(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記透明導電層は、ITO(酸化インジウム・スズ)と、酸化亜鉛と、酸化スズと、モリブデンシリサイド(MoSi)の酸化物や窒化物や酸窒化物との、透明導電材料の群から選ばれるいずれか又は複数を含んで形成されている事を特徴とする請求項1記載の反射型マスク。
【背景技術】
【0002】
(EUVリソグラフィの説明)
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。リソグラフィの露光も従来の波長が193nmのArFエキシマレーザー光を用いた露光より波長が短い、波長13.5nm近傍のEUVを光源に用いたEUVリソグラフィが提案されている。EUVリソグラフィは光源波長が短く光吸収性が非常に高いため、真空中で行われる必要がある。またEUVの波長領域においては、ほとんどの物質の屈折率は1よりもわずかに小さい値である。このため、EUVリソグラフィにおいては従来から用いられてきた透過型の屈折光学系を使用することができず、反射光学系となる。従って、原版となるフォトマスクも、従来の透過型のマスクは使用できないため、反射型のマスクとする必要がある。(以下、本願明細書においては、EUVリソグラフィに用いられる反射型マスクを、EUVマスクあるいはEUV反射型マスクと称することもある)。
【0003】
(EUVマスクとブランク構造の説明)
このような反射型マスクの元となる反射型マスクブランクは、低熱膨張基板の上に、露光光源波長に対して高い反射率を示す多層反射層(MoとSiを約7nmの周期で、40周期以上=全80層以上が形成される)と、多層反射層の保護層(Ru等を約2.5nm)と、露光光源波長の吸収層とが順次形成されており、更に基板の裏面には露光機内における静電チャックのための裏面導電層が形成されている。また、多層反射層の保護層と、吸収層の間に緩衝層を有する構造を持つEUVマスクもある。反射型マスクブランクから反射型マスクへ加工する際には、EB(電子線)リソグラフィとエッチング技術とにより吸収層を部分的に除去し、緩衝層を有する構造の場合はこれも同じく除去し、吸収部と反射部とからなる回路パターンを形成する。このように作製された反射型マスクによって反射された光像が反射光学系を経て半導体基板上に転写される。
【0004】
(EUVマスクの吸収層の膜厚と反射率の説明)
反射光学系を用いた露光方法では、マスク面に対して垂直方向から所定角度傾いた入射角(通常6度)で照射されるため、吸収層の膜厚が厚い場合、パターン自身の影が生じてしまい、この影となった部分における反射強度は、影になっていない部分よりも小さいため、コントラストが低下し、転写パターンには、エッジ部のぼやけや設計寸法からのずれが生じてしまう。これはシャドーイング(射影効果)と呼ばれ、反射型マスクの原理的課題の一つである。
【0005】
このようなパターンエッジ部のぼやけや設計寸法からのずれを防ぐためには、吸収層の膜厚は薄くし、パターンの高さを低くすることが有効であるが、吸収層の膜厚が薄くなると、吸収層における露光光の減衰量が低下し遮光性が不足する事で、転写コントラストが低下し、転写パターンの精度低下となる。つまり吸収層を薄くし過ぎると転写パターンの精度を保つための必要なコントラストが得られなくなってしまう。シャドーイングと吸収層の露光光吸収率の観点から、吸収層の膜厚は厚すぎても薄すぎても問題になるので、現在は概ね50〜90nmの間になっており、EUV光(極端紫外光)の吸収層での反射率
は0.5〜3%程度である。
【0006】
(隣接するチップの多重露光の説明)
一方、反射型マスクを用いて半導体基板上に転写回路パターンを形成する際、一枚の半導体基板上には複数の回路パターンのチップが形成される。隣接するチップ間において、チップ外周部が重なる領域が存在する場合がある。これは半導体基板(ウエハ)1枚あたりに取れるチップを出来るだけ増加したいという生産性向上のために、チップを高密度に配置するためである。この場合、この外周部が重なる領域については複数回(最大で4回)に渡り露光(多重露光)されることになる。この転写パターンのチップ外周部はマスク上でも外周部であり、通常、吸収層の部分である。しかしながら、上述したようにEUV光の吸収層上での反射率は、0.5〜3%程度あるため、多重露光によりチップ外周部が感光してしまう問題があった。