特許第6225448号(P6225448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6225448
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】タイヤトレッド用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20171030BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20171030BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20171030BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20171030BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C08L9/06
   C08L53/02
   C08L45/00
   C08K3/04
   B60C1/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-67949(P2013-67949)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-189695(P2014-189695A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】串田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕記
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−185090(JP,A)
【文献】 特開2006−348149(JP,A)
【文献】 特開2010−270314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L7/00−21/02
C08L45/00
C08L53/02
C08K3/00−13/08
B60C1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−ジエン−スチレン共重合体を部分的に水添したエラストマーを5〜30重量%とスチレンブタジエンゴムを95〜70重量%との合計で100重量%になるゴム成分100重量部に、窒素吸着比表面積が130〜200m2/gのカーボンブラックを50〜120重量部、芳香族変性テルペン樹脂を2〜10重量部配合したゴム組成物であって、前記スチレンブタジエンゴムのうち、10〜55重量%が溶液重合スチレンブタジエンゴムS−SBR、60〜40重量%が乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBRであり、該E−SBRのスチレン量が40重量%以上であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記エラストマーが、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を部分的に水添したエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤトレッド用ゴム組成物に関し、広範な温度域で優れたドライグリップ性能、操縦安定性及び耐摩耗性を確保するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのグリップ性能は、タイヤ温度の影響が大きく、低温状態では十分なグリップ性能が得られないことや、高温状態では操縦安定性及び耐摩耗性が低下することが知られている。特に、ラリー走行向けの競技用タイヤでは、変化する路面条件や速度域に対応できるように、幅広い温度域で発熱性(tanδ)が高く、かつ操縦安定性及び耐摩耗性が優れることが求められる。
【0003】
このため、ガラス転移温度(Tg)が高い乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)にカーボンブラックを多量に配合したゴム組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、需要者が競技用タイヤに求める要求性能はより高いものになり、幅広い温度域での発熱性(tanδ)を一層高くしてドライグリップ性能を向上させると共に、高温状態でのゴム硬度及び弾性率を確保して操縦安定性及び耐摩耗性を優れたものにするようにしたラリー走行用タイヤ向けのトレッド用ゴム組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−191844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、広範な温度域で優れたドライグリップ性能、操縦安定性及び耐摩耗性を確保するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、スチレン−ジエン−スチレン共重合体を部分的に水添したエラストマーを5〜30重量%とスチレンブタジエンゴムを95〜70重量%との合計で100重量%になるゴム成分100重量部に、窒素吸着比表面積が130〜200m2/gのカーボンブラックを50〜120重量部、芳香族変性テルペン樹脂を2〜10重量部配合したゴム組成物であって、前記スチレンブタジエンゴムのうち、10〜55重量%が溶液重合スチレンブタジエンゴムS−SBR、60〜40重量%が乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBRであり、該E−SBRのスチレン量が40重量%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、スチレン−ジエン−スチレン共重合体を部分的に水添したエラストマーを5〜30重量%と、スチレン量が40重量%以上である乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBRが60〜40重量%、溶液重合スチレンブタジエンゴムS−SBRが10〜55重量%を占めるスチレンブタジエンゴム95〜70重量%との合計で100重量%になるゴム成分100重量部に、窒素吸着比表面積が130〜200m2/gのカーボンブラックを50〜120重量部、芳香族変性テルペン樹脂を2〜10重量部配合したことにより、幅広い温度域で発熱性(tanδ)及びゴム硬度を一層高くしてドライグリップ性能及び操縦安定性を向上させると共に、高温状態での耐摩耗性を優れたものにすることができる。
【0008】
前記エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を部分的に水添したエラストマーが好ましい。
【0010】
