特許第6225893号(P6225893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6225893-継目無金属管の傾斜圧延方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6225893
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】継目無金属管の傾斜圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 23/00 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   B21B23/00 F
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-255872(P2014-255872)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-112610(P2016-112610A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 誠二
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−046893(JP,A)
【文献】 実開昭55−088302(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 23/00
B21B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入側に被圧延材を供給する円筒状ガイドを有し、圧延方向に対し一定の角度で傾けて対向配置された1対のロールと該ロール間に位置するようにパスラインに沿って配置されたプラグからなる傾斜圧延機で中実あるいは中空の金属材料を圧延する継目無金属管の傾斜圧延方法であって、前記傾斜圧延機の入側における前記被圧延材の長さMと前記傾斜圧延機の出側における前記中空素管の長さNから算出される穿孔比N/Mを2〜2.2の範囲内として傾斜圧延を行い、かつ前記円筒状ガイドの内径を前記被圧延材の外径DとのクリアランスΔd=d−Dが(前記被圧延材の外径×0.10)以下となるようにすると共に、前記円筒状ガイドの被圧延材出側位置が前記被圧延材と前記ロールとが接触する位置から前記パスラインの上流側200mm以内の位置となるように前記円筒状ガイドを配置し、かつ前記円筒状ガイドを軸回りに回転可能とすることを特徴とする継目無金属管の傾斜圧延方法。
【請求項2】
前記円筒状ガイドに連結された回転駆動装置によって前記被圧延材の回転速度と同期した速度で前記円筒状ガイドを回転させることを特徴とする請求項1に記載の継目無金属管の傾斜圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無金属管の傾斜圧延方法に関し、詳しくはマンネスマン穿孔圧延時に生じる断面内偏肉の発生および外面疵を抑制するのに好適な継目無金属管の傾斜圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンネスマン方式による継目無金属管の製造は、所定温度に加熱された中実の丸ビレットを被圧延材とし、この丸ビレットを傾斜圧延機で穿孔して中空素管を製造する。次いで、製造された中空素管をそのまま、あるいは必要に応じて前記傾斜圧延機と同一構成のエロンゲータに通して拡径、薄肉化を行った後、プラグミル、マンドレルミルなどの後続する延伸圧延装置に供給して延伸圧延する。その後、ストレッチレデューサ、リーラ、サイザーなどに通して外径加工され、仕上製品管となる。
【0003】
上記マンネスマン方式により穿孔を行って得る継目無金属管の製造プロセスにおける寸法精度上の問題点として、偏肉の問題がある。偏肉は、横断面系と縦(長手方向)断面系に大別されるが、横断面系では偏芯性、対向(対称)性などがあり、これらの中で偏肉の影響が大きいのは偏芯性である。
【0004】
偏芯性偏肉は最初の工程である穿孔(穿孔圧延ともいう)において発生することが多い。マンネスマン穿孔を初めとする傾斜圧延方式では、丸ビレットを回転させつつ穿孔するため、偏芯による肉厚の偏りは横断面内の最も厚肉(或いは薄肉)の部位の円周方向位置が長手方向で異なるという特徴を有する。さらに、横断面内の偏肉は長手方向に一定の値をとるとは限らない。図2は、小型の模型穿孔機にて実際に熱間鋼を圧延する際、意図的に先端部に偏芯を加えた偏芯材の長手方向偏肉率分布を示す模式図であるが、偏肉率は先端で最も高く、中央部で一定に近くなり、又後端部に近づくほど大きくなる傾向が認められる。いずれにしろ、初期の偏芯が肉厚精度に大きな影響を及ぼすことは言うまでもない。
【0005】
なお、偏肉率は次のようにして求めた(以下同じ)。すなわち、管長さ方向の複数個所について断面円周方向の16箇所で肉厚を測定し、それぞれの位置での偏肉率(%)を下記(1)式により算出した。
偏肉率=((最大値−最小値)/16箇所の平均値)×100 (1)
【0006】
前記偏芯性偏肉の原因の1つとして、被圧延材(丸ビレット)が傾斜圧延時に大きく振れ回ることが考えられ、この振れ回りを防止するため丸ビレットを傾斜圧延機に供給する円筒状ガイド(通常、キャノンと呼ばれる)が前記傾斜圧延機の入り側に設置されている。しかしながら、上記の円筒状ガイドを有する設備であっても、偏芯性偏肉が発生する問題は解決されていなかった。
【0007】
そこで、特許文献1には、入側ガイド(円筒状ガイド)の先端部に切り欠き部を設け、前記入側ガイドの先端をディスクロールが被圧延材に接触する直前に位置させることによって、被圧延材の後端部の振れを小さくし、後端部の偏肉率及び楕円率が共に低くて形状が良好な継目無金属管を製造することができる傾斜圧延機が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、管状体であるガイド(キャノン)の丸鋼鋳片(丸ビレット)出側位置をピアサー圧延機(傾斜圧延機)のロール・ギャップの最小位置より250〜300mmの所にすると共に、前記丸鋼鋳片と該ガイドとの隙間を10〜15mmにして、該丸鋼鋳片をピアサー圧延機に供給することにより継目無鋼管の偏肉を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開平6−61301号公報
