特許第6226072号(P6226072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226072
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171030BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20171030BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20171030BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20171030BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20171030BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C22C38/60
   H01F1/147 183
   !C21D9/46 501B
   !C21D8/12 B
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-529674(P2016-529674)
(86)(22)【出願日】2015年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2015068497
(87)【国際公開番号】WO2015199211
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2016年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-131043(P2014-131043)
(32)【優先日】2014年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 智
(72)【発明者】
【氏名】田中 一郎
(72)【発明者】
【氏名】屋鋪 裕義
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−104144(JP,A)
【文献】 特開2012−036454(JP,A)
【文献】 特開平11−236618(JP,A)
【文献】 特開2012−036457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12, 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.010%以下、
Si:1.30%〜3.50%、
Al:0.0000%〜1.6000%、
Mn:0.01%〜3.00%、
S :0.0100%以下、
N :0.010%以下、
P :0.000%〜0.150%、
Sn:0.000%〜0.150%、
Sb:0.000%〜0.150%、
Cr:0.000%〜1.000%、
Cu:0.000%〜1.000%、
Ni:0.000%〜1.000%、
Ti:0.010%以下、
V :0.010%以下、
Nb:0.010%以下、かつ
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
結晶粒径が20μm〜300μmであり、
(001)[100]方位の集積度をICube、(011)[100]方位の集積度をIGossとあらわしたとき、式1、式2及び式3の関係を満たす集合組織を有することを特徴とする電磁鋼板。
Goss+ICube≧10.5 ・・・式1
Goss/ICube≧0.50 ・・・式2
Cube≧2.5 ・・・式3
【請求項2】
前記集合組織は、式4、式5及び式6を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板。
Goss+ICube≧10.7 ・・・式4
Goss/ICube≧0.52 ・・・式5
Cube≧2.7 ・・・式6
【請求項3】
飽和磁束密度をBs、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向の磁束密度をB50L、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向及び板厚方向に直交する方向(板幅方向)の磁束密度をB50Cとあらわしたとき、式7及び式8の関係を満たす磁気特性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁鋼板。
B50C/Bs≧0.790 ・・・式7
(B50L−B50C)/Bs≧0.070 ・・・式8
【請求項4】
前記磁気特性は、式9の関係を満たす磁気特性を有することを特徴とする請求項3に記載の電磁鋼板。
(B50L−B50C)/Bs≧0.075 ・・・式9
【請求項5】
前記磁気特性は、式10の関係を満たすことを特徴とする請求項3又は4に記載の電磁鋼板。
B50C/Bs≦0.825 ・・・式10
【請求項6】
前記化学組成において、
P :0.001%〜0.150%、
Sn:0.001%〜0.150%、若しくは
Sb:0.001%〜0.150%、
又はこれらの任意の組み合わせが満たされることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電磁鋼板。
【請求項7】
前記化学組成において、
Cr:0.005%〜1.000%、
Cu:0.005%〜1.000%、若しくは
Ni:0.005%〜1.000%、
又はこれらの任意の組み合わせが満たされることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電磁鋼板。
【請求項8】
厚さが0.10mm以上0.50mm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化ガスを削減する必要性から、自動車、家電製品等の分野では、消費エネルギーの少ない製品が開発されている。例えば自動車分野においては、ガソリンエンジンとモータとを組み合わせたハイブリッド駆動自動車や、モータ駆動の電気自動車等の低燃費自動車がある。また、家電製品分野においては、年間電気消費量の少ない高効率エアコン、冷蔵庫等がある。これらに共通する技術はモータであり、モータの高効率化が重要な技術となっている。
【0003】
そして、近年では、モータの固定子に、巻き線設計や歩留りの面で有利な分割鉄心が採用されることが多くなっている。通常、分割鉄心は焼き嵌めによってケースに固定されることが多く、焼き嵌めによって電磁鋼板に圧縮応力が作用すると、電磁鋼板の磁気特性が低下してしまう。従来、このような磁気特性の低下を抑制するための研究が行われている。
【0004】
