【実施例】
【0047】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。
【0048】
[実施例1]
ブロムワレリル尿素のパーキンソン病に対する効果を確認した。
【0049】
(1)一酸化窒素の放出抑制
以下に示すように、ブロムワレリル尿素およびLPS(リポポリサッカライド)の共存下、ラット新生仔由来一次培養マイクログリア(MG)を培養し、神経細胞傷害因子である一酸化窒素について、MGからの放出量を確認した。
【0050】
培養系として、前記MG単独の系と、前記MGとラット由来一次培養大脳皮質神経細胞との共培養系を準備し、培養を行った。培地は、最終濃度1μg/mlのLPSおよび最終濃度0.100μg/mlのブロムワレリル尿素を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM)を基本培地とする無血清培地(pH7.4)を使用した。培養条件は、37℃、48時間、5% CO
2とした。そして、培養終了時における前記培養液中の亜硝酸イオンの濃度を、Griess試薬を用いて測定した。MGから放出された一酸化窒素は、培養液中で酸化されて亜硝酸イオンに変化するため、亜硝酸イオンの測定により、放出された一酸化窒素を間接的に測定した。
【0051】
この結果を
図1に示す。
図1は、各培養系の亜硝酸イオンの濃度(μmol/L)を示すグラフであり、
図1(A)が、MG単独の培養系の結果であり、
図1(B)は、MGと神経細胞との共培養系の結果である。
図1(A)に示すように、ブロムワレリル尿素(100μg/ml)を添加することによって、MGから放出される亜硝酸イオンの濃度が有意に減少した。また、MGは、通常、神経細胞と共培養することにより強く活性化され、大量の一酸化窒素を放出するが、
図1(B)に示すように、ブロムワレリル尿素の添加によって、有意に放出される亜硝酸イオンの濃度を抑制できた。この結果から、ブロムワレリル尿素によって、細胞傷害性因子である一酸化窒素について、MGからの放出を抑制できることがわかった。
【0052】
(2)一酸化窒素合成酵素の転写抑制
前記(1)における一酸化窒素の放出抑制が、LPSで誘導される一酸化窒素合成酵素(誘導型;iNOS)の転写レベルの抑制であることを確認した。具体的には、前記(1)と同様にして、MG単独培養系について培養を行い、リアルタイム逆転写(RT)−PCRにより、iNOSのmRNAの転写量を測定した。リアルタイムRT−PCRは、常法にしたがって行った。そして、ブロムワレリル尿素が未添加の培養系のmRNAの転写量を100%として、各培養系について相対値(%)を求めた。
【0053】
この結果を
図2に示す。
図2は、各培養系のiNOSのmRNAの転写量の相対値(%)を示すグラフである。
図2に示すように、ブロムワレリル尿素を添加することによって、iNOSのmRNAの転写量が有意に減少した。この結果から、ブロムワレリル尿素による一酸化窒素の産生抑制は、iNOSの転写レベルで生じていることがわかった。
【0054】
(3)MAP2発現およびiNOSの発現抑制
前記MGのみの培養系および前記MGと前記神経細胞の共培養系について、神経細胞特異的タンパク質であるMAP2の発現と一酸化窒素を産生するiNOSタンパク質の発現とを測定した。
【0055】
前記(1)と同様にして、培養を行った後、マウス由来MAP2に対する抗体(商品名Mouse monoclonal 抗MAP2抗体((クローンAP20)、Sternberger Monoclonals社製)、マウス由来iNOSに対する抗体(商品名Mouse monoclonal 抗iNOS抗体(クローン6)、BD Biosciences社製)を用いたウエスタンブロッティング法により、タンパク質の発現量に相当するMAP2の免疫活性およびiNOSの免疫活性を測定した。各免疫活性は、ブロムワレリル尿素が未添加の培養系の免疫活性を100%として、各培養系について相対値(%)を求めた。
【0056】
この結果を
図3に示す。
図3(A)は、前記共培養系に関するMAP2の免疫活性を示すグラフであり、
