特許第6226070号(P6226070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226070
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20171030BHJP
   C09J 123/28 20060101ALI20171030BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20171030BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C09J123/26
   C09J123/28
   C09J11/06
   B32B15/085 Z
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-527781(P2016-527781)
(86)(22)【出願日】2015年6月5日
(86)【国際出願番号】JP2015066334
(87)【国際公開番号】WO2015190411
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2017年5月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-120289(P2014-120289)
(32)【優先日】2014年6月11日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-120290(P2014-120290)
(32)【優先日】2014年6月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂田 秀行
(72)【発明者】
【氏名】柏原 健二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−307104(JP,A)
【文献】 特開平02−067386(JP,A)
【文献】 特開2003−261847(JP,A)
【文献】 特開平10−060401(JP,A)
【文献】 特開平10−046122(JP,A)
【文献】 特開平09−176609(JP,A)
【文献】 特許第5700166(JP,B2)
【文献】 国際公開第2015/033703(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)または(A2)である変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキ
シ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)を含
し、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、有機溶剤(C)を80質量部以上含有する接着剤組成物。
(A1):酸価が5〜50mgKOH/g-resinである結晶性酸変性ポリオレフィン
(A2):酸価が5〜50mgKOH/g-resin、塩素含有率が5〜40質量%である
酸変性塩素化ポリオレフィン
【請求項2】
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)が、1分子中2個以上のグリシジル基を
有するエポキシ樹脂である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)が、一般式(1)で表される化合物であ
る請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【化1】

(一般式(1)中、Rは置換基を有してもよいアリール基であり、X1およびX2はそ
れぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、mは1または
2であり、nは1または2である。)
【請求項4】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)が、1分子中に2個以上のグリシジル
基を有し、かつ窒素原子を含有しないエポキシ樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載
の接着剤組成物。
【請求項5】
変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(
B1)を0.01〜20質量部、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を1〜20
質量部、有機溶剤(C)を80〜1000質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載
の接着剤組成物。
【請求項6】
有機溶剤(C)が、溶剤(C1)と溶剤(C2)の混合液であって、溶剤(C1)が芳
香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素およびハロゲン化炭化水素からなる群よ
り選択された1種以上の溶剤であり、溶剤(C2)がアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、
エステル系溶媒、グリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された1種以上の溶剤で
あり、溶剤(C1)/溶剤(C2)=50〜97/50〜3(質量比)である請求項1〜
5のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着に用いられる請求項1〜6のいずれかに記
載の接着剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の接着剤組成物によって接着されたポリオレフィン樹脂基材と金属基材の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材とを接着するための接着剤組成物に関する。より詳しくは変性ポリオレフィン、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有する接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家電外板、家具用素材、建築内装用部材などの金属基材には、その表面に塩化ビニル樹脂(以下、単に「塩ビ」ともいう。)を塗布後ラミネートしてなる積層体が使用されてきたが、昨今環境問題がクローズアップされ、塩ビの代替としてポリオレフィン樹脂が提案されている。ポリオレフィン樹脂は毒性がなく酸、アルカリ、有機溶剤等に強い耐久性を示し、機械的強度、耐磨耗性にも優れ、安価であることから各種分野に幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィン樹脂は非極性であることから、金属基材との接着が困難であった。従来かかるポリオレフィン樹脂と金属基材との接着のため、種々の接着剤が提案されている。典型的なものとしては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を有機溶剤に溶解したベース接着剤に溶剤分散型変性ポリオレフィン樹脂を混合したものである。しかし、これらの接着剤は十分な接着性を有しているとは言い難かった。また、酸変性ポリオレフィンとエポキシ樹脂にカテコール等を配合する接着剤組成物(特許文献1)やマレイン酸変性塩素化ポリプロピレンとキレートエポキシ樹脂と溶剤とを配合する接着剤組成物(特許文献2)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−261847号公報