さらに、EUV光源は5から15nmの範囲の光で特に13.5nmにその放射スペクトルのピークを有するが(以下、EUV光源を波長5から15nmの光、又は13.5nm帯の光と呼ぶ)、アウトオブバンド(Out of Band)と呼ばれる13.5nm帯以外の真空紫外線から近赤外線領域の光も放射することが知られている。このアウトオブバンドは本来不必要であり、半導体基板に塗布されたレジストを感光することから、フィルターなどで除去すべき不要な光である。しかしながらタンタル(Ta)を用いた吸収層は真空紫外線から遠紫外線領域の光も反射することから、上述の通り、隣接したチップの境界領域近傍の半導体配線部分において無視できない光量が積算され、配線パターンの寸法に影響を与える問題が発生する。このため、マスク上のチップ外周部に通常の吸収層よりもEUV光の遮光性の高い領域(以下、遮光枠と呼ぶ)を設ける必要性が生じた。
【0007】
このような問題を解決するために、反射型マスクの吸収層から多層反射層までを掘り込んだ溝を形成することで多層反射層の反射率を低下させることにより、露光光源波長に対する遮光性の高い遮光枠を設けた反射型マスクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
遮光枠の無い反射型マスク100の概略平面図を
図1(a)に、概略断面図を
図2(a)に示す。これに対して、多層反射層までを掘り込んだ遮光枠11を有する反射型マスク101の概略平面図を
図1(b)に、概略断面図を
図2(b)に示す。
図1(b)では、イメージフィールド(回路パターン部)10を取り囲むように遮光枠11が形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、単に吸収層4と多層反射層2を掘り込んだだけの遮光枠11では、遮光枠11よりも内側のイメージフィールド(回路パターン部)10と、遮光枠の外側は、電気的に浮遊しており導通が取れていない。このマスクをEUV露光機で使用すると、EUV光(極端紫外光)の光電効果によって、EUVマスクに使用される金属材料(主として、Ta、Mo、Si等)から光電子が放出され、電気的に正に帯電(チャージアップ)する。これによって、露光機内の異物の付着を招き、転写欠陥を誘発するという問題が生じる。また、マスク製造工程中の電子線を使った測長SEMや電子ビーム検査機においても、電子線が照射された際の負の帯電が生じる事でノイズ成分が増え正確な測定や電子ビーム検査が出来ないという問題が生じる。
【0011】
特許文献1では、このような露光時の帯電の対策として、多層反射層2の最下層の数層(導電性を有するMoを少なくとも含む)を残す構造や、多層反射層2の下地にTaもしくはCrを含む金属導電層を予め1層設ける構造を提案している。
【0012】
しかしながら、多層反射層2の最下層の数層を残す方法は、ドライエッチングやウェットエッチングにより多層反射層2を掘り込む際のエッチングレートがマスク面内で均一でないため、残したい層数を均一に加工することは難しい。
【0013】
また、加工出来たとしても、本来EUV光の反射率を極力ゼロに下げることを目的とする遮光枠11の領域で多層反射層2を数層でも残すことは、吸収層4よりもEUV光反射率が増加する逆の効果に繋がる可能性が高い。例えば、Mo/Siが2周期分残った場合の反射率は、計算上約1.8%程度のEUV光反射率となり、EUVマスクの遮光枠11の指標と言われている0.3%以下を遥かに上回ってしまう。
【0014】
また多層反射層2の下地にTaもしくはCrを含む金属導電層を予め1層設ける構造による対策では、チャージアップは抑制することができるが、EUVソグラフィの露光光源波長に含まれるアウトオブバンドについては、Ta、Cr等の金属層では反射率が高いためアウトオブバンドの反射率の増大という別の問題を生じてしまう。
【0015】
上記の遮光帯形成時の問題以外では、公知のEUVブランクは多層反射層2、吸収層4によりイメージフィールドの電子線描画時に帯電(チャージアップ)が低減されると考えられているが、微細化の進展により要求される基準も厳しくなるため軽微な影響もより低減を目指す必要がある。その為、帯電の影響がより低減する構造として導電層の存在が重要になっている。
