(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転中心軸となるジャーナル部と、このジャーナル部に対して偏心したピン部と、前記ジャーナル部と前記ピン部をつなぐクランクアーム部と、前記クランクアーム部と一体のカウンターウエイト部と、を備え、レシプロエンジンに搭載されて、前記ピン部にはコネクティングロッドを介してピストンピンの軸心から前記ピン部の軸心に向かう方向に燃焼圧による荷重が負荷されるクランク軸であって、
前記クランクアーム部の形状が、前記ピン部の軸心と前記ジャーナル部の軸心とを結ぶアーム部中心線を境界にして非対称であり、
前記クランクアーム部の曲げ剛性が、前記ピン部への前記燃焼圧による前記荷重の負荷が最大になる時点において最大となり、
前記アーム部中心線を境界にして前記クランクアーム部を左右のアーム部要素に区分したとき、
前記クランクアーム部の前記アーム部中心線に垂直な各断面のうち、前記ピン部の軸心より外側の各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の断面2次モーメントが、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の断面2次モーメントよりも大きく、
前記クランクアーム部の前記アーム部中心線に垂直な各断面のうち、前記ピン部の軸心より内側の各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の断面2次モーメントが、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の断面2次モーメントよりも大きい、レシプロエンジンのクランク軸。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンは、シリンダ(気筒)内でのピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すため、クランク軸を必要とする。クランク軸は、型鍛造によって製造されるものと、鋳造によって製造されるものとに大別される。特に、気筒数が2以上の多気筒エンジンには、強度と剛性に優位な前者の型鍛造クランク軸が多用される。
【0003】
図1は、一般的な多気筒エンジン用クランク軸の一例を模式的に示す側面図である。
図1に示すクランク軸1は、4気筒エンジンに搭載されるものであり、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、及びジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をそれぞれつなぐ8枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A8を備える。このクランク軸1は、8枚の全てのアーム部A1〜A8にカウンターウエイト部(以下、単に「ウエイト部」ともいう)W1〜W8を一体で有し、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸と称される。
【0004】
以下では、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、アーム部A1〜A8及びウエイト部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」、ウエイト部で「W」とも記す。ピン部P及びこのピン部Pにつながる一組のアーム部A(ウエイト部Wを含む)をまとめて「スロー」ともいう。
【0005】
ジャーナル部J、フロント部Fr及びフランジ部Flは、クランク軸1の回転中心と同軸上に配置される。ピン部Pは、クランク軸1の回転中心からピストンストロークの半分の距離だけ偏心して配置される。ジャーナル部Jは、すべり軸受けによってエンジンブロックに支持され、回転中心軸となる。ピン部Pには、すべり軸受けによってコネクティングロッド(以下、「コンロッド」ともいう)の大端部が連結され、このコンロッドの小端部にピストンがピストンピンによって連結される。フロント部Frは、クランク軸1の前端部である。フロント部Frには、タイミングベルト、ファンベルト等を駆動するためのダンパプーリ2が取り付けられる。フランジ部Flは、クランク軸1の後端部である。フランジ部Flには、フライホイール3が取り付けられる。
【0006】
エンジンにおいて、各シリンダ内で燃料が爆発する。その爆発による燃焼圧は、ピストンの往復運動をもたらし、クランク軸1の回転運動に変換される。その際、燃焼圧は、コンロッドを介してクランク軸1のピン部Pに作用し、そのピン部Pにつながるアーム部Aを介してジャーナル部Jに伝達される。これにより、クランク軸1は、弾性変形を繰り返しながら回転する。
【0007】