【特許文献2】特開2009−292853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では変性ポリオレフィン溶液配合後のポットライフ性が不良となる場合があり、またポットライフ性がさほど問題なくとも肝心の金属基材との接着性および耐薬品性が十分ではなかった。すなわち、ポットライフ性、接着性および耐薬品性を満足させるものはなかった。特にポリプロピレン(以下、PPともいう。)基材を使用する場合でも、熱収縮などの影響の少ない80℃以下のような低温での張り合わせとエージング(養生)が可能な接着剤はなかった。ここで、ポットライフ性とは、変性ポリオレフィンに架橋剤または硬化剤を配合し、その配合直後または一定時間経過後の該溶液の安定性を指す。
【0006】
本発明は、上記の従来の問題に鑑みてなされたものであり、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着剤につき、本発明者らは鋭意検討した結果、変性ポリオレフィン、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有する接着剤組成物が、ポットライフ性と80℃以下での張り合わせ、エージングにおける接着性および耐薬品性を両立させることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は、変性ポリオレフィンと硬化剤とを配合した後のポットライフ性が良好であり、かつ低温での張り合わせ、エージングにおけるポリオレフィン樹脂基材と金属基材双方への良好な接着性および耐薬品性を有する接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明者らは鋭意検討し、以下の発明を提案するに至った。
【0009】
(A1)または(A2)である変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)を含有する接着剤組成物。
(A1):酸価が5〜50mgKOH/g-resinである結晶性酸変性ポリオレフィン
(A2):酸価が5〜50mgKOH/g-resin、塩素含有率が5〜40質量%である酸変性塩素化ポリオレフィン
【0010】
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)が、1分子中2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0011】
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)が、一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
(一般式(1)中、Rは置換基を有してもよいアリール基であり、X1およびX2はそれぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基であり、mは1または2であり、nは1または2である。)
【0012】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)が、1分子中に2個以上のグリシジル基を有し、かつ窒素原子を含有しないエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0013】
変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を0.01〜20質量部、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を1〜20質量部、有機溶剤(C)を80〜1000質量部含有することが好ましい。
【0014】
有機溶剤(C)が、溶剤(C1)と溶剤(C2)の混合液であって、溶剤(C1)が芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素およびハロゲン化炭化水素からなる群より選択された1種以上の溶剤であり、溶剤(C2)がアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、グリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された1種以上の溶剤であり、溶剤(C1)/溶剤(C2)=50〜97/50〜3(質量比)であることが好ましい。
【0015】
ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着に用いられる前記いずれかに記載の接着剤組成物。
【0016】
前記いずれかに記載の接着剤組成物によって接着されたポリオレフィン樹脂基材と金属基材の積層体。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる接着剤組成物は、変性ポリオレフィン、2種類のエポキシ樹脂および有機溶剤を含有し、長期間保存しても増粘やゲル化を生じることなく良好なポットライフ性を維持することができる。さらにポリオレフィン基材の熱収縮影響が小さい80℃以下のような低温で張り合わせ、エージングを行ってもポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性および耐薬品性を両立することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
<変性ポリオレフィン(A)>
本発明で用いる変性ポリオレフィン(A)は、酸価が5〜50mgKOH/g-resinである結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)、または酸価が5〜50mgKOH/g-resin、塩素含有率が5〜40質量%である酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)である。
【0020】
<結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)>
本発明で用いる結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)は限定的ではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン及びプロピレン−α−オレフィン共重合体の少なくとも1種に、α,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものが好ましい。