しかしながら、従来の電磁鋼板は圧縮応力の影響を受けやすく、例えば分割鉄心に用いられて優れた磁気特性を発揮することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−189976号公報
【特許文献2】特開2000−104144号公報
【特許文献3】特開2000−160256号公報
【特許文献4】特開2000−160250号公報
【特許文献5】特開平11−236618号公報
【特許文献6】特開2014−77199号公報
【特許文献7】特開2012−36457号公報
【特許文献8】特開2012−36454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、圧縮応力が作用した場合でも優れた磁気特性を発揮することができる電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来の電磁鋼板を分割鉄心に用いた場合に優れた磁気特性が得られない原因を明らかにすべく鋭意検討を行った。この結果、圧縮応力が作用する方向と電磁鋼板の結晶方位との関係が重要であることが明らかになった。
【0008】
ここで、電磁鋼板に作用する圧縮応力について説明する。ハイブリッド自動車の駆動モータやエアコンのコンプレッサモータは多極であるため、通常、固定子のティース部を流れる磁束の方向を電磁鋼板の圧延方向(以下、「L方向」ということがある)に一致させて、ヨーク部を流れる磁束の方向を圧延方向及び板厚方向に直交する方向(以下、「C方向」ということがある)に一致させている。そして、分割鉄心が焼き嵌めによりケース等に固定される場合、ヨーク部の電磁鋼板にC方向の圧縮応力が作用する一方で、ティース部の電磁鋼板には応力が作用しない。従って、分割鉄心に用いられる電磁鋼板には、無応力下で優れたL方向の磁気特性を発揮しつつ、C方向に作用する圧縮応力下で優れたC方向の磁気特性を発揮できることが望まれる。
【0009】
本発明者らは、このような磁気特性を発揮できる構成を明らかにすべく更に鋭意検討を行った。この結果、Goss方位の結晶粒はC方向の圧縮応力の影響を受けにくく、C方向の圧縮応力が印加されてもC方向の磁気特性の低下を引き起こしにくいこと、及びCube方位の結晶粒はC方向の圧縮応力の影響を受けやすく、C方向の圧縮応力が印加されるとC方向の磁気特性の低下を引き起こしやすいことが明らかになった。そして、(001)[100]方位の集積度、及び(011)[100]方位の集積度を適切に制御することにより、優れた磁気特性が得られることが明らかになった。
【0010】
本発明者らは、このような知見に基づいて更に鋭意検討を重ねた結果、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0011】
(1)
質量%で、
C :0.010%以下、
Si:1.30%〜3.50%、
Al:0.0000%〜1.6000%、
Mn:0.01%〜3.00%、
S :0.0100%以下、
N :0.010%以下、
P :0.000%〜0.150%、
Sn:0.000%〜0.150%、
Sb:0.000%〜0.150%、
Cr:0.000%〜1.000%、
Cu:0.000%〜1.000%、
Ni:0.000%〜1.000%、
Ti:0.010%以下、
V :0.010%以下、
Nb:0.010%以下、かつ
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
結晶粒径が20μm〜300μmであり、
(001)[100]方位の集積度をICube、(011)[100]方位の集積度をIGossとあらわしたとき、式1、式2及び式3の関係を満たす集合組織を有することを特徴とする電磁鋼板。
Goss+ICube≧10.5 ・・・式1
Goss/ICube≧0.50 ・・・式2
Cube≧2.5 ・・・式3
【0012】
(2)
前記集合組織は、式4、式5及び式6を満たすことを特徴とする(1)に記載の電磁鋼板。
Goss+ICube≧10.7 ・・・式4
Goss/ICube≧0.52 ・・・式5
Cube≧2.7 ・・・式6
【0013】
(3)
飽和磁束密度をBs、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向の磁束密度をB50L、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向及び板厚方向に直交する方向(板幅方向)の磁束密度をB50Cとあらわしたとき、式7及び式8の関係を満たす磁気特性を有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の電磁鋼板。
B50C/Bs≧0.790 ・・・式7
(B50L−B50C)/Bs≧0.070 ・・・式8
【0014】
(4)
前記磁気特性は、式9の関係を満たす磁気特性を有することを特徴とする(3)に記載の電磁鋼板。
(B50L−B50C)/Bs≧0.075 ・・・式9
【0015】
(5)
前記磁気特性は、式10の関係を満たすことを特徴とする(3)又は(4)に記載の電磁鋼板。
B50C/Bs≦0.825 ・・・式10
【0016】
(6)
前記化学組成において、
P :0.001%〜0.150%、
Sn:0.001%〜0.150%、若しくは
Sb:0.001%〜0.150%、
又はこれらの任意の組み合わせが満たされることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0017】
(7)
前記化学組成において、
Cr:0.005%〜1.000%、
Cu:0.005%〜1.000%、若しくは
Ni:0.005%〜1.000%、
又はこれらの任意の組み合わせが満たされることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の電磁鋼板。
【0018】
(8)
厚さが0.10mm以上0.50mm以下であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれか1項に記載の電磁鋼板。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、適切な集合組織を備えているため、圧縮応力が作用した場合でも優れた磁気特性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、第1の試験で得られた集積度と鉄損W15/400Lとの関係を示す図である。
図2図2は、第1の試験で得られた集積度と鉄損W15/400Cとの関係を示す図である。
図3図3は、第1の試験における集積度の分布を示す図である。
図4図4は、第1の試験における磁束密度の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
