(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Mgを0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内、Pを0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内で含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
導電率が75%IACS超えであるとともに、
Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、
〔Mg〕+20×〔P〕<0.5
の関係式を満たし、
Hの含有量が10massppm以下、Oの含有量が100massppm以下、Sの含有量が50massppm以下、Cの含有量が10massppm以下とされていることを特徴とする電子・電気機器用銅合金。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたCu−Mg系合金においては、Pの含有量が0.08〜0.35質量%と多いため、冷間加工性及び曲げ加工性が不十分であり、所定の形状の電子・電気機器用部品を成型することが困難であった。
また、特許文献2に記載されたCu−Mg系合金においては、Mgの含有量が0.01〜0.5mass%、及びPの含有量が0.01〜0.5mass%とされていることから、粗大な晶出物が生じ、冷間加工性及び曲げ加工性が不十分であった。
さらに、上述のCu−Mg系合金においては、Mgによって銅合金溶湯の粘度が上昇することから、Pを添加しないと鋳造性が低下してしまうといった問題があった。
【0006】
また、上記の特許文献1、2ではOの含有量やSの含有量を考慮しておらず、Mg酸化物やMg硫化物等からなる介在物が発生し、加工時に欠陥となり冷間加工性及び曲げ加工性を劣化させるおそれがあった。さらにHの含有量を考慮してないため、鋳塊内にブローホール欠陥が発生し、加工時に欠陥となり冷間加工性及び曲げ加工性を劣化させるおそれがあった。加えてCの含有量を考慮していないため、鋳造時にCを巻き込み発生する欠陥により、冷間加工性を劣化させるおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、導電性、冷間加工性、曲げ加工性、及び、鋳造性に優れた電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金板条材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、及び、リレー用可動片を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、合金中に含有されるMg及びPの含有量を所定の関係式の範囲内に設定するとともに、H,O,C,Sの含有量を規定することで、MgとPを含む晶出物およびMg酸化物やMg硫化物等からなる介在物を低減でき、冷間加工性及び曲げ加工性を低下させることなく、強度、耐応力緩和特性、鋳造性を向上させることが可能であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の電子・電気機器用銅合金は、Mgを0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内、Pを0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内で含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、導電率が75%IACS超えであるとともに、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕+20×〔P〕<0.5の関係式を満たし、Hの含有量が10massppm以下、Oの含有量が100massppm以下、Sの含有量が50massppm以下、Cの含有量が10massppm以下とされていることを特徴としている。
【0010】
上述の構成の電子・電気機器用銅合金によれば、Mgの含有量が0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内とされているので、銅の母相中にMgが固溶することにより、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
また、Pを0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内で含んでいるので、鋳造性を向上させることができる。
そして、Mgの含有量〔Mg〕とPの含有量〔P〕が質量比で、
〔Mg〕+20×〔P〕<0.5
の関係を満足しているので、MgとPを含む粗大な晶出物の生成を抑制でき、冷間加工性及び曲げ加工性が低下することを抑制できる。
【0011】
さらに、Oの含有量が100massppm以下、Sの含有量が50massppm以下とされているので、Mg酸化物やMg硫化物等からなる介在物を低減でき、加工時における欠陥の発生を抑制できる。また、O及びSと反応することでMgが消費されることを防止でき、機械的特性の劣化を抑制することができる。
また、Hの含有量が10massppm以下とされているので、鋳塊内にブローホール欠陥が発生することを抑制することができ、加工時における欠陥の発生を抑制することができる。
さらに、Cの含有量が10massppm以下とされているので、冷間加工性を確保することができ、加工時における欠陥の発生を抑制することができる。
また、導電率が75%IACS超えであるので、従来、純銅を用いていた用途にも適用することが可能となる。
【0012】