【0021】
プロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα−オレフィンを共重合したものである。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いるこができる。これらのα−オレフィンの中では、エチレン、1−ブテンが好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン成分とα−オレフィン成分との比率は限定されないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。
【0022】
α,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン−ブテン共重合体等が挙げられ、これら酸変性ポリオレフィンを1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)の酸価は、ポットライフ性およびポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着性の観点から、下限は5mgKOH/g-resin以上である必要があり、好ましくは10mgKOH/g-resin以上であり、より好ましくは14mgKOH/g-resin以上であり、さらに好ましくは16mgKOH/g-resin以上であり、特に好ましくは18mgKOH/g-resin以上であり、最も好ましくは20mgKOH/g-resin以上である。前記の値未満であると、エポキシ樹脂との相溶性が低く、接着強度が発現しないことがあり、また架橋密度が低く、耐薬品性が乏しい場合がある。上限は50mgKOH/g-resin以下である必要があり、好ましくは48mgKOH/g-resin以下であり、より好ましくは46mgKOH/g-resin以下であり、さらに好ましくは44mgKOH/g-resin以下であり、特に好ましくは42mgKOH/g-resin以下であり、最も好ましくは40mgKOH/g-resin以下である。前記の値を超えると、溶液の粘度や安定性が低下し、ポットライフ性が低下することがある。さらに製造効率も低下するため好ましくない。
【0024】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)の重量平均分子量(Mw)は、40,000〜180,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは50,000〜160,000の範囲であり、さらに好ましくは60,000〜150,000の範囲であり、特に好ましくは70,000〜140,000の範囲であり、最も好ましくは、80,000〜130,000の範囲である。前記の値未満であると、凝集力が弱くなり接着性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。前記範囲内であれば、エポキシ樹脂との効果反応が活かされるため好ましい。
【0025】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)における結晶性とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、−100℃〜250℃ まで20℃/分で昇温し、該昇温過程に明確な融解ピークを示すものを指す。
【0026】
酸変性ポリオレフィンを結晶性とすることで、非晶性に比べ、凝集力が強く、接着性や耐薬品性に優れるため有利である。
【0027】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)の融点(Tm)は、50℃〜120℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは60℃〜100℃の範囲であり、最も好ましくは70℃〜90℃の範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0028】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)の融解熱(ΔH)は、5J/g〜60J/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは10J/g〜50J/gの範囲であり、最も好ましくは20J/g〜40J/gの範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0029】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)の製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(すなわち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点として不飽和カルボン酸および酸無水物をグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0030】
ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ−tert−ブチルパーオキシフタレート、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類等が挙げられる。
【0031】
<酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)>
本発明で用いる酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)は限定的ではないが、前記結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)を塩素化することにより得られるものが好ましい。
【0032】
酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)の酸価は、ポットライフ性およびポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着性の観点から、下限は5mgKOH/g-resin以上である必要があり、好ましくは10mgKOH/g-resin以上であり、より好ましくは14mgKOH/g-resin以上であり、さらに好ましくは16mgKOH/g-resin以上であり、特に好ましくは18mgKOH/g-resin以上であり、最も好ましくは20mgKOH/g-resin以上である。前記の値未満であると、エポキシ樹脂との相溶性が低く、接着強度が発現しないことがあり、また架橋密度が低く、耐薬品性が乏しい場合がある。上限は50mgKOH/g-resin以下である必要があり、好ましくは48mgKOH/g-resin以下であり、より好ましくは46mgKOH/g-resin以下であり、さらに好ましくは44mgKOH/g-resin以下であり、特に好ましくは42mgKOH/g-resin以下であり、最も好ましくは40mgKOH/g-resin以下である。前記の値を超えると、溶液の粘度や安定性が低下し、ポットライフ性が低下することがある。さらに製造効率も低下するため好ましくない。
