(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記背景の下で,本発明の一目的は,無血清培地中でrh α-Gal A産生哺乳類細胞の培養に始まる,組換えヒトα−ガラクトシダーゼA(rh α-Gal A)の製造方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の一目的は,培養上清中に得られたrh α-Gal Aを,カラムクロマトグラフィーにより,高収率で且つ精製されたタンパク質を医薬として直接に使用することができる高純度で,精製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は,無血清培地中でのrh α-Gal A産生細胞の培養物の上清中に含まれるrh α-Gal Aが,当該rh α-Gal Aを,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,リン酸基に対する親和性を有するカラムを用いたカラムクロマトグラフィー,陽イオンカラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過クロマトグラフィーの組合せを含む精製工程に付すことにより,非常に高い純度で且つまた非常に高い収率で精製できることを見出した。代わりとして,上記の陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを,色素親和性カラムクロマトグラフィーで代用してもよい。本発明は,この知見に基づく更なる研究により完成されたものである。
【0012】
こうして本発明は,以下のものを提供する:
1.組換えヒトα-Gal Aの製造方法であって次のステップ,即ち:
(a)ヒトα-Gal A産生哺乳類細胞を無血清培地中で培養して培地中に当該組換えヒトα-Gal Aを分泌させるステップと,
(b)上記ステップ(a)で得られる培養物から細胞を除去することにより培養上清を集めるステップと,
(c)上記ステップ(b)で集められる 培養上清を,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー又は色素親和性カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-Gal A活性画分を集めるステップと,
(d)上記ステップ(c)で集められる画分を疎水性カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-Gal A画分を集めるステップと,
(e)上記ステップ(d)で集められる画分を,リン酸基に対する親和性を有する固相材料を用いたカラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-Gal A活性画分を集めるステップと,
(f)上記ステップ(e)で取集される画分を陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-Gal A活性画分を集めるステップと,そして
(g)上記ステップ(f)で集められる画分をゲル濾過カラムクロマトグラフィーに付して組換えヒトα-Gal A活性画分を集めるステップと
をこの順で含むものである方法。
2.陽イオン交換カラムクロマトグラフィーにおいて用いられる陽イオン交換樹脂が,弱陽イオン交換樹脂である,上記(1)の方法。
3.該弱陽イオン交換樹脂が,疎水性相互作用及び水素結合形成の双方に基づく選択性を有するものである,上記(2)の方法。
4.該弱陽イオン交換樹脂がフェニル基,アミド結合及びカルボキシル基を有するものである,上記(2)又は(3)の方法。
5.該色素親和性カラムクロマトグラフィーにおいて用いられる色素がブルートリアジン色素である,上記(1)〜(4)の何れかの方法。
6.リン酸基に対し親和性を有する材料がヒドロキシアパタイト及びフルオロアパタイトからなる群より選ばれるものである,上記(1)〜(5)の何れかの方法。
7.リン酸基に対する親和性を有する材料がヒドロキシアパタイトである,上記(6)の方法。
8.該哺乳類細胞がEF−1(α)プロモーターの下で組換えヒトα-Gal Aを発現するよう設計された発現ベクターで形質転換されたCHO細胞である,上記(1)〜(7)の何れかの方法。
9.オリゴ糖鎖中にマンノース−6−リン酸残基を有する組換えヒトα-Gal Aの精製方法であって,次のステップ,即ち:
(a)汚染物質を含んだ組換えヒトα-Gal Aをリン酸基に対する親和性を有する材料を固相として用いたクロマトグラフィーカラムに負荷するステップと,
(b)該カラムに第1の移動相を流して,該組換えヒトα-Gal Aを該カラムに吸着させつつカラムを洗浄するステップと,そして
(c)該カラムに,該第1の移動相より高い濃度でリン酸塩を含有するものである第2の移動相を流すことにより,該カラムからヒトα-Gal Aを流出させるステップ
とを含んでなる精製方法。
10.リン酸基に対する親和性を有する該材料がヒドロキシアパタイト及びフルオロアパタイトからなる群より選ばれるものである,上記(9)の方法。
11.リン酸基に対する親和性を有する該材料がヒドロキシアパタイトである,上記(10)の方法。
12.上記(1)〜(11)の何れかの方法によって製造される組換えヒトα-Gal A。
【発明の効果】
【0013】
本発明は,細胞を無血清培養することから開始してrh α-Gal Aを製造することを可能にしたことから,ウイルスやプリオンといった病原性物質等の,如何なる血清由来の汚染物質をも含まないrh α-Gal Aを提供する。従って,本発明により得られるrh α-Gal Aは,実質上,そのような病原性物質への曝露という如何なるリスクもない安全な医薬として,ヒトの身体に投与することができる。更に本発明は,如何なる有機溶媒の使用も実質的に回避してrh α-Gal Aを精製することを可能にしたことから,さもなければ用いた有機溶媒への曝露によって引き起こされ得るrh α-Gal Aの変性のリスクを,取り除く。更に加えて,本発明は,これにより精製工程を実施した後に残される排液が有機溶媒を含有しないことから,環境に優しく,また,さもなければ排液中に含有されたであろう有機溶媒を処理するための施設を必要としないことから,経済的な意味においても同様である
