特許第6226144号(P6226144)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6226144洗浄剤組成物原液、洗浄剤組成物および洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226144
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物原液、洗浄剤組成物および洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/26 20060101AFI20171030BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20171030BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20171030BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C11D7/26
   C11D7/32
   B08B3/08 Z
   H05K3/34 503Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-22815(P2015-22815)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2015-178599(P2015-178599A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-36264(P2014-36264)
(32)【優先日】2014年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕一
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−157887(JP,A)
【文献】 特開平08−034991(JP,A)
【文献】 特開2010−143971(JP,A)
【文献】 特開2012−121947(JP,A)
【文献】 特表2009−511795(JP,A)
【文献】 特表2012−505945(JP,A)
【文献】 特開2013−181060(JP,A)
【文献】 米国特許第03886099(US,A)
【文献】 特開平07−195044(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/020199(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0180917(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/024141(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102131910(CN,A)
【文献】 特開2009−298940(JP,A)
【文献】 特開2013−129815(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/077383(WO,A1)
【文献】 特開2011−168640(JP,A)
【文献】 特表2011−507236(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/066894(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/060379(WO,A1)
【文献】 特開2015−218295(JP,A)
【文献】 特開2000−303095(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0087952(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/26
B08B 3/08
C11D 7/32
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が50重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物(A)、沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が無限大の親水性アミノアルコール化合物(B)、水(C)の3成分、必要に応じて有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、防錆剤、酸化防止剤、キレート剤(ただし、沸点が200℃未満のものを除く)を含み、重量比率は、成分(A)が10〜50重量部、成分(B)が50〜90重量部、成分(C)が、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、1〜900重量部であるフラックス除去用の洗浄剤組成物原液であり、該洗浄剤組成物原液100重量部に対して3000重量部以下の水を添加したフラックス除去用の洗浄剤組成物の曇点が、35〜90℃であることを特徴とするフラックス除去用の洗浄剤組成物原液。