クランク軸のジャーナル部を支持する軸受けには潤滑油が存在する。クランク軸の弾性変形に応じ、軸受け内の油膜圧力及び油膜厚さは、軸受け荷重及びジャーナル部の軸心軌跡と相互に関連しながら変化する。更に、軸受けにおけるジャーナル部の表面粗さと軸受けメタルの表面粗さに応じ、油膜圧力が生じるだけでなく、局部的な金属接触も生じる。油膜厚さの確保は、油切れによる軸受け焼き付きを防止するとともに、局部的な金属接触を防止するために重要である。燃費性能に影響するからである。
【0008】
また、クランク軸の回転に伴う弾性変形、及び軸受け内のクリアランスの中で移動するジャーナル部の軸心軌跡は、回転中心のズレを生じさせるため、エンジン振動(マウント振動)に影響する。更にその振動は、車体を伝播して乗車室内のノイズ、乗り心地等に影響する。
【0009】
このようなエンジン性能を向上させるため、クランク軸は軽量で且つ剛性が高く、変形し難いことが求められる。
【0010】
図2は、4サイクルエンジンにおける筒内圧曲線を示す図である。
図2に示すように、クランク軸のピン部が圧縮工程の上死点にあたる位置(クランク角θが0°)を基準にすると、圧縮工程上死点の直後に爆発が生じる。そのため、筒内圧(シリンダ内の圧力)は、クランク角θが約8〜20°になった時点で最大の燃焼圧となる。クランク軸には、
図2に示す筒内圧(燃焼圧)の荷重が負荷され、その他に回転遠心力の荷重が負荷される。これらの荷重に対する変形抵抗を得るために、曲げ剛性、更にはねじり剛性を向上させ、これと同時に重量を軽減することが、クランク軸設計の目標とされる。
【0011】
一般に、クランク軸の設計においては、先ず、ジャーナル部の直径、ピン部の直径、ピストンストローク等といった主要諸元が決定される。主要諸元が決定された後、曲げ剛性とねじり剛性を確保するために変更できる設計事項は、アーム部の形状に限られる。このため、アーム部形状の設計がクランク軸の性能を左右する重要な要因になる。ここでいうアーム部は、上述のとおり、厳密にはジャーナル部とピン部をつなぐ領域に限定された小判形状の部分であり、カウンターウエイト部の領域の部分は含まない。
【0012】
例えば、特許4998233号公報(特許文献1)は、クランク軸の軽量化を図りつつ、ねじり剛性と曲げ剛性を高めるために、アーム部のピン側表面及びジャーナル側表面の中央部に肉抜き凹部を設ける技術を開示する。この特許文献1に開示された技術は、クランク角が0°の状態(すなわち、クランク軸のピン部が圧縮工程上死点にある状態)でのアーム部に対する軽量化及び高剛性化に着目し、アーム部に対する設計方法を示す。つまり、その設計方法は、クランク角が0°の状態において、ある剛性値の目標が与えられたときに、いかにしてアーム部の軽量化を図るかを示す。また、その設計手法は、軽量化の目標値が与えられたときに、いかにしてアーム部の剛性を上げるかを示す。
【0013】
また、特開平10−169637号公報(特許文献2)は、材料力学の3モーメント法を用い、カウンターウエイト部の質量モーメントの最適配分を求める最適化の計算手法を開示する。この特許文献2に開示された技術は、クランク軸を段付き丸棒梁で近似し、ジャーナル部に負荷される荷重値を最小化するように、アーム部の剛性及びアーム部の質量モーメントに基づき、カウンターウエイト部の質量モーメント配分を調整する方法を示す。つまり、その方法は、アーム部の剛性について既存値を採用するか、又は別の方法で決定し、その後で、ジャーナル部の軸受け荷重が最小となるように、複数(例えば、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸では8つ)のカウンターウエイト部の質量モーメント配分を調整する方法を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記
図2に示すように、筒内圧は、クランク角θが0°の時点ではなく、クランク角θが約8〜20°の時点で最大の燃焼圧となる。このため、クランク軸のピン部には、クランク角θが約8〜20°の時点で、最大の燃焼圧がコンロッドを介して負荷される。このとき、ピン部への燃焼圧の負荷方向は、ピストンピンの軸心(コンロッドの小端部の軸心)からピン部の軸心に向かう方向である。このため、アーム部には、最大燃焼圧による最大荷重が、ピン部の軸心とジャーナル部の軸心とを結ぶ直線(以下、「アーム部中心線」ともいう)に沿う方向ではなく、このアーム部中心線に対して傾斜した方向に負荷される。
【0016】
この点、前記特許文献1におけるアーム部形状の設計は、最大燃焼圧による最大荷重が、クランク角が0°の状態のアーム部に負荷されると仮定して行うことを前提とする。つまり、その設計は、最大荷重がアーム部中心線に沿う方向に負荷されると仮定して行うことを前提する。そうすると、前記特許文献1の開示技術によって得られたアーム部形状は、実態を反映した条件下で得られたものでない。したがって、そのアーム部形状は、剛性を向上させ、しかも軽量化を図る上で必ずしも適切であるとは言い切れない。また、前記特許文献2に開示された技術は、そもそもアーム部剛性の向上を図るものではない。
