特許第6226488号(P6226488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6226488蓄熱材、及びそれを用いた蓄熱部材、保管容器、輸送・保管容器、建材、建築物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226488
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】蓄熱材、及びそれを用いた蓄熱部材、保管容器、輸送・保管容器、建材、建築物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20171030BHJP
【FI】
   C09K5/06 K
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-550631(P2015-550631)
(86)(22)【出願日】2014年11月7日
(86)【国際出願番号】JP2014079605
(87)【国際公開番号】WO2015079891
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2016年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-244049(P2013-244049)
(32)【優先日】2013年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】井出 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内海 夕香
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大治
(72)【発明者】
【氏名】別所 久徳
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112865(JP,A)
【文献】 特開2013−087276(JP,A)
【文献】 特開昭57−078477(JP,A)
【文献】 特開2007−254697(JP,A)
【文献】 特開昭57−158281(JP,A)
【文献】 特開昭58−215481(JP,A)
【文献】 木村寛,水化物の過冷却と核生成,日本結晶成長学会誌,日本,1980年,Vol.7(1980), No.3&4, pp.215-223
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/06
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルキルアンモニウム塩を含む水溶液と、前記テトラアルキルアンモニウム塩をゲスト分子とする包接水和物とに可逆的に変化する蓄熱材料と、
前記水溶液に添加されたミョウバンとを有し、
前記ミョウバンは、カリウムミョウバンであることを特徴とする蓄熱材。
【請求項2】
テトラアルキルアンモニウム塩を含む水溶液と、前記テトラアルキルアンモニウム塩をゲスト分子とする包接水和物とに可逆的に変化する蓄熱材料と、
前記水溶液に添加されたミョウバンとを有し、
前記ミョウバンは、カリウムミョウバン12水和物であり、
前記水溶液中での前記カリウムミョウバン12水和物の濃度は、2.5wt%以上であることを特徴とする蓄熱材。
【請求項3】
テトラアルキルアンモニウム塩を含む水溶液と、前記テトラアルキルアンモニウム塩をゲスト分子とする包接水和物とに可逆的に変化する蓄熱材料と、
前記水溶液に添加されたミョウバンとを有し、
前記水溶液に添加された、前記ミョウバンに対する貧溶媒をさらに有し、
前記ミョウバンは、アンモニウムミョウバンであることを特徴とする蓄熱材。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の蓄熱材であって、
前記テトラアルキルアンモニウム塩は、テトラブチルアンモニウムブロミドであること
を特徴とする蓄熱材。
【請求項5】
請求項4に記載の蓄熱材であって、
前記水溶液中での前記テトラブチルアンモニウムブロミドの濃度は、約25wt%以上、40wt%以下であること
を特徴とする蓄熱材。
【請求項6】
請求項記載の蓄熱材であって、
前記貧溶媒は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、te
rt−ブチルアルコール又はアセトンであること
を特徴とする蓄熱材。
【請求項7】
請求項記載の蓄熱材であって、
前記水溶液中での前記2−プロパノールの濃度は、1.5wt%以上、3wt%以下であること
を特徴とする蓄熱材。
【請求項8】
請求項記載の蓄熱材であって、
前記アンモニウムミョウバンは、アンモニウムミョウバン12水和物であり、
前記水溶液中での前記アンモニウムミョウバン12水和物の濃度は、2wt%以上であること
を特徴とする蓄熱材。
【請求項9】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の蓄熱材であって、
前記水溶液のpHは、約6であること
を特徴とする蓄熱材。
【請求項10】
貯蔵物を貯蔵する貯蔵室と、
前記貯蔵室内を所定温度に保温するための熱源と、
前記貯蔵室内に流入する熱を吸収するために配置され、請求項1からまでのいずれか一項に記載の蓄熱材が用いられた蓄熱部材と、
を有することを特徴とする保管容器。
【請求項11】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の蓄熱材が用いられていること
を特徴とする輸送・保管容器。
【請求項12】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の蓄熱材が用いられていること
を特徴とする建材。
【請求項13】
請求項12に記載の建材を有すること
を特徴とする建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄熱材に関し、それを用いた蓄熱部材、保管容器、輸送・保管容器、建材、及び建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
包接水和物は、安全、安価で高い潜熱(生成熱)を有しており、水や無機塩水溶液で対応できない0℃以上の温度帯で使用可能な蓄熱材の蓄熱材料として有望である。蓄熱材料に用いられる包接水和物として、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)が知られている。特許文献1には、TBABの包接水和物生成時の過冷却を防止するためにリン酸水素二ナトリウムが添加された蓄熱材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−214527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リン酸水素二ナトリウムを粉末のまま蓄熱材に添加する場合、蓄熱材の保管温度によっては、安定的に過冷却を防止することができないという問題がある。これは、リン酸水素二ナトリウムの粉末を液体状の蓄熱材に添加してリン酸水素二ナトリウムが完全に溶解しなかった場合、蓄熱材の温度上昇に伴い、蓄熱材中にリン酸水素二ナトリウムの低次水和物や無水物が析出すると生じる問題である。この低次水和物や無水物が蓄熱材中に沈殿した状態で、蓄熱材の温度をリン酸水素二ナトリウムの水和物の包晶点以下に冷却すると、水和反応が開始される。低次水和物及び無水物から高次水和物へ変化する水和反応は、固相で進行するため反応速度が遅く、水和反応が完了する前に低次水和物及び無水物の上に高次水和物の析出層が形成されてしまう。高次水和物の析出層が形成されると、低次水和物への水の移動が妨げられ、低次水和物が高次水和物に変化できなくなってしまう。このため、無水物及び低次水和物の全てが高次水和物に変化する前に水和反応が終了してしまう。これにより、蓄熱材の蓄熱材料と過冷却防止剤であるリン酸水素二ナトリウムとが相分離してしまい、過冷却防止効果が得られなくなってしまう。