【請求項2】
請求項1記載の洗浄剤組成物原液100重量部に対して、3000重量部以下の水を添加したフラックス除去用の洗浄剤組成物。
【請求項3】
請求項2記載の洗浄剤組成物を曇点以上の温度に加熱して混合することで白濁状態にした洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させてフラックスを除去する洗浄工程、更にすすぎ水の温度が洗浄剤組成物の曇点よりも低い温度であり、水と洗浄剤組成物が完全相溶状態となる条件下で、被洗浄物をすすぎ水に接触させて被洗浄物に付着した洗浄剤組成物を除去する水すすぎ工程を含む被洗浄物の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤組成物原液、これを含む洗浄剤組成物及び洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の電子部品や合金製部品単体を洗浄する際は、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、塩化メチレン等の塩素系溶剤が用いられていた。これらの塩素系溶剤は、不燃性で乾燥性に優れるという利点があるが、人体に対する毒性、土壌汚染などの環境問題などの理由から、現在ではその使用が制限されている。
【0003】
これに対し、本出願人は、これまでに塩素系溶剤の代替洗浄剤としてグリコールエーテル系溶剤、界面活性剤、水を含む非ハロゲン系の準水系洗浄剤を提案してきた(特許文献1〜3参照)。この準水系洗浄剤は、ロジン・樹脂等の油溶性の汚れと、活性剤・塩等の水溶性の汚れの洗浄性に優れ、さらに、引火点が無く、毒性・臭気・引火性・被洗浄物への影響が低い等のため、各種電子部品のフラックス洗浄に用いられている。
【0004】
近年、さらなる環境負荷を低減のため、グリコールエーテル系溶剤を水で希釈した水希釈型洗浄剤が提案されている(特許文献4、及び5参照)。通常の水希釈型洗浄剤の組成は、洗浄時において、洗浄有効成分である有機物成分が20〜40重量%程度、水が60〜80重量%程度である。準水系洗浄剤と比較して、水希釈型洗浄剤は水の重量比率が大きいので、低コスト化、有機物成分の使用量の削減、VOC(volatile organic compounds)排出の抑制により、環境負荷の軽減が期待できる。また、汚れの種類に応じて、有機物成分の比率を変化させて、洗浄力の調整できる点が優れている。
【0005】
しかし、水の配合量を多くすればするほど有機物成分の比率が低下して、油溶性の汚れ成分を十分に除去できなくなるので、水希釈型洗浄剤の洗浄性は十分とは言えないのが現状である。また、疎水性の強い有機物成分を用いた場合、油性の汚れに対する洗浄性が優れるが、水との相溶性が低下して分離しやすくなり、水すすぎが困難となる。一方、親水性の強い有機物成分を用いた場合、水すすぎ性に優れるが、油性の汚れに対する洗浄性が劣る。このように、優れた洗浄性と水すすぎ性の両立は非常に困難である。ところが、洗浄剤の要求特性としては、油溶性汚れの洗浄性と水すすぎ性の両立に加えて、水溶性汚れの洗浄性、作業性、低コスト、環境負荷の低減等の多くの特性が求められている。
【0006】
ところで、水希釈型洗浄剤は、水希釈する時機の観点より、希釈品(特許文献4参照)と原液品(特許文献5参照)に分類できる。希釈品は、水希釈後の洗浄剤組成物を輸送して、保管を行い、そのまま使用する。一方、原液品は、洗浄剤組成物原液を輸送して、保管を行い、使用直前に水で希釈して、洗浄剤組成物を調製する。希釈品と比較して、原液品は有機物成分を効率的に輸送、保管できる点で優れているが、一般的に消防法で危険物に分類されるため、取り扱い性に課題がある。
【0007】
例えば、特許文献4で示されている洗浄剤組成物は、希釈品であるので輸送、保管効率に課題がある。さらに、洗浄時の有機物成分が少ない場合、洗浄性が十分ではなく、洗浄性に課題が残る。
【0008】
また、特許文献5で示されている洗浄剤組成物原液は、消防法で危険物に分類されるため、取り扱い性に課題がある。また、洗浄時の有機物成分が少ない場合、洗浄性は十分とは言えなかった。さらに、特許文献5で示されている洗浄剤組成物は、室温で白濁状態であり、水と洗浄剤組成物が分離するため、すすぎ工程において、水すすぎが困難である。通常、洗浄工程の後に実施するすすぎ工程では、被洗浄物に付着した洗浄剤を除去するために、水、アルコール、洗浄剤等が使用される。水すすぎは、特別な設備を必要とせず、安全性が高く、低コストである点で優れている。すすぎが不十分の場合、洗浄剤に溶解している汚れ成分が、被洗浄物に残るため、十分な洗浄性が得られない。
【0009】
このように、従来の水希釈型洗浄剤は、洗浄時の有機物成分が少ない場合、十分な洗浄性を得る事が困難であった。また、希釈品は輸送、保管効率に課題があり、原液品は取り扱い性に課題があった。仮に、洗浄時の有機物成分が少なくても、優れた洗浄性が得られることができれば、環境負荷をさらに低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−73893号公報
