【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持部材又は前記陽極部材には、前記貫通部にめっき液を供給するめっき液供給路が設けられ、前記保持部材又は前記陽極部材には、前記貫通部からめっき液を排出するめっき液排出路が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のめっき装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき装置は、陰極板及び陽極板を収容する水槽を用意すると共に水槽の側板に開口や溝部を設ける必要があるため、構造の大型化や複雑化を招き、製造コストや材料コストが増加するという問題がある。そのため、さらに簡素でコンパクトなめっき装置の開発が求められていた。
【0005】
また、近年のめっき物の研究開発において、めっき中にめっき物の生成過程を高性能顕微鏡(例えばラマン顕微鏡)等で観察することができるめっき装置の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、従来よりも簡素で小型化が容易なめっき装置及びこれを用いたセンサ装置を提供することを第1の課題とする。
また、本発明は、めっき物の生成過程を観察可能なめっき装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明に係るめっき装置は、陰極となる被めっき物(W)を保持する保持部材(2)と、前記被めっき物(W)を囲う環状の第1シール部材(3)を介して前記保持部材(2)に積層され、前記被めっき物(W)を露出させるとともにめっき液を貯留する貫通部(45)を有するスペーサ(4)と、前記貫通部(45)を囲う環状の第2シール部材(5)を介して前記スペーサ(4)に積層され、前記貫通部(45)から露出する前記被めっき物(W)に対向して配置される陽極(62)を有する陽極部材(6)と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、被めっき物(W)を保持する保持部材(2)とめっき液を貯留する貫通部(45)を有するスペーサ(4)と陽極を有する陽極部材(6)とを第1、第2シール部材(3,5)を介して単に積層するだけでめっき装置(1)を容易に構成することができる。そのため、例えば特許文献1に記載のめっき装置と比較して、複雑な構造の水槽が不要になるので、めっき装置(1)の簡素化と小型化を図ることができる。また、本発明によれば、スペーサ(4)を厚さ寸法の異なるものに交換することで陰極と陽極の間隔を容易に調節することができる。
【0008】
また、前記スペーサ(4)は、絶縁体からなるスペーサ本体部(41)と、前記スペーサ本体部(41)の前記陽極部材(6)側の面に設けられた陽極側導電層(43)と、を有し、前記陽極部材(6)は、絶縁体からなる陽極部材本体部(61)と、前記陽極部材本体部(61)の前記スペーサ(4)側の面に設けられた前記陽極となる陽極層(62)と、を有し、前記第2シール部材(5)の内側で前記陽極側導電層(43)が前記陽極層(62)に接続され、前記第2シール部材(5)の外側で前記陽極側導電層(43)が電源装置(PW)に接続されることを特徴とする。
このような構成によれば、第2シール部材(5)の内側で陽極側導電層(43)が陽極層(62)に接続され、第2シール部材(5)の外側で陽極側導電層(43)が電源装置(PW)に接続されるので、スペーサ(4)と陽極部材(6)の間の水密性を保ちながら陽極層(62)に電気を供給することができる。
【0009】
また、前記陽極部材本体部(61)は、前記貫通部(45)から露出する前記被めっき物(W)を観察するための透光性を有する窓部(64)を有し、前記陽極層(62)は、前記窓部(64)を避けて形成されているのが好ましい。
このような構成によれば、めっき中に窓部(64)を通して被めっき物(W)に生成されるめっき自体を観察(又は観測)することができる。
【0010】
また、前記窓部(64)は、前記陽極部材本体部(61)の他の部位よりも厚さ寸法(t1)が小さいのが好ましい。
このような構成によれば、例えば観察に用いる顕微鏡(M)を陰極に近づけて配置することができる。その結果、めっき中における被めっき物(W)の状態を好適に観察することができる。
【0011】
また、前記窓部(64)の厚さ寸法t1は、0.05mm≦t1≦2mmの範囲であるのが好ましい。
