【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明のねじ切りフライスは、工具本体の軸方向先端部側の外周に、半径方向中心側から外周側へ向け、周方向に間隔を置いて複数のねじ切り刃が形成された切れ刃部を備え、ヘリカル送りされて被削材にめねじを形成するねじ切りフライスであり、
前記ねじ切り刃が、前記工具本体の軸方向先端部側から後方側へかけ、進み側フランク面とこれに軸方向に連続する山頂面、及びこれに軸方向に連続する追い側フランク面を持つ、前記めねじを形成するための仕上げ刃を少なくとも有し、
前記進み側フランク面と前記山頂面との間、及び前記山頂面と前記追い側フランク面との間にそれぞれ2面以上の面取り面が形成されていることを特徴とする。
【0014】
「半径方向中心側から外周側へ向け」とは、各ねじ切り刃4が工具本体の回転軸O側である半径方向中心側から半径方向外周側へ向けて突設されるように形成されることを言う。「周方向に間隔を置いて」とは、複数のねじ切り刃4が工具本体の周方向に、切屑排出用の溝(刃溝21)を挟みながら、間隔を置いて配列することを言う。切屑排出用の溝(刃溝21)は工具本体の周方向に隣接するねじ切り刃4、4間に、回転軸Oに平行に、あるいは回転軸Oに沿うように形成される。周方向は工具本体の回転方向(回転の向きを問わない)、あるいは円周方向である。工具本体はねじ切りフライス1の本体を指す。
【0015】
「ねじ切り刃4が仕上げ刃12を少なくとも有し」とは、ねじ切り刃4が1個、もしくは複数個の仕上げ刃12のみを有することと、特許文献1のように仕上げ刃12の他に、
図1〜
図4に示すように仕上げ刃12によるめねじの仕上げの前に被削材40を荒切削する先行刃5を含むことがあることを意味する。
【0016】
ねじ切り刃4が先行刃5を有する場合、先行刃5は被削材40のめねじ穴を荒切削するため、先行刃5の山の高さは仕上げ刃12の山の高さより小さく(特許文献1、請求項5)、仕上げ刃12が先行刃5の切削後のめねじ穴を切削してめねじ45を仕上げ、特にめねじ45の谷部47と山部46を仕上げる。請求項1における「工具本体の軸方向」は工具本体の回転軸Oの方向である。ねじ切り刃4が先行刃5を有する場合には、仕上げ刃12は先行刃5による荒切削より細かい切削をし、めねじ45を仕上げる働きをするが、ねじ切り刃4が先行刃5を有しない場合には、仕上げ刃12は必ずしも一度の切削でめねじ45(谷部47と山部46)の仕上げまでをするとは限らない。
【0017】
先行刃5が形成されない場合、ねじ切り刃4は1個、もしくは
図9に示すように軸方向に連続する、あるいは連結された形の2個以上の仕上げ刃12からなり(請求項2〜4)、先行刃5が形成される場合、ねじ切り刃4は
図1に示すように仕上げ刃12と先行刃5から構成される。先行刃5が形成される場合も、2個以上の仕上げ刃12が軸方向に連続することもある(請求項5)。
【0018】
1枚(1個)の仕上げ刃12は
図4−(a)、(b)に示すように工具本体の軸方向先端部側の進み側フランク面17とこれに軸方向後方側に連続する山頂面16とこれに軸方向後方側に連続する追い側フランク面18からなるため、「仕上げ刃12が軸方向に連続する」とは、進み側フランク面17から追い側フランク面18までの区間が軸方向に連続することを言う。2個の仕上げ刃12、12の間には半径方向中心側に凹となった谷底部20(請求項2)が形成される。「工具本体の軸方向先端部側」は工具本体(ねじ切りフライス1)のねじ切り刃4が工具本体の軸方向(回転軸O方向)への移動により被削材40の切削を開始する側の端部を指す。「工具本体の軸方向後方側」は軸方向先端部側の反対側を指し、切れ刃部2から見たときの後述のシャンク部3側を指す。
【0019】
請求項1における「ヘリカル送りされ」とは、