【0014】
更には,本発明は,オリゴ糖鎖中にマンノース−6−リン酸残基を有するrh α-Gal Aを選択的に精製することを可能にする。酵素活性を発揮するためには,ヒトの身体に投与された後,rh α-Gal Aは,関連する細胞により,その表面に発現されているマンノース−6−リン酸受容体を介して取り込まれなければならない。従って,医薬品としてのrh α-Gal Aの有効性は,本発明によるその選択的精製によって,劇的に高められる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において,組換えヒトα-Gal A(rh α-Gal A)は好ましくはヒトの野生型α-Gal Aの組換えタンパク質であるが,rh α-Gal Aが,ヒトの野生型α-Gal Aのアミノ酸配列との比較で1個又は2個以上のアミノ酸の,1か所又は2か所以上の置換,欠失,及び/又は挿入を有するものであることを排除するものではない。N−末端シグナル配列を含むヒト野生型α-Gal AのDNA配列及びそれによりコードされているアミノ酸配列が,それぞれ配列番号13及び配列番号14に示されている。N−末端シグナル配列は31個のアミノ酸よりなり,翻訳後に除去される。
【0017】
本発明において,「組換えヒトα-Gal A産生哺乳類細胞」又は「rh α-Gal A産生哺乳類細胞」の語は,ヒトα-Gal Aをコードする遺伝子を発現するか又は強く発現するよう人工的に操作された哺乳類細胞を意味する。一般には,強く発現される当該遺伝子は,当該遺伝子を組み込んだ発現ベクターを用いて当該哺乳類細胞に導入されたものであるが(形質転換),強く発現するよう人工的に修正された内因性の遺伝子であってもよい。内因性の遺伝子を強く発現するよう人工的に修正する手段の例としては,当該内因性の遺伝子の上流のプロモーターを当該遺伝子の発現を誘導するプロモーターにより置換することが挙げられるが,これに限られない。そのような方法は,数件の文献に開示されている(即ち,WO 94/12650, WO 95/31560)。どの哺乳類細胞を用いるかに関し特に限定はないが,好ましいのはヒト,マウス,又はチャイニーズハムスターのものであり,取り分け,チャイニーズハムスターの卵巣細胞由来であるCHO細胞が特に好ましい。
【0018】
本発明において,「組換えヒトα−ガラクトシダーゼA」又は「rh α-Gal A」の語は,上記の組換えヒトα-Gal A産生哺乳類細胞によって培養中に培地に分泌されるヒトα−ガラクトシダーゼAを意味する。
【0019】
本発明において,「オリゴ糖鎖」の語は,α-Gal Aのペプチド鎖に共有結合したオリゴ糖の鎖を意味し,α-Gal Aのアスパラギン残基に共有結合したものであるアスパラギン型糖鎖を包含する。
【0020】
本発明において,rh α-Gal A産生哺乳類細胞を培養する好ましい無血清培地の一例は,次のものを含んでなる培地である。即ち:3-700mg/mLのアミノ酸,0.001-50mg/Lのビタミン類,0.3-10g/Lの単糖類,0.1-10000mg/Lの無機塩,0.001-0.1mg/Lの微量元素,0.1-50mg/Lのヌクレオシド,0.001-10mg/Lの脂肪酸,0.01-mg/Lのビオチン, 0.1-20μg/Lのヒドロコーチゾン,0.1-20mg/Lのインスリン,0.0-10mg/LのビタミンB
12,0.01-1mg/Lのプトレシン,10-500mg/Lのピルビン酸ナトリウム,及び水溶性鉄化合物。所望により,チミジン,ヒポキサンチン,慣用のpH指示薬,及び抗生物質を含んでもよい。
【0021】
更には,DMEMとF12との混合培地であるDMEM/F12培地を,基本無血清培地として用いてもよい。これらの培地は共に当業者に周知である。無血清培地の一つとして,DMEM(HG)HAM 改良(R5)培地もまた,用いることができ,これは炭酸水素ナトリウム,L−グルタミン,D−グルコース,インスリン,亜セレン酸,ジアミノブタン,ヒドロコルチゾン,硫酸第二鉄(II),アスパラギン,アスパラギン酸,セリン,及びポリビニルアルコールを含む。更に加えて,CDoptiCHO, CHO-S-SFM II又はCD CHO (Invitrogen), IS CHO-V又はIS CHO-V-GS (Irvine), EX-CELL302又はEX-CELL305 (JRH)その他の市販の無血清培地もまた,基本培地として使用してよい。
【0022】
本発明において,rh α-Gal A産生哺乳類細胞は,rh α-Gal Aを産生させるために培地中で少なくとも5日,より好ましくは8〜14日,培養される。次いで,rh α-Gal Aを含有する培養上清が集められれ,rh α-Gal Aのための精製工程に供される。
【0023】
rh α-Gal Aの精製のためのクロマトグラフィーの手順の各々は,タンパク質の非特異的結合を防ぐために,必要なら,非イオン性界面活性剤の存在下に行ってもよい。どの非イオン性界面活性剤を用いるかについて特に限定はないが,ポリソルベート系界面活性剤が飲ましく用いられ,より好ましくはポリソルベート80又はポリソルベート20である。そのような非イオン性界面活性剤の濃度は,好ましくは0.005%(w/v)〜0.05%(w/v),より好ましくは約0.01%(w/v)である。
【0024】
rh α-Gal Aの精製工程は,室温で行っても又はより低温で行ってもよいが,好ましくはより低温で,特に1〜10℃で行ってよい。
【0025】
