(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.3%以下、Ni:0.3%以下、Mo:0.3%以下、Cr:0.5%以下、V:0.05%以下、Nb:0.05%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のラインパイプ用厚肉高強度継目無鋼管の製造方法。
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.002%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のラインパイプ用厚肉高強度継目無鋼管の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇という観点から、従来、省みられなかったような深度が深い油田や、硫化水素等を含む、いわゆるサワー環境下にある厳しい腐食環境の油田やガス田等の開発が盛んになっている。そのため、このような環境下の油田やガス田で採掘された原油、ガスを輸送するラインパイプで使用される鋼管には、高強度で、かつ優れた耐食性(耐サワー性)を兼ね備えた材質を有することが要求されている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、特許文献1、特許文献2には、質量%で、C:0.03〜0.11%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.8〜1.0%、P:0.025%以下、S:0.003%以下、Ti:0.002〜0.017%、Al:0.001〜0.10%、Cr:0.05〜0.5%、Mo:0.02〜0.3%、V:0.02〜0.20%、Ca:0.0005〜0.005%、N:0.008%以下、O:0.004%以下を含む組成の鋼片を熱間圧延により継目無鋼管に圧延した後、直ちに均熱後、焼入れ開始温度を(Ar
3点+50℃)〜1100℃として5℃/s以上の冷却速度で冷却し、ついで550〜Ac
1点で焼戻する降伏応力が483MPa以上である耐水素誘起割れ性に優れた高強度継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献1,2に記載された技術で得られる継目無鋼管は、ベイナイトまたは/およびマルテンサイトで、その粒界にフェライトが析出した組織を有するとしている。
【0004】
また、特許文献3には、ラインパイプ用厚肉継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術では、C:0.03〜0.08%、Si:0.25%以下、Mn:0.3〜2.5%、Al:0.001〜0.10%、Cr:0.02〜1.0%、Ni:0.02〜1.0%、Mo:0.02〜1.2%、Ti:0.004〜0.010%、N:0.002〜0.008%、さらにCa、Mg、REMのうちの1種または2種以上の合計で0.0002〜0.005%、V:0〜0.08%、Nb:0〜0.05%、Cu:0〜1.0%を含み、不純物中のPが0.05%以下、Sが0.005%以下である組成の溶鋼を、連続鋳造により断面が丸形状のビレットに凝固される工程と、ビレットを1400〜1000℃までの平均冷却速度を6℃/min以上として室温まで冷却する工程と、550〜900℃までの平均加熱速度を15℃/min以下として1150〜1280℃に加熱した後、穿孔および圧延により継目無鋼管を製造する工程と、製管後直ちに800〜500℃までの平均冷却速度を8℃/s以上とし100℃以下まで連続して強制冷却する工程と、500〜690℃の範囲内の温度で焼戻す工程と、を順次施し、高強度で靭性の良好なラインパイプ用厚肉継目無鋼管を得るとしている。特許文献3に記載された技術では、連続鋳造による丸形状のビレットに代えて、連続鋳造で角形状のブルームやスラブとしたのち鍛造または圧延で丸形状としてもよいとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、耐SSC性に及ぼす各種要因は極めて複雑であり、65ksi超え級の高強度鋼管において、安定して耐SSC性を確保するための条件は明確になっていないのが現状であり、しかも、特許文献1〜3に記載された技術では、高強度と高靭性を兼備しつつ、優れた耐SSC性を安定して確保できていないという問題がある。