図6に示すように工具本体の回転軸Oを中心として自転したまま、回転軸Oから偏心した、回転軸Oに平行な公転軸O
REの回りに回転させられながら、工具本体が軸方向先端部側の被削材40側へ送られることを言う(請求項8)。工具本体が被削材40側へヘリカル送りされることで、被削材40にめねじ45の谷部47と山部46が形成される(請求項8)。
図6中、Rは工具本体(ねじ切りフライス)の回転方向(自転方向)を、R
REは工具本体の公転方向を示す。
【0020】
自転を伴う公転をしながら、軸方向先端部側へ移動させられることにより、ねじ切り刃4の山頂面16付近は
図7−(a)の破線に示すような軌跡50を描いてめねじ45の谷部47を形成する。ねじ切り刃4が工具本体の軸方向に連続する2個以上の仕上げ刃12を有し、この2個の仕上げ刃12、12間の凹部である谷底部20が形成される場合には、この谷底部20付近は
図7−(b)の破線に示すような軌跡51を描いてめねじ45の山部46を形成する。
【0021】
請求項1における「進み側フランク面17とこれに軸方向に連続する山頂面16、及びこれに軸方向に連続する追い側フランク面18を持つ」とは、ねじ切り刃4が仕上げ刃12のみから構成される場合には、1個の仕上げ刃12がこれらの3面を有することを言い、ねじ切り刃4が仕上げ刃12と先行刃5を有する場合には、仕上げ刃12と先行刃5のそれぞれが3面を有することを言う。
【0022】
仕上げ刃12を含む、工具本体の周方向に間隔を置いて配列する各ねじ切り刃4の各仕上げ刃12は工具本体の回転軸Oを含む断面上、被削材40のめねじ45の谷部47の形状に対応し、
図3、
図5に示すように山形状をする。この山(仕上げ刃12)が工具本体の軸方向先端部側から後方側へかけ、進み側フランク面17と山頂面16と追い側フランク面18からなる。図示するようにねじ切り刃4が軸方向に連続する2個以上の仕上げ刃12、12を有する場合には、仕上げ刃12、12間に、被削材40のめねじ45の山部46の形状に対応した谷形状の、軸方向に追い側フランク面18と進み側フランク面17に挟まれた谷底部20が形成される。
【0023】
この各ねじ切り刃4の回転方向R前方側の稜線をなす端部が切れ刃であり、
図4−(b)に示すように仕上げ刃12の進み側フランク面17、山頂面16、追い側フランク面18の各回転方向前方側の端部(稜線)は進み側切れ刃13、山頂刃15、追い側切れ刃14になり、谷底部20の回転方向前方側の端部(稜線)は谷底刃24になる。言い換えれば、進み側切れ刃13、山頂刃15、追い側切れ刃14の各回転方向後方側に連続する面が進み側フランク面17、山頂面16、追い側フランク面18である。
【0024】
この進み側フランク面17と山頂面16との間、及び山頂面16と追い側フランク面18との間に、
図5−(b)に示すようにそれぞれ2面以上の面取り面25a、26aが形成される。被削材40側へ凸になった山頂面16(山頂刃15)とその軸方向両側の進み側フランク面17(進み側切れ刃13)と追い側フランク面18(追い側切れ刃14)は
図7−(a)に示すように被削材40のめねじ穴(下穴)を切削し、めねじ45の谷部47を形成する。
【0025】
図3〜
図6に示すように仕上げ刃12が工具本体の軸方向に2個以上、連続する場合(請求項2以下)には、上記のように軸方向先端部側の仕上げ刃12の追い側フランク面18と軸方向後方側の仕上げ刃12の進み側フランク面17との間に谷底部20が形成される。軸方向に連続する仕上げ刃12、12の内、被削材40側へ凹になった主に谷底部20の回転方向前方側の端部の、上記の谷底刃24とその軸方向両側の進み側切れ刃13及び追い側切れ刃14が
図7−(b)に示すように被削材40のめねじ45の山部46を形成する。
【0026】
面取り面25a、26aは