精製工程の最初のクロマトグラフィーステップにおいて,培養上清のpHは,好ましくは7.0〜8.0に,より好ましくはpH7.2〜7.8へと,更に好ましくは約pH7.5に調整される。次いで,培養上清は,塩を添加したリン酸緩衝液で平衡化させてある陰イオン交換カラムに負荷され,rh α-Gal Aがカラムに結合させられる。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは7.0〜8.0,より好ましくは約7.2〜7.8,そして尚も好ましくは約7.5である。この緩衝液にどの塩を加えるかについて特に限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は,好ましくは5〜100mMの範囲,より好ましくは10〜60mMの範囲,尚も好ましくは約50mMである。
【0026】
rh α-Gal Aが結合した陰イオン交換カラムを洗浄した後,塩濃度を高めたリン酸緩衝液を用いてrh α-Gal Aが溶出される。どの塩を用いるかについて特に限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムを用いる場合,その濃度は,好ましくは125〜500mMの範囲,より好ましくは175〜350mMの範囲であり,尚も好ましくは約225mMである。
【0027】
更には,どの陰イオン交換樹脂を用いるかについて特に限定はないが,好ましくは強陰イオン交換樹脂を用いてよい。Q Sepharose Fast Flow(GE Healthcare)等のような市販の樹脂を好ましく用いてよい。
【0028】
或いは,色素親和性クロマトグラフィーを,精製工程の最初のクロマトグラフィーステップとして,用いてもよい。この場合,培養上清のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは6.8〜7.2,尚もより好ましくは約7.0に調節され,次いで,当該培養上清が,塩を添加したリン酸緩衝液で平衡化させてある色素親和性カラムに負荷される。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは6.8〜7.2であり,尚もより好ましくは約7.0である。同時に,このリン酸緩衝液にTris緩衝液を,好ましくは30〜70mM,より好ましくは約50mMの濃度で,添加してもよい。
【0029】
rh α-Gal Aが結合したカラムを洗浄の後,rh α-Gal Aは溶出される。溶出は,pHを高めたリン酸緩衝液により行われてよい。この緩衝液中の塩濃度を同時に上昇させてもよい。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは7.0〜7.8,より好ましくは7.3〜7.7であり,尚もより好ましくは約7.5である。塩の濃度も上昇させる場合,この目的には塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましく用いられる。塩化ナトリウムを選ぶ場合,その濃度は,好ましくは,400〜800mMの範囲,より好ましくは500〜700mMの範囲,そして尚もより好ましくは約600mMである。同時に,Tris緩衝液を,好ましくは30〜70mMの濃度,より好ましくは約50mMの濃度で,リン酸緩衝液に添加してもよい。
【0030】
更には,色素親和性クロマトグラフィー用にどの樹脂を用いるかにつき特に限定はないが,ブルートリアジン色素が好ましく用いられ,但し,他のトリアジン色素もまた適している。このための特に好ましいカラムはBlue Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare)であり,そこでは色素Cibacron
TM Blue F3GAが,Sepharose 6 Fast Flowマトリックスに共有結合で固定されている。
【0031】
精製工程の第2のステップである疎水性カラムクロマトグラフィーは,rh α-Gal Aと樹脂に取り付けられた疎水性リガンドとの間の疎水性相互作用を利用して汚染物質を除去するためのステップである。疎水性カラムクロマトグラフィーにおいてどの疎水性リガンドを用いるかにつき特に限定はないが,好ましいのはフェニル基を有するリガンドであり,より好ましくは,R-O-CH
2-CH(OH)-CH
2-O-C
6H
5等(Rは樹脂を表す)のような,スペーサーアームを介して樹脂に結合したフェニル基を有するリガンドである。このための特に好ましいカラム材料は,Phenyl Sepharose 6 Fast Flow(GE Healthcare)であり,これにおいてはSepharose 6 Fast Flowマトリックスに,特定のスペーサーアームを介して共有結合によりフェニル基が固定されている。
【0032】
この疎水性カラムクロマトグラフィーのカラムは,塩を添加したリン酸緩衝液で平衡化される。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは6.7〜7.3であり,尚もより好ましくは約7.0である。このリン酸緩衝液にどの塩を添加するかについて特に限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は,好ましくは500mM〜1M,より好ましくは700〜800mM,そして尚もより好ましくは750mMである。同時に,Tris緩衝液を,好ましくは30〜70mMの濃度,より好ましくは約50mMの濃度で,このリン酸緩衝液に添加することができる。
【0033】
次いで,最初のステップで得られた溶出液のrh α-Gal A含有画分をカラムに負荷する。rh α-Gal Aが結合したカラムを洗浄の後,rh α-Gal Aが溶出される。溶出は,塩を添加していない酸緩衝液により行ってよく,リン酸緩衝液の濃度は,好ましくは3〜10mM,より好ましくは約5mMである。同時に,このリン酸緩衝液に,Tris緩衝液を,好ましくは30〜70mM,より好ましくは約50mMの濃度で加えてよい。代わりとして,純水によって溶出させてもよい。
【0034】
