(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも一方の主面に溝が設けられたウェハと、多孔質部材とを備え、前記ウェハの一方の主面と前記多孔質部材のいずれかの面とが接着剤により接着された電子部品の製造方法であって、
前記多孔質部材のいずれかの面にコーティング用樹脂を塗布するコーティング工程と、
前記コーティング工程の後に、前記ウェハの一方の主面と前記多孔質部材の前記コーティング用樹脂が塗布された面とを接着する接着工程と、
を備えること、
を特徴とする電子部品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、溝状の加工が施されたウェハ及び多孔質部材が接着剤により接着された電子部品の製造方法において、ウェハに形成された溝内に接着剤を十分に充填することを可能とする電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の形態に係る電子部品の製造方法は、
少なくとも一方の主面に溝が設けられたウェハと、多孔質部材とを備え、前記ウェハの一方の主面と前記多孔質部材のいずれかの面とが接着剤により接着された電子部品の製造方法であって、
前記多孔質部材のいずれかの面にコーティング用樹脂を塗布するコーティング工程と、
前記コーティング工程の後に、前記ウェハの一方の主面と前記多孔質部材の前記コーティング用樹脂が塗布された面とを接着する接着工程と、
を備えること、
を特徴とする。
【0006】
本発明の第1の形態に係る電子部品の製造方法では、ウェハと多孔質部材とを接着する前に、多孔質部材に対してコーティング用樹脂を塗布する。これにより、例えば、フェライトなどの多孔質部材において、該多孔質部材の細孔への接着剤の浸入が抑制される。結果として、接着剤は多孔質部材に吸収されることなく、ウェハの主面に設けた溝内に充填される。
【0007】
本発明の第2の形態に係る電子部品の製造方法は、前記第1の形態に係る電子部品の製造方法において、
前記ウェハの材料は、InSbであること、
を特徴とする。
【0008】
InSbは、劈開面を有するため上述の割れや欠けが発生しやすい。従って、第1の形態に係る電子部品の製造方法を、InSbを材料として用いた電子部品に対して適用することは特に有効である
【0009】
本発明の第3の形態に係る電子部品の製造方法は、前記いずれかの電子部品の製造方法において、
前記コーティング用樹脂の未硬化状態における粘度は、前記接着剤の未硬化状態における粘度よりも高いこと、
を特徴とする。
【0010】
本発明の第3の形態に係る電子部品の製造方法では、コーティング用樹脂の未硬化状態における粘度が、接着剤の未硬化状態における粘度よりも高い。これにより、コーティング用樹脂が未硬化状態であっても、接着剤の多孔質部材の細孔への浸入が抑制される。従って、コーティング用樹脂と接着剤とを同時に熱硬化させることができ、その製造工程をより簡素にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウェハに設けられた溝内に接着剤を十分に充填することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施例である電子部品の製造方法により製造された電子部品の平面図である。
【
図3】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図4】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図5】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図6】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図7】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図8】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図9】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図10】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図11】一実施例である電子部品の製造方法の工程を示す図である。
【
図12】第1のサンプルにおいて、磁気抵抗効果膜間の溝を顕微鏡により観察した写真の複製である。
【
図13】第2のサンプルにおいて、磁気抵抗効果膜間の溝を顕微鏡により観察した写真の複製である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(電子部品の構成、
図1及び
図2参照)
一実施例である電子部品の製造方法により製造される電子部品1について図面を参照しながら説明する。以下で、電子部品1の主面と直交する方向をz軸方向と定義する。また、z軸方向から平面視したとき、電子部品1の長辺に沿った方向をx軸方向と定義し、電子部品1の短辺に沿った方向をy軸方向と定義する。なお、x軸、y軸及びz軸は互いに直交している。また、短絡電極30のxy平面における位置を明確にするために、磁気抵抗厚膜25により覆われてz軸方向の正方向側から実際には見えない短絡電極30を、
