特許第6226318号(P6226318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧
特許6226318光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体
<>
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000013
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000014
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000015
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000016
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000017
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000018
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000019
  • 特許6226318-光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226318
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体
(51)【国際特許分類】
   C07D 215/22 20060101AFI20171030BHJP
   C07B 57/00 20060101ALI20171030BHJP
   C07D 401/12 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
   C07D215/22CSP
   C07B57/00 365
   C07D401/12
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-181305(P2013-181305)
(22)【出願日】2013年9月2日
(65)【公開番号】特開2015-48332(P2015-48332A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトに掲載された日本薬学会第133年会要旨集(平成25年3月5日)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三田 真史
(72)【発明者】
【氏名】浜瀬 健司
(72)【発明者】
【氏名】大山 翼
【審査官】 村守 宏文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−179653(JP,A)
【文献】 特開2004−196683(JP,A)
【文献】 特開平07−223376(JP,A)
【文献】 特表2005−500406(JP,A)
【文献】 特表2002−522446(JP,A)
【文献】 Analytical Sciences,1990年,vol.6 no.3,465-466
【文献】 Analytical Chemistry,2009年,vol.81 no.13,pp.5172-5179
【文献】 Rapid Communications in Mass Spectrometry,2009年,vol.23 no.10,pp.1483-1492
【文献】 Analytical Biochemistry,1993年,vol.211 no.2,pp.279-287
【文献】 Journal of Chromatography A,2012年,vol.1269,pp.262-269
【文献】 第4版実験化学講座22 有機合成IV−酸・アミノ酸・ペプチド−,1999年 4月10日,第3刷,pp.228-237
【文献】 Analytica Chimica Acta,1998年,vol.367 no.1-3,pp.81-91
【文献】 Microchemical Journal,1995年,vol.52 no.3,pp.350-355
【文献】 Analyst,1999年,vol.124 no.12,pp.1755-1760
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(1)
【化5】
又は
構造式(2)
【化6】
である、光学分割用化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の光学分割用化合物を含む、光学分用試薬。
【請求項3】
請求項2に記載の光学分割用試薬を用いた、アミノ酸の光学異性体混合物を光学分割する方法。
【請求項4】
前記光学分用試薬と前記光学異性体混合物を混合して、前記光学異性体混合物の誘導体を得る、第1の工程を含む、
請求項3に記載の光学分割する方法。
【請求項5】
前記第1の工程は、室温で1分間混合する工程を含む、
請求項4に記載の光学分割する方法。
【請求項6】
前記第1の工程の後に、前記誘導体を、カラムクロマトグラフィーを用いて各々の光学異性体に分離する、第2の工程を含む、
