(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6226496
(24)【登録日】2017年10月20日
(45)【発行日】2017年11月8日
(54)【発明の名称】偏光子及び偏光変調システム
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20171030BHJP
G02B 6/126 20060101ALI20171030BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20171030BHJP
【FI】
G02F1/01 C
G02B6/126
G02B6/12 361
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-541480(P2016-541480)
(86)(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公表番号】特表2017-504062(P2017-504062A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】CN2013090151
(87)【国際公開番号】WO2015089844
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】504161984
【氏名又は名称】ホアウェイ・テクノロジーズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】トゥ、シン
(72)【発明者】
【氏名】フ、ホンヤン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ワンユアン
【審査官】
林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−300888(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0091287(US,A1)
【文献】
特開2001−183710(JP,A)
【文献】
特開2003−329986(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0140612(US,A1)
【文献】
特表2002−540452(JP,A)
【文献】
米国特許第06522799(US,B1)
【文献】
特開2002−026820(JP,A)
【文献】
B.M.A.RAHMAN, et al.,"Design of optical polarization splitters in a single-section deeply etched MMI waveguide",APPLIED PHYSICS B,2001年10月,Vol.73, No.5-6 ,pp.613-618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125
G02F 1/21−1/39
G02B 6/12−6/14
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのサブ偏光子または縦続接続された複数のサブ偏光子を備える偏光子であって、
前記サブ偏光子は、1つのMMI多モード導波路と、1つの入力導波路と、1つの出力導波路とを有し、
前記MMI多モード導波路の一方の側は前記入力導波路に接続され、他方の側は前記出力導波路に接続されており、
前記MMI多モード導波路の前記出力導波路が位置する側の端部には可調整部が設けられ、前記可調整部は前記出力導波路に接続されており、
前記偏光子は、前記可調整部に接続されたコントローラを更に備え、前記コントローラは、前記可調整部の材料特性を変化させるべく制御を実行するよう構成され、これにより、前記出力導波路は複数の異なる偏光状態のうちのいずれか1つの偏光状態の光信号を出力する、
偏光子。
【請求項2】
前記可調整部の前記材料特性は、前記可調整部の屈折率、前記可調整部の磁気伝導率、及び前記可調整部の光透過率のうちの1又は複数を含む、