図3(B)は、前記MG単独の培養系に関するiNOSの免疫活性を示すグラフであり、
図3(C)は、前記共培養系に関するiNOSの免疫活性を示すグラフである。
図3(A)に示すように、ブロムワレリル尿素を添加することによって、ブロムワレリル尿素未添加と比較して、神経細胞特異的タンパク質であるMAP2の発現量が著しく増加した。この結果から、前記共培養系において、神経細胞の細胞死が抑制されたことがわかる。また、
図3(B)および(C)に示すように、ブロムワレリル尿素を添加することによって、ブロムワレリル尿素の濃度依存的に、iNOSの発現量が減少した。これらの結果により、ブロムワレリル尿素によれば、LPSで誘導されるiNOSの発現を抑制し、神経細胞の細胞死を抑制できることがわかった。
【0057】
(4)パーキンソンモデルラットにおけるドーパミン神経細胞死の抑制
6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)でパーキンソン病を誘発するラットパーキンソン病モデルを使用し、ブロムワレリル尿素による神経細胞死の抑制を確認した。
【0058】
前記モデルラットは、6−OHDAを右側線状体注入することにより右側中脳黒質のドーパミン神経細胞傷害が誘発されるラットのモデルを使用した(Choudhuryら、Brain and Behavior, 1:26-43, 2011参照)。前記モデルラット(n=5)に、ブロムワレリル尿素濃度が500mg/Lである飲料水を、一日1匹当たり平均25mlの飲水量となるようにし、7日間経口投与した。つぎに、経口投与最終日に、前記モデルラットを解剖し、右側および左側の中脳黒質をそれぞれ採取した。そして、前記中脳黒質について、ドーパミン神経細胞マーカーであるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)の測定を、イムノブロットにより行った。また、コントロールとして、ブロムワレリル尿素を添加した飲料水に代えて、ブロムワレリル尿素を未添加の飲料水を使用して、同様にTHを測定した。そして、各ラット群について、傷害が誘発されない左側の中脳黒質のTHの免疫活性(L)に対する、障害が誘発される右側の中脳黒質のTHの免疫活性(R)の比(%)を、下記式に基づいて算出した。
相対値(%)=100×R/L
【0059】
また、7日間ブロムワレリル尿素を経口投与した前記モデルラットを、さらに3日間飼育し、その後、回転棒試験により運動機能を測定した。
【0060】
この結果を
図4に示す。
図4(A)は、THの免疫活性を示すグラフである。
図4(A)に示すように、ブロムワレリル尿素が未添加のコントロールは、右側の中脳黒質のTH免疫活性が著しく低下したのに対して、ブロムワレリル尿素を添加した実施例は、右側の中脳黒質のTH免疫活性の低下が、十分に抑制された。この結果から、ブロムワレリル尿素によれば、中脳黒質におけるドーパミン神経細胞の細胞死を抑制できることがわかった。また、
図4(B)は、回転棒試験の結果を示すグラフであり、前記モデルラットが、回転棒から落下するまでに要した回転棒の総回転数を表す。ブロムワレリル尿素を投与した前記モデルラットは、ブロムワレリル尿素未添加の前記モデルラットよりも、回転棒により長時間乗ることができた。この結果から、ブロムワレリル尿素によれば、パーキンソン病による運動障害を抑制できることが分かった。
【0061】
[実施例2]
ブロムワレリル尿素の脳梗塞に対する効果を確認した。
【0062】
(1)脳梗塞モデルラットにおける組織喪失の抑制
右側中大脳動脈90分間一過性閉塞による脳梗塞モデルラットを使用し、ブロムワレリル尿素による組織喪失の抑制を確認した。
【0063】
前記モデルラットは、Wistar系雄ラットを使用した(Matsumotoら、Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism (2008) 28: 149-163)。MRI撮像により、十分に脳梗塞を生じているモデルラットのみを選抜し(n=4)、ブロムワレリル尿素濃度が500mg/Lである飲料水を、一日1匹当たり平均25mlの飲水量となるようにし、14日間経口投与した。そして、最後の経口投与日から16日目に、前記モデルラットを解剖し、脳の中大脳動脈灌流領域を採取した。前方から後方にスライスした7層のうち、上から2番目、3番目および4番目の層について、梗塞を生じていない左半球および梗塞を生じている右半球について、それぞれ別々に合計体積を測定し、平均値を求めた(L:左半球の合計体積、R:右半球の合計体積)。そして、下記式に基づいて、組織喪失の割合(%)を算出した。