このような構成によれば、窓部(64)を透過する光の屈折や散乱を好適に抑制することができるので、窓部(64)の影響を軽減してめっき中における被めっき物(W)の状態を好適に観察することができる。
【0012】
また、前記陽極部材本体部(61)は、前記窓部(64)の周囲に前記窓部(64)に向かって下り傾斜となるテーパ部(64a)を有するのが好ましい。
このような構成によれば、陽極部材本体部(61)は、窓部(64)の周囲に窓部(64)に向かって下り傾斜となるテーパ部(64a)を有するので、例えば顕微鏡(M)を用いて被めっき物(W)を観察する場合に、陽極部材(6)に顕微鏡(M)が接触することを抑制できる。
【0013】
また、前記スペーサ(4)の厚さ寸法t2は、0.05mm≦t2≦1mmの範囲であるのが好ましい。
このような構成によれば、貫通部(45)に貯留されるめっき液の厚さ(深さ)が小さくなるので、例えばめっき液が着色されていても、被めっき物(W)の状態を観察することができる。また、極間距離を著しく近づけることにより、イオン濃度の拡散勾配を急峻にすることができる。
【0014】
また、前記スペーサ(4)は、前記スペーサ本体部(41)の前記保持部材(2)側の面に設けられた陰極側導電層(42)を有し、前記第1シール部材(3)の内側で前記陰極側導電層(42)が前記被めっき物(W)に接続され、前記第1シール部材(3)の外側で前記陰極側導電層(42)が前記電源装置(PW)に接続される構成とするのが好ましい。
このような構成によれば、スペーサ(4)と保持部材(2)の間の水密性を保ちながら被めっき物(W)に電気を供給することができる。
【0015】
また、前記スペーサ(4)は、前記スペーサ本体部(41)の前記陽極部材(6)側の面に前記陽極側導電層(43)と絶縁された参照極用導電層(44)を有し、前記陽極部材(6)は、前記陽極部材本体部(61)の前記スペーサ(4)側の面に前記陽極層(62)と絶縁された参照極層(63)を有し、前記第2シール部材(5)の内側で前記参照極用導電層(44)が前記参照極層(63)に接続され、前記第2シール部材(5)の外側で前記参照極用導電層(44)が計測装置に接続される構成とするのが好ましい。
このような構成によれば、スペーサ(4)と陽極部材(6)との間の水密性を保ちながら参照極層(63)を利用して陽極の電位を計測することができる。
【0016】
また、前記保持部材(2)又は前記陽極部材(6)には、前記貫通部(45)にめっき液を供給するめっき液供給路(27)が設けられ、前記保持部材(2)又は前記陽極部材(6)には、前記貫通部(45)からめっき液を排出するめっき液排出路(28)が設けられているのが好ましい。
このような構成によれば、めっき液供給路(27)から貫通部(45)にめっき液を供給し、貫通部(45)からめっき液排出路(28)にめっき液を排出することで、貫通部(45)内のめっき液を好適な状態に維持することができる。
【0017】
また、前記めっき液が無電解めっき液の場合は、前記電源装置(PW)に替えて計測装置を接続することで前記陽極と前記陰極の間の電位を計測するのが好ましい。
このような構成によれば、本発明に係るめっき装置(1)で無電解めっきを行うことができるとともに、電極間の電位差を計測することができる。
【0018】
また、本発明は、前記めっき装置(1)を用いたセンサ装置であって、前記陽極側導電層(43)は、互いに絶縁された複数の陽極側導電層(43B)で構成され、前記陽極層(62)は、前記陽極側導電層(43B)と同数の互いに絶縁された陽極層(62B)で構成され、前記各陽極層(62B)の前記貫通部(45)から露出する部分(62Bb)には、互いに異なる反応基がそれぞれ修飾されていることを特徴とする。
このような構成によれば、例えば、複数の陽極層(62B)に異なる反応基を修飾することで、めっき装置(1)をセンサ装置として利用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、従来よりも簡素で小型化が容易なめっき装置及びこれを用いたセンサ装置を提供することができる。また、本発明では、めっき物の生成過程を観察可能なめっき装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の第1実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。第1実施形態では、被めっき物Wに電解めっきを施す場合を例にとって説明する。なお、説明において方向を示す時は、