【0033】
酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)の塩素含有率は、溶液安定性およびポリオレフィン系樹脂基材と金属基材との接着性の観点から、下限は5質量%以上である必要があり、好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、特に好ましくは12質量%以上であり、最も好ましくは14質量%以上である。前記の値未満であると、溶液安定性が低下しポットライフ性が悪くなることがある。さらに、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)および/またはグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)との相溶性が低く、接着強度が発現しない場合がある。上限は40質量%以下である必要があり、好ましくは38質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下であり、特に好ましくは32質量%以下であり、最も好ましくは30質量%以下である。前記の値を超えると、酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)の結晶性が低下し、接着強度が低下する場合がある。
【0034】
酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)の重量平均分子量(Mw)は、40,000〜180,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは50,000〜160,000の範囲であり、さらに好ましくは60,000〜150,000の範囲であり、特に好ましくは70,000〜140,000の範囲であり、最も好ましくは、80,000〜130,000の範囲である。前記の値未満であると、凝集力が弱くなり接着性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。前記範囲内であれば、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)および/またはグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)との効果反応が活かされるため好ましい。
【0035】
酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)の製造方法としては、特に限定されず、例えば酸変性ポリオレフィンをクロロホルム等のハロゲン化炭化水素に溶解させ、塩素を導入することにより得ることができる。
【0036】
<グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)>
本発明に用いるグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、1分子中に1個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。エポキシ樹脂1分子中に2個以上のグリシジル基を有することが好ましく、エポキシ樹脂1分子中に3個以上のグリシジル基を有することがより好ましく、エポキシ樹脂1分子中に4個以上のグリシジル基を有することがさらに好ましい。
【0037】
また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、下記一般式(1)で表される化合物を用いることで、さらに耐薬品性が向上し、好ましい。
【化2】
一般式(1)中、Rは置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは置換基を有してもよいフェニル基である。前記アリール基の置換基としては、特に限定されないが、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、水酸基、アミノ基、グリシジル基、グリシジルアミノ基、またはグリシジルエーテル基が挙げられる。X1およびX2はそれぞれ独立して炭素数1以上5以下の置換基を有してもよい直鎖のアルキレン基であり、好ましい炭素数は4以下であり、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下である。前記アルキレン基の置換基としては、特に限定されないが、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、またはアミノ基が挙げられる。mは1または2であり、nは1または2である。好ましくは、mまたはnのいずれかが2であり、より好ましくは、m、nとも2である。
【0038】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)の具体例としては、特に限定されないが、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン等のグリシジルアミン系などが挙げられる。中でもN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミンが好ましい。これらグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0039】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)の配合量は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、1質量部以上であることが特に好ましく、2質量部以上であることが最も好ましい。また、20質量部以下であることが好ましく、18質量部以下であることがより好ましく、16質量部以下であることがさらに好ましく、14質量部以下であることが特に好ましく、12質量部以下であることが最も好ましい。前記範囲未満であると触媒作用が発現せず、80℃以下での張り合わせ、エージングにおける接着性および耐薬品性が低い場合がある。前記範囲超では、過度に架橋反応が進行し剛直性が高くなり、接着性が低下する傾向にある。また、接着剤組成物の溶液保存中に架橋反応が進み易く、ポットライフが低下する傾向にある。
【0040】
<グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)>