組織喪失の割合(%)=100×(L−R)/L
【0064】
この結果を
図5に示す。
図5は、脳の組織喪失の割合を示すグラフである。
図5に示すように、ブロムワレリル尿素が未添加のコントロールと比較して、ブロムワレリル尿素を添加した実施例は、脳の組織喪失の割合を低減できた。この結果から、ブロムワレリル尿素によれば、脳梗塞における脳の組織喪失を抑制できることがわかった。
【0065】
(2)iNOSの発現抑制および一酸化窒素の産生抑制
ブロムワレリル尿素による、脳梗塞巣に集積するマクロファージBINCsにおける前記iNOSの発現抑制および一酸化窒素の産生抑制を確認した。前記BINCsについては、Matsumotoら、Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism (2008) 28: 149-163を参照した。
【0066】
前記マクロファージとして、中大脳動脈一過性閉塞によるラット脳梗塞巣核心部由来の一次培養脳マクロファージ(BINCs)を使用し、培養を行った。培地は、最終濃度0または100μg/mlのブロムワレリル尿素を含む前記DMEMを基本培地とする無血清培地(pH7.4)を使用した。培養条件は、37℃、24時間、5% CO
2とした。そして、培養終了時における前記培養液中の亜硝酸イオンを測定した。また、イムノブロットにより、iNOSおよびβ−アクチンを測定し、これらの免疫活性の比(iNOS/β−アクチン)を算出した。そして、ブロムワレリル尿素が未添加の培養系の比を100%として、各培養系について相対値(%)を求めた。
【0067】
この結果を
図6に示す。
図6(A)は、iNOSの免疫活性を示すグラフであり、
図6(B)は、亜硝酸イオン濃度を示すグラフである。
図6(A)に示すように、ブロムワレリル尿素を添加することによって、iNOSの発現量が減少した。また、
図6(B)に示すように、ブロムワレリル尿素を添加することによって、亜硝酸イオンの産生量、すなわち一酸化窒素の産生量が減少した。これらの結果により、ブロムワレリル尿素によれば、脳梗塞巣に集積するマクロファージBINCsにおけるiNOSの発現を抑制し、一酸化窒素の産生を抑制できることがわかった。
【0068】
(3)炎症性反応の抑制
ブロムワレリル尿素による、脳梗塞巣に集積するマクロファージBINCsにおける炎症性反応の抑制を確認した。
【0069】
前記(2)と同様にして、マクロファージの培養を行った。そして、培養終了後の培地について、各種因子のmRNAの転写量を、RT−PCRにより測定した。そして、ブロムワレリル尿素が未添加の培養系のmRNAの転写量を100%として、各培養系について相対値(%)を求めた。
【0070】
この結果を
図7に示す。
図7は、各種因子のmRNAの転写量の相対値を示すグラフである。
図7に示すように、神経細胞傷害因子であるIL−1β、IL−6、IFNβおよびBakのmRNAの転写量および神経細胞傷害因子である一酸化窒素を生成する酵素iNOSのmRNAの転写量は、ブロムワレリル尿素の濃度依存的に減少した。これに対して、細胞の生育において有用な因子であるHGFおよびIGF−1のmRNAの転写量は、ブロムワレリル尿素の添加によっても減少せず、ブロムワレリル尿素による影響を受けなかった。
【0071】
(4)針刺し損傷に対する脳の組織喪失の抑制
頭蓋外より注射針を刺入することによって脳損傷を起こすラット脳損傷モデルを使用し、ブロムワレリル尿素による組織喪失の抑制を確認した。
【0072】