【0017】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、実態を反映して曲げ剛性が向上し、これと同時に軽量化を図ることができるレシプロエンジンのクランク軸、及びそのクランク軸の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の(I)に示すレシプロエンジンのクランク軸、及び(II)に示すクランク軸の設計方法を要旨とする。
【0019】
(I)本実施形態によるクランク軸は、回転中心軸となるジャーナル部と、このジャーナル部に対して偏心したピン部と、前記ジャーナル部と前記ピン部をつなぐクランクアーム部と、前記クランクアーム部と一体のカウンターウエイト部と、を備え、レシプロエンジンに搭載されて、前記ピン部にはコネクティングロッドを介してピストンピンの軸心から前記ピン部の軸心に向かう方向に燃焼圧による荷重が負荷される。
前記クランクアーム部の形状が、前記ピン部の軸心と前記ジャーナル部の軸心とを結ぶアーム部中心線を境界にして非対称であり、
前記クランクアーム部の曲げ剛性が、前記ピン部への前記燃焼圧による前記荷重の負荷が最大になる時点において最大となる。
このクランク軸において、
前記アーム部中心線を境界にして前記クランクアーム部を左右のアーム部要素に区分したとき、
前記クランクアーム部の前記アーム部中心線に垂直な各断面のうち、前記ピン部の軸心より外側の各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の断面2次モーメントが、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の断面2次モーメントよりも大きく、
前記クランクアーム部の前記アーム部中心線に垂直な各断面のうち、前記ピン部の軸心より内側の各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の断面2次モーメントが、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の断面2次モーメントよりも大きい。
【0020】
このクランク軸の場合、
前記ピン部の軸心より外側の前記各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の最大厚みが、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の最大厚みよりも大きく、
前記ピン部の軸心より内側の前記各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の最大厚みが、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の最大厚みよりも大きい構成とすることができる。
【0021】
また、上記のクランク軸の場合、
前記ピン部の軸心より外側の前記各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の幅が、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の幅よりも大きく、
前記ピン部の軸心より内側の前記各断面では、前記最大の前記荷重が負荷される側とは反対側の前記アーム部要素の幅が、前記最大の前記荷重が負荷される側の前記アーム部要素の幅よりも大きい構成とすることもできる。
【0022】
(II)本実施形態によるクランク軸の設計方法は、上記(I)のクランク軸を設計する方法であって、
前記燃焼圧による前記荷重の負荷が最大になる時点において、当該最大荷重の負荷方向における前記クランクアーム部の曲げ剛性が最大となって目標剛性を満足し、且つ、前記クランクアーム部の重量が目標重量を満足するように、前記クランクアーム部の形状を、前記アーム部中心線を境界にして非対称とする。
【0023】
上記の設計方法は、前記燃焼圧による前記荷重の負荷が最大になる時点において、当該最大荷重の負荷方向における前記クランクアーム部の曲げ剛性を一定にした条件で、前記クランクアーム部の重量が最小となるように、前記クランクアーム部の形状を設計することもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、実態を反映した条件下で、アーム部の形状がアーム部中心線を境界にして非対称とされているため、高い信頼性でアーム部の曲げ剛性が向上し、これと同時にアーム部の軽量化を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明のレシプロエンジンのクランク軸、及びそのクランク軸の設計方法について、その実施形態を詳述する。