また、特許文献1〜3に記載された技術では、直接焼入れ処理を施すため、熱間圧延に際して生じる管各位置での温度ばらつきに起因した、鋼管各部の特性ばらつきが大きくなり、高強度と高靭性を兼備しつつ、優れた耐SSC性を安定して確保することが難しいという問題がある。また、特許文献3に記載された技術では、直接焼入れ処理に代えて、再加熱焼入れ処理でもよいとしている。しかし、再加熱焼入れ処理では、工程が複雑になるという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、ラインパイプ用として好適な、降伏強さ:450MPa超級の高強度と、シャルピー衝撃試験における破面遷移温度vTrsが−70℃以下という高靭性とを兼備しつつ、さらにサワー環境下における耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)に優れた、厚肉高強度継目無鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
なお、ここでいう「厚肉」とは、肉厚12.5mm以上である場合をいうものとする。また、「耐硫化物応力腐食割れ性に優れた」とは、NACE TM0177 Method Aの規定に準拠した、H
2Sが飽和した0.5%酢酸+5.0%食塩水溶液(液温:24℃)中での定荷重試験を実施し、降伏強さの85%の負荷応力で負荷時間:720時間で、割れが生じない場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、継目無鋼管の強度、靭性と耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、所望の高強度・高靭性とを兼備しつつ、優れた耐硫化物応力腐食割れ性を保持するラインパイプ用の継目無鋼管とするには、Mnを適正範囲に調整して焼入れ性を向上させ、またN量を低減し、さらにNを固定するためのみに適正量のTiを含有させて靭性の低下を防止し、さらに必要に応じて、適正量のCr、Mo、Cu、V、Nbを含有する組成としたうえで、さらに、低温加熱して穿孔したのち、所定条件を満足する低温圧延と加速冷却とを施し、組織を微細化し、さらに焼戻処理を施す製造方法とすることが肝要となることを見出した。
【0009】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)中実丸鋳片を、加熱し、穿孔圧延を施して中空素管としたのち、該中空素管に延伸圧延を施して、継目無鋼管とするに当たり、前記中実丸鋳片を、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.02〜0.5%、Mn:0.7〜2.5%、P:0.020%以下、S:0.003%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.005%以下、Ti:0.005〜0.05%を含み、かつNとTiが次(1)式
N ≦ Ti×14/48 ≦ N+10 ‥‥(1)
(ここで、N、Ti:各元素の含有量(質量ppm))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する中実丸鋳片とし、前記加熱を、加熱温度:1300℃未満とする加熱とし、前記延伸圧延を、950℃以下の温度域での次(2)式
圧下率(%)=(圧延前の管断面積−圧延後の管断面積)/(圧延前の管断面積)×100‥‥(2)で定義される圧下率が40%以上で、かつAr
3変態点以上(Ar
3変態点+70℃)以下の温度範囲で圧延を終了する圧延とし、前記延伸圧延終了後、800〜300℃の温度範囲での平均冷却速度が20℃/s以上である冷却を300℃以下まで施し、しかるのちに、Ac
1変態点以下の温度で焼戻処理を行い、耐硫化物応力腐食割れ性に優れ、
450MPa以上の降伏強さを有し、かつ靭性に優れる継目無鋼管とすることを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度継目無鋼管の製造方法。
【0010】
(2)中実丸鋳片を、加熱し、穿孔圧延を施して中空素管としたのち、該中空素管に延伸圧延とそれに続く定径圧延とを施して、継目無鋼管とするに当たり、前記中実丸鋳片を、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.02〜0.5%、Mn:0.7〜2.5%、P:0.020%以下、S:0.003%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.005%以下、Ti:0.005〜0.05%を含み、かつNとTiを次(1)式
N ≦ Ti×14/48 ≦ N+10 ‥‥(1)
(ここで、N、Ti:各元素の含有量(質量ppm))
