(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガラス基材の表面や裏面は、ガラス基材の厚さ方向から見た平面視において中央に位置する中央面と、前記平面視において中央面の周辺に位置し、中央面に対して傾斜した周辺面とを有する場合がある。この場合、ガラス基材にスパッタリングや蒸着等の成膜方法を用いて反射防止膜を形成すると、周辺面における成膜スピードが中央面よりも遅くなり、周辺面に成膜された箇所の膜厚が、中央面に成膜された箇所の膜厚よりも薄くなる場合がある。この場合、カバーガラスが着色することがある。このため、時計の美観や表示時刻の視認性が損なわれることがあった。
【0005】
本発明の目的は、美観や視認性を向上できるカバーガラスおよび時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のカバーガラスは、サファイアを材料とするガラス基材と、前記ガラス基材の表面および裏面の少なくとも一方の面に設けられた反射防止膜と、を備え、前記反射防止膜は、屈折率が1.35以上、1.50以下の単層膜であり、厚さが最も薄い最薄箇所の膜厚が、厚さが最も厚い最厚箇所の膜厚の70%以上、95%以下であることを特徴とする。
【0007】
例えば、ガラス基材の周辺面が中央面に対して傾斜していなければ、反射防止膜の膜厚のばらつきは5%未満(最薄箇所の膜厚が最厚箇所の膜厚の95%よりも厚い)に抑えられ、カバーガラスが着色して見えることもない。しかし、周辺面が傾斜している場合には、反射防止膜の膜厚のばらつきが大きくなってしまい、カバーガラスが着色する場合がある。
これに対して、本発明によれば、反射防止膜は、屈折率が1.35以上、1.50以下の単層膜であり、最薄箇所の膜厚が最厚箇所の膜厚の70%以上であることで、カバーガラスが着色することを抑制できる。これにより、カバーガラスを例えば時計に用いた場合、時計の美観や表示時刻の視認性を向上できる。
【0008】
本発明のカバーガラスにおいて、前記ガラス基材の前記一方の面は、前記ガラス基材の厚さ方向から見た平面視において中央に位置する中央面、および、前記平面視において前記中央面の周辺に位置し且つ側面視において前記中央面に対して傾斜した周辺面を有し、前記反射防止膜は、前記中央面および前記周辺面に設けられることが好ましい。
【0009】
本発明によれば、カバーガラスを例えば時計に用いた場合、ガラス基材の周辺面が中央面に対して傾斜していることで、ガラス基材の周辺部を、時計の外装ケースに近づけることができる。このため、ガラス基材の周辺部と外装ケースとをベゼルを用いることなく接合することもできる。これにより、ベゼルを用いている場合と比べて、時計におけるガラス基材の面積を広くできる。ガラス基材は高級感を与えるため、ガラス基材の面積を広げることで、時計の美観を向上できる。
【0010】
本発明のカバーガラスにおいて、前記反射防止膜の前記最厚箇所は、前記中央面に位置し、前記反射防止膜の前記最薄箇所は、前記周辺面に位置することが好ましい。
【0011】
成膜は、通常、最厚箇所の膜厚を基準にして行われる。このため、反射防止膜の最厚箇所が中央面に位置することで、中央面における反射防止膜の膜厚精度を向上できる。
カバーガラスを例えば時計に用いた場合、ガラス基材の中央面は、表示時刻の表示領域と重なるため、中央面における膜厚精度が向上することで、表示時刻の視認性をより向上できる。
【0012】
本発明のカバーガラスにおいて、前記反射防止膜の材料は二酸化ケイ素であることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、例えば、反射防止膜の材料がフッ化マグネシウムである場合と比べて、成膜コストを低減できる。
【0014】
本発明のカバーガラスにおいて、前記反射防止膜の前記最厚箇所の膜厚は、80nm以上、110nm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明によれば、二酸化ケイ素を材料とする反射防止膜の最厚箇所における視感反射率を2.0%以下に抑えることができる。視感反射率とは、後述するように、人間が視覚で感じる反射率を数値化したものである。