精製の第3ステップであるリン酸基に親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィーは,カルボキシルペプチダーゼ等のような汚染タンパク質を除去するためのステップである。リン酸基に対する親和性を有するどの固相を用いるかについて特に限定はないが,ヒドロキシアパタイト及びフルオロアパタイトを好ましくは用いてよく,ヒドロキシアパタイトが特に好ましい。
【0035】
ヒドロキシアパタイトカラムは,塩を添加したリン酸緩衝液で平衡化させる。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは6.8〜7.2,尚もより好ましくは約7.0であり,そしてリン酸塩の濃度は3.0〜20mM,より好ましくは約3.0〜15mM,更に好ましくは約10mMである。このリン酸緩衝液にどの塩を添加するかについて特に限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムを用いる場合,その濃度は,好ましくは800mM未満であり,より好ましくは10〜200mMの範囲,更に好ましくは約50mMである。同時に,このリン酸緩衝液に,Tris緩衝液を,好ましくは30〜70mMの濃度,より好ましくは約50mMで,添加してよい。
【0036】
次いで,第2ステップで得られた溶出液のrh α-Gal A含有画分が,カラムに負荷される。rh α-Gal Aの結合したカラムが洗浄された後,rh α-Gal Aが溶出される。溶出は,塩を含有するリン酸緩衝液により行ってよい。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは6.5〜7.5,より好ましくは6.7〜7.3,尚もより好ましくは約7.0であり,リン酸塩の濃度は,好ましくは30〜80mM,より好ましくは40〜60mM,尚もより好ましくは約45mMである。どの塩を用いるかについて特に限定はないが,塩化ナトリウム及び塩化カリウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は好ましくは300mM未満,より好ましくは10〜200mMの範囲,尚もより好ましくは,約50mMである。
【0037】
精製の第4ステップである陽イオン交換クロマトグラフィーは,汚染タンパク質を除去するためのステップである。陽イオン交換カラムクロマトグラフィーにおいてどの陽イオン交換樹脂を用いるかについて特に限定はないが,弱陽イオン交換樹脂が好ましく,より好ましくは,疎水性相互作用及び水素結合形成の双方に基づく選択性を有する弱陽イオン交換樹脂である。例えば,Capto MMC (GE Healthcare)等のような,フェニル基,アミド結合,及びカルボキシル基を有し且つ疎水性相互作用及び水素結合形成に基づく選択性を有する弱陽イオン交換樹脂を用いてよい。
【0038】
陽イオン交換カラムクロマトグラフィーにおいて,カラムは,塩を添加したリン酸緩衝液で平衡化される。このリン酸緩衝液のpHは,好ましくは4.5〜6.5,より好ましくは約5.0〜6.0,尚もより好ましくは約5.5である。このリン酸緩衝液にどの塩を添加するかについて特に限定はないが,塩化ナトリウム,塩化カリウム及び塩化カルシウムが好ましい。塩化ナトリウムが用いられる場合,その濃度は,好ましくは50〜250mMの範囲,より好ましくは100〜200mMの範囲,尚もより好ましくは約150mMである。
【0039】
次いで,第3ステップで得られた溶出液のrh α-Gal A含有画分が,カラムに負荷される。rh α-Gal Aの結合したカラムを洗浄の後,pHを高めたリン酸緩衝液を用いてrh α-Gal Aが溶出され,このpHは,好ましくは約5.5〜7.5の範囲,より好ましくは約6.0〜7.0の範囲,尚もより好ましくは約6.5である。
【0040】
精製方法の第5ステップであるゲル濾過カラムクロマトグラフィーは,エンドドキシン等のような低分子量の不純物や,rh α-Gal Aの多量体又は分解産物を除去するためのステップである。こうして,第1〜第5のステップにより,実質的に純粋なrh α-Gal Aが得られる。
【0041】
加えて,陰イオン交換又は色素親和性カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,リン酸基に対する親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーをこの順で含んでなる上述の精製方法に,1つ又は2つ以上のカラムクロマトグラフィーを導入してもよい。そのような追加のカラムクロマトグラフィーは,好ましくは色素親和性クロマトグラフィーであり,上記の精製方法のどの隣接ステップ間に用いてもよい。
【0042】
本発明の精製方法に,ウイルス不活化のためのステップを所望により加えてもよい。ウイルス不活化のためにどの処理を適用するかについて特に限定はないが,溶媒−界面活性剤法が好ましく適用できる。このためには, rh α-Gal A含有する溶液に非イオン性界面活性剤が添加され,混合物が3時間を超えてインキュベートされる。どの界面活性剤を添加するかについて特に限定はないが,ポリソルベート20,ポリソルベート80,トリトンX-100,及びリン酸トリ(n−ブチル)を,単独で又は如何なる組合せでも,好ましく用いることができ,より好ましくはポリソルベート80とリン酸トリ(n−ブチル)との組合せを用いることができる。
【0043】
そのようなウイルス不活化のための追加のステップは,上記精製方法に先立って用いても,又は当該精製方法のどの隣接の2つのステップの間に用いてよい。
【0044】