ラットは、Wistar系雄ラットを使用した。ラット大脳の大泉門後方2mm、右外側2mmの部位に、針(18ゲージ注射針)を挿し、前後約120度の角度で扇形の損傷を作成した。そして、前記ラット(n=5)に、ブロムワレリル尿素濃度が500mg/Lである飲料水を、一日1匹当たり平均25mlの飲水量となるようにし、60日間経口投与した。そして、最後の経口投与日から3日目に、前記ラットを解剖し、大脳を採取した。前方から後方にスライスした7層のうち、上から2−5番目の層について、左半球と右半球に分けて体積を測定し、平均値を求めた(L:左半球の体積、R:右半球の体積)。対照実験として、同様に脳損傷を作成したラットについて、前記ブロムワレリル尿素を未添加の飲料水を経口投与し、同様に、脳の体積を測定した。そして、下記式に基づいて、組織喪失の割合(%)を算出した。
組織喪失の割合(%)=100×(L−R)/L
【0073】
この結果を
図8に示す。
図8(A)は、脳の組織喪失を示す写真であり、左が、ブロムワレリル尿素未添加の飲料水の投与群であり、右が、ブロムワレリル尿素添加の飲料水の投与群である。
図8(A)に示すように、ブロムワレリル尿素未添加の投与群では、顕著な脳組織喪失がみられたのに対して、ブロムワレリル尿素添加の投与群では、脳組織喪失が抑制された。また、
図8(B)は、脳の組織喪失割合を示すグラフである。
図8(B)に示すように、ブロムワレリル尿素未添加の投与群(−)と比較して、ブロムワレリル尿素を添加した投与群(+)は、脳の組織喪失の割合を低減できた。これらの結果から、ブロムワレリル尿素によれば、脳損傷による脳の組織喪失を抑制できることがわかった。
【0074】
[実施例3]
ブロムワレリル尿素の敗血症に対する効果を確認した。
【0075】
(1)生存率改善効果
Wistar雄8週齢ラット盲腸を結紮し、18ゲージ注射針によって結紮部盲腸に2箇所の穿孔を作成し、腹膜炎穿孔からのラット敗血症モデルとした。モデル作製の直後に、最終濃度500μg/mlとなるようにブロムワレリル尿素を溶解した、市販の維持輸液(ソリタT3、味の素製薬)10mlを、皮下に注射した。対照群は、ブロムワレリル尿素未添加の前記維持輸液のみを、同量、皮下に注射した。以後、約12時間ごとに、同様に注射をおこなった。また、開腹手術すなわち、皮膚と腹膜の切開を行っただけで、腸管に損傷を与えないラットを、偽手術群とした。前記偽手術群には、皮下注射は行わなかった。そして、切開から8日間にわたって、各群のモデルマットの結果を確認した。
【0076】
これらの結果を
図9に示す。
図9において、■が、偽手術群の結果であり、●が、ブロムワレリル尿素未添加の対照群の結果であり、▲が、ブロムワレリル尿素添加の実施例群である。
図9に示すように、前記偽手術群(Sham)は、死亡率0%であった。そして、ブロムワレリル尿素未添加の対象群(Sepsis/control)は、8日目において死亡率80%であったのに対して、ブロムワレリル尿素添加の実施例群(Sepsis/BU)は、有意差P<0.0001で、死亡率を47%に抑制することができた。この結果から、ブロムワレリル尿素は、有意な救命効果を示すことがわかった。
【0077】
(2)起炎症性インターロイキン産生の抑制
ブロムワレリル尿素による、腹腔マクロファージによるインターロイキンの産生抑制を確認した。
【0078】
マクロファージとして、Wistarラットの腹腔内より採取したマクロファージを使用し、培養を行った。培地は、最終濃度0、30、100μg/mlのブロムワレリル尿素を含む前記DMEMを基本培地とする無血清培地(pH7.4)を使用した。培養条件は、37℃、18時間、5% CO
2とした。そして、培養終了時における前記培養液中のIL−6およびIL−1βの濃度を、ELISAにより測定した。
【0079】
この結果を
図10に示す。
図10(A)は、IL−1βの産生量を示すグラフであり、
図10(B)は、IL−6の産生量を示すグラフである。
図10(A)および(B)に示すように、ブロムワレリル尿素を添加することによって、ブロムワレリル尿素の濃度依存的に、IL−6およびIL−1βの産生量が減少した。この結果により、ブロムワレリル尿素によれば、炎症を抑制できることがわかった。
【0080】
(3)敗血症モデルラットにおけるIL−6の抑制と腎不全の抑制