請求項4又は5に記載の光学分割する方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の光学分割する方法によってミノの光学異性体を得る方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学分割用化合物、光学分割用試薬、光学分割する方法及び光学異性体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高等動物の生体中に存在するアミノ酸は、L−アミノ酸のみであると考えられてきた。しかしながら、近年、分析技術の発展により、生体内にもD−アミノ酸が存在していることがわかった。
【0003】
生体内のアミノ酸の生理的役割を解明する観点から、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を利用して、アミノ酸(例えば、非特許文献1−3参照)やD−アミノ酸及びL−アミノ酸を精密に定量する分析手法(例えば、非特許文献4参照)の開発研究が進められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Shimbo etc.,Anal.Chem.,2009,81,5172−5179
【非特許文献2】K.Shimbo etc.,Rapid Commun.Mass Spectrom.,2009,23,1483−1492
【非特許文献3】S.A.Cohen etc.,Anal.Biochem.,1993,211,279−287
【非特許文献4】R.J.Reischl etc.,J.Chromatogra.A.,2012,1269,262−269
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1乃至非特許文献4に記載された光学分割方法では、光学分割能及び感度が低いという問題点を有していた。また、分析試料を作成するために、アミノ酸の光学異性体混合物と光学分割用化合物とを、熱を印加しながら比較的長い時間反応させる必要があった。
【0006】
上記課題に対して、高感度で簡便にアミノ酸の光学異性体混合物を光学分割できる、光学分割用化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
構造式(1)
【0008】
【化1】
又は
構造式(2)
【0009】
【化2】
である、光学分割用化合物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、高感度で簡便にアミノ酸の光学異性体混合物を光学分割できる、光学分割用化合物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る光学分割用化合物の合成スキームの一例である。
図2】本実施形態に係る光学分割用化合物の合成スキームの他の例である。
図3】本実施形態に係る光学分割用化合物を使用した、光学分割する方法の一例のフロー図である。
図4】本実施形態に係る光学分割用化合物を使用した、HPLC−FD分析の結果の一例である。
図5】本実施形態に係る光学分割用化合物を使用した、HPLC−MS/MS分析の結果の一例である。
図6】本実施形態に係る光学分割用化合物の効果の一例を説明するための概略図である。
図7】本実施形態に係る光学分割用化合物の効果の他の例を説明するための概略図である。
図8】本実施形態に係る光学分割用化合物の効果の他の例を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書では主に、光学分割対象物として、アミノ酸を用いる実施形態について説明するが、本発明の光学分割用化合物は、アミン、アルコール、チオール、カルボン酸等の他の光学分割対象物であっても、高感度に光学分割することができる。
【0013】
(光学分割用化合物)
本発明者らは、HPLC法によるアミノ酸等の光学分割技術において、下記構造式(1)又は構造式(2)で表される化合物を含む光学分割用試薬(又は光学分割用キット)を用いてアミノ酸の光学異性体混合物を誘導体化することにより、アミノ酸の光学分割能が著しく良好になることを見出した。
【0014】
【化3】
【0015】
【化4】
構造式(1)又は構造式(2)の化合物を用いてアミノ酸を誘導体化することにより、HPLC法の光学分割能が向上する理由の詳細については調査中である。しかしながら、これらの化合物を用いて誘導体化することにより、得られるアミノ酸誘導体は、HPLC法により高感度で光学分割可能である。また、上述の構造式(1)又は構造式(2)の化合物は、短時間でアミノ酸を誘導体化可能であり、得られるアミノ酸誘導体は、優れた熱安定性及び光安定性を有することがわかった。
【0016】
(構造式1の光学分割用化合物の合成例)
図1に、本実施形態に係る光学分割用化合物の合成スキームの一例を示す。下記に、図1を参照して、構造式(1)の光学分割用化合物の具体的な合成例について、説明する。
【0017】
p−アニシジン2.45部に、エトキシメチレンマロン酸ジエチル4.32部を加え、オイルバスを用いて窒素気流化、110℃で2時間加熱攪拌した。次に、ジフェニルエーテル20mlを加え、マントルヒータを用いて1時間還流した。室温まで放冷後、反応溶液にヘキサンを加えて析出物を濾取し、得られた生成物をアセトンで洗浄した。
