(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)問題点についての分析
ドップラ処理とスタガ処理の2つの処理を一つのレーダ装置に適用しようとすると、他船の自船に対する相対速度が速くなるにつれてドップラ処理における信号対クラッタ比(S/C)の向上や信号対雑音比(S/N)の向上が、スタガ処理の悪影響によって見込めなくなる。このようなドップラ処理におけるスタガ処理の影響を
図6及び
図7を用いて説明する。
【0015】
図6では、横軸にスイープ番号をとり、縦軸にデータの位相をとって、物標に関するデータの位相がスイープ毎に変化する様子が示されている。横軸は時間軸でもあって、スイープ番号が大きくなるほど時間が経過することが示されている。
図6に丸印で示されているように、スイープ間隔が一定でかつ、物標が一定の速度で移動していれば、各スイープ間の位相変化量θsも一定になる。従って、一定の位相回転を行えば、例えば
図6において二重丸で示されているように、スイープkで0度、スイープk+1でθs度、スイープk+2で2θs度、スイープk+3で3θs度のような位相回転を行えば、この物標の持つ速度に対しては全スイープの位相を同じにすることができる。そのため、これらの位相回転が行われたデータが加算されると利得が最大になる。
【0016】
しかし、スタガ処理がされたデータを用いてドップラ処理が行われると、
図7の丸印で示されているように、物標が一定の速度で移動しているにも係わらす、各スイープの位相変化量が一定にならない。
図7において、スイープ番号k´,k´+1,k´+2,k´+3のデータがスタガ処理の加わっているデータであり、スイープ番号k,k+1,k+2,k+3のスイープは一定間隔で行われるものである。
図7(a)と
図7(b)は、物標の速度が異なる場合を示しており、
図7(a)の物標よりも
図7(b)に示されている物標の方が高速で移動している。また、
図7において、点線は、送信間隔が均一な場合のスイープ間隔毎に引かれており、この例では、
図6におけるスイープ番号k,k+1,k+2,k+3の各スイープに一致する位置に引かれている。
【0017】
例えば、
図7において、スイープ番号k,k+1の間のサンプリング間隔とスイープ番号k´,k´+1の間のサンプリング間隔とを比較すると、スイープ番号k´,k´+1の間のサンプリング間隔の方がT1時間だけ短くなる。そのため、送信間隔が均一な場合のスイープ間隔に相当するスイープ番号k,k+1の間のサンプリング間隔に応じて位相θsだけ回転すると、スイープ番号k´,k´+1の間のサンプリング間隔の場合には位相φs1だけ余分に回転することになる。
【0018】
逆に、スイープ番号k,k+2の間のサンプリング間隔とスイープ番号k´,k´+2の間のサンプリング間隔とを比較すると、スイープ番号k´,k+2´の間のサンプリング間隔の方がT2時間だけ長くなる。そのため、スイープ間隔が均一な場合のスイープ間隔に相当するスイープ番号k,k+2の間のサンプリング間隔に応じて位相2θsだけ回転すると、スイープ番号k´,k´+2の間のサンプリング間隔の場合には位相φs2だけ回転が不足することになる。
【0019】
このように、スタガ処理されたスイープ番号k´,k´+1,k´+2,k´+3のサンプリングデータに対して一定量の位相回転を行うと、この物標の持つ速度に対しては全スイープの位相を同じにすることができず、位相誤差(φs1,φs2,φs3)が生じることになる。そのため、これらの位相回転が行われたデータが加算されても、最大の利得を得ることができない。
【0020】
そして、このスタガ処理されたスイープ番号k´,k´+1,k´+2,k´+3のサンプリングデータにおいて生じる位相誤差は、物標の速度が速いほど大きくなる傾向がある。
図7(a)と
図7(b)を比べると、物標の速度が速い
図7(b)の回転する位相θfの方が
図7(a)の回転する位相θsに比べて大きくなる。そして、
図7(b)の位相誤差(φf1,φf2,φf3)の方が
図7(a)の位相誤差(φs1,φs2,φs2)よりも大きくなる。
【0021】
このような位相誤差(φf1,φf2,φf3)や(φs1,φs2,φs3)を含む状態でドップラ処理を行うと、信号対クラッタ比(S/C)の向上や信号対雑音比(S/N)の向上が妨げられる。