【0016】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、イメージフィールド(回路パターン部)10とマスク外周部の導通が取れ、帯電(チャージアップ)に起因する欠陥を招くことがなく、半導体基板で多重露光されるチップの境界領域に相応するマスク領域から、EUVおよびDUV(Deep Ultra Violet:遠紫外線)の反射を除去する遮光枠11を有する反射型マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項
1記載の発明は、
波長5から15nmの光を露光光とするリソグラフィで用いられる反射型マスクであって、
基板と、
前記基板上に形成された透明導電層と、
前記透明導電層上に形成された露光光を反射する多層反射層と、
前記多層反射層上に形成された前記多層反射層を保護する保護層と、
前記保護層上に回路パターンが形成された露光光を吸収する吸収層と、
前記基板の多層反射層とは反対面上に形成された裏面導電層とを有し、
周辺部に、前記吸収層、前記保護層、前記多層反射層が除去されたEUV光の反射率の低い領域である遮光枠を備えており、前記透明導電層が前記遮光枠の内側と外側とを電気的に導通し、露光光に含まれるアウトオブバンド光(13.5nm帯以外の真空紫外線から近赤外線領域の光)に対して、遮光枠が低反射率であることを特徴とする反射型マスクとしたものである。
【0022】
請求項
2記載の発明は、
前記透明導電層は、ITO(酸化インジウム・スズ)と、酸化亜鉛と、酸化スズと、モリブデンシリサイド(MoSi)の酸化物や窒化物や酸窒化物との、透明導電材料の群から選ばれるいずれか又は複数を含んで形成されている事を特徴とする請求項
1記載の反射型マスクとしたものである。
【0023】
請求項
3記載の発明は、
前記透明導電層のシート抵抗が30Ω/sq以下である事を特徴とする請求項
1または
2に記載の反射型マスクとしたものである。
【発明の効果】
【0024】
多層反射層2を除去する掘り込みタイプの遮光枠11が形成されたEUVマスクにおいて、遮光枠11の内側のイメージフィールド(回路パターン部)10と遮光枠11の外側との導通が取れるため、電子線を使った測長SEMによる測定時、電子ビーム検査機による回路パターン部検査時、およびEUVリソグラフィでのEUV露光時において、帯電を防止することができる。導通を取るために設けた透明導電層により、遮光枠領域でアウトオブバンドの表面反射率低減及び吸収が起こり、また透明導電層と基板を一旦透過して裏面導電層5から反射して再度戻ってくる光成分も透明導電層で減衰するため、透明導電層のない、公知の遮光枠11よりもアウトオブバンドの低減が図れる。また電気抵抗の少ない透明導電層6の存在は、イメージフィールドの電子線描画時も有効に作用し、帯電(チャージアップ)の低減に役立つ。このため、高品質のマスクを提供できると共に、EUVリソグラフィでのEUV露光時においては、EUVマスクへの異物の付着を低減することができるため、高品質のウエハ転写パターンを得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(本発明の反射型マスクの構成・レイアウト)
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
まず、本発明の反射型マスクの構造について説明する。
図3(a)は反射型マスクブランクス(反射型マスクブランク)
図3(b)は反射型マスク、
図3(c)は
図3(b)の破線A−A‘に沿って切断した概略断面図である。より具体的には、EUV光を用いた露光に使用するマスク用のブランクスおよびそれを用いた反射型マスクである。このEUV光の波長は、例えば13.5nmである。基板1の一面上に透明導電層6、多層反射層2、保護層3、吸収層4をこの順番で積層して形成する。保護層3と吸収層4の間には、緩衝層が形成されている場合もある。緩衝層は、吸収層4のイメージフィールド10の修正時に、下地の保護層3にダメージを与えないために設けられる層である。基板1の多層反射層2とは反対面側には裏面導電層5を形成し
図3(a)の反射型マスクブランクが完成する。透明導電層6は公知のCVDやスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法を用いて形成する。多層反射層2、保護層3、吸収層4、裏面導電層5は公知のスパッタリング法を用いて形成する。
【0029】
反射型マスクブランクス102は、波長5から15nmの光を露光光とするリソグラフィで用いられる。基板1は、石英(SiO
2)を主成分とし酸化チタン(TiO