本発明に用いるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)は、分子内にグリシジルエーテル基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。好ましくはエポキシ樹脂1分子中に2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であり、さらに好ましくはエポキシ樹脂1分子中に2個以上のグリシジル基を有し、かつ窒素原子を含有しないエポキシ樹脂である。
【0041】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の配合量は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、4質量部以上であることが特に好ましく、5質量部以上であることが最も好ましい。また、20質量部以下であることが好ましく、18質量部以下であることがより好ましく、16質量部以下であることがさらに好ましく、14質量部以下であることが特に好ましく、12質量部以下であることが最も好ましい。前記範囲にすることで、優れた接着性および耐薬品性を発現することができる。
【0042】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の具体例としては、特に限定されないが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられ、これらが金属基材との接着性および耐薬品性という観点から好ましい。これらグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0043】
本発明では、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)と前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の2種類のエポキシ樹脂を必須成分として併用することを特徴とする。グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を併用することによって、優れた接着性、耐薬品性を発現することができる。すなわち、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、変性ポリオレフィン(A)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)との反応、硬化作用を有する。さらにグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、変性ポリオレフィン(A)とグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)同士、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)同士、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の反応、硬化触媒作用を有することから、配合することで、80℃以下での張り合わせ、エージングにおける金属基材との接着性および耐薬品性が向上することができる。
【0044】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の合計の配合量は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、2〜40質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましく、10〜16質量部であることが最も好ましい。前記範囲未満では十分な硬化効果が得られず接着性および耐薬品性が低い場合があり、前期範囲超では、ポットライフ性とオレフィン基材との接着性低下、コスト面の観点から好ましくない。
【0045】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)の配合量はエポキシ樹脂全体の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることが最も好ましい。配合量が前記未満であると触媒作用が発現せず、低温張り合わせ、エージングにおける接着性および耐薬品性が低い場合があり、前記超になると、過度に架橋反応が進行し剛直性が高くなり、接着性が低下する傾向にある。また、接着剤組成物の溶液保存中に架橋反応が進み易く、ポットライフが低下する傾向にある。
【0046】
本発明に用いるエポキシ樹脂として、その他のエポキシ樹脂も併用することが出来る。例えば、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、トリグリシジルイソシアヌレート、あるいは3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイド等が挙げられ、一種単独で用いても二種以上を併用しても構わない。
【0047】
<有機溶剤(C)>
本発明で用いる有機溶剤(C)は、変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)およびグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を溶解させるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素、トリクロルエチレン、ジクロルエチレン、クロルベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のセルソルブ類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤等を使用することができ、これら1種または2種以上を併用することができる。
【0048】
有機溶剤(C)は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることがさらに好ましく、110質量部以上であることが特に好ましい。また、1000質量部以下であることが好ましく、900質量部以下であることがより好ましく、800質量部以下であることがさらに好ましく、700質量部以下であることが特に好ましい。前記範囲未満では、溶液状態およびポットライフ性が低下することがあり、前記範囲を超えると製造コスト、輸送コストの面から不利となる場合がある。
【0049】
有機溶剤(C)は、接着剤組成物の溶液状態およびポットライフ性の観点から、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素およびハロゲン化炭化水素からなる群より選択された1種以上の溶剤(C1)、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤およびグリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された1種以上の溶剤(C2)の混合液が好ましい。混合比としては、溶剤(C1)/溶剤(C2)=50〜97/50〜3(質量比)であることが好ましく、55〜95/45〜5(質量比)であることがより好ましく、60〜90/40〜10(質量比)であることがさらに好ましく、70〜80/30〜20(質量比)であることが特に好ましい。上記範囲を外れると接着剤組成物の溶液状態およびポットライフ性が低下することがある。また、溶剤(C1)が芳香族炭化水素または脂環族炭化水素であり、溶剤(C2)がケトン系溶媒であることが特に好ましい。