【0005】
本発明の目的は、過冷却を防止することができる蓄熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、
テトラアルキルアンモニウム塩を含む水溶液と、前記テトラアルキルアンモニウム塩をゲスト分子とする包接水和物とに可逆的に変化する蓄熱材料と、
前記水溶液に添加されたミョウバンと
を有することを特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0007】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記テトラアルキルアンモニウム塩は、テトラブチルアンモニウムブロミドであること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0008】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記水溶液中での前記テトラブチルアンモニウムブロミドの濃度は、約25wt%以上、40wt%以下であること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0009】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記ミョウバンは、カリウムミョウバンであること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0010】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記ミョウバンは、カリウムミョウバン12水和物であり、
前記水溶液中での前記カリウムミョウバン12水和物の濃度は、2.5wt%以上であること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0011】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記水溶液に添加された、前記ミョウバンに対する貧溶媒をさらに有し、
前記ミョウバンは、アンモニウムミョウバンであること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0012】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記貧溶媒は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール又はアセトンであること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0013】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記水溶液中での前記2−プロパノールの濃度は、1.5wt%以上、3wt%以下であること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0014】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記アンモニウムミョウバンは、アンモニウムミョウバン12水和物であり、
前記水溶液中での前記アンモニウムミョウバン12水和物の濃度は、2wt%以上であること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0015】
上記本発明の蓄熱材であって、
前記水溶液のpHは、約6であること
を特徴とする蓄熱材であってもよい。
【0016】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、
貯蔵物を貯蔵する貯蔵室と、
前記貯蔵室内を所定温度に保温するための熱源と、
前記貯蔵室内に流入する熱を吸収するために配置され、上記本発明の蓄熱材が用いられた蓄熱部材と、
を有することを特徴とする保管容器であってもよい。
【0017】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、
上記本発明の蓄熱材が用いられていること
を特徴とする輸送・保管容器であってもよい。
【0018】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、
上記本発明の蓄熱材が用いられていること
を特徴とする建材であってもよい。
【0019】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、
上記本発明の建材を有すること
を特徴とする建築物であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、過冷却を防止することができる蓄熱材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態による蓄熱材の蓄熱材料に用いられるテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)の物性値を示す図である。
図2】本発明の一実施の形態による蓄熱材の過冷却防止剤の候補の物性値を示す図である。
図3】本発明の一実施の形態の実施例1における過冷却防止効果の有無を示す図である。
図4】TBAB包接水和物生成時のTBAB濃度、余剰水量、水和数の関係を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態の実施例2における過冷却防止効果の有無を示す図である。
図6】水溶液に貧溶媒としてエタノールを添加した場合のカリウムミョウバンの溶解度とエタノールの濃度との関係を示す図である。
図7】本発明の一実施の形態の実施例2における過冷却防止効果の有無を示す図である。
図8】本発明の一実施の形態の実施例3による蓄熱材サンプルのpH値と過冷却防止効果の有無を示す図である。
図9】ミョウバンとそれを構成する無機塩の格子定数と結晶系を示す図である。
図10】本発明の一実施の形態の実施例4による冷蔵庫10の外観斜視図である。
図11】本発明の一実施の形態の実施例4による冷蔵庫10の断面図である。
図12】本発明の一実施の形態の実施例5による蓄熱壁40および蓄熱壁60の断面図である。
図13】本発明の一実施の形態の実施例6による住宅80の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施の形態による蓄熱材について、図1図9を用いて説明する。本実施の形態による蓄熱材は、テトラアルキルアンモニウム塩を含む水溶液(以下、「テトラアルキルアンモニウム塩水溶液」という。)と、テトラアルキルアンモニウム塩をゲスト分子とする包接水和物(以下、「テトラアルキルアンモニウム塩包接水和物」という。)とに可逆的に変化する蓄熱材料を有している。テトラアルキルアンモニウム塩水溶液は、所定の温度でテトラアルキルアンモニウム塩包接水和物に変化する。テトラアルキルアンモニウム塩包接水和物が生成される温度(以下、「包接水和物生成温度」という。)は、テトラアルキルアンモニウム塩の濃度により制御される。ここで、包接水和物生成温度とは、過冷却が生じなかった場合に、テトラアルキルアンモニウム塩包接水和物が生成される温度である。
