(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
I.定義
別段の定めがない限り、本明細書で使用される下記の用語及び語句は、下記の意味を有するものとする。
【0018】
用語「撹拌速度」とは、培養ブロス又はホモジネートの混合であり、通常は1分当たりの回転数(rpm)として測定される。一実施態様では、撹拌速度は、「単位体積当たりの撹拌動力」によって測定することができる。例えば、1000リットルの発酵槽中で200rpmで、攪拌速度は約6ワット/リットルの値を有する。
【0019】
用語「抗体」とは、本明細書で最も広い意味で用いられ、具体的には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び、所望の生物活性を示す限り、抗体断片を含む。抗体は、マウス、ヒト、ヒト化、キメラ、又は他の種に由来するものである。本明細書で使用される用語「抗体」は、完全長免疫グロブリン分子又は完全長免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分(すなわち、標的抗原又はその一部に免疫特異的に結合する抗原結合部位を含む分子)をも指し、そのような標的は、限定されないが、癌細胞又は自己免疫疾患に関連する自己免疫抗体を産生する細胞を含む。本明細書に開示される免疫グロブリンは、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスのものであってもよい。免疫グロブリンは任意の種に由来することができる。しかしながら一態様では、免疫グロブリンは、ヒト、マウス、又はウサギ由来のものである。
【0020】
「抗体断片」とは、完全長抗体の一部分、一般に完全長抗体の抗原結合領域又は可変領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディー;線形抗体;Fab発現ライブラリーによって産生される断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、癌細胞抗原、ウイルス抗原又は微生物抗原に免疫特異的に結合する上記のいずれかのCDR(相補性決定領域)、ECD(細胞外ドメイン)、及びエピトープ結合断片、単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0021】
「Clarity,Opalescence and Coloration(COC)アッセイ」とは、底が平らで内径15〜25mmの無色透明な中性ガラス製の同一の試験管を使用し、後述の通りに新しく調製された参照懸濁液と試験する液体を比較することと定義され、層の深さは40mmである。米国薬局方2012(USP Monograph 631, Color and Achromicity)、又はヨーロッパ薬局方5.0(EP Method 2.2.2, Degree of Coloration of Liquids)に挙げられている標準色溶液を、適切な色の割り当てを確認するために使用することができる。
【0022】
用語「1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)」とは、大腸菌細胞由来の化学産物である。Okada Y, Tsuzuki Y, Miyazaki J, Matsuzaki K, Hokari R, Komoto S等 (2006) Gut 55: 681ー8。DHNAは、大腸菌細胞のメナキノン(MK)(ビタミンK2とも言う)生合成経路の中間体である。Neidhardt, F.C. (2010) Escherichia coli and Salmonella (ウェブ版: Module 3.2.2 pgs. 36-37);Inledew, W.J. & R.K. Poole (1984) The respiratory chains of Escherichia coli. Microbiological reviews. 48: 222-271;Nowicka, B. & J. Cruk (2010) Occurrence, Biosynthesis and Function of Isoprenoid Quinones. Biochimica et Biophysica Acta 1797: 1587-1605。
【0023】
用語「溶存酸素(dO
2)」とは、所与の培地中に溶解又は運搬される酸素量の相対的な尺度である。液体培地中の酸素センサー等の溶存酸素プローブを用いて測定することができる。
【0024】
本明細書で使用される用語「発酵(する)」又は「発酵させること」とは、目的の組換えタンパク質の産生を誘導するために形質転換された原核生物宿主細胞を培養する工程を指す。
【0025】
用語「濾過バルク」又は「濾過バルク物質(FBS)」は、収集及び精製後の、目的の組換えタンパク質産物を指し、このタンパク質は宿主細胞から放出され、任意の細胞残屑を除去するために遠心分離機にかけられ、更に/又は濾過され、適切なクロマトグラフィーカラム上で精製され、続いて濾過法により濃縮されている。
【0026】
用語「収集された細胞培養液」とは、HCCFとも表され、遠心分離又は濾過などの手段によって細胞が除去されている原核生物細胞培養液又は真核生物細胞培養液を意味する。細胞培養は、原核生物細胞又は真核細胞が制御された条件下で増殖されるプロセスである。用語「細胞培養」とは、動物細胞、又は細菌や酵母などの単細胞原核生物を含む多細胞真核生物由来の細胞の培養を指す。真核生物細胞培養物としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞などの哺乳類細胞、ハイブリドーマ、及び昆虫細胞が挙げられる。適切な細胞培養容器を用いて、分泌されたタンパク質は、足場依存性細胞又は懸濁細胞株から得ることができる。哺乳動物細胞培養物としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はNSO細胞が挙げられる。
【0027】
用語「収集操作」又は「収集(すること)」とは、限定されないが、目的の組換えタンパク質の単離及び精製を開始するために、目的の前記組換えタンパク質を産生するように形質転換された発酵した原核宿主細胞培養物を溶解又はホモジナイズし、次いで遠心分離機にかけ、更に/又は濾過することを含むプロセスを指す。
【0028】
本明細書で使用される用語「Hi−dO」とは、収集操作中に溶存酸素濃度が0%より大きくなるように維持する、本明細書記載の改善された工程を指す。これを達成するために、本発明は、dO
2濃度を設定値又はそれ以上、すなわち0%を超える、又は約30%から約75%、又は75%超、又は約50%、又は50%超に維持するために使用可能なオーバレイエアーと、背圧と撹拌速度の組み合わせを企図する。別の実施態様では、0%を超える溶存酸素濃度のHi−dOを達成するために空気又は純酸素をブロス中へ直接スパージ(拡散)させることも、当業者であれば可能である。
【0029】
本明細書で使用される用語「ホモジナイズ」とは、目的の組換えタンパク質を宿主細胞から放出させるための、前記タンパク質で形質転換された原核生物宿主細胞の溶解又は機械的な細胞溶解工程を指す。
【0030】
用語「背圧の上昇」は、培養ブロスを介して酸素移動速度を上げるために用いられる。背圧は通常、psi又はバールのいずれかで測定される。
【0031】
「メナキノン(MK)」とは、ビタミンK
2の同族体であり、微好気的及び/又は嫌気的条件下で膜結合タンパク質複合体間の呼吸鎖におけるエレクトロンシャトル分子として機能する。用語「menE」とは、メナキノンを生成する生合成経路における遺伝子である。
【0032】
用語「微生物発酵」とは、タンパク質及び小分子(例えば二次代謝産物)を産生するように遺伝子操作された細菌又は酵母の細胞培養を意味する。発酵は、組換え細菌及び酵母、並びに他の微生物を繁殖させ、有用なタンパク質を製造するために用いられる。細胞の生産性、及びこれら生物の増殖は、特定の増殖培地を供給し、様々な環境要因(例えば、pH、温度、曝気)を制御することによって最大化される。細菌発酵液は、大腸菌培養液由来であってもよい。