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕/〔P〕≦400の関係式を満たすことが好ましい。
この場合、鋳造性を低下させるMgの含有量と鋳造性を向上させるPの含有量との比率を、上述のように規定することにより、鋳造性を確実に向上させることができる。
【0013】
また、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、圧延方向に対して直交方向に引張試験を行った際の0.2%耐力が300MPa以上であることが好ましい。
この場合、圧延方向に対して直交方向に引張試験を行った際の0.2%耐力が上述のように規定されているので、容易に変形することがなく、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品を構成する銅合金として特に適している。
【0014】
また、本発明の電子・電気機器用銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上であることが好ましい。
この場合、残留応力率が上述のように規定されていることから、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、例えばコネクタ端子等の接圧の低下を抑制することができる。よって、エンジンルーム等の高温環境下で使用される電子機器用部品の素材として適用することが可能となる。
【0015】
本発明の電子・電気機器用銅合金板条材は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴としている。
この構成の電子・電気機器用銅合金板条材によれば、上述の電子・電気機器用銅合金で構成されていることから、導電性、強度、冷間加工性、曲げ加工性、耐応力緩和特性に優れており、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
なお、本発明の電子・電気機器用銅合金板条材は、板材及びこれをコイル状に巻き取った条材を含むものである。
【0016】
ここで、本発明の電子・電気機器用銅合金板条材においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有することが好ましい。
この場合、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有しているので、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。なお、本発明において、「Snめっき」は、純Snめっき又はSn合金めっきを含み、「Agめっき」は、純Agめっき又はAg合金めっきを含む。
【0017】
本発明の電子・電気機器用部品は、上述の電子・電気機器用銅合金板条材からなることを特徴としている。なお、本発明における電子・電気機器用部品とは、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等を含むものである。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述の電子・電気機器用銅合金板条材を用いて製造されているので、小型化および薄肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
また、本発明の電子・電気機器用部品においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有していてもよい。なお、Snめっき層及びAgめっき層は、予め電子・電気機器用銅合金板条材に形成しておいてもよいし、電子・電気機器用部品を成形した後に形成してもよい。
【0018】
本発明の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金板条材からなることを特徴としている。
この構成の端子は、上述の電子・電気機器用銅合金板条材を用いて製造されているので、小型化および薄肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
また、本発明の端子においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有していてもよい。なお、Snめっき層及びAgめっき層は、予め電子・電気機器用銅合金板条材に形成しておいてもよいし、端子を成形した後に形成してもよい。
【0019】
本発明のバスバーは、上述の電子・電気機器用銅合金板条材からなることを特徴としている。
この構成のバスバーは、上述の電子・電気機器用銅合金板条材を用いて製造されているので、小型化および薄肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
また、本発明のバスバーにおいては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有していてもよい。なお、Snめっき層及びAgめっき層は、予め電子・電気機器用銅合金板条材に形成しておいてもよいし、バスバーを成形した後に形成してもよい。
【0020】
本発明のリレー用可動片は、上述の電子・電気機器用銅合金板条材からなることを特徴としている。
この構成のリレー用可動片は、上述の電子・電気機器用銅合金板条材を用いて製造されているので、小型化および薄肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