【特許文献2】特開平7−97596号公報
【特許文献3】特許第2813862号明細書
【特許文献4】特開2013−181060号公報
【特許文献5】特許第5127009号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非危険物で取り扱いが容易である洗浄剤組成物原液及びこの洗浄剤組成物原液を水で希釈した洗浄剤組成物が、油溶性の汚れと水溶性の汚れの両方に対して優れた洗浄性を示し、泡立ちが少なく、水すすぎが容易であり、特別な設備を必要とせず、作業性に優れており、低コストであり、環境負荷を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、高沸点の有機物成分に水を添加することで、洗浄剤組成物原液及び洗浄剤組成物の非危険物化を達成した。また、洗浄剤組成物中の有機物成分と水との相溶性が温度によって変化する性質を利用して、洗浄剤液組成が一定であるにも関わらず、洗浄時には疎水性が強いので優れた洗浄性を示し、水すすぎ時には親水性が強いので優れた水すすぎ性を示す理想的な洗浄剤組成物を見つけ出し、優れた洗浄性と水すすぎ性の両立を可能とした。さらに、白濁状態の洗浄剤組成物を使用して洗浄することで、洗浄性の向上・泡立ちの低減を達成した。そのうえ、アミノアルコールを多く添加することで、さらなる洗浄性の向上に成功した。
【0013】
すなわち本発明は、沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が50重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物(A)(以下、「(A)成分」ともいう)、沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が無限大の親水性アミノアルコール化合物(B)(以下、「(B)成分」ともいう)、水(C)(以下、「(C)成分」ともいう)の3成分を含み、重量比率は、成分(A)が10〜50重量部、成分(B)が50〜90重量部、成分(C)が、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、1〜900重量部である洗浄剤組成物原液であり、洗浄剤組成物原液100重量部に対して、3000重量部以下の水を添加した洗浄剤組成物の曇点が35〜90℃である洗浄剤組成物原液である。(本発明1)
【0014】
本発明2は、本発明1の洗浄剤組成物原液100重量部に対して、3000重量部以下の水を添加した洗浄剤組成物である。
【0015】
本発明3は、本発明2の洗浄剤組成物が、フラックス除去用の洗浄剤組成物である。
【0016】
本発明4は、本発明2又は3の洗浄剤組成物を、曇点以上の温度に加熱して混合することで白濁状態にした洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させてフラックスを除去する洗浄工程、更にすすぎ水の温度が、洗浄剤組成物の曇点よりも低く、水と洗浄剤組成物が完全相溶状態となる条件下で、被洗浄物をすすぎ水に接触させて被洗浄物に付着した洗浄剤組成物を除去する水すすぎ工程を含む、被洗浄物の洗浄方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の洗浄剤組成物原液は、洗浄に有効な有機物成分が濃縮されているため、効率良く輸送、保管できる点が優れている。また、高沸点の有機物成分に水を添加することで、洗浄剤組成物原液と洗浄剤組成物の両方が、消防法の非危険物に分類されるため、作業性の点でも優れている。また、洗浄剤組成物原液を水で希釈した洗浄剤組成物は、主成分が水であるため、低コスト、環境負荷が低減できる点でも優れている。また、本発明の洗浄剤液組成物は洗浄性が優れているので、洗浄時における水の重量比率を高くしても優れた洗浄性を発揮でき、水の重量比率を高くすることが可能である。水の重量比率を高くすることによって、低コスト化、環境負荷の軽減が達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記(A)成分は、沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が50重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物であれば、特に限定されない。沸点が200℃未満であると、引火性が高くなるので危険であり、作業性の点で問題がある。20℃における水への溶解度が50重量%を超えると、洗浄剤組成物の親水性が強くなり、十分な洗浄性が得られない。20℃における水への溶解度は、洗浄剤組成物に適度な疎水性を付与し、優れた洗浄性を発揮する点で好ましくは、30重量%以下である。より好ましくは、10重量%以下である。
【0019】
上記(A)成分の具体例としては、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。これら化合物は1種を単独でまたは2種以上を適宜に組合せて使用できる。これら化合物のうち、洗浄性が特に良好であるという点からジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールブチルメチルエーテルから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0020】
