(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
冷間鍛造は鍛造後の部品の表面肌、及び寸法精度に優れ、また、冷間鍛造によって製造される部品は、熱間鍛造によって製造される部品に比べて製造コストが低く、歩留まりも良好である。そのため、冷間鍛造は、ギアやシャフト、ボルトなどの自動車をはじめとする各種産業機械や建築構造物用の部品の製造に広く適用されている。
【0003】
近年、自動車、産業機械等に用いる機械構造用部品においては小型・軽量化が進み、建築構造物においては大型化が進んでいる。このような背景から、冷間鍛造によって製造される部品にはより一層の高強度化が望まれている。
【0004】
これらの冷間鍛造部品には、従来、JIS G 4051に規定される機械構造用炭素鋼鋼材、JIS G 4053に規定される機械構造用合金鋼鋼材などが使用されている。これらの鋼材は、一般に、棒鋼や線材の形状に熱間で製品圧延された鋼材を、球状化焼鈍し、引抜や冷間伸線する工程を繰り返した後、冷間鍛造によって部品形状に成形し、焼入れ・焼戻しなどの熱処理によって所定の強度や硬さに調整される。
【0005】
上記のような機械構造用鋼材は0.20〜0.40%程度の比較的高い炭素量を含有しており、調質処理を経て高強度部品として使用することが出来る。一方、上記のような機械構造用鋼材は鍛造素材となる圧延鋼材である棒鋼や線材の強度が高くなる。そのため、製造過程において、冷間伸線及びその後の球状化焼鈍の工程を付加して鋼材を軟質化しなければ、部品成形のための冷間鍛造時に金型の摩耗や割れが生じやすく、また、部品に割れが発生するなど、製造上の問題が生じる。
【0006】
特に近年、部品が高強度化すると共に、部品形状が複雑化する傾向がある。部品形状が複雑になるほど割れの発生が懸念されるので、焼入れ・焼戻しによって高い強度が得られる鋼材を冷間鍛造前にさらに軟質化させる目的で、球状化焼鈍処理を長時間化したり、冷間伸線工程及び球状化焼鈍工程を複数回繰り返したりするなどの対策が取られている。
【0007】
しかしながら、これらの対策は人件費や設備費などのコストがかかるだけでなく、エネルギーロスも大きい。そのため、この工程を省略もしくは短時間化することが出来る鋼材が望まれている。
【0008】
このような背景のもと、球状化焼鈍処理を省略もしくは短時間化することを目的として、C、Cr、Mnなどの合金元素の含有量を低減して鍛造素材となる圧延鋼材の強度を低減した上で、合金元素の低減による焼入れ性の低下をボロン添加で補ったボロン鋼等が提案されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、結晶粒粗大化防止特性と冷間鍛造性とに優れた冷間鍛造用熱間圧延鋼材及びその製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1には、C:0.10〜0.60%、Si:0.50%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Cr:0.25%以下、B:0.0003〜0.0050%、N:0.0050%以下、Ti:0.020〜0.100%を含み、かつ鋼のマトリックス中に直径0.2μm以下のTiC又はTi(CN)を20個/100μm
2以上を有することを特徴とする、結晶粒粗大化特性と冷間鍛造性とに優れた冷間鍛造用熱間圧延鋼材とその製造方法が開示されている。
【0010】
また、特許文献2には冷間加工用機械構造用鋼及びその製造方法が開示されている。具体的には、C、Si、Mn、P、S、Al、N、及びCrを含有し、金属組織が、パーライトと初析フェライトとを有し、全組織に対するパーライトと初析フェライトとの合計面積率が90%以上であるとともに、初析フェライトの面積率Aが、Ae=(0.8−Ceq)×96.75(但し、Ceq=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]+0.11×[Cr]([(元素名)]は各元素の含有量(質量%)を意味する)で表されるAeとの間でA>Aeの関係を有し、初析フェライト及びパーライト中のフェライトの平均粒径が15〜25μmであることを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼とその製造方法が開示されている。また、特許文献2の冷間加工用機械構造用鋼では、通常の球状化処理を施すことによって、十分な軟質化を実現できることが開示されている。
【0011】
特許文献1に開示されている技術によれば、圧延鋼材の硬さが低減できる。そのため、低コストで冷間鍛造が可能であり、また、焼入れ加熱時の結晶粒粗大化防止特性を具備することが出来る。しかしながら、特許文献1の鋼材は、鋼のCr含有量が低いので、焼入れ性が低く、部品の強度を高めることには限界がある。
【0012】
特許文献2に開示されている冷間加工用機械構造用鋼は、通常の球状化焼鈍処理を施すことで、軟質化が可能であり、高強度部品に適用可能である。しかしながら、鋼の化学成分の含有量のバランスが最適化されておらず、また圧延鋼材の組織のフェライト分率が実質的に小さい。そのため製品圧延したままや短時間の球状化焼鈍処理を施した状態の鋼材を、部品の冷間鍛造時に使用すると割れが生じ、低コストで部品を製造することが出来ない問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明一実施形態に係る冷間鍛造部品用圧延棒鋼または圧延線材(本実施形態に係る圧延棒線と言う場合がある)ついて詳しく説明する。以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0028】
(A)化学組成(化学成分)について:
【0029】
C:0.24〜0.36%