図1に矢印で示される、「前後」、「上下」及び「左右」に基づいて説明する。
【0022】
第1実施形態に係るめっき装置1は、単純な積層構造で構成される薄型のめっき装置である。めっき装置1は、例えばラマン顕微鏡等の特殊な顕微鏡を用いて、めっき中におけるめっき物の生成状態や固液界面の反応状態を観察することが可能である点を特徴としている。
図1、
図2に示すように、めっき装置1は、被めっき物Wにめっきを施す装置であり、主な構成要素として、下側から順に、保持部材2と、第1シール部材3と、スペーサ4と、第2シール部材5と、陽極部材6と、を備えている。また、めっき装置1は、保持部材2の下側に、陰極側通電部材7と、絶縁部材8と、を備えている。さらに、めっき装置1は、陽極部材6の上側に、陽極側通電部材9を備えている。
【0023】
図2に示すように、被めっき物Wは、めっきが施される対象物であり、例えば平面視で四角形状を呈する薄板部材で構成されている。被めっき物Wは、特に限定されるものではないが、例えば回路基板、半導体チップ及びデバイスパッケージをはじめとする種々の電子部品等を用いることができる。また、被めっき物Wは、単なる金属板等で構成された試験片を用いてもよい。
図3に示すように、第1実施形態では、被めっき物Wは、絶縁基板W1と、絶縁基板W1上に積層された被めっき層W2とを有している。被めっき層W2は、電源装置PWのマイナス極に接続されて陰極となる。
【0024】
図1乃至
図6(特に
図6)に示すように、保持部材2は、被めっき物Wを保持する部材である。保持部材2は、例えばPEEK樹脂(Poly Ether Ether Ketone)などの絶縁体で構成されている。保持部材2は、平面視で四角形状の底壁21と、底壁21の周囲の4辺から立ち上がる側壁22と、を有している。
図1、
図2に示すように、この4つの側壁22に囲まれた空間に、被めっき物W、第1シール部材3、スペーサ4、第2シール部材5及び陽極部材6が収容されている。
【0025】
底壁21の上面の中央部には、被めっき物Wを設置するための凹部23が設けられている。また、底壁21の上面には、第1シール部材3を設置するための環状の凹溝24が凹部23を囲うように設けられている。また、底壁21は、凹溝24の外側に、後記するプローブPを挿通するための複数(第1実施形態では8つ)のプローブ挿通孔25を有している。
【0026】
さらに、底壁21は、後記するスペーサ4の貫通部45にめっき液を供給するためのめっき液供給路27と、貫通部45からめっき液を排出するためのめっき液排出路28と、を有している。第1実施形態では、めっき液供給路27の入口側の開口部27aは、底壁21の右側面に突設された円筒部27cの先端部に設けられており、めっき液供給路27の出口側の開口部27bは、底壁21の上面であって凹部23の前側かつ環状の凹溝24よりも内側に設けられている。また、めっき液排出路28の入口側の開口部28aは、底壁21の上面であって凹部23の後側かつ環状の凹溝24よりも内側に設けられており、めっき液排出路28の出口側の開口部28bは、底壁21の左側面に突設された円筒部28cの先端部に設けられている。円筒部27c,28cにはキャップ27d,28dが取り付けられる。キャップ27d,28dにより、円筒部27c,28cに接続されためっき液通流パイプ(図示省略)の脱落が防止される。
【0027】
図2乃至
図5に示すように、第1シール部材3は、保持部材2とスペーサ4との間をシールする弾性部材であり、例えば平面視で円環状を呈するOリングで構成されている。第1シール部材3は、底壁21の凹溝24に設置されている。第1シール部材3は、被めっき物Wを囲うように配置されている。また、第1シール部材3は、後記するスペーサ4の貫通部45を囲うように配置されている。
【0028】
図2乃至
図5及び
図7(特に
図7)に示すように、スペーサ4は、被めっき物Wと後記する陽極との間隔を所定距離に保つための部材である。第1実施形態では、スペーサ4は、例えば平面視で四角形状を呈する薄板部材で構成されている。スペーサ4は、絶縁体からなるスペーサ本体部41と、スペーサ本体部41の保持部材2側の面に設けられた陰極側導電層42と、スペーサ本体部41の陽極部材6側の面に設けられた陽極側導電層43及び参照極用導電層44と、スペーサ4の中央部に貫通形成された貫通部45と、を有している。
