の二重結合を付加したものがある。
これらの光ラジカル発生剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
本発明において、シート形成体にラジカル発生剤(C)が配合される場合、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC−MS/MS)により測定したシート形成体中の過酸化物の含有量が、2質量%以上であることが好ましい。当該含有量が2質量%以上であると、後述するような積層体等の作製においてゴム層を本発明のシート形成体を介して接着させた場合に、ゴム層表面におけるチオール・エン反応を効率的に進行させることができ、ゴム層と隣接する層との十分な接着性を短時間で確保することができる。また、ラジカル発生剤(C)によりチオール・エン反応の反応点が多くなることから、より強い接着力を発現させることができる。更に、ポリチオール化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)の組み合わせによってはシート形成物が固く、取り扱いが困難な場合があるが、そのような場合でも、ラジカル発生剤(C)に基づく過酸化物含有量が2質量%以上であればシート形成体に柔軟性を与えることができ、取り扱いも容易になる。
上記過酸化物の含有量は5質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
<任意成分>
本発明のシート形成体には、更に任意成分が配合されてもよい。任意成分としては、ウレタン化触媒、表面調整剤、溶剤、バインダー、フィラー、顔料分散剤、導電性付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、乾燥防止剤、浸透剤、pH調整剤、金属封鎖剤、防菌防かび剤、界面活性剤、可塑剤、ワックス、レベリング剤等が挙げられる。
【0039】
(ウレタン化触媒(D))
ウレタン化触媒(D)としては、任意のウレタン化触媒を用いることができる。該ウレタン化反応用触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズチオカルボキシレート、オクテン酸スズ、モノブチルスズオキシド等の有機スズ化合物;塩化第一スズ等の無機スズ化合物;オクテン酸鉛等の有機鉛化合物;ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン(TEDA)、ベンジルジメチルアミン、2,2’−ジモルホリノエチルエーテル、N−メチルモルフォリン等のアミン類;p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロ硫酸等の有機スルホン酸;硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸;ナトリウムアルコラート、水酸化リチウム、アルミニウムアルコラート、水酸化ナトリウム等の塩基類;テトラブチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等のチタン化合物;ビスマス化合物;四級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは上記アミン類であり、より好ましくはトリエチレンジアミン(TEDA)である。これら触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(表面調整剤(E))
表面調整剤(E)としては、任意の表面調整剤を使用することができる。該表面調整剤としては、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系などが挙げられる。これらの中でも、相溶性と表面張力低下能の観点からシリコーン系が好ましい。
【0041】
(溶剤)
溶剤としては、他の配合成分と反応しないものであれば特に制限はなく、芳香族溶媒や脂肪族溶媒が挙げられる。
芳香族溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。脂肪族溶媒としては、ヘキサン等が挙げられる。
【0042】
<各成分の配合量>
配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数の比(イソシアネート基/チオール基)は、0.20以上0.78以下とすることが好ましい。当該比(イソシアネート基/チオール基)が上記範囲にあれば、組成物が十分に強固に硬化し、接着強度が大きくなる。また、イソシアネート基量に対してチオール基量が十分であるため、チオール基とゴム部材の炭素−炭素二重結合との間でチオール・エン反応が十分に行われ、組成物をゴム部材に強固に接着させることができ、接着強度が大きくなる。当該比(イソシアネート基/チオール基)は、より好ましくは0.3以上0.7以下であり、さらに好ましくは0.4以上0.65以下である。
ここで、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数は、配合されるポリチオール化合物(A)のモル数に、ポリチオール化合物(A)の1分子が有するチオール基数を乗じることにより算出することができる。
