(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転部材としての内輪部材と、当該内輪部材の径方向外側に配置された固定部材としての外輪部材と、前記内輪部材と前記外輪部材との間に転動可能に設けられた転動体と、前記内輪部材の外周部から径方向外方に突出し、かつブレーキディスクを装着するためのハブボルトを固定するボルト固定孔が形成されたフランジ部と、を備えている車両用ハブユニットであって、
前記フランジ部のボルト固定孔の周囲には、当該フランジ部の内側面から車両インナ側へ膨出する厚肉部が形成されており、
前記フランジ部の前記厚肉部より外周側の径方向外端部には、当該フランジ部と前記ブレーキディスクとの当接面に生じる面圧を低減させる面圧低減構造が備わっており、
前記面圧低減構造は、前記フランジ部の径方向外端部において、径方向外方に開放し且つ前記フランジ部の内側面に対し車両アウタ側に凹む形状の凹溝により構成されていることを特徴とする車両用ハブユニット。
【背景技術】
【0002】
従来、回転部材としての内輪部材と、この内輪部材の径方向外側に配置された固定部材としての外輪部材と、内外輪部材間に介装された転動体と、内輪部材から径方向外方に突設され、ブレーキディスクやタイヤホイールが装着されるフランジ部と、を備えた車両用ハブユニットが知られている(下記特許文献1、2参照)。
この車両用ハブユニットのフランジ部には、複数のボルト固定孔が形成され、このボルト固定孔に、ブレーキディスクやタイヤホイールを装着するためのハブボルトが挿通され、固定されている。
【0003】
また、フランジ部は、円盤状(環状)に形成されると共にその外周側に複数のボルト固定孔が周方向に間隔をあけて形成されるタイプ(特許文献1参照)と、周方向に間隔をあけて設けられた複数の部分フランジからなり、各部分フランジにボルト固定孔が形成されるタイプ(特許文献2参照)とがある。そして、いずれのタイプのフランジ部においても、その外側面(車両アウタ側の側面)には、まずブレーキディスクが装着され、さらにその外側からタイヤホイールが装着される。したがって、ブレーキディスクは、フランジ部とタイヤホイールとの間に挟まれた状態になる。
【0004】
また、特許文献1に記載の車両用ハブユニットは、フランジ部の外側面のうち、ボルト固定孔よりも径方向外側の部分(以下、単に「径方向外側部分」という)が、その径方向内側の部分(以下、単に「径方向内側部分」という)よりも車両アウタ側へ僅かに突出するように形成されている。そのため、フランジ部の径方向外側部分はブレーキディスクに対して高い面圧で当接し、フランジ部の径方向内側部分は、ブレーキディスクに対して低い面圧で当接するか、又は非接触となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のようにブレーキディスクは、タイヤホイールとフランジ部との間に挟まれているため、車両の旋回等に伴ってタイヤホイールに付与された外力は、ブレーキディスクを介してフランジ部によって支持される。そのため、ブレーキディスクにはタイヤホイールから荷重が付与され、この荷重によってブレーキディスクとフランジ部との当接面に生じる面圧がより高められる。特に、フランジ部の外周部付近においては当該面圧が極めて高くなり、このフランジ部の外周部近傍においてブレーキディスクが変形し易くなり、耐久性が低下するという問題がある。
また、特許文献1に記載の車両用ハブユニットのように、ボルト固定孔よりも径方向外側におけるフランジ部の外側面が車両アウタ側へ突出している場合には、フランジ部の外周部付近における面圧が一層高くなるため、上記の問題がより深刻となる。また、フランジ部が複数の部分フランジからなる場合には、各フランジ部の径方向外端部において部分的に面圧が集中する。
【0007】
本発明は、以上のような問題に鑑みてなされたものであり、フランジ部の径方向外端部とブレーキディスクとの当接面に生じる面圧を好適に低減し、当該ブレーキディスクの耐久性を高めることができる車両用ハブユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用ハブユニットは、回転部材としての内輪部材と、当該内輪部材の径方向外側に配置された固定部材としての外輪部材と、前記内輪部材と前記外輪部材との間に転動可能に設けられた転動体と、前記内輪部材の外周部から径方向外方に突出し、かつブレーキディスクを装着するためのハブボルトを固定するボルト固定孔が形成されたフランジ部と、を備えている車両用ハブユニットであって、