【0029】
スペーサ本体部41は、陰極側導電層42と陽極側導電層43とを絶縁する部位であり、例えばホウケイ酸ガラス等の絶縁体で構成されている。
【0030】
陰極側導電層42は、被めっき物Wに電気を供給するための導電層であり、例えば、白金などの金属材料で形成されている。陰極側導電層42は、例えばスパッタリングや真空蒸着などの技法で形成されている。陰極側導電層42は、第1シール部材3の内側で被めっき物Wに接続されているととともに、第1シール部材3の外側でプローブP及び陰極側通電部材7を介して電源装置PWのマイナス極に接続されている(
図1、
図5参照)。
【0031】
陽極側導電層43は、後記する陽極層62に電気を供給するための導電層であり、例えば、白金などの金属材料で形成されている。陽極側導電層43は、例えばスパッタリングや真空蒸着などの技法で形成されている。陽極側導電層43は、第2シール部材5の内側で後記する陽極層62に接続されているととともに、第2シール部材5の外側でプローブP及び陽極側通電部材9を介して電源装置PWのプラス極に接続されている(
図1、
図5参照)。
【0032】
参照極用導電層44は、後記する参照極層63に電気的に接続される導電層であり、例えば、白金などの金属材料で形成されている。参照極用導電層44は、例えばスパッタリングや真空蒸着などの技法で形成されている。参照極用導電層44の両側(より詳しくは参照極用導電層44と陽極側導電層43との間)には、導電層が形成されていない部分が設けられており、陽極側導電層43に対して絶縁されている。参照極用導電層44は、第2シール部材5の内側で後記する参照極層63に接続されているととともに、第2シール部材5の外側で後記するプローブPを介して計測装置(図示省略)に接続されている。
【0033】
貫通部45は、被めっき物Wの一部を露出させるとともにめっき液を貯留するための開口であり、スペーサ4の略中央部に上下方向に貫通形成されている。貫通部45は、平面視で左右方向よりも前後方向が長い略菱形状に形成されている。貫通部45の前側の端部付近には、めっき液供給路27の出口側の開口部27bが露出している(
図2参照)。また、貫通部45の後側の端部付近には、めっき液排出路28の入口側の開口部28aが露出している(
図2参照)。これにより、開口部27bから貫通部45に流入しためっき液は、貫通部45の内部を前から後に流れて、開口部28aから流出する。
【0034】
スペーサ4の厚さ寸法t2は、特に限定されるものではないが、0.05mm≦t2≦1mmの範囲内であるのが好ましく、0.10mm≦t2≦0.20mmの範囲内であるのがさらに好ましい。第1実施形態では、スペーサ4の厚さ寸法t2は、約0.10mmに形成されている。スペーサ4の厚さ寸法t2を非常に小さくすることにより、めっき液の透明度が低い場合でも、後記する窓部64から被めっき物Wを観察することができる。
【0035】
なお、厚さ寸法t2の異なるスペーサ4を予め複数用意しておき、用途に応じて交換して用いるようにしてもよい。例えば、めっき液の透明度が高い場合には、厚さ寸法t2が比較的大きいスペーサ4を用いることができる。第一実施形態では、スペーサ4の厚さ寸法t2を約0.10mmと極めて薄くしたことにより、固液界面の反応状態をより詳細に観察することが可能である。
【0036】
図2乃至
図5に示すように、第2シール部材5は、スペーサ4と陽極部材6の間をシールする弾性部材であり、例えば平面視で円環状を呈するOリングで構成されている。第2シール部材5は、陽極部材6の下面に形成された凹溝65に設置されている。第2シール部材5は、スペーサ4の貫通部45を囲うように配置されている。また、第1シール部材3は、陽極部材6の窓部64を囲うように配置されている。
【0037】
図1乃至
図5及び
図8(特に
図8)に示すように、陽極部材6は、陽極部材本体部61と、陽極部材本体部61の保持部材2側の面に設けられた陽極層62及び参照極層63と、陽極部材本体部61の中央部に設けられた窓部64と、陽極部材本体部61の保持部材2側の面に設けられた凹溝65と、を主に有している。陽極部材6は、スペーサ4の貫通部45を上側から塞いでいる。
【0038】
陽極部材本体部61は、平面視で四角形状を呈する板状部材である。陽極部材本体部61は、絶縁体からなり、例えば透明な(透光性を有する)石英ガラス等で構成されている。