請求項1に記載の偏光子。
【請求項3】
前記可調整部は、電極とp−i−n接合とを含み、
前記コントローラは、前記可調整部の前記p−i−n接合の領域の屈折率、磁気伝導率、及び/又は光透過率を、前記電極に電界を印加することによって変化させるよう構成される、
請求項2に記載の偏光子。
【請求項4】
前記可調整部の前記材料特性は、前記可調整部の吸収率を含む、
請求項1に記載の偏光子。
【請求項5】
前記可調整部は、電極とp−i−n接合とを含み、
前記コントローラは、前記可調整部の前記p−i−n接合の領域の吸収率を、前記電極に電界を印加することによって変化させるよう構成される、
請求項4に記載の偏光子。
【請求項6】
前記p−i−n接合はSiGe合金を含み、
前記SiGe合金は、25〜35ミクロンの範囲の長さ、及び5〜7ミクロンの範囲の幅を有する、
請求項3又は5に記載の偏光子。
【請求項7】
前記SiGe合金は29ミクロンの長さ、及び6.5ミクロンの幅を有する、
請求項6に記載の偏光子。
【請求項8】
前記可調整部は熱光学材料を含み、前記コントローラは、前記熱光学材料の屈折率、磁気伝導率、及び/又は光透過率を、前記熱光学材料に温度場を印加することによって変化させるよう構成される、又は、
前記可調整部は磁気光学材料を含み、前記コントローラは、前記磁気光学材料の屈折率、磁気伝導率、及び/又は光透過率を、前記磁気光学材料に磁場を印加することによって変化させるよう構成される、
請求項2に記載の偏光子。
【請求項9】
前記可調整部は熱光学材料を含み、前記コントローラは、前記熱光学材料の吸収率を前記熱光学材料に温度場を印加することによって変化させるよう構成される、又は、
前記可調整部は磁気光学材料を含み、前記コントローラは前記磁気光学材料の吸収率を前記磁気光学材料に磁場を印加することによって変化させるよう構成される、
請求項4に記載の偏光子。
【請求項10】
前記偏光子が少なくとも2つのMMI多モード導波路を備える場合、前記偏光子は少なくとも2つのサブ偏光子を備え、
複数の前記サブ偏光子のそれぞれは、1つのMMI多モード導波路、1つの入力導波路、及び1つの出力導波路を有し、
前記少なくとも2つのサブ偏光子は縦続接続される、
請求項1から9の何れか一項に記載の偏光子。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項に記載の偏光子を備える偏光変調システムであって、
エンコーダと、偏光ビームスプリッタと、微分器と、光電検出器とを更に備え、
前記エンコーダと、前記偏光子と、前記偏光ビームスプリッタと、前記微分器と、前記光電検出器とは、連続的に接続される、
偏光変調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信技術に関し、具体的には偏光子及び偏光変調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気通信ネットワーク基幹回線の伝送容量及び伝送速度は絶えず増加するので、光ファイバ通信が現代の情報ネットワークの主要な伝送手段になっている。フォトニック集積回路(Photonic Integrated Circuit、略してPIC)チップは、重要な光スイッチモジュールである。光ファイバの断面は厳密には円形ではなく、また光ファイバは応力などの別の要因によって影響を受け得るので、光ファイバからPICチップに入力される光信号の偏光状態は不安定である。偏光状態が不安定なこれらの光信号がPICチップを直接通過するとき、無視できない偏光依存損失(Polarization Dependent Loss、略してPDL)及び偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion、略してPMD)が引き起こされ、それによりシステムの信号対雑音比が低下する。現在、信号の伝送品質を保証し、偏光の影響を排除すべく、PICチップは、偏光子などの技術を用いて、異なる偏光状態にある複数の光信号を別々に処理する必要がある。チップにおいて、TE波(Transverse Electric Wave、略してTE)モード、及びTM波(Transverse Magnetic Wave、略してTM)モードは、別個に処理されるために2つの光路に分離される。導波路偏光子は、PICチップに必須の構成要素である。TEモード及びTMモードは、異なる伝搬定数、異なる遮断波長、異なる結合長、又は同様のものを有するという原則に基づいて、導波路偏光子は、一方の偏光状態(TEモード又はTMモード)の光信号のみが通過することを可能にし、他方の偏光状態の光信号の伝搬を妨げる、又は他方の偏光状態の光信号を吸収する。