Cは、鋼材の焼入れ性を高め、強度向上に寄与する元素である。この効果を得るため、C含有量を0.24%以上とする。さらに冷間鍛造部品の焼入れ硬さを高めたい場合には、Cの含有量を0.26%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.36%を超えると、冷間鍛造性が低下する。したがって、C含有量を0.36%以下とする。さらに冷間鍛造性を高めたい場合は、C含有量を0.33%以下とすることが好ましい。
【0030】
Si:0.40%未満
熱間圧延後(圧延まま)の圧延鋼材の引張り強度を下げるために、Si含有量は低ければ低いほど好ましいので、Si含有量は0%でもよい。一方、Siは固溶強化によってフェライトを強化するので、冷間鍛造部品の焼戻し硬さを高める効果を得ることを目的として、Siを含有させてもよい。しかしながら、Si含有量が0.40%以上では冷間鍛造性が著しく低下するので、含有させる場合でも、Si含有量は0.40%未満とする必要がある。冷間鍛造性の観点からは、Si含有量を0.30%未満とすることが好ましく、さらには0.20%未満とすることがより好ましく、圧延鋼材の引張強度も考慮すると、0.10%以下であることがなお一層好ましい。
【0031】
Mn:0.20〜0.45%
Mnは、鋼材の焼入れ性を高める元素であり、この効果を得るため、Mn含有量を0.20%以上とする。より焼入れ性を高めるためには、Mnは0.25%以上含有することが好ましい。一方、Mn含有量が0.45%を超えると、仕上げ圧延後の冷却時にフェライト変態の開始温度が低下することによって、フェライト分率が低下するとともにベイナイトが生成し、その結果、鋼材の冷間鍛造性が低下する。そのため、Mn含有量を0.45%以下とする。さらに冷間鍛造性を向上させたい場合はMn含有量を0.42%以下とすることが好ましく、0.40%以下とすることがより好ましく、0.35%以下とすることがなお一層好ましい。
【0032】
S:0.020%未満
Sは、不純物として含有される。Sは冷間鍛造性を低下させる元素であり、その含有量は少ない方が好ましい。特に、S含有量が0.020%以上になると、MnSは延伸された粗大な形態となり、冷間鍛造性が著しく低下する。そのため、S含有量を0.020%未満に制限する。好ましくは、0.010%未満である。
【0033】
P:0.020%未満
Pは、不純物として含有される。Pは、冷間鍛造性を低下させるだけでなく、オーステナイト温度域への加熱時に粒界に偏析して焼入れ時の割れ発生の要因となる元素である。そのため、P含有量は少ない方が好ましい。特に、P含有量が0.020%以上になると冷間鍛造性の低下や割れの発生が著しくなる。そのため、P含有量を0.020%未満とする。好ましくは、0.010%未満である。
【0034】
Cr:0.70〜1.45%
Crは、Mnと同様に、鋼材の焼入れ性を高める元素である。この効果を得るため、Cr含有量を0.70%以上とする。安定して高い焼入れ性を得るためには、Cr含有量を0.80%以上とすることが好ましく、0.90%以上とすることがより好ましい。一方、Cr含有量が1.45%を超えると、焼入れ性は高まるが、仕上げ圧延後の冷却時にフェライト変態の開始温度が低下してフェライト分率が低下し、ベイナイトが生成する。その結果、鋼材の冷間鍛造性が低下する。そのため、Cr含有量を1.45%以下とする。さらに冷間鍛造性を高めたい場合には、Cr含有量を1.30%以下とするのが好ましく、1.20%以下とすることがより好ましい。
【0035】
Al:0.005〜0.060%
Alは脱酸作用を有する元素である。また、Alは、Nと結合してAlNを形成し、そのピンニング効果により熱間圧延時のオーステナイト粒を微細化し、ベイナイトの生成を抑制する作用を有する元素である。これらの効果を得るため、Al含有量を0.005%以上とする。ベイナイトの生成をより確実に抑制したい場合には、Alの含有量を0.015%以上とするのが望ましく、0.020%以上とすることがより好ましい。一方、Al含有量が0.060%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、粗大なAlNが生成して冷間鍛造性が低下する。そのため、Al含有量を0.060%以下とする。冷間鍛造性を高める観点から、Al含有量は0.050%以下であることが好ましく、0.045%以下であることがより好ましい。
【0036】
Ti:0.010%超、0.050%以下
Tiは、NやCと結合して、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成し、それらのピンニング効果によって熱間圧延時にオーステナイト粒を微細化する効果を有する元素である。オーステナイト粒の微細化は、仕上げ圧延後の冷却過程でのベイナイトの生成を抑制し、フェライト分率の向上に寄与する。また、Tiは、鋼中に固溶するNをTiNとして固定してBNの生成を抑制するので、Bによる焼入れ性向上の効果を高める作用も有する。これらの効果を得るため、Ti含有量を0.010%超とする。Ti含有量は0.020%以上とすることが好ましく、0.025%超とすることがより好ましい。一方、Ti含有量が0.050%を超えると、仕上げ圧延時に微細なTiの炭化物や炭窒化物が多く析出し、フェライトが強化されて引張り強度が過剰に高くなる。そのため、Ti含有量を0.050%以下とする。Ti含有量は0.040%以下であることが好ましく、0.035%以下であることがより好ましい。
【0037】
Nb:0.003〜0.050%
Nbは、CやNと結合して、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成して、または、Tiとともに複合炭窒化物を形成して、それらのピンニング効果により熱間圧延時にオーステナイト粒を微細化する効果を有する元素である。オーステナイト粒の微細化は、仕上げ圧延後の冷却過程でのベイナイト生成を抑制し、フェライト分率の向上に寄与する。また、Nbの炭化物、窒化物又は炭窒化物は、冷間鍛造部品を焼入れする際の加熱時の結晶粒の異常粒成長を抑制する。これらの効果を得るため、Nb含有量を0.003%以上とする。Nb含有量は、0.005%以上であることが好ましく、さらに安定してこれら効果を得たい場合にはNb含有量を0.010%以上とすることがより好ましい。一方、Nb含有量が0.050%を超えると、これらの効果が飽和するだけでなく、冷間鍛造性が低下する。そのため、Nb含有量を0.050%以下とする。Nb含有量は0.040%以下であることが好ましく、0.030%以下であることがより好ましい。