【0027】
1.クランク軸の設計で考えるべき基本技術
1−1.アーム部の曲げ剛性
図3は、アーム部の曲げ剛性の評価法を説明するための模式図である。
図3に示すように、クランク軸の各スローについて、シリンダ内での点火・爆発による燃焼圧の荷重Fは、コンロッドを経由してピン部Pに負荷される。このとき、各スローは両端のジャーナル部Jが軸受けによって支持されているので、荷重Fはピン部Pからアーム部Aを介してジャーナル軸受けに伝わる。これにより、アーム部Aは3点曲げの荷重負荷状態となり、アーム部Aに曲げモーメントMが作用する。これに伴って、アーム部Aには、板厚方向の外側(ジャーナル部J側)で圧縮応力が発生し、それとは反対の内側(ピン部P側)では引張応力が発生する。このときに影響するのがアーム部Aの曲げ剛性Mcである。この曲げ剛性Mcと、ピン部及びジャーナル部の曲げ剛性を含めた1スロー全体の曲げ剛性Mtは、下記の式(1)で評価できる。
【0028】
Mt=F/u …(1)
式(1)中、Fはピン部に負荷される燃焼圧の荷重であり、uはピン部の軸方向中央における燃焼圧負荷方向の変位である。
【0029】
1−2.アーム部のねじり剛性
図4は、アーム部のねじり剛性の評価法を説明するための模式図であり、
図4(a)は1スローの側面図を、
図4(b)はその軸方向視での正面図をそれぞれ示す。クランク軸はジャーナル部Jを中心に回転運動をする。そのため、
図4(a)及び(b)に示すように、ねじりトルクTが発生する。そこで、クランク軸のねじり振動に対し、共振を起こすことなくスムーズな回転を確保するために、アーム部Aのねじり剛性Tcを高めることが必要である。各スローのねじり剛性は、ピン部Pの直径、及びジャーナル部Jの直径が決定されている場合、アーム部Aのねじり剛性に大きく依存するからである。アーム部Aのねじり剛性Tcと、ピン部及びジャーナル部のねじり剛性を含めた1スロー全体のねじり剛性Ttは、下記の式(2)で与えられる。
【0030】
Tt=T/γ …(2)
式(2)中、Tはねじりトルクであり、γはジャーナル部のねじれ角である。
【0031】
これらのことから、クランク軸の設計においては、アーム部の曲げ剛性とねじり剛性の両方を向上させる必要がある。なお、ウエイト部Wは、曲げ剛性とねじり剛性にほとんど寄与しない。このため、曲げ剛性とねじり剛性の向上には、アーム部Aの形状が主体的に関係し、ウエイト部Wの形状は関係しない。ウエイト部Wは主に重心位置と質量を調整し質量バランスをとる役割を担う。
【0032】
2.本実施形態のクランク軸及びその設計方法
2−1.概要
図5は、従来のクランク軸のアーム部形状を模式的に示す図である。
図5(a)は軸方向視での正面図を示し、
図5(b)は側面図を示す。
図5(a)及び(b)に示すように、従来のクランク軸のアーム部Aは、ピン部Pの軸心Pcとジャーナル部Jの軸心Jcとを結ぶアーム部中心線Acを境界にして、左右対称の形状とされている。すなわち、アーム部Aは、右半分のアーム部要素Arと左半分のアーム部要素Afがアーム部中心線Acに対して対称である。従来のアーム部Aの形状設計は、最大燃焼圧によるアーム部Aへの最大荷重が、アーム部中心線Acに沿う方向に負荷されると仮定して行われるからである。
【0033】
これに対して、本実施形態のクランク軸のアーム部は、以下の特徴がある。
図6は、本実施形態のクランク軸のアーム部形状の一例を模式的に示す図である。
図6(a)は1スローの斜視図を示し、
図6(b)は
図6(a)におけるアーム部中心線に垂直なC−C’位置での断面図を示す。更に、
図6(c)は
図6(a)におけるアーム部中心線に垂直でC−C’位置とは異なるD−D’位置での断面図を示す。ここで、
図6(b)に示すC−C’位置は、ピン部の軸心より外側の位置である。
図6(c)に示すD−D’位置は、ピン部の軸心より内側の位置である。
図6(a)及び(b)に示すように、本実施形態のクランク軸のアーム部Aは、アーム部中心線Acを境界にして、左右非対称の形状とされている。すなわち、右側のアーム部要素Arと左側のアーム部要素Afがアーム部中心線Acに対して非対称である。
【0034】
このような本実施形態におけるアーム部Aの形状設計は、最大燃焼圧によるアーム部Aへの最大荷重が、実態を反映してクランク角θが約8〜20°の状態のアーム部Aに負荷されることを前提にして行われる。つまり、その形状設計は、最大荷重がアーム部中心線Acに対して角度αで傾斜した方向に負荷されることを前提にして行われる。そして、右側のアーム部要素Arと左側のアーム部要素Afのそれぞれの形状を個々に独立して変化させ、アーム部Aへの最大荷重の負荷方向におけるアーム部Aの曲げ剛性が最大となって目標剛性を満足するように、アーム部Aの形状が決定される。アーム部Aの形状を決定する際、アーム部Aの重量が目標重量を満足することも必要である。