先ず、本発明の実施形態に係る電磁鋼板の集合組織について説明する。本発明の実施形態に係る電磁鋼板は、(001)[100]方位(以下、「Cube方位」ということがある)の集積度をICube、(011)[100]方位(以下、「Goss方位」ということがある)の集積度をIGossとあらわしたとき、式1、式2及び式3を満たす集合組織を有する。ここで、ある方位の集積度とは、当該方位における強度のランダム強度に対する比(ランダム比)を意味しており、集合組織を表示する際に通常用いられる指標である。
Goss+ICube≧10.5 ・・・式1
Goss/ICube≧0.50 ・・・式2
Cube≧2.5 ・・・式3
【0023】
Goss方位の結晶粒は、特にL方向の磁気特性の向上に寄与する。Cube方位の結晶粒は、L方向の磁気特性及びC方向の磁気特性の向上に寄与する。上記のように、本発明者らにより、Goss方位の結晶粒はC方向の圧縮応力の影響を受けにくく、C方向の圧縮応力が印加されてもC方向の磁気特性の低下を引き起こしにくいこと、及びCube方位の結晶粒はC方向の圧縮応力の影響を受けやすく、C方向の圧縮応力が印加されるとC方向の磁気特性の低下を引き起こしやすいことが明らかになった。
【0024】
「IGoss+ICube」の値が10.5未満の場合、無応力下で十分なL方向の磁気特性が得られない。従って、式1の関係が満たされている必要がある。無応力下でより優れたL方向の磁気特性を得るために、「IGoss+ICube」の値は、好ましくは10.7以上であり、より好ましくは11.0以上である。
【0025】
「IGoss/ICube」の値が0.50未満の場合、C方向の圧縮応力が印加されると、十分なC方向の磁気特性が得られない。従って、式2の関係が満たされている必要がある。C方向の圧縮応力下でより優れたC方向の磁気特性を得るために、「IGoss/ICube」の値は、好ましくは0.52以上であり、より好ましくは0.55以上である。「IGoss/ICube」の値とC方向の圧縮応力下でのC方向の磁気特性との関係は明らかではないが、以下通りであると考えられる。一般に、<100>方向に圧縮応力が作用すると、<110>方向に平行に圧縮応力が作用した場合よりも磁気特性が劣化しやすい。(001)[100]方位(Cube方位)の結晶粒のC方向は[010]方向に相当し、(011)[100]方位(Goss方位)の結晶粒のC方向は[01−1]方向に相当する。従って、「IGoss/ICube」の値が低いほど、つまり、Cube方位の結晶粒の割合が高いほど、<100>方向がC方向と平行な結晶粒の割合が高く、C方向の圧縮応力により電磁鋼板の磁気特性が低下しやすいと考えられる。
【0026】
「ICube」の値が2.5未満の場合も、C方向の圧縮応力が印加されると、十分なC方向の磁気特性が得られない。従って、式3の関係が満たされている必要がある。C方向の圧縮応力下でより優れたC方向の磁気特性を得るために、「ICube」の値は、好ましくは2.7以上であり、より好ましくは3.0以上である。
【0027】
式2の関係が満たされていても、式3の関係が満たされない場合は、C方向の圧縮応力によってC方向の磁気特性が低下しにくいものの、無応力下で十分なC方向の磁気特性が得られないため、C方向の圧縮応力下でのC方向の磁気特性は十分ではない。式2及び式3の関係が満たされない場合は、無応力下で十分なC方向の磁気特性が得られず、C方向の圧縮応力によりC方向の磁気特性が低下するため、C方向の圧縮応力下でのC方向の磁気特性は十分ではない。式3の関係が満たされていても、式2の関係が満たされない場合は、無応力下で十分なC方向の磁気特性が得られるものの、C方向の圧縮応力によりC方向の磁気特性が低下するため、C方向の圧縮応力下でのC方向の磁気特性は十分ではない。式2及び式3の関係が満たされる場合は、無応力下で十分なC方向の磁気特性が得られ、C方向の圧縮応力によってC方向の磁気特性が低下しにくいため、C方向の圧縮応力下で優れたC方向の磁気特性を得ることができる。
【0028】
集積度IGoss及び集積度ICubeは次のようにして測定することができる。先ず、測定対象である電磁鋼板の(110)、(200)及び(211)極点図をX線回折のシュルツ法によって測定する。このとき、測定する位置は、電磁鋼板の表面からの深さが厚さの1/4の位置(以下、「1/4位置」ということがある)及び厚さの1/2の位置(以下、「1/2位置」ということがある)とする。次いで、極点図を用いて、級数展開法によって3次元方位解析を行う。そして、解析によって得られた(001)[100]方位(Cube方位)及び(011)[100]方位(Goss方位)のそれぞれについて、1/4位置及び1/2位置の3次元方位分布密度の平均値を算出する。このようにして得られる2種類の値を、それぞれ集積度IGoss及び集積度ICubeとすることができる。
【0029】
上記のように、集合組織は、式4、式5及び式6の関係を満たすことが好ましい。
Goss+ICube≧10.7 ・・・式4
Goss/ICube≧0.52 ・・・式5
Cube≧2.7 ・・・式6
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る電磁鋼板の磁気特性について説明する。本発明の実施形態に係る電磁鋼板は、飽和磁束密度をBs、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向の磁束密度をB50L、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向及び板厚方向に直交する方向(板幅方向)の磁束密度をB50Cとあらわしたとき、式7及び式8の関係を満たす磁気特性を有することが好ましい。
B50C/Bs≧0.790 ・・・式7
(B50L−B50C)/Bs≧0.070 ・・・式8
【0031】
「B50C/Bs」の値が0.790未満の場合、圧縮応力下にて十分なC方向の磁気特性を得られないことがある。従って、式7の関係が満たされていることが好ましい。C方向の圧縮応力下でより優れたC方向の磁気特性を得るために、「B50C/Bs」の値は、より好ましくは0.795以上であり、更に好ましくは0.800以上である。一方、「B50C/Bs」が高すぎると圧縮応力によって磁気特性が劣化し易くなるため、「B50C/Bs」の値は、好ましくは0.825以下であり、更に好ましくは0.820以下であり、より一層好ましくは0.815以下である。
【0032】
「(B50L−B50C)/Bs」の値が0.070未満の場合、圧縮応力下にて十分なC方向の磁気特性を得られないことがある。従って、式8の関係が満たされていることが好ましい。圧縮応力によって磁気特性が劣化し易くなるため、「(B50L−B50C)/Bs」の値は、より好ましくは0.075以上であり、更に好ましくは0.080以上である。
【0033】
上記のように、磁気特性は、式9若しくは式10又はこれらの両方の関係を満たすことが好ましい。
