(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された円偏波アンテナは、反射板2が必要であることに加え、ループアンテナ10の周長として略1波長分の長さが必要になるため、アンテナのサイズが大きくなってしまう。
【0007】
また、円偏波は障害物にぶつかって反射すると旋回方向が逆転する。例えば、人工衛星から送信された右旋円偏波は、地面やビルの壁等にぶつかって反射すると左旋円偏波になる。このため、例えばGPS用の円偏波パッチアンテナにおいて、放射電極を設けた面側で右旋円偏波を受信するようにした場合、接地電極を設けた面側では、地面やビルの壁等にぶつかって反射し、旋回方向が逆転した左旋円偏波を選択的に受信してしまう。従って、円偏波パッチアンテナの場合、指向性が狭いだけでなく、マルチパスが生じ、通信品質の低下を招くという問題もあった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、小型で指向性が広くマルチパスを抑えることが可能な円偏波用のアンテナ、およびこれを用いた通信装置、電子機器を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、本発明の第1の態様に係るアンテナは、円偏波を送信または受信するためのアンテナであって、間隙部を挟んで向かい合う第1の端部と第2の端部とを有する開環状の電極を備え、前記電極の幅は、前記電極の一部がダイポールアンテナとして機能する長さを有し、前記電極の周回長は、送信または受信する電波の波長より小さく、かつ、前記電極の一部がループアンテナとして機能するにあたり、前記ダイポールアンテナの指向性と前記ループアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない長さを有し、前記第1の端部と前記第2の端部の一方以上において、前記電極の幅方向の一方の端と他方の端は、前記電極の周回方向における位置が異なることを特徴とする。
【0010】
以上の構成によれば、アンテナは開環状の電極を備え、この電極の幅は、電極の一部がダイポールアンテナとして機能する長さを有する。また、電極の周回長は、送信または受信する電波の波長より小さく、かつ、電極の一部がループアンテナとして機能するにあたり、ダイポールアンテナの指向性とループアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない長さを有する。
【0011】
なお、本発明の理解を容易にするため、まずは、電極の周回長が、送信または受信する電波の波長よりも十分に小さく、電極の一部が微小ループアンテナとして機能する場合を例に本発明の作用効果を説明する。この場合、開環状の電極を、軸線(開環状の電極の中心軸)の周りを周回するループ成分と、軸線方向に延在する直線成分とに分けて考えた場合、ループ成分は電流源の微小ループアンテナとなり、直線成分は電流源のダイポールアンテナとなる。また、微小ループアンテナは軸線に直交するループ面を有する。
【0012】
ここで、電流源の微小ループアンテナは直線偏波を放射する。また、微小ループアンテナの指向性は、いわゆる8の字形であってループ面に対して平行なドーナツ状になる。一方、電流源のダイポールアンテナも直線偏波を放射し、その指向性は8の字形であるが、ダイポールアンテナの指向性はアンテナを中心軸とするドーナツ状になる。従って、微小ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性は、向きが同じになり形状も略同じになる。これに加え、遠方界からみたとき、両者の指向性は中心の位置も同じにみなすことができる。また、電極の各部の寸法を調整する等して、両者の指向性の大きさを同じにすることが可能である。
【0013】
また、微小ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性は、互いの電界と磁界を入れ替えた態様になっている(但し、微小ループアンテナから放射される電界の向きと、ダイポールアンテナから放射される磁界の向きは、逆になる)。従って、電極の各部の寸法を調整する等して両者の指向性の大きさを同じにすることで、微小ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性は、電界と磁界が入れ替わった点を除いて略同じになる。
【0014】
また、微小ループアンテナやダイポールアンテナの指向性においてE面とH面は直交している。従って、微小ループアンテナから放射される電界と、ダイポールアンテナから放射される電界は、角度が90度異なる。また、電極に流れる電流をIとしたとき、微小ループアンテナから放射される電界E
Lを表す式は、単純化して表すとE
L=jKIになる(但し、Kは、距離,波長,微小ループアンテナの直径等に基づいて定まる値)。一方、ダイポールアンテナから放射される電界E
Dを表す式は、単純化して表すとE
D=kIになる(但し、kは、距離,波長,ダイポールアンテナの全長等に基づいて定まる値)。従って、E
Lが虚数であるのに対し、E
Dは実数であるから、E
LとE
Dにはπ/2(90度)の位相差がある。このように微小ループアンテナから放射される電界E
Lと、ダイポールアンテナから放射される電界E
Dは、角度が90度異なり位相差も90度あるから、このような2つの直線偏波を合成すると円偏波になる。
【0015】
また、本発明によれば、第1の端部と第2の端部の一方以上において、電極の幅方向の一方の端と他方の端は、電極の周回方向における位置が異なる。発明者が鋭意検討した結果、このような構成であれば、アンテナから円偏波(右旋円偏波または左旋円偏波)が放射されることがわかった。また、アンテナの可逆定理から明らかとなるように、送信用のアンテナは受信用のアンテナとしても利用可能である。従って、本発明に係るアンテナは、円偏波を送信または受信することができる。
【0016】
なお、以上の説明は、電極の周囲長が送信または受信する電波の波長よりも十分に小さく、電極の一部(ループ成分)が微小ループアンテナとして機能する場合であるが、本発明は、電極の一部(ループ成分)が微小ループアンテナとして機能する場合に限定されない。
【0017】
発明者が鋭意検討した結果、アンテナが送信または受信する電波の波長を1λとしたとき、電極の周回長を徐々に増やしていくと、電極の周回長が例えば1/5λ以下であれば、電極のループ成分は微小ループアンテナとして機能し、そのドーナツ状の指向性はループ面に対して平行な状態を維持することがわかった。また、電極の周回長が1/5λを超えると、ドーナツ状の指向性は徐々に傾き始め、電極の周回長が例えば4/5λ以上になると、電極のループ成分は1波長ループアンテナとして機能し、ドーナツ状の指向性はループ面に対して垂直になることがわかった。