図1に表示した。
【0014】
電子部品1は、
図1に示すように、樹脂層35に周囲を覆われるように磁気抵抗効果膜25が設けられた磁電変換素子である。また、電子部品1は、磁気抵抗効果膜25、樹脂層35に加え、基板20、及び複数の短絡電極30を備えている。
【0015】
基板20は、フェライトを材料とする多孔質の部材であり、略直方体状を成している。また、基板20は、
図2に示すように、電子部品1におけるz軸方向の負方向側に設けられ、さらに、基板20の表面は、ポリイミド樹脂からなるコーティング膜20aにより覆われている。
【0016】
磁気抵抗効果膜25は、基板20に対して、z軸方向の正方向側に位置するInSbを材料とする薄膜である。また、磁気抵抗効果膜25は、
図1に示すように、z軸方向から見たとき、x軸方向の負方向側から正方向側に向かってジグザグに進行する、いわゆるミアンダ形状を成している。
【0017】
短絡電極30は、アルミニウムを材料とする電極であり、z軸方向から見たとき、略長方形状を成している。また、短絡電極30は、磁気抵抗効果膜25のz軸方向の負方向側の面(以下で、z軸方向の負方向側の面を下面と称す)に間隔を空けて複数設けられている。
【0018】
樹脂層35は、
図2に示すように、基板20と磁気抵抗効果膜25との間に介在するエポキシ樹脂からなる層である。また、樹脂層35は、後述する製造方法において、基板20と磁気抵抗効果膜25とを接着する役目を担っている。なお、基板20の表面がコーティング膜20aに覆われているため、樹脂層35と基板20との間には、コーティング膜20aが介在する。
【0019】
以上のように構成された電子部品1では、外部から印加される磁界の強さの変化に伴って、磁気抵抗効果膜25の抵抗値が変化する。従って、磁気抵抗効果膜25に電流を流すことで、電子部品1は磁電変換素子として機能する。
【0020】
(製造方法
図3〜
図11参照)
以下で、一実施例である電子部品の製造方法について説明する。
【0021】
まず、InSbの単結晶からなる半導体ウェハ125を準備する。次に、
図3に示すように、半導体ウェハ125の一方の主面に、蒸着によりアルミニウムの薄膜130を成膜する。
【0022】
成膜したアルミニウムの薄膜130上に、フォトリソグラフィにより、レジストパターンRP1を形成する。そして、レジストパターンRP1が形成されたアルミニウム薄膜130に対して、ウェットエッチングによりエッチングを行い、
図4に示すように、アルミニウム薄膜130のレジストパターンRP1に覆われていない部分を除去する。
【0023】
次に、ウェットエッチングに用いた溶液の残渣を除去するために、水洗を行う。さらに、アルミニウム薄膜130上のレジストパターンRP1を剥離液により剥離する。その後、剥離液の残渣を水洗により除去し、乾燥させる。この工程により、
図5に示すように、複数の短絡電極30に対応する導体パターンが半導体ウェハ125の表面に形成される。
【0024】
複数の短絡電極30に対応する導体パターンの形成後に、上述と同じ手順(フォトリソグラフィ及びエッチング)によって、
図6に示すように、半導体ウェハ125の一方の主面に複数の溝150を形成する。これにより、半導体ウェハ125の一方の主面に磁気抵抗効果膜25に対応するミアンダ形状のパターンが形成される。
【0025】
次に、フェライトから成る磁性体基板120(基板20に対応)を準備する。そして、スピンコーターを用いて、
図7に示すように、磁性体基板120の表面にポリイミド系の樹脂からなる液状のコーティング用樹脂120aを塗布する。その後、コーティング用樹脂120aを熱硬化させることにより、磁性体基板120の表面にコーティングを施す。
【0026】
また、
図7に示す作業と並行して、スピンコーターを用いて、
図8に示すように、半導体ウェハ125の表面に液状のエポキシ樹脂を塗布することにより、樹脂層135を設ける。そして、
図9に示すように、磁性体基板120と半導体ウェハ125とによって樹脂層135を挟んだ状態で、0.2Paの圧力でこれらを加圧する。このとき、樹脂層135に気泡が混入することを防ぐために、これらへの加圧は、真空引きしながら行う。同時にこれらを加熱することで、樹脂層135を硬化させる。これにより、樹脂層135が磁性体基板120と半導体ウェハ125とを接着する接着剤として機能する。
【0027】
そして、半導体ウェハ125の他方の主面側から研磨及びエッチングを行い、
図10に示すように、エポキシ樹脂が充填された複数の溝150と磁気抵抗効果膜25とを露出させる。
【0028】
最後に、
図11に示すように、複数の電子部品1を備える母基板をダイシングソーなどでカットすることで、複数の電子部品1に個片化する。
【0029】
(効果)