(B50L−B50C)/Bs≧0.075 ・・・式9
B50C/Bs≦0.825 ・・・式10
【0034】
次に、本発明の実施形態に係る電磁鋼板及びその製造に用いるスラブの化学組成について説明する。詳細は後述するが、本発明の実施形態に係る電磁鋼板は、スラブの熱間圧延、熱延板焼鈍、第1の冷間圧延、中間焼鈍、第2の冷間圧延、仕上焼鈍等を経て製造される。従って、電磁鋼板及びスラブの化学組成は、電磁鋼板の特性のみならず、これらの処理を考慮したものである。以下の説明において、電磁鋼板に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る電磁鋼板は、C:0.010%以下、Si:1.30%〜3.50%、Al:0.0000%〜1.6000%、Mn:0.01%〜3.00%、S:0.0100%以下、N:0.010%以下、P:0.000%〜0.150%、Sn:0.000%〜0.150%、Sb:0.000%〜0.150%、Cr:0.000%〜1.000%、Cu:0.000%〜1.000%、Ni:0.000%〜1.000%、Ti:0.010%以下、V:0.010%以下、Nb:0.010%以下、かつ残部:Fe及び不純物で表される化学組成を有している。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0035】
(Si:1.30%〜3.50%)
Siは、比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。Si含有量を1.30%以上とすることで、より確実にかかる比抵抗向上効果を得ることができる。従って、Si含有量は1.30%以上とする。Si含有量は、好ましくは1.60%以上であり、より好ましくは1.90%以上である。一方、Si含有量が3.50%超であると、所望の集合組織を得ることができず、所望の磁束密度が得られない。従って、Si含有量は3.50%以下とする。Si含有量は、好ましくは3.30%以下であり、より好ましくは3.10%以下である。Si含有量が3.50%超の場合に所望の集合組織を得ることができない理由として、Si含有量の増加に伴う冷間圧延での変形挙動の変化が生じていることが考えられる。
【0036】
(Al:0.0000%〜1.6000%)
Alは、飽和磁束密度を低下させる元素である。Al含有量が1.6000%超であると、所望の集合組織を得ることができず、所望の磁束密度が得られない。従って、Al含有量は、1.6000%以下とする。Al含有量は、好ましくは1.4000%以下であり、より好ましくは1.2000%以下であり、更に好ましくは0.8000%以下である。Al含有量が1.6000%超の場合に所望の集合組織を得ることができない理由として、Al含有量の増加に伴う冷間圧延での変形挙動の変化が生じていることが考えられる。Al含有量の下限は特に限定されない。Alは、比抵抗を高めて鉄損を低減させる効果を有し、この効果を得るために、Al含有量は、好ましくは0.0001%以上であり、より好ましくは0.0003%以上である。
【0037】
(Mn:0.01%〜3.00%)
Mnは、比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。Mn含有量を0.01%以上とすることで、より確実にかかる比抵抗向上効果を得ることができる。従って、Mn含有量は0.01%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。一方、Mnを過剰に含有させると磁束密度が低下する。このような現象は、Mn含有量が3.00%超で顕著である。従って、Mn含有量は、3.00%以下とする。Mn含有量は、好ましくは2.70%以下であり、より好ましくは2.50%以下、更に好ましくは2.40%以下である。
【0038】
(C:0.010%以下)
Cは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Cは、磁気時効により磁気特性を劣化させる元素である。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような磁気特性の劣化は、C含有量が0.010%超で顕著である。このため、C含有量は0.010%以下とする。C含有量は、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは、0.005%以下である。
【0039】
(S:0.0100%以下)
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、鋼中のMnと結合して微細なMnSを形成し、仕上焼鈍中の粒成長を阻害し、磁気特性を劣化させる。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。このような磁気特性の劣化は、S含有量が0.0100%超で顕著である。このため、S含有量は0.0100%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0080%以下であり、より好ましくは、0.0050%以下である。Sは磁束密度の向上に寄与する。この効果を得るために、0.0005%以上のSが含有されていてもよい。Sが磁束密度の向上に寄与する理由として、磁気特性に不利な方位の粒成長がSによって阻害されていることが考えられる。
【0040】
(N:0.010%以下)
Nは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Nは、鋼中のAlと結合して微細なAlNを形成し、仕上焼鈍中の粒成長を阻害し、磁気特性を劣化させる。従って、N含有量は低ければ低いほどよい。このような磁気特性の劣化は、N含有量が0.010%超で顕著である。このため、N含有量は0.010%以下とする。N含有量は、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは、0.005%以下である。
【0041】
P、Sn、Sb、Cr、Cu及びNiは、必須元素ではなく、電磁鋼板に所定量を限度に適宜含有されていてもよい任意元素である。
【0042】
(P:0.000%〜0.150%、Sn:0.000%〜0.150%、Sb:0.000%〜0.150%)