【0022】
スタガトリガ方式を採用したレーダ装置などのドップラ処理装置において、パルス信号の送受信がスイープ間で不等間隔になることに起因してドップラ処理で生じるS/CやS/Nの向上が妨げられることを回避するための技術に関する説明は、以下の実施形態で詳述する。
【0023】
(2)レーダ装置の構成
以下、本発明の一実施形態に係るレーダ装置について図面を用いて説明する。
図1は、船舶用レーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すレーダ装置10は、例えば船舶などに設けられ、海上の他船やブイ、陸地などの物標を検出するための船舶用レーダ装置である。
図1に示されているように、このレーダ装置10は、レーダアンテナ20、送受切換器25、送受信装置30、信号処理装置40および表示装置50を備えている。
【0024】
以下、レーダ装置10を構成する各要素について詳細に説明する。ここでは、レーダ装置の一例として船舶用レーダ装置について説明するが、本発明は、パルス状電波(パルス信号)を送信した後に物標からの反射波(物標信号)を含む受信信号を受信するレーダ装置に適用することができ、例えば、港湾監視レーダ等の他の用途のレーダ装置にも適用することができる。このようなレーダ装置には、送信機に半導体増幅器を用いる固体化レーダ装置だけでなく、マグネトロンレーダ装置も含まれる。
【0025】
レーダ装置10では、信号処理装置40において、直交検波を行い、デジタル信号に変換してドップラ処理などによるクラッタの除去などの信号処理を行う。そして、信号処理された受信データが表示装置50に出力され、レーダ装置10の操作者は、物標からの反射波の振幅(物標信号)が表示装置50のレーダ映像上に表示される位置から、その物標の方位と距離を認識する。通常、レーダ映像は、レーダ装置10(レーダアンテナ20)の位置を中心に鳥瞰的に表示される。表示の原点は、レーダ装置10の位置に対応する。
【0026】
〔レーダアンテナ20及び送受切換器25の構成〕
このレーダ装置10において、レーダアンテナ20は、鋭い指向性を持ったパルス信号のビームを送信するとともに、その周囲にある物標からの反射波を受信する。ビーム幅は、例えば2度に設定される。レーダアンテナ20は、例えば船舶の船体の上方に設置され、水平面内で回転しながら、上記の送信と受信を繰り返す。回転数は、例えば24rpmである。レーダアンテナ20が1回転する間に行う処理の単位を1スキャンという。また、パルス信号を送信してから次のパルス信号を送信する直前までの期間における送信と受信の動作をスイープという。1スイープの時間、すなわち平均送信周期(平均送信間隔)は、例えば1msである。そして、1スイープ当たりの受信データ数をサンプル点数という。
【0027】
レーダアンテナ20では、パルス信号を、ある方向へ集中して発射することで、物標からの反射波(物標信号)を含む受信信号を受信する。受信信号は、物標信号成分のほか、クラッタや他のレーダ装置からの電波干渉波や受信機雑音などの成分を含む場合もある。
【0028】
レーダアンテナ20から物標までの距離は、その物標信号を含む受信信号の受信時間と、当該受信信号に対応するパルス信号の送信時間との時間差から求められる。物標の方位は、対応するパルス信号を送信するときのレーダアンテナ20の方位から求められる。また、物標の速度は、受信したパルス信号の位相を用いて求められる。
【0029】
送受切換器25は、レーダアンテナ20と接続可能な構成となっている。送受切換器25は、レーダアンテナ20と送受信装置30との間の信号の切り換えを行う。すなわち、この送受切換器25では、送信時には、パルス信号が受信回路に回り込まないようにし、受信時には、受信信号が送信回路に回り込まないようにする。送受切換器25としては、例えば、サーキュレータ(Circulator)等の電子部品が用いられる。
【0030】
〔送受信装置30の構成〕
送受信装置30は、パルス信号を生成してレーダアンテナ20へ送出する。また、送受信装置30は、レーダアンテナ20から受信信号を取り込み、受信信号を周波数変換する。そのために、送受信装置30は、送信信号発生器、送信機、局部発振器、および周波数変換器などを備える。