【0050】
<接着剤組成物>
本発明にかかる接着剤組成物は、前記変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)の混合物である。変性ポリオレフィン(A)としては、結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)を単独で使用しても良いし、酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)を単独で使用しても良いし、これらを併用しても良い。変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)およびグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)は有機溶剤(C)に溶解しても良いし、分散しても良い。ポットライフ性の観点から溶解していることが好ましい。
【0051】
本発明にかかる接着剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で前記変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)の他に各種の添加剤を配合して使用することができる。添加剤としては、特に限定されないが、難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤等を使用することが好ましい。
【0052】
<積層体>
本発明の積層体は、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材を本発明にかかる接着剤組成物で積層したものである。
【0053】
積層する方法としては、従来公知のラミネート製造技術を利用することができる。例えば、特に限定されないが、金属基材の表面に接着剤組成物をロールコータやバーコータ等の適当な塗布手段を用いて塗布し、乾燥させる。乾燥後、金属基材表面に形成された接着剤層が溶融状態にある間に、その塗布面にポリオレフィン樹脂基材を積層接着してラミネート構造体を得ることができる。
前記接着剤組成物により形成される接着剤層の厚みは、特に限定されないが、0.5〜10μmにすることが好ましく、0.8〜9.5μmにすることがより好ましく、1〜9μmにすることがさらに好ましい。
【0054】
<ポリオレフィン樹脂基材>
ポリオレフィン樹脂基材としては、従来から公知のポリオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などを用いることができる。中でも、ポリプロピレンの無延伸フィルム(以下、CPPともいう。)の使用が好ましい。その厚さは、特に限定されないが、20〜100μmであることが好ましく、25〜95μmであることがより好ましく、30〜90μmであることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよい。
【0055】
<金属基材>
金属基材としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、銅、鉄鋼、亜鉛、ジュラルミン、ダイカストなどの各種金属およびその合金を使用することができる。また、その形状としては、金属箔、圧延鋼板、パネル、パイプ、カン、キャップなど任意の形状を取り得ることができる。一般的には、加工性等の観点からアルミ二ウム箔が好ましい。また、使用目的によっても異なるが、一般的には0.01〜10mm、好ましくは0.02〜5mmの厚みのシートの形で使用される。
また、これら金属基材の表面を予め表面処理を施しておいてもよいし、未処理のままでもよい。いずれも場合であっても同等の効果を発揮することができる。
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。実施例中および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。
【0057】
<結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)の製造例>
製造例1
1Lオートクレーブに、プロピレン−ブテン共重合体(三井化学社製「タフマー(登録商標)XM7080」)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸25質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド6質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン−ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−1、酸価48mgKOH/g-resin、重量平均分子量50,000、Tm75℃、△H25J/g)を得た。
【0058】
製造例2
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−2、酸価25mgKOH/g-resin、重量平均分子量80,000、Tm75℃、△H30J/g)を得た。
【0059】
製造例3
無水マレイン酸の仕込み量を3質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイドを0.5質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−3、酸価5mgKOH/g-resin、重量平均分子量180,000、Tm80℃、△H25J/g)を得た。
【0060】
製造例4
無水マレイン酸の仕込み量を30質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−4、酸価55mgKOH/g-resin、重量平均分子量40,000、Tm70℃、△H25J/g)を得た。
【0061】
製造例5
無水マレイン酸の仕込み量を2質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイドを0.5質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−5、酸価3mgKOH/g-resin、重量平均分子量200,000、Tm80℃、△H25J/g)を得た。
【0062】
<酸変性塩素化ポリオレフィン(A2)の製造例>
製造例6