【0018】
一般的に、微小ループアンテナの定義(条件)は、電極の周回長が1λよりも十分に小さいことと、ドーナツ状の指向性がループ面に対して平行であることの2つである。上述したように電極の周回長が1/5λを超えると、ドーナツ状の指向性はループ面に対して平行でなくなる。従って、電極の周回長が1/5λよりも大きく4/5λ未満の範囲では、電極のループ成分は、ループアンテナとして機能するものの、微小ループアンテナとしては機能していないことになる。
【0019】
また、電極の周回長が上述した範囲内にある場合、電極の周回長が大きくなる程、ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性との角度(向き)の違いが大きくなる。このように両者の指向性の角度の違いが大きくなると、例えば、円偏波の軸比の値が悪化したり、直線偏波等の必要としない成分の占める割合が増大する(=円偏波の占める割合が低下する)。従って、電極の周回長が上述した範囲内にある場合、電極の周回長が大きくなる程、アンテナの送信性能や受信性能が低下することになる。しかしながら、ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない限り、ループアンテナの指向性におけるE面と、ダイポールアンテナの指向性におけるE面とが交差するから、アンテナから円偏波が放射される。
【0020】
従って、本発明に係るアンテナは、電極の周囲長が1λよりも十分に小さく、電極の一部(ループ成分)が微小ループアンテナとして機能する場合に限らず、電極の周回長が1λより小さく、かつ、ダイポールアンテナの指向性とループアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない長さであれば、円偏波を送信または受信することが可能である。
【0021】
また、本発明によれば、電極の周回長は1λよりも十分に小さくすることができ、反射板も不要であるから、特許文献1に記載された円偏波アンテナに比べ、アンテナのサイズを小型化することができる。また、本発明に係るアンテナの指向性は、ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性とが重なる部分になるから、円偏波パッチアンテナに比べ、所望の円偏波(右旋円偏波または左旋円偏波)の指向性が広い。また、所望の円偏波の指向性が広いことから、マルチパスの発生を抑え、通信品質の低下を抑えることが可能になる。
【0022】
よって、本発明によれば、小型で指向性が広くマルチパスを抑えることが可能な円偏波用のアンテナを提供することができる。
【0023】
また、本発明の第2の態様に係るアンテナは、円偏波を送信または受信するためのアンテナであって、帯状の間隙部を挟んで向かい合う2つの端部を有する開環状の電極を備え、前記電極の幅は、前記電極の一部がダイポールアンテナとして機能する長さを有し、前記電極の周回長は、送信または受信する電波の波長より小さく、かつ、前記電極の一部がループアンテナとして機能するにあたり、前記ダイポールアンテナの指向性と前記ループアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない長さを有し、前記帯状の間隙部において前記電極の幅方向の一方の端と他方の端は、前記電極の周回方向における位置が異なることを特徴とする。
【0024】
以上の構成であっても、アンテナは開環状の電極を備え、この電極の幅は、電極の一部がダイポールアンテナとして機能する長さを有する。また、電極の周回長は、送信または受信する電波の波長より小さく、かつ、電極の一部がループアンテナとして機能するにあたり、ダイポールアンテナの指向性とループアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない長さを有する。また、帯状の間隙部において電極の幅方向の一方の端と他方の端は、電極の周回方向における位置が異なるが、これは、本発明の第1の態様に係るアンテナにおいて、第1の端部と第2の端部の両方で、電極の幅方向の一方の端と他方の端の、電極の周回方向における位置が異なることに相当する。従って、本発明の第2の態様に係るアンテナは、本発明の第1の態様に係るアンテナと同様の効果を奏する。
【0025】
また、本発明の第1または第2の態様に係るアンテナにおいて、前記電極の周回長は、送信または受信する電波の波長の3/4以下であるようにしてもよい。
上述したように電極の周回長は、1λより小さく、かつ、ダイポールアンテナの指向性とループアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない長さであればよいが、円偏波の軸比の悪化や、直線偏波等の必要としない成分の割合が増えてしまうこと等を考慮すると、3/4λ以下にすることが望ましい。
【0026】
また、本発明の第1または第2の態様に係るアンテナにおいて、前記電極の周回長は、前記電極の一部が微小ループアンテナとして機能する長さを有するようにしてもよい。あるいは、本発明の第1または第2の態様に係るアンテナにおいて、前記電極の周回長は、送信または受信する電波の波長の1/5以下であるようにしてもよい。
【0027】
発明者が鋭意検討した結果、電極の周回長を1/5λ以下にすると、電極のうち軸線の周りを周回するループ成分が微小ループアンテナとして機能することがわかった。従って、以上の構成によれば、電極の一部(ループ成分)が微小ループアンテナとして機能し、ダイポールアンテナの指向性と微小ループアンテナの指向性との角度の違いがゼロになる。このため、例えば電極の周回長が上述した範囲内(1/5λよりも大きく4/5λ未満)にあり、電極の一部(ループ成分)が微小ループアンテナではなくループアンテナとして機能している場合に比べ、円偏波の軸比を改善することや、直線偏波等の必要としない成分が含まれる割合を低減することが可能になる。よって、アンテナの送信性能や受信性能を高めることができる。
【0032】
また、本発明の第1
または第
2の態
様に係るアンテナにおいて、前記電極には2つの給電点が設けられ、前記2つの給電点は、前記
開環状の電極の
中心軸が延在する方向における位置が同じであるようにしてもよい。
この構成によれば、簡素な構成で、電極に流れる電流の向きが電極の周回方向となるように給電を行うことができる。
【0033】
また、本発明の第1
または第
2の態
様に係るアンテナにおいて、前記電極には、2つの給電点と、前記2つの給電点の間を前記
開環状の電極の