【0023】
また、テトラアルキルアンモニウム塩包接水和物は、所定の温度でテトラアルキルアンモニウム塩と水とに分解する。これにより、テトラアルキルアンモニウム塩包接水和物は、所定の温度でテトラアルキルアンモニウム塩水溶液に変化する。テトラアルキルアンモニウム塩包接水和物がテトラアルキルアンモニウム塩水溶液に変化する温度(以下、「包接水和物分解温度」)は、包接水和物生成温度とほぼ一致している。
【0024】
本実施の形態による蓄熱材の蓄熱材料には、テトラアルキルアンモニウム塩としてテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)が用いられる。TBABを含む水溶液(以下、「TBAB水溶液」という。)は、所定温度に冷却されるとTBABをゲスト分子とする包接水和物(以下、「TBAB包接水和物」という。)に変化する。
【0025】
また、TBAB水溶液は、TBABの濃度が20wt%〜40wt%である場合、過冷却が生じないとすると、約8℃〜12℃でTBAB包接水和物に変化する。同様に、TBAB包接水和物は、約8℃〜12℃でTBAB水溶液に変化する。本実施の形態による蓄熱材は、TBAB包接水和物がTBAB水溶液に変化する際、温度をほぼ一定に保ちながら吸熱をする。これにより、本実施の形態による蓄熱材は、所定時間、温度をほぼ一定に保つ保冷をする。このため、本実施の形態による蓄熱材は、食品等の腐敗を防止するために庫内温度を10℃程度に保つ必要がある冷蔵庫内の保冷用に好適である。また、これ以降では、蓄熱材料がTBAB水溶液からTBAB包接水和物に変化することを蓄熱材が凝固するといい、蓄熱材料がTBAB包接水和物からTBAB水溶液に変化することを蓄熱材が融解するという。
【0026】
TBAB以外に包接水和物を生成する第四級アンモニウム塩としては、テトラブチルアンモニウム塩とイソペンチルアンモニウム塩とが知られている。包接水和物を生成するテトラブチルアンモニウム塩の示性式、及び、それぞれの包接水和物生成温度は、(n−CNF(28.3℃)、(n−CNCl(15.0℃)、(n−CNCHCO(15.1℃)、[(n−CN]CrO(13.6℃)、[(n−CN]WO(15.1℃)、[(n−CN](16.8℃)、[(n−CN]HPO(17.2℃)、(n−CNHCO(17.8℃)である。また、包接水和物を生成するイソペンチルアンモニウム塩の示性式、及び、それぞれの包接水和物生成温度は、(i−C11NF(31.2℃)、(i−C11NCl(29.8℃)、[(i−C11N]CrO(21.6℃)、[(i−C11N]WO(22.4℃)である。それぞれの材料で、包接水和物生成温度が異なるため、使用する温度に合わせて、蓄熱材料を選択することができる。
【0027】
蓄熱材が凝固する際の変化は、液体から固体への変化である。液体から固体への変化の際には、TBAB水溶液中の分子のエネルギー状態が安定している場合や、核生成が生じるための核がない場合等で過冷却が生じる。蓄熱材は、過冷却が生じると、包接水和物生成温度に冷却されても凝固しない。蓄熱材は、凝固しないと、温度をほぼ一定に保つ保冷をすることができない。
【0028】
このため、TBABを用いた蓄熱材には、過冷却を防止する過冷却防止剤が必要である。過冷却防止剤は、過冷却度を小さくして過冷却を防止することができる。本実施の形態では、不均質核生成理論で用いられる表面パラメータに基づいて、過冷却防止剤の材料検討を行った。不均質核生成理論における表面パラメータmは次の式(1)で表される。
m=cosθ=(σ13−σ23)/σ12・・・(1)
ここで、θは核(不純物粒子)に対する結晶の胚種の接触角であり、σ13は水溶液と核との界面エネルギーであり、σ23は核と胚種との界面エネルギーであり、σ12は水溶液と胚種との界面エネルギーである。表面パラメータmの値が1に近いほど、小さな胚種で核生成が進み、過冷却が改善される。σ12とσ13は、溶媒と溶質との間の界面エネルギーの大きさであるので、相対的に小さい。このため、式(1)より、σ23の値が小さくなれば、表面パラメータmは1に近づく。
【0029】
図1は、本実施の形態の蓄熱材の蓄熱材料に用いられるTBABの物性値を示している。図1には、TBABの物性値として、分子量、融点、格子定数[Å]、15℃の水に対する溶解度[wt%]、30℃の水に対する溶解度[wt%]、15℃の水に対する溶解度[M(mol/l)]及び30℃の水に対する溶解度[M(mol/l)]が記載されている。図1に示すように、TBABの分子量は322.37であり、融点は103℃である。また、TBABの格子定数は、a=b=23.65(Å)であり、c=12.5(Å)である。ここで、TBABの格子定数は、水和水が29のTBAB包接水和物の格子定数とした。水和水が29のTBAB包接水和物は、TBAB水溶液中のTBABの濃度が25wt%であると生成される。TBAB水溶液中のTBABの濃度が25wt%である場合、包接水和物分解温度が約10℃になり、冷蔵庫に設置する蓄熱材の蓄熱材料として好適である。また、TBABの15℃の水に対する溶解度[wt%]および30℃の水に対する溶解度[wt%]は、60である。また、また、TBABの15℃の水に対する溶解度[M]および30℃の水に対する溶解度[M]は、1.86122である。
【0030】
異種結晶間の界面エネルギーは、異種結晶間の格子ミスフィット比が1.0の場合に最小となるが、それ以外に、0.5及び2.0になる場合に小さくなることが報告されている(N.H.Fletcher,J.Appl.Phys.35,234(1964))。この文献では、格子ミスフィット比が極めて大きい場合に、界面エネルギーがどのように変化するかということを、計算により示している。異種結晶間での共鳴、転移のミスフィットエネルギーを考慮した弾性変形エネルギーを界面エネルギーとした一次元の結晶計算モデルを示し、この計算モデルで、2つのポテンシャルモデルを想定し、それぞれにおいて、格子ミスフィット比が大きく異なる領域まで、界面エネルギーの変化を計算している。その結果として、両方のポテンシャルモデルで、格子ミスフィット比が大きく異なる領域(格子ミスフィット比:0.5及び2.0)でも、界面エネルギーが減少することを示している。このため、蓄熱材料(胚種)と過冷却防止剤(核)との結晶構造の類似性が高く格子ミスフィット比が1.0の場合だけでなく、0.5及び2.0になる場合にも、核生成が生じやすくなり、過冷却が防止できると考えられる。
【0031】
本実施の形態では、過冷却防止剤の候補として、アンモニウムミョウバン(AlNH(SO・12HO)、カリウムミョウバン(AlK(SO・12HO)、四ホウ酸ナトリウム10水和物(Na・10HO)、リン酸水素二ナトリウム12水和物(NaHPO・12HO)及び硫酸ナトリウム10水和物(NaSO・10HO)を検討した。
【0032】
図2は、本実施の形態で検討した過冷却防止剤の候補の物性値を示している。図2には、過冷却防止剤の候補の物性値として、分子量、融点、格子定数、15℃の水に対する溶解度[wt%]、30℃の水に対する溶解度[wt%]、15℃の水に対する溶解度[M(mol/l)]及び30℃の水に対する溶解度[M(mol/l)]が記載されている。図2に示すように、アンモニウムミョウバン12水和物の分子量は453.33であり、融点は94℃である。また、アンモニウムミョウバン12水和物の格子定数は、a=b=c=12.24(Å)である。また、アンモニウムミョウバン12水和物の15℃の水に対する溶解度[wt%]は、14.8であり、30℃の水に対する溶解度[wt%]は、28.5である。また、アンモニウムミョウバン12水和物の15℃の水に対する溶解度[M]は、0.32647であり、30℃の水に対する溶解度[M]は、0.62868である。