攪拌機を取り付けた1Lオートクレーブに、通常の方法で合成したプロピレン-エチレン共重合体(230℃雰囲気下のMFR=5g/10分)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸25質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド6質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン−エチレン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体(PO−1)を得た。次いで、2Lのグラスライニング製反応缶にPO−1を100質量部、クロロホルムを1700質量部入れ密閉にした。反応缶中の液を撹拌して分散しながら加温し、缶内温度120℃で1時間溶解した。缶内温度を110℃まで冷却した後に、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサエノエートを0.5g添加し、塩素を70質量部導入した。缶内温度を60℃まで冷却し、クロロホルム1400質量部を留去した後に、安定剤としてp−t−ブチルフェニルグリシジルエーテルを4質量部添加した。その後、乾燥することにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−1、酸価48mgKOH/g-resin、塩素含有率20質量%、重量平均分子量50,000)を得た。
【0063】
製造例7
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−2、酸価25mgKOH/g-resin、塩素含有率20質量%、重量平均分子量80,000)を得た。
【0064】
製造例8
無水マレイン酸の仕込み量を3質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイドを0.5質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−3、酸価5mgKOH/g-resin、塩素含有率20質量%、重量平均分子量180,000)を得た。
【0065】
製造例9
無水マレイン酸の仕込み量を30質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−4、酸価55mgKOH/g-resin、塩素含有率20質量%、重量平均分子量40,000)を得た。
【0066】
製造例10
無水マレイン酸の仕込み量を2質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイドを0.5質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−5、酸価3mgKOH/g-resin、塩素含有率20質量%、重量平均分子量200,000)を得た。
【0067】
製造例11
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部に、塩素導入量を130質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−6、酸価19mgKOH/g-resin、塩素含有率38質量%、重量平均分子量90,000)を得た。
【0068】
製造例12
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部に、塩素導入量を20質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−7、酸価29mgKOH/g-resin、塩素含有率6質量%、重量平均分子量80,000)を得た。
【0069】
製造例13
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部に、塩素導入量を150質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−8、酸価17mgKOH/g-resin、塩素含有率44質量%、重量平均分子量100,000)を得た。
【0070】
製造例14
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部に、塩素導入量を7質量部に変更した以外は製造例6と同様にすることにより、無水マレイン酸変性塩素化プロピレン−エチレン共重合体(CPO−9、酸価30mgKOH/g-resin、塩素含有率2質量%、重量平均分子量80,000)を得た。
【0071】
(主剤1の作製)
水冷還流凝縮器と撹拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−1)を100質量部、メチルシクロヘキサンを280質量部およびメチルエチルケトンを120質量部仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温し、撹拌を1時間続けることで主剤1を得た。溶液状態を表1に示す。
【0072】
(主剤2〜29の作製)
結晶性酸変性ポリオレフィンまたは酸変性塩素化ポリオレフィン、および有機溶剤を表1〜2に示すとおりに変更し、主剤1と同様な方法で主剤2〜29を作製した。配合量、溶液状態を表1〜2に示す。ただし、主剤13、29は溶液状態が悪く、ゲル状になったため接着剤として評価することができなかった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
実施例1
主剤1を500質量部、硬化剤としてグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂を19.8質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)であるTETRAD(登録商標)−Xを0.2質量部配合し、接着剤組成物を得た。ポットライフ性、接着性および耐薬品性の評価結果を表3に示す。
【0076】
実施例2〜32、比較例1〜15
主剤1〜29および各硬化剤を表3〜6に示すとおりに変更し、実施例1と同様な方法で実施例2〜32、比較例1〜15を行った。配合量、ポットライフ性、接着性および耐薬品性を表3〜6に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
表3〜6で用いた硬化剤は以下のものである。
<グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)>
N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン:TETRAD(登録商標)−X(三菱ガス化学社製)
<グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)>
フェノールノボラック型エポキシ樹脂:jER(登録商標)152(三菱化学社製)
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:YDCN−700−3(新日鉄住金化学社製)
<その他の硬化剤>
ポリイソシアネート:デュラネート(登録商標)TPA−100(旭化成社製)
シランカップリング剤:KBM−403(信越シリコーン社製)
【0082】
上記のようにして得られた各変性ポリオレフィン、主剤および接着剤組成物に対して下記方法に基づいて分析測定および評価を行った。