また、本発明のリレー用可動片においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有していてもよい。なお、Snめっき層及びAgめっき層は、予め電子・電気機器用銅合金板条材に形成しておいてもよいし、リレー用可動片を成形した後に形成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、導電性、冷間加工性、曲げ加工性、及び、鋳造性に優れた電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金板条材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、及び、リレー用可動片を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態である電子・電気機器用銅合金について説明する。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、Mgを0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内、Pを0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内で含み、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、導電率が75%IACS超えとされている。
【0024】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、
〔Mg〕+20×〔P〕<0.5
の関係式を満足している。
そして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、Hの含有量が10massppm以下、Oの含有量が100massppm以下、Sの含有量が50massppm以下、Cの含有量が10massppm以下とされている
【0025】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、
〔Mg〕/〔P〕≦400
の関係式を満足している。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、圧延方向に対して直交方向に引張試験を行った際の0.2%耐力が300MPa以上とされている。すなわち、本実施形態では、電子・電気機器用銅合金の圧延材とされており、圧延の最終工程における圧延方向に対して直交方向に引張試験を行った際の0.2%耐力が上述のように規定されているのである。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。
【0026】
ここで、上述のように成分組成、各種特性を規定した理由について以下に説明する。
【0027】
(Mg:0.15mass%以上0.35mass%未満)
Mgは、銅合金の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度および耐応力緩和特性を向上させる作用を有する元素である。
ここで、Mgの含有量が0.15mass%未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Mgの含有量が0.35mass%以上の場合には、導電率が大きく低下するとともに、銅合金溶湯の粘度が上昇し、鋳造性が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内に設定している。
なお、強度および耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Mgの含有量の下限を0.16mass%以上とすることが好ましく、0.17mass%以上とすることがさらに好ましい。また、導電率の低下及び鋳造性の低下を確実に抑制するためには、Mgの含有量の上限を0.30mass%以下とすることが好ましく、0.28mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0028】
(P:0.0005mass%以上、0.01mass%未満)
Pは、鋳造性を向上させる作用効果を有する元素である。
ここで、Pの含有量が0.0005mass%未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Pの含有量が0.01mass%以上の場合には、MgとPを含有する晶出物が粗大化することから、この晶出物が破壊の起点となり、冷間加工時や曲げ加工時に割れが生じるおそれがある。
以上のことから、本実施形態においては、Pの含有量を0.0005mass%以上、0.01mass%未満の範囲内に設定している。
なお、確実に鋳造性を向上させるためには、Pの含有量の下限を0.0007mass%以上とすることが好ましく、0.001mass%以上とすることがさらに好ましい。また、粗大な晶出物の生成を確実に抑制するためには、Pの含有量の上限を0.009mass%未満とすることが好ましく、0.008mass%未満とすることがさらに好ましく、0.0075mass%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0060mass%以下、最も好ましくは0.0050mass%未満である。
【0029】
(〔Mg〕+20×〔P〕<0.5)
Pを添加した場合には、上述のようにMgとPが共存することにより、MgとPを含む晶出物が生成することになる。
ここで、mass%で、Mgの含有量〔Mg〕とPの含有量〔P〕とした場合に、〔Mg〕+20×〔P〕が0.5以上となる場合には、MgおよびPの総量が多く、MgとPを含む晶出物が粗大化するとともに高密度に分布し、冷間加工時や曲げ加工時に割れが生じやすくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態においては、〔Mg〕+20×〔P〕を0.5未満に設定している。なお、晶出物の粗大化および高密度化を確実に抑制して、冷間加工時や曲げ加工時における割れの発生を抑制するためには、〔Mg〕+20×〔P〕を0.48未満とすることが好ましく、0.46未満とすることがさらに好ましい。さらに好ましくは0.44未満、最も好ましくは0.42未満である。