中心軸が延在する方向に分断する第1開口部と、前記第1開口部に接続され、かつ、前記電極の周回方向に延在し、前記2つの給電点を挟んで向かい合う2つの第2開口部と、が設けられている構成であってもよい。
この構成によれば、第1開口部と第2開口部によって、電極に流れる電流の向きが電極の周回方向に規定される。従って、上述したように2つの給電点の、電極の軸線方向における位置を同じにする必要がない。また、第1開口部と第2開口部を設ける必要があるものの、これらを設けずに電流の向きが電極の周回方向となるように給電を行う場合に比べ、2つの給電点間の距離を小さくすることができるから、より小さなスペースで給電を行うことが可能になる。
【0034】
また、本発明の第1
または第
2の態
様に係るアンテナにおいて、柱状の誘電体基体をさらに備え、前記電極は、前記誘電体基体の表面に設けられている構成であってもよい。
この構成によれば、誘電体基体を用いているので波長短縮効果によりアンテナの更なる小型化を図ることができる。
【0035】
また、本発明の第1
または第
2の態
様に係るアンテナにおいて、前記電極は、複数の面を有し、前記帯状の間隙部において前記電極の幅方向の一方の端と他方の端は、前記複数の面のうち異なる面に位置する構成であってもよい。
発明者が鋭意検討した結果、帯状の間隙部において電極の幅方向の一方の端と他方の端の、電極の周回方向における距離が大きい程、円偏波の軸比の値が1に近づくことがわかった。従って、帯状の間隙部の両端が異なる面に位置する場合、同じ面に位置する場合に比べ、電極の周回方向における距離を大きくとることができるから、送信または受信する円偏波について良好な軸比を得ることができる。
【0036】
また、本発明に係る通信装置は、上述したいずれかのアンテナを備える。例えば、通信装置として、衛星携帯電話機、タブレット端末、スマートフォン、ノート型パソコン等を例示することができる。また、通信装置には、例えば、アンテナと通信回路(送信回路または受信回路)とを備えた円偏波用の通信モジュール等も含まれる。なお、通信装置は、円偏波を送信する送信装置や、円偏波を受信する受信装置であってもよい。
【0037】
また、本発明に係る電子機器は、上述したいずれかのアンテナを備える。例えば、電子機器には、GPSを利用したナビゲーション装置、GPS衛星からの電波を受信して位置や速度を算出して移動距離や移動速度等を計測することが可能な携帯型ランニング機器、GPS衛星からの電波を受信して時刻を補正する機能を備えた腕時計等が含まれる。なお、通信装置の場合と同様に、電子機器は、円偏波を送信する機器であってもよいし、円偏波を受信する機器であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明に係る実施の形態を説明する。なお、図面において各部の寸法の比率は実際のものと適宜異なる。
<A.第1実施形態>
図1は、本実施形態に係るアンテナ1の外観を示す斜視図である。
なお、図中、X軸は誘電体基体10の上面10Aに対して平行な方向に延びる軸であり、Z軸は上面10Aに対して垂直な方向に延びる軸であり、Y軸はX軸およびZ軸に対して垂直な方向に延びる軸である。アンテナ1は、直方体状の誘電体基体10と、誘電体基体10の表面に設けられた電極20とを備える。誘電体基体10は、プラスチックやセラミック等の誘電体材料で形成されている。例えば、誘電体基体10の主材料はBaO-TiO
2であり、誘電体基体10の誘電率は93である。また、誘電体基体10のサイズは、例えば9.0mm(X軸方向)×9.0mm(Y軸方向)×4.4mm(Z軸方向)である。電極20は、CuやAg等の導体で形成されている。電極20は、例えば、メッキやスクリーン印刷等によって誘電体基体10の表面に形成される。なお、CuやAg以外にも、導電率が1.67×10
−6Ω/cmより小さい金属を電極20の材料とすることができる。また、電極20は、誘電体基体10に対して接着剤等なしで隙間なく密着させることが望ましい。
【0040】
図2は、アンテナ1の構造を示す斜視図である。
誘電体基体10の表面は、上面10Aと、下面10Bと、4つの側面10C〜10Fとで構成されている。上面10Aと下面10B、側面10Cと側面10D、側面10Eと側面10Fは、各々対向している。電極20は、誘電体基体10の表面のうち、側面10D、上面10A、側面10Cおよび下面10Bの4面にわたって形成されており、側面10Eと側面10Fには電極20が形成されていない。また、電極20のうち下面10Bに形成された正方形状の部分には、Hの字の形をした給電用の開口部30と、2つの給電点FD1,FD2が設けられている。給電点FD1,FD2は、電極20に対する給電位置であり、図示を省略した給電線を介してグランド電位と高周波電位が給電される。これにより電極20に電流(高周波電流)が流れる。また、詳細については後述するが、給電用の開口部30は、電極20に流れる電流の向きを規定する。
【0041】
図3は、アンテナ1の展開図である。
電極20は、誘電体基体10の表面のうち4つの面(側面10D、上面10A、側面10Cおよび下面10B)に形成されている。また、電極20が形成された4つの面には、給電用の開口部30の他にスリット40が設けられている。スリット40は、例えば、2.0mmの幅を有する帯状の間隙部であり、電極20を図中左側の端から右側の端にかけて分断している。また、スリット40は、側面10D、上面10Aおよび側面10Cの3面にわたって形成されており、側面10D内の1箇所と、側面10C内の1箇所で直角に折れ曲がっている。前述したように誘電体基体10のX軸方向のサイズは9.0mmであるから、電極20が形成された4つの面は、9.0mmの幅を有する矩形状の環(閉環状)を形成している。この環の一部がスリット40によって分断されているので、電極20は、9.0mmの幅を有する開環状になる。また、電極20は、スリット40を挟んで対向する第1の端部E1と第2の端部E2とを有する。
【0042】
また、誘電体基体10のサイズは9.0mm(X軸方向)×9.0mm(Y軸方向)×4.4mm(Z軸方向)であり、スリット40の幅は2.0mmであるから、電極20の周回長PL1は、24.8mmになる。これに対し、アンテナ1の共振周波数は1617MHzであり、その波長は約186mmである。従って、電極20の周回長PL1(24.8mm)は、アンテナ1が送信または受信する電波の波長(約186mm)よりも十分に小さい。このように電極20の周回長PL1を波長に対して十分に小さい値とすることで、電極20の一部を微小ループアンテナとして機能させることができる。
【0043】
また、