2)を含む材料で形成されている。透明導電層6は、基板1上に形成されている。ITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛、酸化スズ、モリブデンシリサイド(MoSi)酸化物、窒化物、酸窒化物などの透明導電層で形成されている。多層反射層2は、透明導電層6上に形成され露光光を反射する層である。多層反射層2は、モリブデン(Mo)を材料とする層と珪素(Si)を材料とする層とが重ねられた層が複数重ねられることで構成された多層構造で形成されている。保護層3は、多層反射層2上に形成され多層反射層2を保護するものである。保護層3は単層構造もしくは積層構造となっており、ルテニウム(Ru)またはシリコン(Si)のいずれかを含む材料で形成されている。保護層3が積層構造である場合、保護層3の最上層がルテニウム(Ru)の酸化物や窒化物や酸窒化物、珪素(Si)の酸化物や窒化物や酸窒化物のいずれかを含む材料で形成されている。吸収層4は、保護層3上に形成され露光光を吸収するものである。裏面導電層5は、基板1の多層反射層2とは反対面上に形成されている。裏面導電層5は、クロム(Cr)またはタンタル(Ta)のいずれかの金属もしくはその酸化物や窒化物や酸窒化物のいずれかを含む材料で形成されている。
【0030】
本マスクの製造方法を
図4および
図5、
図6に示す。
図4は工程を、
図5、
図6に加工
状態の断面図を示す。上記で説明した
図3(a)のブランクスを用意し(図で「開始」の工程)、以下の工程で吸収層4にイメージフィールド(回路パターン)10と遮光枠11を形成する。電子線に反応を示す化学増幅系や非化学増幅系レジスト9を塗布(S1の工程)し、所定のイメージフィールド(回路パターン部)10の描画を行い、その後アルカリ溶液などで現像(S2)を行いイメージフィールドを形成する。形成したレジスト9のパターンをマスクにフッ素系ガスや塩素系ガスを用いたガスプラズマによるエッチング(S3)を行い、不要なレジスト9のパターンを酸素プラズマによる灰化や硫酸やオゾン水などの酸化薬液による分解、ないしは有機溶剤などで溶解除去する。その後必要に応じて酸・アルカリ系薬品やオゾンガスや水素ガスなどを溶解した超純水や有機アルカリ系薬品、界面活性剤などによる洗浄処理と遠心力を利用したスピン乾燥(S4)を行う。以上でイメージフィールド(回路パターン部)10が形成された。
【0031】
次にイメージフィールド(回路パターン部)10の周囲の部分にイメージフィールド10を取り囲むように遮光枠11を形成する。上記の工程S4で形成されたマスクに紫外線または電子線に反応を示すレジスト29を塗布する(S5)。次に遮光枠11を露光または電子線や紫外線で描画を行い、前記と同じく現像(S6)、エッチング(S7)、レジストの除去、洗浄、乾燥(S8)を行い遮光枠11を完成する。エッチング工程(S7)ではまず保護層3の除去をフッ素系ガスプラズマを用い、多層反射膜2は保護層3と同じくフッ素系ガスプラズマもしくは塩素ガス系プラズマを交互に用いる方法を行う。
【0032】
以上の工程により新構造遮光枠ありの反射型マスク103が完成する。
【0033】
言い換えると、反射型マスク103は、吸収層4、を選択的に除去することでイメージフィールド(回路パターン部)10が形成され、イメージフィールド(回路パターン部)10を除くイメージフィールド(回路パターン部)10の周囲の部分に、吸収層4と保護層3と多層反射層2とを選択的に除去した枠状の遮光枠領域11が形成されている。したがって、枠状の遮光枠領域11に透明導電層6が設けられることになる。本発明によれば、多層反射層2を除去する掘り込みタイプの遮光枠11が形成されたEUVマスクにおいて、遮光枠11の内側のイメージフィールド(回路パターン部)10と遮光枠の外側12との導通が取れるため、電子線を使った測長SEMによる測定時、電子ビーム検査機によるパターン検査時、およびEUVリソグラフィでのEUV露光時において、帯電を防止することができる。導通を取るために設けた透明導電層により、遮光枠領域11でアウトオブバンドの表面反射率低減及び減衰が起こり、また透明導電層と基板を一旦透過して裏面導電層5から反射して再度戻ってくる光成分も透明導電層で減衰するため、透明導電層のない、公知の遮光枠11よりもアウトオブバンドの低減が図れる。これにより半導体基板上に塗布されたレジストの感光を避けることも可能となる。
【0034】