【0018】
この生成物に1Mの水酸化ナトリウム水溶液を15ml加えて1時間還流した。反応溶液を塩酸水溶液で酸性にした後、析出物を濾取し、得られた生成物を水で洗浄した。
【0019】
次に、この生成物にジフェニルエーテルを20ml加え、マントルヒータを用いて窒素気流化で1.5時間還流した。室温まで放冷後、反応溶液にヘキサンを加えて析出物を濾取し、得られた生成物をアセトンで洗浄することにより、白色の粉末を得た(S100)。得られた粉末は、H NMRによって、6−メトキシキノリン4(1H)−オン(6−methoxyquinolin−4(1H)−one)であると同定された。なお、本明細書においてH NMRは、400メガヘルツ(MHz)の電界強度で実施した。
【0020】
なお、H NMRの測定結果は、H NMR(dmso):δ3.817(3H,s),5.975(1H,d,J=7.6Hz),7.270(1H,dd,J=3.2,9.2Hz),7.477(1H,s),7.492(1H,d,J=5.6Hz),7.818(1H,s),11.676(1H,s)であった。
【0021】
得られた6−メトキシキノリン4(1H)−オン526部、水酸化カリウム107部及び炭酸エチレン798部を、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)5mlに溶解させ、オイルバスを用いて窒素気流化、130℃で終夜加熱攪拌した。反応終了後、反応溶液中の溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒; クロロホルム:メタノール=20:1→10:1)で分取し、白色粉末を得た(S110)。得られた粉末は、H NMRによって、1−(2−ヒドロキシエチル)−6−メトキシキノリン−4(1H)−オン(1−(2−hydroxyethyl)−6−methoxyquinolin−4(1H)−one)であると同定された。なお、1−(2−ヒドロキシエチル)−6−メトキシキノリン−4(1H)−オンの白色粉末は、純度を高めるために、クロロホルム又はエタノールを用いて再結晶化処理し、針状結晶として次工程に供することが好ましい。
【0022】
なお、H NMRの測定結果は、H NMR(dmso):δ3.695(2H,q,J=5.6,5.2Hz),3.835(3H,s),4.270(2H,t,J=5.2Hz),4.926(1H,t,J=5.2Hz),5.981(1H,d,J=7.6Hz),7.318(1H,dd,J=2.8,9.4Hz),7.599(1H,d,J=3.6Hz),7.708(1H,d,J=9.6Hz),7.824(1H,d,J=7.6Hz)であった。
【0023】
炭酸ジ(N−スクシンイミジル)1質量部をジクロロメタン10mlに溶解させ、ピリジンを2ml加えた。その後、予めジクロロメタンに溶解させた1−(2−ヒドロキシエチル)−6−メトキシキノリン−4(1H)−オンを、この溶液に1時間かけて滴下した後、終夜攪拌した。反応終了後、反応溶液を0.1Mの塩酸、飽和食塩水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥させた。硫酸マグネシウムを濾別した後、溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒; クロロホルム:メタノール=30:1)で分取し、白色粉末を得た(S120)。得られた粉末は、H NMRによって、2,5−ジオキソピロリジン−1−イル(2−(6−メトキシ−4−オキソキノリン−1(4H)−イル)エチル)炭酸塩(2,5−dioxopyrrolidin−1−yl(2−(6−methoxy−4−oxoquinolin−1(4H)−yl)ethyl)carbonate)であると同定された。
【0024】
なお、H NMRの測定結果は、H NMR(CD3CN):δ2.716(4H,s),3.882(3H,s),4.499(2H,t,J=5,5.2Hz),4.644(2H,t,J=4.8,5Hz),6.060(1H,d,J=7.6Hz),7.324(1H,dd,J=3.2,9.2Hz),7.562(1H,d,J=9.6Hz),7.655(1H,d,J=7.6Hz),7.707(1H,d,J=2.8Hz)であった。
【0025】
(構造式2の光学分割用化合物の合成例)
図2に、本実施形態に係る光学分割用化合物の合成スキームの他の例を示す。下記に、図2を参照して、前述の構造式(2)の光学分割用化合物の具体的な合成例について、説明する。
【0026】
6−メトキシキノリン−4(1H)−オン500.5質量部、炭酸カリウム611.1質量部及びエチルブロモアセテート500μLを、DMF5mlに溶解させ、終夜攪拌した。反応終了後、反応溶液にクロロホルムを加えて濾別し、得られた生成物を硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0027】
硫酸マグネシウムを濾別した後、有機溶媒を減圧除去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒; クロロホルム:メタノール=15:1→10:1)で分取し、白色粉末を得た(S200)。得られた粉末は、H NMRによって、エチル2−(6−メトキシ−4−オキソキノリン−1(4H)−イル)アセテート(ethyl 2−(6−methoxy−4−oxoquinolin−1(4H)−yl)acetate)であると同定された。