【0033】
また、カリウムミョウバン12水和物の分子量は474.39であり、融点は92℃である。また、カリウムミョウバン12水和物の格子定数は、a=b=c=12.158(Å)である。また、カリウムミョウバン12水和物の15℃の水に対する溶解度[wt%]は、9.2であり、30℃の水に対する溶解度[wt%]は、15.4である。また、アンモニウムミョウバン12水和物の15℃の水に対する溶解度[M]は、0.19393であり、30℃の水に対する溶解度[M]は、0.32463である。
【0034】
また、四ホウ酸ナトリウム10水和物の分子量は381.37であり、調和融解点は62℃である。また、四ホウ酸ナトリウム10水和物の格子定数は、a=11.885(Å)、b=10.654(Å)、c=12.206(Å)、α=90°、β=106.623°、γ=90°である。また、四ホウ酸ナトリウム10水和物の15℃の水に対する溶解度[wt%]は、3.79であり、30℃の水に対する溶解度[wt%]は、7.2である。また、四ホウ酸ナトリウム10水和物の15℃の水に対する溶解度[M]は、0.09938であり、30℃の水に対する溶解度[M]は、0.18879である。
【0035】
また、リン酸水素二ナトリウム12水和物の分子量は358.14であり、非調和融解点は35.2℃、48.3℃、92.5℃である。リン酸水素二ナトリウム12水和物は、非調和融解点で非調和融解して、低次水和物に変化する。また、リン酸水素二ナトリウム12水和物の格子定数は、a=14.178(Å)、b=9.021(Å)、c=12.771(Å)、α=90°、β=108.88°、γ=90°である。また、リン酸水素二ナトリウム12水和物の15℃の水に対する溶解度[wt%]は、7.2であり、30℃の水に対する溶解度[wt%]は、72である。また、リン酸水素二ナトリウム12水和物の15℃の水に対する溶解度[M]は、0.20104であり、30℃の水に対する溶解度[M]は、2.01039である。
【0036】
また、硫酸ナトリウム10水和物の分子量は322.19であり、非調和融解点は32.5℃である。硫酸ナトリウム10水和物は、非調和融解点で非調和融解して、無水物に変化する。また、硫酸ナトリウム10水和物の格子定数は、a=11.512(Å)、b=10.370(Å)、c=12.847(Å)、α=90°、β=107.789°、γ=90°である。また、硫酸ナトリウム10水和物の15℃の水に対する溶解度[wt%]は、15であり、30℃の水に対する溶解度[wt%]は、40である。また、硫酸ナトリウム10水和物の15℃の水に対する溶解度[M]は、0.46556であり、30℃の水に対する溶解度[M]は、1.24150である。
【0037】
(実施例1)
次に、本実施の形態の実施例1による蓄熱材について図1及び図2を参照しつつ、図3を用いて説明する。図1及び図2で示すように、TBABと、アンモニウムミョウバン12水和物及びカリウムミョウバン12水和物との結晶構造の類似性は高く、TBABと、アンモニウムミョウバン12水和物との格子ミスフィット比は、1.0及び2.0に近い値になっている。また、同様に、TBABと、アンモニウムミョウバン12水和物との格子ミスフィット比は、1.0及び2.0に近い値になっている。このため、発明者達は、TBAB水溶液にアンモニウムミョウバン12水和物又はカリウムミョウバン12水和物をTBAB水溶液に添加すると、核生成が起こりやすくなり、包接水和物生成時の過冷却が防止できると考えた。
【0038】
本実施例では、TBAB水溶液の濃度を約25wt%として、包接水和物生成時の過冷却防止効果の有無を検証した。また、本実施例では、アンモニウムミョウバン12水和物及びカリウムミョウバン12水和物のTBAB水溶液中での濃度を2.0wt%、2.5wt%、3.0wt、4.0wt%にした蓄熱材サンプルを作製した。
【0039】
また、本実施例では、ガラス製の容量10mlのサンプル管瓶に各蓄熱材サンプルを9.0g封入し、サンプル管瓶を冷蔵庫内で約18時間冷却し、過冷却防止効果の有無を検証した。サンプル管瓶は、冷蔵庫内の温度設定を中(約3℃〜5℃)に設定した場合の最も温度の高い箇所に配置した。当該箇所の温度は、3.2℃であった。以上の条件で、1つの蓄熱材サンプルについて、実験を3回行い、3回とも蓄熱材サンプルが凝固したら過冷却防止効果有りとし、1回でも蓄熱材サンプルが凝固しなかったら過冷却防止効果無しとした。
【0040】
図3は、本実施例の過冷却防止効果の検証結果を示す表である。図3には、蓄熱材サンプルが凝固した場合には「○」と標記し、蓄熱材サンプルが凝固しなかった場合には「×」と標記している。アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が2.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:25.3wt%)は3回とも凝固しなかった。アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が2.5wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:25.1wt%)は3回とも凝固しなかった。アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が3.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:25.0wt%)は2回目だけ凝固し、1回目及び3回目で凝固しなかった。アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が4.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:24.8wt%)は2回目及び3回目で凝固し、1回目で凝固しなかった。
【0041】
このように、アンモニウムミョウバン12水和物を過冷却防止剤として添加した場合、3回とも全て凝固した蓄熱材サンプルはなかった。3回のうち1回でも蓄熱材サンプルが凝固しないのは、蓄熱材の信頼性を考慮すると、好ましくない。
【0042】
一方、カリウムミョウバン12水和物の濃度が2.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:25.3wt%)は1回目及び3回目で凝固し、2回目で凝固しなかった。カリウムミョウバン12水和物の濃度が2.5wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:25.1wt%)は3回とも凝固した。カリウムミョウバン12水和物の濃度が3.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:25.0wt%)は3回とも凝固した。カリウムミョウバン12水和物の濃度が4.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:24.8wt%)は3回とも凝固した。
【0043】
このように、カリウムミョウバン12水和物を過冷却防止剤として添加した場合、カリウムミョウバン12水和物の濃度を2.5wt%以上にすると、蓄熱材サンプルは3回とも全て凝固した。また、TBABの濃度が高くなると包接水和物生成温度は高くなる。このため、TBABの濃度が高くなるほど、TBAB水溶液中での核発生は相対的に高い温度で起こる。従って、TBAB水溶液中のTBABの濃度が25wt%〜40wt%であっても、TBAB水溶液中のカリウムミョウバン12水和物を2.5wt%以上にすると、過冷却を防止することができる。
【0044】