また、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数は、JIS K1603−1 B法により測定することができる。
更に、上記モル数の比(イソシアネート基/チオール基)は、上記のようにして得られる、配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数を、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数で除することにより求めることができる。
【0043】
またラジカル発生剤(C)が配合される場合、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、配合されるラジカル発生剤(C)の合計モル数の比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)は、0.025以上であることが好ましい。これにより、接着性が向上する。この観点から、当該比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)は、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.035以上であり、更に好ましくは0.04以上である。また、接着性の向上の観点から、当該比(ラジカル発生剤(C)/チオール基)は、好ましくは1.0以下であり、より好ましくは0.8以下であり、更に好ましくは0.7以下である。
【0044】
任意成分として、炭素−炭素二重結合を含む化合物を配合してもよい。ただし、この炭素−炭素二重結合を含む化合物の配合量が多くなると、ポリチオール化合物(A)がこの炭素−炭素二重結合を含む化合物と反応してしまう。これにより、ポリチオール化合物(A)とゴム中の炭素−炭素二重結合との間のチオール・エン反応が生じ難くなり、ゴムに対する組成物の接着力が低下するおそれがある。または、これにより、ゴムの炭素-炭素結合主鎖からの水素引き抜き反応により、ポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−炭素結合の炭素原子とが化学的に結合する反応が生じ難くなり、ゴムに対する組成物の接着力が低下するおそれがある。したがって、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数に対する、配合される炭素−炭素二重結合を含む化合物に含まれる炭素−炭素二重結合の合計モル数の比(炭素−炭素二重結合/チオール基)が、0.4未満であることが好ましく、0.1未満であることがより好ましく、0.08以下であることがさらに好ましく、0.05以下であることが特に好ましく、0.01以下であることが最も好ましい。
ここで、配合される炭素−炭素二重結合を含む化合物に含まれる炭素−炭素二重結合の合計モル数は、配合される当該化合物のモル数に、当該化合物の1分子が有する炭素−炭素二重結合の数を乗じることにより求めることができる。
また、上記モル数の比(炭素−炭素二重結合/チオール基)は、上記のようにして得られる、配合されるラジカル発生剤(C)の合計モル数を、配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数で除することにより求めることができる。
【0045】
上記のとおり、本発明に係るシート形成体は、必須成分である成分(A)及び(B)の他に、任意成分を含有してもよい。しかし、ゴム特に加硫ゴムを強力に接着するという観点から、組成物中における成分(A)〜(C)の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
同様の観点から、成分(A)〜(E)の合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
【0046】
本発明のシート形成体を用いれば、未加硫ゴムに限らず、加硫ゴムをも強力に接着することができる。その理由は、次のとおりであると推測される。
ポリチオール化合物(A)の一部とイソシアネート基含有化合物(B)とがウレタン化反応を起こすことにより、これらが強固に硬化してシート形成体となると考えられる。また、ポリチオール化合物(A)の他の一部が、ラジカル発生剤(C)と反応してチイルラジカルが生じ、このチイルラジカルが、ゴム中に存在する炭素−炭素二重結合と反応すると考えられる。このようなチオール・エン反応により、シート形成体がゴムに化学的に結合することにより、シート形成体がゴムに強力に接着すると考えられる。特に、未加硫ゴムのみならず加硫ゴムにも炭素−炭素二重結合が存在するため、本発明のシート形成体を用いれば、ゴム特に加硫ゴムを強力に接着することができると考えられる。なお、ラジカル発生剤(C)はシート形成体中に存在することが好ましいが、接着工程時にシート形成体中のポリチオール化合物(A)と反応可能であればよく、例えば接着されるゴム層の表面に存在させておいてもよい。
また、ゴム中に存在する炭素-炭素結合主鎖からの水素引き抜き反応により、ポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−炭素結合の炭素原子とが化学的に結合すると考えられる。したがって、必ずしもゴム中に炭素-炭素二重結合が存在しなくてもよい。
【0047】
[接着シート]
本発明の接着シートは、前述した本発明のシート形成体を備えてなるものである。