【0030】
(〔Mg〕/〔P〕≦400)
Mgは、銅合金溶湯の粘度を上昇させ、鋳造性を低下させる作用を有する元素であることから、鋳造性を確実に向上させるためには、MgとPの含有量の比率を適正化する必要がある。
ここで、mass%で、Mgの含有量〔Mg〕とPの含有量〔P〕とした場合に、〔Mg〕/〔P〕が400を超える場合には、Pに対してMgの含有量が多くなり、Pの添加による鋳造性向上効果が小さくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態においてPを添加する場合には、〔Mg〕/〔P〕を400以下に設定している。鋳造性をより向上させるためには、〔Mg〕/〔P〕を350以下とすることが好ましく、300以下とすることがさらに好ましい。
なお、〔Mg〕/〔P〕が過剰に低い場合には、Mgが晶出物として消費され、Mgの固溶による効果を得ることができなくなるおそれがある。MgとPを含有する晶出物の生成を抑制し、Mgの固溶による耐力、耐応力緩和特性の向上を確実に図るためには、〔Mg〕/〔P〕の下限を20超えとすることが好ましく、25超えであることがさらに好ましい。
【0031】
(H:10massppm以下)
Hは、鋳造時にOと結びついて水蒸気となり、鋳塊中にブローホール欠陥を生じさせる元素である。このブローホール欠陥は、鋳造時には割れ、圧延時にはふくれ及び剥がれ等の欠陥の原因となる。これらの割れ、ふくれ及び剥がれ等の欠陥は、応力集中して破壊の起点となるため、強度、耐応力腐食割れ特性を劣化させることが知られている。ここで、Hの含有量が10massppmを超えると、上述したブローホール欠陥が発生しやすくなる。
そこで、本実施形態では、Hの含有量を10massppm以下に規定している。なお、ブローホール欠陥の発生をさらに抑制するためには、Hの含有量を4massppm以下とすることが好ましく、2massppm以下とすることがさらに好ましい。
なお、Hの含有量の下限は特に設けないが、Hの含有量を過剰に低下させることは製造コストの増加につながる。そのため、Hの含有量は通常0.1massppm以上となる。
【0032】
(O:100massppm以下)
Oは、銅合金中の各成分元素と反応して酸化物を形成する元素である。これらの酸化物は、破壊の起点となるため、冷間加工性が低下し、さらに曲げ加工性も悪くなる。また、Oが100massppmを超えた場合には、Mgと反応することにより、Mgが消費されてしまい、Cuの母相中へのMgの固溶量が低減し、機械的特性が劣化するおそれがある。
そこで、本実施形態では、Oの含有量を100massppm以下に規定している。なお、Oの含有量は、上記の範囲内でも特に50massppm以下が好ましく、20massppm以下がさらに好ましい。
なお、Oの含有量の下限は特に設けないが、Oの含有量を過剰に低下させることは製造コストの増加につながる。そのため、Oの含有量は通常0.1massppm以上となる。
【0033】
(S:50massppm以下)
Sは金属間化合物又は複合硫化物などの形態で結晶粒界に存在する元素である。これらの粒界に存在する金属間化合物又は複合硫化物は、熱間加工時に粒界割れを起こし、加工割れの原因となる。また、これらは破壊の起点となるため、冷間加工性や曲げ加工性が劣化する。さらに、Mgと反応することにより、Mgが消費されてしまい、Cuの母相中へのMgの固溶量が低減し、機械的特性が劣化するおそれがある。
そこで、本実施形態では、Sの含有量を50massppm以下に規定している。なお、Sの含有量は、上記の範囲内でも特に40massppm以下が好ましく、30massppm以下がさらに好ましい。
なお、Sの含有量の下限は特に設けないが、Sの含有量を過剰に低下させることは製造コストの増加につながる。そのため、Sの含有量は通常1massppm以上となる。
【0034】
(C:10massppm以下)
Cは、溶湯の脱酸作用を目的として、溶解、鋳造において溶湯表面を被覆するように使用されるものであり、不可避的に混入するおそれがある元素である。Cの含有量が10massppmを超えると、鋳造時のCの巻き込みが多くなる。これらのCや複合炭化物、Cの固溶体の偏析は冷間加工性を劣化させる。
そこで、本実施形態では、Cの含有量を10massppm以下に規定している。なお、Cの含有量は、上記の範囲内でも5massppm以下が好ましく、1massppm以下がさらに好ましい。
なお、Cの含有量の下限は特に設けないが、Cの含有量を過剰に低下させることは製造コストの増加につながる。そのため、Cの含有量は通常0.1massppm以上となる。
【0035】
(不可避不純物:0.1mass%以下)
その他の不可避的不純物としては、Ag、B、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、希土類元素、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Se、Te、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Au、Zn、Cd,Hg、Al、Ga、In、Ge、Sn、As、Sb、Tl、Pb、Bi、Be、N、Si、Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、導電率を低下させる作用があることから、総量で0.1mass%以下とする。