【0038】
B:0.0003〜0.0040%
Bは、微量の含有で焼入れ性を高めるのに有効な元素である。この効果を得るため、B含有量を0.0003%以上とする。焼入れ性をさらに高めたい場合には、Bの含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0010%以上とすることがより好ましい。一方、B含有量が0.0040%を超えると、焼入れ性向上効果が飽和するとともに、冷間鍛造性が低下する。冷間鍛造性をさらに向上させる場合には、B含有量を0.0030%以下とすることが好ましく、0.0025%以下とすることがより好ましい。
【0039】
N:0.0020〜0.0080%
NはAl、TiやNbと結合して窒化物や炭窒化物を生成し、熱間圧延時のオーステナイト粒の微細化や冷間鍛造部品を焼入れする際の加熱時の異常粒成長を抑制する効果を有する。その効果を得るために、N含有量を0.0020%以上とする。好ましくは0.0030%以上である。一方、N含有量が過剰になると、効果が飽和するばかりではなく、NとBとが結合して窒化物が生成され、Bによる焼入れ性向上の効果が弱まる。そのため、N含有量を0.0080%以下とする。安定して焼入れ性を向上させるには、N含有量を0.0070%未満とすることが好ましく、0.0060%以下とすることがより好ましい。
【0040】
本実施形態に係る棒線では、各元素の含有量に加えて、元素の含有量のバランスも制御する必要がある。具体的には、下記式<1>で表されるY1と、式<2>で表されるY2が、式<3>で表される関係を満足する。
Y1=[Mn]×[Cr] 式<1>
Y2=0.134×(D/25.4−(0.50×√[C]))/(0.50×√[C]) 式<2>
Y1>Y2 式<3>
ここで、式中の[C]、[Mn]、[Cr]は、それぞれの元素の質量%での含有量を表し、Dは圧延棒線の直径(mm)を表す。
【0041】
Y1>Y2であれば、一般的な焼入れ、焼戻し(例えば880〜900℃の温度域に加熱後、油冷による焼入れを行い、400℃〜600℃ で焼戻しを実施)による調質処理後、中心部においてHRC硬さで34以上となる焼入れ性を有する。
【0042】
式<1>〜式<3>について説明する。
Y1は、上述の通り、鋼に含有されるMn、Crの質量%の積で表される値であり、高強度冷間鍛造部品用圧延棒線に求められる焼入れ性のパラメータである。
Y2は、直径がD(mm)である圧延棒線をAc3点以上の温度まで加熱し、油冷による焼入れ処理をした場合における、圧延棒線の中心部である表面からD/2(mm)位置において得られるマルテンサイト組織の分率に影響する、Dと[C]との関係を表すパラメータである。油冷による焼入れ処理の冷却速度は圧延棒線の直径Dによっても変わるが、一般的に10〜40℃/sec程度である。
Ac3点は、化学組成に基づき、公知の計算式、例えばAc3=912.0−230.5×C+31.6×Si−20.4×Mn−39.8×Cu−18.1×Ni−14.8×Cr+16.8×Moから算出することができる。または、実験的に、加熱昇温時の鋼材の膨張率を測定し、膨張率の変化から推定することもできる。
【0043】
焼入れ、焼戻しによる調質処理後、中心部においてHRC硬さ34以上を得るためには、圧延棒線中心部(D/2部)における焼戻しを行う前の焼入れ硬さがHRC硬さで45以上となるように制御する必要がある。そして、焼入れ硬さをHRC硬さで45以上とするためには、焼入れ硬さに大きな影響を及ぼすC、Mn、Crの含有量を調整しなければならない。
組織がマルテンサイトであれば、その硬さは、C含有量でほぼ決定されるとともに、C含有量が本実施形態に係る圧延棒線の範囲内であればHRC硬さで45以上となる。そのため、HRC硬さで45以上の焼入れ硬さを確保するためには、焼入れ後の組織を主として(組織分率で90%以上)マルテンサイトとすればよい。
【0044】
本発明者らの検討の結果、Mn含有量とCr含有量とを所定の値以上とすることで、圧延棒線の中心部において、焼入れ後に90%以上のマルテンサイトが得られることを見出した。具体的には、焼入れ性を高めるMn及びCrの含有量の積で表されるY1が、圧延棒線の中心部において得られるマルテンサイト組織の分率に影響する、Dと[C]との関係を表すパラメータY2よりも大きい場合に、焼入れ後の圧延棒線の中心部の組織が90%以上のマルテンサイトを含むことを見出した。したがって、本実施形態に係る圧延棒線では、Y1>Y2とする。一方、Y1≦Y2の場合には、焼入れ時にベイナイトやフェライトなどの不完全焼入れ組織が生成し、マルテンサイトを90%以上確保できなくなる。この場合、強度や耐水素脆化特性が低下する。
【0045】
図2は、圧延棒線の径が15mm、かつ、C含有量が0.30%の場合のCr含有量及びMn含有量と、焼入れ性との関係を示す図である。
図2においては、Mn含有量及びCr含有量が、境界線Bよりも上側にある場合に、Y1>Y2であり、焼入れ後の圧延棒線の中心部の組織の90%以上がマルテンサイトとなる。
【0046】
焼入れ性の具体的な目安は、JIS G 0561 鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)、いわゆるジョミニ試験において、少なくとも焼入れ端から7mm位置での硬さJ7mmがHRC硬さ45以上であればよい。
【0047】