図8−(a)、(b)に示すように進み側フランク面17と山頂面16と追い側フランク面18が形成された状態の仕上げ刃12を砥石面75a、76aの角度が異なる少なくとも2種類の角形砥石75、76に工具本体の周方向に摺動させることで形成される。
【0027】
山頂面16の進み側フランク面17側の面取り面25a、26aは進み側フランク面17の一部でもあるから、
図5−(b)に示すようにその面取り面25a、26aの回転方向前方側の稜線は進み側切れ刃13の一部になる。同様に山頂面16の追い側フランク面18側の面取り面25a、26aは追い側フランク面18の一部でもあるから、その面取り面25a、26aの回転方向前方側の稜線は追い側切れ刃14の一部になる。
【0028】
面取り面25a、26aは進み側フランク面17と山頂面16との間、及び追い側フランク面18と山頂面16との間にそれぞれ2面以上、形成されればよいため、3面以上、形成されることもある。但し、各面取り面25a、26a自体は平面、もしくは平面に近い曲面であるため、面取り面25a、26aを形成するために
図11に示す総形砥石70を使用する必要性はない。仕上げ刃12は形態的には
図10−(c)に示す、稜線方向に連続した曲面を有する仕上げ刃に近似した表面形状になるが、総形砥石70を使用する必要がないため、角形砥石75、76に偏摩耗を発生させることはない。
【0029】
面取り面25a、26aを含む仕上げ刃12の山頂刃15(山頂面16)付近の部分は
図5−(b)に示すように厳密には曲面ではなく、多面体形状(多角形状)である。但し、被削材40のめねじ45の谷部47を切削するときには、
図6に示すように工具本体がヘリカル送りされることで、山頂刃15付近の部分は
図7−(a)に破線のa〜eで示すような軌跡50を描き、この軌跡を結べば、山頂刃15付近が凸曲面である場合と変わりがない曲線が描かれる。すなわち、工具本体は連続した曲線を描きながら移動する。a〜eは移動の順序を示す。
【0030】
山頂刃15付近の部分によるめねじ45の谷部47の切削時には、a〜eの軌跡50に示すように工具本体の半径方向外周側と内周側への移動(円運動)を伴う回転軸O方向(めねじ45の軸方向(深さ方向))先端側への移動のときに、進み側切れ刃13から山頂刃15を経て追い側切れ刃14にかけた仕上げ刃12の全体が谷部47を切削する。凹曲面を形成する谷部47の表面の内、
図7−(a)中、上側の部分(下向き面、もしくはめねじ45の軸方向の浅い側)を山頂刃15から追い側切れ刃14にかけての部分が曲面を形成するように切削し、下側の部分(上向き面、もしくはめねじ45の軸方向の深い側)を進み側切れ刃13から山頂刃15へかけての部分が曲面を形成するように切削する。
【0031】
ここでの進み側切れ刃13から山頂刃15にかけての部分と、山頂刃15から追い側切れ刃14にかけての部分は前記のように面取り面25a、26aが形成されている部分である。進み側切れ刃13から追い側切れ刃14にかけての部分を詳細に見れば、
図5−(b)に示すように回転軸O方向には、進み側切れ刃13とそれに軸方向(稜線に沿った方向)に隣接する面取り面25aとの間、山頂刃15とその軸方向両側に隣接する面取り面26a、26aとの間、追い側切れ刃14とそれに軸方向に隣接する面取り面25aとの間には角部が形成されて(残されて)いる。但し、後述のように工具本体が工具本体の半径方向と軸方向に連続的に移動することで、角部が形成されていることに起因してめねじ45の表面に不連続面を形成することはなくなっている。
【0032】
仕上げ刃12は上記のように被削材40に対しては工具本体の軸方向(回転軸O方向)の後方側(浅い側)から先端部側(深い側)へ移動しながら、めねじ45の山部46側から谷部47側へ移動した後、谷部47側から山部46側へ移動することで、めねじ45の谷部47を形成する。