P、Sn及びSbは、電磁鋼板の集合組織を改善して磁気特性を向上させる作用を有する。従って、P、Sn、若しくはSb、又はこれらの任意の組み合わせが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、好ましくは、P:0.001%以上、Sn:0.001%以上、若しくはSb:0.001%以上、又はこれらの任意の組み合わせとし、より好ましくは、P:0.003%以上、Sn:0.003%以上、若しくはSb:0.003%以上、又はこれらの任意の組み合わせとする。しかし、過剰なP、Sn及びSbは、結晶粒径に偏析して鋼板の延性が低下させ、冷間圧延を困難にする。このような延性の低下は、P:0.150%超、Sn:0.150%超、若しくはSb:0.150%超、又はこれらの任意の組み合わせで顕著である。このため、P:0.150%以下、Sn:0.150%以下、かつSb:0.150%以下とする。好ましくは、P:0.100%以下、Sn:0.100%以下、若しくはSb:0.100%以下、又はこれらの任意の組み合わせであり、より好ましくは、P:0.050%以下、Sn:0.050%以下、若しくはSb:0.050%以下、又はこれらの任意の組み合わせである。つまり、P:0.001%〜0.150%、Sn:0.001%〜0.150%、若しくはSb:0.001%〜0.150%、又はこれらの任意の組み合わせが満たされることが好ましい。
【0043】
(Cr:0.000%〜1.000%、Cu:0.000%〜1.000%、Ni:0.000%〜1.000%)
Cr、Cu及びNiは、比抵抗を高めて鉄損を低減させるのに有効な元素である。従って、Cr、Cu、若しくはNi、又はこれらの任意の組み合わせが含有されていてもよい。この効果を十分に得るために、好ましくは、Cr:0.005%以上、Cu:0.005%以上、若しくはNi:0.005%以上、又はこれらの任意の組み合わせとし、より好ましくは、Cr:0.010%以上、Cu:0.010%以上、若しくはNi:0.010%以上、又はこれらの任意の組み合わせとする。しかし、過剰なCr、Cu及びNiは、磁束密度を劣化させる。このような磁束密度の劣化は、Cr:1.000%超、Cu:1.000%超、若しくはNi:1.000%超、又はこれらの任意の組み合わせで顕著である。このため、Cr:1.000%以下、Cu:1.000%以下、かつNi:1.000%以下とする。好ましくは、Cr:0.500%以下、Cu:0.500%以下、若しくはNi:0.500%以下、又はこれらの任意の組み合わせであり、より好ましくは、Cr:0.300%以下、Cu:0.300%以下、若しくはNi:0.300%以下、又はこれらの任意の組み合わせである。つまり、Cr:0.005%〜1.000%、Cu:0.005%〜1.000%、若しくはNi:0.005%〜1.000%、又はこれらの任意の組み合わせが満たされることが好ましい。
【0044】
(Ti:0.010%以下、V:0.010%以下、Nb:0.010%以下)
Ti、V及びNbは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Ti、V及びNbは、C、N、Mn等と結合して介在物を形成し、焼鈍中の結晶粒の成長を阻害して磁気特性を劣化させる。従って、Ti含有量、V含有量及びNb含有量は低ければ低いほどよい。このような磁気特性の劣化は、Ti:0.010%超、V:0.010%超、若しくはNb:0.010%超、又はこれらの任意の組み合わせで顕著である。このため、Ti:0.010%以下、V:0.010%以下、かつNb:0.010%以下とする。好ましくは、Ti:0.007%以下、V:0.007%以下、若しくはNb:0.007%以下、又はこれらの任意の組み合わせであり、より好ましくは、Ti:0.004%以下、V:0.004%以下、若しくはNb:0.004%以下、又はこれらの任意の組み合わせである。
【0045】
次に、本発明の実施形態に係る電磁鋼板の平均結晶粒径について説明する。平均結晶粒径が過大であっても過小であっても鉄損が劣化する。このような鉄損の劣化は、平均結晶粒径が20μm未満であったり、300μm超過であったりする場合に顕著である。従って、平均結晶粒径は、20μm以上300μm以下とする。平均結晶粒径の下限は、好ましくは、30μmであり、更に好ましくは、40μmである。平均結晶粒径の上限は、好ましくは、250μmであり、更に好ましくは200μmである。
【0046】
平均結晶粒径としては、板厚方向及び圧延方向に平行な縦断面組織写真において、板厚方向及び圧延方向について、切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いることができる。縦断面組織写真としては、光学顕微鏡写真を用いることができ、例えば50倍の倍率で撮影した写真を用いることができる。
【0047】
次に、本発明の実施形態に係る電磁鋼板の厚さについて説明する。電磁鋼板が過度に薄い場合、生産性が劣化し、厚さが0.10mm未満の電磁鋼板を高い生産性で製造することは容易でない。従って、板厚は、0.10mm以上とすることが好ましい。電磁鋼板の板厚は、より好ましくは、0.15mm以上であり、更に好ましくは、0.20mm以上である。一方、電磁鋼板が過度に厚い場合、鉄損が劣化する。このような鉄損の劣化は、板厚が0.50mm超で顕著である。このため、板厚は0.50mm以下とすることが好ましい。電磁鋼板の板厚は、より好ましくは、0.35mm以下であり、更に好ましくは0.30mm以下である。
【0048】
次に、実施形態に係る電磁鋼板を製造する好ましい方法について説明する。この製造方法では、スラブの熱間圧延、熱延板焼鈍、第1の冷間圧延、中間焼鈍、第2の冷間圧延、仕上焼鈍を行う。
【0049】
熱間圧延においては、例えば、上記化学組成を有するスラブを加熱炉に装入して熱間圧延する。スラブ温度が高い場合には、加熱炉に装入しないで熱間圧延を開始してもよい。熱間圧延の各種条件は、特に限定されるものではない。スラブは、例えば、鋼の連続鋳造により取得したり、鋼塊を分塊圧延して取得したりすることができる。
【0050】
熱間圧延後には、熱間圧延により得られた熱延鋼板の焼鈍(熱延板焼鈍)を行う。熱延板焼鈍は箱型炉を用いて行ってもよく、熱延板焼鈍として連続焼鈍を行ってもよい。以下、箱型炉を用いた焼鈍を箱型の焼鈍ということがある。熱延板焼鈍の温度が低すぎる場合や時間が短すぎる場合は、結晶粒を十分に粗大化できず、所望の磁気特性を得ることができないことがある。一方、熱延板焼鈍の温度が高すぎる場合や時間が長すぎる場合は、製造コストが上昇する。箱型の焼鈍を行う場合、例えば、熱延鋼板を700℃以上1100℃以下の温度域に1時間以上200時間以下保持することが好ましい。箱型の焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは730℃以上であり、更に好ましくは750℃以上である。箱型の焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは1050℃以下であり、更に好ましくは1000℃以下である。箱型の焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは2時間以上であり、更に好ましくは3時間以上である。箱型の焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは150時間以下であり、更に好ましくは100時間以下である。