カバーガラスを例えば時計に用いた場合、最厚箇所が例えばガラス基材の中央面に位置していると、最厚箇所は表示時刻の表示領域と重なる。したがって、最厚箇所における視感反射率を2.0%以下に抑えることで、表示時刻の視認性をさらに向上できる。
【0016】
本発明のカバーガラスにおいて、前記反射防止膜の材料はフッ化マグネシウムであることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、例えば、反射防止膜の材料が二酸化ケイ素の場合と比べて、視感反射率を低くできる。このため、カバーガラスを例えば時計に用いた場合、表示時刻の視認性をより向上できる。
【0018】
本発明のカバーガラスにおいて、前記反射防止膜の前記最厚箇所の膜厚は、70nm以上、130nm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、フッ化マグネシウムを材料とする反射防止膜の最厚箇所における視感反射率を2.0%以下に抑えることができる。これにより、カバーガラスを例えば時計に用いた場合、表示時刻の視認性をさらに向上できる。
【0020】
本発明のカバーガラスは、屈折率が1.7以上、1.8以下のガラス基材と、前記ガラス基材の表面および裏面の少なくとも一方の面に設けられた反射防止膜と、を備え、前記反射防止膜は、屈折率が1.35以上、1.50以下の単層膜であり、厚さが最も薄い最薄箇所の膜厚が、厚さが最も厚い最厚箇所の膜厚の70%以上、95%以下であることを特徴とする。
【0021】
このカバーガラスにおいても、ガラス基材の材料にサファイアを用いた上記のカバーガラスと同様に、カバーガラスが着色することを抑制できる。これにより、カバーガラスを例えば時計に用いた場合、時計の美観や表示時刻の視認性を向上できる。
【0022】
本発明の時計は、上記のカバーガラスを備えることが好ましい。
この時計においても、上記のカバーガラスと同様に、カバーガラスが着色することを抑制できる。これにより、時計の美観や表示時刻の視認性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
[GPS付き腕時計の構成]
図1は、本発明に係る時計であるGPS(Global Positioning System)時刻修正装置付き腕時計(以下、GPS付き腕時計と称す)1を示す概略断面図である。
図1に示すように、GPS付き腕時計1は、文字板2および指針3からなる時刻表示部を備える。指針3は、秒針、分針、時針等を備えて構成される。
そして、GPS付き腕時計1は、地球の上空を所定の軌道で周回している複数のGPS衛星からの衛星信号を受信して衛星時刻情報を取得し、内部時刻情報を修正できるように構成されている。
また、GPS付き腕時計1には、外部操作用のリュウズ6やボタン(図示せず)が設けられている。
【0025】
GPS付き腕時計1は、指針3を駆動するムーブメント110と、ムーブメント110を収容するケース10とを備えている。
ケース10は、円筒状の外装ケース101と、この外装ケース101の一方の開口(
図1下側)を塞ぐ裏蓋102とを備えている。ケース10内には、外装ケース101の他方の開口(
図1上側)に開口面103を有するキャビティ104が形成され、このキャビティ104にムーブメント110が収容される。
ムーブメント110は、前述した指針3による時刻表示を行うとともにGPS衛星からの信号受信を行うためのものであり、時刻表示およびGPS機能を処理する回路素子(ICなど)が実装された回路基板25、指針3を駆動するステップモータおよび歯車列を含む駆動機構19、これらに電力を供給する二次電池24を備えている。
回路基板25に実装された回路素子としては、GPS衛星から受信した信号を処理する受信部18、駆動機構19の制御を行う制御部20が含まれている。
【0026】