本実施例による蓄熱材は、TBAB水溶液と、TBAB包接水和物とに可逆的に変化する蓄熱材料と、TBAB水溶液に添加されたカリウムミョウバンを有している。また、カリウムミョウバンとして、カリウムミョウバン12水和物が用いられている。TBAB水溶液中でのカリウムミョウバン12水和物の濃度は、2.5wt%である。本実施例による蓄熱材は、過冷却を防止することができる。また、TBAB水溶液中でのTBABの濃度を、約25wt%以上、40wt%以下にすると、本実施例による蓄熱材は、約3℃で凝固し、6℃〜7℃で融解を開始する。このため、本実施例による蓄熱材は、冷蔵庫内の保冷用に好適に用いることができる。
【0045】
(実施例2)
次に、本実施の形態の実施例2による蓄熱材について図1及び図2を参照しつつ、図4図7を用いて説明する。図4は、TBAB水溶液の濃度と、TBAB水溶液がTBAB包接水和物に変化した際の水和水の数(水和数)と、水和水にならなかった余剰水量との関係を示すグラフである。図4の左側の縦軸は余剰水量[wt%]を示し、右側の縦軸は水和数を示し、横軸は、TBAB水溶液中のTBABの濃度を示している。また、図4では、余剰水量が「■」印で示され、水和数が「◆」印で示されている。
【0046】
図4に示すように、TBABの濃度が高くなるほど、水和数が増加し、余剰水が減少する。また、TBABの濃度が約40wt%になると、TBAB包接水和物の包接水和物生成温度は調和融解点となる。このため、TBABの濃度が約40wt%になると、余剰水がなくなっている。
【0047】
また、TBABの濃度が20wt%〜38wt%である場合、TBAB包接水和物生成時には余剰水が存在する。TBAB水溶液に過冷却防止剤が添加されている場合、TBAB水溶液がTBAB包接水和物に変化すると、余剰水中に過冷却防止剤が存在することになる。
【0048】
また、TBAB水溶液の密度は、TBAB濃度が0wt%〜40wt%である場合、ほぼ1になることが報告されている(佐々木直栄,小川清,日本大学工学部 紀要 第53巻 第2号 p.13〜18,March, 2012)。
【0049】
一方、無機塩水溶液は、溶解している無機塩の濃度が高くなるほど、密度が高くなる。このため、TBAB水溶液と無機塩水溶液とを混合した場合、無機塩水溶液の濃度が高いほど、TBAB水溶液と無機塩水溶液との密度差が大きくなってしまい、TBAB水溶液と無機塩水溶液とが相分離してしまう。このように、水に対する溶解度の高い無機塩を飽和濃度になるまでTBAB水溶液に添加すると、TBAB水溶液と無機塩水溶液とが相分離してしまう。密度の高い水溶液が下部にあるため、TBAB水溶液と無機塩水溶液とは、界面以外では、ほとんど混合しない状態になり、温度を下げることで、過冷却防止剤の核が析出したとしても、そこに、蓄熱材料の胚種が接触する機会が少なくなる。更に、過冷却防止剤の核は、液中の界面よりも容器内壁面で発生する確率が高いため、無機塩水溶液の存在する容器下部の壁面で析出が始まる可能性が高い。そのため、蓄熱材料の胚種が、過冷却防止剤の核と接触する機会は、極めて小さくなり、過冷却防止効果が現れないと考えられる。
【0050】
一方、水に対する溶解度の低い無機塩をTBAB水溶液に添加して無機塩の濃度が飽和になっても、溶解している無機塩の重量比率が小さいため、無機塩水溶液とTBAB水溶液との密度差が大きくならない。このため、溶解度の低い無機塩の無機塩水溶液とTBAB水溶液とは、相分離し難く、無機塩水溶液は溶液中である程度均一に分散していると考えられる。この場合、温度を下げることで、過冷却防止剤の核が壁面から析出したとしても、周囲にはTBAB水溶液が存在するため、蓄熱材料の胚種が、過冷却防止剤の核と接触する機会が大きくなり、過冷却防止効果が現れると考えられる。
【0051】
また、過冷却防止剤を溶解させずに、固体のままで投入した場合を考える。この場合、過冷却防止剤は水より比重が大きいため、容器下部に堆積する。溶解度の高い無機塩の場合、数wt%程度の量では、時間と共に溶解してしまい、下部に堆積させるだけの量を加えることは現実的ではない。一方、溶解度の小さい無機塩の場合は、下部に堆積した固体とTBAB水溶液との界面で、徐々に溶解していく。そのため、過冷却防止剤が下部に堆積している間は、固体の過冷却防止剤とTBAB溶液との界面に過冷却防止剤の飽和溶液の層が生じていると考えられる。固体の過冷却防止剤表面は、容器内壁面より更に過冷却防止剤の核が析出し易いと考えられるが、飽和溶液の量が少ないため、過冷却防止効果としては過冷却防止剤を溶解させた場合も、固体のままで投入した場合も、ほぼ同様の効果が現れると考えられる。
【0052】
以上のことから、図2に記載した過冷却防止剤において、水に対する溶解度が最も小さい四ホウ酸ナトリウムを過冷却防止剤に用いて、過冷却防止効果の有無の検証を行った。本実施例では、上記実施例1と同様に、TBABの濃度が25wt%であるTBAB水溶液に四ホウ酸ナトリウム10水和物を添加して蓄熱材サンプルを作製した。TBAB水溶液中の四ホウ酸ナトリウム10水和物の濃度は、3.0wt%にした。
【0053】
また、本実施例では、上記実施例1と同様の冷却温度、冷却時間及び実験回数で過冷却防止効果の有無を検証した。図5は、本実施例の過冷却防止効果の検証結果を示す表である。図5には、蓄熱材サンプルが凝固した場合には「○」と標記し、蓄熱材サンプルが凝固しなかった場合には「×」と標記している。図5に示すように、蓄熱材サンプルは、3回とも凝固した。
【0054】
以上のことから、水に対する溶解度の小さい四ホウ酸ナトリウムは、過冷却防止剤に適していることが分かった。また、比較のために、過冷却防止剤に水に対する溶解度が高い硫酸ナトリウム10水和物を用いた蓄熱材サンプルを作製して、過冷却防止効果を検証したが、過冷却防止効果は得られなかった。これらのことから、水に対する溶解度が小さい材料が過冷却防止剤に適していると考えられる。
【0055】
ここで、図2を参照すると、アンモニウムミョウバン12水和物とカリウムミョウバン12水和物とは、格子定数がほぼ同じであるのに、アンモニウムミョウバン12水和物がTBAB水溶液に添加されている場合と、カリウムミョウバン12水和物がTBAB水溶液に添加されている場合とで、過冷却防止効果に差が生じている。これは、カリウムミョウバン12水和物の水に対する溶解度の方がアンモニミョウバン12水和物の溶解度よりも小さいために生じた差であると考えられる。このため、発明者達は、蓄熱材でのアンモニウムミョウバンの溶解度を小さくすると、アンモニウムミョウバンを過冷却防止剤として用いて包接水和物生成時の過冷却を防止することができると考えた。
【0056】
図6は、貧溶媒を水溶液に添加した場合のカリウムミョウバンの溶解度の変化を示すグラフである。本例では、カリウムミョウバンに対する貧溶媒としてエタノールが用いられている。図6の縦軸は、25℃におけるカリウムミョウバンの溶解度[wt%]を示し、横軸はエタノールの濃度[wt%]を示している。
【0057】
図6に示すように、水溶液中のエタノールの濃度が高くなるほど、当該水溶液に対するカリウムミョウバンの溶解度が小さくなっている。このように、ミョウバンに対する貧溶媒が水溶液に添加されると、当該水溶液に対するミョウバンの溶解度が低下する。このため、本実施例では、TBAB水溶液にアンモニウムミョウバンに対する貧溶媒を添加して、蓄熱材サンプルでのアンモニウムミョウバンの溶解度を減少させて、過冷却防止効果の有無を検証した。
【0058】