図7−(a)中、ハッチングの領域は被削材40を示すため、被削材40の凹となった部分がめねじ45の谷部47に該当する。上記のように面取り面25a、26aを含む仕上げ刃12の山頂刃15付近の部分の、谷部47側へ凸になった点の軌跡を結べば(包絡線を描けば)、その軌跡(包絡線)は凹曲面を形成し、この形状がそのまま谷部47の形状になる。
【0033】
このように
図7−(a)中、めねじ45の谷部47側へ凸になった破線で示す多面体の稜線部分内の同一点が被削材40の内周面に接触し、切削し続ける訳ではなく、被削材40への接触部分が稜線部分内で常に変化する。このため、結果的には
図7−(a)にハッチングで示した被削材40の谷の形状のように仕上げ刃12の表面が、凸曲面で構成された
図10−(c)に示す形状の仕上げ刃12で切削した場合の表面と変わりがない谷部47の切削状態を得ることができる。
【0034】
同様のことはめねじ45の山部46を形成する後述の谷底刃24とその両側の進み側切れ刃13と追い側切れ刃14にも言える。
図7−(b)に示すようにめねじ45の山部46側へ凹となった谷底刃24を挟んだ区間は山部46を切削し、形成する。このとき、工具本体がヘリカル送りされることで、
図7−(b)に破線のa〜hで示すように谷底刃24は被削材40に対しては工具本体の軸方向(回転軸O方向)には、後方側(浅い側)から先端部側(深い側)へに移動しながら、工具本体の半径方向には、山部46から離れた側から山部46の表面に接近する向きに移動する。結果として谷底刃24の両側の追い側切れ刃14と進み側切れ刃13が山部46のそれぞれ下面と上面(両側面)を切削し、谷底刃24と両側の切れ刃13、14の一部が山部46の頂部を切削する。
【0035】
仕上げ刃が
図10−(a)に示す、面取り面のない、山頂刃15(山頂面16)と進み側切れ刃13と追い側切れ刃14からなる表面形状である場合、工具本体がヘリカル送りされたときには、
図12−(a)に破線で示すような軌跡を描く。この結果、めねじの谷は
図12−(b)に示すような、仕上げ刃の表面形状に沿った切削状態になり易く、凹曲面状に仕上げることはできないか、難しい。これは
図10−(a)に示すように仕上げ刃の山頂刃15(山頂面16)が平坦面であることで、工具本体がヘリカル送りされながらも、めねじ側へ凸となった山頂面とその両側の角部が被削材に接触し続け、仕上げ刃の被削材への接触部分が稜線部分内で常に変化しにくいことによる。
【0036】
これに対し、本発明では仕上げ刃12の山頂刃15(山頂面16)の軸方向両側に少なくとも2面の面取り面25、26を形成するだけで、上記のように曲面で構成された仕上げ刃12で切削した場合と同等の切削状態を得ることができる。従って仕上げ刃12の研削に要する手間が面取り面を形成しない場合(
図10−(a))より山頂面16の軸方向片側に付き、少なくとも2面、多く面取り面を形成すればよいだけで済む。それでいながらも、被削材40に対する切削状態として
図10−(c)に示す曲面状の仕上げ刃12と同等の結果が得られることになる。
【0037】
山頂面16の軸方向片側に面取り面25を1面、形成した参考例としての
図10−(b)に示す例との対比では、山頂面16の軸方向片側に付き、少なくとも1面、多く面取り面を形成するだけでよい。一方、山頂刃15付近が曲面で構成された
図10−(c)に示す例との対比では、ねじ切り刃を研削するための総形砥石70を使用する必要がないため、砥石に偏摩耗を生じさせることが回避される。
【0038】
図10−(b)に示すように山頂刃15(山頂面16)と進み側切れ刃13(進み側フランク面17)、及び追い側切れ刃14(追い側フランク面18)との間にそれぞれ面取り面25を1面しか形成しない場合、面取り面25と山頂面16とのなす角度、及び面取り面25と進み側フランク面17とのなす角度と、面取り面25と追い側フランク面18とのなす角度は十分に小さくはならない。