【0031】
送信信号発生器は、異なる時間間隔で、中間周波数のパルス信号を生成して送信機へ出力する。中間周波数のパルス信号を異なる時間間隔で発生することにより、パルス信号の送信間隔が変化する(スタガトリガ方式)。送信信号発生器は、スタガトリガ方式によって設定された時間間隔でパルス信号を発生する。
【0032】
送信信号発生器が生成するパルス信号は、例えば、チャープ信号として知られている周波数変調信号とするが、送信信号発生器が位相変調信号や無変調のパルスを生成する場合にも、レーダ装置10は同様の構成をとることが可能である。なお、送信信号発生器によって生成されるパルス信号の送信間隔やパルス幅などは、表示装置50において設定されるレーダ映像の表示距離などに応じて変更される。
【0033】
送信機は、送信信号発生器の出力信号を局部発振器から出力されるローカル信号と混合し、送信信号発生器の出力信号を周波数変換して送受切換器25へ出力する。送信機の出力信号の周波数帯は、例えば、3GHz帯または9GHz帯などである。
【0034】
周波数変換器は、送受切換器25を介してレーダアンテナ20から出力される受信信号を取り込む。そして、周波数変換器は、受信信号を局部発振器から出力されるローカル信号と混合し、送受切換器25の出力信号を中間周波数に変換して後段の信号処理装置40へ出力する。
【0035】
〔信号処理装置40〕
信号処理装置40は、ADコンバータ(ADC)41と、検波処理部42と、位相算出部43と、自船速補正部44と、ドップラ処理部45とを備える。
【0036】
〔ADコンバータ41〕
ADコンバータ(ADC)41は、送受信装置30が出力した受信信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングして、デジタル信号に変換する。通常、1スキャンによって得られるレーダ受信信号は、方位と距離の情報を持っている。k番目のスイープで得られるレーダ受信信号は、1スキャンあたりのスイープ数をKとし、1番目のスイープを基準に取る(0degとする)と、(k/K)×360(deg)(0≦k≦K−1)の方位にある反射体から得られるものである。同一の方位から得られるデータには、同一の方位番号を対応させる。k番目のスイープで得られる受信データには方位番号kが与えられる。
【0037】
また、各スイープのn番目のサンプリングで得られる受信データは、1スイープあたりのサンプル点数をNとし、レンジ(レーダアンテナ20を原点とする最大表示距離)をLとすると、(n/N)×L(0≦n≦N−1)の距離にある反射体から得られるデータである。このようなn番目のサンプリングで得られる受信データには距離番号nが与えられるものとする。
【0038】
〔検波処理部42〕
検波処理部42は、直交検波を行って、レーダ受信信号から、I(In-Phase)信号およびこれとπ/2だけ位相の異なるQ(Quadrature)信号を生成する。ここで、I信号,Q信号はそれぞれレーダ受信信号の複素エンベロープ信号の実数部,虚数部である。直交検波は、ADコンバータ41の前で行われても後で行われてもよいが、その場合にはアナログ信号で直交検波が行われる。
【0039】
〔位相算出部43〕
位相算出部43は、大地を基準とした自船の速度である対地船速V
G,北を基準として自船の船首が向いている方位である船首方位θ
HD,北を基準として自船が進んでいる方向である進行方位θ
CS,船首方位θ
HDを基準としてレーダアンテナ20のメインローブが向いている方位であるアンテナ方位角θ
ANT,パルス信号が繰り返し送信される送信間隔PRI、及びパルス信号の周波数λを取得する。
【0040】
対地船速V
G、船首方位θ
HD及び進行方位θ
CSは、例えば、GPS(Global Positioning System)やジャイロやサテライトコンパスなどの船舶に搭載されている測定装置により、測定される。位相算出部43は、これらGPSなどに接続されており、GPSなどから入力されるデータから対地船速V
G、船首方位θ
HD及び進行方向θ
CSに関するデータを取得する。
【0041】
アンテナ方位角θ
