(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外力付与部は、前記ウイングタンクの少なくとも一方に設けられて、該ウイングタンクの前記気体空間に圧縮気体を供給又は排出することで前記液体の液面に外力を付与する圧縮機を含む
請求項1から4のいずれか一項に記載の減揺装置。
【背景技術】
【0002】
研究船、巡視船、取締船、練習船等には、航行中や停船中に船体の横揺れを低減させるための減揺装置が設けられている。この減揺装置の一つとして、ART(アンチローリングタンク)が知られている。
【0003】
ARTは、船体の上部の最大幅位置の左右舷に互いに船幅方向に離間して設けられた一対のウイングタンクと、これらウイング間を連結するダクトとを備えている。これらウイングタンク及びダクト内には清水、海水、油等の液体が収容されており、該液体がダクトを介して一対のウイングタンク間で船幅方向に移動することで、船体の揺れを低減させる。
【0004】
具体的には、船体が横波を受けると、船体には該横波に対して90°の位相差を有する横揺れが発生する。そこで、ARTでは、横波に対して逆位相(180°の位相差)の周期で液体を一対のウイング間で移動させることにより、横波による動揺モーメントを打ち消している。
なお、船体の横揺れは船体の固有周期で動揺する際に最大となるため、通常ARTは、液体の移動周期が船体の固有周期に合致するように設計される。これによって同調横揺れを抑制する減揺モーメントを発現させることができる。
【0005】
ここで、船舶の種類や船舶が航行する海洋の状態によっては、船体が該船体の固有周期で動揺することが想定されにくい場合がある。この場合、船体の固有周期に基づいて設計されたARTでは適切な減揺効果を得ることができない。具体的には、船体の固有周期よりも短い波周期や長い波周期の発生確率が高い海域での運用を主としている船舶では、ARTの減揺効果を適切に発揮することができず、場合によってはARTによって船体の横揺れを増幅させてしまうこともある。
【0006】
これに対して例えば特許文献1には、圧縮機で生成した圧縮空気を三方弁を介して一対のウイングタンクの一方に導入し、ウイングタンク内の液体の液面の初期高さを任意に設定することでARTの固有周期を可変とする技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の技術では、圧縮空気によってウイングタンク内の液面の高さを調整するのみに留まるため、減揺装置の固有周期の調整幅は広くはない。したがって、船舶の種類や海洋の状態に適切に応じた減揺効果を柔軟に得ることができない。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、船体の減揺をより効果的に図ることができる減揺装置、及び、該減揺装置を備えた船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用している。
即ち、本発明の第一態様に係る減揺装置は、船体の船幅方向に離間して設けられ、上部に気体空間を有するように液体を収容する一対のウイングタンクと、前記一対のウイングタンクの下部同士を連通させる流路を有するダクトと、前記液体に外力を付与することで、前記液体に前記一対のウイングタンク間での前記外力に基づく往復動を行わせる外力付与部と、を備え
、前記外力付与部は、前記ダクトの流路内に設けられて、該流路内の前記液体を前記船幅方向に圧送するポンプを含み、前記流路を互いに平行に船幅方向に延びる複数の小流路に区画する流路区画部をさらに備え、前記ポンプは、前記複数の小流路のうちの少なくとも一つに設けられている。
【0011】
この減揺装置によれば、付与する外力の大きさに応じて一対のウイングタンク間で液体を任意の周期で往復動させることができる。
また、ポンプが流路内の液体を圧送することで、液体に適切に往復動を行わせることができる。
さらに、小流路内の液体をポンプが圧送することで、液体に適切に往復動を行わせることができる。
【0016】
また、上記減揺装置は、前記複数の小流路のうちの少なくとも一つに設けられて、該小流路を流通する液体の流量を調整可能なダンパを備えていてもよい。