上述したゴム組成物をトレッド部に使用した空気入りタイヤは、幅広い温度域でドライグリップ性能及び操縦安定性を向上すると共に、高温状態での耐摩耗性を優れたものにすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物において、ゴム成分は、スチレン−ジエン−スチレン共重合体を部分的に水添したエラストマー(以下「部分水添エラストマー」という)とスチレンブタジエンゴムとからなり、これらの合計を100重量%にする。
【0012】
部分水添エラストマーは、スチレン−ブタジエン−スチレン、スチレン−イソプレン−スチレンなどのスチレン−ジエン−スチレン共重合体を部分的に水添したエラストマーである。スチレン−ジエン−スチレン共重合体のポリジエンブロックを部分的に水添することにより、加硫可能なセグメントにより大きな発熱性を確保しながら、かつ高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度を改良することができる。これにより、高温状態を含む幅広い温度域でのドライグリップ性能を優れたものにすることができる。一方、スチレン−ジエン−スチレン共重合体を完全に水添したスチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン(SEPS)などのエラストマーを配合したゴム組成物は、加硫可能なセグメントを有していないので、発熱性を大きくしてドライグリップ性能を優れたものにすることができない。またゴム組成物の高温状態での弾性率を高くすることができない。
【0013】
本発明において、スチレン−ジエン−スチレン共重合体を部分水添するとは、ポリジエンセグメントのうち、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは8〜60重量%を水素添加することをいう。ポリジエンセグメントを上記の範囲で水添することにより、加硫可能なセグメントにより大きな発熱性を確保しながら、かつ高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度を改良することができる。
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物が含有する部分水添エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の部分水添エラストマーが好ましい。
【0015】
本発明で配合する部分水添エラストマーとしては、数平均分子量(以下「Mn」という)が好ましくは10万〜20万、より好ましくは10万〜15万であるとよい。部分水添エラストマーのMnを10万以上にすることにより、高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度を高いレベルで確保することができる。また部分水添エラストマーのMnを20万以下にすることにより、ゴム組成物の加工性を良好なレベルに維持することができる。なお本明細書において部分水添エラストマーのMnはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定するものとする。
【0016】
本発明で配合する部分水添エラストマーは、スチレン量が好ましくは40〜65重量%、より好ましくは45〜60重量%であるとよい。部分水添エラストマーのスチレン量を40重量%以上にすることにより、高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度を確保することができる。また部分水添エラストマーのスチレン量を65重量%以下にすることにより、ゴム強度を高いレベルで確保し耐摩耗性を維持することができる。なお部分水添エラストマーのスチレン量は赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。
【0017】
本発明において、部分水添エラストマーの含有量は、ゴム成分100重量%中、5〜30重量%、好ましくは7〜15重量%にする。部分水添エラストマーの含有量を5重量%以上にすることにより、発熱性を大きくしてドライグリップ性能を優れたものにすることができる。部分水添エラストマーの含有量を30重量%以下にすることにより、高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度を確保することができる。
【0018】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分は上述した部分水添エラストマーとスチレンブタジエンゴムとからなる。スチレンブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100重量%中、95〜70重量%、好ましくは93〜85重量%にする。スチレンブタジエンゴムの含有量を70重量%以上にすることにより、高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度を確保することができる。スチレンブタジエンゴムの含有量を95重量%以下にすることにより、発熱性を大きくしてドライグリップ性能を優れたものにすることができる。
【0019】
本発明において、スチレンブタジエンゴムは、特定の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBRを必ず含む。特定の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBRを含有することにより、ゴム組成物の大きな発熱性と、高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度とのバランスをより優れたものにすることができる。
【0020】
特定の乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBRの含有量は、ゴム成分100重量%中、60〜40重量%、好ましくは55〜45重量%にする。特定のE−SBRの含有量を40重量%以上にすることにより、高温状態におけるゴム硬度を高くし操縦安定性及びグリップ性能の持続性を確保するとともに、耐摩耗性を良好にすることができる。また特定のS−SBRの含有量を60重量%以下にすることにより、高温状態の弾性率を高くし操縦安定性を確保するとともに、発熱性を大きくしてグリップ性能を優れたものにすることができる。
【0021】
E−SBRは、スチレン量が40重量%以上である乳化重合されたスチレンブタジエンゴムである。E−SBRのスチレン量は40重量%以上、好ましくは40〜45重量%である。E−SBRのスチレン量を40重量%以上にすることにより、グリップ性能を優れたものにすることができる。E−SBRのスチレン量は赤外分光分析(ハンプトン法)により測定するものとする。
【0022】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、スチレンブタジエンゴムとして、上述した特定のE−SBR以外に溶液重合スチレンブタジエンゴムを含有する。溶液重合スチレンブタジエンゴムを含有することによりグリップと耐摩耗性が良好になる。溶液重合スチレンブタジエンゴムの含有量は、ゴム成分100重量%中、55〜10重量%、好ましくは50〜15重量%である。