敗血症モデルラットを使用し、ブロムワレリル尿素によるIL−6の抑制を確認した。
【0081】
前記敗血症モデルラットは、Wistar雄ラットを使用し、盲腸結紮後に18ゲージ注射針により、2箇所の穿孔を設けることにより作成した。前記モデルラット(n=10)に、ブロムワレリル尿素を最終濃度500μg/mlとなるように溶解した市販の維持輸液(ソリタT3、味の素製薬)を、1回当たり10ml、一日あたり合計20mlとなるように、午前と午後の2回に分けて、約1日間、合計3回皮下注射した。3回目の皮下注射後、すなわち、腹膜炎穿孔後の敗血症モデル作製の翌日、前記モデルラットの血清を回収し、血清IL−6をELISAにより測定した。比較例として、前記敗血症ラットに、ブロムワレリル尿素未添加の前記維持輸液を皮下注射し、同様に、血清IL−6を測定した。また、コントロールとして、開腹手術のみを施行した非敗血症ラット(偽手術群)について、同様に、血清IL−6を測定した。さらに、各血清について、腎不全の指標となる血清中のクレアチニン濃度の測定も行った。
【0082】
この結果を
図11に示す。
図11(A)は、血清IL−6を示すグラフである。
図11に示すように、ブロムワレリル尿素が未添加の比較例(−)と比較して、ブロムワレリル尿素を添加した実施例は、血清IL−6を著しく低減できた。この結果から、ブロムワレリル尿素によれば、敗血症におけるサイトカインストームを抑制できることがわかった。
【0083】
図11(B)は、血清中のクレアチニン濃度を示すグラフである。ブロムワレリル尿素未添加の比較例(−)では、クレアチニン濃度が有意に上昇し、腎不全を生じた。これに対して、ブロムワレリル尿素添加の実施例(+)は、ブロムワレリル尿素の皮下注射により、クレアチニン濃度が、ほぼ正常レベルにまで回復した。この結果は、敗血症から誘発される腎不全あるいは多臓器不全の発症を、ブロムワレリル尿素が顕著に抑制できることを示すといえる。
【0084】
(4)敗血症モデルラットにおける炎症の抑制
敗血症モデルラットを使用し、ブロムワレリル尿素による小腸の腫れと炎症の抑制を確認した。
【0085】
前記(3)と同じ敗血症モデルラットに、最終濃度500μg/mlとなるようにブロムワレリル尿素を溶解した市販の維持輸液(ソリタT3、味の素製薬)を、皮下注射により1日2回投与した。そして、敗血症モデル作製の翌日、前記モデルラットの小腸を開腹により確認した(敗血症/治療群)。また、ブロムワレリル尿素未添加の前記維持輸液を皮下注射した敗血症モデル(敗血症/非治療群)、および開腹手術のみを施行した非敗血症ラット(偽手術群)についても、同様とした。
【0086】
これらの結果を
図12に示す。
図12は、小腸の写真であり、(A)は、偽手術群、(B)は、敗血症/非治療群、(C)は、敗血症/治療群の結果である。
図12(B)において、矢印で示すように、ブロムワレリル尿素未添加の敗血症/非治療群は、小腸に腫れが生じた。これに対して、
図12(C)において、矢印で示すように、ブロムワレリル尿素添加の敗血症/治療群は、小腸の腫れが顕著に抑制され、
図12(A)の偽手術群と同様であった。
【0087】
さらに、各群の小腸の顕微鏡写真を、
図13に示す。
図13において、(A)は、偽手術群、(B)は、敗血症/非治療群、(C)は、敗血症/治療群の結果である。
図13(B)に示すように、この小腸の腫れは、リンパ球、マクロファージ、好中球等の白血球が高度に集積するためと解される。この結果から、ブロムワレリル尿素によれば、例えば、小腸リンパ組織の反応性増殖を抑制し、炎症を抑制できることがわかった。
【0088】
(5)iNOS誘導およびインターロイキン産生の抑制
ブロムワレリル尿素による、肺胞マクロファージによるiNOS誘導およびインターロイキン産生の抑制を確認した。
【0089】
マクロファージとして、Wistarラット肺胞由来のマクロファージを使用し、培養を行った。培地は、最終濃度0、30、100μg/mlのブロムワレリル尿素を含む、前記DMEMを基本培地とする無血清培地(pH7.4)を使用した。培養条件は、37℃、18時間、5% CO