焼入れ後の圧延棒線の硬さは圧延棒線の直径Dにも依存するため、焼入れ性の観点からは、圧延棒線の直径Dは小さいことが望ましいが、高強度冷間鍛造部品へ適用する場合、圧延棒線としては直径6〜35mm程度が好ましく8〜16mmの範囲であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態に係る圧延棒線は、上記の化学成分を含有し、残部がFe及び不純物であることを基本とする。しかしながら、残部のFeの一部に代えて、必要に応じて、Cu、Ni、Mo、V、Zr、Ca及びMgから選択される少なくとも1種以上の元素を含有させてもよい。ただし、これらの元素は必ずしも含有させる必要はないので、その下限は0%である。ここで、「不純物」とは、意図せずに鋼材中に含有される成分であり、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入するものを指す。
【0049】
以下、任意元素であるCu、Ni、Mo、V、Zr、Ca及びMgの作用効果と、含有させる場合の好ましい含有量について説明する。
【0050】
Cu:0.50%以下
Cuは、焼入れ性を高める元素であり、含有させてもよい。この効果を安定して得るためには、Cu含有量は0.03%以上であることが好ましく、0.05%以上であればより好ましい。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、焼入れ性が高くなりすぎ、仕上げ圧延後にベイナイトが生成して、冷間鍛造性の低下を招く。したがって、含有させる場合であっても、Cu含有量を0.50%以下とする。冷間鍛造性を向上させる観点から、含有させる場合のCu含有量は0.30%以下であることが好ましく、0.20%以下であればより好ましい。
【0051】
Ni:0.30%以下
Niは、焼入れ性を高める元素であり、含有させてもよい。この効果を安定して得るためには、Ni含有量は0.01%以上であることが好ましく、0.03%以上であればより好ましい。一方、Ni含有量が0.30%を超えると、その効果が飽和するばかりか、焼入れ性が高くなりすぎ、仕上げ圧延後にベイナイトが生成して、冷間鍛造性の低下を招く。したがって、含有させる場合であっても、Ni含有量を0.30%以下とする。冷間鍛造性を向上させる観点から含有させる場合のNi含有量は0.20%以下であることが好ましく、0.10%以下であればより好ましい。
【0052】
Mo:0.050%以下
Moは、固溶強化によって鋼材を強化する元素であり、鋼材の焼入れ性を大きく向上させる。この効果を得るため、Moを含有させてもよい。この効果を安定して得るためには、Mo含有量は0.005%以上であることが好ましい。一方、Mo含有量が0.050%を超えると、仕上げ圧延後にベイナイトやマルテンサイトが生成し、冷間鍛造性の低下を招く。したがって、含有させる場合であっても、Mo含有量を0.050%以下とする。冷間鍛造性を向上させる観点から含有させる場合のMo含有量は0.030%以下であることが好ましく、0.020%以下であればより好ましい。
【0053】
V:0.050%以下
Vは、C及びNと結合して、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成する元素である。また、Vは、微量の含有で鋼の焼入れ性を向上させる元素でもある。このため、Vを含有させてもよい。これらの効果を安定して得るためには、V含有量は0.005%以上であることが好ましい。一方、V含有量が0.050%を超えると、析出する炭化物や炭窒化物によって圧延鋼材の強度が増大し、冷間鍛造性の低下を招く。したがって、含有させる場合であってもV含有量を0.050%以下とする。冷間鍛造性を向上させる観点から含有させる場合のV含有量は0.030%以下であることが好ましく、0.020%以下であればより好ましい。
【0054】
Zr:0.050%以下
Zrは、微量の含有で鋼材の焼入れ性を向上させる作用を有する元素である。その目的で微量のZrを含有させてもよい。この効果を安定して得るためには、Zr含有量は0.003%以上であることが好ましい。一方、Zr含有量が0.050%を超えると、粗大な窒化物が生成し、冷間鍛造性が低下する。したがって、含有させる場合であってもZr含有量を0.050%以下とする。冷間鍛造性を向上させる観点から含有させる場合のZr含有量は0.030%以下であることが好ましく、0.020%以下であればより好ましい。
【0055】
Ca:0.0050%以下
CaはSと結合して、硫化物を形成し、MnSの生成核として作用する。CaSを生成核としたMnSは、微細に分散し、仕上げ圧延後の冷却時にフェライトが析出するための生成核となるので、微細に分散したMnSが存在すると、フェライト分率が向上する。すなわち、Caを含有させることで、フェライト分率の向上が図れるので、Caを含有させてもよい。この効果を安定して得るためには、Ca含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Ca含有量が0.0050%を超えても、上記効果が飽和するだけでなく、CaがAlとともに鋼中の酸素と反応して粗大な酸化物を生成することによって、冷間鍛造性が低下する。したがって、含有させる場合であっても、Ca含有量を0.0050%以下とする。冷間鍛造性を向上させる観点から、含有させる場合のCa含有量は0.0030%以下であることが好ましく、0.0020%以下であればより好ましい。
【0056】
Mg:0.0050%以下
MgはSと結合して、硫化物を形成し、MnSの生成核として作用する元素であり、MnSを微細に分散させる効果を有する。MnSが微細に分散することで、仕上げ圧延後の冷却時に分散したMnSを生成核としてフェライトが析出するので、フェライト分率が向上する。この効果を得るため、Mgを含有させてもよい。この効果を安定して得るためには、Mg含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Mg含有量が0.0050%を超えても、その効果は飽和する。また、Mgは添加歩留まりが悪く、製造コストを悪化させるため、含有させる場合のMgの量は0.0030%以下であることが好ましく、0.0020%以下であればより好ましい。
【0058】