【0023】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、芳香族変性テルペン樹脂を配合することによりグリップ性能を向上する。芳香族変性テルペン樹脂の配合量は、ゴム成分100重量部に対し2〜10重量部、好ましくは5〜10重量部である。芳香族変性テルペン樹脂の配合量を2重量部以上にすることにより、グリップ性能を改良することができる。芳香族変性テルペン樹脂の配合量を10重量部以下にすることにより、ゴム組成物の粘着性の増大を抑制し、成形ロールへの密着を抑え、良好な成形加工性及び取り扱い性を維持することができる。
【0024】
芳香族変性テルペン樹脂は、テルペンと芳香族化合物とを重合することにより得られる。テルペンとしては、例えばα−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネンなどが例示される。芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデンなどが例示される。なかでも芳香族変性テルペン樹脂としてスチレン変性テルペン樹脂が好ましい。
【0025】
芳香族変性テルペン樹脂としては、軟化点が好ましくは80〜160℃、より好ましくは85〜140℃であるものを使用するとよい。芳香族変性テルペン樹脂の軟化点が80℃未満であると、グリップ性能を改良する効果が十分に得られない。また、芳香族変性テルペン樹脂の軟化点が160℃を超えると、耐摩耗性が悪化する傾向がある。なお、芳香族変性テルペン樹脂の軟化点はJIS K6220−1(環球法)に準拠し測定したものとする。
【0026】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分100重量部に対し窒素吸着比表面積が130〜200m2/gのカーボンブラックを50〜120重量部配合する。
【0027】
本発明のゴム組成物に使用するカーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積(N2SA)が130〜200m2/g、好ましくは120〜195m2/gである。カーボンブラックのN2SAを130m2/g以上にすることにより、グリップ性能を確保することができる。またカーボンブラックのN2SAを200m2/g以下にすることにより、耐摩耗性を確保することができる。カーボンブラックのN2SAはJIS K6217−2に準拠して求めるものとする。
【0028】
カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100重量部に対し50〜120重量部、好ましくは60〜110重量部である。カーボンブラックの配合量を50重量部以上にすることにより、ゴム硬度、弾性率、ゴム強度及び発熱性を確保することができる。またカーボンブラックの配合量を120重量部以下にすることにより、耐摩耗性を確保することができる。
【0029】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラック以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填剤としては、例えばシリカ、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等が例示される。好ましくはシリカ、クレーがよい。
【0030】
タイヤトレッド用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂などのタイヤトレッド用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を配合することができる。このような配合剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤトレッド用ゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0031】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、空気入りタイヤ、とくにサーキットのドライ走行向けのレース用空気入りタイヤに好適に使用することができる。このゴム組成物をトレッド部に使用した空気入りタイヤは、優れたドライグリップ性能を確保しながら、高温状態におけるゴム硬度、弾性率、ゴム強度を従来レベル以上に向上し、ドライグリップ性能をより長く持続させることができる。
【0032】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1,2に示す配合からなる16種類のタイヤトレッド用ゴム組成物(実施例1〜4、比較例1〜12)を、硫黄及び加硫促進剤を除く成分を、1.8Lの密閉型ミキサーで160℃、5分間混練し放出したマスターバッチに、硫黄及び加硫促進剤を加えてオープンロールで混練することにより調製した。なお表1,2において、油展オイルを含むSBRについて、括弧内に各ゴム成分の正味の配合量を記載した。また表3に記載した共通配合剤の添加量は、表1,2に記載したゴム成分100重量部(正味のゴム量100重量部)に対する重量部で表わした。
【0034】
得られた16種類のタイヤトレッド用ゴム組成物を所定形状の金型中で、160℃、20分間プレス加硫して試験片を作製し、下記に示す方法で高温状態(100℃)でのゴム硬度、300%モジュラス及びtanδ(100℃)を評価した。
【0035】
ゴム硬度(100℃)
得られた試験片のゴム硬度を、JIS K6253に準拠し、デュロメータのタイプAにより温度100℃で測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として、表1,2の「ゴム硬度(100℃)」の欄に示した。この指数が大きいほど、ゴム硬度が高く機械的特性が優れ、タイヤが高温状態になっても操縦安定性が優れることを意味する。
【0036】
300%モジュラス(100℃)
得られた試験片から、JIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を打ち抜き、温度100℃で500mm/分の引張り速度で試験を行い、300%モジュラス(300%変形応力)を測定した。得られた結果は、比較例1の値を100とする指数として、表1,2の「300%Mod(100℃)」の欄に示した。この指数が大きいほど、高温状態での剛性が大きく機械的特性が優れること、また空気入りタイヤが長時間高速走行をしたときに操縦安定性及び耐摩耗性が優れることを意味する。
【0037】
動的粘弾性(100℃のtanδ)