2とした。そして、培養終了時に肺胞マクロファージの全RNAを集め、iNOS、IL−6およびIL−1βをコードするmRNAの転写量を定量的リアルタイムRT−PCRにより測定した。ブロムワレリル尿素が未添加の培養系の測定値を100%として、各培養系について相対値(%)を求めた。
【0090】
この結果を
図14に示す。
図14(A)は、iNOSの相対値であり、
図14(B)は、IL−1βの相対値であり、
図14(C)は、IL−6の相対値である。
図14に示すように、ブロムワレリル尿素を添加することによって、ブロムワレリル尿素の濃度依存的に、iNOS、IL−1βおよびIL−6の各mRNAの転写量が減少した。この結果により、ブロムワレリル尿素によれば、炎症を抑制できることがわかった。また、肺胞マクロファージによる炎症性サイトカインの発現を抑制できることから、例えば、敗血症により併発されるARDS等の抑制も可能と考えられる。
【0091】
[実施例4]
ブロムワレリル尿素による、炎症性皮膚疾患における炎症の抑制を確認した。
【0092】
(1)下着ゴムによる接触皮膚炎の炎症の抑制
ヒルドイドソフト軟膏0.3%(マルホ株式会社製)に、1%(w/w)となるように、ブロムワレリル尿素を溶解し、ブロムワレリル尿素軟膏(BU軟膏)を調製した。次に、下着の着用時、前記下着のゴムにより生じた接触皮膚炎を原発巣とし、自家感作性皮膚炎に発展した炎症性皮膚疾患の患者に対して、腹部の丘疹を含む炎症領域(約25cm
2)に、前記BU軟膏0.5gを塗布した。そして、前記BU軟膏の塗布直前、塗布後25分および3時間において、前記腹部を観察した。さらに、同患者に対して、引き続き、前記BU軟膏を1日2回、10日間、前記炎症領域に塗布した。そして、前記塗布開始から10日目の前記腹部および塗布を中止してから10日目(塗布開始から20日目)において、前記腹部を同様に観察した。
【0093】
この結果を
図15に示す。
図15は、前記患者の前記腹部の写真である。
図15において、(A)は、塗布前、(B)は、塗布後25分、(C)は、塗布後3時間、(D)は、塗布開始から10日目、(E)は、塗布中止から10日目の写真を示す。
【0094】
前記BU軟膏の塗布前、前記患者は、前記腹部の炎症領域に強い掻痒感を感じており、
図15(A)に示すように、患者の腹部には、多数の丘疹(直径1cm以下の皮膚の隆起)が発生し、前記丘疹上における掻破痕(
図15(A)中の矢尻)および新鮮な紅色のびらん(
図15(A)中の矢印)が確認された。そして、塗布後15分ごろから、前記患者は、前記腹部の炎症領域における掻痒感が治まっており、塗布後25分において、
図15(B)に示すように、
図15(A)で確認された前記丘疹は、消退傾向にあることが確認された。さらに、塗布後3時間において、前記患者は、前記腹部の炎症領域の掻痒感が消失し、
図15(C)に示すように、丘疹の消退が顕著となり、
図15(A)で確認されたびらんの紅色は退色し(
図15(C)の矢印)、前記丘疹上の掻破痕も、
図15(A)の状態よりも目立たなくなった(
図15(C)の矢尻)。そして、塗布開始から10日目には、前記腹部に赤みは若干残ったものの、前記患者に自覚症状はなく、
図15(D)に示すように、丘疹は確認されなかった。また、塗布中止から10日目においても、
図15(E)に示すように、丘疹は発生しておらず、炎症の再発は確認されなかった。これらの結果から、ブロムワレリル尿素によれば、接触皮膚炎における炎症を抑制し、炎症性皮膚疾患を治療できることがわかった。
【0095】
(2)ストッキングゴムによる接触皮膚炎の炎症の抑制
ストッキングの着用時、前記ストッキングのゴムにより両膝内側に接触皮膚炎を発症した患者に対して、左膝内側の線上の膨疹(約20cm
2)に、前記(1)で調製したBU軟膏0.4gを塗布した。そして、前記BU軟膏の塗布直前および塗布後35分において、前記左膝内側を観察した。また、コントロールは、ブロムワレリル尿素未添加の前記ヒルドイドソフト軟膏0.3%(コントロール軟膏)を使用し、同患者の右膝内側の線上の膨疹に塗布した以外は、同様にして前記右膝内側を観察した。
【0096】
この結果を
図16に示す。
図16は、前記患者の膝内側の写真である。
