特許第6226495号(P6226495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6226495
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】省エネルギー渋滞走行制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/16 20120101AFI20171030BHJP
   B60W 30/17 20120101ALI20171030BHJP
【FI】
   B60W30/16
   B60W30/17
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-203169(P2016-203169)
(22)【出願日】2016年10月15日
【審査請求日】2017年4月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301001199
【氏名又は名称】渡邉 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉雅弘
【審査官】 塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−183150(JP,A)
【文献】 特開2014−000942(JP,A)
【文献】 特開2010−120503(JP,A)
【文献】 特開2015−143490(JP,A)
【文献】 特開2016−141223(JP,A)
【文献】 特開2012−081924(JP,A)
【文献】 特開2010−274839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W10/00 − 10/30
B60W30/00 − 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発進・停止を繰り返す渋滞平均速度vjの渋滞走行を、
速度0から速度(2・vj)までの加速度αaによる走行距離La の加速走行と、
速度(2・vj)から速度0までの減速度αd による走行距離Ld の減速走行、
の繰り返しによる、平均速度vj 、自車−前方車両間車間距離範囲{ΔL〜(Ls +ΔL)}、で行う、
但し、速度0から速度(2・vj)までの加速度αaによる走行距離Laは、加速度αa を許容可能範囲内で極大化することによって極小化して、また速度(2・vj)から速度0までの減速度αd による走行距離Ldは、減速度αdを許容可能範囲で極小化(但しαd ≧αi )することによって極大化して、各々設定する、
ことを特徴とする省エネルギー渋滞走行制御方法。
ここで、
vj :渋滞平均速度、
Ls:渋滞平均速度vjに対応した設定車間距離
=La+Ld
La:速度0から(2・vj)までの間、加速度αa で加速走行した場合の走行距離、
=(2・vj)/(2・αa)
Ld:速度(2・vj)から0までの間、減速度αdで減速走行した場合の走行距離、
=(2・vj)/(2・αd)=(2・vj)/{2・(αi+αb)}
ΔL:安全車間距離
αa:加速度
αd :減速度
=αi +αb
αi :惰性走行減速度
αb:制動減速度
である。
【請求項2】
自車が減速走行中あるいは減速走行終了による停車中、自車−前方車両間実車間距離LがL≧(Ls +ΔL)の関係を満足した場合は、その時点から速度(2・vj)へ向けての、加速度αa の加速走行に移行すること、
を特徴とする請求項1記載の省エネルギー渋滞走行制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、省エネルギー・低地球温暖化ガス量排出走行および安全走行の両立を可能にする渋滞走行制御方法に関する。
但し、ここでの渋滞走行とは、前方車両に追従しての発進・停止を頻繁に繰り返す低平均速度走行を云う。
【背景技術】
【0002】
一定走行距離の走行に際し、最も効率的な走行方法は、最小限の加速走行と、前記最小限の加速走行によって車両が獲得した運動エネルギーを効率的に利用しての最大限の惰性走行による減速走行の組み合わせである。
しかし現状実行されている渋滞走行方法は、エンジンの(全気筒稼働ではなく)一部気筒稼働による走行(特許文献1)、あるいはエンジンの停止条件・再始動条件の最適化(特許文献3)、渋滞走行パターンの学習によるアイドルストップ条件の最適化(特許文献4)等、渋滞走行におけるエンジン利用条件の合理化に関するものが主体でありその他には、前方車両との車間距離に対応しての自車速度制御(特許文献2)、等、渋滞走行中の前方車両との車間距離に対応した走行速度の最適化による交通能力の最大化方法等がある。