【0017】
ダンパが液体の流量を調整することによって該液体の往復動の周期を調整することができる。また、上記ポンプと組み合わせることによって、液体の往復動の周期をより柔軟に変更することができる。
【0018】
さらに、上記減揺装置は、前記一対のウイングタンクの少なくとも一方に設けられて、前記ダクトを介して該一方のウイングタンクに流通する前記液体が衝突する邪魔板をさらに備えていてもよい。
【0019】
外力付与部によって強制的に流通される液体が邪魔板に衝突することで、騒音の発生やウイングタンクの外板が傷むことを損ねてしまうことを回避できる。
【0020】
また、上記減揺装置は、前記船体の横揺れを検知するセンサと、該センサの出力に基づいて前記外力付与部を制御する制御装置と、をさらに備えていてもよい。
【0021】
これによって、船体の横揺れに応じた外力を液体に付与することができるため、横揺れに応じた周期で一対のウイングタンク間で液体を往復動させることができる。
【0022】
また、上記減揺装置の前記外力付与部は、前記ウイングタンクの少なくとも一方に設けられて、該ウイングタンクの前記気体空間に圧縮気体を供給又は排出することで前記液体の液面に外力を付与する圧縮機を含むものであってもよい。
【0023】
圧縮機により生成された圧縮空気によって液体に外力を付与することで該液体に適切に往復動を行わせることができる。
【0024】
さらに、上記減揺装置の前記外力付与部は、前記液体の液面に当接するように配置される押圧部、及び、該押圧部を船の高さ方向に往復動させる駆動部を有する押圧装置を含むものであってもよい。
【0025】
往復駆動部によって往復駆動される押圧部によって液体に外力を付与することで該液体に適切に往復動を行わせることができる。
【0026】
また、前記外力付与部は、前記液体に単振動周期で変動する外力を付与することで、前記液体に前記一対のウイングタンク間での単振動周期に応じた往復動を行わせるものであってもよい。
【0027】
これにより液面が波立つことなく液体を自然に往復動させることができるため、より適切に減揺効果を得ることができる。
【0028】
本発明の第二態様に係る船舶は、船体と、該船体に設けられた上記いずれかの減揺装置を備えることを特徴とする。
【0029】
このような船舶によれば、上記いずれかの減揺装置を備えているため、減揺効果を効果的に得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の減揺装置及び船舶によれば、船体の減揺をより効果的に図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の第一実施形態に係る船舶1について
図1〜
図3を参照して説明する。
本実施形態に係る船舶1は、
図1に示すように、海洋を航行可能な船体2及び、該船体2の横揺れを減揺させる減揺装置10を備えている。船体2の船種は特定のものに限定されることなく、研究船、巡視船、取締船、練習船等、種々の船種を採用することができる。
【0033】
減揺装置10は、一対のウイングタンク20と、ダクト30と、エアパイプ40と、調整バルブ42と、邪魔板50と、ポンプ60(外力付与部)とを備えている。
【0034】
ウイングタンク20は、船の高さ方向を長手方向として延びる一般に直方形箱型をなす部材である。このウイングタンク20の内部は中空状の空間とされており、該空間は液体Lを収容可能とされている。このようなウイングタンク20は、船体2の上部における船首尾方向の最大船幅位置に、該船幅方向に離間して一対が設けられている。即ち、一方のウイングタンク20は船体2の上部における左舷側に設けられ、他方のウイングタンク20は右舷側に設けられている。これら一対のウイングタンク20は、同一形状をなしており、互いに同一の姿勢で設けられている。
【0035】