本実施形態に係る圧延棒線は冷間鍛造性に優れている。そのため、製品圧延後の球状化焼鈍処理を省略或いは短い時間で処理したとしても、冷間鍛造時の金型寿命が短くなったり、成形時に部品に割れが生じたりすることはない。これは、上述のように調整された鋼の化学成分だけでなく、圧延鋼材の製造条件をコントロールすることによって、圧延鋼材の組織や析出物を冷間鍛造に適するよう制御し、鋼材の強度を低下していることによる。本実施形態において、冷間鍛造性に優れるとは、例えば、圧延棒線から切り出したφ10.5mm×40mmLの丸棒を
図1に示すボルトに加工した場合でも割れが発生しないことを言う。
【0059】
引張り強度が750MPaを超える場合、冷間鍛造時に部品の割れが生じる可能性が大きくなる。そのため、本実施形態に係る圧延棒線では、後述するように組織を制御した上で、引張り強度を750MPa以下とする必要がある。
引張り強度が750MPaを超えても、20時間程度の長時間の球状化焼鈍処理、または複数回の球状化焼鈍処理(例えば10時間×2回)を行えば、冷間鍛造時に部品の割れが生じにくくなる。しかしながら、本実施形態に係る圧延棒線は、球状化焼鈍処理を省略あるいは少なくとも10時間以内で熱処理が完了するように短時間化しても冷間鍛造性を確保できることを目的としている。この目的を達成するため、本実施形態に係る圧延棒線では、引張り強度に上限を設ける。圧延棒線の引張り強度は700MPa以下であることが好ましく、650MPa以下であることがより好ましい。
【0061】
本実施形態に係る圧延棒線は冷間鍛造性に優れている。そのため、従来20時間程度要していた製品圧延後の球状化焼鈍処理を省略する、または、半分程度の時間で処理する、あるいは、2回以上行っていた球状化焼鈍処理を1回にする等したとしても、冷間鍛造時の金型寿命低下や、成形部品の割れなどの障害が生じない。これは、鋼の化学成分の調整だけでなく、圧延棒線の製造条件をコントロールすることによって、圧延棒線の金属組織を冷間鍛造に適した形態に制御しているためである。
【0062】
具体的には、本実施形態に係る圧延棒線では、脱炭層が生成する可能性のある、表面から100μmの範囲である表層部分を除いた部分の組織(内部組織)が、フェライト・パーライト組織であって、かつフェライトの分率が40%以上である。ここで、フェライト・パーライト組織とは、面積率で全体の95%以上がフェライトとパーライトとの混合組織である組織(フェライトの面積率とパーライトの面積率との合計が95%以上である組織)を言う。また、フェライト分率の測定において、フェライトには、パーライトに含まれるラメラセメンタイト間のフェライト相は含まない。フェライトとパーライトとの混合組織が面積率で全体の95%以上であるとは、マルテンサイトやベイナイト等のフェライト及びパーライト以外の組織の面積率の合計が5%未満であることを意味する。良好な冷間鍛造性を得るには、フェライトとパーライトとの混合組織が面積率で全体の95%以上とする必要があり、100%であることが望ましい。
【0063】
内部組織において、フェライト分率が40%未満の場合には、引張り強度が750MPa以下であっても良好な冷間鍛造性が確保できず、成形時に部品に割れが生じたり、金型寿命が短くなるといった問題が生じる。フェライト分率は45%以上であることが望ましく、50%以上であればより好ましい。フェライト分率の上限は特に規定しないが、熱間圧延ままでフェライト分率を80%超にするためには、パーライト組織を形成するラメラーセメンタイトを球状化させる必要があり、そのためには圧延後に長時間の均熱処理が必要となるため、コストが嵩み、工業的に実現することが困難になる。したがってフェライト分率の上限を80%としてもよい。
また、フェライトとパーライトとの混合組織が面積率で全体の95%未満である場合、マルテンサイトやベイナイトなどの硬質組織によって、圧延棒線の引張強度が750MPaを超えるおそれがある。また、硬質組織が破壊の起点となることで、冷間鍛造性が低下することが懸念される。
【0064】
各組織の同定、及び面積率の算定は、例えば以下のように行う。
圧延棒線を10mmの長さに切断した後、横断面が被検面になるように樹脂埋めし、鏡面研磨を行う。次いで、3%硝酸アルコール(ナイタル腐食液)で表面を腐食してミクロ組織を現出させる。その後、圧延棒鋼または圧延線材のD/4位置(D:圧延鋼材の直径)に相当する位置で倍率を500倍として光学顕微鏡にて5視野のミクロ組織写真を撮影して「相」を同定し、画像解析ソフトを用いて各視野のフェライト面積率をフェライト分率として測定し、平均値を求める。また、フェライトとパーライトとの合計の分率は、同様にパーライト分率を求め、フェライト分率とパーライト分率とを合計することで求める。
【0065】
(D)好ましい製造プロセスについて
本実施形態に係る圧延棒線は、鋼の化学成分だけではなく、圧延ままの組織を制御することが重要である。したがって、化学成分及び組織形態が本発明の範囲であれば、その製造方法によらず本実施形態に係る圧延棒線に含まれる。
しかしながら、所定の化学成分を有する鋼材に、以下の示す各工程を含む製造プロセスを適用すれば、圧延ままの組織を安定して好ましい範囲に制御することができる。以下、好ましい製造条件について詳細に説明する。
【0066】
<鋼片製造工程>
まず、C、Si、Mn、Cr、Nb等の化学成分を調整し、転炉や通常の電気炉等によって溶製した溶鋼を鋳造して鋼塊や鋳片を得る。得られた鋼塊や鋳片を、分塊圧延して鋼片(製品圧延用素材)とする。本実施形態に係る圧延棒線を得るには、後述する圧延前加熱工程よりも前の段階で、1250℃以上に高温加熱して少なくとも30min以上の均熱時間を確保した上で冷却する、高温均熱処理を行うことが好ましい。これは、凝固時に生成したNb(C、N)やNbC、Ti(C、N))、TiC等の粗大な炭窒化物や炭化物を、一旦鋼に固溶させて、冷却過程で微細に再析出させるためである。冷却過程で析出した微細な炭窒化物や炭化物は、その後に行う熱間での製品圧延時の加熱の際にピンニング粒子として作用し、オーステナイト粒の粗大成長防止に寄与する。またその結果、製品圧延後の冷却の際に析出するフェライト組織は微細化してフェライト分率が高くなる。