前記フランジ部のボルト固定孔の周囲には、
当該フランジ部の内側面から車両インナ側へ膨出する厚肉部が形成されており、
前記フランジ部の前記厚肉部より外周側の径方向外端部には、当該フランジ部と前記ブレーキディスクとの当接面に生じる面圧を低減させる面圧低減構造が備わっており、
前記面圧低減構造は、前記フランジ部の
径方向外端部において、径方向外方に
開放し且つ
前記フランジ部の内側面に対し車両
アウタ側に
凹む形状の凹溝により構成されていることを特徴とする。
【0009】
このような構成によって、フランジ部の径方向外端部とブレーキディスクとの当接面に生じる面圧を低減させ、ブレーキディスクの変形等を防止して耐久性を高めることができる。
【0010】
前記面圧低減構造は、少なくとも前記ボルト固定孔の径方向外側領域に設けられていてもよい。
ボルト固定孔の周辺は、ハブボルトによってフランジ部とブレーキディスクとが連結される部分であり、両者の当接面における面圧が高くなる傾向にある。したがって、このボルト固定孔の周辺に面圧低減構造を設けることによって、効果的に面圧を低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フランジ部の径方向外端部とブレーキディスクとの当接面に生じる面圧を好適に低減し、当該ブレーキディスクの耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の
参考例1に係る車両用ハブユニットの側面断面図である。
車両用ハブユニット10は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するものであり、円筒状のハブ軸11を有するハブホイール12と、ハブ軸11の車両インナ側の端部(
図1において右側端部)にかしめ固定された内輪構成部材13と、ハブ軸11の径方向外方に配設された外輪部材14と、この外輪部材14の内周面の外輪軌道16a,16bと、ハブ軸11及び内輪構成部材13の外周面の内輪軌道17a,17bとの間に転動自在に配設された複数の転動体18とを備えている。ハブホイール12と内輪構成部材13とによって内輪部材19が構成されている。複数の転動体18は、保持器20によって周方向に所定の間隔で保持されている。また、外輪部材14とハブ軸11との間に形成される環状空間には、当該環状空間を軸方向両端から封止するシール部材21が設けられている。
【0018】
ハブホイール12の車両アウタ側端部(
図1における左側端部)には径方向外方へ突出するフランジ部23が形成されており、このフランジ部23には、ハブボルト24が嵌合・固定されるボルト固定孔25が形成されている。フランジ部23の車両アウタ側の側面(外側面)23aには、ブレーキディスク26及びタイヤのホイール27が装着されている。具体的には、フランジ部23の外側面23aから突出するハブボルト24をブレーキディスク26に形成されたボルト挿通孔28に挿通しつつ当該ブレーキディスク26をフランジ部23の外側面23aに当接させ、さらにハブボルト24をホイール27に形成されたボルト挿通孔29に挿通したあと、ハブボルト24にホイールナット30を締結する。これにより、ブレーキディスク26は、フランジ部23とホイール27とに挟まれた状態で装着される。また、外輪部材14の外周面には、車両用ハブユニット10を、車両の懸架装置に支持された車体側部材(図示せず)に取り付けるための固定フランジ31が形成されている。
【0019】
ハブ軸11は、フランジ部23側に形成された大径部33と、この大径部33よりも小径であり且つ当該大径部33と段差部34を介して連続して形成された小径部35とを一体的に有している。そして、大径部33の外周面に外輪部材14の外輪軌道16aに対応する内輪軌道17aが形成されている。
内輪構成部材13は、ハブ軸11の小径部35の外周面に嵌め込まれた後、小径部35の端部がかしめられてかしめ部36が形成されることによって、段差部34とかしめ部36との間に固定されている。
【0020】
図2は、
図1に示される車両用ハブユニットのフランジ部を車両インナ側から見た正面図である。
本
参考例1のフランジ部23は円盤状(環状)形成されている。そして、フランジ部23の外周側には、複数個(図示例では4個)のボルト固定孔25が周方向に等間隔をあけて形成されている。このフランジ部23におけるボルト固定孔25の周囲には、車両インナ側にやや膨出することによって厚肉に形成された厚肉部39が形成されている。