【特許文献2】特開2005−46893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記した特許文献1や特許文献2などに開示されている従来技術では、いずれも、入側ガイドを通り抜けた被圧延材の後端部が大きく振れることを防止することによって、傾斜圧延された中空素管の後端部に発生する偏肉を抑制することが前提とされているため、前記中空素管の先端部に発生する偏肉や前記中空素管の外面疵については全く考慮されておらず、偏肉の解消も十分でないだけでなく前記入側ガイドと被圧延材との干渉によって外面疵が発生するという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、傾斜圧延された中空素管の全長にわたって偏芯性偏肉の発生を抑制すると共に、円筒状ガイドと丸ビレットとの干渉によって生じる外面疵を抑制する傾斜圧延方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために、傾斜圧延機の入側に設置される円筒状ガイドの機能について詳細に検討した結果、中空素管に生じる偏芯性偏肉を全長にわたって抑制でき、かつ、外面疵を発生させない技術を見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の要旨からなる。
[1] 入側に被圧延材を供給する円筒状ガイドを有し、圧延方向に対し一定の角度で傾けて対向配置された1対のロールと該ロール間に位置するようにパスラインに沿って配置されたプラグからなる傾斜圧延機で中実あるいは中空の金属材料を圧延する継目無金属管の傾斜圧延方法であって、前記円筒状ガイドの内径を前記被圧延材とのクリアランスが(前記被圧延材の外径×0.10)以下となるようにすると共に、前記円筒状ガイドの被圧延材出側位置が前記被圧延材と前記ロールとが接触する位置から前記パスラインの上流側200mm以内の位置となるように前記円筒状ガイドを配置し、かつ前記円筒状ガイドを軸回りに回転可能とすることを特徴とする継目無金属管の傾斜圧延方法。
[2] 前記円筒状ガイドに連結された回転駆動装置によって前記被圧延材の回転速度と同期した速度で前記円筒状ガイドを回転させることを特徴とする[1]に記載の継目無金属管の傾斜圧延方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、傾斜圧延時の被圧延材の振れ回りを抑制すると共に、前記被圧延材の中心を穿孔中心と合わせることができ、かつ、被圧延材の回転による被圧延材の外周面と円筒状ガイドの内周面との摺動を防止できるため、偏芯性偏肉と外面疵の発生を抑制した継目無金属管の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態の1例を示す概略図である。
図2】模型穿孔機における偏芯材の長手方向偏肉率分布を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態の1例を示す概略図である。傾斜圧延機は、一対の傾斜ロール3、プラグ4、ガイドシュー(図示なし)、および入側に被圧延材1を供給する円筒状ガイド2を具備する。
【0018】
本発明では、前記円筒状ガイド2の内径dを被圧延材(丸ビレット)1の外径DとのクリアランスΔdがΔd(=d−D)≦D×0.10を満たすように設定する。前記クリアランスΔdがD×0.10超えになると被圧延材1に対する前記円筒状ガイド2による拘束効果が弱く、被圧延材1の振れ回りによる偏芯を十分に抑制することが出来なくなる。また、前記円筒状ガイド2の被圧延材出側位置と前記被圧延材1が前記ロール3と接触する位置との距離LがL≦200mmとなるように、前記円筒状ガイドを配置する。前記距離Lが200mm超えになると、前記被圧延材1が前記円筒状ガイドを通り抜けた後、前記被圧延材1の後端部が前記傾斜ロール3に噛み込まれるまでは位置が拘束されず、大きく振れ回るため、中空素管11の後端部の形状が悪化する。
【0019】
さらに、前記円筒状ガイド2は、軸受5によって保持され、軸回りに回転自在とする。上述のように、本発明では、前記円筒状ガイド2の内径dを被圧延材1とのクリアランスΔdが出来る限り小さくなるようにしているため、前記円筒状ガイド2の内面に被圧延材1の外表面との摺動による焼き付きや疵が発生し、中空素管11の外面疵の原因となる場合がある。この外面疵を抑制するために前記円筒状ガイド2が被圧延材1の回転に同期して自由に回転できるようにする。好ましくは、回転駆動装置を前記円筒状ガイド2に連結して、前記傾斜ロール3の傾斜角などから求められる被圧延材1の回転速度に合わせて回転させる。
【実施例】
【0020】
鋼種規格がSS400とSUS420J2の2種類の丸ビレット(外径:60mm)を素材として、1250℃に加熱し、図1に示した傾斜圧延機により穿孔比(中空素管長さ/丸ビレット長さ):2〜2.2で中空素管を製造した。その際、円筒状ガイドとして本発明に係る円筒状ガイドと従来の円筒状ガイドを表1に示す仕様として別々に利用し、傾斜圧延を行った。なお、円筒状ガイドの素材としてはSCM420規格鋼を使用した。
【0021】
得られた中空素管について、先端近傍での偏肉率を前記(1)式で求めて評価するとともに、外面疵の発生状況を調べた。なお、偏肉の程度は中空素管先端から30mm位置までの範囲における平均偏肉率と定常偏肉率に至るまでの範囲(先端からの軸方向長さX)で評価した。また、外面疵の有無は、円筒状ガイドの内面を目視観察し、そこで明らかに焼付きが確認された場合に、中空素管側の外表面についてスケールを金属ブラシ等で除去し、目視観察を行って判定した。その結果を表1に示す。
【0022】
表1から、本発明例、比較例とも円筒状ガイドと丸ビレットとのクリアランスが小さいほど偏肉の程度は減少するが、比較例では前記クリアランスが小さくなるほど中空素管の外面に発生する疵が顕著となっているのに対し、本発明例では外面疵を発生させることなく、中空素管先端部の偏肉を抑制できていることが分かる。
【0023】
【表1】
【符号の説明】
【0024】
1 被圧延材(丸ビレット)
2 円筒状ガイド
3 傾斜ロール
4 プラグ
5 軸受
11 中空素管
L 円筒状ガイドの被圧延材出側位置と被圧延材がロールと接触する位置との距離
図1
図2