【0039】
陽極層62は、電源装置PWのプラス極に電気的に接続されて陽極となる部位であり、陽極部材本体部61の保持部材2側の面のうち、後記する窓部64と凹溝65の間の範囲に形成されている。つまり、陽極層62は、窓部64を避けて形成されている。陽極層62は、例えば、白金などの金属材料で形成されている。陽極層62は、例えばスパッタリングや真空蒸着などの技法で形成されている。陽極層62は、第2シール部材5の内側で陽極側導電層43に接続されている。
【0040】
参照極層63は、図示しない計測装置に電気的に接続されて参照極となる部位である。参照極層63は、参照極用導電層44に対面する位置に設けられている。参照極層63は、例えば、白金などの金属材料で形成されている。参照極層63は、例えばスパッタリングや真空蒸着などの技法で形成されている。参照極層63の両側(より詳しくは参照極層63と陽極層62との間)には、導電層が形成されていない部分が設けられており、陽極層62に対して絶縁されている。参照極層63は、第2シール部材5の内側で後記する参照極用導電層44に接続されている。参照極層63によって、作用極である陽極(陽極層62)の電位を計測することができる。
【0041】
窓部64は、被めっき物Wを観察(又は観測)するための透明な観察窓である。窓部64は、陽極部材本体部61の中央部に設けられており、平面視で円形状に形成されている。窓部64は、例えば陽極部材本体部61と同一の素材である石英ガラスで構成されている。窓部64の厚さ寸法t1は、陽極部材本体部61の他の部位(例えば陽極部材本体部61の外周部位)の厚さ寸法よりも小さい。窓部64の厚さ寸法t1は、0.05mm≦t1≦2mmの範囲内であるのがこのましく、0.10mm≦t2≦0.20mmの範囲内であるのがさらに好ましい。第1実施形態では、窓部64の厚さ寸法t1は、約0.13mmに形成されている。窓部64の厚さ寸法t1を極めて小さくすることにより、顕微鏡で観察したときに、窓部64を透過する光の屈折や散乱を抑制することができ、対象物を精度よく観察することができる。
【0042】
窓部64の周囲には、窓部64に向かって下り傾斜となる円錐台形状のテーパ部64aが設けられている。テーパ部64aによって、窓部64に顕微鏡を配置したときに、顕微鏡と陽極部材本体部61との干渉が抑制される。換言すれば、窓部64の周囲にテーパ部64aが設けられているので、より大型の顕微鏡を窓部64に近づけて配置することができる。
【0043】
凹溝65は、第2シール部材5を設置するための環状の溝であり、陽極部材本体部61の下面に形成されている。凹溝65は、窓部64を囲うように設けられている。凹溝65は、第2シール部材5の位置ずれを抑制するとともに、陽極層62と陽極側導電層43とを接触し易くする機能を有する。
【0044】
また、陽極部材6は、凹溝65の外側に、後記するプローブPを挿通するための複数(第1実施形態では8つ)のプローブ挿通孔66を有している。このうちの一つのプローブ挿通孔66Aは、参照極用導電層44に対応する位置に形成されている(
図7(a)参照)。
【0045】
図1乃至
図5に示すように、陰極側通電部材7は、陰極となる被めっき物Wに電流を供給するための部材である。陰極側通電部材7は、平面視で四角形状の金属板からなり、保持部材2の下側に積層されている。陰極側通電部材7は、各プローブPを設置するための複数のプローブ設置孔71を有している。また、陰極側通電部材7は、左側面に突設された突部72を介して図示しない電源装置PWのマイナス極に接続されている。これにより、電源装置PWのマイナス極が、陰極側通電部材7とプローブPと陰極側導電層42とを介して被めっき物Wに電気的に接続された状態となる。
【0046】
絶縁部材8は、めっき装置1の設置面(例えば床面)に対して陰極側通電部材7を絶縁状態にするための部材である。絶縁部材8は、例えばPEEK樹脂(Poly Ether Ether Ketone)などの絶縁材料で構成されている。絶縁部材8は、平面視で四角形状の板体からなり、陰極側通電部材7の下面を被覆している。
【0047】