【0021】
図3は、車両用ハブユニットのフランジ部の外周部を拡大して示す側面断面図である。
フランジ部23の外側面23aにおけるボルト固定孔25が形成された部分には、当該ボルト固定孔25よりも大径の円形状の溝部41が形成されている。この溝部41は、各ボルト固定孔25の周囲のみに形成されていてもよいし、全てのボルト固定孔25にわたるように円環状に形成されていてもよい。また、溝部41は省略することも可能である。
【0022】
また、本
参考例1においては、ボルト固定孔25よりも径方向外側におけるフランジ部23の外側面23aが、その径方向内側におけるフランジ部23の外側面23aよりも車両アウタ側(
図3における左側)に僅かに突出している。そのため、ボルト固定孔25の径方向外側におけるフランジ部23の外側面23aがブレーキディスク26に対して高い面圧で当接している。
【0023】
図1に示されるように、ブレーキディスク26は、フランジ部23とホイール27とに挟まれているため、車両が旋回等をしている間、タイヤのホイール27に加わる外力はブレーキディスク26を介してフランジ部23によって支持される。そのため、ブレーキディスク26にはホイール27から荷重が付与され、この荷重によってブレーキディスク26とフランジ部23との当接面に生じる面圧が高められる。特に、ボルト固定孔25よりも径方向外側のフランジ部23の外側面は車両アウタ側に僅かに突出しているため、ブレーキディスク26との当接面の面圧がより集中しやすくなる。そして、この面圧が過大になるとブレーキディスク26が変形しやすくなり、ブレーキディスクの耐久性低下の原因となる。
【0024】
このような面圧の問題に対して、本
参考例1では、フランジ部23の外周部(径方向外端部)における剛性を低下させる手段を講じている。すなわち、本
参考例1では、
図3に示されるように、フランジ部23の外周面23bに凹溝42を形成することによって、ブレーキディスク26に対する当接部45の肉厚tを小さくし、当該当接部45を軸方向に撓みやすい構造に形成している。この凹溝42は、径方向外方に開口し、フランジ部23の外周面全周に形成されている(
図2参照)。
【0025】
このような凹溝42をフランジ部23の外周面23bに形成することによって、ブレーキディスク26とフランジ部23との当接面に生じる面圧を下げ、ブレーキディスク26の耐久性を向上させることが可能となる。すなわち、本
参考例1の凹溝42は、フランジ部23とブレーキディスクとの当接面における面圧を低減させる面圧低減構造を構成している。
【0026】
図3には、フランジ部23とブレーキディスク26との当接面に生じる面圧の分布をグラフで併記している。また、
図7には、比較例として、外周面123bに凹溝が形成されていないフランジ部123の拡大側面断面図と、このフランジ部123とブレーキディスク126との当接面に生じる面圧の分布を表すグラフとを示している。
図3及び
図7のグラフを比較すると、フランジ部123に凹溝が形成されていない
図7のグラフにおいては、フランジ部123の外周部における面圧のピークが極めて高くなっており、そのため、その付近においてブレーキディスク126が変形する可能性も高くなっている。これに対して、
図3に示す本
参考例1の場合、凹溝42の存在によって面圧のピークが半分以下に下げられており、これによってブレーキディスク26の変形を抑制し、耐久性を向上させることが可能であることが解る。
【0027】
なお、凹溝42に関する各種寸法の一例を挙げると、当該凹溝42の軸方向の幅wは約1mmとすることができ、凹溝42からフランジ部23の外側面23aまでの当接部45の厚さtは、1mm〜2mmとすることができる。凹溝42の深さfは、3mm〜4mmとすることができる。但し、これらの寸法値はあくまで一例であり、上述の面圧のピークをどの程度下げるかを考慮して適宜設定される。また、これらの寸法値は、ブレーキディスク26にかかる荷重の大きさ、ホイール27の形状や材質(鉄、アルミ等)等も考慮して適宜設定される。
【0028】
図4は、本発明の第
1の実施の形態に係る車両用ハブユニットのフランジ部を車両インナ側から見た正面図である。
本実施の形態の車両用ハブユニット10は、フランジ部23が、周方向に複数(図示例では4個)の部分フランジ48から構成されている点で、上記
