(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
<実施形態1>
(全体構成)
図1に、実施形態1に係るモータ制御装置1を示す。このモータ制御装置1は、複数のモータMの駆動を、1つのメインコントローラ2(コントローラ)によって制御する。具体的には、モータ制御装置1は、メインコントローラ2と、複数のモータ制御部3とを備える。本実施形態のモータ制御装置1は、例えば、蓄電装置B及びモータMを備えた建設機械(作業機械)に設けられる。すなわち、モータ制御装置1は、建設機械のエンジンの駆動や車体の旋回等に用いられるモータMの回転を制御する。
【0021】
なお、モータMは、特に限定されるものではないが、例えば、IPMモータであってもよい。また、蓄電装置Bは、例えばバッテリやキャパシタなどの蓄電可能な構成であればどのような構成であってもよい。さらに、モータ制御装置1は、モータを備えた構成であれば、建設機械以外の機械に適用してもよい。
【0022】
メインコントローラ2は、速度指令S
refに応じて各モータ制御部3に対するトルク指令Tn
ref(nはモータMの数)を生成する。具体的には、メインコントローラ2は、速度指令S
refに応じて各モータMに適したトルク指令Tn
refを生成する速度制御部11を有する。
【0023】
モータ制御部3は、各モータMに対応して設けられている。すなわち、モータ制御装置1によって制御されるモータMの数をnとすると、モータ制御装置1が有するモータ制御部3の数もnである。モータ制御部3は、CAN通信等が可能な通信手段によって、メインコントローラ2と通信可能に接続されている。
【0024】
モータ制御部3は、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
ref(駆動指令)に基づいてモータMの駆動を制御する。具体的には、モータ制御部3は、電流制御部21と、PWM信号生成部22と、主回路23と、回転検出部24と、速度検出部25とを有する。また、モータ制御部3は、
図2に示すように、モータMに供給される電流を検出する電流検出部26と、該電流検出部26によって検出された電流に基づいてq軸電流I
q及びd軸電流I
dを求める3相2相変換部27とを備える。
【0025】
以下で、
図1から
図3を用いて、モータ制御部3の構成及び機能について説明する。
【0026】
電流制御部21には、
図1及び
図2に示すように、上位コントローラ等からトルク指令Tn
refが入力される。電流制御部21は、入力されたトルク指令Tn
refに応じた電流指令I
qref,I
drefを生成して出力する。電流制御部21から出力された電流指令I
qref,I
drefは、PWM信号生成部22に入力される。
【0027】
電流制御部21は、
図3に示すように、速度ゼロ指令S0
refに基づいて代替トルク指令T0
refを生成する速度制御部31(減速制御部)と、上位コントローラ等からトルク指令Tn
refが入力される場合には該トルク指令Tn
refを選択し、トルク指令Tn
refが入力されない場合には代替トルク指令T0
refを選択するトルク指令選択部32(指令選択部)とを備える。
【0028】
電流制御部21の詳しい構成については後述する。
【0029】
図2に示すように、PWM信号生成部22は、電流制御部21から出力された電流指令I
qref,I
drefに応じてPWM制御信号S
pwmを生成する。具体的には、PWM信号生成部22は、PI制御部41A,41Bと、2相3相変換部42と、PWM制御部43とを備える。
【0030】
PI制御部41A、41Bは、PI制御方式でモータMの回転速度を制御するための電圧指令V
qref,V
drefを算出する。より詳細には、
図2に示すように、PI制御部41Aは、3相2相変換部27から出力される現在のq軸電流I
qとq軸電流指令I
qrefとの偏差、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいてトルク電圧指令V
qrefを算出する。PI制御部41Bは、3相2相変換部27から出力される現在のd軸電流I
dとd軸電流指令I
drefとの偏差、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて励磁電圧指令V
drefを算出する。PI制御部41Aは、トルク電圧指令V
qrefを2相3相変換部42に出力し、PI制御部41Bは、励磁電圧指令V
drefを2相3相変換部42に出力する。
【0031】
2相3相変換部42には、
図2に示すように、トルク電圧指令V
qref及び励磁電圧指令V
drefがPI制御部41A、41Bから入力され、モータMの回転角度θが3相2相変換部27から入力される。2相3相変換部42は、モータMの回転角度θに基づき、トルク電圧指令V
qref及び励磁電圧指令V
drefを3相の電圧指令V
uref、V
vref、V
wrefに変換する。
【0032】
PWM制御部43は、3相の電圧指令V
uref、V
vref、V
wrefに応じたPWM制御信号S
pwmを生成して主回路23に出力する。主回路23は、このPWM制御信号S
pwmに基づいて蓄電装置Bの直流電圧を交流電圧に変換し、モータMに3相の交流電流を供給する。
【0033】
回転検出部24は、
図2に示すように、モータMの回転を回転検出信号S