連続焼鈍を行う場合、例えば、熱延鋼板を750℃以上1250℃以下の温度域を1秒間以上600秒間以下で通過させることが好ましい。連続焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは780℃以上であり、更に好ましくは800℃以上である。連続焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは1220℃以下であり、更に好ましくは1200℃以下である。連続焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは3秒間以上であり、更に好ましくは5秒間以上である。連続焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは500秒間以下であり、更に好ましくは400秒間以下である。熱延板焼鈍により得られる焼鈍鋼板の平均結晶粒径は、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは35μm以上であり、更に好ましくは40μm以上である。
【0051】
熱延板焼鈍後には、焼鈍鋼板の冷間圧延(第1の冷間圧延)を行う。第1の冷間圧延の冷間圧延率(以下、「第1の冷間圧延率」ということがある)は、好ましくは40%以上85%以下とする。第1の冷間圧延率が40%未満であるか85%超であると、所望の集合組織を得ることができず、所望の磁束密度及び鉄損を得ることができない。第1の冷間圧延率は、より好ましくは45%以上であり、更に好ましくは50%以上である。第1の冷間圧延率は、より好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。
【0052】
第1の冷間圧延後には、第1の冷間圧延により得られた冷延鋼板(以下、「中間冷延鋼板」ということがある)の焼鈍(中間焼鈍)を行う。中間焼鈍として箱型の焼鈍を行ってもよく、中間焼鈍として連続焼鈍を行ってもよい。中間焼鈍の温度が低すぎる場合や時間が短すぎる場合は、結晶粒を十分に粗大化できず、所望の磁気特性を得ることができないことがある。一方、中間焼鈍の温度が高すぎる場合や時間が長すぎる場合は、製造コストが上昇する。箱型の焼鈍を行う場合、例えば、中間冷延鋼板を850℃以上1100℃以下の温度域に1時間以上200時間以下保持することが好ましい。箱型の焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは880℃以上であり、更に好ましくは900℃以上である。箱型の焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは1050℃以下であり、更に好ましくは1000℃以下である。箱型の焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは2時間以上であり、更に好ましくは3時間以上である。箱型の焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは150時間以下であり、更に好ましくは100時間以下である。連続焼鈍を行う場合、例えば、中間冷延鋼板を1050℃以上1250℃以下の温度域を1秒間以上600秒間以下で通過させることが好ましい。連続焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは1080℃以上であり、更に好ましくは1110℃以上である。連続焼鈍を行う場合の保持温度は、より好ましくは1220℃以下であり、更に好ましくは1200℃以下である。連続焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは2秒間以上であり、更に好ましくは3秒間以上である。連続焼鈍を行う場合の保持時間は、より好ましくは500秒間以下であり、更に好ましくは400秒間以下である。中間焼鈍により得られる中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は、好ましくは140μm以上であり、より好ましくは170μm以上であり、更に好ましくは200μm以上である。中間焼鈍としては連続焼鈍よりも箱型の焼鈍が好ましい。
【0053】
中間焼鈍後には、中間焼鈍により得られた中間焼鈍鋼板の冷間圧延(第2の冷間圧延)を行う。第2の冷間圧延の冷間圧延率(以下、「第2の冷間圧延率」ということがある)は、好ましくは45%以上85%以下とする。第2の冷間圧延率が45%未満であるか85%超であると、所望の集合組織を得ることができず、所望の磁束密度及び鉄損を得ることができない。第2の冷間圧延率は、より好ましくは50%以上であり、更に好ましくは55%以上である。第2の冷間圧延率は、より好ましくは80%以下であり、更に好ましくは75%以下である。
【0054】
第2の冷間圧延後には、第2の冷間圧延により得られた冷延鋼板の焼鈍(仕上焼鈍)を行う。仕上焼鈍の温度が低すぎる場合や時間が短すぎる場合は、20μm以上の平均結晶粒径を得ることができず、所望の磁気特性を得ることができないことがある。一方、仕上焼鈍を1250℃超で行うためには、特殊な設備が必要となり、経済的に不利である。仕上焼鈍の時間が600間超では、生産性が低く、経済的に不利である。仕上焼鈍の温度は、好ましくは700℃以上1250℃以下とし、仕上焼鈍の時間は、好ましくは1秒間以上600秒間以下とする。仕上焼鈍の温度は、より好ましくは750℃以上である。仕上焼鈍の温度は、より好ましくは1200℃以下である。仕上焼鈍の時間は、より好ましくは3秒間以上である。仕上焼鈍の時間は、より好ましくは500秒間以下である。
【0055】
仕上焼鈍の後に電磁鋼板の表面に絶縁被膜を形成してもよい。絶縁被膜としては、有機成分のみからなるもの、無機成分のみからなるもの、有機無機複合物からなるもののいずれを形成してもよい。環境負荷軽減の観点から、クロムを含有しない絶縁被膜を形成してもよい。コーティングは、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁コーティングを施すものであってもよい。接着能を発揮するコーティング材料としては、例えば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂またはメラミン樹脂などを用いることができる。
【0056】
このような本実施形態に係る電磁鋼板は、高効率モータの鉄心、特に高効率分割鉄心型モータの固定子(ステータ)鉄心に好適である。高効率モータとしては、例えば、エアコンディショナ及び冷蔵庫等のコンプレッサモータ、並びに、電気自動車及びハイブリッド自動車等の駆動モータ及び発電機のモータが挙げられる。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の実施形態に係る電磁鋼板について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る電磁鋼板のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る電磁鋼板が下記の例に限定されるものではない。