図3において、2つの給電点FD1,FD2を結ぶ直線L1は、電極20の周回方向(図中上下方向)と一致する。また、電極20に流れる電流の向きも図中上下方向となり、電極20の周回方向と一致する。なお、電極20に流れる主たる電流の向きは図中上下方向になるが、電極20における局所的な電流の向きは、場所によって図中上下方向とは異なる場合がある。
【0044】
また、給電用の開口部30は、X軸方向に延在する直線状の第1開口部と、第1開口部の両端に接続され、Y軸方向に延在する2本の直線状の第2開口部とで構成されている。2つの給電点FD1,FD2は、第1開口部を挟んでその両側に配置されている。また、2つの給電点FD1,FD2の両脇には、Y軸方向に延在する2本の第2開口部が存在する。従って、開口部30によって、電極20に流れる電流の向きが電極20の周回方向に規定される。このため、必ずしも
図3に示すように2つの給電点FD1,FD2を直線L1上に配置する必要はない。
【0045】
なお、開口部30を設けなくても、例えば、直線L1上等、電極20の周回方向と一致する線上に2つの給電点FD1,FD2を配置すれば、電極20に流れる電流の向きを電極20の周回方向にすることができる。但し、この場合、2つの給電点FD1,FD2間の距離を比較的大きくとる必要がある。これに対し、本実施形態の場合、開口部30を設ける必要があるものの、開口部30を設けない場合に比べ、2つの給電点FD1,FD2間の距離を小さくすることができるから、より小さなスペースで給電を行うことが可能になる。
【0046】
図4〜
図6は、アンテナ1の動作原理を説明するための図である。
なお、
図4は、アンテナ1をスロットアンテナと捉え、スロット(スリット40)を、X軸に直交するループ成分と、Y軸に直交する直線成分とに分解して考えてみたときの図である。これに対し、
図5は、アンテナ1を、導体を巻き線状にしたアンテナと捉え、巻き線(電極20)を、軸線ALの周りを周回するループ成分と、軸線ALの方向に延在する直線成分とに分解して考えてみたときの図である。また、
図6は、アンテナ1の指向性(右旋円偏波)と、微小ループアンテナの指向性(直線偏波)と、微小ダイポールアンテナの指向性(直線偏波)とを立体的に示す図である。
図4および
図5は、同じアンテナ1を磁流アンテナとして捉えるか、電流アンテナとして捉えるかという双対の関係にあるが、以下、
図5および
図6を参照してアンテナ1の動作原理を説明する。
【0047】
図5に示すように、電極20に着目した場合、電極20は、軸線ALの周りを周回するループ成分と、軸線ALの方向に延在する直線成分とに分けて考えることができる。なお、軸線ALは、開環状の電極20の中心軸であり、X軸方向に延在している。電極20のループ成分は、帯状の導体が約1.5周分だけ巻かれたループ構造を有する。また、前述したように電極20の周回長PL1は、アンテナ1が送信または受信する電波の波長よりも十分に小さい。従って、電極20のループ成分は、電流源の微小ループアンテナと考えることができる。この微小ループアンテナは、周回長が26.8mmであり、X軸に直交するループ面を有する。一方、電極20のX軸方向の幅は9.0mmであり、この値も1波長より十分に小さいから、電極20の直線成分は、電流源の微小ダイポールアンテナと考えることができる。
【0048】
ここで、電流源の微小ループアンテナは直線偏波を放射する。また、微小ループアンテナの指向性は、いわゆる8の字形であってループ面に対して平行なドーナツ状になる。一方、電流源の微小ダイポールアンテナも直線偏波を放射し、その指向性は8の字形であるが、微小ダイポールアンテナの指向性はアンテナを中心軸とするドーナツ状になる。従って、微小ループアンテナの指向性と微小ダイポールアンテナの指向性は、向きが同じになり形状も略同じになる。これに加え、遠方界からみたとき、両者の指向性は中心の位置も同じにみなすことができる。また、本実施形態に係るアンテナ1は、電極20の各部の寸法を調整する等して、両者の指向性の大きさも同じになるようにしている。従って、微小ループアンテナの指向性と微小ダイポールアンテナの指向性は、
図6に示すように、いずれもX軸を中心軸とするドーナツ状になり、向きと形状と大きさが略同じになる。
【0049】
また、
図6からも明らかとなるように、微小ループアンテナの指向性と微小ダイポールアンテナの指向性は、互いの電界と磁界を入れ替えた態様になっている(但し、微小ループアンテナから放射される電界E
Lの向きと、微小ダイポールアンテナから放射される磁界H
Dの向きは、逆になる)。従って、微小ループアンテナの指向性と微小ダイポールアンテナの指向性は、電界と磁界が入れ替わった点を除いて略同じになる。
【0050】
ところで、円偏波は、例えば垂直偏波と水平偏波等、角度が90度異なる2つの直線偏波の合成であるが、2つの直線偏波の位相を90度ずらす必要がある。また、この位相差が90度か−90度かで、右旋円偏波になるのか左旋円偏波になるのかが決まる。上述したように、微小ループアンテナの指向性と微小ダイポールアンテナの指向性は、電界と磁界が入れ替わっている。また、微小ループアンテナや微小ダイポールアンテナの指向性においてE面とH面は直交している。従って、微小ループアンテナから放射される電界E
Lと、微小ダイポールアンテナから放射される電界E
Dは、角度が90度異なる。
【0051】
また、微小ループアンテナと微小ダイポールアンテナは、同じ電極20を分けて考えたものであるから、微小ループアンテナに流れる電流と、微小ダイポールアンテナに流れる電流に位相差はない。しかしながら、電極20に流れる電流をIとしたとき、微小ループアンテナから放射される電界E
Lを表す式は、単純化して表すとE
L=jKIになる(但し、Kは、距離,波長,微小ループアンテナの直径等に基づいて定まる値)。一方、微小ダイポールアンテナから放射される電界E
Dを表す式は、単純化して表すとE
D=kIになる(但し、kは、距離,波長,微小ダイポールアンテナの全長等に基づいて定まる値)。従って、両式を比較すると、E
Lが虚数であるのに対し、E
Dは実数であるから、E
LとE
Dにはπ/2の位相差がある。つまり、微小ループアンテナから放射される電界E
Lと、微小ダイポールアンテナから放射される電界E
Dには、90度の位相差がある。
【0052】
このように角度が90度異なり位相差も90度ある2つの直線偏波を合成すると円偏波になる。また、アンテナの可逆定理から明らかとなるように、送信用のアンテナは受信用のアンテナとしても利用可能である。従って、本実施形態に係るアンテナ1は、円偏波を送信または受信することができる。なお、アンテナ1の指向性は、微小ループアンテナの指向性と、微小ダイポールアンテナの指向性のANDをとった部分、すなわち両者の指向性が重なる部分になる。上述したように、微小ループアンテナの指向性と微小ダイポールアンテナの指向性は、電界と磁界が入れ替わった点を除いて略同じである。従って、アンテナ1の指向性は、