一実施例である電子部品の製造方法では、半導体ウェハ125を接着する磁性体基板120がフェライトなどの多孔質部材であったとしても、半導体ウェハ125の主面に施された溝150に、接着剤であるエポキシ樹脂を十分に充填することができる。その理由は次の通りである。まず、従来の電子部品の製造方法で溝内に接着剤を十分に充填できない原因は、接着剤である樹脂が多孔質部材からなる磁性体基板の細孔に浸入するためである。特に、真空引きしながら磁性体基板とバルク(ウェハ)とを接着する場合は、磁性体基板の細孔への樹脂の浸入が促進されるため、バルク(ウェハ)と磁性体基板との間に介在する樹脂が不足することになる。その結果、バルクの主面に設けた溝内に、樹脂が十分に充填されない。一方、一実施例である電子部品の製造方法では、半導体ウェハ125と磁性体基板120とを接着する前に、磁性体基板120の表面に対してコーティングを施す。これにより、磁性体基板120の細孔へのエポキシ樹脂の浸入が抑制される。結果として、半導体ウェハ125と磁性体基板120との間に介在するエポキシ樹脂が不足することなく、半導体ウェハ125の主面に設けた溝150内にエポキシ樹脂が十分に充填される。なお、従来の電子部品の製造方法の課題を解決する他の手段として、樹脂の塗布量を増やすことが考えられる。しかし、磁性体基板の表面の状態はバラツキが大きいため、それぞれの状態に合った樹脂の塗布量を工業的に管理することは困難であった。
【0030】
ここで、本願発明者は上述の効果を確認するために実験を行った。実験では、磁性体基板120の表面に対してコーティングを施して作製された電子部品1に相当する第1のサンプルと、磁性体基板120の表面に対してコーティングを施さずに作製された電子部品である第2のサンプルと用いた。そして、顕微鏡により、各サンプルの磁気抵抗効果膜間の溝を観察した。なお、
図12,13における黒色部分は磁気抵抗効果膜であり、灰色部分は接着剤である樹脂であり、白色部分は接着剤が充填されていない部分である。
【0031】
図12に示すように、第1のサンプルでは、樹脂が途切れることなく、溝に十分に充填されていることがわかる。一方、第2のサンプルでは、
図13に示すように、樹脂が複数個所で途切れ、溝に十分に充填されていないことがわかる。つまり、磁性体基板120の表面に対してコーティングを施したことで、半導体ウェハ125の主面に設けられた溝150にエポキシ樹脂が十分に充填されていることがわかる。
【0032】
また、半導体ウェハ125の主面に施された溝150にエポキシ樹脂が十分に行き渡ることによって、その後の半導体ウェハ125を研磨する際の磁気抵抗効果膜25の割れや欠け、磁気抵抗効果膜25間での短絡、エッチング時の磁気抵抗効果膜25の断線等を抑制できる。
【0033】
さらに、電子部品1では、磁気抵抗効果膜25の材料としてInSbを用いている。InSbは、劈開面を有するため上述の割れや欠けが発生しやすい。従って、一実施例である電子部品の製造方法を、InSbを材料として用いた電子部品に対して適用することは特に有効である。
【0034】
(変形例)
変形例である電子部品の製造方法と一実施例である電子部品の製造方法との相違点は、磁性体基板120をコーティングする樹脂の粘性、及び該樹脂の加熱、硬化のタイミングである。具体的に、以下で説明する。
【0035】
変形例である電子部品の製造方法では、コーティング用樹脂120aの未硬化状態の粘性を一実施例である電子部品の製造方法におけるコーティング用樹脂120aの未硬化状態の粘性よりも高くする。そして、コーティング用樹脂120aを加熱硬化させる前に、磁性体基板120と半導体ウェハ125とを接着する。このとき、接着剤であるエポキシ樹脂の粘性は、変形例である電子部品の製造方法と一実施例である電子部品の製造方法とで相違しない。一方、コーティング用樹脂120aの粘度は磁性体基板120の細孔に浸入しない程度に高められている。その後、コーティング用樹脂とエポキシ樹脂とを同時に加熱し、熱硬化させる。
【0036】
以上のように、変形例である電子部品の製造方法では、コーティング用樹脂120aとエポキシ樹脂とを同時に熱硬化させるため、その製造工程を一実施例である電子部品の製造方法よりも簡素にすることができる。なお、接着剤であるエポキシ樹脂の粘性を磁性体基板120の細孔に浸入しない程度に高くすることはできない。これは、接着剤であるエポキシ樹脂の粘性を高くすると、該エポキシ樹脂が溝150に十分に充填されないためである。
【0037】
変形例である電子部品の製造方法において他の構成は前記一実施例である電子部品の製造方法と同様である。従って、その作用効果は前記一実施例である電子部品の製造方法と基本的に同様である。
【0038】
(他の実施例)
本発明に係る電子部品の製造方法は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更することができる。例えば、前記実施例では、コーティング用樹脂にポリイミド系樹脂を用いたが、コーティング用樹脂としてエポキシ系、アクリル系、シリコン系樹脂を用いてもよい。また、接着剤はエポキシ系樹脂に限らず、ポリイミド系、アクリル系及びシリコン系樹脂であってもよい。さらに、前記実施例では、磁電変換素子を作成したが、本発明に係る電子部品の製造方法は磁電変換素子の製造方法に限らない。