図16において、(A)は、塗布前、(B)は、塗布後35分の写真であり、(A)および(B)において、上段が、コントロール軟膏を使用した結果、下段が、BU軟膏を使用した結果である。
【0097】
前記BU軟膏および前記コントロール軟膏の塗布前、
図16(A)に示すように、前記患者の両膝内側の皮膚において、ほぼ対称的に紅斑および線状の膨疹(
図16(A)上下の写真において実線で囲んだ領域)が発生し、痒みを伴っていた。そして、前記コントロール軟膏を塗布した右膝は、塗布後35分においても、
図16(B)の上段に示すように、紅斑および膨疹に変化はなく(
図16(B)上段の写真において実線で囲んだ領域)、痒みも持続していた。他方、前記BU軟膏を塗布した左膝は、塗布後35分において、
図16(B)の下段に示すように、紅斑が消失し、膨疹もほとんど消退し、痒みは消失した。これらの結果から、ブロムワレリル尿素によれば、接触皮膚炎における炎症を抑制し、炎症性皮膚疾患を治療できることがわかった。
【0098】
(3)アトピー性皮膚炎モデルマウスにおける炎症の抑制
マウスアトピー性皮膚炎モデルマウスを使用し、ブロムワレリル尿素によるアトピー性皮膚炎における炎症の抑制を確認した。
【0099】
NC/Nga雌8週齢マウス(n=6)の背部皮膚に、ダニ虫体成分を含有する軟膏(ビオスタAD、株式会社ビオスタ社製)を塗布し、アトピー性皮膚炎を誘導した。前記軟膏の塗布は、そのマニュアルにしたがって、週2回、合計3週間行った。次に、アトピー性皮膚炎を誘導した前記モデルマウス(n=3)の前記背部皮膚(約7cm
2)に、前記BU軟膏0.1gを塗布した。そして、前記BU軟膏の塗布直前および塗布後5時間において、前記背部皮膚を観察した。さらに、前記モデルマウスに対して、引き続き、前記BU軟膏を1日2回、6日間、前記背部皮膚に塗布した。そして、前記塗布開始から6日目の前記背部皮膚および塗布を中止してから6日目(塗布開始から12日目)の前記背部皮膚を観察した。コントロールは、アトピー性皮膚炎を誘導した前記モデルマウス(n=3)に、前記BU軟膏に代えて、前記(2)の前記コントロール軟膏を塗布した以外は、同様にして前記背部皮膚を観察した。
【0100】
この結果を
図17に示す。
図17は、前記モデルマウスの背部皮膚の写真である。
図17において、(A)は、前記コントロール軟膏を塗布したモデルマウス(対照群)であり、(B)は、前記BU軟膏を塗布したモデルマウス(BU群)であり、(A)および(B)ともに、上から、塗布前、塗布後5時間、塗布開始6日目、塗布中止6日目の結果である。
【0101】
前記BU軟膏および前記コントロール軟膏の塗布前、
図17(A)および(B)の1段目に示すように、前記モデルマウスの前記背部皮膚において、出血(白抜き矢印)および表皮の突起(発疹)が観察された。そして、
図17(A)に示すように、前記コントロール軟膏を塗布した対照群は、2段目に示すように、塗布後5時間においても、出血(白抜き矢印)が確認され、3段目に示すように、塗布開始6日目には、皮膚の落屑(矢尻)も確認され、4段目に示すように、塗布中止6日目には、無毛部(黒色矢印)が広く残存した。これに対して、
図17(B)に示すように、前記BU軟膏を塗布した対照群は、2段目に示すように、塗布後5時間において、出血が抑制され、発疹が消失し、3段目に示すように、塗布開始6日目に、皮膚の落屑は確認されず、4段目に示すように、塗布中止6日目には、前記背部は全体が毛で覆われていた。なお、
図17には、対照群の1例、BU群の1例の結果を示したが、残りのモデルマウスについても同様の結果が得られた。これらの結果から、ブロムワレリル尿素によれば、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性皮膚炎を治療できることがわかった。
【0102】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0103】
この出願は、2012年8月3日に出願された日本出願特願2012−173405を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。