ダクト30は、船幅方向を長手方向として延びて上記一対のウイングタンク20を接続するダクト本体31を有している。このダクト本体31の一端は一方のウイングタンク20に接続され、他端は他方のウイングタンク20に接続されている。このダクト本体31は内部が中空とされており、該中空部分は船幅方向に延びる流路32とされている。この流路32の両端は、それぞれ一対のウイングタンク20内の空間と連通状態とされている。これによって、一対のウイングタンク20内の空間同士は、ダクト本体31の流路32を介して連通状態とされる。
【0036】
また、
図2に示すように、ダクト本体31内には、流路32を互いに平行に船幅方向に延びる複数の小流路34に区画する流路区画部33が設けられている。この流路区画部33は、ダクト30の内壁面における天面及び底面にわたるように、かつ、ダクト30の船幅方向全長に延びるように配置されている。このような流路区画部33は船首尾方向にダクト30を分割するように複数(本実施形態では4つ)が配置されており、これによって、流路32を互いに平行な複数(本実施形態では5つ)の小流路34に区画している。
【0037】
このようなウイングタンク20及びダクト30内には、例えば清水、海水、油等の液体Lが収容されている。これによって、一対のウイングタンク20内の液体Lは、ダクト30の流路32を介してこれらウイングタンク20同士を往復動可能とされている。なお、ウイングタンク20内に液体Lが収容された状態では、一対のウイングタンク20内の空間の上部には空気が残されており、即ち、ウイングタンク20内の上部には気体空間Aが形成されている。したがって、ウイングタンク20内は、常時、下部が液体Lで満たされながら上部に気体が存在することになる。
【0038】
エアパイプ40は、一対のウイングタンク20の上部同士を接続する管状の部材である。このエアパイプ40は船幅方向に延在して一端が一方のウイングタンク20に接続されるとともに他端が他方のウイングタンク20に接続されている。このエアパイプ40の内部は中空状とさており、該中空部分は気体流通路41をされている。この気体流通路41は、一対のウイングタンク20それぞれの気体空間Aに連通状態とされている。これによって、一対のウイングタンク20の気体空間A同士は、エアパイプ40の気体流通路41を介して互いに連通状態とされている。したがって、一対のウイングタンク20の気体空間A内の空気は、エアパイプ40の気体流通路41を介して一対のウイングタンク20同士を往復移動できるようになっている。
【0039】
調整バルブ42は、エアパイプ40の延在方向の一部に設けられており、本実施形態では、一対のウイングタンク20のうちの一方のウイングタンク20(左舷側のウイングタンク20)側に片寄った位置に設けられている。この調整バルブ42は、操作されることによってエアパイプ40内の気体流通路41を開閉することができるように構成されている。本実施形態では、該調整バルブ42は、左舷側のウイングタンク20に隣接して設けられたバルブ室43内に配置されており、操舵室等からの遠隔操作、若しくは、バルブ室43内に入室した作業員が調整バルブ42を操作することで、気体流通路41を開状態(気体が流通可能な状態)、及び、閉状態(気体が流通不能な状態)、即ち、減揺装置10を非作動状態にすることができるようになっている。
【0040】
邪魔板50は、一対のウイングタンク20内にそれぞれ設けられている。この邪魔板50は、ウイングタンク20内における底面上に、ダクト30内の流路32から船幅方向に離間して、かつ、該流路32に対向するように設けられている。また、邪魔板50における流路32への対向面には、該邪魔板50を船幅方向に貫通する貫通孔(図示省略)が形成されている。本実施形態の邪魔板50においては、貫通孔が流路32の複数の小流路34に対応する位置に複数が設けられている。これによって、各貫通孔は小流路34に対して船幅方向に対向するように配置されている。
【0041】
ポンプ60は、ポンプ本体61及びポンプ駆動部62を備えている。