高温均熱処理は、鋼塊や鋳片を分塊圧延する際の加熱の段階で行ってもよく、鋼塊や鋳片を1250℃未満の温度に加熱して分塊圧延した後に分塊圧延で製造した鋼片を、1250℃に再加熱しても構わない。いずれにしても、後述する1050℃以下に加熱して熱間で製品圧延するよりも前の段階で1250℃以上に高温加熱し、少なくとも30min以上の均熱時間を確保することが有効である。
【0067】
<圧延前加熱工程>
その後、圧延に先立ち、鋼片を加熱する。このときの加熱温度は圧延が可能な範囲で1050℃以下とすることが好ましい。加熱温度を高くしすぎると前述の高温均熱処理によって再析出した微細な炭窒化物や炭化物が再び固溶し、製品圧延後の冷却時のフェライト変態に併せて整合析出するので製品圧延後の強度が高くなり、冷間鍛造性が低下することが懸念される。圧延前の加熱によって固溶しないNb(C、N)やNbC、Ti(C、N)、TiCの炭窒化物や炭化物は、製品圧延後の強度に影響を及ぼさず、冷間鍛造性を劣化させない。また、Nbの炭窒化物や炭化物は冷間鍛造後の焼入れ時にAc3点以上に加熱しても結晶粒の異常粒成長を抑制する効果を有する。
【0068】
<圧延工程>
加熱後、仕上げ圧延を含む製品圧延によって、所定の径の棒鋼または線材とする。仕上げ圧延は製品圧延の最終工程における仕上げ圧延機列で実施される圧延である。仕上げ圧延では、加工速度Zを5〜15/secとし、750〜850℃の圧延温度範囲で行うことが好ましい。加工速度Zは、仕上げ圧延による鋼材の断面減少率及び仕上げ圧延時間から下記式(i)によって求められる値である。また、仕上げ圧延温度は仕上げ圧延機列出側の温度を、赤外線放射温度計などを用いて測定すればよい。仕上げ圧延の温度、加工速度を管理することでフェライト変態前のオーステナイト粒がより微細となり、フェライト分率が高くなるので、所定の引張り強度、組織を得ることが出来る。
【0069】
Z={−ln(1−R)}/t ・・・・(i)
ここで、Rは仕上げ圧延による鋼材の断面減少率であり、tは仕上げ圧延時間(秒)を指す。
【0070】
断面減少率Rは圧延棒線の仕上げ圧延前の断面積A
0と仕上げ圧延後の断面積AからR=(A
0−A)/A
0によって求められる。
【0071】
仕上げ圧延時間tは圧延棒線が仕上げ圧延機列を通過する時間(秒)であり、仕上げ圧延機列の最初の圧延機から最後の圧延機までの距離を圧延棒線の平均搬送速度で割ることにより求めることが出来る。
【0072】
仕上げ圧延の温度が750℃を下回ったり、仕上げ圧延の加工速度が大きすぎる場合、未再結晶のオーステナイト粒からフェライト変態が始まる。この場合、冷却後の組織が微細になりすぎて強度が過剰に高くなり、冷間鍛造性が低下する。逆に、仕上げ圧延の温度が850℃を上回ったり、加工速度が小さい場合、再結晶後のオーステナイト粒が粗大化し、フェライト変態の開始温度が低くなる。この場合、冷却後の組織のフェライト分率が小さくなり、冷間鍛造性が低下する。
【0073】
<冷却工程>
仕上げ圧延が完了した後、圧延鋼材の表面温度が500℃になるまでの冷却速度を0.2〜5℃/secとして冷却することが好ましい。
500℃までの平均冷却速度が0.2℃/sec未満であると、オーステナイトからフェライトへ変態する時間が長くなることで、圧延鋼材の表層部に脱炭が生じることが懸念される。一方、平均冷却速度が5℃/sec超であると、マルテンサイトやベイナイトなどの硬質組織が形成されることが懸念される。
【0074】
上述の製造工程を含む製造プロセスであれば、高強度冷間鍛造部品として使用可能なレベルでの焼入れ硬さが得られる焼入れ性を確保しつつ、球状化焼鈍処理を省略或いは短時間化しても良好な冷間鍛造性を実現できる引張り強度、内部組織を有する圧延棒線を安定して得ることができる。
また、本実施形態に係る圧延棒鋼または線材を、冷間鍛造し、焼入れ焼戻しを行うことで、高強度冷間鍛造部品を得ることができる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
同じ化学成分の鋼でも、製造プロセスによって組織は変わる。したがって、本発明の化学成分を満足していても、本発明の要件を満足しない場合もある。そこで、まず化学成分が同じ鋼を異なる製造条件で製造して得られた各鋼材について、組織及び特性を評価した。次に、化学成分の異なる鋼塊を溶製し、同じ条件で圧延鋼材を製造して、得られた各鋼材について組織及び特性を評価した。
【0077】
具体的には、まず、表1に示す化学成分の鋼を電気炉にて溶製し、得られた鋼塊を1200℃に加熱して、162mm角の鋼片に分塊圧延を行った。表1に示す化学成分の鋼においては、A0、A1、A2、A3は同じ化学成分を有し、B0、B1、B2、B3は同じ化学成分を有している。表1中の「−」の表記は、当該元素の含有量が不純物レベルであり、実質的に含有されていないと判断できることを示す。
【0078】
これらの鋼について、分塊圧延後の鋼片から所定の径の線材に製品圧延するまでの工程について製造条件を変更して棒鋼または線材を得た。
すなわち、表1に示す本発明例A0、B0は、162mm角の鋼片を1280℃の炉内に挿入し、2hr均熱した後、炉外に取り出して室温まで冷却する高温均熱処理を行った。次にこの鋼片を1040℃で加熱した後、仕上げ圧延温度が820℃で所定の径となるように製品圧延を行い、圧延棒鋼または圧延線材を作製した。このとき、仕上げ圧延による加工速度は5〜15/secの範囲であり、仕上げ圧延完了後、500℃になるまでの平均冷却速度を0.4℃/secとして冷却を行った。
【0079】
比較例A1、B1はA0、B0とそれぞれ同じ化学成分である162mm角の鋼片を用いて高温均熱処理を省略して、製品圧延を行った。圧延条件はA0、B0と同じであり、1040℃で加熱した後、仕上げ圧延温度が820℃で所定の径となるように製品圧延を行い、圧延鋼材を作製した。このとき、仕上げ圧延による加工速度は5〜15/secの範囲であり、仕上げ圧延完了後、500℃になるまでの平均冷却速度を0.4℃/secとして調整冷却を行った。