しかし、これらはいずれも自動運転車等に適用できる体系的、合理的な渋滞走行制御方法には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−249760
【特許文献2】特開2014− 51258
【特許文献3】特開2014−167278
【特許文献4】特開2015−143491
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は渋滞走行を、渋滞平均速度(渋滞中の車両の平均走行速度)、あるいは自車両−前方車両間車間距離、を含めてトータル的にとらえ、それに合理的・体系的に対応することによって省エネルギー・低排出ガス量かつ走行安全な渋滞走行を効果的に行おうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来の渋滞走行の問題点は以下の如くである。
・加速走行・定速走行、あるいは減速時・停車時の(例えばガソリンエンジンへのガソリン等)過剰な駆動体駆動エネルギー供給による浪費、
・減速走行時の車両の有する運動エネルギーの、制動(低効率回生制動を含む)による浪費。
上記問題を解決するためには、以下の対応が必要である。
・渋滞平均速度に対応した最小限の加速走行と、前記加速走行の結果車両に蓄積された運動エネルギーの車両減速走行への効率的な利用、即ち惰性走行の最大限の活用
・減速走行時あるいは停車時の(例えばガソリンエンジンへのガソリン等)駆動体への駆動体駆動エネルギーの供給停止あるいは供給削減
【0006】
上記問題解決策実行のための方策を、図1を用いて説明する。
図1において、縦軸を自車速度、横軸を時間あるいは走行距離とする。
またvj は渋滞平均速度(渋滞中の車両の平均速度)である。
速度0から速度(2・vj)までの間加速度αa で加速走行した場合の走行距離をLa 、走行時間をta、
また、速度(2・vj)から速度0までの間減速度αd で減速走行した場合の走行距離をLd 、走行時間をtd、
とするとLa、Ld、ta、td はそれぞれ(数1)、(数2)、(数3)、(数4)であらわされる。
(数1)
La =(2・vj )/(2・αa)
(数2)
Ld =(2・vj )/(2・αd)
(数3)
ta =(2・vj)/αa
(数4)
td =(2・vj)/αd
ここで、減速度αd は、
(数5)
αd =αi +αb
但し
αi:惰性走行減速度
αb:減速度αd とするための、惰性走行減速度αiに付加する制動減速度
である。
【0007】
ここで、加速走行距離La および減速走行距離Ld の和である加減速走行距離(La+Ld)の間を、加速走行時間ta と減速走行時間td の和である加減速走行時間(ta+td)で走行する場合の速度vad は、(数6)で示される。
(数6)
vad =(La+Ld )/(ta +td )=vj
即ち、上記の如き加速走行距離Laと減速走行距離Ldの和である加減速走行距離(La +Ld)を加速時間taと減速時間td での和時間(ta +td)で走行した場合の平均速度は渋滞平均速度
vjとすることができる。
【0008】
従って、発進・停止を頻繁に繰り返す渋滞平均速度vj の渋滞中において、停車中の自車両が、前方車両との車間距離Lが(数7)を満足した時(但しΔL:安全車間距離)、上記加速走行を開始し、速度が(2・vj)に達した後減速度αdの減速走行に移行して速度0となるまで走行した場合の走行距離は(La +Ld)となり、この結果、前記加減速走行の間の自車両と前方車両間の車間距離は、前方車両の走行状態如何(但し逆走は無しとする)にかかわらず(数8)を満足することができる。即ち、(数9)で示される設定車間距離Lsを確保しての安全な加減速走行が可能となる。
(数7)
L≧Ls+ΔL
(数8)
L≧ΔL
(数9)
Ls =La +Ld
【0009】
ここで、上記加速走行距離La 、減速走行距離Ld の最適化、即ち加速度αa 、減速度αd の最適化、を考える。
先ず減速走行距離Ldを考える。
減速走行の最もエネルギー効率の良い走行方法は、前記のとおり惰性走行、即ち減速度αdを惰性走行減速度αi としての走行である。
【0010】