貧溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール又はアセトンが用いられる。アンモニウムミョウバンは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール及びアセトンに対して低い溶解度を示す。また、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール及びアセトンは、水及び有機溶媒にも溶解する両親媒性溶媒である。本実施例では、貧溶媒として2−プロパノールが用いられる。
【0059】
また、本実施例では、TBAB水溶液の濃度を約25wt%として、包接水和物生成時の過冷却防止効果の有無を検証した。また、本実施例では、アンモニウムミョウバン12水和物のTBAB水溶液中での濃度を2.0wt%、3.0wt%にし、2−プロパノールのTBAB水溶液中での濃度を1.5wt%、3.0wt%にした。
【0060】
また、本実施例では、ガラス製の容量10mlのサンプル管瓶に各蓄熱材サンプルを9.0g封入し、サンプル管瓶を冷蔵庫内で約18時間冷却し、過冷却防止効果を検証した。サンプル管瓶は、冷蔵庫内の温度設定を中(約3℃〜5℃)に設定した場合の最も温度の高い箇所に配置した。当該箇所の温度は、3.2℃であった。以上の条件で、蓄熱材サンプルが凝固したら過冷却防止効果有りとし、蓄熱材サンプルが凝固しなかったら過冷却防止効果無しとした。
【0061】
図7は、本実施例の過冷却防止効果の検証結果を示す表である。図7には、蓄熱材サンプルが凝固した場合には「○」と標記し、蓄熱材サンプルが凝固しなかった場合には「×」と標記している。図7に示すように、アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が2.0wt%であり、2−プロパノールの濃度が1.5wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:24.9wt%)は凝固した。また、アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が2.0wt%であり、2−プロパノールの濃度が3.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:24.5wt%)は凝固した。アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が3.0wt%であり、2−プロパノールの濃度が1.5wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:24.6wt%)は凝固した。また、アンモニウムミョウバン12水和物の濃度が3.0wt%であり、2−プロパノールの濃度が3.0wt%である蓄熱材サンプル(TBAB:24.3wt%)は凝固した。このように、アンモニウムミョウバン12水和物に加え、アンモニウムミョウバンに対する貧溶媒である2−プロパノールを蓄熱材に添加すると、蓄熱材の凝固時の過冷却を防止することができる。
【0062】
本実施例による蓄熱材は、TBAB水溶液と、TBAB包接水和物とに可逆的に変化する蓄熱材料と、TBAB水溶液に添加されたアンモニウムミョウバンと、アンモニウムミョウバンに対する貧溶媒である2−プロパノールを有している。また、アンモニウムミョウバンとして、アンモニウムミョウバン12水和物が用いられている。TBAB水溶液中でのアンモニウムミョウバン12水和物の濃度は、2.0wt%以上、3.0wt%以下である。また、TBAB水溶液中での2−プロパノールの濃度は、1.5wt%以上、3.0wt%以下である。本実施例による蓄熱材は、過冷却を防止することができる。また、本実施例による蓄熱材は、アンモニウムミョウバンの溶解度を小さくして、アンモニウムミョウバンとTBABとが相分離するのを防ぐことができる。
【0063】
(実施例3)
次に、本実施の形態の実施例3による蓄熱材について説明する。上記の通り、本実施の形態による蓄熱材には、TBABが用いられている。TBAB水溶液は、弱アルカリ性(弱塩基性)であり、皮膚等への刺激が問題である。また、冷蔵庫等に蓄熱材を設置する場合には、蓄熱材の漏えい等を考慮すると、蓄熱材は、中性〜弱酸性であることが望ましい。
【0064】
特許文献1には、蓄熱材に過冷却防止剤としてリン酸水素二ナトリウムが添加されている。リン酸塩であるリン酸水素二ナトリウムの水溶液は、弱アルカリ性である。このため、リン酸水素二ナトリウムは、TBABを用いた蓄熱材のpHを中性〜弱酸性に調整することができない。
【0065】
また、カリウムミョウバン及びアンモニウムミョウバンの水溶液は、酸性を示す。このため、カリウムミョウバン及びアンモニウムミョウバンは、蓄熱材のpH調整剤としても用いることができると考えられる。
【0066】
図8は、本実施例で作製した蓄熱材サンプルのpH値と過冷却防止効果を示している。本実施例では、TBABの濃度が25wt%である蓄熱材サンプルを作製した。また、過冷却防止剤として、四ホウ酸ナトリウム、カリウムミョウバン12水和物、アンモニウムミョウバン12水和物、水酸化アルミニウム、硫酸ナトリウム10水和物、ホウ酸を用いた。TBAB水溶液中での四ホウ酸ナトリウム、カリウムミョウバン12水和物、アンモニウムミョウバン12水和物、水酸化アルミニウム、硫酸ナトリウム10水和物、ホウ酸の濃度は、いずれも3wt%とした。本実施例では、過冷却防止剤を含まない蓄熱材サンプルと、過冷却防止剤の異なる6種類の蓄熱材サンプルを作製して、各蓄熱材サンプルのpHと過冷却防止効果の有無について検証した。水酸化アルミニウムを過冷却防止剤として用いたのは、カリウムミョウバン及びアンモニウムミョウバンにアルミニウムが含まれており、アルミニウム自体に過冷却防止効果があるとするなら、水酸化アルミニウムが添加されても過冷却防止効果が得られると考えたからである。同様に、ホウ酸を過冷却防止剤として用いたのは、四ホウ酸ナトリウムに過冷却防止効果があるため、ホウ酸にも過冷却防止効果があるかもしれないと考えたからである。
【0067】
また、本実施例では、pH試験紙を用いて蓄熱材サンプルのpHを測定した。また、本実施例では、蓄熱材サンプルの冷却時温度及び冷却時間を上記実施例1及び2と同じにして検証した。また、図8には、蓄熱材サンプルが凝固した場合には「○」と標記し、蓄熱材サンプルが凝固しなかった場合には「×」と標記している。
【0068】
図8に示すように、過冷却防止剤が添加されていない蓄熱材サンプルのpHは8〜9であり、この蓄熱材サンプルは凝固しなかった。四ホウ酸ナトリウムが添加された蓄熱材サンプルのpHは10であり、この蓄熱材サンプルは凝固した。カリウムミョウバン12水和物が添加された蓄熱材サンプルのpHは6であり、この蓄熱材サンプルは凝固した。アンモニウムミョウバン12水和物が添加された蓄熱材サンプルのpHは6であり、この蓄熱材サンプルは、2−プロパノールをさらに添加すると凝固した。このため、図8の「過冷却防止効果」の欄には「△(2−プロパノール添加で○)」と標記している。また、水酸化アルミニウムが添加された蓄熱材サンプルのpHは7であり、この蓄熱材サンプルは凝固しなかった。硫酸ナトリウム10水和物が添加された蓄熱材サンプルのpHは7〜8であり、この蓄熱材サンプルは凝固しなかった。ホウ酸が添加された蓄熱材サンプルのpHは6であり、この蓄熱材サンプルは凝固しなかった。
【0069】
このように、カリウムミョウバン12水和物又はアンモニウムミョウバン12水和物の添加された蓄熱材サンプルは、pHが6の弱酸性になり、過冷却も防止されて凝固した。このため、カリウムミョウバン及びアンモニウムミョウバンは、pH調整剤としても用いることができる。本実施例による蓄熱材は、TBAB水溶液のpHを約6にすることができる。また、本実施例による蓄熱材は、弱酸性であり、安全である。
【0070】
