【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記の課題を解決するために、高強度鋼板を含む板組の抵抗スポット溶接継手について検討を重ねた。発明者らは、溶接継手を構成する高強度鋼板の硬さ分布と、散りの発生との関係に着目した。
【0015】
すなわち
図2に示す、電極側表面付近Aの硬さ分布と、板組中央付近Bの硬さ分布を調査し、散りの発生との関係を検討した。なお、Aは、鋼板2の電極側表面から0.2mm以内の領域を示し、Bは、鋼板2における板組3の中央から0.2mm以内の領域を示している。
【0016】
この結果、溶接継手を構成する高強度鋼板の電極側表面付近Aの硬さ分布と板組中央付近Bの硬さ分布の関係と、散りの発生電流値との間に相関があることを見いだした。
【0017】
電極側表面付近Aと、板組中央付近Bの硬さ分布を比較した場合に、溶接の熱影響を受けた領域(熱影響部)と、前記熱影響部のうち溶接の熱影響により母材よりも軟化した領域(以下、軟化部)に着目すると、板組中央付近Bに比べて電極側表面付近Aの熱影響部径(熱影響部の板面方向の幅)が広ければ、散りの発生がなく大きなナゲット径が確保できる事が分かった。
【0018】
電極側表面付近Aの熱影響部径を板組中央付近Bの熱影響部径より広く形成すると、以下のような作用効果が得られると考えられる。
【0019】
ナゲットを形成する前に、板組中央付近Bに比べて電極側表面付近Aに対する熱影響を広く与える、すなわち板組中央付近Bに比べて電極側表面付近Aを広範に加熱することができれば、電極と接触する鋼板表面が十分に軟化する。このことにより、電極4と鋼板1、および電極5と鋼板2とが十分に接触し、鋼板1、2間に加圧力が広く伝わって、結果としてナゲット6の形成時に、散りの発生が抑制されると考えられる。
【0020】
さらに、電極と接触する鋼板表面が十分に軟化し、電極と鋼板の接触範囲が広がることにより、電極開放時の電極(銅電極)および鋼板表面のめっき層の接触部における温度も低温側に変化する。電極と鋼板の接触範囲が狭い場合は、溶接完了後の冷却が十分でなく、前記めっき層と銅電極が化学的に反応することで、電極開放時に銅電極の摩耗の原因となるが、電極と接触する鋼板表面を十分に軟化し、電極と鋼板の接触範囲を広げることでこの反応が抑制され、良好な電極状態を保つことが出来るものと考えられる。このことにより、連続打点試験においても良好な電極状態を保つことが出来るものと推察される。
【0021】
上記は溶接中の変化であるが、形成された継手の破断強度に関しても、発明者らは上記軟化部の影響を見いだした。すなわち、軟化部を拡大し、軟化部の板面方向の幅(以下、軟化幅)を増大させることで十字引張試験における破断を抑制できる。十字引張試験のような継手の剥離方向が荷重方向の場合、軟化部が降伏することにより、ナゲット端部に負荷される開口応力が軽減する。このことにより、軟化幅を拡大することにより、ナゲットでの破断を抑制し、結果的に十字引張強さを向上させることが出来る。この軟化幅の拡大は、ナゲット形成後に後通電を適切に行うことにより得られることを見いだした。
【0022】
また、ナゲット形成後の後通電時に、高温加熱することにより、ナゲット端部のP偏析を拡散させて低減させることで、十字引張強度を向上させることができる。
【0023】
このように散りの発生を抑制しつつ安定的にナゲットを形成することで、連続した数百点の打点で溶接するような場合であっても、十分なナゲット径を確保できることを見いだした。
【0024】
すでに述べたように、電極側表面付近Aを板組中央付近Bより広く軟化させ、散りの発生を抑制して安定的にナゲットを形成することで、連続した数百点の打点で溶接するような場合であっても、十分なナゲット径を確保できる。
【0025】
そのためにはナゲット形成前の予備通電を高電流化することにより、電極近傍を高電流密度化する。その結果として、電極近傍において所定の発熱量が得られ、ナゲット形成前に電極側表面付近Aを十分に軟化できる。さらに軟化部を拡大するためには、適切な無通電(冷却)時間を各通電の間に設定する必要がある。これは、無通電(冷却)時間の間に、伝熱により周囲の温度が昇温することで、電極から離れた部分が軟化され、軟化部が拡大するためである。
【0026】
また、ナゲット形成後に、ナゲット6を形成する電流値よりも高い電流値で後通電することで、同様に、電極近傍が高電流密度化し、その結果として、電極近傍において所定の発熱量が得られ、ナゲット形成後にも、電極側表面付近Aを軟化させることができる。なお、前記後通電によりナゲット形成後に軟化部を拡大させる際に、ナゲット6を高温に加熱できて、ナゲット端部のP偏析を緩和させることもできる。また、本通電と、ナゲット形成後の後通電との間に、適切な無通電(冷却)を挟むことにより、電極近傍を低温に保ち、硬化させないようにすることもできる。
【0027】
本発明は、このような検討の結果得られたものであり、その要旨構成は次とおりである。
[1] 鋼板を重ねた板組を抵抗スポット溶接する方法であって、
本通電と、本通電より前の予備通電と、本通電の後の後通電とを行い、前記各通電の間には通電を休止する無通電時間が設けられ、
本通電の電流値をIm[kA]、通電時間をTm[ms]とし、
予備通電の電流値をIp[kA]、通電時間をTp[ms]、
予備通電と本通電の間の無通電時間をTcp[ms]、
後通電の電流値をIr[kA]、通電時間をTr[ms]、
本通電と後通電の間の無通電時間をTcr[ms]としたとき、
以下の式(1)〜(6)を満たす抵抗スポット溶接方法。
【0028】
1.05 × Im ≦ Ip ≦ 2.0 × Im (1)
1.05 × Im ≦ Ir ≦ 2.0 × Im (2)
40ms ≦ Tp ≦ 100ms (3)
40ms ≦ Tr ≦ 100ms (4)
10ms ≦ Tcp ≦ 60ms (5)
80ms ≦ Tcr ≦ 300ms (6)
[2] さらに以下の式(7)および式(8)を満たす[1]に記載の抵抗スポット溶接方法。
【0029】
160ms ≦ Tm ≦ 500ms (7)
0.25 ≦ Rpm ≦ 0.95 (8)
ただし、Rpm = (Ip / Im)
2 × (Tp / Tm)
[3] 予備通電を2回以上行い、
各予備通電の間には通電を休止する無通電時間が設けられ、
2回目以降の予備通電を、前の回の予備通電の電流値以下の電流値で行う[1]または[2]に記載の抵抗スポット溶接方法。
[4] さらに以下の式(9)を満たす[1]乃至[3]のいずれかに記載の抵抗スポット溶接方法。
【0030】
0.10 ≦ Rmr≦ 1.50 (9)
ただし、Rmr = (Ir / Im)
2 × (Tr / Tm)
[5] 後通電を2回以上行い、
各後通電の間には通電を休止する無通電時間が設けられる[1]乃至[4]のいずれかに記載の抵抗スポット溶接方法。
[6] 板組のうち少なくとも1枚の鋼板は、引張強度780MPa以上を有する高強度鋼板である[1]乃至[5]のいずれかに記載の抵抗スポット溶接方法。