また、Ag、Zn、Snは銅中に容易に混入して導電率を低下させるため、総量で500massppm未満とすることが好ましい。特にSnは大きく導電率を減少させるため、単独で50massppm未満とすることが好ましい。
さらに、Si、Cr、Ti、Zr、Fe、Coは、特に導電率を大きく減少させるとともに、介在物の形成により曲げ加工性を劣化させるため、これらの元素は総量で500massppm未満とすることが好ましい。
【0036】
(導電率:75%IACS超え)
本実施形態である電子・電気機器用銅合金において、導電率を75%IACS超えに設定することにより、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品として良好に使用することができる。
なお、導電率は、76%IACS超えであることが好ましく、77%IACS超えであることがさらに好ましく、78%IACS超えであることがより好ましく、80%IACS超えであることがさらに好ましい。
【0037】
(0.2%耐力:300MPa以上)
本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、0.2%耐力が300MPa以上とすることにより、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適するものとなる。なお、本実施形態では、圧延方向に対して直交方向に引張試験を行った際の0.2%耐力が300MPa以上とされている。
ここで、上述の0.2%耐力は、325MPa以上であることが好ましく、350MPa以上であることがさらに好ましい。
【0038】
(残留応力率:50%以上)
本実施形態である電子機器用銅合金においては、上述のように、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。
この条件における残留応力率が高い場合には、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、接圧の低下を抑制することができる。よって、本実施形態である電子機器用銅合金は、自動車のエンジンルーム周りのような高温環境下で使用される端子として適用することが可能となる。本実施形態では、圧延方向に対して直交方向に応力緩和試験を行った残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。
なお、残留応力率は、150℃、1000時間で60%以上とすることが好ましく、150℃、1000時間で70%以上とすることがさらに好ましい。
【0039】
次に、このような構成とされた本実施形態である電子・電気機器用銅合金の製造方法について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0040】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。ここで、銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。特に、本実施形態では、H,O,S,Cの含有量を上述のように規定していることから、これらの元素の含有量の少ない原料を選別して使用することになる。具体的には、H含有量が0.5massppm以下、O含有量が2.0massppm以下、S含有量が5.0massppm以下、C含有量が1.0massppm以下の原料を用いることが好ましい。
溶解工程では、Mgの酸化を抑制するため、また水素濃度低減のため、H
2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることとする。
【0041】
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
この際、銅合金溶湯の凝固時に、MgとPを含む晶出物が形成されるため、凝固速度を速くすることで晶出物サイズをより微細にすることが可能となる。そのため、溶湯の冷却速度は0.1℃/sec以上とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5℃/sec以上であり、最も好ましくは1℃/sec以上である。
【0042】
(均質化/溶体化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析で濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することになる。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を400℃以上900℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりするのである。なお、この均質化/溶体化工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施する。また、400℃以上900℃以下にまで加熱された銅素材は、200℃以下の温度にまで、60℃/min以上の冷却速度で冷却する。
【0043】
ここで、加熱温度が400℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が900℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を400℃以上900℃以下の範囲に設定している。より好ましくは500℃以上850℃以下、更に好ましくは520℃以上800℃以下とする。
【0044】
(熱間加工工程S03)