【0059】
(第1の試験)
第1の試験では、集合組織と磁気特性との関係について調査した。先ず、質量%で、C:0.002%、Si:2.10%、Al:0.0050%、Mn:0.20%、S:0.002%、N:0.002%、P:0.012%、Sn:0.002%、Sb:0.001%、Cr:0.01%、Cu:0.02%、Ni:0.01%、Ti:0.002%、V:0.002%、及びNb:0.003%を含有し、残部がFe及び不純物からなる複数のスラブを作製した。スラブの一部については、熱間圧延により板厚が2.5mmの熱延鋼板とした後、800℃で10時間保持する箱型の焼鈍又は1000℃で30秒保持する連続焼鈍を熱延板焼鈍として施して焼鈍鋼板を得た。次いで、焼鈍鋼板に1回又は中間焼鈍を間に挟む2回の冷間圧延を施して板厚が0.30mmの冷延鋼板を得た。中間焼鈍としては、950℃で10時間保持する箱型の焼鈍、又は900℃以上1100℃以下の温度で30秒保持する連続焼鈍を行った。残りのスラブについては、熱間圧延における粗圧延にて板厚を10mmとした後、表裏面の研削加工によって厚さが3mmの研削板を得た。次いで、研削板を1150℃で30分加熱した後、850℃にて歪速度が35sの条件で1パスの仕上圧延を施して、板厚が1.0mmの熱延鋼板を得た。その後、1000℃で30秒保持する熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延によって板厚が0.30mmの冷延鋼板を得た。
【0060】
冷間圧延後には、冷延鋼板に1000℃で1秒間保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表1に示すように、集積度ICubeは0.1以上10.0以下であり、集積度IGossは0.3以上23.8以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、平均結晶粒径は66μm以上72μm以下であった。
【0061】
そして、各試料の鉄損及び磁束密度を測定した。鉄損としては、400Hzの周波数で1.5Tの磁束密度までL方向に磁化した際の鉄損W15/400L及び400Hzの周波数で1.5Tの磁束密度までC方向に磁化した際の鉄損W15/400Cを測定した。磁束密度としては、5000A/mの磁化力で磁化した際のL方向の磁束密度B50L及び5000A/mの磁化力で磁化した際のC方向の磁束密度B50Cを測定した。鉄損W15/400L及び磁束密度B50Lの測定は圧縮応力を印加せずに行い、鉄損W15/400C及び磁束密度B50Cの測定はC方向に40MPaの圧縮応力を印加した状態で行った。磁気特性の測定は、JIS C 2556に則して、55mm角の単板磁気特性試験法(single sheet tester:SST)により行った。この結果を表1並びに図1及び図2に示す。表1中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。なお、表1中の飽和磁束密度Bsは次の式により求めた。ここで、[Si]、[Mn]、[Al]は、それぞれSi、Mn、Alの含有量である。
Bs=2.1561−0.0413×[Si]−0.0198×[Mn]−0.0604×[Al]
【0062】
【表1】
【0063】
図1に示すように、「IGoss+ICube」の値が高いほど鉄損W15/400Lが低かった。これは、上述のように、Goss方位及びCube方位がともにL方向の磁気特性の向上に寄与する方位であるためと推測される。
【0064】
図2に示すように、「ICube」の値が2.5以上の場合、「IGoss/ICub」の値が高いほど鉄損W15/400Cが低かった。これは、上述のように、「IGoss/ICube」の値が高いほど、C方向の圧縮応力の影響を受けやすいCube方位の結晶粒の割合が高いためであると推測される。
【0065】
図2に示すように、「ICube」の値が2.5未満の場合、鉄損W15/400Cは、「ICube」の値が2.5以上の場合ほど低くなかった。これは、上述のように、C方向の磁気特性の向上に寄与するCube方位の結晶粒が少なかったためであると推測される。
【0066】
上記発明例及び比較例の集積度IGoss及び集積度ICube、並びに式1、式2及び式3の関係を図3に示す。図1図2及び図3から明らかなように、式1、式2及び式3の関係のすべてが満たされる場合に、無応力下で優れたL方向の磁気特性を取得することができ、かつC方向の圧縮応力下で優れたC方向の磁気特性を得ることができた。
【0067】
図4に、飽和磁束密度Bsに対する磁束密度B50Lの割合(B50L/Bs)と飽和磁束密度Bsに対する磁束密度B50Cの割合(B50C/Bs)との関係を示す。図4に示すように、発明例は式7及び式8の関係を満たしている。
B50C/Bs≧0.790 ・・・式7
(B50L−B50C)/Bs≧0.070 ・・・式8
【0068】
(第2の試験)
第2の試験では、中間焼鈍の条件と集積度及び磁気特性との関係について調査した。先ず、質量%で、C:0.002%、Si:1.99%、Al:0.0190%、Mn:0.20%、S:0.002%、N:0.002%、及びP:0.012%を含有し、残部がFe及び不純物からなる板厚が2.5mmの複数の熱延鋼板を作製した。次いで、熱延鋼板に800℃の温度で10時間保持する箱型の熱延板焼鈍を施して焼鈍鋼板を得た。焼鈍鋼板の平均結晶粒径は70μmであった。その後、第1の冷間圧延率が60%の第1の冷間圧延を焼鈍鋼板に施すことにより、板厚が1.0mmの中間冷延鋼板を得た。続いて、中間冷延鋼板に下記表2に示す条件で中間焼鈍を施すことにより、中間焼鈍鋼板を得た。表2に示すように、中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は71μm以上355μm以下であった。次いで、中間焼鈍鋼板に第2の冷間圧延を施すことにより、板厚が0.30mmの冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に1000℃で15秒間保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表2に示すように、集積度ICubeは2.3以上4.1以下であり、集積度IGossは6.5以上24.5以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、表2に示すように、平均結晶粒径は70μm以上82μm以下であった。
【0069】