ポンプ本体61は、回転することにより液体Lを圧送可能な装置であって、本実施形態では、正逆回転することによって回転軸の軸線方向両側のいずれかに任意に液体Lを圧送可能とされている。このようなポンプ本体61は、ダクト30内の流路32における複数の小流路34にそれぞれ設けられており、即ち、小流路34の数に応じて複数(本実施形態では5つ)が設けられている。そして、これら回転軸を船幅方向に一致させた姿勢で配置されることにより、回転軸を正回転させることで液体Lを一方のウイングタンク20から他方のウイングタンク20に向かって圧送することができる一方、回転軸を逆回転させることで液体Lを他方のウイングタンク20から一方のウイングタンク20に向かって圧送できるようになっている。本実施形態では、これら複数のポンプ本体61は、流路32における船幅方向同一位置に設けられている。より具体的には、複数のポンプ本体61が、一方のウイングタンク20側に片寄った位置であるバルブ室43の直下において、船首尾方向に整列するように配置されている。
【0042】
ポンプ駆動部62は、ポンプ本体61を駆動させるための装置であって、例えばポンプ本体61の回転軸を回転させる電動機に電力供給を行うことによってポンプ本体61を駆動させる。本実施形態では、ポンプ駆動部62は、ポンプ本体61の直上となるバルブ室43の下部に設けられている。
このポンプ駆動部62は、例えば図示しない操作部からの操作指令に基づいてポンプ本体61を任意に駆動させるものであってもよい。
また、ポンプ駆動部62は、例えば船体2に配置されたジャイロセンサ等の横揺れを検出するセンサからの出力に基づいて図示しない制御装置が該ポンプ駆動部62を制御することでポンプ本体61を任意に駆動させるものであってもよい。
【0043】
この場合、ポンプ60駆動は、例えば
図3に示すように、回転数が時間とともにsin周期で変動するようにポンプ本体61を駆動させてもよい。即ち、ポンプ本体61の回転数が該回転数0を基準とした単振動周期で変動するように該ポンプ本体61を駆動させてもよい。この場合、単振動の振幅の大きさ(回転数の最大値)はセンサから得られる横揺れの大きさに応じて設定されることが好ましい。さらに、単振動の周期は、センサから得られる横揺れの周期に基づいて、該横揺れに対して90°位相が異なるように設定されることが好ましい。
【0044】
次に、本実施形態の減揺装置10及びこれを備えた船舶1の作用について説明する。
船舶1の航行中、又は停船中に該船舶1が横波に曝されていない状態では、調整バルブ42は閉状態とされ、これによってエアパイプ40内の気体流通路41を空気が流通することはない。そのため、一対のウイングタンク20内の気体空間Aにおける空気の量が変動することはなく、これら一対のウイングタンク20内に収容された液体Lの液面はほとんど一定に維持される。これによって、一対のウイングタンク20同士で液体Lが不用意に往復動することはない。
【0045】
一方、船舶1が横揺れに曝される状態になった際には、調整バルブ42を開状態とする。これによって、一対のウイングタンク20内の気体空間A同士の空気がエアパイプ40の気体流通路41を介して往復動することが可能となるため、これらウイングタンク20内に収容された液体Lも一対のウイングタンク20間でダクト30の流路32を介しての往復動が可能となる。
【0046】
一般にウイングタンク20やダクト30の寸法、及び、液体Lの容積は、船体2の固有周期及び所要減揺モーメントに応じて設計されている。したがって、船体2の固有周期と近い横波を受ける際には、減揺装置10の液体Lが一対のウイングタンク20間を横波と逆位相の周期で自然に往復動することで、該横波の動揺モーメントが打ち消される。
【0047】
一方、本実施形態では、船体2の固有周期よりも短い周期の横波、又は船体2の固有周期よりも長い周期の横波が発生した場合には、ポンプ60を駆動させることで、減揺装置10内の液体Lを一対のウイングタンク20間で強制的に往復動させる。これによって、横波による船体2の動揺の減衰を行う。
さらに、船体2が短い周期で動揺する場合は、ダクト30内の流速を早く、一方、長い周期で動揺す場合は、ダクト30内の流速を遅くすることで、減揺装置10のウイングタンク20及びダクト30の形状に囚われず、減揺装置10設計の自由度を向上させることができる。
【0048】