【0003】
つまり、既存の導波路偏光子は概して、一定方向の偏光のみを生み出す。つまり、一旦設計され加工されると、導波路偏光子はTEモード又はTMモードの偏光機能のみを提供し得る。異なる偏光状態の複数の光信号が必要とされる場合、その唯一の方法は、最初に元の光信号を分割し、次に必要とされる偏光状態のための偏光子をそれぞれの光路に設置することである。実装システムは複雑である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、調整可能な偏光及び簡単な構造を実装すべく、偏光子及び偏光変調システムを提供する。
【0005】
第1態様に従って、少なくとも1つのMMI多モード導波路を含む偏光子が提供され、各MMI多モード導波路の一方の側が入力導波路に接続され、他方の側が出力導波路に接続されている。出力導波路が位置するMMI多モード導波路の側の端部には可調整部が設けられ、可調整部は出力導波路に接続されている。偏光子は、可調整部に接続されたコントローラを更に含み、コントローラは、可調整部の材料特性を変化させるべく、制御を実行するよう構成され、これにより、出力導波路は複数の異なる偏光状態の複数の光信号を出力する。
【0006】
第1態様に関して、第1の任意実施態様において、可調整部の材料特性は、可調整部の屈折率、可調整部の磁気伝導率、及び可調整部の光透過率のうちの1又は複数を含む。
【0007】
第1態様に関して、第2の任意実施態様において、可調整部の材料特性は、可調整部の吸収率を含む。
【0008】
第1態様及び第1の任意実施態様に関して、第3の任意実施態様において、可調整部は、電極及びp−i−n接合を含み、コントローラは、可調整部のp−i−n接合領域の屈折率、磁気伝導率、及び/又は光透過率を、電極に電界を印加することによって変化させるよう構成されている。
【0009】
第1態様及び第2の任意実施態様に関して、第4の任意実施態様において、可調整部は電極とp−i−n接合とを含み、コントローラは、可調整部のp−i−n接合の領域の吸収率を、電極に電界を印加することによって変化させるよう構成される。
【0010】
第1態様並びに第3及び第4の任意実施態様に関して、第5の任意実施態様において、p−i−n接合はSiGe合金を含み、SiGe合金は25〜35ミクロンの範囲の長さ、及び5〜7ミクロンの範囲の幅を有する。
【0011】
第1態様及び第5の任意実施態様に関して、第6の任意実施態様において、SiGe合金は29ミクロンの長さ、及び6.5ミクロンの幅である。
【0012】
第1態様及び第1の任意実施態様に関して、第7の任意実施態様において、可調整部は熱光学材料を含み、コントローラは、熱光学材料の屈折率、磁気伝導率、及び/又は光透過率を、熱光学材料に温度場を印加することによって変化させるよう構成される、又は可調整部は磁気光学材料を含み、コントローラは、磁気光学材料の屈折率、磁気伝導率、及び/又は光透過率を、磁気光学材料に磁場を印加することによって変化させるよう構成される。
【0013】
第1態様及び第2の任意実施態様に関して、第8の任意実施態様において、可調整部は熱光学材料を含み、コントローラは、熱光学材料の吸収率を、熱光学材料に温度場を印加することによって変化させるよう構成される、又は、可調整部は磁気光学材料を含み、コントローラは、磁気光学材料の吸収率を、磁気光学材料に磁場を印加することによって変化させるよう構成される。
【0014】
第1態様及び先述の可能な複数の実施態様に関して、第9の任意実施態様において、偏光子が少なくとも2つのMMI多モード導波路を含むとき、偏光子は少なくとも2つのサブ偏光子を含み、複数のサブ偏光子のそれぞれは、1つのMMI多モード導波路と、1つの入力導波路と、1つの出力導波路とを含み、少なくとも2つのサブ偏光子は縦続接続される。