【0035】
なお、以下では、アーム部中心線Acに対し、燃焼圧によるアーム部Aへの荷重の負荷方向(ピストンピンの軸心からピン部の軸心に向かう方向)の交差角を荷重負荷角βとも称する。荷重負荷角βの中でも、クランク角θが約8〜20°であって、最大燃焼圧による最大荷重が負荷される時点のものは、最大荷重負荷角αとも称する。
【0036】
図7は、本実施形態のクランク軸におけるアーム部剛性の設計パラメータの選択自由度を説明する概念図である。
【0037】
図6(b)及び(c)に示すように、本実施形態のクランク軸におけるアーム部Aの右側のアーム部要素Arを抽出するとともに、そのアーム部Aの左側のアーム部要素Afを抽出して考える。この場合、
図7に示すように、アーム部Aの全体の曲げ剛性Mcは、右側のアーム部要素Arの曲げ剛性「Mr/2」と左側のアーム部要素Afの曲げ剛性「Mf/2」の足し合わせとなる。同様に、アーム部Aの全体のねじり剛性Tcは、右側のアーム部要素Arのねじり剛性「Tr/2」と左側のアーム部要素Afのねじり剛性「Tf/2」の足し合わせとなる。
【0038】
図7には、従来のクランク軸におけるアーム部Aの曲げ剛性Mpとねじり剛性Tpも示す。従来のクランク軸では、アーム部形状が左右対称であるため、設計パラメータが一つである。このため、曲げ剛性Mpとねじり剛性Tpは設計パラメータと一対一に対応する。設計パラメータを選択すると、曲げ剛性Mpとねじり剛性Tpの組み合わせに選択の自由度が無い。
【0039】
これに対し、本実施形態のクランク軸では、アーム部Aの形状が右側のアーム部要素Arと左側のアーム部要素Afで相違することから、設計パラメータが二つに増加する。このため、右側のアーム部要素Arの曲げ剛性「Mr/2」とねじり剛性「Tr/2」、及び左側のアーム部要素Afの曲げ剛性「Mf/2」とねじり剛性「Tf/2」をそれぞれ独立に選択することができる。これらを足し合わせたものが非対称アーム部Aの全体の剛性になる。すなわち、クランク軸の軽量化を図る上で、剛性設計のパラメータの選択肢が増加する。
【0040】
要するに、アーム部の剛性は、従来のクランク軸では曲げ剛性Mpとねじり剛性Tpで表現されるところ、本実施形態のクランク軸では下記の式(3)及び式(4)で表現できる。したがって、本実施形態のクランク軸は、アーム部の左右形状がそれぞれ独立に選択できるため、設計の自由度が増加するというメリットがある。
【0041】
曲げ剛性:Mc=(Mr+Mf)/2 …(3)
ねじり剛性:Tc=(Tr+Tf)/2 …(4)
【0042】
そして、軽量化の際にアーム部の左右の形状それぞれを適切に選択することにより、下記の式(5)及び式(6)で示すように、左右対称な従来のアーム部の剛性よりも、非対称アーム部の剛性を大きくできる可能性が生じる。すなわち、軽量で、且つ剛性を大きくする自由度が増加し、メリットが発生する。
【0043】
Mc=(Mr+Mf)/2 > Mp …(5)
Tc=(Tr+Tf)/2 > Tp …(6)
【0044】
図8は、燃焼圧の負荷が最大になる時点でのクランク軸のアーム部とコンロッドとの幾何学的関係を示す図である。
図9は、燃焼圧の負荷が最大になる時点でのクランク角θと最大荷重負荷角αとの相関を示す図である。曲げ荷重に関して、気筒内の燃焼圧が最大値を示す時点は、前記
図2に示すように、クランク軸が圧縮工程上死点から僅かに回転し、クランク角θが約8〜20°の時点である。
【0045】
図8に示すように、アーム部Aは、アーム部中心線Acに対して最大荷重負荷角αで傾斜した方向に、最大燃焼圧による最大荷重Fmaxを受ける。その最大荷重負荷角αは、最大燃焼圧が負荷される時点でのクランク角「θ」、ピストンストロークLsの半分(ピン部Pの軸心Pcとジャーナル部Jの軸心Jcとの距離)「Ls/2」、及びコンロッド4の小端部4Sの軸心4Sc(ピストンピンの軸心)とピン部Pの軸心Pcとの距離「Lc」の一角二辺から定まる三角形の外角で求められる。すなわち、アーム部Aは、アーム部中心線Acに対し、クランク角θ(約8〜20°)よりも若干大きい最大荷重負荷角α(約10〜20数°)で傾斜した曲げ荷重を受けることになる(
図9参照)。
【0046】
図10は、燃焼圧の負荷が最大になる時点でのクランク軸のアーム部とコンロッドとの幾何学的関係の別例を示す図である。
図10に示すエンジンでは、ジャーナル部Jの軸心Jcの位置(クランク回転軸)がシリンダ中心軸から少し離れた位置にオフセットして配置される。又は、ジャーナル部Jの軸心Jcの位置がシリンダ中心軸上に配置されているものの、ピストンピンの軸心の位置がシリンダ中心軸から少し離れた位置にオフセットして配置される。この場合、最大荷重負荷角αは、前記