以上のように、本実施形態によれば、減揺装置10内に液体Lをポンプ60で圧送することにより、該液体Lを強制的に一対のウイングタンク20間で往復動させることができる。これによって、発生する横波の周期や大きさに応じた適切な減揺モーメントを得ることができる。具体的には、横波による動揺モーメントを最も効果的に打ち消すことのできる周期かつ位相(船体2の横揺れの周期から90°遅れた位相の周期)で一対のウイングタンク20間を往復動させることができるため、発生する横波に柔軟に対応して減揺効果を得ることができる。
【0049】
また、例えば、船体2の固有周期よりも短い周期の横波に対する減揺効果を得るためには、ウイングタンク20やダクト30の大型化を図る必要があるが、本実施形態のようにポンプ60で液体Lを任意に往復動させることで、ウイングタンク20やダクト30のコンパクト化を維持しながら適切な減揺効果を得ることが可能となる。したがって、船体2の重心上昇による復原性能の悪化や重量増加に伴う推進性能及び載貨性能への影響、あるいは居住区配置の縮小等を回避することができる。
【0050】
さらに、本実施形態のように小流路34内の液体Lをこれら小流路34内に配置されたポンプ60が圧送することで、液体Lに適切に往復動を行わせることができる。即ち、流路32内のほとんどの液体Lがポンプ60を通過することになるため、該ポンプ60による液体Lの流通が支配的となり、ポンプ60の駆動に応じた周期及び振幅で適切に液体Lを往復動させることができる。
【0051】
また、ポンプ本体61の回転数を単振動周期で変動するように駆動させた場合、液体Lの往復動自体が単振動となるため、より横波を打ち消すために適した往復動をさせることができる。また、液体Lを強制的に循環させながらも単振動周期で往復動させることで、液面が不用意に波立ってしまうこともない。したがって、液体Lが想定外の挙動をしてしまうことを回避できるため、意図した周期及び振幅で一対のウイングタンク20間での往復動を行わせることができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、各ウイングタンク20内に邪魔板50が設けられているため、ポンプ60によって強制的に流通させられて、各ウイングタンク20内に流入する液体Lは邪魔板50に衝突する。これによって、減揺装置10の外形をなすウイングタンク20に直接的に液体Lが衝突する場合に比べて騒音の発生を抑制することができる他、該ウイングタンク20の外板を傷めることを回避できる。また、邪魔板50には貫通孔が形成されているため、該邪魔板50が液体Lの自然な往復動を妨げてしまうことを極力回避できる。
【0053】
なお、第一実施形態では、小流路32のそれぞれにポンプ本体61を配置したが、複数の小流路32の一部のみにポンプ本体61を配置してもよい。
また、第一実施形態では、ダクト30における一方のウイングタンク20に片寄った位置に各ポンプ本体61を配置したが、ダクト30内におけるいずれの箇所にポンプ本体61を配置してもよい。例えば、ダクト30の延在方向、即ち、船幅方向の中央に各ポンプ本体61を配置してもよい。
さらに、第一実施形態では、流路32を小流路34に区画してこれら小流路34にポンプ本体61を配置したが、流路32を小流路34に区画せずに、単一の流路32のみを形成し、当該単一の流路32に単一又は複数のポンプ本体61を配置してもよい。
【0054】
なお、第一実施形態の減揺装置10は、例えば
図4に示す第一変形例のように構成してもよい。
この第一変形例では、ダクト30内の複数(5つ)の小流路34のうち一部の小流路34(2つの小流路34)にポンプ本体61が設けられておらず、該ポンプ本体61の代わりにダンパ65がそれぞれ設けられている。このダンパ65は、ポンプ本体61の設置個所とは離間して、他方のウイングタンク20側に片寄った位置に配置されており、設置された小流路34を流通する液体Lの流量をダンパ65の姿勢に応じて任意に調整できるように構成されている。
【0055】
このような第一変形例によれば、第一実施形態と同様にポンプ60によって任意の周期及び位相の往復動を液体Lに行わせることを可能としながら、上記ダンパ65によって小流路34の液体Lの流量を可変とすることで、液体Lの往復動の周期及び位相の微調整を図ることができる。したがって、横波の状態が一時的に多少変動した場合には、ポンプ60の駆動状態を変化させずに、当該ダンパ65のみを調整することによって横波に応じた適切な減揺モーメントを得ることができる。