(本発明の反射型マスクの構成の詳細:帯電状況の説明)
EUVマスク材料の表面の抵抗値は、使用される材料(Ta、Ru、Mo、Si)に固有の導電率や膜厚、材料の成膜状態(ポーラス、表面の酸化程度など)により異なる。
【0035】
また、EUVマスク材料の物性に限らず、電子線を使った測長SEMによる測定、電子ビーム検査機によるパターン検査、EUVリソグラフィでのEUV露光などの使用環境に応じて、帯電状況に変化がある。
【0036】
電子線を使った測長SEMによる測定、電子ビーム検査機によるパターン検査では、照射電子線量が多い条件が想定される場合、帯電(チャージアップ)の問題が大きい事が予想される。
EUVリソグラフィでのEUV露光では、光電効果によって放出される電子の運動エネルギーは下記式(1)で表される。
【0037】
照射されるEUV光の波長は一定(13.5nm)であるため、運動エネルギーは一定であるが、EUV光の強度(光量)が大きくなると、放出される電子の量も増加するため、帯電(チャージアップ)の問題が大きくなる。
これらの問題に対して、今回導入した透明導電層が効果を及ぼし、より高精度なマスクの作製につなげる事が出来る。
【0038】
式(1)のPは仕事関数と呼ばれ、電子を材料から飛び出す上で最低限必要な仕事量(エネルギー)であり、材料固有の値を持つ。
【0039】
eV=hμ−P ・・・式(1)
<左辺>
eV:放出される電子が持つ運動エネルギー
e:電子の電荷
V:電子が持つエネルギーを電位差に換算した場合の電位差
<右辺>
hμ:入射する光のエネルギー
h:プランク定数
μ:光の振動数=1/λ(λ:波長=EUVでは13.5nm)
P:ブランク材料の仕事関数
【0040】
(本発明の反射型マスクの構成の詳細:透明導電層)
図3(a)の透明導電層6は、EUV光に対して反射率が低く、アウトオブバンドに対しても反射率が低く、また導電性の高い透明導電層を用いる。透明導電層としては、例えば酸化インジウム・スズ合金(ITO)、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化アンチモン、モリブデンシリサイド(MoSi)酸化物や窒化物又は酸窒化物、タンタル等の薄膜やこれらを複数含有させた透明導電層が使用でき、所望の導電性を得るため、添加物のドーピングなどを行う。さらに透明導電層として単層で述べたが、これらの透明導電層を多層構成しても良い。またこれら以外にも、EUV光を反射せず導電性を得られる透明導電層であれば問題ない。透明導電層の導電性は、マスクブランクを加工する際に問題が起こる可能性のある20000Ω/Sq以下のシート抵抗であり、SEMで観察する際に帯電を防止できる導電性を有しておれば良い為、公知のITO等の透明導電層と同等のシート抵抗を有しており、特に30Ω/Sq以下のシート抵抗の透明導電層である事が望ましい。透明導電層の厚さは特に限定されるものではないが、100nm以上の厚さが好ましい。多層反射層2を掘り込む際に選択比がある事が必要となる。透明導電層6の構成は導電性、アウトオブバンドの吸収率と減衰率、透明導電層6の表面平坦性、対薬品耐性、層間の密着性などを考慮しても厚みがあるほうが有利になる。その為、透明導電層6表面でのEUV反射率が公知の遮光枠11よりも低い構成であり、且つ反射型マスクの欠陥の元となる異物が発生しなければ透明導電層6の厚みは限定されない。また反射型マスクの洗浄を行う際、ITOなどの透明導電層が洗浄に用いる薬品への耐性が弱い場合は、EUV反射率の向上しない範囲であれば、透明導電層6の保護層を透明導電層6と多層反射層2の間に構成してもよい。保護層としては、たとえば酸化シリコン、窒化シリコン、ポリシリコン等の対酸性を持つ物質や又は下層に透明導電層6があり、上層の多層反射層との間で、絶縁状態にならない範囲であれば、保護層としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)やSiCなどを単体として用いる又は、ドーピングを行いより導電性を向上させて用いる事が出来る。
【0041】
(本発明の反射型マスクの構成の詳細:多層反射層、保護層、緩衝層)
図3(a)の多層反射層2は、EUV光に対して60%程度の反射率を達成できるように設計されており、MoとSiが交互に40〜50ペア積層した積層膜で、さらに最上層の
保護層3は2〜3nm厚のRu(ルテニウム)あるいは厚さ10nm程度のSiで構成されている。Ru層の下に隣接する層はSi層である。