を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する中実丸鋳片とし、前記加熱を、加熱温度:1300℃未満とする加熱とし、前記延伸圧延を、950℃以下の温度域での下記(2)式
圧下率(%)=(圧延前の管断面積−圧延後の管断面積)/(圧延前の管断面積)×100‥‥(2)で定義される圧下率が40%以上とする圧延とし、前記定径圧延を、Ar
3変態点以上(Ar
3変態点+70℃)以下の温度範囲で圧延を終了する圧延とし、前記定径圧延終了後、800〜300℃の温度範囲での平均冷却速度が20℃/s以上である冷却を300℃以下まで施し、しかるのちに、Ac
1変態点以下の温度で焼戻処理を行い、耐硫化物応力腐食割れ性に優れ、
450MPa以上の降伏強さを有し、かつ靭性に優れる継目無鋼管とすることを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度継目無鋼管の製造方法。
【0011】
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.3%以下、Ni:0.3%以下、Mo:0.3%以下、Cr:0.5%以下、V:0.05%以下、Nb:0.05%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度継目無鋼管の製造方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.002%以下を含有することを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多量の合金元素を添加することなく、降伏強さ:450MPa超級の高強度と、シャルピー衝撃試験における破面遷移温度vTrsが−70℃以下という高靭性とを兼備しつつ、さらに硫化水素を含む厳しい腐食環境下における優れた耐硫化物応力腐食割れ性を有する油井用低合金高強度継目無鋼管を容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、中実丸鋳片を出発素材とし、該中実丸鋳片を加熱し、穿孔圧延を施して中空素材としたのち、該中空素材に延伸圧延を施して継目無鋼管とする。
まず、出発素材である中実丸鋳片の組成限定理由について、説明する。以下、とくに断わらないかぎり質量%は単に%で記す。
C:0.03〜0.15%
Cは、固溶強化や、焼入れ性向上を介して、鋼管強度の増加に寄与する元素である。このような効果を得て、所望の高強度を確保するためには0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超えて多量に含有すると、溶接熱影響部(HAZ)の硬さが高くなりすぎて、溶接部の耐SSC性が低下する。このため、Cは0.03〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.06〜0.12%である。リールパージ等のように円周溶接部に繰り返し巻き、巻き戻しが複数回繰り返し負荷されるような使途向けには、より好ましくは、0.06〜0.11%である。
なお、好ましい範囲は、体積膨張が大きくなり製造製が低下する亜包晶域を外した組成範囲であり、この範囲は成分が明確でない場合には正確には表示できないが、概ねC:0.10〜0.12%前後の領域となる。
【0014】
Si:0.02〜0.5%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶強化により、鋼管強度を増加させる作用を有する元素である。このような効果を得るためには、不純物レベルを超える0.02%以上の含有を必要とする。一方、0.5%を超える多量の含有は、溶接部および母材部の靭性が低下する。このため、Siは0.02〜0.5%の範囲に限定した。
【0015】
Mn:0.7〜2.5%
Mnは、焼入れ性の向上を介して、鋼管強度を増加させる作用を有する元素である。また、Mnは、Sと結合しMnSとしてSを固定して、Sによる粒界脆化を防止する作用を有する。このような効果を得て、所望の高強度を確保するためには0.7%以上の含有を必要とする。一方、2.5%を超える多量の含有は、円周溶接部の硬さが250HVを超えて高くなりすぎ、耐サワー性(耐SSC性)が低下する。このため、Mnは0.7〜2.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.7〜1.5%である。
【0016】
P:0.020%以下