図10−(b)に示す例の場合、面取り面25と山頂面16との間、または面取り面25とフランク面17、18との間にはどうしても角部が形成される(残される)。
【0039】
この角部の形成(残存)により仕上げ刃によるめねじの谷部47の切削時に角部が被削材40に接触し続け、被削材40を切削し続ける傾向が生じ易い。但し、前記のように
図10−(b)は従来の仕上げ刃の形状例を示している訳ではなく、
図10−(a)に示す従来の仕上げ刃の形状例と本願発明の形状例の中間の形態を示している。
【0040】
仕上げ刃12を回転方向に見た
図10−(a)において、例えば進み側切れ刃13と山頂刃15のなす角度(内角)が120°であるとしたときに、(b)に示すように1面だけ形成された面取り面25が進み側切れ刃13(進み側フランク面17)と山頂刃15(山頂面16)の双方に同じ内角で交わるように形成された場合、面取り面25と進み側切れ刃13、及び山頂刃15とのなす角度は150°になる。面取り面25両側の外角は30°になる。ここでの「回転方向に見た」とは、
図2に示す回転方向Rとは逆向きに仕上げ刃12を見たときのことを言う。以下、同様である。
図2に示す回転方向Rは工具本体の回転の向きを示している。
【0041】
これに対し、
図5−(b)、
図8−(b)に示すように山頂面16と進み側フランク面17、及び追い側フランク面18との間に2面の面取り面25、26を、隣接する面とのなす角度が等しくなるように形成した場合、各面取り面25、26両側の外角が15°になるため、(b)に示す例より角部の角度(内角)が大きくなる(165°)。この結果、角部の形成(残存)によるめねじの谷部47への影響が小さくなり、角部の被削材40への継続した接触が回避され易くなる。
【0042】
本発明では1面の面取り面25を有する
図10−(b)に示す形状の仕上げ刃に対し、もう1面の面取り面26を追加するだけのことで、
図11に示す総形砥石70を用いて形成された
図10−(c)に示す形状の仕上げ刃を使用してめねじ45の谷部47を形成したことと同等の結果を得ることが可能になっている。すなわち、本発明は
図10−(b)に示す仕上げ刃への面取り面26の追加のみによりその(b)に示す形状の仕上げ刃から想定されるめねじ45の谷部47の形状を超え、
図10−(c)に示す仕上げ刃の使用と同等の結果を得ている。このことから、
図10−(b)に示す仕上げ刃に対する単なる面取り面の形成数の相違(増加)に留まらず、面取り面26の追加のみにより飛躍的な効果を獲得するに至っていると言える。
【0043】
なお、
図5−(b)に示すように山頂面16と進み側フランク面17との間、及び山頂面16と追い側フランク面18との間に形成された2面以上の面取り面25、26の、進み側フランク面17の稜線(進み側切れ刃13)と追い側フランク面18の稜線(追い側切れ刃14)に沿った方向の各幅P1、P2、Q1、Q2は山頂面16の稜線(山頂刃15)に沿った方向の幅S以下であることが適切である(請求項3)。P1、P2はフランク面17、18寄りの第一面取り面25の幅、Q1、Q2は山頂面16寄りの第二面取り面26の幅を指している。
【0044】
面取り面25、26の幅P1、P2、Q1、Q2が山頂面16の幅S以下であることで、山頂面16の稜線である山頂刃15による、めねじ谷部47の最も深い部分(底)の切削幅が山頂面16の幅Sで決まる。このため、山頂刃15による谷部47の切削が、面取り面25、26を含む進み側切れ刃13と追い側切れ刃14による谷部47の切削より支配的になる。この結果、谷部47の底を含め、谷部47の多くの部分を、軸方向の移動と円運動をする山頂刃15が切削するため、谷部47の基本的な形状を山頂刃15が決定することができ、谷部47を精度よく形成することが可能になる。
【0045】