【0028】
なお、H NMRの測定結果は、H NMR(dmso):δ1.196(3H,t,J=7.6Hz),3.836(3H,s),4.159(2H,dd,J=7.2,14Hz),5.178(2H,s),6.039(1H,d,J=7.6Hz),7.318(1H,dd,J=2.8,9.2Hz),7.433(1H,d,J=9.2Hz),7.587(1H,d,J=3.2Hz),7.871(1H,d,J=7.6Hz)であった。
【0029】
得られたエチル2−(6−メトキシ−4−オキソキノリン−1(4H)−yl)アセテート650質量部を、1Mの水酸化ナトリウム水溶液5mLに溶解させ、終夜攪拌した。反応終了後、反応溶液を3Mの塩酸を加えて析出物を濾取した後、水で洗浄して、白色粉末を得た(S210)。得られた粉末は、H NMRによって、2−(6−メトキシ−4−オキソキノリン−1(4H)−イル)酢酸(2−(6−methoxy−4−oxoquinolin−1(4H)−yl)acetic acid)であると同定された。
【0030】
なお、H NMRの測定結果は、H NMR(dmso):δ3.835(3H,s),5.062(2H,s),6.024(1H,d,J=7.6Hz),7.324(1H,dd,J=3.2,9.4Hz),7.439(1H,d,J=9.2Hz),7.587(1H,d,J=2.8Hz),7.873(1H,d,J=7.6Hz),13.304(1H,s)であった。
【0031】
得られた2−(6−メトキシ−4−オキソキノリン−1(4H)−イル)酢酸101質量部を、塩化チオニル700μLに溶解させ、0℃で2時間攪拌した。反応終了後、塩化チオニルを減圧除去した後、ヘキサンを加えて析出物を濾取し、黄色粉末を得た(S220)。得られた粉末は、H NMRによって、2−(6−メトキシ−4−オキソキノリン−1(4H)−イル)酢酸塩化物(2−(6−methoxy−4−oxoquinolin−1(4H)−yl)acetic acid chloride)であると同定された。
【0032】
なお、H NMRの測定結果は、H NMR(dmso):δ3.893(3H,s),5.338(2H,s),6.611(1H,d,J=7.2Hz),7.520(1H,dd,J=2.8,9.4Hz),7.631(1H,d,J=3.2Hz),7.720(1H,d,J=9.6Hz),8.310(1H,d,J=7.2Hz)であった。
【0033】
(光学分割する方法)
次に、本実施形態の光学分割用化合物を用いて、アミノ酸の光学異性体混合物を光学分割する方法について、説明する。
【0034】
図3に、本実施形態に係る光学分割用化合物を使用した、光学分割する方法の一例のフロー図を示す。
【0035】
本実施形態に係る光学分割する方法は、
光学分活用試薬と光学異性体混合物を混合して、光学異性体混合物の誘導体を得る、第1の工程(S300)と、
前記誘導体を、カラムクロマトグラフィーを用いて各々の光学異性体に分離する、第2の工程(S310)と、
を含む。
【0036】
S300の第1の工程では、光学分活用試薬と光学異性体混合物を混合して、光学異性体混合物の誘導体を得る。
【0037】
混合方法としては、特に制限はなく、例えば、室温で1分間程度混合して反応させることで、アミノ酸誘導体とすることができる。従来の光学分割用試薬を使用する場合、分析試料を作成するために、アミノ酸と光学分割用化合物とを、熱を印加しながら長時間反応させる必要があった。しかしながら、本実施形態の光学分割用化合物を使用する場合、室温で1分程度混合することでアミノ酸誘導体を得ることができ、簡便な方法であると言える。
【0038】
次に、S310の第2の工程では、第1の工程で得られた光学異性体混合物を、カラムクロマトグラフィーを用いて、各々の光学異性体に分離する。
【0039】
カラムクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、従来の市販のカラムを使用することができる。
【0040】
次に、具体的な実施形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0041】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、上述した構造式(1)の光学分割用化合物を用いたアミノ酸誘導体が、従来のカラムを用いたHPLC分析によって、光学分割能良く光学分割可能であることを確認した実施形態について説明する。
【0042】
本実施形態の光学分割用化合物は、測定対象のアミノ酸を含む溶液中に添加し、室温で1分間程度反応させることで、HPLC測定用のアミノ酸誘導体とすることができる。
【0043】
具体的には、所定の濃度、例えば50μM、100μM又は125μM等の濃度のアミノ酸溶液10μlに対して、40mMのホウ酸緩衝液(pH=8)を10μL、上述の構造式(1)の光学分割用化合物の溶液5μl(濃度40mM)を加えて、ボルテックスミキサで1分間混合することにより、アミノ酸を誘導体化することができる。
【0044】