得られた試験片を使用しドライグリップ性能の指標として、損失正接tanδ(100℃)を評価した。tanδは、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度100℃の条件下で測定した。得られた結果は比較例1の値を100とする指数として、表1,2の「tanδ(100℃)」の欄に示した。tanδ(100℃)の指数が大きいほど、ドライグリップ性能が優れることを意味する。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・S−SBR:溶液重合スチレンブタジエンゴム、スチレン量が36重量%、ビニル量が64重量%、Mwが147万、Tgが−13℃、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品、旭化成ケミカルズ社製タフデンE680
・E−SBR1:乳化重合スチレンブタジエンゴム、スチレン量が23.5重量%、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品、日本ゼオン社製Nipol 1723
・E−SBR2:乳化重合スチレンブタジエンゴム、スチレン量が40重量%、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品、日本ゼオン社製Nipol 1739
・エラストマー1:スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン量が48重量%、Mnが65800、旭化成ケミカルズ社製タフプレン126S
・エラストマー2:スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を部分水添したエラストマー、スチレン量が57重量%、Mnが103000、旭化成ケミカルズ社製S.O.E. S1611
・エラストマー3:スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を完全水添したエラストマー、スチレン量が61重量%、Mnが96700、旭化成ケミカルズ社製S.O.E. L605
・カーボンブラック1:東海カーボン社製シースト9、N2SA=142m2/g
・カーボンブラック2:三菱化学社製ダイアブラックUX10、N2SA=182m2/g
・カーボンブラック3:コロンビアンカーボン社製CD2019、N2SA=340m2/g
・テルペン樹脂:軟化点が125℃の芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO−125
・オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト 4号S
【0041】
【表3】
【0042】
表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:加硫促進剤CBS、大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G
【0043】
表1,2から明らかなように実施例1〜4のタイヤトレッド用ゴム組成物は、高温状態(100℃)におけるゴム硬度、300%モジュラス及びtanδ(100℃)が高いことが確認され、ドライグリップ性能、操縦安定性及び耐摩耗性を優れたものにすることができる。
【0044】
比較例1のゴム組成物は、部分水添エラストマー2を配合せずに、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(水添していないエラストマー1)を配合したので、高温状態(100℃)におけるゴム硬度、300%モジュラス及びtanδ(100℃)を改良することができない。
【0045】
比較例2のゴム組成物は、部分水添エラストマー2を配合しないので100℃のtanδが悪化する。
【0046】
比較例3のゴム組成物は、部分水添エラストマー2の配合量が30重量を超えたので、ゴム硬度(100℃)が悪化する。
【0047】
比較例4のゴム組成物は、カーボンブラック3のN2SAが200m2/gを超えるので、ゴム硬度(100℃)及び100℃のtanδが悪化する。
【0048】
比較例5のゴム組成物は、部分水添エラストマー2を配合せずに、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体を完全水添したエラストマー3を配合したので、ゴム硬度(100℃)及び300%モジュラス(100℃)が悪化する。
【0049】
比較例6のゴム組成物は、乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR1のスチレン量が40重量%未満であるので、高温状態(100℃)におけるゴム硬度及び300%モジュラスが悪化し、tanδ(100℃)を改良することができない。
【0050】
比較例7のゴム組成物は、乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2の配合量が40重量%未満なので、高温状態(100℃)におけるゴム硬度が悪化する。
【0051】
比較例8のゴム組成物は、乳化重合スチレンブタジエンゴムE−SBR2の配合量が80重量%を超えるので、高温状態(100℃)におけるゴム硬度及び300%モジュラスが悪化し、tanδ(100℃)が悪化する。
【0052】
比較例9のゴム組成物は、芳香族変性テルペン樹脂を配合しないので、高温状態(100℃)の300%モジュラスが悪化する。
【0053】
比較例10のゴム組成物は、芳香族変性テルペン樹脂を10重量部を超えて配合したので、ゴム硬度(100℃)が悪化する。
【0054】
比較例11ゴム組成物は、カーボンブラック1の配合量が50重量部未満なので、高温状態(100℃)のゴム硬度、300%モジュラス及び100℃のtanδが悪化する。比較例12ゴム組成物は、カーボンブラック1の配合量が120重量部を超えるので、ゴム硬度(100℃)が高くなりすぎる。
【0055】
また、実施例2及び比較例1,2のゴム組成物によりタイヤトレッド部を構成したタイヤサイズ195/55R15の空気入りタイヤを製作した。得られた空気入りタイヤを、それぞれリム(サイズ15×6J)に組み、空気圧150kPaで、テスト車両に装着し、テストドライバーがラリーコース(一周約2km)を10周走行させたときの周回毎のラップタイムを計測した。グリップ性の持続性能として、10周連続走行のうち、8〜10ラップの平均タイムを、比較例2の空気入りタイヤにおける8〜10ラップの平均タイムを基準タイムにして評価した。
【0056】
実施例2の空気入りタイヤは、平均ラップタイムが、基準タイムより1.0秒以上速い結果が得られた。これにより特定の部分水添エラストマーを配合することにより、ドライグリップ性の持続性能が大幅に改良されることが確認された。
【0057】
比較例1の空気入りタイヤは、平均ラップタイムが、基準タイムより0.5秒遅くなるという結果が得られた。またこの空気入りタイヤでは、早くも8周目のラップタイムが悪化してしまった。これによりスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(水添していないたエラストマー)を配合することにより、ドライグリップ性の持続性能が大幅に低下することが確認された。