Pは、結晶粒界等に偏析し、靭性の低下、粒界脆化割れ等を引き起こす傾向を示し、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、0.020%までは許容できる。このようなことから、Pは0.020%以下に限定した。なお、過剰な低減は、製鋼コストの高騰を招くため工業的には0.003%以上とすることが望ましい。
【0017】
S:0.003%以下
Sは、鋼中ではほとんどが硫化物系介在物として存在し、延性、靭性や耐食性、さらには耐水素脆化割れ性(耐HIC性)、耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)を低下させるため、できるだけ低減することが望ましい。しかし、継目無鋼管では、穿孔圧延で円周方向および長手方向に伸ばされる圧延が施されるため、MnSが圧延方向に極端に長く伸ばされることはなく、耐HIC性、耐SSC性の極端な低下は少なく、Sの極端な低減を行う必要はない。0.003%以下程度であれば許容できる。このため、Sは0.003%以下に限定した。
【0018】
Al:0.01〜0.08%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上含有する必要がある。一方、0.08%を超える含有は、酸化物系介在物がクラスター状に残留しやすくなり、靭性が低下する。また、酸化物系介在物は表面疵の原因ともなる。このため、Alは0.01〜0.08%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.05%以下である。
【0019】
N:0.005%以下
Nは、Tiと結合しTiNを生成し、その量が増加すると、靭性を低下させる傾向を有する。このため、本発明では、Nはできるだけ低減することにした。しかし、極端な低減は精錬コストの高騰を招く。このため、Nは0.005%以下に限定した。
Ti:0.005〜0.05%
Tiは、Nを固定するためだけに含有する。Nを固定しTiNを形成した以外のTiは、残留しないように、N量に応じて調整して含有することした。通常の、最も少ない場合のN量に対応して、Tiは0.005%以上含有する必要がある。一方、0.05%を超えて含有するとTiN量が増加し、大きさが大きくなるとともに、Tiの炭化物、硫化物、炭硫化物等を形成し、靭性を低下させる。このため、Tiは0.005〜0.05%に限定した。なお、好ましくは0.0175%以下である。
【0020】
本発明ではN、Tiを、上記した範囲で、かつ次(1)式
N ≦ Ti×14/48 ≦ N+10 ‥‥(1)
(ここで、N、Ti:各元素の含有量(質量ppm))
を満足するように調整して含有する。(1)式の中央値は、TiNを形成する際のTi量に相当する。本発明ではTi量を、含有するN量に対応して、N〜(N+10)質量ppmの範囲となるように調整して含有する。(Ti×14/48)がN量未満では、固溶N量が存在することになり、Al等の窒化物形成元素と結合し、あるいは焼戻時に炭窒化物を形成して、鋼管靭性の低下を招く要因となる。
【0021】
一方、(Ti×14/48)が(N+10)を超えて多くなると、TiNを形成した残りのTiが存在することになり、Tiの硫化物、炭硫化物を形成し、靭性を大きく低下させる恐れが増大する。このため、TiとNとを、(1)式を満足するように調整することとした。
上記した成分が基本の成分であるが、本発明では、基本の組成に加えてさらに、選択元素として、Cu:0.3%以下、Ni:0.3%以下、Mo:0.3%以下、Cr:0.5%以下、V:0.05%以下、Nb:0.05%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.002%以下を含有することができる。
【0022】
Cu、Ni、Mo、Cr、V、Nbはいずれも、鋼管強度の増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して1種または2種以上、含有できる。
Cu:0.3%以下、Ni:0.3%以下、Mo:0.3%以下、Cr:0.5%以下、V:0.05%以下、Nb:0.05%以下
Cuは、固溶強化、さらには焼入れ性向上を介して、鋼管強度を増加させる元素であり、必要に応じて、含有できる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.3%を超えて含有すると、靭性が低下するうえ、表面疵が多発する。このため、含有する場合には、Cuは0.3%以下に限定することが好ましい。
【0023】