第1の実施形態では、100μM又は125μM等の濃度のアミノ酸溶液10μlに対して、40mMのホウ酸緩衝液(pH=8)を10μL、上述の式(1)の光学分割用化合物の溶液5μl(濃度40mM)を加えて、ボルテックスミキサで1分間混合して、アミノ酸を誘導体化した。得られたアミノ酸誘導体含有溶液に、0.5%のトリフルオロ酢酸水溶液を475μL添加して反応を停止させ、HPLC分析用の試料を作成した。得られた試料0.1μLに対して、HPLC分析を施した。蛍光分析については励起波長243nm、蛍光波長380nmとし、質量分析については例えばアラニンでは質量電荷比(M/Z) 335のプリカーサイオンから生成するM/Z 114のプロダクトイオンを質量分析した。
【0045】
HPLC分析の分析条件としては、
カラム:QN−1AX(1.5mm i.d.×150mm)、
流速:200μL/min、
温度:25℃、
移動相1(MP1):0.02%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相2(MP2):0.05%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相3(MP3):0.2%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相4(MP4)10mMギ酸アンモニウム メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相5(MP5):0.5%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
とした。
【0046】
表1に、各アミノ酸と移動相の種類と、HPLC分析による溶出時間と、L−アミノ酸及びD−アミノ酸の溶出順と、分離係数αとをまとめたものを示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1より明らかであるように、本実施形態の光学分割用化合物により誘導体化されたアミノ酸は、その種類(例えば、中性アミノ酸、酸性アミノ酸、疎水性アミノ酸、含硫アミノ酸、塩基性アミノ酸等)に関らず、分離係数αが1.07以上であった。
【0049】
また、本実施形態の光学分割用化合物を用いた光学分割する方法の検出限界は、注入量あたりフェムトモル(femt mol)オーダ〜アトモル(atto mol)オーダであり、従来の方法と比較して、非常に高感度であった。
【0050】
以上、本実施形態の光学分割用化合物を使用してアミノ酸誘導体を作成し、これをHPLC分析することで、簡便な方法で、高い分離能かつ高い検出感度で、アミノ酸の光学異性体混合物を光学分割可能であることがわかった。
【0051】
(第2の実施形態)
また、本実施形態の光学分割用化合物の効果が、カラムの種類に依存せず、他の従来のカラムでも適用可能であることを実証した実施形態について、説明する。
【0052】
HPLC分析の分析条件を下記に変更し、アミノ酸の種類を一部変更した以外は、第1の実施形態と同様の方法により、所定のアミノ酸を光学分割した。
【0053】
HPLC分析の分析条件としては、
カラム:QD−1AX(1.5mm i.d.×150mm)、
流速:200μL/min、
温度:25℃、
移動相1(MP1):0.02%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相2(MP2):0.05%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相3(MP3):0.25%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相4(MP4):0.032%ギ酸を含む10mM ギ酸アンモニウム メタノール/アセトニトリル=20/80、
移動相5(MP5):0.5%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相6(MP6):1%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
とした。
【0054】
表2に、各アミノ酸と移動相の種類と、HPLC分析による溶出時間と、L−アミノ酸及びD−アミノ酸の溶出順と、分離係数αとをまとめたものを示す。
【0055】
【表2】
【0056】
また、HPLC分析の分析条件を下記に変更し、アミノ酸の種類を一部変更した以外は、第1の実施形態と同様の方法により、所定のアミノ酸を光学分割した。
【0057】
HPLC分析の分析条件としては、
カラム:Sumichiral OA−3200S(1.5mm i.d.×250mm)、
流速:200μL/min、
温度:25℃、
移動相1(MP1):0.05%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相2(MP2):0.1%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相3(MP3):0.05%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相4(MP4):0.25%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