rとして速度検出部25及び3相2相変換部27に出力する。回転検出信号S
rは、本実施形態においてはモータMの回転角度θとする。しかしながら、回転検出信号S
rは、モータMの回転に関する信号であれば特に限定されず、例えば、回転数等を含むモータMの回転量、及びモータMに生じるトルク等を示す信号であってもよい。また、回転検出部24としては、レゾルバ、ロータリエンコーダ、及び磁気センサ等を採用してもよい。
【0034】
速度検出部25は、回転検出部24によって検出されたモータMの回転角度θを時間で微分することにより回転角速度ω(以下、単に回転速度ωという)を算出し、この回転速度ωを電流制御部21に出力する。電流制御部21において、回転速度ωは、代替トルク指令T0
refを生成する際に用いられる。
【0035】
電流検出部26は、
図2に示すように、モータMに流れるU相電流I
u、W相電流I
wを検出し、3相2相変換部27に出力する。V相電流I
vは、電流検出部26から出力されたU相電流I
u、W相電流I
wを用いて算出される。算出されたV相電流I
vも3相2相変換部27に入力される。
【0036】
3相2相変換部27には、
図2に示すように、U相電流I
u、W相電流I
w、V相電流I
v、及びモータMの回転角度θが入力される。3相2相変換部27は、モータMの回転角度θに基づき、U相電流I
u、W相電流I
w、及びV相電流I
vをq軸電流I
q及びd軸電流I
dに変換する。上述したように、q軸電流I
q及びd軸電流I
dは、それぞれ、PI制御部41A、41Bにおける各電圧指令の算出に用いられる。
【0037】
(電流制御部)
次に、電流制御部21の構成について、
図3を用いて詳しく説明する。
【0038】
電流制御部21には、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
refと、速度検出部25から出力される回転速度ωとが入力される。また、電流制御部21では、速度ゼロ指令S0
refが生成される。電流制御部21は、メインコントローラ2からトルク指令Tn
refが入力された場合、トルク指令Tn
refに応じてq軸電流指令I
qref及びd軸電流指令I
qrefを生成する。一方、電流制御部21は、メインコントローラ2からトルク指令Tn
refが入力されない場合、速度ゼロ指令S0
refに応じてq軸電流指令I
qref及びd軸電流指令I
qrefを生成する。
【0039】
具体的には、電流制御部21は、速度制御部31と、トルク指令選択部32と、通信異常検出部33と、トルククランプ部34(トルク制限部)と、減速停止要否判定部35と、電流指令生成部36とを備える。
【0040】
速度制御部31は、速度ゼロ指令S0
refに基づいて、代替トルク指令T0
refを生成する。具体的には、速度制御部31は、速度ゼロ指令生成部50と、ローパスフィルタ(LPF)51と、乗算器52,53と、積分要素54と、比例ゲイン出力部55と、積分ゲイン出力部56とを有する。
【0041】
速度ゼロ指令生成部50は、速度ゼロ指令S0
refを生成して、ローパスフィルタ51に出力する。なお、速度ゼロ指令S0
refは、モータ制御部3内で生成されれば、どこで信号生成されてもよい。また、速度ゼロ指令生成部50は、速度ゼロ指令S0
refを、常時、生成してもよいし、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合のみに生成してもよい。
【0042】
乗算器52は、速度ゼロ指令S0
refと速度検出部25から出力された回転速度ωとの差分に対して、比例ゲイン出力部55から出力される比例ゲインを乗算する。乗算器53は、速度ゼロ指令S0と回転速度ωとの差分に対して、積分ゲイン出力部56から出力される積分ゲインを乗算する。
【0043】
積分要素54は、乗算器53によって積分ゲインが乗算された信号を積分する。積分要素54で算出された信号は、乗算器53によって得られた信号と加算される。比例ゲイン出力部55及び積分ゲイン出力部56は、それぞれ、予め記憶されている比例ゲイン及び積分ゲインを出力する。なお、比例ゲイン出力部55及び積分ゲイン出力部56は、それぞれ、比例ゲイン及び積分ゲインを算出して出力してもよい。
【0044】
乗算器52によって算出された信号、及び、乗算器53によって算出された信号に積分要素54によって算出された信号が加算された信号は、互いに加算されて、代替トルク指令T0
refとして出力される。
【0045】
以上の構成により、速度制御部31は、速度ゼロ指令S0
refに応じて、モータMの回転速度がゼロになるようなトルク指令(代替トルク指令T0
ref)を生成する。
【0046】
トルク指令選択部32は、通信異常検出部33からの出力信号(通信異常信号)に応じて、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
ref、及び、速度制御部31から出力される代替トルク指令T0
refのうち一方を選択して出力する。すなわち、トルク指令選択部32には、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
refと速度制御部31から出力される代替トルク指令T0
refとが入力され、メインコントローラ2とモータ制御部3との通信に異常がない場合にはトルク指令Tn
refを選択して出力する。一方、トルク