ANTは、この実施形態では、レーダアンテナ20の向いている方位に対応する。通常は、レーダアンテナ20を回転させるステッピングモータのパルス数や角度検知装置の出力信号がレーダアンテナ20から信号処理装置40に対して出力されるので、位相算出部43は、これらの情報からアンテナ方位角θ
ANTを検知する。
【0042】
送信間隔PRI及び波長λは、送受信装置30から信号処理装置40に対して出力されるデータに含まれている。
【0043】
図2は、アンテナ方位の自船の速度成分V
ANTとアンテナ方位角θ
ANT,対地船速V
G、船首方位θ
HD及び進行方位θ
CSとの関係を示す概念図である。
図2に示されている相対角φは、自船100の進行方位とアンテナ方位とがなす角であり、次式で与えられる。
φ=θ
ANT+θ
HD−θ
CS
【0044】
この相対角φを用いて、アンテナ方位の速度成分V
ANTは、次式で与えられる。
V
ANT=V
G・cos(φ)
【0045】
そして、上述のスタガ処理によって送信間隔が変更されているスイープのスイープ番号k´についての位相補正値θ
k´は、基準時刻からの位相であるため、次の(1)式で与えられる。
【数1】
【0046】
ここで、t
k´はスイープ毎の基準値からの時間(スイープ番号)である。
【0047】
位相補正値θ
k´
+1を前回のスイープを参照する場合には、前回のスイープから今回のスイープまでの時間から算出される位相を加算して求めることができる。この場合には、次の(2)式を使って位相補正値θ
k´が与えられる。
【数2】
【0048】
〔自船速補正部44〕
自船速補正部44には、検波処理部42からは複素受信信号I,Qが入力され、位相算出部43からは位相回転子exp(θ
k´)が入力される。自船速補正部44では、複素受信信号I,Qに位相回転子exp(θ
k´)を掛ける複素乗算が行われる。それにより、複素受信信号の位相を位相補正値θ
k´だけ回転させることができる。そして、複素受信信号I,Qに位相回転子exp(θ
k´)を掛けて得られる補正後の複素受信信号I´,Q´がドップラ処理部45に対して出力される。
【0049】
〔ドップラ処理部45〕
ドップラ処理部45は、自船速補正部44の出力I´,Q´を受けて、ドップラ処理及びそれに付属する処理を行う。そのため、ドップラ処理部45は、
図3に示されているように、スイープバッファ61とドップラフィルタバンク62と複数の対数検波器63と複数のCFAR処理器64と合成部65とを備えている。スイープバッファ61は、自船速補正部44から出力される複素受信信号I´,Q´を記憶するメモリであり、複数回のスイープの受信データを記憶する。
【0050】
ドップラフィルタバンク62は、通過域の中心周波数が互いに異なる複数のバンドパスフィルタが並列に接続されて構成されているフィルタアレイである。この中心周波数がドップラシフト周波数である。
【0051】
ドップラフィルタバンク62の各フィルタの出力を対数検波する複数の対数検波器63がドップラフィルタバンク62の後段にそれぞれ接続されている。そして、各対数検波器63に一つずつCFAR処理器64が接続されている。各CFAR処理器64は、接続されている対数検波器63の出力信号に対して距離方向にCFAR処理を行う。
【0052】
合成部65は、処理の対象としている方位について、全CFAR処理器64の出力信号について距離毎に合成する。ここでは、合成部65は、max処理によって全CFAR処理器64の出力信号の合成を行っている。それにより、処理対象方位の合成部65の出力信号の振幅値は、各距離において、全CFAR処理器64の中の最大の振幅値に一致する。max処理は、例えば複数の出力の中から最大の出力を選択する最大値選択器を用いて行なうことができる。
【0053】
(3)レーダ装置の動作
レーダ装置10における位相補正に関する動作を中心に、
図4に示されているフローチャートに沿ってレーダ装置10の動作を説明する。
【0054】
送受信装置30は、スタガトリガ方式に従い、パルス信号の送信間隔をスイープ毎に変化させながら、レーダアンテナ20による送受信を行う(ステップS1)。レーダアンテナ20は、回転しており、スイープ毎にk/K×360degずつ方位を変更しながらこれらパルス信号の送受信を行う。
【0055】