【0033】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、通常少量存在し得る自然発生的な変異体を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、一つの抗原部位に対している。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。その特異性に加え、モノクローナル抗体は他の抗体によって汚染されることなく合成され得る点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られているという抗体の特徴を示し、抗体を何か特定の方法で作製しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler 等 (1975) Nature 256:495によって最初に説明されたハイブリドーマ法、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製され得る。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson 等, Nature, 352:624-628 (1991)及びMarks 等, (1991) J. Mol. Biol., 222:581-597に記載されている技術を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離されてもよい。
【0034】
用語「オーバーレイエアー」とは、培養ブロスを容れる発酵槽の上部から吹き込まれる空気を指す。通常、微細気泡の分散を生じさせるためにしばしば激しい攪拌を伴って、液体培地に空気をバブリングさせることにより酸素が発酵槽に供給される。
【0035】
本発明において使用される用語「原核宿主細胞」とは、メナキノン生合成経路を利用するものを包含する。一実施態様では、原核生物宿主細胞は、例えば、古細菌、及びグラム陰性菌又はグラム陽性菌などの真正細菌を包含する。有用な細菌の例には、エシェリキア属(例えば、大腸菌)、桿菌(例えば、枯草菌)、腸内細菌、シュードモナス種(例えば、緑膿菌)、サルモネラ菌、霊菌、クレブシエラ菌、プロテウス属、赤痢菌、根粒菌、ビトレオシラ属、又はパラコッカス属が挙げられる。一実施態様では、グラム陰性細胞が使用される。別の実施態様では、本発明のための宿主として大腸菌細胞(Bachmann, Cellular and Molecular Biology, 第2巻 (Washington, D.C.: American Society for Microbiology, 1987), pp. 1190-1219;ATCC寄託番号 27,325) )、及び遺伝子型W3110 △fhuA(△tonA)ptr3 laclq lacL8 △ompT △(nmpC−fepE)degP41kan
R(米国特許第5639635号)を有する菌株33D3を含む、その誘導体が使用される。無論、例えば大腸菌294(ATCC31,446)、大腸菌B、大腸菌λ1776(ATCC31,537)及び大腸菌RV308(ATCC31608)のような他の菌株、並びにその誘導体も好適である。これらの例は限定ではなく例示である。定義された遺伝子型を有する上記記載の任意の細菌の誘導体の作製方法は当技術分野で知られており、例えば、Bass等(1990) Proteins, 8: 309-314に記載されている。無論、細菌の細胞内レプリコンの複製能を考慮して適切な細菌を選択することが必要である。pBR322、pBR325、pACYC177又はpKN410等のよく知られたプラスミドを用いてレプリコンを供給する場合には、例えば、大腸菌、セラチア又はサルモネラ種を宿主として使用するのが好適である。
【0036】
本明細書中で使用される「組換えタンパク質」とは通常、ペプチド、及び抗体を含むタンパク質を指す。そのような組換えタンパク質は「異種」、すなわち、大腸菌によって産生されるヒトタンパク質のような、利用される宿主細胞にとって外来である。ポリペプチドは不溶性凝集物、又は可溶性ポリペプチドとして細胞膜周辺腔又は細胞質内に産生され得る。
【0037】
用語「スケール非依存的」は、本発明の発酵プロセスの容積容量が、例えば、約1リットル以上から、又は約10リットル以上から、又は約100リットル以上から、又は約500リットル以上から、又は約1,000リットル以上から、又は約10,000リットル以上から、又は約100,000リットル以上からなど、任意のスケールを使用して達成することができることを意味する。
【0038】
II.本発明の実施方法
本発明は原核細胞系における組換えタンパク質の改良された作製方法に関する。本発明は、組換えタンパク質の製造中に発見される、産物の一部のロットが仕様を満たしていないことの原因になる褐色付加体の形成を防ぐことに基づいている。本明細書で提供する実施例に示すように、褐色の付加体の問題は、収集操作中の不定の酸化還元電位に起因していた。驚くべきことに、収集作業中に溶存酸素環境をゼロより高く維持することにより、又は代替的には、目的の組換えタンパク質の組換え作製で使用する原核宿主細胞ゲノムのmenE遺伝子を遺伝子学的に欠損させることにより、褐色の付加体の形成を防ぐことができるということが発見されている。
【0039】
原核細胞における組換えタンパク質の組換え作製
上記プロセスの最初の工程では、目的の組換えタンパク質を作製するために使用される異種核酸(例えば、cDNA又はゲノムDNA)が、細菌内での発現のために好適な細菌用プロモーターの制御下で、複製可能なベクター内に適切に挿入される。多くのベクターがこの目的のために利用可能であり、適切なベクターの選択は、挿入されるべき核酸の大きさと、ベクターで形質転換されるべき特定の宿主細胞に主に依存する。各ベクターは、その機能(DNAの増幅又はDNAの発現)及び自身と適合性のある特定の宿主細胞に依存する様々な構成要素を含んでいる。細菌形質転換用ベクターの構成要素は、異種ポリペプチドのためのシグナル配列を含んでもよく、シグナル配列を含むであろうし、また、異種ポリペプチドのための誘導性プロモーターも含むであろう。細菌形質転換用ベクターの構成要素はまた、通常、本明細書に記載の複製起点及び一つ以上のマーカー遺伝子も含む。
【0040】
異種ポリペプチドが分泌される場合、本明細書中の目的の異種ポリペプチドをコードするDNAは、成熟異種ポリペプチドのN末端にあるもののようなシグナル配列を含む。通常、シグナル配列はベクターの構成要素であるか、ベクターに挿入される異種ポリペプチドDNAの一部であってもよい。選択される異種シグナル配列は、宿主細胞によって認識され加工される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)配列のはずである。天然の異種ポリペプチドシグナル配列を認識及び加工しない細菌宿主細胞に関しては、シグナル配列は、任意の一般に知られている細菌シグナル配列により置換される。
【0041】
発現ベクターは、一つ以上の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。そのような配列は様々な細菌に対してよく知られている。プラスミドpBR322由来の複製開始点は殆どのグラム陰性細菌に好適である。
【0042】
発現ベクターはまた通常、選択可能マーカーとも称される選択遺伝子を含む。この遺伝子は、選択培地で増殖する形質転換された宿主細胞の生存又は増殖に必要なタンパク質をコードする。選択遺伝子を含むベクターで形質転換されない宿主細胞は培地中で生存しないであろう。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質又は他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートもしくはテトラサイクリンに対する耐性を与えるか、(b)栄養要求性欠損を補うか、または(c)複合培地からは得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする(例えば、バチラス菌にとってのD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)。選択方法の一例では、宿主細胞の増殖を抑制する薬物が用いられる。異種遺伝子で首尾よく形質転換されたこれらの細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、したがって選択レジメンを生き延びる。
【0043】