更には,本発明は,オリゴ糖鎖中にマンノース−6−リン酸残基を有するrh α-Gal Aの精製方法をも提供する。当該方法は,リン酸基に対する親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィーにrh α-Gal A含有溶液を付すステップを含む。そのような固相の好ましい例として,ヒドロキシアパタイト及びフルオロアパタイトが挙げられ,ヒドロキシアパタイトが特に好ましい。リン酸基に対する親和性を有する固相を用いたこのステップの目的は,オリゴ糖側鎖にマンノース−6−リン酸残基を含んだrh α-Gal Aを精製することである。このステップは,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,色素親和性カラムクロマトグラフィー,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーから選ばれる少なくとも他の1つの精製ステップとの,如何なる順序での組合せでも行うことができる。好ましくは,この組合せは,陰イオン交換カラムクロマトグラフィー,疎水性カラムクロマトグラフィー,リン酸基に対する親和性を有する固相を用いたカラムクロマトグラフィー,陽イオン交換カラムクロマトグラフィー,及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーであり,この順である。
【0045】
実施例を参照して本発明を以下により詳細に説明する。しかしながら,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【実施例1】
【0046】
rh α-Gal A発現ベクターpE-gs/hGHpA(α-GalA)の構築
pEF/myc/nucベクター(Invitrogen)をKpnI及びNcoIで消化してEF-1(α)プロモーター及びその第1イントロンを含んだDNA断片を切り出し,次いでこれをT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化した。こうして得られたDNA断片をBglII及びEcoRIで消化しT4 DNAポリメラーゼで平滑末端化しておいた pC1-neoベクター(Invitrogen)に挿入した。これに上記のEF-1(α)プロモーター及びその第1イントロンを含んだ平滑末端化断片を挿入して,pE-neoベクターを得た(
図1)。
【0047】
ヒト成長ホルモン遺伝子のポリアデニル化シグナル配列を含むDNA断片を,4つの合成オリゴヌクレオチドをアニーリングすることにより合成した。即ち:(a) hGH-f1(配列番号1),(b) hGH-r1(配列番号2),(c) hGH-f2(配列番号3),及び (d) hGH-r2(配列番号4)。こうして調製されたDNA断片を,pE-neoのMluI及びKpnI部位間に挿入してpE-neo/hGHpAベクターを得た(
図1)。
【0048】
チャイニーズハムスターのグルタミンシンセターゼ(「Ch GS」又は「GS」)のコード領域の5'側半分を,PCRにより,プライマーセットGS-1(配列番号5)及びGS-3(配列番号6)と,鋳型として,CHO細胞から抽出したRNAから調製したssDNAとを用いて,増幅した。Ch GSのコード領域の3'側半分を,PCRにより,プライマーセットGS-2(配列番号7)及びGS-4(配列番号8)と,鋳型として,CHO細胞から抽出したRNAから調製したssDNAとを用いて,増幅した。次いで,Ch GSのコード領域のこの増幅した5’側半分を,pT7blue-Tベクター(EMD Millipore)にライゲーションした。こうして得られたベクターをEcoRV及びBamHIで消化し,次いでこの消化されたベクターに,CH GSのコード領域の上記増幅した3'側半分を,EcoRV及びBamHIで消化の後に挿入して,Ch-GSの全長cDNAを含んだプラスミドベクターを得た。このプラスミドベクターをpT7blue(GS)と命名した(
図2−1)。
【0049】
ヒトα-GalAのコード領域の5’側半分を,PCRにより,プライマーセットGAL-Mlu(配列番号9)及びGAL-Sca2(配列番号10)と,鋳型として,ヒト胎盤Quick-Clone cDNA(Clontech)とを用いて,増幅した。ヒトα-GalAのコード領域の3'側半分を,PCRにより,プライマーセットGAL-Sca1(配列番号11)及びGAL-Xba(配列番号12)と,鋳型として,ヒト胎盤Quick-Clone cDNA(Clontech)とを用いて,増幅した。両PCR産物を,それぞれ,pBluescriptSK(+)ベクターのEcoRV部位に挿入した。ヒトα-GalAのコード領域の5'側半分を,次いで,こうして得られたベクターからMluI及びScaIで消化して切り出し,また,ヒトα-GalAのコード領域の3'側半分を,ベクターからScaI及びNotIで消化して切り出した。次いで,切り出されたそれらの断片を,pE-neoベクターのマルチクローニングサイトのMluI及びNotI部位に同時に挿入して,ヒトα-GalAの全長cDNAを得た。こうして得られたプラスミドをpE-neo(α-GalA)と命名した(
図2−2)。
【0050】
pE-neo/hGHpAをAfIII及びBstXIで消化し,こうして消化されたこのベクター中に, AfIII及びBstXIで消化することによりpT7blue(GS)から切り出しておいたCh-GS cDNAを挿入した。得られたプラスミドをpE-gs/hGHpAと命名した(
図2−1)。pE-gs/hGHpAベクターをMluI及びNotIで消化し,こうして消化されたベクター中に, MluI及びNotIで消化することによりpE-neo(α-GalA)から切り出しておいたヒトα-GalA cDNAを挿入した。得られたプラスミドをpE-gs/hGHpA(α-GalA)と命名し,これを更なる実験においてrh α-Gal A発現ベクターとして用いた(
図2−2)。
【実施例2】
【0051】
rh α-Gal A発現用組換え細胞の製造
CHO細胞(CHO-K1: American Type Culture Collectionより入手)を,次の方法に従って,Lipofectamine 2000 (Invitrogen)を使用して上記発現ベクターpE-gs/hGHpA(α-Gal A)でトランスフェクトした。即ち,トランスフェクションの2日前,2.5×10