【0080】
比較例A2、A3、B2、B3は本発明例A0、B0と同じ化学成分である162mm角の鋼片を1280℃に加熱した炉内に挿入し、2hr均熱した後、炉外に取り出して室温まで冷却する高温均熱処理を行った。次に、表1に示すように製品圧延前の加熱温度や仕上げ圧延の温度を設定して、圧延棒鋼または圧延線材を作製した。
【0081】
具体的には、比較例A2、B2は製品圧延の加熱温度を1050℃で加熱した後、圧延温度が920〜940℃で所定の径となるように仕上げ圧延を行い、圧延鋼材を作製した。このとき、仕上げ圧延による加工速度は5〜15/secの範囲であり、仕上げ圧延完了後、500℃になるまでの平均冷却速度を0.4℃/secとして冷却を行った。
【0082】
比較例A3、B3は製品圧延の加熱温度を1150℃で加熱した後、圧延温度が830℃で所定の径となるように仕上げ圧延を行い、圧延鋼材を作製した。このとき、仕上げ圧延による加工速度は5〜15/secの範囲とし、仕上げ圧延完了後、500℃になるまでの平均冷却速度を0.4℃/secとして冷却を行った。
【0083】
次いで表2に示す化学成分の鋼No.1〜29については以下の方法で圧延鋼材を作製した。表2中の「−」の表記は、当該元素の含有量が不純物レベルであり、実質的に含有されていないと判断できることを示す。
【0084】
具体的には、表2に示す化学成分の鋼を電気炉にて溶製し、得た鋼塊を1200℃に加熱して、162mm角の鋼片に分塊圧延した。次いで、162mm角の鋼片を1280℃の炉内に挿入し、2hr均熱した後、炉外に取り出して室温まで冷却する高温均熱処理を行った。次いで製品圧延用素材を1030〜1050℃で加熱した後、仕上げ圧延温度が750〜850℃の間となるよう調整して製品圧延を行った。このとき、仕上げ圧延による加工速度はいずれも5〜15/secの範囲であり、仕上げ圧延完了後、500℃になるまでの平均冷却速度を0.4〜2℃/secで冷却を行った。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
上記方法で作製した圧延棒鋼または圧延線材の直径、引張り強度、フェライト分率、焼入れ及び焼戻し後の硬さ、冷間鍛造性、異常粒成長の発生有無について調査した結果を表3、表4に示す。
【0088】
圧延棒鋼または圧延線材の引張り強度、フェライト分率、フェライト分率とパーライト分率との合計、焼入れ後の硬さ、焼入れ及び焼戻し後の硬さ、冷間鍛造性、異常粒成長の発生有無を、下記に記載する方法によって調査した。
【0089】
〈1〉圧延棒鋼または圧延線材の引張り強度の調査:
圧延棒鋼または圧延線材の中心の位置から、試験片の長手方向が鋼材の圧延方向になるように、JIS Z 2241に規定される14A号試験片(ただし、平行部直径:6mm)を採取した。そして、標点距離を30mmとして室温で引張り試験を実施し、引張り強度を求めた。
【0090】
〈2〉圧延棒鋼または圧延線材のフェライト分率、パーライト分率の調査:
圧延棒鋼または圧延線材を10mmの長さに切断した後、横断面が被検面になるように樹脂埋めし、鏡面研磨を行った。次いで、3%硝酸アルコール(ナイタル腐食液)で表面を腐食してミクロ組織を現出させた。その後、圧延棒鋼または圧延線材のD/4位置(D:圧延棒鋼または圧延線材の直径)に相当する位置で倍率を500倍として光学顕微鏡にて5視野のミクロ組織写真を撮影して「相」を同定し、画像解析ソフトを用いて各視野のフェライト面積率をフェライト分率として測定し、平均値を求めた。また、同様にパーライト分率を求め、フェライト分率とパーライト分率との合計も求めた。
【0091】
〈3〉焼入れ硬さの調査:
圧延棒鋼または圧延線材を200mmLの長さで切断した後、Arガス雰囲気で880℃×60min加熱し、60℃の油槽に浸漬して焼入れした。次いで、焼入れた丸棒の長手方向中心位置から10mm長さの試験片を採取した後、横断面を被検面として研磨を行い、横断面の中心部におけるHRC硬さを測定した。
【0092】
〈4〉焼戻し硬さの調査:
前記方法で焼入れした丸棒の残りを大気雰囲気で425℃×60min加熱した後炉外に取り出して冷却(大気放冷)する、焼戻しを行った。焼戻し後の丸棒の中心位置から10mm長さの試験片を採取した後、横断面を被検面として研磨を行い、横断面の中心部におけるHRC硬さを測定した。
【0093】
冷間鍛造性及び冷間鍛造後の異常粒成長については、前記圧延棒鋼または圧延線材を用いて実際にボルトに冷間鍛造することで評価した。
【0094】
〈5〉冷間鍛造性の調査:
前記圧延棒鋼または圧延線材の中心部に相当する位置から、φ10.5mm×40mmLの丸棒を機械加工して切り出した。次いで、脱脂、酸洗を行った後、りん酸亜鉛処理(75℃、浸漬時間600sec)及び金属石けん処理(80℃、浸漬時間180sec)を行い、表面にりん酸亜鉛皮膜と金属石けん皮膜からなる潤滑処理膜をつけて、ボルト鍛造用の素材とした。ボルト鍛造は
図1に示した形状に鍛造成形できるよう1工程目の鍛造で軸部を押し込み成形した後、2工程目でボルト頭部及びフランジ部を成形する加工を行えるよう金型を設計し、油圧鍛造プレス機に装着して、冷間鍛造を行った。
図1中の数値の単位はmmである。
冷間鍛造性はボルト成形する際に、ボルト表面に割れが生じたかどうかを目視によって判別した。ボルト表面に割れが生じていた場合をNG、どの部分にも割れが生じなかった場合をOKとして評価した。ボルト表面での割れは、主にボルト頭部フランジ部の先端で発生した。
【0095】
〈6〉再加熱時の異常粒成長の調査:
冷間鍛造後の再加熱時における異常粒成長の発生を確認するため、冷間鍛造で成形したボルトを不活性ガス雰囲気の炉で880℃×60min加熱した後、60℃の油槽に浸漬する焼入れを行い、ボルトのミクロ組織を観察して異常粒成長の発生有無を確認した。具体的には、ボルトのフランジと軸部付け根のR部とにおける内部組織が観察できるように、焼入れしたボルトを軸方向と平行に切断し、樹脂埋めし、鏡面研磨を行った後、旧オーステナイト粒界が現出できるよう表面を腐食してボルトフランジ部及び軸部付け根R部の表面付近のミクロ組織を光学顕微鏡によって観察した。倍率は500倍とし、ボルトフランジ部及び軸部付け根R部の表面から0.5mmの深さの位置まで観察し、いずれも整粒であった場合をOK、異常粒成長した結晶粒が観察された場合をNGと判定した。なお、整粒である組織はいずれも5〜30μm程度の旧オーステナイト粒を呈しており、100μmを超えて成長した結晶粒が混在していた鋼では、異常粒成長があると判定した。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
表3から、本発明例である試験番号A0、B0は、いずれも化学成分と前記の式<1>〜<3>を満足し、かつ鋼材の製造条件が適切であることから、引張り強度がいずれも750MPa以下であり、フェライト分率が40%以上であるフェライト・パーライト組織を有していた。また、鋼材中心部の焼入れ硬さもHRC硬さ45以上であり、冷間鍛造性も問題なく、冷間鍛造後に再加熱しても異常粒成長は発生していない。
【0099】
これに対して、試験番号A1〜A3、B1〜B3は引張り強度、フェライト分率が目標に達しておらず、また、組織がフェライト・パーライト組織ではなく、冷間鍛造性、異常粒成長の発生についていずれか1つ以上が目標に達していない。
【0100】
試験番号A1はA0と同じ化学成分であるが、製品圧延前の高温均熱処理を省略しているため、フェライト分率が40%以下となっており、冷間鍛造性が悪く、また異常粒成長の発生も抑制されていない。
【0101】
試験番号A2はA0と同じ化学成分であるが、仕上げ圧延の温度が940℃と高かったので、引張り強度が750MPa以上、フェライト分率が40%以下となり、その結果、冷間鍛造性が悪い。
【0102】
試験番号A3はA0と同じ化学成分であるが、製品圧延の加熱温度が1150℃と高かったので、引張り強度が750MPa以上となり、その結果、冷間鍛造性が悪い。
【0103】
試験番号B1はB0と同じ化学成分であるが、製品圧延前の高温均熱処理を省略したので、フェライト分率が40%以下となり、その結果、冷間鍛造性が悪い。また、異常粒成長の発生も抑制されていない。
【0104】
試験番号B2はB0と同じ化学成分であるが、仕上げ圧延の温度が920℃と高かったので、引張り強度が750MPa以上、フェライト分率が40%以下となり、冷間鍛造性が悪い。
【0105】
試験番号B3はB0と同じ化学成分であるが、製品圧延の加熱温度が1150℃と高かったので、引張り強度が750MPa以上、フェライト分率が40%以下となり、その結果、冷間鍛造性が悪い。
【0106】
表4から、本発明例である試験番号1〜16の圧延棒鋼または圧延線材は、いずれも化学成分と前記の式<1>〜<3>を満足し、かつ鋼材の製造条件が適切であることから、引張り強度がいずれも750MPa以下であり、組織が、フェライト分率が40%以上であるフェライト・パーライト組織であった。また、鋼材中心部の焼入れ硬さがHRC45以上、焼戻し硬さがHRCで34以上であり、冷間鍛造性も問題なかった。さらに、冷間鍛造後に加熱して焼入れて異常粒成長は発生していない。
【0107】
これに対して、試験番号17〜29の圧延棒鋼または圧延線材は化学成分のいずれか、または、前記式<1>、<2>で示されるY1、Y2の値が本発明の規定を満足しておらず、鋼材中心部の焼入れ硬さ、冷間鍛造性、異常粒成長の発生についていずれか1つ以上が目標に達していない。
【0108】
試験番号17、18は化学成分は本発明の規定範囲を満足するものの、Y1の値がY2以下であるため、鋼材中心部の焼入れ硬さがHRC45未満であり、焼入れ性が十分でない。また、その結果、焼戻し硬さがHRC34未満である。
【0109】
試験番号19はC含有量が本発明の規定範囲を下回っているため、鋼材中心部の焼入れ硬さがHRC45未満であり、焼入れ硬さが十分でない。また、その結果、焼戻し硬さがHRC34未満である。
【0110】
試験番号20はCの含有量が本発明の規定範囲を上回っており、引張り強度が750MPa以上、フェライト分率が40%以下であるため、冷間鍛造性が悪い。
【0111】
試験番号21はMnの含有量が本発明の規定範囲を上回っており、フェライト変態の開始温度が低くなるため、フェライト分率が40%以下であり、冷間鍛造性が悪い。
【0112】
試験番号22は引張り強度は750MPa以下、フェライト分率は40%以上であるが、Sの含有量が本発明の規定範囲を上回っているため、MnSが粗大となり、冷間鍛造性が悪い。
【0113】
試験番号23はCrの含有量が本発明の規定範囲を下回っており、鋼材中心部の焼入れ硬さがHRC45未満であり、焼入れ性が十分でない。
【0114】
試験番号24はNbが含有されていないため、異常粒成長の発生が抑制されていない。
【0115】
試験番号25はTiの含有量が本発明の規定範囲を下回っており、鋼材中心部の焼入れ硬さがHRC45未満であり、焼入れ性が十分でない。また、その結果、焼戻し硬さがHRC34未満である。これは、BがNと反応してBNとして析出したことが原因であると考えられる。
【0116】
試験番号26はTiの含有量が本発明の規定範囲を上回っており、引張り強度が750MPa以上であり、冷間鍛造性が悪い。
【0117】
試験番号27はBの含有量が本発明の規定範囲を下回っており、鋼材中心部の焼入れ硬さがHRC45未満であり、焼入れ性が十分でない。また、その結果、焼戻し硬さがHRC34未満である。
【0118】
試験番号28はCrの含有量が本発明の規定範囲を上回っており、ベイナイトが生成しているので、引張り強度が750MPa以上、かつフェライト分率が40%未満であり、冷間鍛造性が悪い。
【0119】
試験番号29はVの含有量が本発明の規定範囲を上回っている。Vは微細な炭窒化物や炭化物として析出するため、フェライト分率は40%以上であるが、引張り強度が750MPa以上であり、冷間鍛造性が悪い。