Niは、固溶強化、さらには焼入れ性向上を介して、鋼管強度を増加させる元素であり、必要に応じて、含有できる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.3%を超えて含有すると、強度が高くなりすぎ、サワー環境下における耐SSC性が低下する。このため、含有する場合には、Niは0.3%以下に限定することが好ましい。なお、Cuを0.05%以上含有する場合には、Niを0.5×Cu量以上含有させることがより好ましい。これにより、Cu起因の表面疵や、表面欠陥の発生を防止できる。
【0024】
Moは、焼入れ性向上を介して、鋼管強度を増加させる元素であり、必要に応じて、含有できる。このような効果を得るためには、0.001%以上含有することが望ましいが、0.3%を超えて含有すると、強度が高くなりすぎ、サワー環境下における耐SSC性が低下する。このため、含有する場合には、Moは0.3%以下に限定することが好ましい。
Crは、焼入れ性向上を介して、鋼管強度を増加させる元素であり、必要に応じて、含有できる。このような効果を得るためには、0.01%以上含有することが望ましいが、0.5%を超えて含有すると、強度が高くなりすぎ、サワー環境下における耐SSC性(耐サワー性)、とくに溶接部における耐サワー性が低下する。このため、含有する場合には、Crは0.5%以下に限定することが好ましい。
【0025】
Vは、焼入れ性向上、焼戻軟化抵抗の増加を介して、鋼管強度を増加させる元素であり、必要に応じて、含有できる。このような効果を得るためには、0.002%以上含有することが望ましいが、0.05%を超えて含有すると、粗大なVN、V(CN)を形成し、靭性を低下させる可能性が高くなる。このため、含有する場合には、Vは0.05%以下に限定することが好ましい。
【0026】
Nbは、析出強化を介して、鋼管強度を増加させる元素であり、必要に応じて、含有できる。また、Nbはオーステナイト粒の微細化に寄与し、耐サワー性が向上する。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することが望ましいが、0.05%を超える含有は、耐硫化物応力腐食割れ性、耐水素誘起割れ性を低下させる恐れがある。このため、含有する場合にはNbは0.05%以下に限定することが好ましい。
【0027】
Ca:0.002%以下
Caは、硫化物系介在物、酸化物系介在物の形態を粒状の介在物とする、いわゆる介在物の形態を制御する作用を有し、この介在物の形態制御を介して、延性、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性、耐水素誘起割れ性を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果は、0.001%以上の含有で顕著となるが、0.002%を超えて含有すると、非金属介在物が増加し、かえって延性、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性、耐水素誘起割れ性が低下する。このため、含有する場合には、Caは0.002%以下の範囲に限定することが好ましい。なお、Caを溶鋼中に含有させることにより、連続鋳造時のノズル詰まりを抑制することができる。なお、丸鋳片を使用しない場合には、Caは無添加としてもよい。
【0028】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。なお、不可避的不純物としては、O:0.006%以下が許容できる。
また、本発明継目無鋼管は、上記した組成を有しさらに、ベイナイト相を主体とする組織を有する。ここでいう「ベイナイト相」は、ベイナイト相に加えて、ベイニティックフェライト相、アシキュラーフェライト相を含むものとする。なお、ナイタール液腐食で現出させた組織の光学顕微鏡観察では、ベイナイト相とマルテンサイト相との区別がつけにくいため、本発明ではベイナイト相にマルテンサイト相を含めるものとする。また、ここでいう「主体とする」とは、当該相が面積率で50%以上である場合をいうものとする。ベイナイト相以外の第二相としては、面積率で10%以下のフェライト相が例示できる。
【0029】
本発明では、上記した組成を有する中実丸鋳片を出発素材とする。出発素材である中実丸鋳片の製造方法は特に限定する必要はなく、常用の方法がいずれも適用できる。上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の常用の溶製方法で溶製し、常用の連続鋳造法で所定寸法の中実丸鋳片とすることが好ましい。
ついで、出発素材である中実丸鋳片を、加熱し、穿孔圧延を施して中空素管とする。
【0030】