そして、第1の試験と同様にして磁束密度B50L及び磁束密度B50Cを測定した。この結果を表2に示す。表2中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、試料No.23〜No.27では、好ましい条件で中間焼鈍を行ったため、所望の集合組織が得られ、式7及び式8の関係を満たす磁気特性が得られた。一方、試料No.21〜No.22では、中間焼鈍の条件が好ましい範囲から外れていたため、所望の集合組織が得られず、磁気特性が式8の関係を満たさなかった。
【0072】
(第3の試験)
第3の試験では、成分と集積度及び磁気特性との関係について調査した。先ず、表3に示す成分を含み、更にTi:0.002%、V:0.003%、及びNb:0.002%を含み、残部がFe及び不純物からなる板厚が2.0mmの複数の熱延鋼板を作製した。次いで、熱延板焼鈍として、1000℃で30秒保持する連続焼鈍を施して焼鈍鋼板を得た。焼鈍鋼板の平均結晶粒径は72μm以上85μm以下であった。その後、第1の冷間圧延率が70%の第1の冷間圧延を焼鈍鋼板に施すことにより、板厚が0.6mmの中間冷延鋼板を得た。続いて、中間冷延鋼板に、950℃で100時間保持する箱型の中間焼鈍を施すことにより、中間焼鈍鋼板を得た。中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は280μm以上343μm以下であった。次いで、第2の冷間圧延率が58%の第2の冷間圧延を中間焼鈍鋼板に施すことにより、板厚が0.25mmの冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に1050℃の温度で30秒間保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表4に示すように、集積度ICubeは1.9以上3.9以下であり、集積度IGossは8.0以上21.3以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、表4に示すように、平均結晶粒径は112μm以上123μm以下であった。
【0073】
そして、第1の試験と同様にして磁束密度B50L及び磁束密度B50Cを測定した。この結果を表4に示す。表3又は表4中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
試料No.31〜No.38では、成分が本発明範囲内であったため、所望の集合組織が得られ、式7及び式8の関係を満たす磁気特性が得られた。一方、試料No.39〜No.41では、Al含有量又はSi含有量が本発明範囲から外れていため、所望の集合組織が得られず、磁気特性が式8の関係を満たさなかった。
【0077】
(第4の試験)
第4の試験では、熱延板焼鈍、第1の冷間圧延及び第2の冷間圧延の条件と磁気特性との関係について調査した。先ず、質量%で、C:0.002%、Si:2.15%、Al:0.0050%、Mn:0.20%、S:0.003%、N:0.001%、P:0.016%、Sn:0.003%、Sb:0.002%、Cr:0.02%、Cu:0.01%、Ni:0.01%、Ti:0.003%、V:0.001%、及びNb:0.002%を含有し、残部がFe及び不純物からなる板厚が1.6mm以上2.5mm以下の熱延鋼板を作製した。次いで、熱延鋼板に下記表5に示す条件で熱延板焼鈍を施すことにより、焼鈍鋼板を得た。表5に示すように、焼鈍鋼板の平均結晶粒径は24μm以上135μm以下であった。その後、焼鈍鋼板に、第1の冷間圧延率が35%以上75%以下の第1の冷間圧延を施して、板厚が0.5mm以上1.3mm以下の中間冷延鋼板を得た。続いて、中間冷延鋼板に950℃で10時間保持する箱型の中間焼鈍を施して、中間焼鈍鋼板を得た。中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は295μm以上314μm以下であった。次いで、中間焼鈍鋼板に第2の冷間圧延率が30%以上86%以下の第2の冷間圧延を施すことにより、板厚が0.15mm以上0.35mm以下の冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に800℃以上1120℃で15秒間以上60秒間以下保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表6に示すように、集積度ICubeは1.5以上3.7以下であり、集積度IGossは5.5以上16.4以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、表6に示すように、平均結晶粒径は32μm以上192μm以下であった。
【0078】
そして、第1の試験と同様にして磁束密度B50L及び磁束密度B50Cを測定した。この結果を表6に示す。表5又は表6中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
試料No.51〜No.53では、好ましい条件で熱延板焼鈍、第1の冷間圧延及び第2の冷間圧延を行ったため、所望の集合組織が得られ、式7及び式8の関係を満たす磁気特性が得られた。一方、試料No.54〜No.57では、熱延板焼鈍、第1の冷間圧延又は第2の冷間圧延の条件が好ましい範囲から外れていたため、所望の集合組織が得られず、磁気特性が式7又は式8の関係を満たさなかった。
【0082】
(第5の試験)
第5の試験では、試料No.3、試料No.7、試料No.8の電磁鋼板を鉄心材料として、4極6スロットルの埋込構造永久磁石(interior permanent magnet:IPM)分割鉄心モータを作製し、負荷トルクが1Nm、2Nm、3Nmの下でのトルク定数を測定した。IMP分割鉄心モータにおいては、電磁鋼板のL方向がモータ鉄心のティース部と平行になり、C方向がバックヨーク部と平行になるようにした。トルク定数とは、所定のトルクを、そのトルクを出すために必要な電流値で規格化した値である。言い換えると、トルク定数は電流1A当たりのトルクに相当し、高いほど好ましい。この結果を表7に示す。表7中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0083】
【表7】
【0084】
表7に示すように、試料No.3を鉄心材料とした分割鉄心モータのトルク定数は、すべての負荷トルクのもとで、試料No.7、試料No.8を鉄心材料とした分割鉄心モータのトルク定数よりも優れていた。一方、試料No.7又は試料No.8を鉄心材料とした分割鉄心モータのトルク定数は、特に負荷トルクが低い条件で低かった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、例えば、電磁鋼板の製造産業及びモータ等の電磁鋼板の利用産業において利用することができる。
図1
図2
図3
図4