上記(B)成分は、沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が無限大の親水性アミノアルコール化合物であれば、特に限定されない。沸点が200℃未満であると引火性が高くなるので危険であり、作業性の点で問題がある。20℃における水への溶解度が無限大でなければ、洗浄剤組成物の疎水性が強くなり、水すすぎが困難となる。(B)成分は水と疎水性有機溶剤の両方に溶解し、疎水性と親水性の両方の性質を持つ。本発明における(B)成分は、油溶性の汚れが水に溶解するのを補助していると考えられる。また、(B)成分の水溶液は弱塩基性を示すため、油溶性の汚れ分子に含まれる官能基の一部をイオン化・塩を形成させることで、油溶性の汚れが水に溶けるようになり、油溶性の汚れに対する洗浄性が向上する。
【0021】
上記(B)成分の具体例としては、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン等が挙げられる。これら化合物は1種を単独でまたは2種以上を適宜に組合せて使用できる。これら化合物のうち、洗浄性が良好であるという点からN−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルジエタノールアミン及びN−エチルジエタノールアミンのいずれか一種以上が好ましく、N−n−ブチルジエタノールアミン又はN−t−ブチルジエタノールアミンがより好ましい。
【0022】
本発明1の(A)成分の配合量は10〜50重量部である。10重量部未満であると、洗浄剤組成物中の有機物成分と水との相溶性が温度によって変化する性質が弱くなり、洗浄性と水すすぎ性の両立が困難になる。また、洗浄剤組成物の疎水性が弱くて洗浄剤組成物が白濁しないため、汚れの洗浄性が十分に発揮できない。50重量部を超えると、洗浄剤組成物の疎水性が強くなり、35℃よりも低い温度で実施する水すすぎ工程において、水と洗浄剤組成物が分離するため、水すすぎが困難になる。上記(B)成分の配合量は50〜90重量部である。50重量部未満であると、35℃よりも低い温度で実施する水すすぎ工程において、水と洗浄剤組成物が分離するため、水すすぎが困難になる点と、油性汚れを水中に溶解させる力及び油性汚れをイオン化・塩を形成させる力が弱くなるため、洗浄性が十分に発揮できない点で問題がある。本発明は、(B)成分を50重量部程度以上とすることが、フラックス等の油溶性成分の洗浄性を向上させるとともに、水すすぎ性との両立を可能にした要因の一つである。90重量部を超えると、35〜90℃で実施する洗浄工程において、洗浄剤液組成物の親水性が強くて白濁しないため、汚れの洗浄性が十分に発揮できない。また、臭気が強いため作業環境に悪影響であり、電子基板等の被洗浄物が腐食しやすい。好ましくは、(A)成分が15〜45重量部、(B)成分が55〜85重量部であり、より好ましくは、(A)成分が20〜40重量部、(B)成分が60〜80重量部である。
【0023】
上記(C)成分の配合量は、上記成分(A)と上記成分(B)の合計100重量部に対して、1〜900重量部である。1重量部未満の場合は、引火性が高くなり作業性の点から危険であり、900重量部を超えると、有機物成分の濃度が薄くなるため、洗浄剤組成物を効率良く輸送、保管できない点で問題である。好ましくは、1〜500重量部、より好ましくは、1〜20重量部である。
【0024】
上記(A)〜(C)成分の配合方法は、特に限定されず、一般的な液体の混合方法が用いられる。具体的な配合方法として、攪拌法が挙げられる。
【0025】
本発明の洗浄剤成分は、上記(A)〜(C)成分以外の成分を含むこともできる。その他の成分としては、沸点が200℃以上の有機溶剤、各種公知の添加剤が挙げられる。沸点が200℃以上の有機溶剤の具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の20℃における水への溶解度が無限大の親水性グリコールエーテル化合物、ベンジルアルコール、4−メチルベンジルアルコール等のアルコール化合物、N,N−ジブチルエタノールアミン、N,N−ジブチルプロパノールアミン等の20℃における水への溶解度が無限大ではない疎水性アミノアルコール化合物等が挙げられ、これらの中でも、洗浄性・水すすぎ性が調整可能な点でジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。各種公知の添加剤の具体例としては、界面活性剤、消泡剤、防錆剤、酸化防止剤、キレート剤等が挙げられる。
【0026】
上記(A)〜(C)成分以外の成分の配合方法は、特に限定されず、(A)〜(C)成分と同時でも別々に添加してもよい。
【0027】