図8で説明したものと同様の三角形とオフセット量Loを幾何学的に考慮して求められる。
【0047】
2−2.設計要領
アーム部の曲げ剛性を高める実際の設計は、ノンパラメトリック形状最適化ソフトを用いることができる。ノンパラメトリック形状最適化ソフトでは、約10〜20数°の最大荷重負荷角αに傾斜した曲げ荷重が負荷されるアーム部をモデルとし、目的関数を曲げ剛性とし、制約条件を重量として、曲げ剛性及びねじり剛性の高い左右非対称形状のアーム部を設計できる。
【0048】
ほかの設計手法としては、アーム部が左右非対称形状のモデルを複数作成し、それぞれのモデルに最大荷重負荷角αに傾斜した曲げ荷重及びねじりトルクを負荷してFEM解析を実施し、目標とする剛性が得られる最良のものを選択するような試行錯誤的な設計手法でもよい。その場合は、近似的に最適な非対称形状のアーム部が得られる。
【0049】
ただし、ノンパラメトリック形状最適化ソフトを使用した場合の方が、より理論的に極値化された軽量で剛性の高いクランク軸になり、より望ましい結果が得られる点で有用である。もっとも、どのような設計手法であるにしろ、基本的には、最大荷重負荷角αに傾斜した曲げ荷重で曲げ剛性が最大となるようにアーム部の左右の形状を非対称に設計すればよい。
【0050】
図11は、本実施形態のクランク軸におけるアーム部の設計要領の一例を示すフロー図である。ここでは、ノンパラメトリック形状最適化ソフトを用いる。まず、クランク軸のアーム部を設計領域とし、1スローの解析モデルについて最大荷重負荷角αで傾斜した曲げ荷重Fmaxを負荷する。次に、アーム部の形状についての形状制約を加える。すなわち、回転最大半径、型鍛造クランク軸の場合は金型の抜き勾配と言ったように、設計上及び製造上の制約から許容できる形状の範囲を付加する。
【0051】
更に最適化解析では、曲げ剛性の向上を目的関数とし、解析の初期モデルを基準にして可能な限り曲げ剛性が上昇するような解析をする。このときの制約条件は、アーム部重量の軽量化であり、初期モデルの重量に対する低減の変化量を設定する。軽量化を図るときは、初期モデルに対してマイナスX%の軽量化という形式で指定する。
【0052】
繰り返し計算では、制約条件である軽量化が最初に満たされるように、アーム部形状が微小に変更されていく。制約条件(軽量化)が満足すると、それを維持しながら、今度は目的関数である曲げ剛性が上昇するように、アーム部形状の微小な修正が加えられる。
【0053】
更に曲げ剛性が限界まで上昇し、極値(最大値)に至っているか否かを判定する。すなわち、目的関数(曲げ剛性)の変化が無くなった状態を極値とし、この状態に達すると計算が収束したものと判定する。このとき、アーム部重量が目標の軽量化重量を満足すると同時に、最大荷重負荷角αで傾斜した最大曲げ荷重に対する剛性が理論的に最大になり、アーム部の曲げ剛性が目標の高剛性を満足している。このときのアーム部の形状は、アーム部中心線を境界にして左右非対称となる。
【0054】
2−3.具体例
2−3−1.目的関数として曲げ剛性の最大化
最大荷重負荷角αの曲げ荷重が負荷される時点でアーム部の曲げ剛性が最大になるようにアーム部形状を設計するためには、非対称なアーム部形状が必要条件である。以下では、材料力学に基づく簡単な具体例を示すが、これに限定した訳ではない。
【0055】
(A)材料力学による基礎的な知見
曲げ剛性に関し、一般的な材料力学における知識から、長方形梁材を例に挙げる。そうすると、その曲げ剛性と断面2次モーメントの関係は下記の式(7)〜式(9)で表される。これらの式の関係より、断面2次モーメントを大きくすることが、曲げ剛性を高めることになる。
【0056】
曲げ剛性:E×I …(7)
断面2次モーメント:I=(1/12)×b×h
3 …(8)
たわみ変位:v=k(M/(E×I)) …(9)
式(7)〜式(9)中、アーム部断面は矩形とみなし、b:アーム部幅、h:アーム部肉厚、E:縦弾性率、M:曲げモーメント、k:形状係数である。
【0057】
一方、ねじり剛性に関しては、一般的な材料力学の知識から、簡易な例として丸棒を挙げる。そうすると、そのねじり剛性と極2次モーメントの関係は下記の式(10)〜式(12)で表される。これらの式の関係より、断面を円形状に形成して極2次モーメントを大きくすることが、ねじり剛性を高め、望ましいことになる。ここで、ねじり中心軸から遠くに物質(質量)を配置すれば、極2次モーメントが増大する。このため、軽量化を図りつつ、ねじり剛性を高めるには、ねじり中心を中心点とする半径の大きい円形状に質量を多く形成するか、あるいは質量を円形に近く形成するのが望ましい。ここでは、設計指針の方向性を指摘しておく。
【0058】
ねじり剛性:T/γ …(10)
極2次モーメント:J=(π/32)×d
4 …(11)
ねじれ角:γ=T×L/(G×J) …(12)