酸価の測定
本発明における酸価(mgKOH/g-resin)は、FT−IR(島津製作所社製、FT−IR8200PC)を使用して、無水マレイン酸(東京化成製)のクロロホルム溶液によって作成した検量線から得られる係数(f)、結晶性無水マレイン酸変性ポリオレフィン溶液における無水マレイン酸のカルボニル(C=O)結合の伸縮ピーク(1780cm−1)の吸光度(I)を用いて下記式により算出した値である。
酸価(mgKOH/g−resin)=
[吸光度(I)×(f)×2×水酸化カリウムの分子量×1000(mg)/無水マレイン酸の分子量]
無水マレイン酸の分子量:98.06 水酸化カリウムの分子量:56.11
【0083】
塩素含有率
本発明における塩素含有率はJIS K−7210に準じて測定によって求められる値である。
【0084】
重量平均分子量(Mw)の測定
本発明における重量平均分子量は日本ウォーターズ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフAlliance e2695(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-806 + KF-803、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長254nm=紫外線))によって測定した値である。
【0085】
融点、融解熱量の測定
本発明における融点、融解熱量は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q−2000)を用いて、20℃/分の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度および面積から測定した値である。
【0086】
主剤溶液状態の評価
主剤1〜29の溶液状態について、東機産業社製のブルックフィールド型粘度計TVB−10M(以下、B型粘度計ともいう)を用いて25℃の溶液粘度を測定することで評価した。
<評価基準>
○(実用上優れる):500mPa・s未満
△(実用可能):500mPa・s以上1000mPa・s未満
×(実用不可能):1000mPa・s以上またはゲル化により粘度測定不可
【0087】
ポットライフ性の評価
ポットライフ性とは、結晶性酸変性ポリオレフィンに架橋剤または硬化剤を配合し、その配合直後または配合後一定時間経過後の該溶液の安定性を指す。ポットライフ性が良好な場合は、溶液の粘度上昇が少なく長期間保存が可能であることを指し、ポットライフ性が不良な場合は、溶液の粘度が上昇(増粘)し、ひどい場合にはゲル化現象を起こし、基材への塗布が困難となり、長期間保存が不可能であることを指す。
実施例1〜32および比較例1〜15で得られた接着剤組成物のポットライフ性を、25℃および40℃雰囲気で24時間貯蔵した後に、B型粘度計を用いて25℃の溶液粘度を測定することで評価した。評価結果を表3〜6に示す。
<評価基準>
○(実用上優れる):500mPa・s未満
△(実用可能):500mPa・s以上1000mPa・s未満
×(実用不可能):1000mPa・s以上またはゲル化により粘度測定不可
【0088】
金属基材とポリオレフィン樹脂基材との積層体の作製
金属基材にはアルミニウム箔(住軽アルミ箔社製、8079−0、厚さ40μm)を使用し、ポリオレフィン樹脂基材には無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製パイレン(登録商標)フィルムCT、厚さ40μm)(以下、CPPともいう。)を使用した。
実施例1〜32および比較例1〜15で得られた接着剤組成物を金属基材にバーコータを用いて乾燥後の接着剤層の膜厚が3μmになるように調整して塗布した。塗布面を温風乾燥機を用いて100℃雰囲気で1分間乾燥させ、膜厚3μmの接着剤層を得た。前記接着剤層表面にポリオレフィン樹脂基材を重ね合わせ、テスター産業社製の小型卓上テストラミネーター(SA−1010−S)を用いて80℃、0.3MPa、1m/分にて貼り合わせ、40℃、50%RHにて120時間養生することで積層体を得た。
【0089】
上記のようにして得られた積層体に対して、下記方法にて評価を行った。
【0090】
接着性の評価
前記積層体を100mm×15mm大きさに切断し、T型剥離試験により接着性の評価を行った。評価結果を表3〜6に示す。
【0091】
<T型剥離試験>
ASTM−D1876−61の試験法に準拠し、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM−100を用いて、25℃環境下で、引張速度50mm/分における剥離強度を測定した。金属基材/ポリオレフィン樹脂基材間の剥離強度(N/cm)は5回の試験値の平均値とした。
【0092】
<評価基準>
☆(実用上特に優れる):8.0N/cm以上またはCPPが材破する(以下、単に「材破」ともいう。)材破とは、金属基材/CPPの界面で剥離が生じず、金属基材またはCPPが破壊されることをいう。
◎(実用上優れる):7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用可能):7.0N/cm以上7.5N/cm未満
×(実用不可能):7.0N/cm未満
【0093】
耐薬品性の評価
アルミ箔とCPPの積層体の使用形態の1つであるリチウムイオン電池の包装材としての利用性を検討するため電解液試験による耐薬品性(以下、耐電解液性ともいう)の評価を行った。前記積層体を、100mm×15mm大きさに切断し、電解液[エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)に6フッ化リン酸リチウムを添加したもの]に85℃で3日間浸漬させた。その後、積層体を取り出しイオン交換水で洗浄、ペーパーワイパーで水を拭き取り、十分に水分を乾燥させ、100mm×15mm大きさに切断し、T型剥離試験により耐薬品性の評価を行った。
【0094】
<評価基準>
☆(実用上特に優れる):8.0N/cm以上または材破
◎(実用上優れる):7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用可能):7.0N/cm以上7.5N/cm未満
×(実用不可能):7.0N/cm未満
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明にかかる接着剤組成物は、変性ポリオレフィン、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有し、長期保存しても増粘やゲル化を生じることなく良好なポットライフ性を維持し、かつ金属基材とポリオレフィン樹脂基材との良好な接着性を両立させることができる。そのため、本発明の接着剤組成物から形成されるポリオレフィン樹脂基材と金属基材との積層構造体は、家電外板、家具用素材、建築内装用部材などの分野のみならず、パソコン、携帯電話、ビデオカメラなどに用いられるリチウム電池の包装材(パウチ形態)としても幅広く利用し得るものである。