異種ポリペプチドを産生するための発現ベクターは、宿主の細菌生物によって認識され、目的の異種ポリペプチドをコードする核酸に作用可能に連結した誘導性プロモーターをまた含む。異種ポリペプチドを産生するための発現ベクターはまた、溶菌酵素をコードする核酸に作用可能に連結した、別の誘導性又は低基底発現のプロモーターも含む。細菌宿主での使用に適した誘導性プロモーターは、β-ラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系(Chang等, Nature, 275: 615 (1978);Goeddel 等, Nature, 281: 544 (1979))、araBADプロモーターを含むアラビノースプロモーター系 (Guzman等, J. Bacteriol., 174: 7716-7728 (1992);Guzman 等, J. Bacteriol., 177: 4121-4130 (1995);Siegele 及び Hu, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94: 8168-8172 (1997))、ラムノースプロモーター(Haldimann 等, J. Bacteriol., 180: 1277-1286 (1998))、アルカリホスファターゼプロモーター、トリプトファン(trp)プロモーター系(Goeddel, Nucleic Acids Res., 8: 4057 (1980) 、及び欧州特許出願公開第36776号)、P.sub.LtetO−1及びP.sub.lac/are−1プロモーター(Lutz及びBujard, Nucleic Acids Res., 25: 1203-1210 (1997))、及びtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーター(deBoer 等, Proc. Nati. Acad. Sci. USA, 80: 21-25 (1983))が挙げられる。しかし、他の既知の細菌誘導性プロモーター及び低基底発現プロモーターも好適である。これらのヌクレオチド配列は公表されており、それによって当業者は、リンカー又はアダプターを用いてそれらを目的の異種ポリペプチドをコードするDNA、又は溶菌酵素をコードする核酸に作用可能に結合させ、必要な制限部位を供給することができる。trpプロモーターのように強力かつ高度な漏出性プロモーターが使用される場合、通常、異種ポリペプチドをコードする核酸の発現のためだけに用いられ、溶菌酵素をコードする核酸の発現のためには用いられない。tac及びP
Lプロモーターは(異種ポリペプチドと溶菌酵素)両方(をそれぞれコードする核酸の発現)のためではなく、どちらか(をコードする核酸の発現)のために用いることができる。一実施態様では、アルカリホスファターゼ(phoA)プロモーターは産物(をコードする核酸の発現)のために、また、アラビノース(ara)プロモーターは溶菌酵素(をコードする核酸の発現)のために用られる。
【0044】
細菌系で使用するプロモーターは通常、目的の異種ポリペプチドをコードするDNAに作用可能に結合したシャイン・ダルガーノ(SD)配列も有する。プロモーターは、制限酵素消化によって細菌源DNAから取り除き、所望のDNAを含有するベクターに挿入することができる。phoAプロモーターは、制限酵素消化によって細菌源DNAから取り除き、所望のDNAを含有するベクターに挿入することができる。
【0045】
上に列挙した成分の一つ以上を含む好適なベクターの構築には、当業者に一般的に知られている標準的なライゲーション技術を用いる。単離されたプラスミド又はDNA断片は、必要なプラスミドを作製するために望ましい形態に切断、調整、再結合される。
【0046】
請求項に係る発明のための好適な原核生物宿主細胞には、本明細書に定義されているメナキノン生合成経路を利用している任意のものが含まれる。いくつかの非限定的な例としては、例えば、大腸菌(E.coli)、エンテロバクター属、アゾトバクター属、エルウィニア属、バシラス属、シュードモナス属、クレブシエラ属、プロテウス属、サルモネラ属、セラチア属、赤痢菌、根粒菌、ビトレオシラ属、パラコッカス属が含まれる。
【0047】
形質転換とは、DNAが染色体外要素として又は染色体組み込みによって複製可能であるように、DNAを原核生物宿主に導入することを意味する。形質転換は、使用する宿主細胞に依存し、その細胞に適した標準技術を用いて行われる。塩化カルシウムを用いるカルシウム処理は通常、強固な細胞壁を含む細菌細胞のために用いられる。形質転換のための他の方法では、ポリエチレングリコール/DMSOを用いる。使用される更に別の方法はエレクトロポレーションである。
【0048】
本発明のポリペプチドを産生するために使用する原核細胞は、当該技術分野で知られていて、選択した宿主細胞の培養に適した培地中で増殖させる。適切な培地の例には、必要な栄養サプリメントを加えたルリア−ベルターニ(LB)ブロスが含まれる。特定の実施態様では、培地は、発現ベクターを含む原核生物細胞の増殖を選択的に可能にするために、発現ベクターの構造に基づいて選ばれた選択剤も含む。例えば、アンピシリンがアンピシリン耐性遺伝子を発現する細胞の増殖用培地に加えられる。炭素、窒素及び無機リン酸源の他に、適切な濃度で任意の必要なサプリメントを、単独で、又は複合窒素源のような他のサプリメントもしくは培地との混合物として含ませてもよい。
【0049】
発現された遺伝子産物の蓄積のために、宿主細胞は、遺伝子産物の蓄積のために十分な条件下で培養される。そのような条件には、細胞によるタンパク質の発現及び蓄積を可能にする、例えば、温度、栄養素、及び細胞密度条件が含まれる。更に、そのような条件は、当業者に知られているように、細胞が、転写、翻訳、及び分泌タンパク質の場合の一つの細胞区画から別の細胞区画への移動といった基本的な細胞機能を果たすことが可能な条件である。
【0050】
原核宿主細胞は、適切な温度で培養される。例えば、大腸菌の増殖において標準的な温度は約20℃から約39℃の範囲である。一実施態様では、この温度は約25℃から約37℃である。別の実施態様では、この温度は約30℃である。
【0051】
培地のpHは、主に宿主生物に依存しており、約5〜9の任意のpHである。大腸菌に関しては、pHは約6.8から約7.4、又は約7.0である。
【0052】
誘導に関しては、通常、細胞は、一定の光学密度、例えば約80〜100のA
550が達成されるまで培養され、その時点で誘導が(誘導物質の添加や、リプレッサー、サプレッサー又は培地成分等の枯渇などによって)開始されて、異種ポリペプチドをコードする遺伝子の発現が誘導される。
【0053】
産物の蓄積後、場合によっては、その回収前に、ブロス溶解物を細胞に含まれる異種ポリペプチドを放出するのに十分な長さの時間インキュベートされる。代替実施態様では、又は前述の実施態様の後に、前記タンパク質を宿主細胞から放出するため、例えば化学的溶解や浸透圧ショックなど、当技術分野で知られている任意の機械的手段を使用して、培養物中に存在する細胞を機械的に溶解することができる。
【0054】
一旦溶解されると、溶解物又はホモジネートは保持タンクへ移され、そこで、溶解物/ホモジネートのさらなるバッチの添加が待たれ得、及び/又はその後の回収工程に備え、例えば水での希釈、緩衝液もしくは凝集剤の添加、pH調整、又は溶解物/ホモジネートの温度の変更もしくは維持などの更なる処理がなされ得る。
【0055】
次の工程では、異種ポリペプチドが、細胞マトリックスから放出された可溶性又は不溶性産物として、細胞細片と共回収されるのを最小限にするような方法で、溶解物又はホモジネートから回収される。回収は任意の手段によって行い得るが、一実施態様では、異種ポリペプチドを含む屈折粒子の沈降、又は可溶性産物を含む上清の回収を含む。沈降の例は遠心分離である。この場合、回収は膨張床吸着(EBA)又は沈降の前に、外側の細胞壁を破壊して透過性を向上させ、より多くの固体の回収を可能にする薬剤の存在下で実施する。このような薬剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤、又は、ZWITTERGENT316(商標)など例えば両性イオン洗浄剤のような双性イオンを含む。一実施態様では、回収はEDTAの存在下で実施される。
【0056】
回収のために遠心分離を利用する場合、相対遠心力(RCF)が重要な因子である。RCFは、溶解時に細胞壁から放出された屈折性粒子と細胞細片の共沈降を最小化するように調整される。この目的のために用いられる特定のRCFは、例えば回収する産物の種類によって異なるが、少なくとも約3000×gであり、より好ましくは約3500から6000×g、又は約4000から6000×gである。
【0057】
遠心分離時間は、いくつかの要因に依存する。沈降速度は、例えば、屈折粒子の大きさ、形状、及び密度、並びに流体の密度及び粘度に依存する。固体の沈降時間は、例えば、沈降距離と速度に依存する。連続ディスクスタック遠心機が、放出された異種ポリペプチド凝集物の回収、又は細胞細片の大規模な除去に良好に作用すると考えるのが合理的であり、それは、該遠心機では、比較的大きな遠心力と比較的短い沈降距離のために高い流体速度で処理できるからである。
【0058】
最初の回収工程で捕捉される異種ポリペプチドは、次いで、夾雑タンパク質からさらに精製され得る。一実施態様では、米国特許第5288931号に開示されているように、凝集した異種ポリペプチドは分離され、続いて同時可溶化され、リフォールディングされる。代替的には、可溶性産物は、下記の標準的な技術によって回収される。