式(10)〜式(12)中、L:軸方向長さ、G:横弾性率、d:丸棒の半径、T:ねじりトルクである。
【0059】
一般にクランク軸のアーム部は曲げ剛性を高くする必要がある。また、実際には、ねじり剛性も高くする必要性がある。したがって、アーム部の曲げ剛性を高め、更にねじり剛性を高めることを併行して行うことが望ましい。ただし、ねじり剛性の向上は付加的であるため、以下では、ねじり剛性について積極的には記述しない。
【0060】
(B)曲げに対し軽量で高剛性なアーム部形状が左右非対称であることの説明
上述のとおり、アーム部には、アーム部中心線に対して最大荷重負荷角αで傾斜した方向に、最大の曲げ荷重が負荷される。この点に着目し、軽量で剛性の高い梁の形状から、アーム部形状を左右非対称とすることが効果的であることを以下に示す。
【0061】
図12は、材料力学の梁理論における梁形状の一例を示す図であって、
図12(a)は矩形梁を、
図12(b)は軽量化梁をそれぞれ示す。アーム部を材料力学的に梁理論で単純化して考える。曲げ荷重を受ける梁について、剛性が高く、変形が小さくて、最も軽量な2次元の梁形状(板厚tが一定)は、
図12(a)に示すような、板幅Bが一定の矩形梁ではなく、
図12(b)に示すような、板幅Bが荷重点から固定端に向かって単調に増大する軽量化梁である。
【0062】
図13は、
図12(b)に示す軽量化梁の概念を利用した左右非対称のアーム部形状を示す図であって、
図13(a)は斜視図を、
図13(b)及び(c)はアーム部中心線に垂直な断面図をそれぞれ示す。ここで、
図13(b)は、ピン部の軸心より外側の断面、すなわちピン部の軸心からジャーナル部とは反対側寄りの断面を示す。
図13(c)は、ピン部の軸心より内側の断面、すなわちピン部の軸心からジャーナル部寄りの断面を示す。前記
図8及び
図10に示すような、アーム部中心線に対して最大荷重負荷角αで傾斜した方向に最大の曲げ荷重が負荷されるアーム部Aは、
図13(a)に示すように、板厚tの梁が複数積み重ねられて合成されたものとみなされる。その複数の梁の断面形状を、
図12(b)に示すような、固定端に向かって、板幅Bが単調増加する軽量化梁とすれば、最も軽量で剛性の高いアーム部Aが得られる。
【0063】
そのアーム部Aを、
図13(a)に示すように、アーム部中心線Acに垂直な平面で切断すれば、幾何学的な関係から、その断面は
図13(b)及び
図13(c)に示すようにアーム部中心線Acを境界にして左右非対称な形状になる。すなわち、アーム部Aは、アーム部中心線Acを境界にして左右のアーム部要素Ar、Afに区分され、右側のアーム部要素Arと左側のアーム部要素Afがアーム部中心線Acに対して非対称である。
【0064】
このように最大荷重負荷角αでアーム部Aに負荷される最大曲げ荷重に対し、アーム部Aは、左右非対称な形状とされることにより、軽量で効率的に剛性が高くなる。アーム部Aの非対称形状は数多く考えられる。例えば、
図14に示すように、荷重負荷角βをパラメータとして変化させ、その荷重負荷角βが最大荷重負荷角αの時点(すなわち燃焼圧による荷重の負荷が最大になる時点)において、曲げ剛性が最大になるようにアーム部Aを左右非対称な形状に設計すれば、贅肉の無い最も効率的な軽量化を達成できる。これにより、アーム部Aは、最軽量で高剛性となり、クランク軸の性能を最大限に発揮できる。
【0065】
このとき、
図13(b)に示すように、ピン部の軸心より外側の断面では、最大の荷重が負荷される側となる左側のアーム部要素Afの断面2次モーメントが、最大の荷重が負荷される側とは反対側となる右側のアーム部要素Arの断面2次モーメントよりも大きい構成とする。これと同時に、
図13(c)に示すように、ピン部の軸心より内側の断面では、最大の荷重が負荷される側とは反対側となる右側のアーム部要素Arの断面2次モーメントが、最大の荷重が負荷される側となる左側のアーム部要素Afの断面2次モーメントよりも大きい構成とする。
【0066】
2−3−2.目的関数として重量の最小化
最大荷重負荷角αの曲げ荷重が負荷される時点でのアーム部の曲げ剛性を一定にした条件で、アーム部の重量が最小となるようにアーム部形状を設計することは、上述したように、最大荷重負荷角αの曲げ荷重が負荷される時点でアーム部の曲げ剛性が最大になるようにアーム部形状を設計することと同等である。すなわち、目的関数として重量を最小化することは、曲げ剛性を最大化することを表現上で変えたものである。両者は、最適設計後に同一のアーム部形状を示し、要件が同じことを意味する。
【0067】
図15は、
図11に示すアーム部の設計要領において、目的関数として重量を最小化することと曲げ剛性を最大化することが同等であることを示す図である。
図15に示すように、アーム部の最適設計は、制約条件を剛性アップ、目的関数を重量減少にそれぞれ設定する場合と(