なお、ポンプ本体61に代えてダンパ65を配置する小流路34は、いずれの小流路34を選定してもよい。また、ポンプ本体61とダンパ65とを同一の小流路34に設けてもよい。
【0056】
また、第一実施形態の減揺装置10は、例えば
図5に示す第二変形例のように構成してもよい。
この第二変形例では、ポンプ本体61は正逆回転可能とはされておらず正回転のみ可能とされている。したがって、ポンプ本体61は一方向のみに液体Lを圧送可能とされている。そして、ダクト30内の複数(6つ)の小流路34のうち半分の小流路34には、一方のウイングタンク20側に片寄った位置に、他方のウイングタンク20側に向かってのみ液体Lを圧送可能に配置されている。また、もう半分の小流路34には、他方のウイングタンク20側に片寄った位置に、一方のウイングタンク20側に向かってのみ液体Lを圧送可能に配置されている。
【0057】
このような第二変形例によれば、一方のウイングタンク20側に片寄った位置に配置されたポンプ60と他方のウイングタンク20側に片寄った位置に配置されたポンプ60とが交互に液体Lを圧送することで、該液体Lを一対のウイングタンク20間同士で往復動させることができる。したがって、これらポンプ60の圧送のタイミングを変化させることで、横波に応じた減揺モーメントを得ることができる液体Lの往復動を容易に作り出すことが可能となる。
なお、ポンプ本体61の配置は第二変形例の形態に捉われず、例えば全てのポンプ本体61をダクト30の延在方向、即ち、船幅方向の中央に設置してもよい。また、同一の小流路34に圧送方向が互いに逆向きのポンプ本体61を配置してもよい。
【0058】
さらに、第一実施形態の減揺装置10は、例えば
図6に示す第三変形例のように構成してもよい。
この第三変形例では、エアパイプ40が設けられておらず、その代わりに各ウイングタンク20の上部にウイングタンク20内外を連通させる通気孔22が形成されるとともに、該通気孔22を開閉可能な開閉蓋部23が設けられている。この開閉蓋部23は、手動または操作部からの開閉指令によって、通気孔22を任意に開放、閉塞することができるように構成されている。これによって、減揺装置10を非作動とさせる際には通気孔22を閉塞させてウイングタンク20間の空気量を維持することで液体Lの往復動を抑制する一方、減揺装置10を作動させる際には通気孔22を開放してウイングタンク20間の空気量を変化可能とさせることで液体Lの往復運動を許容する。これによっても、エアパイプ40の調整バルブ42同様、減揺装置10の作動・非作動を容易に設定することができる。
【0059】
次に、本発明の第二実施形態について
図7及び
図8を参照して説明する。第二実施形態では第一実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この第二実施形態の減揺装置10は、第一実施形態のポンプ60、エアパイプ40及び調整バルブ42を備えておらず、これらに代えて圧縮機70(外力付与部)を備えている点で第一実施形態と相違する。
【0060】
即ち、本実施形態の減揺装置10では、一対のウイングタンク20の上面にそれぞれ圧縮機70が設けられている。この圧縮機70は、例えば回転することで空気を圧送する回転翼を有しており、回転に伴って空気を吸引して圧縮し、圧縮空気として排出する。この圧縮機70は、減揺装置10の外部から吸い込んだ空気を、ウイングタンク20内の気体空間Aに圧縮空気として供給することで、気体空間A内を高圧状態とすることができる。一方、この圧縮機70は、ウイングタンク20内の気体空間Aから吸い込んだ空気を、減揺装置10外部に排出することで気体空間A内を負圧状態とすることができる。即ち、本実施形態の圧縮機70は正逆回転することで、ウイングタンク20内の気体空間Aを高圧状態、負圧状態と任意に変化させることができる。
【0061】
また、一対のウイングタンク20にそれぞれ設けられた圧縮機70は、気体空間A内に空気を供給する回転数を正とした場合に、例えば