【0015】
第2態様に従って、本発明の複数の実施態様の何れか1つの偏光子を含む偏光変調システムが提供され、エンコーダと、偏光ビームスプリッタと、微分器と、光電検出器とを更に含み、エンコーダと、偏光子と、偏光ビームスプリッタと、微分器と、光電検出器とは連続的に接続される。
【0016】
本発明に従った偏光子及び偏光変調システムの技術効果は次の通りである。MMI多モード導波路に可調整部を配置することによって、及び可調整部の材料特性を変化させるためのコントローラを用いることによって、出力導波路が複数の異なる偏光状態の複数の光信号を出力する。それにより、同一の偏光子が複数の異なる偏光状態の複数の光信号を出力し得ることを提供する。例えば、偏光子はTE偏光状態の光信号を出力し得るだけでなく、TM偏光状態の光信号も出力し得る。 従来技術と比較して、調整可能な偏光が提供される。さらに、本発明による偏光子では、1つのMMI多モード導波路のみが、入力導波路と出力導波路との間に配置されればよく、構造が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明による偏光子の一実施形態の概略構造図である。
【0018】
【
図2】本発明による偏光子の別の実施形態の概略構造図である。
【0019】
【
図3】本発明による偏光子の更に別の実施形態の概略構造図である。
【0020】
【0021】
【0022】
【
図6】本発明による偏光子の更に別の実施形態における、複数の光照射野のエミュレーション結果の概略
図1である。
【0023】
【
図7】本発明による偏光子の更に別の実施形態における、複数の光照射野のエミュレーション結果の概略
図2である。
【0024】
【
図8】本発明による偏光子の更に別の実施形態における、偏光消光比の概略図である。
【0025】
【
図9】本発明による偏光子の更に別の実施形態の概略構造図である。
【0026】
【0027】
【0028】
【
図12】本発明による偏光子の更に別の実施形態の概略構造図である。
【0029】
【0030】
【0031】
【
図15】本発明の一実施形態による偏光変調システムの概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の複数の実施形態に従って、偏光子構造を改善することにより、同一の偏光子が複数の異なる偏光状態の複数の光信号を出力し得ることを提供するように偏光子は設計される。
図1が参照され得る。
図1は、本発明による偏光子の一実施形態の概略構造図である。偏光子の構造が、
図1を用いることによって概略的に簡潔に説明される。
【0033】
偏光子は、少なくとも1つの多モード干渉(Multi Mode Interference、略してMMI)多モード導波路を含む。導波路とは、マイクロ波帯又は光波帯の電磁波を送信し、無線通信分野、レーダ分野、及びナビゲーション分野などの無線分野に用いられる装置を指す。先述のMMI導波路は、幅の広い導波路デバイスであり、そのデバイス内で、複数の光波モードの伝搬光信号に干渉効果が起こり、それにより、複数の異なる終端位置において複数の光信号を出力する。
図1は、まず1つのMMI多モード導波路のみを含む構造を示す。各MMI多モード導波路11の一方の側は入力導波路12に接続され、入力導波路12は、任意の偏光状態の光信号を入力するよう構成される。MMI多モード導波路11の他方の側は出力導波路13に接続され、出力導波路13は光信号を出力するよう構成される。
【0034】
この実施形態において、MMI多モード導波路11の出力導波路13が位置する側の端部には、可調整部14が設けられる。さらに、可調整部14は、出力導波路13と接触し、且つそれと接続されていることが、接続部Aを参照することで、