上記(A)〜(C)成分を含む洗浄剤組成物原液100重量部に対して、3000重量部以下の水を添加した洗浄剤組成物の曇点は35〜90℃である。35〜90℃程度で実施する洗浄工程において、洗浄剤組成物が白濁することで優れた洗浄性を発揮することができる。また、曇点を35℃以上とすることで、常温(10〜30℃程度)で水と洗浄剤組成物が分離しにくくなり、洗浄の次に行うすすぎを常温の水で十分に行うことができる。曇点が35℃よりも低くなると、常温で行う水すすぎ工程において、水と洗浄剤組成物が分離するため、水すすぎが困難になる点で問題がある。曇点が90℃よりも高くなると、35〜90℃程度で実施する洗浄工程において洗浄剤組成物が白濁しないため、汚れの洗浄性が十分に発揮できず、90℃よりも高い温度で洗浄を実施した場合、水の蒸発量が多くなるため、洗浄剤の濃度管理・作業性・安全性の点で問題がある。洗浄工程における洗浄剤の濃度管理・作業性・安全性の点より、好ましくは、35〜80℃であり、より好ましくは35〜70℃である。また、水の添加量が3000重量部を超えると、有機物成分の濃度が薄くなるため、十分な洗浄性が得られない。好ましくは、2000重量部以下であり、より好ましくは1000重量部以下である。
【0028】
さらに、本願発明の洗浄剤組成物は、洗浄剤組成物中の有機物成分と水との相溶性が、温度によって変化する性質を利用して、洗浄性と水すすぎ性の両立を可能とした。ここで、有機物成分とは、(A)成分と(B)成分のことである。上記曇点とは、洗浄剤組成物を昇温させたときに、水層と油層の二層に分離し始める温度をいう。すなわち、洗浄剤組成物のうち、主に(A)成分が油滴となって、洗浄剤組成物中に表れるため白濁状態となる温度のことをいう。曇点前後の温度で洗浄剤組成物の各物性が大きく変化するので、洗浄性・水すすぎ性等の性能が大きく変化するものと考えられる。これは、成分(A)が有するグリコールエーテル骨格の酸素原子と水分子との水素結合が、温度が上昇した際に切断されるからである。したがって、本願発明の洗浄剤組成物は、曇点よりも低い温度では有機物成分と水が完全混合し、曇点以上の温度では有機物成分と水が分離する。曇点以上の温度で実施する洗浄工程において、洗浄剤組成物の有機物成分と水が分離し、疎水性が強くなるので洗浄性が高まり、曇点より低い温度で実施する水すすぎ工程において、洗浄剤組成物の有機物成分と水が完全相溶し、親水性が強いので水すすぎ性が優れる。このように、曇点以上の温度で洗浄し、曇点よりも低い温度で水すすぎを実施する事で、洗浄性と水すすぎ性の両立が達成できる。
【0029】
さらに、曇点以上に加温した洗浄剤組成物は、疎水性が強くなって油溶性の汚れを溶解すること、すなわち化学的な力によって洗浄性が向上するだけではなく、水中に分散した油滴が汚れを剥がしとること、すなわち物理的な力も働くことで洗浄力が向上すると考えられる。そのため、本願発明の洗浄剤組成物は、物理的な力が大きく加わる気中シャワー洗浄において、特に優れた洗浄性を示す。そのため気中シャワー洗浄用洗浄剤組成物原液又は気中シャワー洗浄用洗浄剤組成物として有用である。また、曇点以上に加温した洗浄剤組成物は、水層と油層に分離しているため、ほとんど泡立ちがない。通常、気中シャワー洗浄では泡立ちによって生産性が低下する問題がある。この問題に対して、消泡剤の添加によって泡立ちを抑制する方法もあるが、消泡剤が高価である事、消泡剤が洗浄性の低下、洗浄不良を誘発される危険性があり、使用しないほうが良い。本願発明の洗浄剤組成物は、曇点以上に加温した洗浄工程において、消泡剤を添加しなくても泡立ちが極端に抑制される点でも優れている。
【0030】
上記洗浄剤組成物原液と水の調整方法は、特に限定されず、一般的な液体の混合方法が用いられる。具体的な配合方法として、攪拌法が挙げられる。
【0031】
本発明洗浄剤組成物は、フラックス除去用であることが好ましい。上記フラックスは、電子部品のハンダ付け工程において、ハンダ及び母材表面の酸化膜の除去、あるいはハンダ及び母材表面の再酸化を防止し、十分なハンダ付け性を得る目的で使用される。しかしながら、フラックスは腐食性であり、ハンダ付け後に母材表面に残ったフラックス残渣は、電子部品を実装した基板の品質を低下させる。そのため、フラックス残渣、すなわちフラックスは洗浄除去する場合がある。また、フラックス塗布に使用する器具・装置は、繰り替えし使用するためにフラックスの洗浄を実施する。具体例として、ロジン又はロジン誘導体が主成分のロジン系フラックス、ポリオール系樹脂が主成分の水溶性フラックス等が挙げられ、これらのフラックスとその他の成分を混合したもの、例えば、フラックスとはんだ金属粉を混合したソルダーペーストも挙げられる。
【0032】
上記洗浄剤組成物を用いた被洗浄物の洗浄方法もまた本発明の一つである。本発明の洗浄方法は、洗浄工程と水すすぎ工程を含むことが好ましい。上記洗浄工程とは、本発明の洗浄剤組成物を、曇点以上の温度に昇温して混合することで白濁状態にした洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させてフラックスを除去する工程である。油滴が水中に分散した白濁状態にすることにより、優れた洗浄性を発揮する。上記水すすぎ工程とは、すすぎ水の温度が、洗浄剤組成物の曇点よりも低く、水と洗浄剤組成物が完全相溶状態となる条件下で、被洗浄物をすすぎ水に接触させて被洗浄物に付着した洗浄剤組成物を除去する工程である。洗浄剤組成物が曇点よりも低い場合は水と洗浄剤組成物が完全相溶するので、水すすぎで容易に汚れ成分と洗浄剤組成物を除去できる。