加熱における加熱温度は、好ましくは1150℃以上、1300℃未満とする。加熱温度が1300℃以上では、結晶粒が粗大化するとともに、スケールロスが多大となり歩留りが低下し、かえって経済的に不利となる。なお、加熱温度が1100℃未満では、熱間変形抵抗が高くなり、圧延機にかかる負荷(圧延荷重)が高くなりすぎて、圧延が困難となる。このため、本発明では、中実丸鋳片の加熱温度は1300℃未満好ましくは1100℃以上に限定した。なお、好ましくは1200℃以上である。
【0031】
なお、穿孔圧延方法は、とくに限定する必要はなく、マンネスマン方式の穿孔方法が、ロール形式によらず適用できる。
得られた中空素管には、追加の加熱を行うことなくそのまま、あるいは1100℃未満好ましくは1000℃以上に加熱し、延伸圧延、あるいはさらに定径圧延を施して、所定寸法の継目無鋼管とする。なお、延伸圧延は、常用のマンネスマン−エロンゲータ・プラグミル、あるいはマンネスマン−マンドレルミル、さらにはアッセルミルを利用した圧延とすることが好ましい。
【0032】
延伸圧延は、950℃以下の温度域での次(1)式
圧下率(%)=(圧延前の管断面積−圧延後の管断面積)/(圧延前の管断面積)×100‥‥(1)
で定義される圧下率(断面減少率)が40%以上で、かつAr
3変態点以上(Ar
3変態点+70℃)以下の温度範囲で圧延を終了する圧延とする。
【0033】
なお、延伸圧延に引続いて、定径圧延を施す場合には、延伸圧延の圧延終了温度は、上記した温度範囲を上方に外れてもとくに問題はない。延伸圧延の圧延終了温度がAr
3変態点未満では、引続いて定径圧延を行う場合に、定径圧延の圧延終了温度を所定の温度範囲調整することができなくなる。
延伸圧延における950℃以下の温度域での圧下率(断面減少率)が40%未満では、未再結晶温度域での圧下量が不足し、組織の微細化を達成できず、所望の高強度、高靭性を確保できない。このため、延伸圧延における950℃以下の温度域での圧下率を40%以上に限定した。なお、延伸圧延における950℃以下の温度域での圧下率は、圧延荷重、圧延中の管形状の観点から75%以下とすることが好ましい。なお、好ましくは65%以下である。
【0034】
また、延伸圧延における圧延終了温度がAr
3変態点未満では、最終的に得られる鋼管組織が所望の組織とすることができなくなる。また、鋼板温度がAr
3変態点未満では、オーステナイトからフェライトの析出が開始され、加工歪の分布が不均一となるという懸念もある。一方、延伸圧延の圧延終了温度が(Ar
3変態点+70℃)を超えると、加工により導入された転位(加工歪)が回復等を起し、所望の組織の微細化を達成できなくなる。このため、延伸圧延における圧延終了温度はAr
3変態点以上(Ar
3変態点+70℃)以下の温度範囲に限定した。なお、好ましくは(Ar
3変態点+30℃)〜Ar
3変態点の範囲である。
【0035】
なお、本発明では、延伸圧延後、さらに、管外径寸法を所定の寸法に調整するために、定径圧延を施してもよい。定径圧延は、レデューサー、サイジングミル等の圧延機を利用して、管外径寸法を所定の寸法に調整するために行う。その場合、定径圧延の圧延条件は、後工程の制御冷却の冷却条件を満足できるように、圧延終了温度をAr
3変態点以上(Ar
3変態点+70℃)以下の温度範囲とする。定径圧延の圧延終了温度がAr
3変態点未満では、オーステナイトからフェライトの析出が開始され、加工歪の分布が不均一となるという問題が生じる。一方、定径圧延の圧延終了温度が(Ar
3変態点+70℃)を超えると、加工により導入された転位が回復等により消滅し、所望の組織微細化が達成できなくなる。このため、定径圧延における圧延終了温度はAr
3変態点以上(Ar
3変態点+70℃)以下の温度範囲に限定した。なお、好ましくは(Ar
3変態点+30℃)〜Ar
3変態点の範囲である。
【0036】
延伸圧延終了後、あるいは延伸圧延に引続き定径圧延を行う場合には定径圧延後に、制御冷却を施す。制御冷却は、800〜300℃の温度範囲での平均冷却速度が20℃/s以上である冷却とし、冷却停止温度を300℃以下とする。これにより、ベイナイト相を主体とする組織とすることができる。
800〜300℃の温度範囲での平均冷却速度を20℃/s以上とすることにより、得られる組織が微細なベイナイト相を主体とする組織となり、所望の高強度、高靭性を兼備させることができる。平均冷却速度が20℃/s未満では、得られる組織が、粗大なフェライト相やパーライトを含む組織となり、強度、靭性がともに低下する。一方、平均冷却速度の上限はとくに限定する必要はないが、鋼管形状の観点から、100℃/s程度以下とすることが好ましい。なお、得られる冷却速度は、使用する冷却装置の冷却能に依存して、鋼管の肉厚により決定されるが、100℃/s以上の冷却速度範囲では、得られる組織に大きな変化は認められない。このようなことから、延伸圧延終了後の冷却では800〜300℃の温度範囲での平均冷却速度を20℃/s以上に限定した。なお、好ましくは40℃/s以上である。