【0059】
一般的なクロマトグラフィー法及びその利用は当業者に周知である。例えば、Chromatography, 5版, Part A: Fundamentals and Techniques, Heftmann, E. (編), Elsevier Science Publishing Company, New York, (1992);Advanced Chromatographic and Electromigration Methods in Biosciences, Deyl, Z. (編), Elsevier Science BV, Amsterdam, The Netherlands, (1998);Chromatography Today, Poole, C. F., 及び Poole, S. K., Elsevier Science Publishing Company, New York, (1991);Scopes, Protein Purification Principles and Practice (1982);Sambrook, J.等 (編), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;又は Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, F. M.等(編), John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照のこと。以下の方法は、ペリプラズム又は細胞質から放出された可溶性異種ポリペプチドの好適な精製手順の例であり、当該技術分野で周知である:免疫親和性又はイオン交換カラムによる分画、エタノール沈降法、逆相HPLC、シリカ又はDEAE等のカチオン交換樹脂によるクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS−PAGE、硫安精製、及び、例えばSEPHADEX(商標)G−75を用いたゲル濾過。
【0060】
本発明の一態様では、発酵プロセスにより大量の抗体産生が行われる。様々な大規模流加発酵法が組換えタンパク質の製造に利用可能である。大規模発酵は限度容量が少なくとも1000リットル、好ましくは約1,000から100,000リットルである。これらの発酵槽は、撹拌翼を使用して、酸素と栄養分、特にグルコース(好ましい炭素/エネルギー源)を分散させる。小規模発酵とは、通常、容積が約20リットル以下の発酵槽における発酵を指す。
【0061】
本明細書で論じるように、請求項に係る発明は、例えば、ペプチド、及び抗体を含むタンパク質等の組換えタンパク質作製のために用いることができる。
【0062】
本発明の方法により作製可能な組換えペプチド及び組換えタンパク質の例としては、限定されないが、レニン、ヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン、成長ホルモン放出因子を含む成長ホルモン、副甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、リポタンパク質、α1−アンチトリプシン、インスリンA−鎖、インスリンB鎖、プロインスリン、トロンボポエチン、卵胞刺激ホルモン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、因子VIIIC、因子IX、組織因子、及びフォン・ヴィレブランド因子等の凝固因子、プロテインC等の抗凝固因子、心房性ナトリウム利尿因子、肺表面活性剤、ウロキナーゼ又はヒト尿又は組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)等のプラスミノーゲン活性化因子、ボンベシン、トロンビン、造血成長因子、腫瘍壊死因子−α及びβ、エンケファリナーゼ、ヒト血清アルブミン等の血清アルブミン、ミューラー阻害物質、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、プロリラキシン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、β−ラクタマーゼ等の微生物タンパク質、DNA分解酵素、インヒビン、アクチビン、血管内皮成長因子(VEGF)、ホルモン又は成長因子のレセプター、インテグリン、プロテインA又はD、リウマチ因子、神経栄養因子、例えば脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン−3、−4、−5もしくは−6(NT−3、NT−4、NT−5、もしくはNT−6)、又はNGF−β等の神経成長因子、カルジオトロフィン−1(CT−1)等のカルジオトロフィン(心肥大因子)、血小板由来増殖因子(PDGF)、aFGF及びbFGF等の線維芽細胞成長因子、上皮成長因子(EGF)、TGF−α、及びTGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、TGF−β4、又はTGF−β5を含むTGF−β等のトランスホーミング増殖因子(TGF)、インスリン様成長因子−I及びII(IGF−I及びIGF−II)、デス(1−3)−IGF−I(脳IGF−I)、インスリン様成長因子結合タンパク質、CD−3、CD−4、CD−8、及びCD−19等のCDタンパク質、エリスロポエチン、骨誘導因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、インターフェロン−α、−β、及び−γ等のインターフェロン、M−CSF、GM−CSF、及びG−CSF等のコロニー刺激因子(CSF)、IL−1からIL−13等のインターロイキン (IL)、抗HER−2抗体、スーパーオキシドジスムターゼ、T細胞レセプター、表面膜タンパク質、崩壊促進因子、AIDSエンベロープの一部等のウイルス抗原、輸送タンパク質、ホーミングレセプター、アドレシン、調節タンパク質等の分子がある。
【0063】
請求項に係る発明によって産生される抗体は、特定の抗原決定基(例えば、癌細胞抗原、ウイルス抗原、微生物抗原、タンパク質、ペプチド、炭水化物、化学物質、核酸又はその断片)に対する抗体の均一な集団であるモノクローナル抗体である。目的の標的に対するモノクローナル抗体(MAb)は、培養液中の連続細胞株による抗体分子産生のための、当技術分野で知られている任意の技術を用いて調製することができる。これらとしては、限定されないが、もともとはKohler及びMilstein(1975)Nature 256:495-497)に記載されたハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor等(1983)Immunology Today 4:72)、及びEBVハイブリドーマ技術(Cole等 (1985) in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp. 77-96)がある。このような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、及びIgDを含む任意の免疫グロブリンクラス並びにその任意のサブクラスのものであってもよい。本発明において使用するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、インビトロ又はインビボで培養することができる。
【0064】
有用なモノクローナル抗体としては、限定されないが、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、抗体断片、又はキメラヒト−マウス(又は他の種)モノクローナル抗体を含む。ヒトモノクローナル抗体は、当技術分野で知られている多くの技術によって作製することができる(Teng 等(1983) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:7308-7312;Kozbor等 (1983) Immunology Today 4:72-79;及びOlsson等 (1982) Methods in Enzymology 92:3-16)。
【0065】