レーダアンテナ20でのパルス信号の送受信に伴い、送受信装置30から信号処理装置40に対してレーダ受信信号が出力される。信号処理装置40では、ADC41でデジタル化された受信データを用いて、検波処理部42で直交検波が行われ、複素受信信号I,Qが検波処理部42から自船速補正部44に対して出力される(ステップS2)。
【0056】
位相算出部43では、レーダアンテナ20の対地船速V
G,船首方位θ
HD,進行方向V
CS,アンテナ方位角θ
ANT,送信間隔PRI及び波長λの情報に基づいて自船速度に係わる位相補正値θ
k´が算出される。自船速補正部44では、位相算出部43から与えられる位相回転子を複素受信信号I,Qに掛けて、自船速度に係わる位相補正を行い、補正された複素受信信号I´,Q´を出力する(ステップS3)。
【0057】
ドップラ処理部45では、自船速補正部44の出力する位相補正後の複素受信信号I´,Q´を用いてドップラ処理が行われる(ステップS4)。ドップラ処理において、位相補正後の複素受信信号I´,Q´を用いることにより、スタガトリガ方式でパルス間隔が変更される場合におけるS/CやS/Nの劣化を緩和することができる。この効果については、後ほど詳しく説明する。
【0058】
<特徴>
(1)信号処理装置40(ドップラ処理装置)は、スタガトリガ方式を採用するレーダ装置10に設けられている。このレーダ装置10では、レーダアンテナ20において、不等間隔で繰り返し送信されるパルス信号を受信する。
【0059】
そして、信号処理装置40では、レーダアンテナ20でのパルス信号の受信により、信号処理装置40で得られる複素受信信号I,Qにおいて自船速度(レーダアンテナの移動速度)に起因して生じる位相補正値θ
k´(位相変化量)を位相算出部43で算出する。
【0060】
自船速補正部44(位相補正部)では、位相算出部43で算出される位相補正値θ
k´を複素受信信号に掛け(複素受信信号について位相変化量に基づく補正を行い)、補正された複素受信信号I´,Q´を出力する(ステップS3)。ドップラ処理部45では、自船速補正部44から出力される補正された複素受信信号I´,Q´を用いてドップラ処理を行う(ステップS4)。
【0061】
スタガトリガ方式の採用により不等間隔でパルス信号の送受信が繰り返される場合であっても、位相算出部43で算出される位相変化量に基づいて自船速補正部44(ステップS3)で複素受信信号I,Qの位相の補正を行なうことで、自船速度に起因する位相変化量に関連して生じる位相誤差を取り除くことができる。
【0062】
この効果について、
図5を用いて詳しく説明する。他船の自船に対する相対速度は、自船の対地速度(自船速度ともいう)と他船の対地速度(他船速度ともいう)との和で与えられる。
図5において、最も傾きが大きな直線が、自船速度と他船速度との和に対応する。ここでは、説明を簡単にするために、自船速度と他船速度との和が一定であり、かつ自船速度も他船速度も一定であるものとする。
【0063】
スイープ番号k´,k´+1,k´+2,k´+3の自船速度と他船速度の和による位相変化が白丸で示されている。
図5において、点線は、送信間隔が均一な場合のスイープ間隔毎に引かれており、この例では、
図6におけるスイープ番号k,k+1,k+2,k+3の各スイープに一致する位置に引かれている。
【0064】
相対速度の場合には、例えばスイープ番号k´+1のスイープでは、自船の対地速度による位相変化量θoと他船の対地速度による位相変化量θtを合わせた位相変化量θo+θtに対しての処理が必要であったため、それに伴って位相誤差φf1も大きくならざるを得なかった。それに対して、他船の対地速度(他船速度)だけになると、スイープ番号k´+1のスイープでは、他船の対地速度による位相変化量θtのみになるため位相変化量θtが小さくなり、それに伴って位相誤差φ1も小さくなる。それにより、スタガトリガ方式を採用したレーダ装置10におけるドップラ処理において、パルス信号の送受信がスイープ間で不等間隔になることに起因してS/CやS/Nの向上が劣化するのを緩和することができる。
【0065】
ところで、自船と他船の進行方向が同じ場合には、自船速度を差し引くと、上述の説明とは逆に相対速度の絶対値が大きくなる場合がある。しかし、通常は、他船と自船の進行方向が異なる場合の相対速度の方が同一方向に進む場合の相対速度よりも大きいことから、自船速度を差し引いて相対速度の絶対値が少し大きくなって位相誤差が少し大きくなることよりも、自船の速度を差し引くことによって位相誤差が小さくなる効果の方が大きいため、全体として見るとスタガ処理に起因する位相誤差の最大値を確実に小さくすることができ、自船速度を差し引くことによりS/CやS/Nの向上の劣化を緩和することができる。