GPS付き腕時計1は、キャビティ104の開口面103には、ソーラーパネル支持基板120が配置され、このソーラーパネル支持基板120の表面側に、ソーラーパネル120Aおよび文字板2が設けられている。
また、ソーラーパネル支持基板120の表面側には、ソーラーパネル120Aが固定され、カバーガラス130側から入射する光により発電が実施される。発電により得られる電力は、適宜二次電池24に蓄電される。
さらに、ソーラーパネル120Aの表面には、文字板2が張られている。ここで、文字板2およびソーラーパネル120Aは、各々の外周径がダイヤルリング140の内周径に合わせて形成され、各々の外周はダイヤルリング140の内周に隙間なく密着され、ソーラーパネル支持基板120が外部から視認されることはない。
文字板2は、例えばポリカーボネートなどの非導電性の合成樹脂材料にて形成され、透光性を有し、ソーラーパネル120Aへの入射光の透過を妨げることがない。
そして、前述した指針3は、文字板2の表面側に配置され、ムーブメント110はソーラーパネル支持基板120の裏面側に配置される。
なお、腕時計の腕に接触する面側を裏面側または下側といい、その反対側を表面側または上側という。
【0027】
GPS付き腕時計1は、ソーラーパネル支持基板120の外周に沿って配置されたGPSアンテナ11を備えている。
GPSアンテナ11は、前述したGPS衛星からの信号を受信するものであり、ソーラーパネル支持基板120の表面側に配置され、ソーラーパネル支持基板120の外周縁と、GPSアンテナ11の外周縁とが略一致する状態に形成されている。
GPS付き腕時計1は、GPSアンテナ11を収容するダイヤルリング140を備えている。
ダイヤルリング140は、外周径が文字板2に一致した円環状に形成され、外周にGPSアンテナ11を収容する凹みを有する。ダイヤルリング140は、内周が文字板2へと向かう傾斜面(円錐面)とされ、この傾斜面には60分割で指示目盛が印刷されている。
【0028】
[カバーガラスの構成]
カバーガラス130は、文字板2の表面側および指針3を覆って配置されている。
図2は、GPS付き腕時計1のカバーガラス130を示す断面図である。
図2に示されるように、カバーガラス130は、サファイア(屈折率:1.7以上、1.8以下)を材料とするガラス基材150と、ガラス基材150の裏面151に設けられた反射防止膜160とを備えている。
ガラス基材150は、例えば板状のガラスを切削・研磨などすることにより、ガラス基材150の厚み方向から見た平面視(以下、ガラス基材平面視と称す)において中央に位置する中央部150A、および、中央部150Aの周辺に位置し、中央部150Aの外周縁に沿って設けられる筒状の周辺部150Bを備えた器状に加工することで製造される。
図1に示すように、ガラス基材150は、外装ケース101に圧入により嵌め込まれる。ガラス基材150の中央部150Aは、ガラス基材平面視において文字板2と重なる部分である。換言すると、中央部150Aは、ガラス基材平面視において時刻表示部と重なる部分である。さらに換言すると、中央部150Aは、ガラス基材平面視においてダイヤルリング140の傾斜面よりも中央側に位置している部分である。
図2に示すように、ガラス基材150の中央部150Aの裏面(中央面)151Aは、中央が裏面側に向かって凹む湾曲面を構成し、周辺部150Bの裏面151B(周辺面)は、側面視(ガラス基材150の厚み方向と直交する方向から見た側面視)で裏面151Aに対して傾斜する傾斜面を構成する。
なお、ガラス基材150の裏面151を中央から周辺に向けて辿った際、曲率の増加率が変化する位置が、裏面151Aと裏面151Bとの境界、すなわち、中央部150Aと周辺部150Bとの境界となる。
【0029】
[反射防止膜の構成]
反射防止膜160は、二酸化ケイ素(SiO
2)を材料とする単層膜であり、屈折率は、1.35以上、1.50以下である。