抗体はまた、二重特異性抗体であってもよい。二重特異性抗体は、第一の結合特異性を一方のアームに有するハイブリッドイムノグロブリン重鎖、及び他方のアームのハイブリッドイムノグロブリン重鎖−軽鎖対(第二の結合特異性を与える)を有する。この非対称構造は、二重特異的分子の半分のみにイムノグロブリン軽鎖が存在することが容易な分離方法をもたらすため、不要なイムノグロブリン鎖の組み合わせから所望の二重特異的化合物を分離することを促進している(国際公開第94/04690号;Suresh 等 (1986) Methods in Enzymology, 121:210;Rodrigues等(1993) J. of Immunology 151:6954-6961;Carter等(1992) Bio/Technology 10:163-167;Carter等(1995) J. of Hematotherapy 4:463-470;Merchant等(1998) Nature Biotechnology 16:677-681)。二重特異性抗体を作製するための方法は当技術分野で知られている(Milstein 等 (1983) Nature 305:537-539;国際公開第 93/08829号;Traunecker 等(1991) EMBO J. 10:3655-3659)。こうした技術を使用して、本明細書で定義するような疾病の治療又は予防における抗体ー薬物コンジュゲート(ADC)としてのコンジュゲーションのために、二重特異性抗体を作製することができる。
【0066】
本抗体は、定義されているように、癌細胞抗原、ウイルス抗原もしくは微生物抗原に免疫特異的に結合する抗体の、或いは腫瘍細胞もしくはマトリックスに結合する他の抗体の機能的に活性な断片、誘導体又はアナログであってよい。これに関して、「機能的に活性な」は、その断片、誘導体又はアナログが、その断片、誘導体又はアナログが由来する抗体が認識したものと同じ抗原を認識する抗抗イディオタイプ抗体を誘発できることを意味する。具体的には、一つの例示的実施態様では、免疫グロブリン分子のイディオタイプの抗原性は、抗原を特異的に認識するCDR配列のC末端(領域)にある、CDR配列及びフレームワーク配列を欠失させることによリ増強され得る。どのCDR配列が抗原に結合するかを決定するために、CDR配列を含有する合成ペプチドを、当該技術分野で知られている任意の結合分析法、例えばBIAコアアッセイによる抗原との結合アッセイにおいて使用することができる(Kabat 等 (1991) in Sequences of Proteins of Immunological Interest, 第5版, National Institute of Health, Bethesda, Md.;Kabat等 (1980) J. of Immunology 125(3):961-969)。
【0067】
他の有用な抗体は、抗体の断片、例えば限定されないが、可変領域、軽鎖定常領域、及び重鎖のCH1ドメインを含み抗体分子のペプシン消化によって生成されうるF(ab′)2断片、及びF(ab′)2断片のシスルフィド架橋を還元することで得られうるFab断片などの抗体断片を含む。他の有用な抗体は、抗体の重鎖及び軽鎖二量体もしくはその任意の最小断片、例えばFvs又は単鎖抗体(SCA)(例えば米国特許第4946778号;Bird (1988) Science 242:423-42;Huston等 (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-5883;及びWard等 (1989) Nature 334:544-54に記載)、又は抗体と同じ特異性を有する任意の他の分子である。
【0068】
抗体は、抗体の融合タンパク質又は機能的に活性なその断片であり得、例えばここで、抗体はN末端又はC末端のいずれかで抗体ではない別のタンパク質のアミノ酸配列(又はその一部、例えばタンパク質の少なくとも10、20、もしくは50のアミノ酸部分)への共有結合(例えばペプチド結合)によって融合される。抗体又はその断片は、定常ドメインのN末端で他のタンパク質に共有結合され得る。
【0069】
本明細書中のモノクローナル抗体は特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部分が、特定の種に由来する抗体又は特定の抗体クラスもしくは抗体サブクラスに属する抗体における対応配列と同一又は相同である一方、該鎖の残部が、別の種に由来する抗体又は別の抗体クラスもしくは抗体サブクラスに属する抗体における対応配列と同一又は相同である「キメラ」抗体、並びに所望の生物学的活性を示す限りはそのような抗体の断片を含む(米国特許第4816567号、及びMorrison等(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81:6851-6855)。キメラ抗体は、例えば、マウスモノクローナルに由来する可変領域と、ヒト免疫グロブリンの定常領域を有するもののように、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である(米国特許第4816567号;第4816397号)。キメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)由来の可変ドメイン抗原結合配列、及びヒト定常領域配列を含む霊長類化抗体を含む。
【0070】
キメラ及びヒト化モノクローナル抗体は、ヒト及び非ヒト部分の両方を含み、標準的な組換えDNA技術(その内容全体が本明細書において出典明示により援用される、国際公開第87/02671号;欧州特許出願公開第184187号;欧州特許出願公開第171496号;欧州特許出願公開第173494号;国際公開第86/01533号;米国特許第4816567号;欧州特許出願公開第12023号;Berter 等 (1988) Science 240: 1041-1043;Liu 等 (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84: 3439-3443;Liu 等(1987) J. Immunol. 139: 3521-3526;Sun 等(1987) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84: 214-218;Nishimura 等 (1987) Cancer. Res. 47: 999-1005;Wood等(1985) Nature 314: 446-449;及び Shaw 等 (1988) J. Natl. Cancer Inst. 80: 1553-1559;Morrison (1985) Science 229: 1202-1207;Oi 等(1986) BioTechniques 4: 214;米国特許第5225539号;Jones等 (1986) Nature 321:552-525;Verhoeyan 等 (1988) Science 239: 1534;及び Beidler 等 (1988) J. Immunol. 141: 4053-4060)を用いて作製可能である。
【0071】
本発明の方法によって生産されうる治療用モノクローナル抗体には、限定されないが、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標)、Genentech社、Carter等 (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 89:4285-4289;米国特許第5725856号);抗CD20抗体、例えばキメラ抗CD20「C2B8」(米国特許第5736137号);リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))、オクレリツマブ(2H7抗体のキメラ又はヒト化変異体)(米国特許第5721108号、国際公開第04/056312号)、又はトシツモマブ(BEXXAR(登録商標);抗IL−8(St John等 (1993) Chest, 103:932, 及び 国際公開第95/23865号);他のインターロイキンを標的とする抗体、例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−9、IL−10、IL−12、IL−13;ヒト化及び/又は親和性成熟抗VEGF抗体を含む抗VEGF抗体、例えばヒト化抗VEGF抗体huA4.6.1ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標),Genentech社, Kim 等 (1992) Growth Factors 7: 53-64, 国際公開第96/30046号,国際公開第98/45331号);抗PSCA抗体(国際公開第01/40309)号);S2C6及びそのヒト化変異体を含む抗CD40抗体(国際公開第00/75348号);抗CD11a(米国特許第5622700号;国際公開第98/23761号;Steppe等 (1991) Transplant Intl. 4:3-7;Hourmant等 (1994) Transplantation 58:377-380);抗IgE (Presta 等 (1993) J. Immunol. 