粗加工の効率化と組織の均一化のために、熱間加工を行ってもよい。この熱間加工工程S03における温度条件は特に限定はないが、400℃から900℃の範囲内とすることが好ましい。また、加工後の冷却方法は、水焼入など60℃/min以上の冷却速度で200℃以下にまで冷却することが好ましい。さらに、加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0045】
(粗加工工程S04)
所定の形状に加工するために、粗加工を行う。なお、この粗加工工程S04における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間加工となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。加工率(圧延率)については、20%以上が好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0046】
(中間熱処理工程S05)
粗加工工程S04後に、溶体化の徹底、再結晶組織化または加工性向上のための軟化を目的として熱処理を実施する。熱処理の方法は特に限定はないが、好ましくは400℃以上900℃以下の保持温度、10秒以上10時間以下の保持時間で、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で熱処理を行う。また、加熱後の冷却方法は、特に限定しないが、水焼入など冷却速度が200℃/min以上となる方法を採用することが好ましい。
なお、粗加工工程S04及び中間熱処理工程S05は、繰り返し実施してもよい。
【0047】
(仕上加工工程S06)
中間熱処理工程S05後の銅素材を所定の形状に加工するため、仕上加工を行う。なお、この仕上加工工程S06における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するため、または軟化を抑制するために冷間、または温間加工となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、仕上加工工程S06において加工硬化によって強度を向上させるためには、加工率を20%以上とすることが好ましい。また。さらなる強度の向上を図る場合には、加工率を30%以上とすることがより好ましく、加工率を40%以上とすることがさらに好ましく、加工率を60%以上とすることが最も好ましい。また加工率の増加により曲げ加工性は劣化するため、99%以下とすることが好ましい。
【0048】
(仕上熱処理工程S07)
次に、仕上加工工程S06によって得られた塑性加工材に対して、耐応力緩和特性の向上および低温焼鈍硬化のために、または残留ひずみの除去のために、仕上熱処理を実施する。
熱処理温度は、100℃以上800℃以下の範囲内とすることが好ましい。なお、この仕上熱処理工程S07においては、再結晶による強度の大幅な低下を避けるように、熱処理条件(温度、時間、冷却速度)を設定する必要がある。例えば300℃では1秒から120秒程度保持とすることが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行う。
熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の効果から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。
さらに、上述の仕上加工工程S06と仕上熱処理工程S07とを、繰り返し実施してもよい。
【0049】
このようにして、本実施形態である電子・電気機器用銅合金板条材(板材又はこれをコイル形状とした条材)が製出されることになる。なお、この電子・電気機器用銅合金板条材の板厚は、0.05mm超え3.0mm以下の範囲内とされており、好ましくは0.1mm超え3.0mm未満の範囲内とされている。電子・電気機器用銅合金板条材の板厚が0.05mm以下の場合、大電流用途での導体としての使用には不向きであり、板厚が3.0mmを超える場合には、プレス打ち抜き加工が困難となる。
【0050】
ここで、本実施形態である電子・電気機器用銅合金板条材は、そのまま電子・電気機器用部品に使用してもよいが、板面の一方、もしくは両面に、膜厚0.1〜100μm程度のSnめっき層またはAgめっき層を形成してもよい。この際、電子・電気機器用銅合金板条材の板厚がめっき層厚さの10〜1000倍となることが好ましい。
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金(電子・電気機器用銅合金板条材)を素材として、打ち抜き加工や曲げ加工等を施すことにより、例えばコネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバーといった電子・電気機器用部品が成形される。
【0051】
以上のような構成とされた本実施形態である電子・電気機器用銅合金によれば、Mgの含有量が0.15mass%以上0.35mass%未満の範囲内とされているので、銅の母相中にMgが固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、Pの含有量が0.0005mass%以上0.01mass%未満の範囲内とされているので、銅合金溶湯の粘度を低下させることができ、鋳造性を向上させることが可能となる。
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、導電率が75%IACS超えとされているので、高い導電性が要求される用途にも適用することができる。
【0052】
そして、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕+20×〔P〕<0.5の関係式を満足しているので、MgとPの粗大な晶出物の生成を抑制することができる。
