特許第6226071号(P6226071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6226071-肌焼鋼 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226071
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】肌焼鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171030BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20171030BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   C22C38/00 301N
   C22C38/60
   !C21D1/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-528912(P2016-528912)
(86)(22)【出願日】2016年1月25日
(86)【国際出願番号】JP2016000359
(87)【国際公開番号】WO2016121371
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2016年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-13686(P2015-13686)
(32)【優先日】2015年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】安藤 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】福岡 和明
(72)【発明者】
【氏名】冨田 邦和
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−140675(JP,A)
【文献】 特開2009−108340(JP,A)
【文献】 特開2011−184768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.10〜0.30%、
Si:0.10〜1.20%、
Mn:0.30〜1.50%、
S:0.010〜0.030%、
Cr:0.10〜1.00%、
B:0.0005〜0.0050%、
Sb:0.005〜0.020%および
N: 0.0150%以下
を、下記式を満足する範囲の下で含み、さらに、
Alを、B−(10.8/14)N≧0.0003%の場合に0.010%≦Al≦0.120%およびB−(10.8/14)N<0.0003%の場合に27/14[N−(14/10.8)B+0.030]≦Al≦0.120%にて含有し、残部は鉄および不可避不純物からなり、
前記不可避不純物中のTiが、
Ti:0.005%以下
であることを特徴とする肌焼鋼。

Sb≧[Si/2+(Mn+Cr)/5]/70
【請求項2】
さらに、質量%で
Nb:0.050%以下および
V:0.200%以下
のいずれか1種または2種を含有する請求項1に記載の肌焼鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸炭焼入れして用いられる肌焼鋼、なかでも自動車等の駆動伝達部品に適用できる、耐疲労性および耐衝撃性に優れたボロン含有の肌焼鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、建設機械、その他各種の産業機械として用いられる機械部品において、高疲労強度や耐摩耗性が要求される部品には、従来、浸炭、窒化および浸炭窒化などの表面硬化熱処理が施される。これらの用途には、通常、JIS規格でSCr、SCM、SNCMなどの肌焼鋼が用いられ、鍛造や切削等の機械加工により所望の部品形状に成形したのち、上記した表面硬化熱処理を施され、その後、研磨などの仕上げ工程を経て部品へと製造される。近年、自動車、建設機械、その他の産業機械等に使用される部品の製造コストの低減が強く望まれており、鋼材コストの低減、加工工程の合理化および簡略化が進められている。このうち、鋼材コストの低減に関しては、肌焼鋼中のCrやMoの含有量を削減したボロン鋼が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Tiを添加してNをTiNの形態で固定し、固溶Bを確保しつつ、TiNにより結晶粒の粗大化を抑制可能な肌焼ボロン鋼が開示されている。
【0004】
特許文献2には、同じくTi添加型のボロン鋼において、Si、Mn、Crの添加量を調整し、浸炭異常層深さを低減することで、靭性を向上させることが提案されている。
【0005】
特許文献3には、Alの多量添加によりBNの生成を抑制し、かつ浸炭前の熱処理により得られる微細な炭窒化物により、結晶粒の異常粒成長を防止する肌焼ボロン鋼の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、Sbの添加により浸炭異常層の発生を抑制し、かつTi-Mo系の炭化物により、結晶粒の粗大化を効果的に抑制する、冷間鍛造性に優れた肌焼鋼が開示されている。