この接着シートは、剥離紙や剥離フィルム等の剥離シート上に、シート形成体を形成するための組成物を塗布し、シート形状を保持することにより、好適に製造することができる。この保持により、前記組成物中のチオール基とイソシアネート基の少なくとも一部がチオールウレタン反応することにより、前記剥離シート上にシート形成体が形成される。
前記組成物を塗布するに際しては、組成物層の厚さは、接着する対象や要求される接着強度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、1μm以上1000μm以下であり、好ましくは20μm以上300μm以下であり、より好ましくは30μm以上200μm以下である。
【0048】
なお、塗布後、常温で放置することにより、接着シートを好適に製造することができるし、また、塗布後、ラジカル発生剤(C)によるラジカル反応が開始しない程度に加熱することにより、接着シートを製造してもよい。以上の観点から、塗布後の放置温度又は加熱温度は、好ましくは−30〜60℃であり、より好ましくは−20〜40℃、更に好ましくは0〜40℃である。
また保持時間は、ウレタン化触媒の量により調整することができる。シート化形成の作業性及び接着作業時にシート形状を維持し得る程度に保形させる観点から、好ましくは30分以上であり、より好ましくは60分以上である。
【0049】
剥離シートの材料としては特に制限はないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン46、変性ナイロン6T、ナイロンMXD6、ポリフタルアミド等のポリアミド系樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリチオエーテルスルフォン等のケトン系樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等のスルフォン系樹脂の他に、ポリエーテルニトリル、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、トリアセチルセルロース、ポリスチレン、ポリビニルクロライド等の有機樹脂を主成分とする透明樹脂基板を好適に用いることができる。
剥離シート上に形成されるシート形成体の厚さは、接着する対象や要求される接着強度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、1μm以上1000μm以下であり、好ましくは20μm以上300μm以下であり、より好ましくは30μm以上200μm以下である。
【0050】
[積層体]
本発明の積層体は、複数の層が接着されてなる積層体であって、少なくとも1つの層がゴム層からなり、前記ゴム層が、前述のシート形成体を介して隣接する層に接着されてなるものである。
複数の層は、すべてゴム層でもよく、ゴム層以外の層が含まれていてもよい。
各層の寸法や層数は、目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
<ゴム層>
ゴム層は、加硫ゴムであっても未加硫ゴムであってもよい。
また、ゴム層を構成するゴムが、炭素−炭素二重結合を有することが好ましい。この場合、前記接着剤又は前記接着シートに接するゴム層が有する炭素−炭素二重結合の炭素原子が、前記接着剤又は前記接着シートが有するポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−硫黄結合を形成すると推測される。
ただし、ゴム層を構成するゴムが、炭素−炭素二重結合を有しなくても、積層体を得ることができると推測される。この場合、ポリチオール化合物(A)による、ゴム中に存在する炭素−炭素結合主鎖からの水素引き抜き反応により、ポリチオール化合物(A)のチオール基の硫黄原子と炭素−炭素結合の炭素原子とが化学的に結合すると推測される。しかし、接着力の向上の観点からは、ゴム層を構成するゴムが、炭素−炭素二重結合を有することが好ましい。
【0052】
また、ゴム層の材料には特に限定されず、例えば天然ゴム;ポリイソプレン合成ゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等の共役ジエン系合成ゴム;エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ポリシロキサンゴムなどが挙げられるが、これらの中では天然ゴム及び共役ジエン系合成ゴムが好ましい。また、ゴム成分は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
<ゴム層以外の層>
ゴム層以外の層としては、金属層や樹脂層が挙げられる。本発明の接着剤及び着シートによると、これら金属層及び樹脂層をも強力に接着することができる。
【0054】
<積層体の製造方法>
次に、シート形成体または接着シートを用いて積層体を製造する方法について説明する。
本発明の積層体は、隣接する層同士を、本発明のシート形成体を介して接着することにより、好適に得ることができる。また当該積層体は、シート形成体1枚を介して得られたものであってもよいし、シート形成体または接着シート2枚以上を介して得られたものであってもよい。なお上記シート形成体は、通常は前記接着シートから剥離シートを剥離したものを用いる。