しかし前記渋滞中の減速走行を惰性走行減速度αiの惰性走行のみで行おうとすると、例えば渋滞平均速度vj=5km/hの渋滞走行において、(一般的な車両においては、)惰性走行減速度αiによる速度(2・vj)=10km/hから速度0までの惰性走行距離Liは10m以上、したがって加速走行距離Laを5mとすると一周期の加減速走行距離は15m以上となってしまい、車間距離が過大になるという問題が発生する。
【0011】
一方、減速走行を減速度αd (=αi+αb、即ち惰性走行減速度αiに制動減速度αbを付加した減速走行)で行おうとすると、減速走行時の制動減速度αbの制御が必要となることに加えて、速度0から速度(2・vj)までの加速走行によって車両が獲得した運動エネルギー{m・(2・vj)2}/2(但しm:自車両質量)中の{αi / (αi +αb)}分しか減速走行に利用されず、残りの{αb / (αi +αb)}分は制動減速度αbによる制動摩擦熱として放散されてしまい、走行の運動エネルギー損失となる。
(但し、上記減速度αbによる制動を摩擦制動ではなく高効率の回生性能を有する回生制動で行う方法もあり、この場合は制動を単なる摩擦制動で行う場合に比べて回生制動の効率分だけ運動エネルギー利用効率を向上させることができる。)
【0012】
従って、渋滞走行速度vjに対応する最適な自車両−前方車両間設定車間距離Lsのための加速走行距離La設定に際しては、加速度αaを許容可能な(乗員に違和感を与えず制御が容易かつ安全な)範囲で最大値に設定して後(数1)より前記最大化(極大化)した加速度αaに対応した極小化した加速走行距離Laを算出・設定する。
次いで、前記Ls 、La より(数9)を用いてLd (=Ls −La)を算出(但しここで算出されたLd は、惰性走行距離Liに対してLd <Li とする)、前記Ldより(数2)を用いてαdを、(数5)を用いてαb を算出し、最終的には減速走行時αb を制御しての極小化した、即ち極力惰性走行減速度αiに近い、減速度αd での極大化した減速走行距離 Ldでの減速走行を行う。
【0013】
一方、減速走行中あるいは停車中のエンジンあるいはモータの駆動による駆動体駆動エネルギー損失は、駆動を停止するあるいは駆動での消費量を低減させることで可能である。
従ってトータル的な渋滞走行の最適化は、渋滞平均速度vjに対応した設定車間距離Lsに対応する加速度αa、減速度αdの最適化(即ち、加速走行距離La 、減速走行距離Ldの最適化)とその結果としての運動エネルギー利用効率向上と、減速走行時および停車時の駆動体駆動エネルギーの損失低減、を合わせて総合的に最適化することになる。
【発明の効果】
【0014】
上記のごとき本願発明による平均速度vjでの、基本的に速度0から速度(2・vj)間の加減速度走行の繰り返しによる設定車間距離Lsでの渋滞走行によって、省エネルギー・地球温暖化ガス削減と安全走行が両立した渋滞走行が可能となる。
特に本願発明による渋滞走行はEV等のモーター駆動を主体とした自動運転車への適用が効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本願発明の渋滞走行の基本的考え方を説明する渋滞走行形態説明図、
図2】本願発明による渋滞走行制御手順例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明実施に際しては先ず渋滞平均速度vjの特定が必要になる。これは外部交通情報からの渋滞長と渋滞通過予測時間からの特定、あるいは自車が渋滞状態に侵入した時からの走行距離および経過時間からの特定で可能である。
また追従走行すべき前方車両の有無特定、あるいは自車−前方車両間車間距離Lの特定は、カメラ、レーダー等の測距機能を有する装置、あるいは自車位置特定可能な車両間の(自車−前方車両の)車車間通信によって可能である。
また、渋滞平均速度vjに対応した加速度αa 、減速度αd(あるいは惰性走行減速度αi、制動減速度αb)および設定車間距離Lsおよび安全車間距離ΔLは、あらかじめ特定しておく必要がある。
【実施例1】
【0017】
図2に本願発明による省エネルギー渋滞走行制御方法における制御手順例を示す。
図2において、
201は、渋滞走行制御手順開始点、
202は、自車両前方一定距離Lf以内にある(追従すべき)車両の有無を確認する前方車両有無確認処理A、
ここで前方車両の有無は、自車両から一定距離Lf(Lf>(Ls +ΔL))以内前方に自車両と同一向き走行の車両の有無を、カメラあるいはレーダー等により確認する。
203は、自車速vsが0、即ち自車両が停止状態か否か、の確認処理、
204は、自車−前方車両間実車間距離Lが(Ls +ΔL)以上か否かを判定する車間距離判定処理A、