また、特許文献5には、Sbの添加により脱炭層厚みを抑制し、かつ従来の軟化焼鈍を施した鋼材と同等の冷間加工性を有する機械構造用鋼及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−070261号公報
【特許文献2】特開昭58−120719号公報
【特許文献3】特開2003−342635号公報
【特許文献4】特開2012−62536号公報
【特許文献5】特開2004−250767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献1〜4に記載の発明はいずれも、以下に述べる問題があった。
まず、特許文献1および2に記載の技術では、いずれもNをTiNの形態で固定し、BがNと結合しないように考慮されている。しかしながら、TiNは比較的大きい角型の介在物として鋼中に存在するため、これが疲労の起点となり、歯車においてはピッチング等の面疲労や歯元の曲げ疲労強度を低下させる。また、角型のTiNは歯車の耐衝撃性を低下させ、歯車に衝撃的な荷重がかかった場合に歯車の折損につながる虞れがある。
【0009】
特許文献3に記載の技術では、微細なAlNやNb(C,N)により、結晶粒の異常成長が抑制されるため、耐衝撃特性を向上することが出来る。しかしながら、浸炭条件によっては、脱ボロンが発生してしまい、表層部が軟化するため、歯面でのピッチングが発生し易くなることが問題になる。
【0010】
特許文献4に記載の技術では、Sbの添加により、浸炭異常層深さが低減するため、回転曲げ疲労特性を向上することが出来る。しかしながら、浸炭異常層を形成し易いSi、MnおよびCrの含有量が多い場合、上記Sbの効果が得られないことが有り、結果的に疲労強度が低下してしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献5に記載の技術では、脱炭抑制効果を有するSbと脱炭を促進するSiとのバランスによっては、表層の炭素の低減を確実に回避することが難しく、所望の特性が得られないという問題がある。
【0012】
そこで、本発明では、上述した問題を解決し、比較的安価な生産コストで疲労特性に優れた肌焼鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上述した観点から耐疲労性に優れた肌焼鋼およびその製造方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。その結果、以下のことを見出した。
(a)AlがNを固定したときに生成するAlNは、TiがNを固定して生成する比較的大型なTiN介在物とは異なり、微細な析出物となる。そのために、疲労強度や靱性を低下させる原因とならないばかりか、逆に結晶粒を微細化することによって疲労強度や靱性を向上させる効果を有する。
(b)Tiを添加せず、固溶Bの含有量を焼入れ性に効果のある3ppm以上確保するため、鋼中におけるAl−B−Nの化学平衡に基づき、Al含有量を厳密に制御する必要がある。
(c)Bはその反応性のゆえ、浸炭時に鋼材表面にて酸化や脱ボロン、窒化等の変化が生じ、表層部の焼入れ性を確保することが難しい。これに対し、Sbを添加することで上記反応を抑制することができる。
(d)Si、MnおよびCrは、焼戻し軟化抵抗の向上に有効であるが、過剰に添加すると、曲げ疲労および疲労亀裂の起点となる粒界酸化を助長する。これに対し、Si、MnおよびCrの含有量に応じてSbを添加することで上記反応を抑制することができる。
【0014】
本発明は上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.10〜0.30%、
Si:0.10〜1.20%、
Mn:0.30〜1.50%、
S:0.010〜0.030%、
Cr:0.10〜1.00%、
B:0.0005〜0.0050%、
Sb:0.005〜0.020%および
N: 0.0150%以下
を、下記式を満足する範囲の下で含み、さらに、
Alを、B−(10.8/14)N≧0.0003%の場合に0.010%≦Al≦0.120%およびB−(10.8/14)N<0.0003%の場合に27/14[N−(14/10.8)B+0.030]≦Al≦0.120%にて含有し、残部は鉄および不可避不純物からなり、
前記不可避不純物中のTiが、
Ti:0.005%以下
であることを特徴とする肌焼鋼。

Sb≧[Si/2+(Mn+Cr)/5]/70
【0015】
2.さらに、質量%で
Nb:0.050%以下および
V:0.200%以下
のいずれか1種または2種を含有する前記1に記載の肌焼鋼。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自動車や産業機械等に使用して好適な疲労強度に優れた肌焼鋼の提供を、量産化の下で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】浸炭焼入れ・焼戻し処理条件を示す図である。
図2】小野式回転曲げ疲労試験片の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C: 0.10〜0.30%
浸炭処理後の焼入れにより該焼入れ材の中心部(以下、単に芯部と示す)の硬度を高めるためには0.10%以上のCを必要とする。一方、含有量が0.30%を超えると芯部の靭性が低下する。従って、C量は0.10〜0.30%の範囲に限定した。好ましくは0.15〜0.25%の範囲である。