151:2623-2632;国際公開第 95/19181号);抗CD18(米国特許第5622700号;国際公開第97/26912);E25、E26及びE27等の抗IgE(米国特許第5714338号及び第5091313号;国際公開第93/04173号;米国特許第5714338号);抗Apo−2レセプター抗体(国際公開第98/51793号);例えばcA2(REMICADE(登録商標)、CDP571及びMAK−195を含む抗TNF−α抗体(米国特許第5672347号;Lorenz 等 (1996) J. Immunol. 156(4): 1646-1653;Dhainaut 等 (1995) Crit. Care Med. 23(9):1461-1469);抗組織因子(TF)(欧州特許第0420937号);抗ヒトα4β7インテグリン(国際公開第98/06248号);抗EGFR、キメラ化又はヒト化225抗体(国際公開第96/40210号);抗CD3抗体、例えばOKT3(米国特許第4515893号);抗CD25又は抗tac抗体、例えばCHI−621 SIMULECT(登録商標)及びZENAPAX(登録商標)(米国特許第5693762号);CD4抗体,例えばcM−7412抗体(Choy等(1996) Arthritis Rheum 39(1):52-56);抗CD52抗体、例えばCAMPATH-1H(Riechmann等(1988) Nature 332:323-337);抗Fcレセプター抗体、例えば、Graziano等(1995) J. Immunol. 155(10):4996-5002に記載のFcγRIに対するM22抗体;抗癌胎児抗原(CEA)抗体、例えばhMN−14(Sharkey等(1995) Cancer Res. 55(23Suppl): 例えばhMN−14(Sharkey等(1995) Cancer Res. 55(23Suppl): 5916s-5920s);huBrE−3、hu−Mc3及びCHL6を含む乳房上皮細胞に対する抗体(Ceriani等(1995) Cancer Res. 55(23):5852s-5856s;及びRichman等(1995) Cancer Res. 55(23 Supp): 5916s-5920s);大腸癌細胞に結合する抗体、例えばC242(Litton等(1996) Eur J. Immunol. 26(1):1-9);抗CD38抗体、例えばAT13/5(Ellis等(1995) J. Immunol. 155(2):925-937);抗CD33抗体、例えばHu M195(Jurcic等(1995) Cancer Res 55(23 Suppl):5908s-5910s、及びCMA−676又はCDP771;抗CD22抗体、例えばLL2又はLymphoCide(Juweid等(1995) Cancer Res 55(23 Suppl):5899s-5907s);抗EpCAM抗体、例えば17−1A(PANOREX(登録商標));抗GpIIb/IIIa抗体、例えばアブシキシマブ又はc7E3 Fab(REOPRO(登録商標));抗RSV抗体、例えばMEDI−493(SYNAGIS(登録商標));抗CMV抗体、例えばPROTOVIR(登録商標);抗HIV抗体、例えばPRO542;抗肝炎抗体、例えば抗Hep B抗体OSTAVIR(登録商標);抗CA125抗体OvaRex;抗イディオタイプGD3エピトープ抗体BEC2;抗ヒト腎細胞癌抗体、例えばch−G250;ING−1;抗ヒト17−1A抗体(3622W94);抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体(A33);GD3ガングリオシドに対する抗ヒトメラノーマ抗体R24;抗ヒト扁平上皮癌(SF−25);及び抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体、例えばSmart ID10及び抗HLA DR抗体Oncolym(Lym−1)が含まれる。
【0072】
III.方法及びアッセイ
分析方法/アッセイ
Clarity,Opalescence and Coloration(COC)アッセイ
乳白度は、乳白溶液及び懸濁液の均一性における超顕微鏡的光学密度のために吸収され又は散乱された光の計器測定によっても判定することができる。そのような技術は、比ろう法及び比濁法である。着色試料の濁度計測のため、選択を伴うレシオ比濁比ろう法を用いる。懸濁粒子の光散乱効果は、透過光(比濁法)又は散乱光(比ろう法)のいずれかを観察することにより測定可能である。レシオ比濁法は、比ろう法と比濁法の両方の原理が組み合わさったものである。比濁法及び比ろう法は、微乳白色の懸濁液の測定に有用である。明確に定められた条件下で作製された参照懸濁液を使用しなければならない。適切な色の割り当てを確認するためには、米国薬局方2012(USPモノグラフ631,Color and Achromicity)や欧州薬局方5.0(EP Method 2.2.2, Degree of Coloration of Liquids)に記載の標準色溶液(を参照)。懸濁液の光学的特性と分散相の濃度との関係が良くても半経験的であるため、定量的測定のためには検量線の作成が必須である。色は入射光と分散光の両方を減衰させ、濁度値を下げ、負の干渉を与えるため、着色液体の乳白色の判定はレシオ選択を伴うレシオ比濁計又は比ろう計でなされる。色の濃くない着色試料でさえもその効果は大きく、従来の比濁計は使うことができない。透明度と乳白度の機器による評価は、分析者の視力に依存しない、より識別力の高い試験を可能にする。数値結果は、特に安定性試験において、品質モニタリング及びプロセス制御のためにより有用である。例えば、安定性に関する先の数値データは、投薬製剤又は原薬の所与のロットが使用期限の前に保存期限を超えてしまうかどうかの判定に利用され得る。
【0073】
HPLCアッセイ
高圧液体クロマトグラフィーとしても知られており、HPLCと略される高性能液体クロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィーの特殊な形態であり、生化学及び分析化学において今日頻繁に使用されている。分析物を高圧で液体(移動相)中の固定相のカラムに通し、分離された成分が固定相に残る時間を短縮するので、成分がカラム中に拡散するのに必要な時間が短縮される。このことは得られるクロマトグラム中により狭いピークを生じるので、LCと比較してより良好な分解能及び感度をもたらす。試料溶質の溶解を確実にするように移動相を選択する。固定相について、微粒子シリカの大きな表面積が溶質−固定相の相互作用の差を強調するので、好ましくは微粒子シリカ(もとのままもしくは化学的に修飾された)を使用する。溶質移動相相互作用と比べて、溶質と強力に相互作用する固定相の使用は、非常に長い保持時間、すなわち分析に有用ではない状態を生じる。そのために、固定相は、移動相の相互作用に比べて弱〜中程度の溶質相互作用を提供するように選択されなければならない。結果的に、溶質の性質により、選択されるLCの種類が決まる。移動相でより強い相互作用が生じて試料の溶解及び迅速な溶出を確実にするはずであるが、一方、固定相は溶質間の微妙な差に対して応答性が高いはずである。例えば、極性の中性化合物は、極性移動相を溶質の分散的な特性の微妙な差を識別する非極性固定相と共に使用すると、通常、より良好に分析される。HPLCの強力な側面の一つは、移動相が変化して保持の機構を改変することができるということである。保持を調整するために、移動相に改質剤を加えることができる。例えば、水性移動相においてpHは重要な変数である。
【0074】
逆相クロマトグラフィー(RP−HPLC)は、非極性固定相及び極性移動相(一つ以上の極性溶媒、例えば水、メタノール、アセトニトリル及びテトラヒドロフランなどからなる)の使用を要する。
【0075】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)HPLC: このクロマトグラフィー法は、その疎水性に基づきタンパク質又は抗体/タンパク質バイオコンジュゲートを分析するのに効果的である。疎水性相互作用クロマトグラフィーの背後にある理論は、高塩濃度水性移動相の使用によってタンパク質が樹脂に結合されるということである。塩分調整は、タンパク質が疎水性リガンドのより狭い表面領域に結合するのを可能にする離液効果に寄与する。タンパク質は、塩分濃度を低くするという簡単な方法で溶出される。殆どの治療標的は低塩緩衝液又は無塩緩衝液に溶出される。従って、化合物は、より極性が高く、変性が低い環境で溶出される。例えば、HICは、抗体−薬物コンジュゲート又はタンパク質−薬物コンジュゲートにおける薬物添加量分析のために広く利用されている。
【0076】
NMRアッセイ