図1から分かり得る。MMI多モード導波路11、入力導波路12、出力導波路13、及び可調整部14は、標準的な相補型金属酸化物半導体(Complementary Metal Oxide Semiconductor、略してCMOS)技術を用いることによって、半導体ウェーハ(例えばシリコン・オン・インシュレータ)上に用意され、平坦な導波路の同一層上に互いに密着している。偏光子は、可調整部14に接続されたコントローラ15を更に含む。
図1に示される矢印を参照すると、コントローラ15は、金属導線又はチップ上の金属ピンによって、可調整部14に接続される。コントローラ15は制御信号を可調整部14に適用し(本発明のこの実施形態において、コントローラ15と可調整部14との間の接続方式は、制御信号が適用され得る限り、限定されない)、可調整部14の材料特性を変化させるべく制御を実行し得る。これにより、出力導波路13は複数の異なる偏光状態の複数の光信号を出力する。
【0035】
具体的には、可調整部14の先述の材料特性は、例えば、可調整部の屈折率又は吸収率であってよく、つまり、屈折率又は吸収率の変化が、出力光信号の偏光状態を変化させ得る。特定の実装において、屈折率又は吸収率のほかに、可調整部の他の特性(磁気伝導率及び光透過率など)も、出力導波路による光信号出力の偏光状態が変化させられ得る限り、変化させられ得る。可調整部の一般的な材料は、シリコンの合金、III−V族化合物、高光非線形化合物などを含む。
【0036】
任意の一例は次の通りである。コントローラが制御信号を適用しないとき、出力導波路13はTE偏光状態の光信号を出力する。コントローラが可調整部14に制御信号を適用するとき、可調整部14の屈折率が変化させられ、これにより、出力導波路13はTM偏光状態の光信号を出力する。このように、偏光子の偏光調整機能が提供される。
【0037】
本発明のこの実施形態において、偏光子は少なくとも1つのMMI多モード導波路を含み得て、例えば、偏光子は2つ、3つ、4つ、又はさらに多くのMMI多モード導波路を含んでもよい。しかしながら、少なくとも2つのMMI多モード導波路が含まれるとき、従来技術と異なり、複数のMMI多モード導波路のそれぞれにおける可調整部はコントローラに接続されることが留意されるべきである。
【0038】
図2は、本発明による偏光子の別の実施形態の概略構造図である。
図2は、2つのMMI多モード導波路を含む任意の構造を示す。具体的には、この場合、偏光子は2つのサブ偏光子を含み得る。各サブ偏光子は、1つのMMI多モード導波路、1つの入力導波路、及び1つの出力導波路を含み、各サブ偏光子の構造は、
図1に示される構造と同一である。2つのサブ偏光子は縦続接続される。つまり、
図2を参照すると、右側のサブ偏光子の入力導波路は左側のサブ偏光子の出力導波路に接続される。この場合、左側のサブ偏光子からの出力である光信号が、右側のサブ偏光子への入力である光信号として用いられ得る。偏光子は、複数のサブ偏光子が縦続接続されるような構造を有するよう配置され、これにより、偏光子はより良好な偏光消光比効果を有し得る。
図2に示されるように、2つのMMI多モード導波路が中に別々に配置される複数のサブ偏光子は、コントローラを共有し得る。コントローラは第1制御信号を一方のサブ偏光子に適用し、第2制御信号を他方のサブ偏光子に適用し得る。第1制御信号及び第2制御信号は同一である。例えば、コントローラは第1制御信号を一方のサブ偏光子に適用し得て、これによりサブ偏光子はTE偏光状態の光信号を出力する。またコントローラは第1制御信号と同一の第2制御信号を他方のサブ偏光子に適用し、これによりサブ偏光子はTE偏光状態の光信号を出力し、より良好な偏光消光比を有する。複数のサブ偏光子の間の接続方式は周知の接続方式であってよく、それに関しては、この実施形態では詳細に説明されないことが理解されるべきである。
【0039】
本発明の複数の実施形態における偏光子に従って、MMI多モード導波路に可調整部を配置することによって、及び可調整部の、屈折率、吸収率、磁気伝導率、又は光透過率などの材料特性を変化させるためのコントローラを用いることによって、出力導波路が複数の異なる偏光状態の複数の光信号を出力する。それにより、同一の偏光子が複数の異なる偏光状態の複数の光信号を出力し得ることを提供する。例えば、偏光子はTE偏光状態の光信号を出力し得るだけでなく、TM偏光状態の光信号も出力し得る。従来技術と比較して、調整可能な偏光が提供される。さらに、本発明による偏光子では、1つのMMI多モード導波路のみが、入力導波路と出力導波路との間に配置されればよく、構造が簡単でコストが低い。