とした。
【0058】
表3に、各アミノ酸と移動相の種類と、HPLC分析による溶出時間と、L−アミノ酸及びD−アミノ酸の溶出順と、分離係数αとをまとめたものを示す。
【0059】
【表3】
【0060】
さらに、HPLC分析の分析条件を下記に変更し、アミノ酸の種類を一部変更した以外は、第1の実施形態と同様の方法により、所定のアミノ酸を光学分割した。
【0061】
HPLC分析の分析条件としては、
カラム:Sumichiral OA−4700SR(1.5mm i.d.×250mm)、
流速:200μL/min、
温度:25℃、
移動相1(MP1):0.02%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相2(MP2):0.05%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
とした。
【0062】
表4に、各アミノ酸と移動相の種類と、HPLC分析による溶出時間と、L−アミノ酸及びD−アミノ酸の溶出順と、分離係数αとをまとめたものを示す。
【0063】
【表4】
【0064】
さらに、HPLC分析の分析条件を下記に変更し、アミノ酸の種類を一部変更した以外は、第1の実施形態と同様の方法により、所定のアミノ酸を光学分割した。
【0065】
HPLC分析の分析条件としては、
カラム:KSAACSP−001S(1.5mm i.d.×250mm)、
流速:200μL/min、
温度:25℃、
移動相1(MP1):0.05%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相2(MP2):0.1%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
移動相3(MP3):5mMギ酸アンモニウムメタノール溶液(流速:150μL/min)、
とした。
【0066】
表5に、各アミノ酸と移動相の種類と、HPLC分析による溶出時間と、L−アミノ酸及びD−アミノ酸の溶出順と、分離係数αとをまとめたものを示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表1及び、表2乃至表5の結果から明らかであるように、本実施形態の光学分割用化合物により誘導体化されたアミノ酸は、カラムの種類やアミノ酸の種類に関らず、分離係数αが1以上であった。
【0069】
以上、本実施形態の光学分割用化合物を使用してアミノ酸誘導体を作成し、これを従来のカラムを使用してHPLC分析することで、簡便な方法で、高い分離能かつ高い検出感度で、アミノ酸の光学異性体混合物を光学分割可能であることがわかった。
【0070】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、上述した構造式(2)の光学分割用化合物を用いたアミノ酸誘導体が、従来のカラムを用いたHPLC分析によって、光学分割可能であることを確認した実施形態について説明する。
【0071】
光学分割用化合物として、構造式(2)の化合物を使用した以外は、第1の実施形態と同様の方法により、アラニンを誘導体化した。
【0072】
得られた試料0.1μLに対して、HPLC分析を施した。蛍光分析については励起波長243nm、蛍光波長380nmとし、質量分析については質量電荷比(M/Z) 305のプリカーサイオンから生成するM/Z 259のプロダクトイオンを質量分析した。
【0073】
HPLC分析の分析条件としては、
カラム:QN−AX(1.5mm i.d.×150mm)、
流速:200μL/min、
温度:25℃、
移動相:0.05%ギ酸 メタノール/アセトニトリル=50/50、
とした。
【0074】
図4に、HPLC−FL分析の結果の一例を示し、図5に、HPLC−MS分析の結果の一例を示す。図4の横軸は溶出時間を意味し、縦軸は蛍光強度を意味する。また、図5の縦軸は溶出時間を意味し、縦軸はイオン強度を意味する。また、図4及び図5においては、L体又はD体のみを同様の分析に供した場合の結果を併せて示した。
【0075】
図4及び図5より明らかであるように、いずれの分析結果においても、本実施形態の光学分割用化合物を使用することにより、光学異性体混合物を完全分離可能であることがわかった。
【0076】
また、本実施形態の光学分割用化合物を用いた光学分割する方法の検出限界は、注入量あたりフェムトモル(femt mol)オーダ〜アトモル(atto mol)オーダであり、従来の方法と比較して、非常に高感度であった。
【0077】
以上、本実施形態の光学分割用化合物を使用してアミノ酸誘導体を作成し、これをHPLC分析することで、簡便な方法で、高い分離能かつ高い検出感度で、アミノ酸の光学異性体混合物を光学分割可能であることがわかった。
【0078】
(第4の実施形態)
アミノ酸を誘導体化してHPLC分析する技術分野において、アミノ酸を短時間で容易に誘導体化することは、非常に重要である。第4の実施形態では、本実施形態の光学分割用化合物が、アミノ酸を短時間で誘導体化可能であることを確認した実施形態について、説明する。
【0079】