5 個のCHO-K1細胞を,5%FCSを含有する3mLのD-MEM/F12培地(D-MEM/F12/5%FCS)を含んだ3.5cmの培養皿に播き,5%CO
2及び95%空気よりなる加湿雰囲気中で37℃にて細胞を培養した。2日間の培養の後,細胞をPBSで洗浄し,1mLの新鮮な無血清D-MEM/F12を添加した。次いで細胞を,Opti-MEM I培地(Invitrogen)で20倍稀釈したLipofectamine 2000溶液とOpti-MEM I培地で20μg/mLに希釈したpE-gs/hGHpA(α-GalA)溶液との1:1混合溶液200μLの添加によりトランスフェクトし,5%CO
2及び95%空気よりなる加湿雰囲気中で引き続き37℃にて5時間インキュベートした。トランスフェクションの後,培地をD-MEM/F12/5%FCSに置き換えて,24時間培養した。
【0052】
次いで,培地を,1×GSサプリメント(JRH Biosciences),10%透析FBS及び30μmole/Lメチオニンスルホキシミン(MSX)を添加したグルタミン不含GMEM-S培地(JRH Biosciences)に置き換え,37℃にて5%CO
2及び95%空気よりなる加湿雰囲気で選択培養を行った。選択培養用の培地中で増殖した細胞を,当該培地中で連続した数回の継代培養に付し,組換え細胞を得た。この選択培養の過程で,挿入された組換え遺伝子を増幅させるために,培地中のMSXの濃度を段階的に高めた。最後に,高めたMSX濃度(100及び300μmole/LのMSX)で2段階の継代培養の後,300μmole/LのMSXを含んだ当該培地中で安定に増殖したバルク細胞が得られた。
【0053】
増殖された組換え遺伝子を有する細胞を,限界稀釈法に従いウェルあたり1個を超える細胞が播かれないように96ウェルプレートに播種した。次いで,細胞を約10日間培養し各々にモノクローナルコロニーを形成させた。モノクローナルコロニーが形成されたウェルの培養上清を各々サンプリングし,上述のようにしてヒトα-Gal A活性を調べ,ヒトα-Gal Aの高い活性を発現している細胞株を選択した。
【0054】
無血清懸濁細胞培養への順化のために,この選ばれた細胞株の各々を市販の無血清培地,即ち10mg/Lのインスリン,40mg/Lのチミジン,100mg/Lのヒポキサンチン及び100μmole/LのMSXを添加したCD-Opti CHO培地(Invitrogen)中で,37℃にて5%CO
2及び95%空気よりなる加湿雰囲気で,細胞が安定して増殖するまで培養した。次いで細胞を,10mg/Lのインスリン,40mg/Lのチミジン,100mg/Lのヒポキサンチン,100μM/LのMSX,及び10%のDMSOを添加したCD-Opti CHO培地(Invitrogen)に懸濁させ,液体窒素中に種細胞として保存した。
【実施例3】
【0055】
rh α-Gal Aの発現用組換え細胞の培養
上記種細胞を融解させ4×10
5個/mLの密度まで稀釈し,10mg/Lのインスリン,40mg/Lのチミジン,100mg/Lのヒポキサンチン,100μmole/LのMSX,及び10%のDISOを添加したCD-Opti CHO培地(CD培地)を用いて3〜4日間培養し,次いで,CD培地を用いて2×10
5個/mLの密度まで稀釈し,3〜4日間培養した。細胞を再び2×10
5個/mLまで稀釈し,更に3〜4日間培養した。
【0056】
こうして培養された細胞の個数を数え,細胞培養物をCD培地で2×10
5個/mLの密度まで希釈し,次いで1Lの稀釈培養物中の細胞を振盪しつつ2,3日培養した。培養物の規模を,培養体積が200Lに達するまで増大させた。
【0057】
次いで,細胞の個数を数え,細胞を2×10
5個/mLの密度まで,10mg/Lのインスリン,40mg/Lのチミジン,100mg/Lのヒポキサンチン,及び0.1%のHY soy(Invitrogen)を添加したCD-Opti CHO培地1800Lを用いて稀釈し,そして11日間培養した。8.84gのインスリン,35.2 mmolのヒポキサンチン, 5.6 mmolのチミジン及び1.8 kgのHY soyをCD-Opti CHO培地中に含有する22.4Lの栄養供給溶液を,第3,5,7,及び9日目に添加した。培養中毎日サンプリングを行い,細胞数,生存率,グルコース濃度及びrh α-Gal Aの発現量を測定した。グルコース濃度が3g/Lより低下した場合には,30%グルコース溶液を添加して濃度を3.5g/Lとした。この11日間の培養中,生存細胞密度及びrh α-Gal A濃度を毎日モニターした,生存細胞密度は,培養6〜7日目に約6×10
6個/mLに達し,このことは高濃度細胞培養が成功裏に達成されたことを示している(
図3)。下記のようにしてELISAで測定したところによれば,培地中における細胞によって分泌されたrh α-Gal Aの濃度は,経時的に増加し,6日目には殆ど140mg/Lに達した(
図3)。
【0058】
上記培養の完了後,細胞培養物を集め,Millistak+HC Pod Filter grade D0HC, (Millipore), Millistak+ HC Pod Filter grade X0HC (Millipore), 次いで Durapore Opticap XLT20 (0.22 μm,Millipore)を通して連続的に濾過し,培養上清を得た。得られた培養上清を,PS膜を備えた中空繊維モジュールにより,元の体積の13分の1まで濃縮した。
【実施例4】
【0059】
ウイルス不活化
トリ−n−ブチルリン酸(TNBP)及びポリソルベート80を,上記の濃縮された培養上清の約75Lに,それらの終濃度がそれぞれ0.3%(v/v)及び1%(w/v)となるように加え,この混合溶液を室温にて3〜4時間穏やかに撹拌した。
【実施例5】
【0060】
rh α-Gal Aの精製方法