図8に示すように、回転数の時間による変化が回転数0を基準としたsin周期(単振動周期)で変動することが好ましい。また、一対の圧縮機70の回転数の周期は互いに逆位相とされていることが好ましい。さらに、これら圧縮機70の回転数の位相は、例えばジャイロセンサ等のセンサによって検出される横揺れの周期から90°遅れた位相の周期とされることが好ましい。この場合、センサからの出力に応じて図示しない制御装置が圧縮機70を制御することで、圧縮機70の回転数が所望の位相に設定される。
【0062】
なお、本実施形態の圧縮機70は、ウイングタンク20の気体空間Aを高圧状態、負圧状態とすることで、液体Lを一対のウイングタンク20間で移動させるだけの出力を有している。即ち、一方のウイングタンク20の気体空間Aを高圧状態とした際には、当該気体空間Aの空気の圧力によって液面を押し下げて、液体Lを他方のウイングタンク20へと向かって流動させる。また、一方のウイングタンク20の気体空間Aを負圧状態とした際には、当該負圧により液面を押し上げて液体Lを一方のウイングタンク20にさらに導入させる。そして、このような圧縮機70が一対のウイングタンク20それぞれに設けられ、かつ、互いに逆位相で駆動されることで、減揺装置10内の液体Lを強制的かつ円滑に往復動させることができるようになっている。
【0063】
したがって、第二実施形態の減揺装置10によれば、圧縮機70によってウイングタンク20の気体空間Aが高圧状態又は負圧状態とされることで、液体Lの液面に対して該液面を押し下げる外力、又は押し上げる外力を作用させることができる。これによって、船体2が受ける横波に応じた任意の周期かつ位相で、一対のウイングタンク20間で液体Lを往復動させることができる。したがって、第一実施形態同様、適切な減揺モーメントを得ることができるため、横波の周期及び大きさにかかわらず、船体2の横揺れを円滑に減揺させることが可能となる。
【0064】
ここで、例えば仮に圧縮空気を急激に気体空間Aに供給してしまうと、該圧縮空気から液面に付与される外力によって液面が波立ってしまい、液体Lの往復動の挙動が想定外のものになってしまう。この場合、意図した減揺効果を得ることができない場合がある。
これに対して本実施形態のように、圧縮機70の回転数を単振動周期で変動させた場合には、液面の変動に伴う該液体Lの往復動自体が単振動となるため、液体Lに横波をより効果的に打ち消すのに適した往復動をさせることができる。また、液体Lを強制的に循環させながらも単振動周期で往復動させることで、液面が不用意に波立ってしまうこともない。したがって、液体Lが想定外の挙動をしてしまうことを回避できるため、意図した周期及び振幅で一対のウイングタンク20間での往復動を行わせることができる。
【0065】
なお、本実施形態では、一対のウイングタンク20それぞれに圧縮機70を設けたが、一方のウイングタンク20のみに圧縮機70を設けてもよい。この場合、他方のウイングタンク20には、該ウイングタンク20の気体空間A内外を連通させる孔部を形成することが好ましい。これによっても、一方のウイングタンク20の気体空間Aを一の圧縮機70で高圧状態又は負圧状態とすることで液体Lを往復動させることができるため、横波に応じた任意の減揺モーメントを得ることができる。
【0066】
また、一対のウイングタンク20に設けられる圧縮機70は、それぞれ正回転のみ可能な構成であってもよい。この場合も、一対の圧縮機70を連動させて一対のウイングタンク20の気体空間Aのそれぞれを高圧状態又は負圧状態とすることで、液体Lに往復動を行わせることが可能となる。
【0067】
次に、本発明の第三実施形態について
図9及び
図10を参照して説明する。第三実施形態では第二実施形態と同様の構成要素については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
この第三実施形態の減揺装置10は、第二実施形態の圧縮機70に代えて押圧装置80を備えている点で第二実施形態と相違する。
【0068】
この押圧装置80は、