【0040】
偏光子の可調整部には、様々な設定材料又は設定方式がある。可調整部の選択可能な構造を以下にいくつか列挙し、これらの構造は、偏光子が1つのMMI多モード導波路のみを含む例を用いて全て説明される。しかしながら、特定の実装はそれに限定されないことが理解されるべきである。
[実施形態1]
【0041】
図3は本発明による偏光子の更に別の実施形態の概略構造図であり、
図4は
図3のA−A方向に沿った断面図であり、
図5は
図3のB−B方向に沿った断面図である。この実施形態の可調整部には電極が設けられ、コントローラは、電極に電界を印加することにより、可調整部の吸収率を変化させ得る。さらに、この実施形態において、可調整部は、半導体p−i−n接合の構造を有するように配置される。コントローラは、NI PXIプログラム可能電力モジュール、又はiC−NZPシリーズのチップなど、プログラム可能電流源であり得る。
【0042】
図3から
図5に関して、具体的には、入力導波路、出力導波路、及び多モード導波路(MMI多モード導波路)のそれぞれは、3ミクロン厚のシリコン層(つまり、結晶シリコンc−Si)であり、シリコン層の下に2ミクロン厚のSiO
2層及び数ミリメートル厚のシリコン基板がある。モード不整合によって引き起こされる挿入損失を減少させるべく、この実施形態において、入力導波路及び出力導波路はそれぞれ、長さ50ミクロン、高さ3ミクロン、幅1ミクロンの直線導波路と、長さ50ミクロン、高さ3ミクロン、幅が1〜1.5ミクロンに線形に増えるテーパ導波路とを含む。多モード導波路は、長さ602ミクロン、高さ3ミクロン、幅8ミクロンである。
【0043】
この実施形態の可調整部は長方形のSiGe合金であり、長さが25〜35ミクロンの範囲、幅が5〜7ミクロンの範囲である。オプションで、SiGe合金は、長さ29ミクロン、幅6.5ミクロンである。もちろん、本明細書の例としてSiGe合金が用いられるが、特定の実装において、電界吸収効果を有する別の半導体材料も用いられ得る。さらに、25〜35ミクロンの長さ、5〜7ミクロンの幅は、例えば、長さが19〜30ミクロン、幅が4.5〜7ミクロンに変化させられ得るが、先述の29ミクロンの長さ、6.5ミクロンの幅の場合において、偏光子はより良好な消光比効果を実現し得る。この実施形態において、電極はp−i−n接合の最上層にある。具体的には、可調整部は、Al/Cu電極、n+Si層、SiGe合金、及びp+Si層を上から下へ連続的に含み、それによりp−i−n接合を形成する。
【0044】
先述の半導体材料SiGe合金の吸収率は、外部電界が変化するにつれて変化し得る。コントローラがAl/Cu電極に外部電界を印加するとき、吸収係数、つまり入力光に対するSiGe合金の吸収率は、外部電界が変化するにつれて変化する。それにより、多モード導波路において複数の異なる偏光状態の複数の光信号の伝播経路を変化させ、出力光信号の偏光状態に対する選択機能を提供する。
【0045】
図6は、本発明による偏光子の更に別の実施形態における、複数の光照射野のエミュレーション結果の概略
図1である。
図6は、コントローラが外部電界を印加しないときに、TE偏光状態及びTM偏光状態の1550nmの光信号が通過するMMI型偏光子の、3D−BPM法による複数の光照射野のエミュレーション結果を示す。 出力導波路の出力ポートの前でTEモードは反射されるので、TEモードは出力導波路を外れ、カバレッジ層にリークし、またTMモードのセルフイメージポイントが出力導波路の出力ポートにちょうど位置するので、TMモードは出力導波路から出力されることが
図6から分かり得る。この場合、偏光子はTMモード偏光子として用いられ、12dBの偏光消光比を有する。
【0046】
図7は、本発明による偏光子の更に別の実施形態における、複数の光照射野のエミュレーション結果の概略
図2である。