多層反射層2にMoやSiが使われている理由は、EUV光に対する吸収(消衰係数)が小さく、且つMoとSiのEUV光での屈折率差が大きいために、SiとMoの界面での反射率を高く出来るためである。
保護層3がRuの場合は、吸収層4の加工におけるエッチングストッパーやマスク洗浄時の薬液に対する保護層としての役割を果たしている。保護層3がSiの場合は、吸収層4との間に、緩衝層が有る場合もある。緩衝層は、吸収層4のエッチングやパターン修正時に、緩衝層の下に隣接する多層反射層2の最上層であるSi層を保護するために設けられており、クロム(Cr)の窒素化合物(CrN)で構成されている。
【0042】
(本発明の反射型マスクの構成の詳細:吸収層)
図3(a)の吸収層4は、EUVに対して吸収率の高いタンタル(Ta)の窒素化合物(TaN)で構成されている。他の材料として、タンタルホウ素窒化物(TaBN)、タンタルシリコン(TaSi)、タンタル(Ta)や、それらの酸化物(TaBON、TaSiO、TaO)でも良い。
【0043】
図3(a)の吸収層4は、上層に波長190〜260nmの紫外光に対して反射防止機能を有する低反射層を設けた2層構造から成る吸収層であっても良い。低反射層は、マスクの欠陥検査機の検査波長に対して、コントラストを高くし、検査性を向上させるためのものである。
【0044】
(本発明の反射型マスクの構成の詳細:裏面導電層)
図3(a)の裏面導電層5は、一般にはクロムの窒化物(CrN)で構成されているが、導電性は静電チャックが使用できる程度以上であれば良いので、絶縁性材料以外からなる材料であれば良い。
【0045】
図3(a)では裏面導電層5を有する構成で記載したが、裏面導電層5を有さない反射型マスクブランク及び反射型マスクとしても良い。
【0046】
(本発明の反射型マスクの構成の詳細:多層反射層の掘り込み)
本発明の反射型マスクの遮光枠11の形成方法について説明する。
【0047】
イメージフィールド(回路パターン部)10にパターンが形成されたEUVマスク、あるいは後にパターンが形成される予定のEUVマスクブランクに対して、フォトリソグラフィもしくは電子線リソグラフィによって、イメージフィールド10周辺部が開口したレジストパターンを形成する。
次に、フッ素系もしくは塩素系ガス(あるいはその両方)を用いたドライエッチングによって、レジストパターンの開口部の吸収層4と保護層3を除去する。
次いで、多層反射層2を、フッ素系ガスまたは塩素系ガスもしくはその両方を用いたドライエッチングか、アルカリ性溶液または酸性溶液を用いたウェットエッチングによって、多層反射層2を貫通・除去する。
【0048】
ドライエッチングによって、多層反射層2を貫通・除去する際に、フッ素系ガスまたは塩素系ガスもしくはその両方を用いるのは、多層反射層2の材料であるMoとSiの両方に対して、エッチング性を有するためである。この際に用いるフッ素系ガスは、CF
4、C
2F
6、C
4F
8、C
5F
8、CHF
3、SF
6、ClF
3、Cl
2、HClなどが挙げられる。
【0049】
ウェットエッチングによって、多層反射層2を貫通・除去する際のエッチング液には、
多層反射層2の材料であるMoとSiのエッチングに適している必要がある。例えば、アルカリ性溶液としては、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、KOH(水酸化カリウム)、EDP(エチレンジアミンピロカテコール)などが適している。酸性溶液としては、硝酸とリン酸の混合液が適しているが、これにフッ酸、硫酸、酢酸を加えても良い。
【0050】
上記ドライ、ウェットエッチングを行う際やマスクの洗浄を行う際、透明導電層6の侵食、腐食が懸念される場合は、透明導電層6と多層反射層2の間に、保護層を設けてもよい。保護層の構造としては、たとえば酸化シリコン、窒化シリコン、ポリシリコン等の対酸性を持つ物質や又は下層に透明導電層6があり、上層の多層反射層2との間で、絶縁状態にならない範囲であれば、保護層としてDLC(ダイヤモンドライクカーボン)やSiCなどを単体として用いる。又は、ドーピングを行いより導電性を向上させて用いる事が出来る。
【0051】
反射型マスクのイメージフィールド10内のパターン形成は、遮光枠11(導通箇所13)の形成の前後を問わない。
【0052】