陽極側通電部材9は、陽極層62に電流を供給するための部材である。陽極側通電部材9は、平面視で円環状の金属板からなり、陽極部材6の上側に積層されている。陽極側通電部材9は、中央に開口部91を有しており、この開口部91から窓部64が露出している。陽極側通電部材9は、各プローブPを設置するための複数のプローブ設置孔92を有している。また、陽極側通電部材9は、前側面に突設された突部93を介して図示しない電源装置PWのプラス極に接続されている。これにより、電源装置PWのプラス極が、陽極側通電部材9とプローブPと陽極側導電層43とを介して陽極層62に電気的に接続された状態となる。
【0048】
プローブPは、陰極側通電部材7と陰極側導電層42とを、または、陽極側通電部材9と陽極側導電層43とを、それぞれ電気的に接続するための金属製部材である。
図3に示すように、プローブPは、有底筒状のシリンダP1と、シリンダP1に出没自在に設けられたピストンP2と、を有している。シリンダP1は、ピストンP2を陰極側導電層42又は陽極側導電層43に向けた状態で、プローブ設置孔71、92に嵌合するとともに、プローブ挿通孔25、66に挿通されている。ピストンP2は、シリンダP1内に収容されたばね(図示省略)によって突出方向に付勢されており、陰極側導電層42又は陽極側導電層43に接触している。
【0049】
なお、図示は省略するが、陽極側の8つのプローブPのうち、参照極用導電層44に対応する位置に配置された1つのプローブPは、シリンダP1の周囲に絶縁体が配置されており、陽極側通電部材9と絶縁されている。この参照極用導電層44に対応するプローブPは、図示しない計測装置に接続されるとともに、ピストンP2が参照極用導電層44に接触している。参照極用導電層44は、第2シール部材5の内側で参照極層63に接続している。これにより、参照極層63の電位が計測装置で計測される。
【0050】
図4に示すように、保持部材2、スペーサ4、陽極部材6、陰極側通電部材7、絶縁部材8、陽極側通電部材9は、それぞれ、各部材を積層状態で締結するボルトB(
図1参照)を挿通するための複数(第1実施形態では8つ、陽極側通電部材9のみ4つ)のボルト挿通孔26、46,67,73,81,94を有している。絶縁部材8のボルト挿通孔81の内周面にはボルトB(
図1参照)と螺合する雌ねじが形成されている。
【0051】
第1実施形態に係るめっき装置1は、基本的に以上のように構成されるものであり、次に、
図1乃至
図8(特に
図5)を参照してめっき装置1の使用状態及び作用効果について説明する。
【0052】
図5に示すように、第1実施形態に係るめっき装置1は、被めっき物Wを保持した保持部材2と、貫通部45を有するスペーサ4と、陽極層62を有する陽極部材6とが、第1シール部材3及び第2シール部材5を介して積層されている。これにより、貫通部45を介して被めっき物Wと陽極層62とが向かい合った状態になると共に、貫通部45が水密に閉塞されてめっき液が貯留可能な状態になる。そのため、各部材を単に積層するだけでめっき装置1を容易に構成することができ、例えば特許文献1に記載のめっき装置と比較して、複雑な構造の水槽が不要になるので、めっき装置1の簡素化と小型化を図ることができる。また、第1実施形態に係るめっき装置1によれば、厚さ寸法t2の異なるスペーサ4を予め複数用意しておき、めっき条件や試験条件応じて交換することで被めっき物Wと陽極層62の間隔を容易に調節することができる。
【0053】
また、第1実施形態に係るめっき装置1は、第2シール部材5の内側で陽極側導電層43が陽極層62に接続され、第2シール部材5の外側で陽極側導電層43がプローブP及び陽極側通電部材9を介して電源装置PWのプラス極に接続されるので、スペーサ4と陽極部材6の間の水密性を保ちながら陽極層62に電気を供給することができる。
【0054】
また、陽極部材本体部61は、貫通部45から露出する被めっき物Wを観察するための透光性を有する窓部64を有し、陽極層62は、窓部64を避けて形成されている。そのため、
図5に示すように、例えばラマン顕微鏡M等を用いて、窓部64からめっき中の被めっき物Wの状態を観察(又は観測)することができる。
【0055】
また、第1実施形態において、窓部64の厚さ寸法t1は例えば0.13mmと非常に薄く設定されているので、窓部64を透過する光の屈折や散乱を好適に抑制して、ラマン顕微鏡Mの観察精度を向上することができる。
【0056】
また、陽極部材6はテーパ部64aを有しており、陽極側通電部材9は開口部91を有しているので、例えば陽極部材6及び陽極側通電部材9とラマン顕微鏡Mとの干渉を抑制しながら、ラマン顕微鏡Mを窓部64に近接して配置することができる。