核酸磁気共鳴(NMR)検出は、Hや13Cなど奇数の質量を有する所定の核がランダムに軸の周囲を回転することに基づく。しかし、強力な磁石の極の間に置かれた場合、スピンは磁場に対してパラレルかアンチパラレルのいずれかに整列されるが、エネルギーがわずかに低いためパラレル方向が好まれる。次いで、核を電磁放射線で照射し、電磁放射線は吸収されてパラレル核を高エネルギー状態にし、その結果として、核は放射線と「共鳴」するようになる。分子中の全ての核は、包含する磁場を変化させる電子雲に取り巻かれており、そのために吸収周波数が変わるので、H又はCのいずれも、その配置及び隣接する分子、又は化合物の元素に依存して異なるスペクトルを生じる。
【0077】
質量分析法
質量分析法はイオンの質量対電荷比(m/z又はm/q)を測定するために用いられる分析手法である。これは、最も一般的には、試料成分の質量を表すマススペクトルを作成することによって物理的試料の組成分析を行うために使用される。この手法にはいくつかの応用例があり、例えば、化合物及び/又はそのフラグメントの質量による未知化合物の同定、化合物中の一つ以上の元素の同位体組成の判定、化合物のフラグメンテーションを観察することによる化合物の構造決定、慎重に設計された方法を用いた試料中の化合物の量の定量化(質量分析法は本質的には定量的ではない)、気相イオン化学の基盤研究(減圧におけるイオン及び中性粒子の化学)、様々な他のアプローチを用いた化合物の他の物理的、化学的又は生物学的特性の判定を含む。
【0078】
質量分析計は質量分析に使用される装置であり、試料の組成を分析するための質量スペクトルを作成する。これは通常、試料をイオン化し、異なる質量のイオンを分離し、イオン束の強度の測定による相対的存在量を記録することによって達成される。典型的な質量分析計は、イオン源、質量分析器、及び検出器の3つの部分を備える。
【0079】
イオン源の種類は、質量分析により分析できる試料の種類に非常に影響する要因である。電子イオン化及び化学イオン化は、気体及び蒸気に対して用いられる。化学イオン化源において、分析物はイオン化源内での衝突の間の化学イオン分子反応によりイオン化させる。液体及び固体の生物試料と共にしばしば使用される2種類の手法として、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びマトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)が挙げられる。他の手法としては、高速原子衝撃(FAB)、サーモスプレーイオン化、大気圧化学イオン化(APCI)、二次イオン質量分析法(SIMS)、及び熱イオン化が挙げられる。
【0080】
紫外線分光法
紫外・可視分光法又は紫外可視吸光度測定法(UV−Vis又はUV/Vis)は、紫外可視スペクトル領域での吸光分光法又は反射分光法を指す。これは、可視領域とその隣接領域の光(近紫外及び近赤外(NIR))を使用することを意味する。可視領域の吸収率又は反射率が対象化学物質の観測される色に直接影響を与える。電磁スペクトルのこの領域で、分子は電子遷移を受ける。この手法は、蛍光が励起状態から基底状態への遷移に関わる一方、吸収が基底状態から励起状態への遷移を示すという意味で、蛍光分光法を補完するものである。UV分光計は、可視光及び/又は紫外線源(赤色)からの光線を使用する機器であり、(光源は)プリズム又は回折格子によってその成分波長に分離される。各単色(単一波長)光線は順番に、ハーフミラーを備えた装置により等しい強度をもつ二つの光線に分光される。一方の光線、すなわち試料光線(マゼンタ色)は、溶媒が透明である研究対象化合物の溶液を容れた小さな透明容器(キュベット)を通過する。他方の光線、すなわち参照光線(青色)は、溶媒のみを容れた同一のキュベットを通過する。次いで、これらの光線の強度が電子検出器により測定され、比較される。参照光線は殆ど又は全く光吸収を受けないはずだが、その強度をI0と定義する。試料光線の強度はIと定義する。分光計は短時間で自動的に、全ての成分波長を記載されている方法でスキャンする。スキャンされる紫外線(UV)領域は、通常、200から400nmであり、可視部分は400から800nmである。
【実施例】
【0081】
IV.実施例
以下は、本発明の方法及び組成物の実施例である。上掲の一般的記述を所与として、他の様々な実施態様が実施され得る。
【0082】
実施例1:付加体検出
特定の組換えタンパク質製造中に、7つの保存用濾過バルク(FBS)が生産され、製品外観基準に反する典型的な結果が、7つのバルク中5つで得られた。製造仕様書ごとに、産物固有の試験指導書がCOCアッセイ(透明度/乳白色度、着色度、及び外観を判定する方法)による産物サンプル評価でイエロー(Y)系の使用を義務付けている。しかし、二つのバルク(実験2及び実験3)に褐色が現れ、COCアッセイで期待されるイエロー系の色基準でY7以下を満たさなかった。実験1−3のCOCの結果比較は
図1に示されている。この相違を更に調べるため、7つのFBS試料を濃縮して色の純度を高めた。適切な色割り当て確認のために、濃縮サンプルは、米国薬局方2012(USP Monograph 631, Color and Achromicity)又は欧州薬局方5.0(EP Method 2.2.2, Degree of Coloration of Liquids)に挙げられている全ての標準色溶液と比較された。試料は、参照試料を調製した5分後、黒い背景に対して垂直に見ながら、拡散昼光下で比較された。光線の拡散は、参照試料Iが容易に水と識別可能であり、参照懸濁液IIが容易に参照懸濁液Iと識別可能であるようなものでなければならない。液体は、その透明度が、水Rもしくは上記条件下での試験時に使用した溶媒の透明度と同じであれば、又は、その乳白色が参照試料Iのそれよりも顕著でなければ、透明と見なした。
【0083】
着色の原因が実験2及び実験3では不明であったことから、この非定型褐色の原因を特定するために複数の治験研究が行われた。実験1−3からの試料の金属、微量元素(金属以外)、及び発色団が分析された。これらの調査の結果、実験2及び実験3で観察された着色は金属又はその他の微量元素が原因ではないことが示唆された(データは示さない)。
【0084】
発色団がFBSで観察された予期せぬ着色と関係があるのかを判定するため、実験1−3を紫外・可視(UV/Vis)分光法を用いて層長1cmのキュベットで分析した。紫外スペクトル(200−600nm)は分析試料の観察プロファイルにおける有意な相違は、何も示さなかった。
【0085】
紫外分光光度計の感度を上げるため、層長10cmのキュベットを使用して実験を繰り返した。試料の吸光度は分光光度計の光線中の吸収分子の数に比例するため、路長10cmのキュベットで1cmのキュベットよりも感度が向上した。実験1−3の吸収スペクトルを判定するため、試料が200−700nmの間でスキャンされた。実験2と実験3のスペクトルの形は、実験1のそれとは異なっていた。つまり、新しい吸光ピークが、実験1では顕著でなかった約320nm及び約460nmの所で観察された(
図2A)。この相違は、実験1のスペクトルを実験3のスペクトルから取り去ると、より明白に観察できる(
図2B)。実験2と実験3で観察される460nmのピークは、フラビン(例えば、ビタミン)のフィンガープリントと一致する。
【0086】
10cmのUV/visの結果に基づき、MS検出のオプション付きRP−HPLC及びIECフルスペクトラム分析が、実験1−3からのFBSで実施された。
【0087】
RP−HPLCでのフルスペクトル検出を利用したところ、実験1−3のクロマトグラフィー上の相違は観察されなかった(データは示さない)。ところが、310nmでのIECで、わずかな相違が観察された。
図3で示すように、実験2及び実験3で、メインピークの後ろに小さなピークが観察される一方、実験1のプロファイルは、参照物質と同等である。
【0088】
インタクトな試料が二次元LC−MS用に提出され、280nm及び300nmでモニターされた。二次元LC−MS分析は二つの部分で構成されている。つまり、第一の次元は、断片ピークである第二の次元と、RP−HPLCによって質量分析のために、分離される。この実験から、期待質量が実験1から観察された一方、期待質量に加え、更に約157ダルトン多い質量が実験2と3で観察された(
図4)。
【0089】
実施例2:付加体の解明
この付加体を更に解明するために、実験3を分画用に選び(IECアッセイからの小さなピーク(
図3)は回収した)、更に二次元LC−MSで分析、及びMS検出と合わせたトリプシンペプチドマップによる質量同定を行った。
【0090】
二次元LC−MS分析(
図5)から、期待質量に加え、約156ダルトンの質量増加が、分画されたショルダーピークで再び観察された。試料をオンライン還元(DTT使用)すると、期待した質量減が観察された。更に4ダルトンが還元分析から未変性分析の間に観察されたのは、ジスルフィド結合の切断、及び4個の水素の付加に因る。付加質量が再び観察されたことは、修飾が非可逆的又は共有結合性であることを示唆する。