以上のようにして、反射型マスクのイメージフィールド10を規定するように、吸収層4、保護層3、多層反射層2を除去してなる遮光枠11を、遮光枠11の下層が電気的な同通を有する透明導電層6になるように形成して、イメージフィールド内の帯電(チャージアップ)が防止され、アウトオブバンドの反射率が低減される反射型マスク103が得られる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の反射型マスクの製造方法を、実施例により詳細に説明する。
図3(a)に示す反射型マスクブランク102を使用した。
反射型マスクブランク102は、基板1の上に透明導電層6としてITO(酸化インジウム・スズ)を200nmの膜厚でスパッタリング法を用いて形成した。形成した透明導電層6のシート抵抗は20Ω/Sq以下の値をしめした。形成した透明導電層6の上に波長13.5nmのEUV光に対して反射率が64%程度となるように設計されたMoとSiの40ペアの多層反射層2が、その上に2.5nm厚のRuの保護層3が、更にその上に70nm厚のタンタルシリサイド(TaSi)からなる吸収層4が、順次形成されている。
【0054】
上記の反射型マスクブランク102に対し、ポジ型化学増幅レジスト9(FEP171:富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)を300nmの膜厚で塗布し(
図5(S1)、電子線描画機(JBX9000:日本電子社製)によって描画後、110℃;10分のPEB(PoSt ExpoSure Bake)およびスプレー現像機(SFG3000:シグマメルテック社製)により現像を行い、レジスト部分にレジストパターンを形成した(
図5(S2))。
【0055】
次いで、ドライエッチング装置(VLR700シリーズ:ユナクシス社製)を用いて、CF
4プラズマとCl
2プラズマにより、吸収層4をエッチング除去し(
図5(S3))、その後レジスト剥離洗浄することで、
図5(S4)に示す評価パターンを有する反射型マスクを作製した。
評価パターンは、寸法200nmの1:1のライン&スペースパターンのチップを6面付けでマスク中心に配置した。パターン領域の大きさは、10cm×10cmとした。ここで、各チップ間のスクライブラインの間隔は5mmとした。
【0056】
次いで、上述の評価パターンを有する反射型マスクのイメージフィールド(パターン領
域)10の周辺に、遮光枠11を形成した。
反射型マスク(
図5(S4))にi線レジスト29を1000nmの膜厚で塗布し(
図5(S5))、そこへレーザー描画機(ALTA3000:アプライドマテリアル社製)により描画・現像を行なうことにより、後に遮光枠11となる領域を抜いたレジストパターンを形成した(
図5(S6))。
このときレジストパターンの開口幅は3mmとし、マスク中心部の10cm×10cmの回路パターン領域のパターンエッジから外側に3μmの距離に配置した。
【0057】
次いで、ドライエッチング装置(VLR700シリーズ:ユナクシス社製)を用いてCHF3プラズマ(ドライエッチング装置内の圧力50mTorr、ICP(誘導結合プラズマ)パワー500W、RIE(反応性イオンエッチング)パワー2000W、CHF
3:流量20Sccm、処理時間6分、これらは、以下の表記で同じとする。)により、上記レジストの開口部の吸収層4と多層反射層2とを垂直性ドライエッチングで貫通・除去し(
図5(S7))、最後に、硫酸系の剥離液とアンモニア過酸化水素水により、レジスト剥離・洗浄を実施し、ドライエッチングとウェットエッチングで残ったレジストを除去した(
図5(S8))。
【0058】
図3(b)(c)に、本実施例により作製された反射型マスク103を示す。
【0059】
反射型マスク103における遮光枠11の幅は3mm、スクライブラインの幅は5mmである。
【0060】
本実施例における反射型マスク103の製造工程(遮光枠形成工程)にて、作製した反射型マスクと、比較サンプルとして従来構造の反射型マスク101を作製し、双方のマスクについて測長SEMにて測定を実施した。
【0061】
透明導電層6を有さない比較サンプルのマスクでは、イメージフィールド内でチャージアップに起因するSEM像のドリフト現象が発生し、遮光枠11内部の測定に支障をきたしたが、本実施例によるマスクでは、チャージアップが発生せず、問題なく測定が可能であった。また、半導体基板で多重露光されるチップの境界領域に相応するマスク領域から、EUVおよびDUVの反射を除去できた。