また、本実施の形態では、TBAB水溶液中における過冷却防止剤の濃度が飽和濃度より高くなるように、過冷却防止剤を添加する。このため、液体状態である蓄熱材中に存在する固形物を採取しX線解析を行うと、蓄熱材に添加されていた添加剤を特定することができる。
【0071】
図9は、カリウムミョウバン12水和物とアンモニウムミョウバン12水和物との格子定数と結晶系とを示している。また、図9は、カリウムミョウバン又はアンモニウムミョウバンを構成する無機塩である硫酸アルミニウム、硫酸カリウム及び硫酸アンモニウムの格子定数と結晶系とを示している。
【0072】
図9に示すように、カリウムミョウバン12水和物(硫酸アルミニウムカリウム)の格子定数は、a=b=c=12.16(Å)であり、結晶系が立方晶である。アンモニウムミョウバン12水和物(硫酸アルミニウムアンモニウム)の格子定数は、a=b=c=12.24(Å)であり、結晶系が立方晶である。硫酸アルミニウムの格子定数は、a=8.025(Å)、b=8.025(Å)、c=21.36(Å)であり、結晶系が菱面体である。硫酸カリウムの格子定数は、a=5.772(Å)、b=10.07(Å)、c=7.483(Å)であり、結晶系が斜包晶である。硫酸アンモニウムの格子定数は、a=7.730(Å)、b=10.50(Å)、c=5.950(Å)であり、結晶系が斜包晶である。
【0073】
カリウムミョウバン12水和物は、硫酸アルミニウムと硫酸カリウムとで構成される複塩である。また、アンモニウムミョウバン12水和物は、硫酸カリウムと硫酸アンモニウムとで構成される複塩である。しかしながら、図9に示すように、カリウムミョウバン12水和物と、硫酸アルミニウム及び硫酸カリウムとの結晶構造は類似していない。また、アンモニウムミョウバン12水和物と、硫酸アルミニウム及び硫酸アンモニウムとの結晶構造は類似していない。このため、X線解析によれば、蓄熱材に添加されている添加剤を特定することができる。
【0074】
(実施例4)
次に、図10を用いて、本発明の蓄熱材を用いた保管容器について説明する。図10は、本実施の形態の実施例4による保管容器としての冷蔵庫10の外観を示す斜視図である。冷蔵庫10は設置状態で鉛直方向に高い直方体形状の冷蔵庫本体12を有している。図10では冷蔵庫本体12の正面12aを斜め右上方から観察した状態を示している。冷蔵庫本体12の正面12aには長方形の開口が設けられている。長方形の開口を開口端として、冷蔵庫本体12内に中空箱状の貯蔵室14が設けられている。正面の開口端左側には不図示のヒンジ機構を介して例えば樹脂製の扉16が開閉可能に取り付けられている。図10では扉16は開いた状態を示している。扉16は閉じた状態で長方形開口を塞ぐ領域を備えた長方形平板形状を有している。また、扉16の正面12aとの対面側には、扉閉鎖時に密閉性を確保するためのドアパッキン18が配置されている。
【0075】
また、冷蔵庫10は、貯蔵室14内に設置されて食品等の貯蔵物を載置する棚部材20を有している。棚部材20は、薄板平板形状を有している。本実施例では、貯蔵室14内の直方体空間を鉛直方向にほぼ5等分するように4枚の棚部材20が設置されている。また、貯蔵室14の左右の内壁には、水平対向位置に一対の棚受けが4つ設けられている。一対の棚受けのそれぞれには、冷蔵庫10の設置状態で棚部材の板面が鉛直方向に対して水平になるように棚部材20の端部が載置されている。
【0076】
次に、図11を用いて、本実施例による冷蔵庫10の2種類の構成例について説明する。図11(a)および(b)は、図10のA−A線に沿って図示の鉛直方向(A−A線の矢印の方向)に冷蔵庫10を切断した断面を正面12a側から観察した状態を示している。まず、2種類の冷蔵庫10の共通する構成について説明する。
【0077】
冷蔵庫10の冷蔵庫本体12は、外箱22、内箱24、及び断熱材26を有している。外箱22は、冷蔵庫10の設置状態で縦長直方体形状を有している。外箱22は、一般的に鋼板で作製される。外箱22は、貯蔵室14の外壁を構成する。内箱24は、外箱22よりも小さい縦長直方体形状を有しており、外箱22内に収容されている。内箱24の内側の空間が貯蔵室14となる。また、内箱24は、貯蔵室14内の内壁を構成する。内箱24は、一般的にAcrylonitrile Butadiene Styrene(ABS)樹脂等の樹脂板を用いて、真空成型等で作製される。また、外箱22と内箱24との間には、断熱材26が貯蔵室14を囲むように配置されている。断熱材26は、外気との温度差による熱の流入を抑制するために用いられる。断熱材26は、冷蔵庫では、通常、断熱性能の高い発泡スチレン、発泡ウレタン等の発泡樹脂等が用いられる。断熱材26に発泡スチレンが用いられる場合、板状に成形した発泡スチレンが用いられる。また、断熱材26に発砲ウレタンを用いる場合、外箱22と内箱24を冶具で固定し、両者の間の空間にポリオール液とイソシアネート液等の発泡ウレタンの原液をそれぞれ同時に注入し、加熱により発泡させ、発泡ウレタンを充填させる(ウレタン発泡処理)ことのが一般的である。ウレタン発泡処理には、断熱層を形成すると共に、ウレタン樹脂が外箱22と内箱24の壁面に強固に接着するため、外箱22、内箱24の厚さを薄くしても、冷蔵庫本体12の機械的強度が保てる利点がある。
【0078】
冷蔵庫10は、電力の供給を受けて冷却装置を作動させて貯蔵室14内を所定温度(3℃〜5℃)に保冷している。冷却装置としては、例えば、ガス圧縮式の冷却装置が用いられている。図11(a)、(b)では、ガス圧縮式の冷却装置の一部を構成する蒸発器を備えた冷却器30を示している。冷却器30は、貯蔵室14内を所定温度(例えば、3℃〜5℃)に保温(保冷)するための熱源(冷熱源)である。冷却器30は、貯蔵室14の上部に配置されおり、本実施例の冷蔵庫10は、直冷式の冷蔵庫である。なお、冷蔵庫10は、間冷式の冷蔵庫であってもよい。また、冷蔵庫10は、ガス圧縮式の冷却装置に代えて、ガス吸収式の冷却装置やペルチェ効果を用いた電子式の冷却装置を用いることも可能である。
【0079】
本実施例による冷蔵庫10は、上記実施例1〜3のいずれかの蓄熱材を備えた蓄熱部材28を有している。蓄熱部材28を備えた冷蔵庫10は、例えば、停電等で電力の供給が遮断されて冷却装置が作動しなくなった場合に、貯蔵室14内の温度を所定時間だけ10℃以下に保つことができる。これにより、本実施例の冷蔵庫10は、停電時等に貯蔵室14内の食品等の腐敗を防ぐことができる。
【0080】
蓄熱部材28は、上記実施例1〜3のいずれかの蓄熱材と、蓄熱材を収容する収容部材とを有している。収容部材には、ポリエチレン製のブロー成型容器のような硬質の容器を用いることができる。この場合、ブロー成型容器にそのまま蓄熱材を充填してもよいが、相変化時の核成長を抑制し、固化時の表面平坦性の悪化を防止し、また、容器破損時の蓄熱材の漏洩を防止するために、蓄熱材をゲル化、または、増粘化してブロー成型容器に充填することが望ましい。
【0081】
次に、蓄熱部材28の配置例について説明する。図11(a)に示す例では、貯蔵室14外に蓄熱部材28が配置されている。より、具体的には、内箱24と断熱材26との間であって、貯蔵室14の内壁外側に蓄熱部材28が配置されている。蓄熱部材28は、貯蔵室14を囲むように配置されている。この構成によれば、外箱22および断熱材26を介して流入する熱を効率よく蓄熱部材28が吸収することができるため、貯蔵室14内の温度を一定に長時間保持することができる。
【0082】
図11(b)に示す例では、貯蔵室14内に蓄熱部材28が配置されている。より具体的には、棚部材20の下面側に蓄熱部材28が配置されている。本例では、棚部材20の下面側に例えば接着剤等を用いて板状の蓄熱部材28が張り付けられている。この構成によれば、蓄熱部材28が大きな熱負荷となり、外箱22、断熱材26および内箱24を介して貯蔵室14内に流入する熱による貯蔵室14内の温度上昇を抑制することができる。