図6に示すように、微小ループアンテナや微小ダイポールアンテナの指向性と向き,形状,大きさが略同じになる。
【0053】
また、発明者が鋭意検討した結果、
図7に示すように、スリット40のうち図中左端の中点を始点SP1とし、図中右端の中点を終点EP1としたとき、始点SP1と終点EP1を結ぶ直線L2が電極20に流れる電流Iの向き(=電極20の周回方向)と直交しない限り、アンテナ1から円偏波(右旋円偏波または左旋円偏波)が放射されることがわかった。なお、直線L2が電流Iの向きと直交する場合は、円偏波でなく直線偏波(垂直偏波)が放射される。また、同図に示すように、スリット40の終点EP1が始点SP1よりも図中下側にある場合は右旋円偏波が放射され、終点EP1が始点SP1よりも図中上側にくるようにスリット40を設けた場合は左旋円偏波が放射されることもわかった。従って、本実施形態に係るアンテナ1は、右旋円偏波用のアンテナであることが理解できる。
【0054】
また、発明者が鋭意検討した結果、スリット40の始点SP1と終点EP1の図中上下方向(=電極20の周回方向)の距離が大きい程、円偏波の軸比の値が1に近づくこともわかった。従って、送信または受信する円偏波について良好な軸比を得るためには、始点SP1と終点EP1の図中上下方向の距離をできるだけ大きくとればよいことが理解できる。
【0055】
なお、
図7において、スリット40の始点SP1と終点EP1を結ぶ直線L2が電極20に流れる電流Iの向き(=電極20の周回方向)と直交しないということは、スリット40の始点SP1と終点EP1の図中上下方向(電極20の周回方向)における位置が異なることを意味する。また、
図7においてスリット40の始点SP1と終点EP1の、電極20の周回方向における位置が異なるということは、例えば、始点SP1の座標値を(X
S,Y
S,Z
S)とし、終点EP1の座標値を(X
E,Y
E,Z
E)としたとき、Y
SとY
Eの値が異なることである。
【0056】
また、電極20は、スリット40を挟んで対向する第1の端部E1と第2の端部E2を有するが、上述したようにスリット40の始点SP1と終点EP1を結ぶ直線L2が電極20に流れる電流Iの向きと直交しないということは、第1の端部E1と第2の端部E2の両方において、一方の端点EL1,EL2と他方の端点ER1,ER2の図中上下方向における位置が異なることを意味する。また、
図7において端点EL1と端点ER1の、電極20の周回方向における位置が異なるということは、例えば、端点EL1の座標値を(X
L,Y
L,Z
L)とし、端点ER1の座標値を(X
R,Y
R,Z
R)としたとき、Y
LとY
Rの値が異なることである。
【0057】
図8は、電磁界シミュレータによって得られたアンテナ1の指向性を示すグラフ(ZX断面)である。また、
図9は、比較例であり、円偏波パッチアンテナの指向性を示すグラフ(ZX断面)である。
図8に示すように本実施形態に係るアンテナ1の指向性(ZX断面)は、全方位にわたって右旋円偏波の方が左旋円偏波より優勢である。これに対し、
図9に示すように円偏波パッチアンテナの場合は、図中上半分の範囲では右旋円偏波の方が優勢であるが、図中下半分の範囲では左旋円偏波の方が優勢である。このように本実施形態に係るアンテナ1は、全方位にわたって右旋円偏波が優勢であるから、円偏波パッチアンテナに比べ、所望の円偏波の指向性が広い。また、全方位にわたって所望の円偏波が優勢であることから、マルチパスの発生を防ぐこともできる。
【0058】
図10〜
図12は、実際にアンテナ1を試作し、試作したアンテナ1について、右旋円偏波と左旋円偏波の指向性を測定して得られたグラフ(XY断面、YZ断面およびZX断面)である。
試作したアンテナ1の指向性は、例えば、給電線やアンテナ1に接続された通信回路等の影響により、電磁界シミュレータによって得られた指向性(
図8)のように全方位にわたって右旋円偏波が優勢とはならない。しかしながら、
図10〜
図12から明らかとなるように、[1]XY断面の指向性(
図10)における−150度付近から−180度付近までの範囲と、[2]ZX断面の指向性(
図12)における100度付近から160度付近までの範囲以外の部分では、右旋円偏波の方が左旋円偏波より優勢である。従って、円偏波パッチアンテナに比べ、所望の円偏波の指向性が広いことがわかる。
【0059】
以上説明したように本実施形態によれば、電極20を、軸線ALの周りを周回するループ成分と、軸線ALの方向に延在する直線成分とに分けて考えた場合、ループ成分は電流源の微小ループアンテナとなり、直線成分は電流源の微小ダイポールアンテナとなる。また、微小ループアンテナから放射される電界E
Lと、微小ダイポールアンテナから放射される電界E
Dは、角度が90度異なり位相差も90度ある。また、
図7に示したように、スリット40の始点SP1と終点EP1の図中上下方向(電極20の周回方向)の位置は異なる。従って、アンテナ1は、円偏波を送信または受信することができる。
【0060】
また、電極20の周回長PL1は、電極20の一部(ループ成分)が微小ループアンテナとして機能する長さであればよく、送信または受信する電波の波長よりも十分に小さい。また、反射板も不要である。従って、特許文献1に記載された円偏波アンテナに比べ、アンテナ1のサイズを小型化することができる。また、
図8〜
図12から明らかとなるように、アンテナ1は、円偏波パッチアンテナに比べ、右旋円偏波(所望の円偏波)の指向性が広い。また、所望の円偏波の指向性が広いことから、マルチパスの発生を抑え、通信品質の低下を抑えることもできる。
【0061】
よって、本実施形態によれば、小型で指向性が広くマルチパスを抑えることが可能な円偏波用のアンテナ1を提供することができる。
【0062】
また、本実施形態に係るアンテナ1は、誘電体基体10を用いているので波長短縮効果によりアンテナ1の更なる小型化を図ることができる。また、給電用の開口部30を設けることで、2つの給電点FD1,FD2を電極20の周回方向と一致する線上に配置しなくてもよいことに加え、開口部30を設けない場合に比べ、より小さなスペースで給電を行うことが可能になる。また、スリット40の始点SP1と終点EP1が異なる面に位置しているので(始点SP1:側面10D、終点EP1:側面10C)、両者が同じ面に位置している場合に比べ、電極20の周回方向における両者の距離を大きくとることが可能になるから、送信または受信する円偏波について良好な軸比を得ることができる。
【0063】