図9に示すように、各ウイングタンク20それぞれに設けられており、押圧部81及び往復駆動部82とを備えている。
押圧部81はウイングタンク20内の液体Lの液面に当接する板状をなしている。この押圧部81は、液体Lの液面全域に当接していることが好ましい。また、この押圧部81は、ウイングタンク20に対して船の高さ方向に相対的に往復動可能に配置されている。
【0069】
往復駆動部82は、押圧部81を船の高さ方向に往復動させるものであって、本実施形態では例えば供給される流体圧によって往復動可能なピストンシリンダ機構が用いられている。往復駆動部82としては、これに限られず、回転駆動を往復駆動に代える回転クランク機構や、電動機の正逆回転によって往復動するボールネジ駆動機構等、種々の構成を採用することができる。
【0070】
このような往復駆動部82によって押圧部81が液面と当接した状態で船の高さ方向に往復動することで、液体Lの液面を変動させることができる。そして、当該液面に変動に伴って、液体Lを一対のウイングタンク20間で往復動させることが可能となる。
【0071】
この往復駆動部82は、例えば
図10に示すように、押圧部81の船の高さ方向の変位を、初期位置を基準としたsin周期(単振動周期)で変動させることが好ましい。また、一対のウイングタンク20それぞれの押圧部81の変位の周期は、互いに逆位相とされていることが好ましい。さらに、これら押圧部81の変位の振幅は、例えばジャイロセンサ等のセンサによって検出される横揺れの振幅に応じて、一対の押圧部81で同一の振幅に設定されることが好ましく、また、変位の周期も横揺れの周期から90°遅れた位相の周期とされることが好ましい。この場合、センサからの出力に基づいて図示しない制御装置が往復駆動部82を制御することで、該往復駆動部82の押圧部81が所望の周期で変動する。
【0072】
したがって、本実施形態の減揺装置10によれば、船体2が受ける横波に応じた任意の周期かつ位相で一対の押圧装置80によって液体Lを一対のウイングタンク20間で往復動させることができる。よって第一実施形態同様、適切な減揺モーメントを得ることができるため、横波の周期及び大きさにかかわらず、船体2の横揺れを円滑に減揺させることが可能となる。
【0073】
また、押圧部81の変位を単振動周期で変動させた場合には、液体Lの往復動自体が単振動となるため、液体Lに横波をより効果的に打ち消すのに適した往復動をさせることができる。また、液体Lを強制的に循環させながらも単振動周期で往復動させることで、液面が不用意に波立ってしまうこともない。したがって、液体Lが想定外の挙動をしてしまうことを回避できるため、意図した周期及び振幅で一対のウイングタンク20間での往復動を行わせることができる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第一実施形態のポンプ60、第二実施形態の圧縮機70、及び、第三実施形態の押圧装置80の3つのうちの少なくとも2つを組み合わせて、液体Lを往復動させるための外力付与部を構成してもよい。これによっても、各実施形態同様、液体Lに容易かつ円滑に往復動をさせることができるため、横波の周期や大きさにかかわらず船体2の横揺れを効果的に低減させることができる。
【実施例】
【0075】
図11に、従来型の減揺装置及び上記実施形態で説明した本発明に係る減揺装置の船の横揺周期と減揺率との関係のグラフを示す。ここで減揺率とは、減揺装置が非作動状態の場合の横揺れ量に対する該減揺装置が作動可能状態の場合の横揺れ量の割合を示す値である。
【0076】
従来型の減揺装置は、船の固有周期で減揺効果が最大となるように設計されたものであるため、
図11に示すように、船の横揺周期が該船の固有周期から外れてしまうと適切な減揺効果を得ることができない。
【0077】
これに対して、本発明に係る減揺装置の場合、液体に外力を付与することでダクト内の流速を任意に調整することができる。これによって、
図11に示すように、減揺率曲線は、ダクト内の流速を調整することで得られる重ね合わせの実線となる。したがって、船の固有周期以外の幅広い周期範囲で船が同様する場合であっても、効果的に減揺効果を得ることができる。