次いで,上記のウイルス不活化した溶液のpHを1Mトリス緩衝液(pH8.8)の添加により7.5に調節し,続いて,その電気伝導度を,1mM塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.0)の添加によって,50mMの塩化ナトリウムを含有する10mMリン酸緩衝液(pH7.5)のそれに合わせた。次いで,この溶液をDurapore Opticap XL10 (Millipore)を通して濾過し,次いで,50mM塩化ナトリウムを含有する10mMリン酸緩衝液(pH7.5)を用いて線流速150cm/時で平衡化させておいた陰イオン交換カラムであるQ Sepharose Fast Flow カラム(カラム体積:約19.2L,ベッド高さ:約20cm,GE Healthcare)に負荷し,rh α-Gal Aをカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の3倍の同じ緩衝液を同じ流速で供給してカラムを洗浄し,吸着されたrh α-Gal Aを,225mM塩化ナトリウムを含有するカラム体積の6倍の10mMリン酸緩衝液(pH7.5)で,続いて,カラム体積の3倍の1M塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で溶出させ, rh α-Gal A含有画分を集めた。
【0061】
上記のQ Sepharose Fast Flowカラムクロマトグラフィーのステップで集められた画分に,4分の1の体積の2M塩化ナトリウムを添加して塩化ナトリウムの濃度を500mMに調節し,続いて,酢酸を添加してpHを7.0に調節した。得られた溶液を,570mM塩化ナトリウムを含有する50mMトリス塩酸,5mMリン酸緩衝液(pH7.0)で線流速150cm/時で平衡化させておいた疎水性カラムであるPhenyl Sepharose 6 Fast Flowカラム(カラム体積:19.2L,ベッド高さ:約20cm,GE Healthcare)に負荷し,rh α-Gal Aをカラムに吸着させた。次いで,カラム体積の3倍の同じ緩衝液を同じ流速で供給してカラムを洗浄した後,吸着されているrh α-Gal Aを,50mMトリス塩酸及び5mMリン酸塩(pH7.0)を含有するカラム体積の9倍の緩衝液で,続いてカラム体積の3倍の純水で溶出させ,rh α-Gal Aを含有する画分を集めた。
【0062】
上記のPhenyl Sepharose 6 Fast Flowカラムクロマトグラフィーのステップで集められた画分を,50Mm塩化ナトリウムを含有する50Mmトリス塩酸,10mMリン酸緩衝液(pH7.0)を線流速150cm/時で流して平衡化させておいたヒドロキシアパタイトカラムである,CHT-Iセラミックヒドロキシアパタイトカラム(カラム体積: 19.2L,ベッド高:約20cm,Bio-Rad Laboratories)に負荷し,カラムにrh α-Gal Aを吸着させた。次いで,カラム体積の5倍量の同じ緩衝液を同じ流速で供給してカラムを洗浄し,そして吸着されているrh α-Gal Aを,カラム体積の9倍の,50mMトリス塩酸,45mMリン酸ナトリウム及び50mM塩化ナトリウム(pH7.0)を含有する緩衝液で,続いてカラム体積の3倍の200mMリン酸緩衝液(pH7.0)で溶出させ,rh α-Gal Aを含有する画分を集めた。
【0063】
上記ステップ1のCHT-Iセラミックヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーで集められた画分に,酢酸を添加してpHを5.5に調節した。これにより形成された沈殿を,Opticap SHC XL5(0.22μm, Millipore)でろ過することにより除去した。得られた溶液を,150mM塩化ナトリウムを含有する50mM酢酸緩衝液(pH5.5)で平衡化させておいた疎水性相互作用及び水素結合形成に基づく選択性を有する陽イオン交換カラムであるCapto MMCカラム(カラム体積:19.2L,ベッド高さ:約20cm,GE Healthcare)に負荷し,カラムにrh α-Gal Aを吸着させた。次いで,カラム体積の4倍の同じ緩衝液を同じ流速で供給してカラムを洗浄した後,吸着されているrh α-Gal Aを,カラム体積の5倍の50mMリン酸緩衝液(pH6.5)で,続いてカラム体積の3倍の1M塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で,溶出させ,rh α-Gal Aを含有する画分を集めた。
【0064】
Capto MMCカラムクロマトグラフィーのステップで集められた画分を,Biomax
TM 30 膜を備えたPellicon 3 カセット(Millipore)を用いて総量が1L未満となるまで濃縮した。濃縮されたこの溶液の3分の1を,137mM塩化ナトリウムをを含有する20mMリン酸緩衝液(pH5.8)で緩衝化させておいたSuperdex 200 prep grade カラム(カラム体積:約58L,ベッド高さ:約30cm×2, GE Healthcare)に負荷した。次いで,同じ緩衝液を25cm/時の流速で供給し,280nmにおける吸光度により観察された主ピークに対応する画分を,精製rh α-Gal A含有画分として集めた。このクロマトグラフィーを3回行って上記の濃縮溶液の全てを精製し,各操作で集められた画分をプールした。
【0065】
上記ステップのSuperdex 200 prep gradeカラムクロマトグラフィーのステップでプールされた画分をPS膜を備えた中空繊維モジュールで濃縮し,濃縮液に終濃度0.02%でポリソルベート80を添加した。最終生成物の中のウイルス及び微生物による如何なる可能性ある汚染をも回避するために,得られた溶液をViresolve Pro Modus1.3(0.07m
2サイズ,Millipore)に通してろ過した。
【0066】