<B.第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態に係るアンテナ1と共通する部分には同一の符号を付し、説明を適宜省略している。
【0064】
図13は、本実施形態に係るアンテナ2の外観を示す斜視図である。また、
図14はアンテナ2の構造を示す斜視図であり、
図15はアンテナ2の展開図である。
本実施形態に係るアンテナ2が第1実施形態に係るアンテナ1と相違するのは、スリット41の形成面や、スリット41の幅である。より具体的に説明すると、第1実施形態では、スリット40が側面10D、上面10Aおよび側面10Cの3面にわたって形成されていたのに対し、本実施形態では、スリット41が上面10Aのみに形成されている。また、
図7と
図15を比較するとわかるように、スリットの幅は第2実施形態の方がやや狭くなっている。また、スリット41の形成面や幅が異なるので、電極21の形状も第1実施形態とは異なる。なお、誘電体基体10のサイズ、給電用の開口部30、2つの給電点FD1,FD2の位置等は、第1実施形態と同じである。従って、アンテナ2は、9.0mmの幅を有する開環状の電極21を備えており、電極21は、スリット41を挟んで対向する第1の端部E3と第2の端部E4とを有する。
【0065】
ここで、本実施形態の場合も、電極21は、軸線AL(開環状の電極21の中心軸)の周りを周回するループ成分と、軸線ALの方向に延在する直線成分とに分けて考えることができる。また、電極21の周回長PL2や、電極21のX軸方向の幅は、アンテナ2が送信または受信する電波の波長よりも十分に小さい値となるように設定されている。従って、電極21のループ成分は電流源の微小ループアンテナと考えることができ、電極21の直線成分は電流源の微小ダイポールアンテナと考えることができる。
【0066】
また、第1実施形態で説明したように、微小ループアンテナから放射される電界E
Lと、微小ダイポールアンテナから放射される電界E
Dは、角度が90度異なり位相差も90度ある。また、
図15に示すように、スリット41の始点SP2と終点EP2を結ぶ直線L3は、電極21に流れる電流Iの向き(=電極21の周回方向)と直交しておらず、始点SP2と終点EP2の図中上下方向における位置は異なる。また、
図15においてスリット41の終点EP2は始点SP2よりも図中下側にある。従って、本実施形態に係るアンテナ2も右旋円偏波を送信または受信することができ、第1実施形態に係るアンテナ1と同様の効果を奏する。
【0067】
なお、
図15において、スリット41の始点SP2と終点EP2は同じ面(上面10A)に位置しており、始点SP2と終点EP2の図中上下方向における距離は、
図7に示した始点SP1と終点EP1の図中上下方向における距離よりも小さい。従って、本実施形態に係るアンテナ2よりも第1実施形態に係るアンテナ1の方が、円偏波について良好な軸比を得ることができる。
【0068】
<C.第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。なお、本実施形態においても、第1実施形態に係るアンテナ1と共通する部分には同一の符号を付し、説明を適宜省略している。
【0069】
図16は、本実施形態に係るアンテナ3の外観を示す斜視図である。また、
図17はアンテナ3の構造を示す斜視図であり、
図18はアンテナ3の展開図である。
本実施形態に係るアンテナ3が第1実施形態に係るアンテナ1と相違するのは、スリット42の形状や幅である。より具体的に説明すると、第1実施形態では、
図7に示したようにスリット40が途中2箇所で直角に折れ曲がっていたのに対し、本実施形態では、
図18に示すようにスリット43が直線状である。また、
図7と
図18を比較するとわかるように、スリットの幅は第3実施形態の方がやや狭くなっている。また、電極22の形状も第1実施形態とは異なる。なお、誘電体基体10のサイズ、給電用の開口部30、2つの給電点FD1,FD2の位置等は、第1実施形態と同じである。従って、アンテナ3は、9.0mmの幅を有する開環状の電極22を備えており、電極22は、スリット42を挟んで対向する第1の端部E5と第2の端部E6とを有する。
【0070】
本実施形態の場合も、電極22は、軸線ALの周りを周回するループ成分と、軸線ALの方向に延在する直線成分とに分けて考えることができる。また、電極22の周回長PL3や、電極22のX軸方向の幅は、アンテナ3が送信または受信する電波の波長よりも十分に小さい値となるように設定されている。従って、電極22のループ成分は電流源の微小ループアンテナとなり、電極22の直線成分は電流源の微小ダイポールアンテナとなる。
【0071】
また、第1実施形態で説明したように、微小ループアンテナから放射される電界E
Lと、微小ダイポールアンテナから放射される電界E
Dは、角度が90度異なり位相差も90度ある。また、
図18に示すように、スリット42の始点SP3と終点EP3を結ぶ直線L4は、電極22に流れる電流Iの向き(電極20の周回方向)と直交しておらず、始点SP3と終点EP3の図中上下方向における位置は異なる。また、
図18においてスリット42の終点EP3は始点SP3よりも図中下側にある。従って、本実施形態に係るアンテナ3も右旋円偏波を送信または受信することができ、第1実施形態に係るアンテナ1と同様の効果を奏する。
【0072】
<D.応用例>
上述した各実施形態に係るアンテナを用いて所望の周波数の円偏波を送信または受信するためにはアンテナの寸法調整を行う必要がある。寸法調整を行う場合、目的の周波数に応じてアンテナの各部の寸法を定数倍すればよい。例えば、第1実施形態に係るアンテナ1(共振周波数:1617MHz)をGPSのL1信号を受信するGPSアンテナとして使用する場合、L1信号の送信周波数は1575.42MHzであるから、理論的にはアンテナ1の各部の寸法を1617/1575.42倍してやればよい。なお、種々の要因によって、実際には理論通りにはいかないため、理論値に対してさらなる寸法調整が必要である。
【0073】
以上の寸法調整を行うことで、上述した各実施形態に係るアンテナを、例えば、GPSアンテナとしてモバイル機器やウェアラブル機器(例えば、ノート型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、腕時計等)に搭載することができる。また、上述した各実施形態に係るアンテナを、カーナビゲーション装置や衛星携帯電話機に搭載してもよいし、衛星通信に限らず、例えば、無線タグ用の電波(円偏波)を受信する読取装置等に搭載してもよい。このように本発明に係るアンテナは、円偏波を送信または受信する機能を有する各種の通信装置や電子機器に搭載することが可能である。また、通信装置には、上述した各実施形態に係るアンテナを備えるGPS通信モジュール等も含まれる。