【0019】
Si:0.10〜1.20%
Siは、歯車等が転動中に到達すると推定される、200〜300℃の温度域における軟化抵抗を高めるのに有効な元素である。また、浸炭時に粗大な炭化物の生成を抑制する効果も有しており、少なくとも0.10%の添加が不可欠である。一方で、Siはフェライト安定化元素であり、過剰な添加はAc変態点を上昇させ、通常の焼入れ温度範囲において、炭素含有量の低い芯部でフェライトが出現し易くなり、歯元での曲げ疲労強度が低下するため、上限を1.20%とした。好ましくは0.20〜0.60%の範囲である。
【0020】
Mn:0.30〜1.50%
Mnは、焼入性の向上に有効な元素であり、少なくとも0.30%の添加を必要とする。しかしながら、Mnは、浸炭異常層を形成し易く、また過剰な添加は残留オーステナイト量が過多となって硬さの低下を招くことから、上限を1.50%とした。好ましくは0.50〜1.20%の範囲である。
【0021】
S:0.010〜0.030%
Sは、Mnと硫化物を形成し、被削性を向上させる作用を有するため、少なくとも0.010%以上含有させる。一方、過剰な添加は、部品の疲労強度および靭性を低下させるため、上限を0.030%とした。
【0022】
Cr:0.10〜1.00%
Crは、焼入性のみならず焼戻し軟化抵抗の向上にも有効な元素であり、含有量が0.10%に満たないとその添加効果に乏しい。一方、1.00%を超えると、浸炭異常層を形成し易くなる。さらに、焼入れ性が高くなりすぎて、歯車内部の靭性が劣化し、曲げ疲労強度が低下することになる。従って、Cr量は0.10〜1.00%の範囲に限定した。好ましくは0.10〜0.60%の範囲である。
【0023】
B: 0.0005〜0.0050%
Bは、微量の添加により焼入れ性を確保するのに有効な元素であり、少なくとも0.0005%の添加を必要とする。一方、0.0050%を超えると、BNの量が増えてしまい、部品の疲労強度および靭性を低下させるため、B量は0.0005〜0.0050%の範囲に限定した。好ましくは0.0010〜0.0040%の範囲である。
【0024】
Sb:0.005〜0.020%
Sbは、粒界への偏析傾向が強いため、浸炭処理中の脱ボロン、窒化(BN形成)等の表層反応を抑制し、焼入れ性を確保するために重要な元素である。その効果を得るには、少なくとも0.005%の添加が不可欠である。しかしながら、過剰な添加はコスト増につながるだけでなく、靭性を低下させるため、上限を0.020%とした。好ましくは0.005〜0.015%の範囲である。
【0025】
さらに、Sbについては、上記したSi、MnおよびCrの含有量に関する、次式
Sb≧{Si/2+(Mn+Cr)/5}/70
の関係を満足させることが重要である。すなわち、上式は、粒界酸化層深さに影響を与える因子を示していて、SbがSi、MnおよびCr含有量に関する規定値を満たさない場合、粒界酸化の抑制効果に乏しく、疲労特性の低下を招くことになる。
ここで、粒界酸化とは、浸炭処理等の熱処理において鋼材の表層部の結晶粒界が内部酸化する現象であり、鋼中に選択酸化され易いSiやCr等が存在していると、その生成を助長する。粒界酸化部では上記の元素が酸化により消費されてしまうため、周辺部での焼入れ性低下に伴い硬度が低下し、そこを起点とした疲労破壊が起こりやすくなる。本発明では、粒界酸化の抑制作用を有するSbの添加量の下限をSi、Mn、Crの含有量に応じて上記式の右辺で示すように特定することによって、表層での焼入れ性を確保でき、疲労強度の低下を抑制できる。
【0026】
N: 0.0150%以下
Nは、Alと結合してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒の微細化に寄与する元素である。そのためには、0.0030%以上で添加することが好ましい。しかし、過剰に添加すると固溶Bの確保が困難になるだけでなく、凝固時の鋼塊に気泡が発生したり、鍛造性の劣化を招くため、上限を0.0150%とする。
【0027】
Alの含有量は、B量に応じて、次のとおりに規定する。
B−(10.8/14)N≧0.0003%の場合:0.010%≦Al≦0.120% Alは、脱酸剤として必要な元素であると同時に、本発明においては固溶Bを確保するためにも必要な元素である。ここで、「B−(10.8/14)N」は、含有Bのうち化学量論的にNと結合するB量を差し引いた残部のB量(以下、固溶B量ともいう)を表している。
この固溶B量が0.0003%以上であれば、焼入れ性向上に必要な固溶Bの確保が可能となる。この場合において、Al含有量が0.010%未満であると、脱酸が不十分になり、酸化物系介在物による疲労強度の低下をまねくことになる。一方、0.120%を超えてAlを添加すると、連続鋳造時のノズル詰まりの発生やアルミナクラスター介在物の発現により、靱性の低下を招く。よって、固溶B量が0.0003%以上のとき、Al含有量は0.010%以上0.120%以下の範囲とする。
【0028】
B−(10.8/14)N<0.0003%の場合:27/14[(N−(14/10.8)B+0.030]≦Al≦0.120% 上記に対し、固溶B量が0.0003%未満の場合は、他にNと結合し易い合金元素がない限り、Nは全量がBと結合するため、固溶Bを確保することが難しくなる。