例えば面取り面25a、26aの幅P1、P2、Q1、Q2が山頂面16の幅Sより大きい場合には、山頂刃15によるめねじ谷部47の切削より、進み側切れ刃13と追い側切れ刃14による谷部47の切削が支配的になり易いため、切削された谷部47の幅が小さくなり易く、谷部47の形状を決定付ける谷部47の切削精度が低下し易い。これに対し、山頂面16の幅Sが面取り面25a、26aの幅P1、P2、Q1、Q2以上であることで、谷部47の底付近における幅が山頂面16の幅Sで決まるため、山頂刃15の幅Sの精度を確保しておけば、山頂刃15(山頂面16)の形状通りに谷部47の形状を形成し易くなり、谷部47の切削精度を確保し易くなる利点がある。
【0046】
山頂面16と進み側フランク面17との間、及び山頂面16と追い側フランク面18との間に2面以上の面取り面25a、26aが形成された仕上げ刃12はめねじ45の谷部47を精度よく切削するために、軸方向に2個以上、連続する(連結された形に形成される)こともある(請求項2)。「仕上げ刃12が軸方向に2個、連続する」とは、進み側フランク面17から山頂面16を経て追い側フランク面18までの山の部分が軸方向に谷底部20を挟んで連続して繰り返され、この山の部分が軸方向に連結された形に形成されることを言う。
【0047】
この場合、隣接する2個の仕上げ刃12、12の内、工具本体の軸方向先端部側の仕上げ刃12の追い側フランク面18と、軸方向後方側の仕上げ刃12の進み側フランク面17との間に、半径方向中心側に凹となった谷底部20が形成される(請求項2)。ここで、前記のように主に山頂面16の回転方向前方側の端部(稜線)である山頂刃15がめねじ45の谷部47を形成(切削)し、主に谷底部20の回転方向前方側の端部(稜線)である谷底刃24がめねじ45の山部46を形成(切削)する関係で、
図5−(a)に示すように谷底部20の凹部分の軸方向幅vは山頂面16の、工具本体の半径方向外周側へ凸となった凸部分の軸方向幅uより大きいことが適切である(請求項2)。「軸方向幅」は「工具本体の軸方向の距離」の意味である。「工具本体の半径方向外周側へ凸となった凸部分」には山頂面16の両側の各2面以上の面取り面25a、26aが含まれる(
図5−(a))。
【0048】
谷底部20の凹部分は仕上げ刃12を外周側から回転方向に見たときの、あるいは被削材40側から見たときの凹部分であり、凹曲面状に形成される場合(請求項4)と、平面状に形成される場合がある。「凹曲面状」は凹曲面に近い多面体状に形成される場合を含む。「平面状」とは、凹部分が仕上げ刃12の外周側から見たときに凹曲面状ではなく、平面状、または平面状に近い形状に形成されることを言う。
【0049】
谷底部20の凹部分の軸方向幅vは
図5−(a)に示すように凹部分とその軸方向先端部側に連続する追い側フランク面18(追い側切れ刃14)の曲率の変化箇所、もしくは屈曲箇所y1と、凹部分とその軸方向後方側に連続する進み側フランク面17(進み側切れ刃13)の曲率の変化箇所、もしくは屈曲箇所y2を軸方向に結ぶ直線の線分の長さを言う。同様に山頂面16の凸部分の軸方向幅uは凸部分とその軸方向先端部側に連続する進み側フランク面17(進み側切れ刃13)の曲率の変化箇所、もしくは屈曲箇所x1と、凸部分とその軸方向後方側に連続する追い側フランク面18(追い側切れ刃14)の曲率の変化箇所、もしくは屈曲箇所x2を軸方向に結ぶ直線の線分の長さを言う。「山頂面16の凸部分」は上記のように面取り面25a、26aを含み、厳密には回転方向に見たとき、多角形(多面体)状であるが、全体的には凸曲面状とも言える。
【0050】