【0066】
(2)アンテナの移動速度として自船速度を用いる場合には、従来から自船速度を計測する機器をそのまま使用することができ、システムの構成を簡素化することができる。
【0067】
(3)アンテナの移動速度についてアンテナ方位角θ
ANTの速度成分を用いると、アンテナがレーダアンテナ20のように回転するようなものに対しても発明を適用できるようになり、適用可能な用途が広がる。
【0068】
<変形例1>
図1のレーダ装置10では、ドップラ処理されたデータが、表示装置50に送信されて画像表示が行われるような画像処理に用いられる場合について説明した。しかし、ドップラ処理されたデータは、他の速度に関連する処理に用いられてもよく、画像処理に用いる場合だけには限られない。
【0069】
<変形例2>
上記実施形態のレーダ装置10では、レーダアンテナ20が水平面内で回転している場合について説明した。しかし、アンテナは回転するものだけに限られるものではなく、静止しているものであってもよい。その場合には、アンテナの移動方向とアンテナ方位とが固定されるので、そのような場合には、アンテナ方位角として常に一定の値を用いてもよい。
【0070】
<変形例3>
上記実施形態のレーダ装置10は、船舶に搭載されている船舶用レーダ装置であったが、本願発明が適用されるレーダ装置は船舶用レーダ装置には限られず、自動車や航空機に搭載されるレーダ装置など他の用途のレーダ装置に適用することもできる。
【0071】
<変形例4>
上記実施形態では、ドップラ処理装置としての信号処理装置40について説明したが、ドップラ処理装置は、位相算出部43と自船速補正部44とドップラ処理部45に関する部分を備えていればよく、上記の信号処理装置40の構成には限られない。
【0072】
<変形例5>
上記実施形態では、信号処理装置40の機能ブロックが、記憶装置(ROM、RAM、ハードディスク等)に格納された上述した処理手順を実行可能なプログラムデータが、CPUによって解釈実行されることで実現される場合について説明した。このプログラムデータは、記録媒体を介して記憶装置内に導入されてもよいし、記録媒体上から直接実行されてもよい。なお、記録媒体は、ROMやRAMやフラッシュメモリ等の半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクメモリ、CD−ROMやDVDやBD等の光ディスクメモリ、及びメモリカード等をいう。また、記録媒体は、電話回線や搬送路等の通信媒体も含む概念である。
【0073】
また、上記実施形態の信号処理装置40を構成する全て又は一部の機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSI(集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、又はウルトラLSI等と称される)として実現される。これらは、個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全部を含むように1チップ化されてもよい。また、集積回路化の手法は、LSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。また、LSI製造後にプログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0074】
<変形例6>
上記実施形態では、自船速度や他船速度が一定の場合について説明したが、自船速度や他船速度が変化する場合についても、上記実施形態の構成によって上述の効果を奏することができる。
【0075】
<変形例7>
上記実施形態では、ドップラ処理装置及びレーダ装置が船舶に搭載されている場合について説明したが、ドップラ処理装置又はレーダ装置が搭載されるのは船舶には限られず、他の移動体であってもよい。他の移動体の例としては、自転車、自動二輪車、自動車、電車及び航空機などがある。