また、Oの含有量が100massppm以下、Sの含有量が50massppm以下とされているので、Mg酸化物やMg硫化物等からなる介在物を低減できる。
さらに、Hの含有量が10massppm以下とされているので、鋳塊内にブローホール欠陥が発生することを抑制することができる。
また、Cの含有量が10massppm以下とされているので、冷間加工性を確保することができる。
以上のことから、加工時における欠陥の発生を抑制でき、冷間加工性及び曲げ加工性を大幅に向上させることが可能となる。
【0053】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、Mgの含有量〔Mg〕(mass%)とPの含有量〔P〕(mass%)が、〔Mg〕/〔P〕≦400の関係式を満たしているので、鋳造性を低下させるMgの含有量と鋳造性を向上させるPの含有量との比率が適正化され、P添加の効果により、銅合金溶湯の粘度を低下させることができ、鋳造性を確実に向上させることが可能となる。
【0054】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金においては、0.2%耐力が300MPa以上とされ、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされているので、強度、耐応力緩和特性に優れており、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0055】
また、本実施形態である電子・電気機器用銅合金板条材は、上述の電子・電気機器用銅合金で構成されていることから、この電子・電気機器用銅合金板条材に曲げ加工等を行うことで、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品を製造することができる。
なお、表面にSnめっき層又はAgめっき層を形成した場合には、コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0056】
さらに、本実施形態である電子・電気機器用部品(コネクタやプレスフィット等の端子、リレー用可動片、リードフレーム、バスバー等)は、上述の電子・電気機器用銅合金で構成されているので、小型化および薄肉化しても優れた特性を発揮することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態である電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金板条材、電子・電気機器用部品(端子、バスバー等)について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、電子・電気機器用銅合金の製造方法の一例について説明したが、電子・電気機器用銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
H含有量が0.1massppm以下、O含有量が1.0massppm以下、S含有量が1.0massppm以下、C含有量が0.3massppm以下、Cuの純度が99.99mass%以上の選別した銅を原料として準備し、これを高純度アルミナ坩堝内に装入して、高純度Arガス(露点−80℃以下)雰囲気において高周波溶解炉を用いて溶解した。銅合金溶湯内に、各種元素を添加するとともに、H,Oを導入する場合には、溶解時の雰囲気を高純度Arガス(露点−80℃以下)、高純度N
2ガス(露点−80℃以下)、高純度O
2ガス(露点−80℃以下)、高純度H
2ガス(露点−80℃以下)を用いて、Ar−N
2―H
2およびAr−O
2混合ガス雰囲気とした。Cを導入する場合には、溶解において溶湯表面にC粒子を被覆させ、溶湯と接触させた。また、Sを導入する場合には、直接、Sを添加した。さらにMg原料はマグネシウム純度が99.99mass%以上のものを使用した。これにより、表1及び表2に示す成分組成の銅合金溶湯を溶製し、鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、本発明例11はカーボン鋳型、本発明例28は断熱材(イソウール)鋳型、本発明例1〜10、12〜27、29〜37と比較例1〜11は水冷機能を備えた銅合金鋳型を鋳造用の鋳型として用いた。また、鋳塊の大きさは、厚さ約20mm×幅約200mm×長さ約300mmとした。
【0059】
得られた鋳塊から鋳肌近傍を面削し、16mm×200mm×100mmのブロックを切り出した。
このブロックを、Arガス雰囲気中において、表3及び表4に記載の温度条件で4時間の加熱を行い、均質化/溶体化処理を行った。
【0060】
熱処理を行った銅素材を、適宜、最終形状に適した形にするために、切断するとともに、表面研削を実施した。その後、常温で、表3及び表4に記載された圧延率で粗圧延を実施した。
そして、得られた条材に対して、表3及び表4に記載された条件で、Arガス雰囲気中において中間熱処理を実施した。その後、水焼入れを実施した。
【0061】
次に、表3及び表4に示す圧延率で仕上圧延を実施し、厚さ0.5mm、幅約200mmの薄板を製出した。上記の仕上圧延時には、表面に圧延油を塗布して冷間圧延を行った。
そして、仕上圧延後に、表3及び表4に示す条件で、Ar雰囲気中で仕上熱処理を実施し、その後、水焼入れを行い、特性評価用薄板を作成した。
【0062】
(成分組成)
上述のようにして得られた特性評価用薄板を用いて成分分析を行った。この際、Mg及びPの分析は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で行った。また、Hの分析は、熱伝導度法で行い、O,S,Cの分析は、赤外線吸収法で行った。
【0063】
(鋳造性)