図7は、コントローラが外部電界を印加するときに、TE偏光状態及びTM偏光状態の1550nmの光信号が通過するMMI型偏光子の、3D−BPM法による複数の光照射野のエミュレーション結果を示す。外部電界の下でSiGe合金が高い吸収特性を持つために、反射TEモードの光エネルギーの一部が吸収され、残りのエネルギーが出力ポートから出力され、またTMモードは伝送中にSiGe合金によってほぼ完全に吸収されるので、出力導波路から出力されることはないことが
図7から分かり得る。この場合、偏光子はTEモード偏光子として用いられ、7dBの偏光消光比を有する。
【0047】
図8は、本発明による偏光子の更に別の実施形態における、偏光消光比の概略図であり、外部電界が通信帯域に印可される状態と、外部電界が通信帯域に印可されない状態との2つの状態における、偏光消光比を示す。TMモードの偏光消光比は約11dBであり、TEモードの偏光消光比は約7dBであることが、
図8から分かり得る。
[実施形態2]
【0048】
図9は本発明による偏光子の更に別の実施形態の概略構造図であり、
図10は
図9のC−C方向に沿った断面図であり、
図11は
図9のD−D方向に沿った断面図である。MMI多モード導波路の可調整部において、実施形態1の可変吸収率を有する半導体材料が、外部電界の下で屈折率が可変である材料に置換されているという点で、この実施形態の偏光子は、実施形態1の偏光子と異なり、これにより、可調整部は、電極に電界を印加することにより、コントローラによって屈折率が変化させられ得る領域になる。更に、この実施形態における入力導波路及び出力導波路のそれぞれは、直線導波路、曲がり導波路、ストライプ導波路、リッジ導波路、テーパ導波路、スロット導波路、又は同様のものであってよい。
図9に示される入力導波路及び出力導波路は、直線導波路の構造である。
【0049】
図9から
図11に関して、具体的には、この実施形態における偏光子の可調整部も、p−i−n接合の構造を有するように設計されてよく、もちろん、p−i−n接合ではなく別の構造を有するように設計されてもよい。入力導波路、出力導波路、及び多モード導波路(MMI多モード導波路)は、結晶シリコン(c−Si)であり、シリコン層の下にはやはりSiO
2層及び数ミリメートル厚のシリコン基板がある。この実施形態において、電極は最上層にある。電極の下には、外部電界が変化するにつれて屈折率が変化し得るSi又はIII−V族化合物などの半導体材料がある。これらの材料は屈折率可変領域を形成し得て、コントローラはこの領域の屈折率を、変化する外部電界を印加することによって変化させ得る。オプションで、電極より下の屈折率可変領域は、n+Si層、半導体材料(外部電界の下で屈折率が可変の材料)、及びp+Si層を含み得る。
【0050】
この実施形態の偏光子に従って、屈折率可変領域の半導体材料の屈折率は、外部電界が変化するにつれて変化し得る。コントローラが電極に外部電界を印加するとき、屈折係数、つまり入力光に対する半導体材料の屈折率は、外部電界が変化するにつれて変化する。それにより、多モード導波路において複数の異なる偏光状態の複数の光信号の伝播経路を変化させ、出力光信号の偏光状態に対する選択機能を提供する。
【0051】
更に、この実施形態のMMI多モード導波路、入力導波路、及び出力導波路は、半導体、ポリマ、SiO
2、又は窒化物などの材料を用いて作成され得る。この実施形態において、半導体材料の長さ及び幅など、可調整部の寸法は、用いられる材料に従って明確に設定され得るが、本発明のこの実施形態において限定されるものではない。
[実施形態3]
【0052】
実施形態1及び実施形態2において、コントローラは、可調整部の吸収率又は屈折率を、電界を印加することによって変化させる。この実施形態では、MMI多モード導波路の可調整部は、熱光学材料(ポリマなど)又は磁気光学材料(イットリウム鉄ガーネットなど)を含み得る。この場合、コントローラは、熱光学材料又は磁気光学材料の屈折率、熱光学材料又は磁気光学材料の吸収率、熱光学材料又は磁気光学材料の磁気伝導率、あるいは、熱光学材料又は磁気光学材料の光透過率を、熱光学材料に温度場を印加することによって、又は磁気光学材料に磁場を印加することによって変化させ得る。
【0053】
図12は本発明による偏光子の更に別の実施形態の概略構造図であり、