【0057】
また、第1実施形態において、スペーサ4の厚さ寸法t2は例えば0.10mmと非常に薄く設定されている。そのため、貫通部45に貯留されるめっき液の厚さ(深さ)が小さくなるので、例えばめっき液が着色されていても、被めっき物Wの状態を観察することができる。また、第一実施形態では、スペーサ4の厚さ寸法t2を約0.10mmと極めて薄くしたことにより、固液界面の反応状態をより詳細に観察することが可能である。
【0058】
また、第1実施形態に係るめっき装置1は、第1シール部材3の内側で陰極側導電層42が被めっき物Wに接続され、第1シール部材3の外側で陰極側導電層42がプローブPを介して電源装置PWに接続されているので、スペーサ4と保持部材2の間の水密性を保ちながら被めっき物Wに電気を供給することができる。
【0059】
また、保持部材2には、貫通部45にめっき液を供給するめっき液供給路27が設けられると共に、貫通部45からめっき液を排出するめっき液排出路28が設けられているので、めっき液供給路27から貫通部45にめっき液を供給し、貫通部45からめっき液排出路28にめっき液を排出することで、貫通部45内のめっき液を好適な状態に維持することができる。
【0060】
次に、第2実施形態に係るめっき装置1Aについて、
図9を参照して説明する。説明において、第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0061】
図9に示すように、第2実施形態に係るめっき装置1Aは、被めっき物WAの下面にプローブPが直接接触している点、及び、スペーサ4Aが陰極側導電層42を備えていない点が、前記した第1実施形態と主に異なっている。
【0062】
第2実施形態に係るめっき装置1Aに使用される被めっき物WAは、保持部材2A側となる下面(裏面)とめっきが施される上面(表面)とが電気的に導通されている部材であり、例えば単なる金属板等である。
【0063】
保持部材2Aにおいて、被めっき物WAを設置するための凹部23の底面には、環状の凹溝23aが形成されている。また、凹部23の底面であって凹溝23aよりも内側には、プローブPを挿通するためのプローブ挿通孔23bが貫通形成されている。なお、陰極側通電部材7には、プローブ挿通孔23bに対応する位置に、プローブPを嵌め込むためのプローブ設置孔74が貫通形成されている。
【0064】
保持部材2Aと被めっき物WAの間には第3シール部材10が配置されている。第3シール部材10は、凹溝23aに沿って設置されている。第3シール部材10によって、保持部材2Aと被めっき物WAとの間が水密に保たれるので、めっき液がプローブ挿通孔23bやプローブ設置孔74から漏出することを防止することができる。
【0065】
スペーサ4Aは、スペーサ本体部41と、陽極側導電層43と、を有しており、陰極側導電層42(
図3参照)を有していない。被めっき物WAの下面にプローブPが直接接触するからである。
【0066】
第2実施形態に係るめっき装置1Aによれば、被めっき物WAの下面にプローブPが直接接触しており、スペーサ4Aの陰極側導電層42が省略されているので、めっき装置1の構成の簡素化を図ることができる。
【0067】
以上、本実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0068】
例えば、第1実施形態では、陽極部材6に窓部64を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、顕微鏡での観察を行わない場合には、窓部64を設けなくてもよい。
【0069】
また、第1実施形態では、陽極部材本体部61と窓部64を同一の材料(例えば石英ガラス)で形成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、陽極部材本体部61と窓部64とを別部材で構成してもよい。この場合、窓部64は透光性を有する材料で構成し、陽極部材本体部61は不透明な材料で構成してもよい。
【0070】
また、第1実施形態では、陽極部材本体部61の下面に参照極層63を設けると共に、スペーサ4の陽極部材6側の面に参照極用導電層44を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、参照極層63及び参照極用導電層44を省略してもよい。
【0071】