ここでLs は設定車間距離、ΔLは安全車間距離である。
205は、処理204および後述の処理209でL≧(Ls +ΔL)と判定された場合、あるいは後述の処理206でvs<2・vjと判定された場合、加速度αa の加速走行を開始あるいは継続する加速走行処理、
【0018】
206は加速走行の結果自車速vsが(2・vj)に達したか否かを判定するvs 判定処理、
207は、処理206で加速走行の結果自車速vsが(2・vj) 以上に達したと判定された場合、あるいは後述の処理210でL≧ΔLと判定された場合、減速度αd の減速走行に移行あるいは継続する、減速走行処理、
208は、処理202と同様、自車両前方に追従すべき車両の有無を確認する前方車両有無確認処理B、
209は、処理204と同様、自車−前方車両間実車間距離Lが(Ls +ΔL)以上か否かを判定する車間距離判定処理B、
210は、自車−前方車両間実車間距離Lが安全車間距離ΔL以下か否かを判定する安全車間距離判定処理、
211は、処理210で自車−前方車両間実車間距離Lが安全車間距離ΔL以下であると判定された場合、自車速vsが0か否か、即ち自車両が停止状態にあるか否かを判定する自車停止判定処理、
212は、処理211の判定結果自車速vsが未だ0となっていないと判定された場合、制動減速度αr(αr>αb)によるvs=0へ向けての制動を行う制動処理、
213は、処理208において追従すべき前方走行車両無しと判定された場合、渋滞走行制御処理を終了(したのち通常走行に移行)する渋滞走行制御処理終了点、
である。
【0019】
以上の如く本願発明による渋滞走行制御方法は、自車両停車時、前方車両までの実車間距離Lを特定し、実車間距離Lが(Ls+ΔL)以上になるのを待って加速走行を開始し、自車速度が(2・vj) に達した時点で、加速走行から減速走行に移行し、L≦ΔLとなった時点で制動・停止する。
その後は再度前方車両との実車間距離Lが(Ls+ΔL)以上になるのを待って加速走行を開始する。上記動作を基本動作として繰り返すことによって渋滞平均速度vj中の実車間距離(ΔL〜Ls +ΔL)を確保しての渋滞走行が可能となる。
但し減速走行中、自車−前方車両間実車間距離Lが(Ls+ΔL)以上となった場合にはその時点から、加速走行を速度(2・vj)に達するまで行い、その後減速走行に移行することによって、車間距離の拡大を防止する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本願発明によって、車両駆動体としてエンジンを用いた車両は勿論、電気自動車、ハイブリッド車、あるいは燃料電池車の如きモーターを利用した車両においても、渋滞走行中の運動エネルギーの損失を最小限に抑えた、また減速走行中の駆動体への駆動エネルギー供給を最小限に抑えた、さらに前方車両との実車間距離を走行安全上必要十分な距離に保った、渋滞走行が可能となり、車両の省エネルギー・地球温暖化ガス排出量削減および安全走行に大きく貢献できる。
特に本願発明を自動化すること、即ち自動運転車の渋滞走行方法として採用することは自動運転車の目的から見ても効果的であると言える。
【符号の説明】
【0021】
vs:自車速
vj:渋滞平均速度
L:自車両−前方車両間実車間距離、
La :加速走行距離
Li :惰性走行距離
Ld :減速走行距離
Ls :渋滞平均速度vj に対応した設定車間距離、
=La +Ld 、あるいはLs=La +Li
Lf :自車両前方に追従すべき車両有無を判定する追従車両判定距離、
ΔL:安全車間距離
ta :加速走行時間
td : 減速走行時間
ti :惰性走行時間
αa :加速度
αd :減速度
=αi +αb
αi :惰性走行減速度
αb:減速度αdの一部となる制動減速度、あるいは回生制動減速度
αr:L≦ΔL範囲内での制動減速度、(αr>αb)
【要約】
【課題】渋滞走行の合理化によって、省エネルギー化・地球温暖化ガス排出量低減走行、および安全走行、の両立を図る。
【解決手段】発進・停止を繰り返す渋滞平均速度vj中の渋滞走行を、加速度αa、加速走行距離La、の加速走行と、減速度αd、減速走行距離Ld、の減速走行(あるいは惰性走行減速度αi、惰性走行距離Li、の惰性走行)の繰り返しによる平均速度vj、実車間距離L(但し、ΔL<L≦(Ls+ΔL))の走行によって行う。但し減速走行中(あるいは惰性走行中)および停車中の車両駆動体へのエネルギー供給は停止あるいは可能な限り削減する。
ここでLs は設定車間距離(Ls=(La+Ld)、あるいはLs =(La+Li))、ΔLは安全車間距離、である。
【選択図】 図1
図1
図2