図13は
図12のE−E方向に沿った断面図であり、
図14は
図12のF−F方向に沿った断面図である。MMI多モード導波路に可調整部において、実施形態2では電界の下で屈折率が可変である半導体材料が、外部温度場の下で屈折率が可変である熱光学材料に置換され、実施形態2の一般的な電極がサーモードに置換されているという点で、この実施形態の偏光子は、実施形態2の偏光子と異なり、これにより、可調整部は、サーモードの温度を制御することにより、コントローラによって屈折率が変化させられ得る領域になる。
【0054】
更に、この実施形態のサーモードも一対の磁極に置換され得て、またこの実施形態の熱光学材料も磁気光学材料に置換され得る。これにより、可調整部は、複数の磁極の磁場を制御することにより、コントローラによって屈折率が変化させられ得る領域になる。
[実施形態4]
【0055】
先述の本発明の複数の実施形態による偏光子に基づいて、この実施形態は偏光変調システムを提供する。
図15は、本発明による偏光変調システムの実施形態の概略構造図である。
図15に示されるように、システムは、連続的に接続される偏光子1501、偏光ビームスプリッタ1502、微分器1503、光電検出器1504、エンコーダ1505を含み得て、偏光子1501は本発明の任意の実施形態による偏光子であり得る。
【0056】
この実施形態の偏光ビームスプリッタ1502、微分器1503、光電検出器1504、及びエンコーダ1505に対して、様々な既存のデバイスが参照され得るが、それに関しては、この実施形態では詳細に説明されていない。更に、エンコーダ1505、偏光子1501、偏光ビームスプリッタ1502、微分器1503、及び光電検出器1504は連続的に接続され、その接続方式は本明細書で限定されるものではない。
【0057】
具体的には、偏光変調システムの信号の流れ方向について、
図15が参照され得る。偏光子の入力ポートから偏光子に45°の直線偏光が入射するとき、エンコーダ1505は予め設定された符号化信号をコントローラに印加し、コントローラは制御信号を印加する。これにより、偏光子の出力ポートは異なる偏光状態の2つのチャネルの相補信号を出力する、つまり、TEモードは101010…、TMモードは010101…である(実際には、
図15の偏光子及びコントローラを含む全体が偏光子であり、この実施形態では説明を容易にするやり方で
図15の複数の構成要素が示され、
図15において偏光子を示すブロックは、実際にはMMI多モード導波路、入力導波路、及び出力導波路を含む)。次に、偏光ビームスプリッタ1502を通過した後に複数の信号が2つのチャネルに入力され、202020…の光強度を持つ差動信号が微分器1503で生成され、最後に光電検出器1504によって検出される。
【0058】
この実施形態の偏光変調システムに従って、同一チャネルのデータが、異なる偏光状態の2つのチャネルの光信号によって送信され、最後に伝送システム全体の信号対雑音比が、微分器を用いることによって改善される。従って、PMDの許容範囲内で、3dBの光信号対雑音比(Optical Signal Noise Ratio、略してOSNR)が改善され得る。
【0059】
方法の複数の実施形態の複数の段階の全て又は一部が、関連ハードウェアに命令するプログラムによって実装され得ることを、当業者は理解し得る。プログラムはコンピュータ可読記憶媒体に格納され得る。プログラムが動作するとき、方法の複数の実施形態の複数の段階が実行される。先述の記憶媒体は、ROM、RAM、磁気ディスク、又は光ディスクなど、プログラムコードを格納し得る任意の媒体を含む。
【0060】
最後に、先述の複数の実施形態は、本発明の複数の技術的解決手段を単に説明することを目的とするにすぎず、本発明を制限することを目的とするのではないことが留意されるべきである。本発明は、先述の複数の実施形態を参照して詳細に説明されるが、当業者であれば、本発明の複数の実施形態の複数の技術的解決手段の範囲から逸脱することなく、先述の複数の実施形態において説明された複数の技術的解決手段をさらに変更可能であり、又は、それらの一部又は全ての技術的特徴に均等な置換をなし得ることを理解すべきである。