50μMの濃度のL−アラニン溶液10μlに対して、40mMのホウ酸緩衝液(pH=8)を10μL、上述の構造式(1)の光学分割用化合物の溶液5μl(濃度40mM)を加えた。この溶液を、ボルテックスミキサで1、2、5又は10分間混合して、アミノ酸を誘導体化した。得られたアミノ酸誘導体含有溶液に、0.5%のトリフルオロ酢酸水溶液を475μL添加して反応を停止させ、HPLC分析用の試料を作成した。また、比較の実施形態として、ボルテックスミキサによる混合を経由せずに、0.5%のトリフルオロ酢酸水溶液を475μL加えてHPLC分析用の試料を作成した。
【0080】
得られた試料0.1μLに対して、第1の実施形態と同様にHPLC分析を施した。蛍光分析については励起波長243nm、蛍光波長380nmとし、質量分析については質量電荷比(M/Z) 335のプリカーサイオンから生成するM/Z 114のプロダクトイオンを質量分析した。
【0081】
図6に、本実施形態に係る光学分割用化合物の効果の一例を説明するための概略図を示す。図6の横軸は、光学分割用化合物とL−アラニンとの混合時間であり、縦軸は、L−アラニン誘導体由来のピーク高さ(μV)である。
【0082】
図6に示されるように、混合時間が0分の試料と1分乃至10分の試料との間では、ピーク高さの変化が見受けられたが、混合時間が1分乃至10分の試料間では、ピーク高さの変化がほとんど見受けられなかった。このことから、本実施形態の光学分割用化合物は、アミノ酸と1分程度混合するだけで、アミノ酸を誘導体化することができることがわかった。
【0083】
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、本実施形態の光学分割用化合物とアミノ酸とを反応させて得られたアミノ酸誘導体が、優れた熱安定性を有することを確認した実施形態について、説明する。
【0084】
50μMの濃度のL−アラニン溶液10μlに対して、40mMのホウ酸緩衝液(pH=8)を10μL、上述の構造式(1)の光学分割用化合物の溶液5μl(濃度40mM)を加えた。この溶液を、ボルテックスミキサで1分間混合して、アミノ酸を誘導体化した。得られたアミノ酸誘導体含有溶液に、0.5%のトリフルオロ酢酸水溶液を475μL加えてHPLC分析用の試料を作成した。
【0085】
得られたHPLC分析用の試料50μlを、予め50℃に設定されたアルミヒータを用いて、5、10、20、30又は60分加熱した。加熱後の試料0.1μLに対して、第1の実施形態と同様にHPLC分析を施した。蛍光分析については励起波長243nm、蛍光波長380nmとし、質量分析については質量電荷比(M/Z) 335のプリカーサイオンから生成するM/Z 114のプロダクトイオンを質量分析した。
【0086】
図7に、本実施形態に係る光学分割用化合物の効果の他の例を説明するための概略図を示す。図7の横軸は、L−アラニン誘導体の加熱時間であり、縦軸は、L−アラニン誘導体由来のピーク高さ(μV)である。
【0087】
図7に示されるように、本実施形態の加熱時間の範囲では、L−アラニン誘導体の減少は確認されなかった。このことから、本実施形態の光学分割用化合物を使用して得られたアミノ酸誘導体は、優れた熱安定性を有することがわかった。
【0088】
(第6の実施形態)
第6の実施形態では、本実施形態の光学分割用化合物とアミノ酸とを反応させて得られたアミノ酸誘導体が、優れた光安定性を有することを確認した実施形態について、説明する。
【0089】
50μMの濃度のL−アラニン溶液10μlに対して、40mMのホウ酸緩衝液(pH=8)を10μL、上述の構造式(1)の光学分割用化合物の溶液5μl(濃度40mM)を加えた。この溶液を、ボルテックスミキサで1分間混合して、アミノ酸を誘導体化した。得られたアミノ酸誘導体含有溶液に、0.5%のトリフルオロ酢酸水溶液を475μL加えてHPLC分析用の試料を作成した。
【0090】
得られたHPLC分析用の試料を、蛍光灯による光照射下で、0.5、1、2、3、5時間静置した。静置後の試料0.1μLに対して、第1の実施形態と同様にHPLC分析を施した。蛍光分析については励起波長243nm、蛍光波長380nmとし、質量分析については質量電荷比(M/Z) 335のプリカーサイオンから生成するM/Z 114のプロダクトイオンを質量分析した。
【0091】
図8に、本実施形態に係る光学分割用化合物の効果の他の例を説明するための概略図を示す。図8の横軸は、L−アラニン誘導体の加熱時間であり、縦軸は、L−アラニン誘導体由来のピーク高さ(μV)である。
【0092】
図8に示されるように、本実施形態の照射強度及び照射時間の範囲では、L−アラニン誘導体の減少は確認されなかった。このことから、本実施形態の光学分割用化合物を使用して得られたアミノ酸誘導体は、優れた光安定性を有することがわかった。
【0093】
以上、本実施形態の光学分割用化合物は、アミノ酸の光学異性体混合物と混合することによりアミノ酸誘導体を作成でき、これをHPLC分析することで光学異性体混合物を簡便な方法で、高い分離能かつ高い検出感度で、光学異性体混合物を光学分割可能であることがわかった。この際、アミノ酸の光学異性体混合物は、室温で1分程度の混合で誘導体化されることがわかった。また、得られるアミノ酸誘導体は、熱安定性及び光安定性に優れることがわかった。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8