反射防止膜160は、ガラス基材150の裏面151Aおよび裏面151Bに、裏面151Aおよび裏面151Bを覆うように設けられ、厚さが最も厚い最厚箇所が裏面151Aに位置し、厚さが最も薄い最薄箇所が裏面151Bに位置する。最薄箇所の膜厚T1は、最厚箇所の膜厚T2の70%以上、95%以下である。また、最厚箇所の膜厚T2は、80nm以上、110nm以下である。例えば、膜厚T2は、100nmである。
【0030】
[反射防止膜の成膜方法]
ガラス基材150を、120℃の熱硫酸に10分間浸漬する。次に、ガラス基材150を純水で洗浄し、オーブンにより120℃で30分間加熱して乾燥させる。そして、ガラス基材150を、スパッタリング装置の処理室に収容し、処理室の温度を120℃、圧力を10
−6Torr(133×10
−6Pa)とする。
次に、処理室にArガスを導入し、処理室の圧力を0.8mTorr(106.4mPa)とし、逆スパッタリングを行って、ガラス基材150の裏面151(裏面151Aおよび裏面151B)をクリーニングする。
次に、シリコンをターゲットとして、O
2ガスの流量:10.0sccm(10.0cm
3/min,1atm,0℃)、Arガスの流量:10.0sccm(10.0cm
3/min,1atm,0℃)、スパッタリングパワー:1.5kWの条件で、スパッタリングを行い、ガラス基材150の裏面151(裏面151Aおよび裏面151B)に二酸化ケイ素からなる反射防止膜160を成膜する。
ここで、ガラス基材150の周辺部150Bの裏面151Bは傾斜面であるため、ガラス基材150の中央部150Aの裏面151Aと比べて成膜スピードが遅い。このため、周辺部150Bにおける反射防止膜160の膜厚は、中央部150Aにおける反射防止膜160の膜厚と比べて薄くなる。
本実施形態では、中央部150Aにおける反射防止膜160の最厚箇所の膜厚T2が、80nm以上、110nm以下となり、周辺部150Bにおける反射防止膜160の最薄箇所の膜厚T1が、膜厚T2の70%以上、95%以下となる。
【0031】
[評価結果]
[反射率のばらつき]
図3は、反射防止膜160の膜厚に対する反射率特性を示す図である。
図3には、100nmを基準膜厚としたとき、基準膜厚の0%減の膜厚(100nm)、基準膜厚の10%減の膜厚(90nm)、基準膜厚の20%減の膜厚(80nm)、および、基準膜厚の30%減の膜厚(70nm)に対して、計測機器で計測したカバーガラス130の波長毎の反射率特性が示されている。
図3に示されるように、反射防止膜160の膜厚のばらつきが、30%以内であれば、反射率のばらつきは、約3.5%以内に抑えられている。具体的には、
図3において波長380nmの箇所が最も反射率がばらつく箇所である。波長が380nmの場合、基準膜厚の30%減の反射率はおよそ1.4%、基準膜厚の0%減の反射率はおよそ4.9%程度であり、反射率のばらつきはその差をとって3.5%以内といえる。このように、反射率のばらつきは、ある波長における最大の反射率を有する膜厚の反射率と、最小の反射率を有する膜厚の反射率との差によって算出できる。算出すべき波長は、対象とする波長の範囲の中で反射率のばらつきが最も大きくなる波長を選択すればよい。
本実施形態によれば、反射防止膜160の最薄箇所の膜厚T1が最厚箇所の膜厚T2の70%以上であるため、反射率のばらつきは、約3.5%以内に抑えられる。
【0032】
図4は、比較例の反射防止膜の膜厚に対する反射率特性を示す図である。
比較例では、反射防止膜に窒化シリコン膜および酸化シリコン膜が積層された多層膜が用いられている。
図4には、100nmを基準膜厚としたとき、基準膜厚の0%減の膜厚(100nm)、基準膜厚の10%減の膜厚(90nm)、および、基準膜厚の20%減の膜厚(80nm)に対して、計測機器で計測したカバーガラスの波長毎の反射率特性が示されている。
ここで、本実施形態のガラス基材150の裏面151のように、反射防止膜が形成されるガラス基材の面が傾斜面を有する場合、反射防止膜の膜厚は、20%程度ばらつく。
図4に示されるように、反射防止膜の膜厚のばらつきが、20%である場合、人間の視覚による感度が比較的高い約480nm〜630nmの波長範囲での反射率のばらつきは、約2.5%以内である。