【0091】
トリプシンペプチドマップから、試料が214nm及び310nmで回収された。
図6に示すように、45−55分領域で新しいピークが高まっている。48.8分310nmで観察される新しいピークのLC−MS−MS分析は、+154.006ダルトンによって修飾されたシステイン残基を持つT20ペプチドであると判定された。(システインで、+154.006ダルトンで)修飾された遊離のT6及びT16ペプチドも、質量抽出によって検出された。還元されたT21又は修飾されたT21は検出されなかったが、これはおそらく存在レベルの低さに因る。参照と比較した場合、50−56分、310nmで溶出が観察された他の二つのピークには、固有の種は含まれていなかった。
【0092】
付加体構造を判定するために一次元及び二次元1H NMR分析を収集した。追加データはTOCSY(全相関分光法)、HSQC(異核単一量子コヒーレンス)、HMBC(異種核多重結合相関)、及びROESY(回転フレームオーバーハウザー効果分光法(nOe))を用いて取得した。
【0093】
TOCSYは互いに結合している全ての陽子間だけでなく、所与のスピン系内の他の全ての陽子間に相関を作り出す。HSQC実験により、直接結合核(すなわち、二種類の化学核)の化学シフトの相関が示され、一方、HMBC実験により、互いに分離している二種類の核の化学シフトと二本以上の化学結合との相関が示される。正確な分子配座(すなわち、分子の三次元構造)を確認するためにROESYでは、空間を用いるnOeを、化学結合を介さずに利用する。回収されたペプチドで、182ppmで芳香族(キノン)プロトンとC=0との長距離の1H−13C結合が観察された。芳香族領域の回収されたペプチドに対する1H−13C HSQCの化学シフトは、ナフタレン−1,4−ジオンに結合した合成モデル化合物について観察されたものとほぼ一致する。TOCSYデータは、産物中のQ、V及びR共鳴を割り当てる。産物の1H−15N HSQCデータを合成ペプチド(NH
2−IVQCR−COOH)と比較すると、
図7に示すように産物試料におけるCys−NH相関がなくなっているのが分かった。推定構造が、システインのCHとアルギニンのNHの間に観察された強いnOeによって確認された(
図8)。回収されたNMRデータに基づいて、推定構造が
図9に示されている。
【0094】
組換えタンパク質ー褐色付加体を形成した1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)のような着色種の同定は、MS、NMR、及び遺伝子データに基づくものであった。NMRデータは、DHNAがシステイン残基を介して組換えタンパク質に結合したことを確認した。DHNAは、大腸菌細胞のもつメナキノン生合成経路(
図10)由来の産物である。メナキノンは大腸菌に存在するが、その産生は、嫌気性及び/又は微好気的条件にある場合に増加する。メナキノンは、限られた酸素環境中の電子輸送に使用され、また、嫌気(微好気)的条件でジスルフィド結合を形成するタンパク質DsbBを活性な酸化状態に戻すために使用される。
【0095】
実施例3:DHNA−産物付加体の形成を軽減するためのHi−dO工程
産物の遊離チオールの生成及びその後のDHNAー産物付加体形成を防止するために、抑制手法が開発された。実験2と実験3が最高の力価及び細胞密度を示した為、発色の原因は収集操作中の低レドックス環境の結果であると判定された。実験2も実験3も、希釈ホモジネートをより長い保持時間に供し、15℃未満の目標温度を達成するためにより長時間ホモジネートを持続させ、次善のホモジネート混合時間及び速度を有していた(データは示していない)。これらの要因は、産物のジスルフィド結合の還元を促進し、DHNAがタンパク質産物の遊離チオールに結合する機会を与えるような低酸素環境を作ることに貢献した。
【0096】
DHNA−タンパク質付加体が、還元ジスルフィド結合(すなわち遊離チオール)を引き起こす収集操作中の低レドックス環境中に形成されたため、遊離チオールの生成とDHNA−産物付加体の形成を防止するためのアプローチが開発された。このHi−dOと呼ばれる改善された工程制御は、還元環境を取り除く(すなわち遊離チオールを生成しない)ため、収集操作における溶存酸素濃度をゼロより大きい(>0%)レベルに維持する。
【0097】
DHNA−産物付加体の形成は発酵及び収集操作上の複数のイベントの組み合わせを要する複雑な生体反応である。発酵工程で作り出されるものは、かなりの割合及び/又は量のDHNAである。以下の概略図で、典型的な収集操作の主要3工程(発酵後工程、ホモジナイズ工程、ホモジナイズ後工程)を示す。
【0098】
【0099】
いくつかの生産工程が、それらが還元環境又は遊離チオール生成を軽減するかどうかを判定するために、発酵後/ホモジナイズ前、そしてホモジナイズ後に試験された。これらの試験された工程改善を、表1及び
図12に示す。
【0100】
【0101】
表1及び
図12で概説した工程改善の結果を表2に示す。
【0102】
【0103】
褐色着色の原因を知るために根本原因解析が実施された。この分析で、着色された種(DHNA)の同定、その組換えタンパク質産物への結合、付加体(DHNA−タンパク質)の構造、その組成、また、作製工程の中でいつ、どのようにしてDHNAが産物に結合するのかについての推定メカニズムが明らかになった。表1に要約したように、還元環境を取り除いて遊離チオール生成物の形成を防止するために収集操作の間ゼロより高い(>0%)溶存酸素濃度を維持することによる、褐色付加体の形成を防止する緩和戦略が実施された。その結果、IEC分析が示すように、異常ピーク率は0%で、FBSにおける褐色付加体の形成は検出されなかった(表2)。
【0104】
実施例4:menE遺伝子欠損大腸菌宿主細胞の生成
褐色付加体の形成抑制のために、本発明のHi−dO収集工程に加え、もう一つのアプローチが採られた。このアプローチはmenE遺伝子をゲノムから欠失させる、原核宿主細胞の遺伝子操作を伴い、それによって組換え産物と結合する可能性のあるメナキノン生合成経路からのDHNA中間体の生成を阻害する。
【0105】
宿主細胞から削除されたmenE遺伝子は、本明細書において出典明示により援用されるBaba等, Construction of E. coli K-12 in-frame, single-gene knockout mutants: the Keio collection, Molecular Systems Biology, 21巻, p.1-10 (2006)に記載の方法に従い、インフレーム単一遺伝子性ノックアウト変異体として生成された。menE遺伝子は、FLP認識標的部位に隣接した(カナマイシン等)耐性カセット及び隣接染色体配列に対して50塩基対配列同一性を含むPCR産物を用いた変異体生成の標的遺伝子であった。
【0106】
変異体生成は、カナマイシン30μg/mLを含むLB(Luria Bertaniブロス)寒天上で37℃で好気的に培養された宿主細胞の場合、約10−1000のカナマイシン耐性コロニーを生じさせた。
【0107】
実施例5:menE遺伝子欠失大腸菌宿主細胞を用いた組換えタンパク質作製
menE遺伝子欠失大腸菌宿主細胞の、DHNA結合タンパク質付加体を作らない組換えタンパク質作製能が試験された。簡単に述べると、menE遺伝子欠失大腸菌細胞は、二つの組換えタンパク質、PROT1及びPROT2、並びに二つの組換え抗体、AB1及びAB2をコードするプラスミド構築物で、当業者に周知の標準的な技術(例えば、Simmons 等, Expression of full-length immunoglobulins in E. coli: rapid and efficient production of aglycosylated antibodies, J of Immunol Methods 263 p. 133-147 (2002)を参照)により形質転換されているものだった。この4つの組換えタンパク質/抗体の発酵は、本明細書に記載の通りに進められた(本明細書において出典明示により援用される米国特許第6979556号も参照)。
【0108】
4つ全ての組換えタンパク質/抗体のために濾過バルク組換え産物のDHNA−タンパク質付加体形成は、310nmでのIECアッセイによって試験され、検出可能なDHNA−タンパク質付加体は見られなかった(PROT1の実施結果については、
図11参照)。
【0109】
驚くべきことに、組換え産物の収率は、menE欠失大腸菌細胞を使用した結果、インタクトな野生型menE遺伝子を用いた大腸菌宿主細胞の場合の収率と比較して約20%から50%増と、顕著な増加を示した。表3にこれらの結果を示す。
【0110】