各ステップ後のrh α-Gal Aの量を,以下に記載したようにしてELISAで定量した。各ステップでのrh α-Gal Aの回収率を表1に示す。ここに「rh α-Gal A回収率/ステップ」は,各ステップにおいて負荷されたrh α-Gal Aの総量に対する回収されたrh α-Gal Aの割合を意味し,そして「rh α-Gal A回収率/全体」は,精製方法に付したrh α-Gal Aの当初量に対する各工程で回収されたrh α-Gal A量の割合を意味する。上記の精製方法に付されたrh α-Gal Aの量は133.800gであり,そのうち78.5gのrh α-Gal Aが最終的に回収され,rh α-Gal A回収率/全体として58.7%もの高さを与えた。これらの結果は,上記の精製方法がrh α-Gal Aを非常に高い収率で且つ大きな生産規模で精製できることを示している。
【0067】
【表1】
【実施例6】
【0068】
ElISAによるヒトα-Gal Aの分析
96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)の各ウェルに,0.05M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)で0.25μg/mLに稀釈したマウス抗ヒトα-Gal Aモノクローナル抗体の100μLを加え,プレートを室温で少なくとも1時間又は2〜8℃で終夜放置して,抗体をウェルに吸収させた。次いで,各ウェルを,0.05%Tween20(PBS-T)を含有するリン酸緩衝生理食塩水,pH7.4(PBS)で洗浄した後,1%BSAを含有するPBS-Tの300μLを加えて,プレートを室温で少なくとも1時間放置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後,ウェルに100μLの試験サンプル又は,0.5%BSA及び0.05%Tween20を含有するPBS(PBS-BT)で所望により希釈しておいたヒトα-Gal A標準品を加えて,プレートを室温にて少なくとも1時間放置した。次いで,各ウェルをPBS-Tで3回洗浄した後, PBS-Tで希釈した西洋ワサビペルオキダーゼ標識ウサギ抗ヒトα-Gal Aポリクローナル抗体100μLを加えて,プレートを少なくとも1時間放置した。次いで,PBS-Tで各ウェルを3回洗浄した後,0.009%の過酸化水素を含有するリン酸クエン酸緩衝液(pH5.0)を用いた100μLの0.4mg/mL o−フェニレンジアミンをウェルに添加し,プレートを10〜25分間室温で放置した。次いで0.1mLの1モル/L硫酸を各ウェルに添加して反応を停止させ,各ウェルにつき96ウェルプレートリーダーで490nmでの吸光度を測定した。
【実施例7】
【0069】
rh α-Gal Aの活性の測定
4−メチルウンベリフェロンを希釈緩衝液(26.7mMクエン酸−44.8mMリン酸緩衝液。pH4.6。0.1mg/mLのBSAを含有)に溶解させることにより,0〜200μmole/Lの濃度の標準溶液を調製した。4−メチルウンベリフェリル−α−D−ガラクトピラノシド(SIGMA)を稀釈緩衝液に終濃度5mMで溶解させることにより,基質溶液を調製した。稀釈緩衝液で希釈した標準溶液又は試験サンプルの各10μLを,96ウェルマイクロタイタープレート(FluoroNunc Plate, Nunc)の各ウェルに添加した。稀釈された試験サンプル又は何れかの標準溶液を含んだ96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに,基質溶液の75μLを添加し,プレートを37℃にて暗所に1時間放置した。このインキュベーションの後,200μLのストップ緩衝液(0.2Mグリシン−水酸化ナトリウム,pH10.6)を各ウェルに添加した。次いで,励起光波長335nm,及び蛍光波長460nmで,各ウェル内の溶液の蛍光強度を96ウェルプレートリーダーにより測定した。
【0070】
標準溶液について測定された蛍光強度をプロットし,そしてそれらプロットされたデータ点の間に内挿することにより,標準曲線を作製した。この標準曲線を用いて,各サンプルの蛍光強度は,遊離された4-MUFの濃度に相関付けられた。ヒトα-Gal Aの比活性は,単位/mgとして算出され,ここに1単位の活性は,37℃で1分間当たりに産生される1μmoleの4-MUFに等しい。上記のrh α-Gal Aの活性測定を行うにあたり,公開された米国特許出願(公開番号2004-0229250)を参照した。上記の方法で精製されたrh α-Gal Aの比活性は,約50単位/mg(46.7〜54.5単位/mg)であることが判明した。
【実施例8】
【0071】
rh α-Gal Aの純度の分析
上で精製されたrh α-Gal Aを,還元性且つ加熱(70℃10分)条件下に,SDS-PAGE電気泳動に付した。クマジーブリリアントブルーによるゲルの染色は,Superdex 200 pg画分において,分子量約55kDの位置に単一のバンドを明らかにした(
図4,レーン7)。
【0072】
更に,上記で精製されたrh α-Gal Aを,サイズ排除HPLC(SE-HPLS)により分析した。HPLCは,LC-20Aシステム,SPD-20AV,UV/VIS検出器(島津社)を用いて行った。SE-HPLC分析用には,上記で精製されたrh α-Gal Aを2mg/mLで含有するサンプル溶液の10μLを, 25mMリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて0.5mL/分の流速で平衡化させておいたTSKgel G3000SW
XLカラム(7.8 mm I.D.×30cm,TOSOH)に負荷した。215nmでの吸光度をモニターすることにより,溶出プロフィールを作成した。
【0073】
上記で精製したrh α-Gal AのSE-HPLC分析は,単一のピークのみを示した(
図6)。この結果は,上記で得られたrh α-Gal Aが,高度に精製されており検出可能な如何なる汚染物質をも含まないことを示している。この結果は,上記で精製されたrh α-Gal Aが医薬としてそのままし得るような高純度であることを実証している。