一方、本実施形態では、
図3に示されるように、反射防止膜160の膜厚のばらつきが、20%であれば、約480nm〜630nmの波長範囲での反射率のばらつきは、約1%以内に抑えられている。
このように、本実施形態によれば、反射防止膜が多層膜である比較例と比べて反射率のばらつきを低減できる。
【0033】
[視感反射率]
表1は、二酸化ケイ素を材料とする反射防止膜160の膜厚と視感反射率との関係を示す表である。
表1に示されるように、反射防止膜160の膜厚が、80nm以上、110nm以下である場合、視感反射率を2.0%以下に抑えることができる。
【0035】
視感反射率について説明する。光に対する人間の視覚の感度は、可視光の波長領域の中央付近で最も高く、そこから可視光の波長領域の外縁に向かうにつれて徐々に低くなる。このため、可視光の波長領域の中央付近での反射率が高ければ、可視光の波長領域の外縁付近での反射率が低くても、人間が視覚で感じる反射率は高くなる。一方、可視光の波長領域の中央付近での反射率が低ければ、可視光の波長領域の外縁付近での反射率が高くても、人間が視覚で感じる反射率は低くなる。このように、人間が視覚で感じる反射率は、実際の反射率とは異なる。そして、この人間が視覚で感じる反射率を数値化したものが視感反射率である。
視感反射率は、次のようにして算出できる。すなわち、機械で計測した波長毎の反射率に対して、その波長の光を人間が視覚で感じる感度を掛けることで、波長毎の人間が視覚で感じる反射率を算出する。そして、算出した波長毎の人間が視覚で感じる反射率の平均値を算出することで、視感反射率を求めることができる。
【0036】
図5は、反射防止膜が設けられたガラス基材に対して、機械で計測した波長毎の反射率の一例を示す図である。
図5では、可視光領域の中央付近である約530nm〜580nmの波長付近で、反射率が最も低く、可視光領域の外縁付近である380nmおよび780nmの波長付近において、反射率が高くなっている。
図6は、光を人間が視覚で感じる波長毎の感度を示す図である。
図6では、約530nm〜580nmの波長付近で、感度が最も高く、380nmおよび780nmの波長付近では、感度は0.0%となっている。
図7は、
図5で示される波長毎の反射率に対して、
図6で示される感度を掛けることで算出された、波長毎の人間が視覚で感じる反射率を示す図である。
図7に示されるように、530nmの波長付近で、反射率が最も高く、380nmおよび780nmの波長付近では、反射率は0.0%となっている。なお、
図7の場合、視感反射率は、0.4%となる。
【0037】
図8は、反射防止膜160の膜厚が80nmおよび110nmの場合の反射率(計測機器で計測した反射率)特性を示す図である。膜厚が80nmおよび110nmの場合、人間の視覚による感度が特に高い約530nm〜580nmの波長付近では、カバーガラス130の反射率は約2%以下に抑えられる。
【0038】
[第1実施形態の作用効果]
例えば、ガラス基材150の裏面151Bが裏面151Aに対して傾斜していなければ、反射防止膜160の膜厚のばらつきは5%未満(最薄箇所の膜厚が最厚箇所の膜厚の95%よりも厚い)に抑えられ、カバーガラス130が着色して見えることもないが、裏面151Bが傾斜している場合には、反射防止膜160の膜厚のばらつきが大きくなってしまい、カバーガラス130が着色する場合がある。
これに対して、反射防止膜160は、屈折率が1.35以上、1.50以下の単層膜であり、最薄箇所の膜厚が最厚箇所の膜厚の70%以上であることで、
図3に示されるように、反射率のばらつきは、約3.5%以内に抑えられるため、カバーガラス130が着色することを抑制できる。これにより、GPS付き腕時計1の美観や表示時刻の視認性を向上できる。
【0039】