例えば、先ず、隣接する層同士の間にシート形成体を1枚介在させ、重ね合せ体を得る。次いで、必要に応じて、この重ね合せ体にその厚み方向のプレス圧を加えながら、硬化させることにより、積層体を好適に製造することができる。
上記重ね合せ体にプレス圧を加える場合、接着力を向上させる観点から、プレス圧は、好ましくは0.1〜5.0MPaであり、より好ましくは0.2〜4.0MPaであり、更に好ましくは0.3〜3.0MPaであり、特に好ましくは0.4〜3.0MPaである。
【0055】
シート形成体がラジカル発生剤として熱ラジカル発生剤を含んでいる場合、硬化は加熱により行うことが好ましい。加熱温度は熱ラジカル発生剤が効率よくラジカルを発生する温度を適宜選択することができるが、好ましくは熱ラジカル発生剤の1分間半減期温度±30℃付近である。
シート形成体がラジカル発生剤として光ラジカル発生剤を含んでいる場合、硬化は光照射により行うことが好ましい。光としては、紫外線、可視光線、赤外線、X線などの電磁波;α線、γ線、電子線などの粒子線から選択される少なくとも1種を好ましく用いることができる。これらの中でも、光としては紫外線が好ましい。接着力の向上及びコスト低減の観点から、光源としては、紫外線ランプを好適に用いることができる。また、同様の観点から、光照射時間は、好ましくは数秒〜数十秒、より好ましくは1〜40秒、更に好ましくは3〜20秒である。
加熱及び光照射のいずれの操作においても、接着剤に熱エネルギー又は光エネルギーが伝達すれば、加熱する部位又は光照射する部位に特に制限はなく、重ね合わせ体のどこへ加熱又は光照射してもよい。つまり、シート形成体を直接加熱又は光照射してもよいし、ゴム及び/又は被着体を介してシート形成体が加熱又は光照射されてもよい。
なお、加熱によって硬化させた場合にも強力な接着力が得られることは、シート形成体へ十分な光照射をし難い場合に、加熱する方法を採用できる点で有益であり、かつ、重ね合わせ体のどの部位へ加熱及び/又は光照射をしても強力に接着させられる点で、操作が容易となり好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
[原料等]
原料等としては、次のものを用いた。
<ポリチオール化合物(A)(成分(A))>
・ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP):SC有機化学株式会社製、チオール基4個
・ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(DPMP):SC有機化学株式会社製、チオール基6個
【0058】
<イソシアネート基含有化合物(B)(成分(B))>
・HDIビューレット変性型イソシアネート:住友バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールN3200」、NCO含有率:23.0質量%
・IPDIイソシアヌレート変性型イソシアネート:住化バイエルウレタン(株)製、商品名「デスモジュールZ4470BA」、NCO含有率:11.9質量%
【0059】
<ラジカル発生剤(C)(成分(C))>
・t−ブチル−2−エチルペルオキシヘキサノアート:日本油脂株式会社製、商品名「パーブチルO」
【0060】
<ウレタン化触媒(D)(成分(D))>
・トリエチレンジアミン(TEDA):Air Products社製、商品名「DABCO 33LV catalyst」
【0061】
<表面調整剤(E)(成分(E))>
・シリコーン含有オリゴマーとトリプロピレングリコールジアクリレートとの混合物:Miwon社製、商品名「Miramer SIU2400」
【0062】
[チオール基数の測定]
配合されるポリチオール化合物(A)に含まれるチオール基の合計モル数は、配合量を理論分子量で除し、ポリチオール化合物(A)の1分子が有するチオール基数を乗じることにより算出することにより求めた。
【0063】
[イソシアネート基数の測定]
配合されるイソシアネート基含有化合物(B)に含まれるイソシアネート基の合計モル数は、JIS K1603−1 B法により測定した。
【0064】
[赤外吸収スペクトルにおけるピーク強度比]
シート形成体におけるチオウレタン結合中のカルボニル基に基づくピーク強度Aとチオール基に基づくピーク強度Bとの比(A/B)は、以下に示すようにして測定した。
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、Nocolet6700)を用い、シート形成体の赤外吸収スペクトルを測定する。この赤外吸収スペクトルから、チオウレタン結合中のカルボニル基に基づくピーク強度A(1678cm-1)及びチオール基に基づくピーク強度B(2570cm-1)を各々求め、これらからピーク強度比(A/B)を算出した。
なお、上記赤外吸収スペクトルの測定は、以下の条件により行った。
・分解能:8cm-1
・積算回数:32回
・測定方法:ATR法(Smart Orbit 1回反射、ダイヤモンドATR)
・入射角:45°
【0065】
[過酸化物含有量の測定]
(測定試料)
シート形成体フィルム2.5mgを切り出し、アセトニトリル5mL中に1昼夜浸漬した抽出液を測定試料とした。なお、予備実験にてこの条件でフィルム中の過酸化物がほぼ
全量抽出されるのを確認した。
(分析)