【0074】
<E.変形例>
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下の変形が可能である。また、以下に示す2以上の変形を適宜組み合わせることもできる。
【0075】
[変形例1]
本発明に係るアンテナは、左旋円偏波用のアンテナであってもよい。第1実施形態でも説明したように、
図7においてスリット40の終点EP1が始点SP1よりも図中下側にある場合は右旋円偏波が放射されるが、逆に、終点EP1が始点SP1よりも図中上側にくるようにスリット40を設ければ、左旋円偏波が放射されることになる。従って、例えば、
図19に示すようにスリット43を設けた場合、このアンテナ4は左旋円偏波用のアンテナになる。
【0076】
[変形例2]
第1実施形態でも述べたように、電極20の表面に給電用の開口部30を設けずに給電を行ってもよい。この場合、例えば
図20に示すように、電極24の周回方向と一致する線L5上に2つの給電点FD3,FD4を配置し、グランド電位と高周波電位を給電すればよい。なお、2つの給電点FD3,FD4が電極24の周回方向と一致する線L5上に位置するということは、2つの給電点FD3,FD4の軸線ALの方向における位置が同じであることを意味する。また、
図20において2つの給電点FD3,FD4の軸線ALの方向における位置が同じであるということは、例えば、給電点FD3の座標値を(X
3,Y
3,Z
3)とし、給電点FD4の座標値を(X
4,Y
4,Z
4)としたとき、X
3とX
4の値が同じになることである。
【0077】
[変形例3]
上述した各実施形態では電極のX軸方向の幅が一定であったが、例えば、
図21に示すように電極25のX軸方向の幅を場所によって異ならせてもよい。同図において電極25は、誘電体基体10の表面のうち、側面10D、上面10A、側面10Cおよび下面10Bの4面にわたって形成されているが、このうち、側面10C、下面10Bおよび側面10Dの3面にわたって形成されている部分のX軸方向の幅が、上面10Aに形成されている部分のX軸方向の幅よりも狭くなっている。このように開環状の電極の幅(所定の幅)は、一定である態様の他に不一定である態様を含む。
【0078】
[変形例4]
例えば
図22に示すように、スリット44は3箇所以上で折れ曲がっていてもよい。なお、同図に示すアンテナ7の場合、スリット44は計6箇所で直角に折れ曲がっているが、屈折角は直角に限らない。また、上述した各実施形態ではスリットの幅が一定であったが、スリットの幅を場所によって異ならせてもよい。また、スリットは曲線状であってもよい。
【0079】
[変形例5]
図23は、本変形例に係るアンテナ8の構造を示す斜視図である。また、
図24は、Y軸方向から見たときのアンテナ8の平面図である。
図23に示すように、本変形例に係るアンテナ8は、誘電体基体11の表面を構成する6つの面のうち、電極27が設けられていない側面11Eと側面11FがX軸方向に傾斜している。従って、
図24に示すように、電極27の表面のうち側面11Cの部分に流れる電流Iの向きは、図中矢印で示すように斜めになる。前述したように、スリット45の始点SP4と終点EP4を結ぶ直線L6が、電極27に流れる電流Iの向き(=電極27の周回方向)と直交しない限り、円偏波を送信または受信することが可能である。従って、本変形例に係るアンテナ8の場合、
図24に示すように直線状のスリット45を側面11Cにおいて水平(X軸と平行)に設けても、円偏波を送信または受信することが可能である。
【0080】
[変形例6]
図25は、本変形例に係るアンテナ9の構造を示す斜視図である。
電極28は、誘電体基体10の表面のうち、側面10D、上面10A、側面10Cおよび下面10Bの4面にわたって形成されている。また、電極28は、間隙部46を挟んで対向する第1の端部E7と第2の端部E8とを有する。間隙部46は、誘電体基体10の表面のうち上面10Aのみに設けられている。また、間隙部46は、X軸方向に延在しているが、その幅は、側面10E側と側面10F側とで異なる。電極28に流れる電流Iの向きは、図中矢印で示す通りであり、この方向は電極28の周回方向でもある。
【0081】
第1の端部E7は、直線状であり、電極28に流れる電流Iの向き(=電極28の周回方向)と直交している。従って、第1の端部E7において、一方の端点EL7と他方の端点ER7は、電極28の周回方向における位置が同じになる。これに対し、第2の端部E8において、一方の端点EL8と他方の端点ER8は、電極28の周回方向における位置が異なる。つまり、端点EL7の座標値を(X
L7,Y
L7,Z
L7)とし、端点ER7の座標値を(X
R7,Y
R7,Z
R7)としたとき、Y
L7とY
R7の値は同じになる。また、端点EL8の座標値を(X
L8,Y
L8,Z
L8)とし、端点ER8の座標値を(X
R8,Y
R8,Z
R8)としたとき、Y
L8とY
R8の値は異なる。
【0082】
このように第1の端部E7と第2の端部E8のいずれか一方において、一方の端点EL7,EL8と他方の端点ER7,ER8の、電極28の周回方向における位置が異なる場合も、円偏波を送信または受信することが可能である。なお、同図に示す間隙部46は、スリットの幅を場所によって異ならせたものと捉えることもできるが、本発明における間隙部は、スリット(細長い帯状の間隙部)に限定されない。また、同図において第2の端部E8を、端点EL8と端点ER8を結ぶ直線状に変形してもよい。
【0083】
[変形例7]
誘電体基体の形状は直方体状に限定されない。例えば、
図26に示すように円柱状の誘電体基体12を備える構成であってもよい。同図に示すアンテナ100は、誘電体基体12の表面のうち、図中左右に位置する2つの側面(円形)を除いた周回面に電極29とスリット47が設けられている。また、電極29の表面のうち図中奥側の部分に、給電用の開口部31と、2つの給電点FD5,FD6が設けられている。このように誘電体基体の形状は直方体状に限定されず、円柱状や多角柱状等であってもよい。
【0084】
[変形例8]
上述した各実施形態では誘電体基体を用いたが、例えば、