また、第1実施形態では、保持部材2にめっき液供給路27及びめっき液排出路28を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、陽極部材6にめっき液供給路27及びめっき液排出路28を設けてもよい。また、めっき液供給路27及びめっき液排出路28の一方を保持部材2及び陽極部材6の一方に設け、めっき液供給路27及びめっき液排出路28の他方を保持部材2及び陽極部材6の他方に設けてもよい。さらに、めっき液の交換(循環)が不要であれば、めっき液供給路27及びめっき液排出路28を省略してもよい。
【0072】
また、第1実施形態では、陰極側通電部材7及び陽極側通電部材9をそれぞれ電源装置PWに接続して電解めっきを行ったが、本発明はこれに限定されるものではなく、陰極側通電部材7及び陽極側通電部材9を電源装置PWに替えて計測装置(図示省略)に接続し、貫通部45にめっき液として無電解めっき液を供給するようにしてもよい。このようにすれば、めっき装置1で無電解めっきを行うことができると共に、計測装置を用いて無電解めっき中における被めっき物W及び陽極層62の電位を計測することができる。
【0073】
次に、前記しためっき装置を用いたセンサ装置について、
図10、
図11を参照して説明する。
図10は、めっき装置を用いたセンサ装置におけるスペーサの平面図である。
図11は、めっき装置を用いたセンサ装置における陽極部材の底面図である。
センサ装置は、スペーサ4Bの陽極側導電層43B及び陽極部材6Bの陽極層62B以外の構成は、前記した第1実施形態と同一であるので、以下の説明においては、陽極側導電層43B及び陽極層62Bを中心に説明し、それ以外の構成の説明は省略する。
【0074】
図10に示すように、スペーサ4Bは、陽極部材6B側の面に放射状に配置された複数(この変形例では8つ)の陽極側導電層43Bを有している。各陽極側導電層43Bは互いに絶縁されている。各陽極側導電層43Bの外端部43Baは、陽極部材6のプローブ挿通孔66に対応する位置に設けられている。また、各陽極側導電層43Bの内端部43Bbは、貫通部45の周縁まで延設されている。
【0075】
図11に示すように、陽極部材6Bは、スペーサ4B側の面に放射状に配置された複数(この変形例では8つ)の陽極層62Bを有している。各陽極層62Bは、互いに絶縁されている。各陽極層62Bは、陽極側導電層43Bに対応した位置に設けられている。各陽極層62Bの外端部62Baは凹溝65の内周縁まで延設されており、組み立てられた状態で陽極側導電層43Bに接触している。また、各陽極層62Bの内端部62Bbは窓部64の外周縁まで延設されており、貫通部45から露出している。
【0076】
各陽極層62Bの内端部62Bbには、互いに異なる8種類の反応基がそれぞれ修飾されている。反応基は、センサ装置の貫通部45(
図2参照)に供給される試薬中に含まれる可能性がある物質に反応する物質である。試薬の例としては、電解質を含む液体(例えば血液等)が挙げられる。また、反応基の例としては、特異的結合レセプターをもつ自己組織化単分子層(SAM:Self-Assembled Monolayer)等が挙げられる。例えば、自己組織化単分子層(SAM:Self-Assembled Monolayer)で各陽極層62Bの内端部62Bbを修飾することにより、目的とする金属イオンや目的とする官能基をもつ物質と反応する。例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(3-aminopropyltriethoxy silane)で各陽極層62Bの内端部62Bbを修飾することでPdイオンと反応する。
【0077】
陽極部材6Bのプローブ挿通孔66には、プローブPがそれぞれ挿入されている。各プローブPは、互いに絶縁された状態で図示しない計測装置にそれぞれ接続されている。
【0078】
このようなセンサ装置によれば、陽極層62Bの内端部62Bbに修飾された反応基と、試薬に含まれる物質と、が反応した際における陽極層62Bの電位の変化を計測装置で計測することで、試薬に含まれる物質を検出することができる。例えば、センサ装置を電気化学測定器に接続し、陰極側を参照電極として使用することで2極式方式にて表面電位の変動を確認することができる。また、陰極側を対極とし8つのうち1つを参照電極とすることで、3極方式での測定も可能である。