参考例1とは異なっている。各部分フランジ48は、ハブホイール12の回転軸心Xを中心として径方向外方へ向けて放射状に突出している。また、各部分フランジ48の径方向外端部には、凹溝42が形成されている。この凹溝42は、ハブホイール12の回転軸心Xを中心とする仮想円αに沿って形成されており、ブレーキディスク26との接触面圧が特に高くなる各部分フランジ48の径方向外端部に対して部分的に形成されている。
その他の構成や作用効果は
参考例1と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0029】
図5は、本発明の第
2の実施の形態に係る車両用ハブユニットのフランジ部の外周部を拡大して示す側面断面図である。本実施の形態の車両用ハブユニット10は、フランジ部23の外周部に形成された凹溝42が、径方向外方だけでなく車両インナ側(
図5における右側)にも開放した略L字形状に形成されている点で、
参考例1とは異なっている。
【0030】
本実施の形態においてもブレーキディスク26に当接するフランジ部23の当接部45の肉厚tが小さくなり、当該当接部45における剛性が低下されている。したがって、
参考例1と同様の作用効果を奏する。
また、本実施の形態においては、凹溝42の軸方向の幅wが大きく、フランジ部23の外周部(当接部45)における肉厚tが小さくなっているため、車両用ハブユニット10の軽量化にも寄与することができる。
【0031】
図6は、本発明の
参考例2に係る車両用ハブユニットのフランジ部の外周部を拡大して示す側面断面図である。
本
参考例2の車両用ハブユニット10は、
参考例1および第1〜第
2の実施の形態のようにフランジ部23の外周面23bには凹溝42が形成されておらず、その代わりに、フランジ部23の外側面23aにクラウニング面50が形成されている。このクラウニング面50は、ボルト固定孔25よりも径方向外側におけるフランジ部23の外側面23aに形成されている。クラウニング面50は、径方向外側ほどブレーキディスク26から離反するように傾斜する傾斜面に形成されている。本
参考例2では、面圧がより高くなるフランジ部23の外周範囲dに対応してクラウニング面50が形成されている。このクラウニング面50は、平坦な面であってもよいし、凸状の曲面であってもよい。また、このクラウニング面50とブレーキディスク26との最大距離は、1mm以下(例えば、数μm〜数十μm)とすることができる。
【0032】
本
参考例2においては、フランジ部23の外側面にクラウニング面50を形成することによって、フランジ部23とブレーキディスク26との当接面における面圧を低下させ、ブレーキディスク26の変形等を防止して、耐久性を向上させることができる。すなわち、クラウニング面50は、フランジ部23とブレーキディスク26との当接面における面圧を低減させる面圧低減構造を構成している。
【0033】
本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更することが可能である。
例えば、
図2示される例では、フランジ部23の外周面23bの全周に凹溝42が形成されているが、例えば、ボルト固定孔25の周辺(ボルト固定孔25の径方向外側領域)のみに凹溝42が形成されていてもよい。ボルト固定孔25の周辺は、厚肉部39の存在によってフランジ部23の剛性が高くなり、ハブボルト24及びホイールナット30の締結部でもあるために、フランジ部23とブレーキディスク26との接触面圧も高くなる傾向にある。そのため、ボルト固定孔25の周辺のみに凹溝42を形成するだけでも、十分に面圧の低減効果を得ることができる。
【0034】
また、
図4に示される例では、フランジ部23の各部分フランジ48における径方向外端部のみに凹溝42が形成されているが、各部分フランジ48の外周面全体に凹溝42が形成されていてもよい。
【0035】
また、
図6に示される例では、フランジ部23は、円盤状に形成されていてもよいし、複数の部分フランジから構成されていてもよい。フランジ部23が円盤状である場合、クラウニング面50は、フランジ部23の全周に形成されていてもよいし、ボルト固定孔25の周辺のみに形成されていてもよい。また、フランジ部23が複数の部分フランジから構成されている場合、クラウニング面50は、各部分フランジの径方向外端部のみに形成されていてもよいし、部分フランジの外周部全体に形成されていてもよい。