前記のように被削材40側へ凸になった山頂刃15とその両側の進み側切れ刃13及び追い側切れ刃14の一部が被削材40にめねじ45の谷部47を形成し、被削材40側へ凹になった谷底刃24とその両側の追い側切れ刃14及び進み側切れ刃13の一部が被削材40にめねじ45の山部46を形成する。このことから、山頂面16の凸部分の軸方向幅uが谷底部20の凹部分の軸方向幅vよりも大きければ(u>v)、被削材40に形成されるめねじ45の山部46の軸方向の幅が谷部47の幅より小さくなり易くなるため、めねじ45におねじを螺合させたときに、めねじ45の山部46に欠損を生じさせ易くなる。
【0051】
これに対し、請求項2では谷底部20の凹部分の軸方向幅vが山頂面16の、工具本体の半径方向外周側へ凸となった凸部分の軸方向幅uより大きいことで(v>u)、めねじ45の山部46の幅を谷部47の幅より大きく確保し易くなる。この結果、めねじ45の山部46の幅を谷部47の幅より小さくなり易くなることが回避されるため、めねじ45におねじを螺合させたときに、めねじ45の山部46の欠損を生じさせにくくなる。
【0052】
凹部分の軸方向幅vは具体的には凸部分の軸方向幅uの1.02〜1.20倍の範囲内、好ましくは1.025〜1.10倍の範囲内にあることが適切である。v=1.02〜1.20uの範囲内にあれば、
図7−(a)、(b)に示すように工具本体がヘリカル送りされ、めねじ45の谷部47の切削のために山頂刃15が軸方向に移動しても、めねじ45の山部46の幅をめねじ45の谷部47の幅より大きく確保し易くなる。
【0053】
仕上げ刃12が軸方向に2個以上、連続している場合(請求項2〜5)、軸方向先端部寄りの仕上げ刃12による被削材40の削り残しを、後方側の仕上げ刃12が加工する。従って軸方向先端部寄りの仕上げ刃12が摩耗した場合でも、後方側の仕上げ刃12が被削材40を加工することができるため、被削材40に対する加工精度が向上すると共に、工具本体の寿命を長期化させることが可能になる。
【0054】
仕上げ刃12が軸方向に2個以上、連続している場合に(請求項2〜5)、軸方向先端部寄りの仕上げ刃12と後方側の仕上げ刃12の機能を分離させ、後方側の仕上げ刃12が先端部寄りの仕上げ刃12の切削を補う役目を持たせる上では、
図5−(a)に示すように仕上げ刃12を回転方向R前方側から(仕上げ刃12を回転方向に)見たとき、あるいは工具本体の回転軸Oを通る断面で見たとき、軸方向に連続する2個の仕上げ刃12、12の内、軸方向先端部寄りに位置する仕上げ刃12の頂点と、その軸方向後方側に隣接する仕上げ刃12の頂点を通る直線Tと、回転軸とのなす角αが0〜5.0°の範囲内にあることが適切である(請求項6、請求項7)。
【0055】
この場合、工具本体の回転軸Oを通る断面で仕上げ刃12を見たとき(仕上げ刃12を回転方向に見たとき)、回転軸Oから半径方向外周側に、軸方向の後方側の仕上げ刃12の山頂刃15が先端部側の仕上げ刃12の山頂刃15と同じだけ突出するか(α=0°)、
図5−(a)に示すように先端部側の仕上げ刃12の山頂刃15より僅かに突出する状態になる(α>0°)。「同じだけ突出する」とは、軸方向の後方側の仕上げ刃12の山頂刃15が先端部側の仕上げ刃12の山頂刃15を通る直線(先端部側の仕上げ刃12の山頂刃15を含む平面)上に位置することを意味する。
【0056】
特に
図5−(a)に示すように先端部側の仕上げ刃12の山頂刃15より僅かでも突出する場合、すなわちα(軸方向先端部寄りに位置する仕上げ刃12の頂点と、その軸方向後方側に隣接する仕上げ刃12の頂点を通る直線と、回転軸Oとのなす角)が0°より大きい場合(請求項7)には、工具本体がヘリカル送りされることで、後方側の仕上げ刃12が先端部側の仕上げ刃12によるめねじ45の谷部47の切削を補い、谷部47の切削を仕上げる働きをする。従ってこの場合、軸方向に連続する2個以上の仕上げ刃12、12の機能が分離し、各仕上げ刃12の被削材40から受ける抵抗が分散するため、仕上げ刃12の破損に対する安全性が一層、向上する利点を有する。