また、ガラス基材150の裏面151Bが、ガラス基材150の裏面151Aに対して傾斜する傾斜面を構成するため、周辺部150Bを外装ケース101に近づけることができる。このため、周辺部150Bと外装ケース101とをベゼルを用いることなく接合することもできる。これにより、ベゼルを用いている場合と比べて、GPS付き腕時計1におけるガラス基材150の面積を広くできる。ガラス基材150は高級感を与えるため、ガラス基材150の面積を広げることで、GPS付き腕時計1の美観を向上できる。
【0040】
また、成膜は、通常、最厚箇所の膜厚を基準にして行われる。このため、反射防止膜160の最厚箇所が裏面151Aに位置することで、裏面151Aにおける反射防止膜160の膜厚精度を向上できる。裏面151Aは、表示時刻の表示領域と重なるため、裏面151Aにおける膜厚精度が向上することで、表示時刻の視認性をより向上できる。
【0041】
また、反射防止膜160の材料は二酸化ケイ素であるため、例えば、反射防止膜の材料がフッ化マグネシウムである場合と比べて、成膜コストを低減できる。
【0042】
また、二酸化ケイ素を材料とする反射防止膜160の最厚箇所の膜厚T2は、80nm以上、110nm以下であるため、表1に示されるように、最厚箇所における視感反射率を2.0%以下に抑えることができる。
最厚箇所はガラス基材150の中央部150Aの裏面151Aに位置しているため、最厚箇所は表示時刻の表示領域と重なる。したがって、最厚箇所における視感反射率を2.0%以下に抑えることで、表示時刻の視認性をさらに向上できる。
なお、表1に示されるように、反射防止膜160の膜厚は、90nm以上、100nm以下であれば、視感反射率を約1.0%以下に抑えることができる。このため、反射防止膜160の最厚箇所の膜厚T2は、90nm以上、100nm以下であることがより好ましい。
【0043】
カバーガラス130は、腕時計に用いられるため、表面が擦れやすい。このため、反射防止膜160が、例えば、ガラス基材150の表面に設けられている構造の場合、反射防止膜160が擦られて剥がれる可能性がある。
これに対して、本実施形態では、反射防止膜160は、ガラス基材150の裏面151に設けられているため、擦られることがなく、膜剥がれ等の心配はない。これにより、反射防止膜160がガラス基材150の表面に設けられている構造と比べて、耐傷性を向上できる。
【0044】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。
第2実施形態は、第1実施形態に対して、カバーガラス130を構成する反射防止膜の材料、膜厚の範囲、および、成膜方法が異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
第2実施形態では、フッ化マグネシウム(MgF
2)を材料とする反射防止膜が用いられる。また、反射防止膜の最厚箇所の膜厚T2は、70nm以上、130nm以下である。例えば、膜厚T2は、100nmである。なお、反射防止膜の屈折率は、1.35以上、1.50以下であり、反射防止膜の最薄箇所の膜厚T1は、最厚箇所の膜厚T2の70%以上、95%以下であり、第1実施形態と同様である。
【0045】
[反射防止膜の成膜方法]
ガラス基材150を、120℃の熱硫酸に10分間浸漬する。次に、ガラス基材150を純水で洗浄し、オーブンにより120℃で30分間加熱して乾燥させる。
次に、ガラス基材150を蒸着装置の処理室に収容し、処理室の圧力を10
−6Torr(133×10
−6Pa)とする。
次に、処理室に配置されたフッ化マグネシウムペレットを、ガラス基材150にEB(Electron Beam)で加熱蒸着させる。
ここで、ガラス基材150の周辺部150Bにおける反射防止膜の膜厚は、第1実施形態と同様に、中央部150Aにおける反射防止膜の膜厚と比べて薄くなる。
本実施形態では、中央部150Aにおける反射防止膜の最厚箇所の膜厚T2が、70nm以上、130nm以下となり、周辺部150Bにおける反射防止膜160の最薄箇所の膜厚T1が、膜厚T2の70%以上、95%以下となるように、成膜を行う。
【0046】
[実験結果]
[反射率のばらつき]
図9は、本実施形態における反射防止膜の膜厚に対する反射率特性を示す図である。