【0033】
被洗浄物に、本発明の洗浄剤組成物及びすすぎ水を接触させる手段は特に限定されず、例えば、浸漬法、浸漬揺動法、液中シャワー法、気中シャワー法、超音波洗浄法等が挙げられる。泡立ちが少なく、洗浄性・生産性が優れている点より、気中シャワー法が好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「%」及び「部」は特に断りのない限り「重量%」、「重量部」を意味する。
【0035】
[実施例1]
ジプロピレングリコールモノブチルエーテル33部(A成分)、N−n−ブチルジエタノールアミン67部(B成分)、水10部(C成分)を混合して洗浄剤組成物原液を調製した。また、上記洗浄剤組成物原液100部に対して、水を200部添加し、洗浄剤組成物を調製した。
【0036】
実施例1〜16、および比較例1〜10は、実施例1において洗浄剤組成物原液、及び洗浄剤組成物を表1に示すように変化させた他は実施例1と同様に調整した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1中、(A)成分は沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が50重量%以下の疎水性グリコールエーテル化合物である。(B)成分は沸点が200℃以上であって、20℃における水への溶解度が無限大の親水性アミノアルコール化合物である。(C)成分は水である。(X)成分は、(A)成分を除いたグリコールエーテル化合物である。(Y)成分は(B)成分を除いたアミノアルコール化合物を示す。表1中、有機物成分とは、(A)成分、(B)成分、(X)成分及び(Y)成分を意味する。表1中の各組成物の略称、沸点、20℃における水への溶解度は、表2に示すとおりである。
【0039】
【表2】
【0040】
実施例1〜16、および比較例1〜10で得られた各種の洗浄剤組成物原液を用いて、引火点を測定した。また、実施例1〜16、および比較例1〜10で得られた各種の洗浄剤組成物を用いて、曇点の測定、洗浄性、水すすぎ性を評価した。
【0041】
[評価試験1:引火点の測定]
得られた洗浄剤組成物原液の引火点を、JIS K 2265に準拠し、引火点が室温から80℃の範囲はタグ密閉式により測定し、80度までで引火点が測定できなかった場合は、クリーブランド開放式にて測定を実施した。得られた結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
[評価試験2:曇点の測定]
得られた洗浄剤組成物を50mLのガラス容器に入れ、1℃/minの昇温速度で10℃から90℃まで加温し、洗浄剤組成物の透明性を目視で確認した。そして、洗浄剤組成物が白濁し始める温度を曇点とした。試験結果を表3に示す。表3中、なし(相分離)とは、10℃〜90℃で常に水層と油層の二層に分離していることを意味する。また、なし(完全相溶)とは、10℃〜90℃で常に完全相溶状態であることを意味する。
【0044】
[評価試験3:洗浄性の評価]
(洗浄性試験のテストピースの作製)
ガラスエポキシ銅張積層板(50×50×厚さ1.0mm)の銅パターン上に、メタルマスクを用いて鉛フリーソルダーペースト(エコソルダーM−705−GRN360−K2−V、千住金属工業(株)製)を印刷し、以下のプロファイルでリフローすることで、フラックスが付着した試験基板を作製した。
【0045】
(試験基板のリフロープロファイル)
雰囲気:空気
昇温速度:2℃/秒
プレヒート:180℃、80秒
ピーク温度:260℃、60秒
【0046】
(洗浄性試験)
上記の方法で作製した試験基板を用いて、以下の洗浄及び水すすぎの条件で、気中シャワー法による洗浄性試験を行った。液温が70℃の表1記載の洗浄剤液組成物に試験基板を接触させて30秒、あるいは1分間洗浄を行った。次いで、液温が25℃のすすぎ水に試験基板を接触させて1分間前すすぎを行った。更に、イオン交換水の流水で1分間仕上げすすぎを行った。その後、試験基板を1分間エアーブローし、水分を除去して乾燥を行った。乾燥した後の試験基板表面上のフラックス除去度について、以下の判定基準に基づき目視判定した。結果を表3に示す。
◎:洗浄時間が30秒の場合と、1分間の場合の両方において、フラックスを良好に除去できた(フラックス残渣の表面積、0%)。
○:洗浄時間が30秒の場合に、フラックスが残存したが、洗浄時間が1分間の場合に、フラックスを良好に除去できた(フラックス残渣の表面積、0%)。
△:洗浄時間が1分間の場合に、若干フラックスが残存した(フラックス残渣の表面積、0%を超えて10%以下)。
×:洗浄時間が1分間の場合に、かなりフラックスが残存した(フラックス残渣の表面積、10%を超える)。
【0047】
(気中シャワー法による洗浄及び水すすぎの条件)
流量:2.3L/分
圧力:0.1MPa
噴射ノズルと試験基板の距離:50cm
【0048】
[評価試験4:水すすぎ性の評価]
洗浄剤組成物を50mLのガラス容器に入れ、25℃における透明性を目視で確認した。
完全相溶状態で透明なものは水すすぎ性良好(○)、相分離状態で白濁したものは水すすぎ困難(×)と判断した。試験結果を表3に示す。