次の条件で液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS/MS)を行った。
・分析装置:トリプル四重極質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、TSQ Vantage)
・高速液体クロマトグラフ
カラム:Inert Sustain C18(長さ150mm、内径2.1mm、粒径3μm)、カラム温度:40℃
移動相:10mM酢酸アンモニウム−アセトニトリル溶液/10mM酢酸アンモニウム水溶液=90/10
流速:0.2mL/min、試料注入量:1μL
・MS/MS
イオン化法:ESI−Positive、m/z:234>73
【0066】
[ゴム部材の製造]
下記の表1の配合に従い、ゴム部材(縦100mm×横25mm×厚さ10mm)を製造した。具体的には、まず表1の配合で混練した未加硫ゴム(NR/SBR)を縦50mm×横270mm×厚さ3.4mmに圧延したシートとし、次いでこれを3枚重ねて縦150mm×横270mm×厚さ10mmのモールド中で150℃45分の条件で加硫を行った。そして得られた加硫ゴムを縦100mm、幅25mmにカットして引張試験用サンプル(ゴム部材)とした。
【0067】
【表1】
【0068】
なお、表1中の各成分の詳細は、次のとおりである。
・天然ゴム(NR):RSS#3
・スチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR):JSR社製、商品名「JSR 1500」
・カーボンブラック:旭カーボン株式会社製、商品名「旭#70」
・老化防止剤:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクラック6C」
・加硫促進剤1:1,3−ジフェニルグアニジン、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーD(D−P)」
・加硫促進剤2:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーDM−P(DM)」
【0069】
(鋼板)
鋼板は株式会社テストピース社製SPCC−SDを利用した。
【0070】
[シート形成体の取扱作業性]
形成した各シート形成体について、以下の評価基準でシート形成体の取扱作業性を評価した。
○:シート形成体形成後、膜単体での取扱が容易であり、被着体への貼り付け作業、プレス作業の際に割れが発生しない。
△:シート形成体形成後、膜単体での取扱にやや難があり取扱いに注意を要するが使用することはできる。剥離シートから膜として剥離する際、あるいは被着体への貼り付け作業またはプレス作業の際に割れが発生する場合がある。
×:シート形成体を形成したが、膜の凝集力が小さく表面のべたつきも大きいため、剥離シートからシートとして剥離することができない、あるいは膜が固すぎて取扱い時に割れが発生する。
【0071】
[接着力の測定方法]
厚さ30μmのシート形成体を、前記ゴム部材同士(あるいは前記ゴム部材及び鋼板)で挟み、硬化させた。硬化は、温度150℃にて、2.5MPaのプレス圧を加えながら30分保持することにより行った。該ゴム部材を、引張速度50mm/分の条件で、180度の方向に引っ張り、剥離強度(N/25mm)を測定して接着性の指標とした。
接着力の値としては100N/25mm以上の力であればゴム基材が破壊されるレベルの十分な接着力を有する。好ましくは300N/25mm以上である。一方100N/25mm未満の力では基材と接着剤の反応が十分でなく界面で剥離している状態あるいは接着力の凝集力が十分でなく、接着剤自身が凝集破壊してしまう。そのような状態ではいずれも接着力は十分とは言えない。
【0072】
<実施例1〜19、比較例1〜2>
下記表2に示すとおり(各成分の数値は質量部を示す)に各成分を配合して組成物を得、該組成物をPET製剥離シート上に塗布し、室温で12時間保持することにより、剥離シート上にシート形成体が形成された接着シートを得た。次いで、この接着シートからシート形成体を剥離して、縦100mm、横25mm、厚さ30μmのシート形成体を得た。
得られたシート形成体を用い、前述の方法により、接着力を測定した。シートの取扱作業性及び接着性の評価結果を表3に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
<実施例20〜21及び比較例3>
実施例7、14及び比較例2で得られたシート形成体を各々用い、接着対象物を前記ゴム部材及び鋼板としたこと以外は、実施例1と同様にして接着性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
[評価]
表2〜表4に示すとおり、実施例1〜19のシート形成体では、赤外吸収スペクトルのピーク強度比が20以上250以下であるため、シートの取扱作業性が良好であるとともに、ゴム部材同士だけでなくゴム部材と鋼板との接着力が高かった。
一方、比較例1〜3では、上記ピーク強度比が本発明の範囲外であるため、取扱作業性及び接着力の少なくともいずれかにおいて所望の結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のシート形成体及び接着シートは、ゴム特に加硫ゴムの接着に利用することができる。