鋳造性の評価として、前述の鋳造時における肌荒れの有無を観察した。目視で肌荒れが全くあるいはほとんど認められなかったものを◎、深さ1mm未満の小さな肌荒れが発生したものを○、深さ1mm以上2mm未満の肌荒れが発生したものを△とした。また深さ2mm以上の大きな肌荒れが発生したものは×とし、途中で評価を中止した。評価結果を表5及び表6に示す。
なお、肌荒れの深さとは、鋳塊の端部から中央部に向かう肌荒れの深さのことである。
【0064】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力を測定した。なお、試験片は、圧延方向に直交する方向で採取した。評価結果を表5及び表6に示す。
【0065】
(引張試験の破断回数)
上記の13B号試験片を用いて引張試験を10回行い、0.2%耐力を迎える前に弾性域で引張試験片が破断した個数を引張試験の破断回数とし、測定を行った。評価結果を表5及び表6に示す。
なお、弾性域とは応力ひずみ曲線において線形の関係を満たす領域のことを指す。この破断回数が多いほど、介在物によって加工性が低下していることになる。
【0066】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ150mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して垂直になるように採取した。評価結果を表5及び表6に示す。
【0067】
(耐応力緩和特性)
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持はりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、150℃の温度で1000時間保持後の残留応力率を測定した。
試験方法としては、各特性評価用条材から圧延方向に対して直交する方向に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ
0/L
s2
ただし、
E:ヤング率(MPa)
t:試料の厚み(t=0.5mm)
δ
0:初期たわみ変位(2mm)
L
s:スパン長さ(mm)
である。
150℃の温度で、1000時間保持後の曲げ癖から、残留応力率を測定し、耐応力緩和特性を評価した。なお残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1−δ
t/δ
0)×100
ただし、
δ
t:150℃で1000時間保持後の永久たわみ変位(mm)−常温で24h保持後の永久たわみ変位(mm)
δ
0:初期たわみ変位(mm)
である。
【0068】
(曲げ加工性)
日本伸銅協会技術標準JCBA−T307:2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。圧延方向に対して曲げの軸が直交方向になるように、特性評価用薄板から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取した。曲げ角度は90度とし、曲げ半径は、仕上圧延率が85%超の場合は1.0mm(R/t=2)、仕上圧延率が85%以下の場合は曲げ半径が0.5mm(R/t=1)のW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。
曲げ部の外周部を目視で観察して割れが観察された場合は「×」、大きなしわが観察された場合は○、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を◎として判定を行った。なお、◎、○は許容できる曲げ加工性と判断した。評価結果を表5及び表6に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
比較例1は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも少なく、0.2%耐力が低く、強度不足であった。
比較例2は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも多く、導電率が低くかった。
比較例3は、Pの含有量が本発明の範囲よりも多く、粗圧延時に大きな耳割れが発生したため、その後の評価を中止した。
比較例4〜6は、〔Mg〕+20×〔P〕が0.5を超えており、粗圧延時に大きな耳割れが発生したため、その後の評価を中止した。
【0076】
比較例7は、Hの含有量が本発明の範囲よりも高く、粗圧延時に大きな耳割れが発生したため、その後の評価を中止した。
比較例8は、Oの含有量が本発明の範囲よりも高く、引張試験を10回実施した結果、弾性域における引張試験片の破断が8回発生しており、介在物による加工性の劣化が認められた。曲げ加工性も不十分であった。
比較例9は、Sの含有量が本発明の範囲よりも高く、引張試験を10回実施した結果、弾性域における引張試験片の破断が8回発生しており、介在物による加工性の劣化が認められた。曲げ加工性も不十分であった。
比較例10、11は、Cの含有量が本発明の範囲よりも高く、引張試験を10回実施した結果、弾性域における引張試験片の破断が6回、および7回発生しており、介在物による加工性の劣化が認められた。曲げ加工性も不十分であった。
【0077】
これに対して、本発明例においては、鋳造性、強度(0.2%耐力)、導電率、耐応力緩和特性(残留応力率)、曲げ加工性に優れていることが確認された。さらに、引張試験を10回実施した結果、弾性域における引張試験片の破断もなく、加工性に特に優れていることが確認された。
以上のことから、本発明例によれば、導電性、冷間加工性、曲げ加工性、及び、鋳造性に優れた電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金板条材を提供できることが確認された。