図9には、100nmを基準膜厚としたとき、基準膜厚の0%減の膜厚(100nm)、基準膜厚の10%減の膜厚(90nm)、基準膜厚の20%減の膜厚(80nm)、および、基準膜厚の30%減の膜厚(70nm)に対して、計測機器で計測したカバーガラスの波長毎の反射率特性が示されている。
図9に示されるように、反射防止膜の膜厚のばらつきが、30%以内であれば、反射率のばらつきは、約3%以内に抑えられている。
本実施形態によれば、反射防止膜の最薄箇所の膜厚T1が最厚箇所の膜厚T2の70%以上であるため、反射率のばらつきは、約3%以内に抑えられる。
【0047】
[視感反射率]
表2は、フッ化マグネシウムを材料とする反射防止膜の膜厚と視感反射率との関係を示す表である。
表2に示されるように、反射防止膜の膜厚が、70nm以上、130nm以下である場合、視感反射率を2.0%以下に抑えることができる。
【0049】
図10は、反射防止膜の膜厚が70nmおよび130nmの場合の反射率(計測機器で計測した反射率)特性を示す図である。膜厚が70nmおよび130nmの場合、人間の視覚による感度が特に高い約530nm〜580nmの波長付近では、カバーガラスの反射率は約2%以下に抑えられる。
【0050】
[第2実施形態の作用効果]
このような第2実施形態によれば、第1実施形態と同じ構成によって同じ作用効果が得られる上、以下の作用効果が得られる。
反射防止膜の最薄箇所の膜厚T1が最厚箇所の膜厚T2の70%以上であるため、
図9に示されるように、カバーガラスの反射率のばらつきは、約3%以内に抑えられる。これによれば、カバーガラスの着色を抑制できる。これにより、GPS付き腕時計1の美観や表示時刻の視認性を向上できる。
【0051】
また、フッ化マグネシウムを材料とする反射防止膜の最厚箇所の膜厚T2は、70nm以上、130nm以下であるため、表2に示されるように、最厚箇所における視感反射率を2.0%以下に抑えることができる。
最厚箇所はガラス基材150の中央部150Aの裏面151Aに位置しているため、最厚箇所は表示時刻の表示領域と重なる。したがって、最厚箇所における視感反射率を2.0%以下に抑えることで、表示時刻の視認性をさらに向上できる。
なお、表2に示されるように、反射防止膜の膜厚は、80nm以上、100nm以下であれば、視感反射率を約1.0%以下に抑えることができる。このため、反射防止膜の最厚箇所の膜厚T2は、80nm以上、100nm以下であることがより好ましい。
【0052】
また、反射防止膜の材料はフッ化マグネシウムであるため、例えば、反射防止膜の材料が二酸化ケイ素の場合と比べて、視感反射率を低くできる。
表1に示されるように、二酸化ケイ素を材料とする反射防止膜160の膜厚が100nmのときの視感反射率は1.09%である。一方、表2に示されるように、フッ化マグネシウムを材料とする反射防止膜の膜厚が、例えば100nmのときの視感反射率は0.27%であり、二酸化ケイ素を材料とする反射防止膜160よりも低い。
【0053】
[他の実施形態]
なお、本発明は前記各実施形態の構成に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、前記各実施形態では、反射防止膜は、ガラス基材150の裏面151Aに設けられているが、ガラス基材150の表面に設けられていてもよく、ガラス基材150の裏面151Aおよび表面の両方に設けられていてもよい。
【0054】
前記各実施形態では、ガラス基材150の材料にサファイアが用いられているが、屈折率が1.7以上、1.8以下であれば、他の種類のガラスやプラスチックを用いてもよい。
【0055】
前記各実施形態では、反射防止膜の最厚箇所は、ガラス基材150の中央部150Aの裏面151Aに位置し、反射防止膜の最薄箇所は、ガラス基材150の周辺部150Bの裏面151Bに位置しているが、最厚箇所および最薄箇所の位置は、これに限定されない。
【0056】
前記各実施形態では、カバーガラスは、GPS付き腕時計に用いられているが、その他の時計や、表示部を備えた機器に用いてもよい。