図15中の右側)、これとは内容を入れ替え、制約条件を重量減少、目的関数を剛性アップにそれぞれ設定する場合と(
図15中の左側)がある。両者の最適化は、途中の経過は異なるが、最終的に収束する設計形状は同じになる。例えば、両者は、収束形状がともに−B%の軽量化で、A%の剛性アップになり、アーム部形状が同じになる。
【0068】
2−3−3.アーム部の形状例
図16は、本実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を示す図である。
図17及び
図18は、その別例を示す図である。
図19は、従来のクランク軸におけるアーム部形状の一例を示す図である。いずれの図でも、(a)は1スローの斜視図を示し、(b)は(a)におけるアーム部中心線に垂直なC−C’位置での断面図を示す。更に、(c)は(a)におけるアーム部中心線に垂直でC−C’位置とは異なるD−D’位置での断面図を示す。ここで、各図(b)に示すC−C’位置は、ピン部の軸心より外側の位置であり、各図(c)に示すD−D’位置は、ピン部の軸心より内側の位置である。
【0069】
図16、
図17及び
図18に示すアーム部Aは、軽量で曲げ剛性が高く、アーム部中心線Acを境界にして左右非対称形状である。これらのアーム部形状は、前記
図11に示すとおりに、ノンパラメトリック形状最適化ソフトを用いた設計要領により、最大荷重負荷角αで傾斜した曲げ荷重の下で導出したものである。具体的には、ピン部Pへの燃焼圧による荷重の負荷が最大になる時点においてアーム部Aの曲げ剛性が最大となるように、アーム部Aがアーム部中心線Acに対して左右非対称にされている。これにより、アーム部Aは、アーム部中心線Acに対して左右非対称形状になる。更に、各図(b)に示すように、ピン部Pの軸心より外側の断面では、最大の荷重が負荷される側となる左側のアーム部要素Afの断面2次モーメントが、その反対側となる右側のアーム部要素Arの断面2次モーメントよりも大きくなっている。これと同時に、各図(c)に示すように、ピン部Pの軸心より内側の断面では、最大の荷重が負荷される側とは反対側となる右側のアーム部要素Arの断面2次モーメントが、その反対側となる左側のアーム部要素Afの断面2次モーメントよりも大きくなっている。
【0070】
特に、
図16に示すアーム部Aについて、左側のアーム部要素Afの最大厚みBafは、ピン部Pの軸心より外側の断面では、右側のアーム部要素Arの最大厚みBarよりも大きく(
図16(b)参照)、ピン部Pの軸心より内側の断面では、右側のアーム部要素Arの最大厚みBarよりも小さい(
図16(c)参照)。
【0071】
図17に示すアーム部Aは、
図16に示すアーム部Aを変形したものである。相違点は以下のとおりである。
図17に示すアーム部Aについて、左側のアーム部要素Afの幅Wfは、ピン部Pの軸心より外側の断面では、右側のアーム部要素Arの幅Wrよりも大きく(
図17(b)参照)、ピン部Pの軸心より内側の断面では、右側のアーム部要素Arの幅Wrよりも小さい(
図17(c)参照)。
【0072】
図18に示すアーム部Aは、
図17に示すアーム部Aを変形したものである。相違点は以下のとおりである。
図18に示すアーム部Aでは、アーム部中心線Acに対し、最大厚みが左右対称にされている。
【0073】
一方、
図19に示す従来のアーム部Aは、アーム部中心線Acを境界にして左右対称形状である。
【0074】
図20は、
図16に示す本実施形態のアーム部と
図19に示す従来のアーム部のそれぞれの曲げ剛性を比較して示す図である。
図21は、それらのそれぞれの1スローの重量を比較して示す図である。いずれの図でも、従来のアーム部を基準(100%)とした比率で表示している。
【0075】
図20に示すように、本実施形態のアーム部の曲げ剛性は、従来のアーム部よりも大きい。また、
図21に示すように、本実施形態のアーム部を含む1スローの重量は、従来のアーム部よりも軽くなる。つまり、本実施形態のように非対称形状のアーム部は、軽量で曲げ剛性も高くなる。
【0076】
以上のとおり、本実施形態のクランク軸は、実態を反映した条件下で、アーム部の形状がアーム部中心線を境界にして非対称とされるため、高い信頼性で曲げ剛性が向上し、これと同時に軽量化を図ることができる。このようなクランク軸は、本実施形態の設計方法により有効に得られる。
【0077】
なお、本発明のクランク軸は、あらゆるレシプロエンジンに搭載されるクランク軸を対象とする。すなわち、エンジンの気筒数は、2気筒、3気筒、4気筒、6気筒、8気筒及び10気筒のいずれでもよく、更に多いものであってもよい。エンジン気筒の配列も、直列配置、V型配置、対向配置等を特に問わない。エンジンの燃料も、ガソリン、ディーゼル、バイオ燃料等の種類を問わない。また、エンジンとしては、内燃機関と電気モータを複合してなるハイブリッドエンジンも含む。