この場合は、Nと比較的結合し易いAlの量を増やし、焼入れ性向上に寄与する固溶B量を確保する必要がある。そのために、Al含有量を27/14[(N−(14/10.8)B+0.030]%以上として0.0003%以上の固溶B量を確保する。なお、Alの上限は、上記と同様に0.120%とする。
【0029】
上記した成分の残部は、鉄および不可避不純物であるが、この不純物のうちTiは、以下に示す上限に従って抑制する必要がある。
【0030】
Ti:0.005%以下
TiはNとの結合力が強く、TiNを形成する。しかし、TiNは比較的大きい角型の介在物として鋼中に存在するため、これが疲労の起点となり、歯車においてはピッチング等の面疲労や歯元の曲げ疲労強度を低下させる。従って、本発明においてTiは不純物であり、できるだけ少ない方がよい。具体的には、0.005%を超えると、上記弊害が現れるため、Ti量は0.005%以下に限定する。
【0031】
この他、不可避不純物としては、PおよびOが挙げられる。
すなわち、Pは、粒界に偏析し、浸炭層及び内部の靭性を低下させる原因となるため、低いほど望ましい。具体的には、0.020%を超えると、上記弊害が現れるため、P量は0.020%以下とすることが好ましい。
【0032】
また、Oは、鋼中において酸化物系介在物として存在し、疲労強度を損なう元素である。TiN介在物と同様に、疲労強度及び靭性を低下させる原因となるため、低いほど望ましい。具体的には0.0020%を超えると、上記弊害が現れるため、O量は0.0020%以下とすることが好ましい。
【0033】
以上が本発明の基本成分組成であるが、さらに特性を向上させる場合に、NbおよびVのいずれか1種または2種を含有してもよい。
Nb:0.050%以下
Nbは、結晶粒を微細化し、粒界を強化して疲労強度向上に寄与するため添加してもよく、添加する場合は、少なくとも0.010%以上で含有させることが好ましい。一方、その効果は0.050%で飽和し、かつ多量の添加はコスト増になるため、上限を0.050%とすることが好ましい。
【0034】
V:0.200%以下
Vは、焼入れ性を向上させると共にSiやCrと同じく焼戻し軟化抵抗を高める元素であり、炭窒化物を形成して結晶粒の粗大化を抑制する効果も有する。このような効果を発揮させるためには、0.030%以上で添加することが好ましい。また、その効果は0.200%で飽和し、かつ多量の添加はコスト増になるため、添加する場合は、0.200%以下とすることが好ましい。
なお、被削性を向上させるためには、必要に応じて、Pb、Se、Ca等の快削元素を含有させてもよい。
【0035】
本発明に係る肌焼鋼から機械構造用部品を作製する際の製造条件については、特に制限は無いが、好適な製造条件は次の通りである。
前記した成分組成からなる鋼素材を溶解鋳造してビレットとし、このビレットを熱間圧延後、歯車とするための予備成形を行う。次に、機械加工、あるいは鍛造後に機械加工を行い歯車形状とした後、浸炭焼入れ処理を施し、必要に応じて更に歯面に研磨加工を施して最終製品とする。更には、ショットピーニング等を付加しても良い。浸炭焼入れ処理は、浸炭温度900〜1050℃、焼入れ温度800〜900℃とし、焼戻しは120〜250℃の範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0036】
表1に示す化学組成の鋼を溶製し鋳造によってビレットとし、このビレットを熱間圧延により20mmφ、32mmφおよび70mmφの棒鋼に加工し、得られた丸棒鋼に対し、925℃で焼準処理を実施した。表1中に示すNo.1〜15は本発明の成分組成に従う発明鋼であり、No.16〜33は本発明の規制値から外れた含有量の成分を含む比較鋼であり、No.34はJIS SCr420規格材である。 焼準処理後の丸棒より、小野式回転曲げ疲労試験片および歯車疲労試験片を採取した。表1の成分組成を有する各試験片に対して、図1に示す条件に従って、浸炭焼入れ・焼戻しを施した後、粒界酸化層深さ、有効硬化層深さ、表面硬度、内部硬度の各調査及び回転曲げ疲労試験、歯車疲労試験を実施した。以下に、それぞれの調査内容について詳細に説明する。
【0037】
[粒界酸化層深さ、有効硬化層深さ、表面硬度、内部硬度]
発明鋼、比較鋼及びSCr420の20mmφ丸棒に、浸炭焼入れ・焼戻し処理を施した後に切断し、この切断面において最大となる粒界酸化層深さを、エッチングすることなく光学顕微鏡で400倍の倍率にて測定した。
また、同じ断面の硬度分布を測定し、ビッカース硬さで550HVとなる表面からの深さを有効硬化層深さとした。表面硬度は、丸棒表面のビッカース硬さ(HV10kgf)10点の平均値とした。さらに、表層より5mm深さ位置のビッカース硬さ(HV10kgf)5点の平均値を内部硬度と規定した。
【0038】
[回転曲げ疲労特性]
直径32mmの丸棒鋼から、平行部が圧延方向と一致するように、図2に示す寸法および形状の平行部直径8mmの試験片を採取し、平行部にこれと直角方向の深さ2mmの切欠き(切欠き係数:1.56)を全周に付与した回転曲げ疲労試験片を作製した。得られた試験片に対して、浸炭焼入れ・焼戻し処理を行った後、小野式回転曲げ疲労試験機を用い、回転数:3000rpmで回転曲げ疲労試験を実施し、10回を疲労限度として、回転曲げ疲労強度を測定した。