【0037】
また、制御冷却の冷却停止温度が300℃を超えて高温となると、組織が粗大化し、所望の高強度、高靭性を確保できなくなる。このため、制御冷却の冷却停止温度が300℃以下に限定した。
制御冷却後、さらに焼戻処理を施す。
焼戻処理は、Ac
1変態点未満の温度に加熱し、冷却、好ましくは空冷以上の冷却速度で冷却、する処理とする。本発明では焼戻処理は、過剰な転位を減少させ組織の安定化を図り、所望の高強度と更なる優れた耐硫化物応力腐食割れ性とを兼備させるために行う。焼戻処理の加熱温度がAc
1変態点以上では、一部で、α→γ変態が生じ、その後の冷却でさらに変態するため、強度、靭性が低下する。このようなことから、焼戻処理の加熱温度を、Ac
1変態点以下の温度に限定した。なお、好ましくは600〜680℃である。また、焼戻処理は、上記した温度範囲内で10min以上保持したのち、好ましくは空冷以上の冷却速度で、好ましくは室温まで冷却する処理とすることが好ましい。なお、焼戻温度での保持時間が、5min未満では、所望の組織の均一化が達成できない。なお、好ましくは、30min以下である。
【0038】
以下、実施例に基づいてさらに本発明について説明する。
【実施例】
【0039】
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で中実丸鋳片(直径:210mmφ)とした。出発素材である中実丸鋳片を、表2に示す温度に加熱し、マンネスマン方式の穿孔圧延機を用いて穿孔圧延を施し中空素管とした。ついで、得られた中空素管に、表2に示す条件でマンドレルミルで延伸圧延し、さらにサイジングミルで定径圧延を施し、圧延終了後、表2に示す条件で制御冷却を施し、表2に示す寸法の継目無鋼管とした。引続き、表2に示す条件の焼戻処理を施した。
【0040】
得られた継目無鋼管から試験材を採取し、組織観察試験、引張試験、シャルピー衝撃試験、腐食試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)組織観察試験
得られた鋼管から、組織観察用試験片を採取し、管長手方向に直交する断面(C断面)を研磨、腐食(腐食液:ナイタール液)して、光学顕微鏡(倍率:100倍)および走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍)で組織を観察し、撮像して、画像解析装置を用い、組織の種類およびその分率を測定した。
【0041】
(2)引張試験
得られた鋼管から、管軸方向が引張方向となるように、JIS Z 2241の規格に準拠して、引張試験片(平行部6mmφ×G.L.25mm)を採取し、引張試験を実施し、降伏強さYS、引張強さTSを求めた。
(3)シャルピー衝撃試験
得られた鋼管から、管軸方向に直交する方向が試験片長手方向となるように、シャルピー衝撃試験片(2mmVノッチ試験片)を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、破面遷移温度vTrs(℃)を求めた。
【0042】
(4)腐食試験
得られた鋼管から、腐食試験片を10本採取し、NACE TM0177 Method Aの規定に準拠した、H
2Sが飽和した0.5%酢酸+5.0%食塩水溶液(液温:24℃)中での定荷重試験を実施し、降伏強さYSの90%の負荷応力で、720時間、負荷したのち、試験片の割れの有無を観察し、耐硫化物応力腐食割れ性を評価した。なお、割れ観察は、倍率:10倍の投影機を使用した。耐硫化物応力腐食割れ性の評価は、割れ発生率(=(割れが発生した試験片本数)/(全試験片数)×100(%))で行った。
【0043】
得られた結果を表3に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
本発明例はいずれも、所望の高強度(降伏強さYS:450MPa以上)と、所望の高靭性(vTrs:−70℃以下)を有するとともに、腐食試験での割れ発生率が0%で、優れた耐硫化物応力腐食割れ性を兼備する高強度継目無鋼管となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の高強度、高靭性、および所望の優れた耐硫化物応力腐食割れ性を兼備することができていない。