【0083】
図11(b)に示す棚部材20に蓄熱部材28を配置した場合、貯蔵室14内に一旦、熱が入ってくるため、貯蔵室14内の温度は、図11(a)に示す蓄熱部材28を貯蔵室14の内壁外側に配置した場合と比較して、貯蔵室14内の温度が高くなる傾向がある。しかしながら、棚部材20に蓄熱部材28を配置する場合、従来の冷蔵庫にも容易に蓄熱部材28を配置することができる。
【0084】
蓄熱部材28の配置は、目的に合わせて、図11(a)に示す内壁外側配置、または図11(b)に示す棚配置、若しくはその両方の配置を選択することができる。例えば、本発明の蓄熱材として、テトラアルキルアンモニウム塩としてテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)を用いた蓄熱部材28の配置として内壁外側配置を選択した場合、庫内容積400Lの冷蔵庫の内壁外側に蓄熱部材28を5mm厚程度設けることで、外気温30℃の場合に電源がオフになったとしても、貯蔵室14内の温度を10℃以下に8時間程度保持することができる。
【0085】
本実施例による保管容器としての冷蔵庫10は、貯蔵物を貯蔵する貯蔵室14と、貯蔵室14内を所定温度に保冷するための冷却器30と、貯蔵室14内に流入する熱を吸収するために配置され、上記実施例1〜3のいずれかの蓄熱材が用いられた蓄熱部材28とを有している。蓄熱部材28は、図11(a)に示すように貯蔵室14外に配置されていてもよいし、図11(b)に示すように貯蔵室14内に配置されていてもよい。本実施例による冷蔵庫10は、停電等による電力供給の遮断時においても、貯蔵室14内の温度を所定時間、所定温度内に保持することができる。
【0086】
本発明の蓄熱材は、輸送・保管容器にも用いることができる。輸送・保管容器は、図10、及び図11に示す冷蔵庫10と同様に、本体と、扉と、扉に配置されたパッキンと、外箱と、内箱と、外箱と内箱との間に配置された断熱材と、蓄熱部材を有している。輸送・保管容器は、蓄熱部材の冷却を別途、他の機器で行うのであれば、冷却装置を必要としないため、構造の単純化、軽量化を図ることができる。本発明の蓄熱材を用いた輸送・保管容器は、保冷の温度範囲が狭く、一定温度での輸送が必要な、薬品、移植臓器、生鮮食品等の輸送に好適に用いられる。
【0087】
(実施例5)
次に、図12を用いて、本発明の蓄熱材を用いた建材としての蓄熱壁材について説明する。図12は、本実施の形態の実施例5による蓄熱壁材40、60の断面図である。また、図12に示す両向き矢印は、本実施例の蓄熱壁材40、60を建築物に設置した場合の屋外方向、および屋内方向を示している。本発明の蓄熱材は、住宅の壁用の建材に用いることができる。
【0088】
図12(a)は、鉄筋コンクリート造り(Reinforced−Concrete(RC)造り)住宅に用いられる蓄熱壁材40の断面図である。蓄熱壁材40は、屋外側から屋内側に向かってこの順に配置された、サイディング42(9mm厚程度)、断熱材46(30mm厚程度)、コンクリート48(100〜200mm厚程度)、蓄熱部材50(5〜10mm厚程度)、石膏ボード52(12mm厚程度)を有している。蓄熱部材50には、上記実施例1〜3のいずれかの蓄熱材や、それ以外に、例えば暖房対応であれば[(n−CN]HPO(相変化温度:17.2℃)、例えば冷房対応であれば(i−C11NCl)(相変化温度:29.8℃)をそれぞれ用いることができる。断熱材46には、グラスウール等、繊維系断熱材が用いられる。
【0089】
図12(b)は、木造住宅に用いられる蓄熱壁材60の断面図である。蓄熱壁材60は、屋外側から屋内側に向かってこの順に配置された、サイディング62(9mm厚程度)、空気層64(30mm厚程度)、合板66(12mm厚程度)、断熱材68(30mm厚程度)、合板70(12mm厚程度)、蓄熱部材72(5〜10mm厚程度)、石膏ボード74(12mm厚程度)を有している。蓄熱部材72には、上記実施例1〜3のいずれかの蓄熱材や、それ以外に、例えば暖房対応であれば[(n−CN]HPO(相変化温度:17.2℃)、例えば冷房対応であれば(i−C11NCl)(相変化温度:29.8℃)をそれぞれ用いることができる。断熱材68には、グラスウール等、繊維系断熱材が用いられる。
【0090】
本発明の蓄熱材を蓄熱部材50や蓄熱部材72に用いる場合、ポリエチレン製のブロー成型容器のように硬質の容器に蓄熱材をそのまま充填してもよいが、蓄熱材の相変化時の核成長を抑制し、蓄熱材の凝固時の表面平坦性の悪化を防止し、また、容器破損時の蓄熱材の漏洩を防止するために、ポリエチレン製のブロー成型容器のように硬質の容器に本発明の蓄熱材をゲル化、または、増粘化して充填することが望ましい。また、本発明の蓄熱材をゲル化することにより液相時の流動性を抑制することができる場合、容器は必ずしも硬質の容器である必要はなく、密封した樹脂フィルムのパックを容器に用いてもよい。
【0091】
実施例4と同様に、室内の温度を長時間、一定温度に保持するためには、断熱材より屋内側に蓄熱部材を配置する方が効果的である。断熱材により屋外から屋内への熱の流入を減少させることができるので、減少した分の熱のみを蓄熱部材が吸収すればよいからである。さらに、蓄熱部材を壁材に用いる場合、屋内の空調機器の熱を蓄熱部材が蓄えることも必要なため、屋内の空気と蓄熱部材との間の熱抵抗をなるべく小さくすることが望ましい。そのために、屋内の使用用途や環境によって、石膏ボードよりも屋内側に蓄熱部材を設けてもよい。
【0092】
本実施例による建材としての蓄熱壁材40、60は、上記実施例1〜5のいずれかの蓄熱材を有している。本実施例による蓄熱壁材40、60は、居住空間の温度変化を緩慢にし、居住空間の快適性の向上を図ることができる。
【0093】
(実施例6)
次に、図13を用いて、本発明の蓄熱材を用いた建築物としての住宅80について説明する。図13は、本実施の形態の実施例6による建築物としての住宅80の概略断面図である。住宅80には、図12に示す蓄熱壁材40、60が用いられている。
【0094】
図13に示すように、本実施例による住宅80は、2階建ての構造を有している。住宅80は、複数の(例えば、3つ)の居住空間82、蓄熱壁材84を有している。住宅80がRC造りである場合、図12(a)に示す蓄熱壁材40が蓄熱壁材84に用いられる。また、住宅80が木造住宅である場合、図12(b)に示す蓄熱壁材60が蓄熱壁材84に用いられる。蓄熱壁材84は、図13に示すように、住宅の壁や床や天井の中で、熱の出入りが大きい領域に設けることが望ましい。
【0095】
本実施例による建築物としての住宅80は、上記実施例5の蓄熱壁材40、60を有している。本実施例による住宅80は、居住空間の温度変化を緩慢にし、居住空間の快適性の向上を図ることができる。
【0096】
本発明は、上記実施の形態に限らず種々の変形が可能である。
上記実施の形態では、過冷却防止剤として、カリウムミョウバン12水和物やアンモニウムミョウバン12水和物を用いた例を挙げたが、本発明はこれに限らず、カリウムミョウバンの無水物やアンモニウムミョウバンの無水物を過冷却防止剤として用いることができる。
【0097】
なお、上記詳細な説明で説明した事項、特に上記実施の形態で説明した事項は組み合わせることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、蓄熱材を用いた蓄熱部材並びにそれを用いた保管容器、保管・輸送容器、建材、及び建築物の分野において広く利用可能である。
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