図27に示すアンテナ101のように誘電体基体はなくてもよい。同図に示すアンテナ101は、所定の幅Wを有する開環状の電極200を備え、電極200は、スリット400を挟んで向かい合う第1の端部E11と第2の端部E12とを有する。電極200の周回長は、電極200の一部(ループ成分)が微小ループアンテナとして機能する長さを有し、電極200の幅Wは、電極200の一部(直線成分)が微小ダイポールアンテナとして機能する長さを有する。また、第1の端部E11と第2の端部E12の一方以上において、電極200の幅W方向の一方の端点EL11,EL12と他方の端点ER11,ER12は、電極200の周回方向における位置が異なる。なお、誘電体基体がない場合は、誘電体基体による波長短縮効果が得られないため、その分だけアンテナ101(電極200)のサイズが大きくなるが、誘電体基体がなくても円偏波の送信や受信を行うことは可能である。また、誘電体基体がない場合は、板状の金属(導体)を折り曲げる等して電極200を形成すればよい。また、例えば、第1実施形態に係るアンテナ1において誘電体基体10がない場合の態様は、
図28に示す通りである。
【0085】
[変形例9]
上述した各実施形態や各変形例に係るアンテナにおいて、微小ループアンテナの指向性と微小ダイポールアンテナの指向性は、向きと形状と大きさをできるだけ同じにすることが望ましいが、必ずしもこれらを完全に同じにする必要はない。両者の指向性について向きや形状や大きさの違いが大きくなると、例えば、円偏波の軸比の値が悪化したり、直線偏波等の必要としない成分の増大を招くので、アンテナの送信性能や受信性能が低下するが、両者の指向性を同じにしなくても円偏波の送信や受信を行うことは可能である。
【0086】
また、例えば、微小ダイポールアンテナの指向性と半波長ダイポールアンテナの指向性を比較すると、両者にさほど大きな違いはない(両者とも8の字形で向きも同じであるが、形状についてのみ、半波長ダイポールアンテナの方が微小ダイポールアンテナよりも若干鋭くなる)。従って、電極のX軸方向の幅は、微小ダイポールアンテナとして機能する長さに限らず、例えば半波長ダイポールアンテナとして機能する長さ等であってもよい。このように電極のX軸方向の幅は、電極の一部(直線成分)がダイポールアンテナ(微小ダイポールアンテナ、半波長ダイポールアンテナ、1波長ダイポールアンテナ等)として機能する長さを有していればよく、任意の長さにすることが可能である。
【0087】
また、微小ループアンテナの指向性と1波長ループアンテナの指向性を比較すると、両者は大きく異なる(両者とも8の字形で形状も略同じになるが、微小ループアンテナの指向性がループ面に対して平行であるのに対し、1波長ループアンテナの指向性はループ面に対して垂直になる)。つまり、1波長ループアンテナの場合、
図29に示すように、1波長ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性との角度(向き)の違いは90度になる。この場合、1波長ループアンテナの指向性におけるE面と、ダイポールアンテナの指向性におけるE面とは交差せず、1波長ループアンテナから放射される電界E
1と、ダイポールアンテナから放射される電界E
2との角度の違いは0度(180度)になる。このため1波長ループアンテナから放射される直線偏波と、ダイポールアンテナから放射される直線偏波とを合成しても、円偏波は一切得られない。従って、電極の周回長は、電極の一部(ループ成分)が1波長ループアンテナとして機能する長さであってはならない。
【0088】
発明者が鋭意検討した結果、アンテナが送信または受信する電波の波長を1λとしたとき、電極の周回長を徐々に増やしていくと、電極の周回長が例えば1/5λ以下であれば、電極のループ成分は微小ループアンテナとして機能し、そのドーナツ状の指向性はループ面に対して平行な状態を維持することがわかった。この場合、
図6に示したように、微小ループアンテナの指向性と、微小ダイポールアンテナ(ダイポールアンテナ)の指向性との角度の違いはゼロであり、両者の指向性の向きが同じになる。従って、両者の指向性の向きが異なる場合に比べ、円偏波の軸比を改善することや、直線偏波等の必要としない成分が含まれる割合を低減することが可能になるので、アンテナの送信性能や受信性能を高めることができる。
【0089】
また、電極の周回長が1/5λを超えると、ドーナツ状の指向性は徐々に傾き始め、電極の周回長が例えば4/5λ以上になると、電極のループ成分は1波長ループアンテナとして機能し、ドーナツ状の指向性はループ面に対して垂直になる(
図29)。一般的に、微小ループアンテナの定義(条件)は、電極の周回長が1λよりも十分に小さいことと、ドーナツ状の指向性がループ面に対して平行であることの2つである。上述したように電極の周回長が1/5λを超えると、ドーナツ状の指向性はループ面に対して平行でなくなる。従って、電極の周回長が1/5λよりも大きく4/5λ未満の範囲では、電極のループ成分は、ループアンテナとして機能するものの、微小ループアンテナとしては機能していないことになる。
【0090】
また、電極の周回長が上述した範囲内にある場合、電極の周回長が大きくなる程、ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性との角度の違いが大きくなる。このように両者の指向性の角度の違いが大きくなると、例えば、円偏波の軸比が悪化したり、直線偏波等の必要としない成分の占める割合が増大する(=円偏波の占める割合が低下する)。従って、電極の周回長が上述した範囲内にある場合、電極の周回長が大きくなる程、アンテナの送信性能や受信性能が低下することになる。しかしながら、ループアンテナの指向性とダイポールアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない限り、ループアンテナの指向性におけるE面と、ダイポールアンテナの指向性におけるE面とが交差するから、アンテナから円偏波が放射されることになる。このため電極の周回長が上述した範囲内(1/5λよりも大きく4/5λ未満)にある場合でも、アンテナにおいて円偏波を送信または受信することが可能である。
【0091】
従って、電極の周回長は、微小ループアンテナとして機能する長さ(1/5λ)に限らず、1λより小さく、かつ、電極の一部(ループ成分)が1波長ループアンテナとして機能しない長さであればよい。つまり、電極の周回長は、1λより小さく、かつ、ダイポールアンテナの指向性とループアンテナの指向性との角度の違いが90度にならない長さであればよい。但し、円偏波の軸比の悪化や、直線偏波等の必要としない成分の割合が増えてしまうこと等を考慮すると、電極の周回長は3/4λ以下にすることが望ましい。
【0092】
[変形例10]
上述した各実施形態では、便宜上、Z軸方向にある面を上面10A、その反対方向にある面を下面10B、残りの面を側面10C〜10Fとしたが、例えば、
図1においてY軸方向やX軸方向にある面を上面としてもよい。つまり、Y軸方向やX軸方向が上側であってもよい。このように上面10A、下面10B、側面10C〜10Fは、各々の絶対的な位置関係を規定するものではない。