【0039】
[歯車疲労特性]
直径70mmの丸棒を熱間鍛造後に機械加工して、モジュール2.5、ピッチ直径80mmのハスバ歯車を作製した。得られた試験片に対して、動力循環式歯車疲労試験機を使用して、80℃のトランスアクスルオイルを潤滑に用い、所定のトルクをかけて回転数:3000rpmにて試験を実施し、10回を疲労限度として、歯車疲労強度を測定した。
【0040】
[調査結果]
上記した調査項目毎の調査結果を、表2に示す。本発明鋼(No.1〜15)は、回転曲げ/歯車疲労特性共にSCr420(No.34)と同等以上の特性が得られており、比較鋼(No.16〜33)より優れていることがわかる。
【0041】
すなわち、比較鋼No.16はC含有量が本発明範囲より低いために、内部硬度が低くなりすぎ、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.17は、C含有量が本発明範囲より高いために、芯部の靭性が低下し、回転曲げ疲労強度および歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.18は、Si含有量が本発明の範囲よりも低いために、耐焼戻し軟化抵抗が低下し、歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.19は、Si含有量が本発明の範囲よりも低くかつCr含有量が本発明の範囲より高い。そのため、浸炭表層部のMs点が低下し、残留オーステナイト量が増加する。よって、表層硬度が低くなり、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.20は、Si含有量が本発明の範囲よりも高い。そのため、内部にフェライトが発生し、歯元での曲げ疲労破壊が起こりやすくなり、歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.21は、Mn含有量が本発明範囲より低い。そのため、焼入れ性が低下し、有効効果層深さが浅くなったため、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.22は、Mn含有量が本発明の範囲より高いために、浸炭表層部のMs点が低下し、残留オーステナイト量が増加する。よって、表面硬度が低くなり、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.23は、S含有量が本発明範囲より高い。そのため、疲労破壊の起点となるMnSの生成量が多くなり、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.24は、Cr含有量が本発明の範囲より低い。そのため、芯部硬度及び耐焼戻し軟化抵抗が低下し、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.25および26は、Cr含有量が本発明の範囲より高いために、浸炭表層部のMs点が低下し、残留オーステナイト量が増加する。よって、表層硬度が低くなり、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.27は、B含有量が本発明の範囲より低い。そのため、焼入れ性が低下し、有効効果層深さが浅くなったため、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.28は、B含有量が本発明の範囲より高い。そのため、靭性の低下を招くBNの生成量が多くなり、回転曲げ疲労強度および歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.29は、Al含有量が本発明で規定した式(27/14[(N-(14 /10.8)B+0.030]≦Al≦0.120%)から算出される下限値より低い。そのため、焼入れ性向上に寄与する固溶B量が確保できず、有効効果層深さが浅く、内部硬度も低くなったため、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.30は、Sb含有量が本発明範囲より低い。そのため、浸炭時に脱ボロンが生じてしまい、表層硬度が低くなったため、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.31は、N含有量が本発明の範囲より高い。その結果、焼入れ性向上に寄与する固溶B量が確保できず、有効効果層深さが浅く、内部硬度も低くなったため、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.32は、Ti含有量が本発明の範囲より高い。そのため、TiN起点による疲労破壊が起こりやすくなり、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
比較鋼No.33は、本発明成分範囲内であるが、Sb量が規定式(Sb≧{Si/2+(Mn+Cr)/5}/70)を満たしていないため、粒界酸化層が深い。よって、表層硬度が低くなり、回転曲げ疲労強度と歯車疲労強度が低下した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
図1
図2