指令選択部32は、通信異常検出部33によって、メインコントローラ2とモータ制御部3との通信に異常が検出されると、速度制御部31から出力される代替トルク指令T0
refを選択して出力する。
【0047】
通信異常検出部33は、メインコントローラ2とモータ制御部3との通信に異常を検出した場合に、通信異常信号をトルク指令選択部32に出力する。通信異常検出部33は、例えば、断線やその他の原因により、メインコントローラ2とモータ制御部3との通信が異常状態になった場合に通信異常信号を出力する。
【0048】
トルククランプ部34は、モータMの出力を制限するために、トルク指令選択部32から出力されたトルク指令を所定値以下に制限する。具体的には、トルククランプ部3
4は、例えば
図4に示すように、速度検出部25から出力されるモータMの回転速度に応じて実線または一点鎖線の範囲内のトルク値(所定値以下のトルク値)になるようにトルク指令を制限する。
【0049】
図4において、実線は、メインコントローラ2からトルク指令Tn
refが入力されず、速度制御部31から出力される代替トルク指令T0
refに応じてモータMを駆動させる制御(以下、減速停止制御という)を行う際のトルク制限値である。
図4において回転速度が正の象限は、モータMを力行運転する領域であり、
図4において回転速度が負の象限は、モータMを回生運転する領域である。
【0050】
なお、モータMの回生運転時における一部の回転速度領域では、減速停止制御時のトルク制限値は、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
refに応じてモータMを駆動させる制御(以下、通常制御という)を行う場合(
図4における一点鎖線)に比べて小さく設定される。これにより、減速停止制御時に、モータMを回生運転によって停止させる際のモータMの発熱を許容範囲内にすることができる。
【0051】
図3に示すように、トルククランプ部34には、減速停止要否判定部35から出力される信号が入力される。減速停止要否判定部35は、後述するように、メインコントローラ2との間で通信異常が生じた際にモータMが減速停止制御を行うべき対象機器であるかどうかを判定する。この減速停止要否判定部35によってモータMが減速停止を行うべき対象機器であると判定された場合には、減速停止要否判定部35からトルククランプ部3
4に減速停止判定信号が出力される。トルククランプ部3
4は、減速停止判定信号が出力されると、
図4に示すように、モータMの回生運転における一部の回転速度領域(
図4の例では回転速度が高い領域)で、トルク制限値を通常制御時のトルク制限値(
図4の一点鎖線)よりも小さく設定する(
図4の実線)。
【0052】
減速停止要否判定部35は、メインコントローラ2との間で通信異常が生じた際にモータMが減速停止を行うべき対象機器であるかどうかを判定する。具体的には、減速停止要否判定部35は、メインコントローラ2との間で通信異常が生じた際に減速停止を行う必要があるモータMかどうかを、モータMの用途や仕様等によって判断する。各モータMに関するデータはモータ制御部3内の図示しないメモリ等に予め記憶されている。減速停止要否判定部35によって、モータMが減速停止を行うべき対象機器であると判定された場合には、トルククランプ部34に対して減速停止判定信号が出力される。なお、減速停止要否判定部35によって、モータMが減速停止を行うべき対象機器ではないと判定された場合には、モータ制御部3は、図示しないゲートを遮断する。これにより、モータMは摩擦等によって自然に停止するまで回転を続ける。
【0053】
電流指令生成部36は、トルククランプ部34によって制限されたトルク指令(以下、クランプ後トルク指令T1
refという)に基づいて、q軸電流指令I
qref及びd軸電流指令I
drefを生成する。具体的には、電流指令生成部36には、クランプ後トルク指令T1
ref及びモータMの回転速度ωが入力される。電流指令生成部36は、クランプ後トルク指令T1
ref及び回転速度ωに応じて、モータMをベクトル制御するためのq軸電流指令I
qref及びd軸電流指令I
drefを生成する。
【0054】
上述のように、電流制御部21は、メインコントローラ2からトルク指令Tn
refが入力されている場合にはトルク指令Tn
refを用いてモータMの駆動を制御する。一方、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合、電流制御部21は、モータMが減速停止制御の対象機器であれば、速度制御部31から出力される代替トルク指令T0
refを用いてモータMの速度がゼロになるようにモータMの駆動を制御する。これにより、モータMがフリーラン状態になるのを防止できる。よって、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合でも、モータMを安全且つ迅速に停止させることができる。
【0055】
(電流制御部の動作)
次に、以上のような構成を有する電流制御部21の減速停止制御について、
図5のフローを用いて説明する。
【0056】
図5に示すフローがスタートすると(START)、通信異常検出部33がメインコントローラ2との通信が正常に行われているかどうかを判定する(ステップ1)。
【0057】
通信異常検出部33によってメインコントローラ2との通信が正常に行われていると判定された場合(ステップS1においてYESの場合)には、電流制御部21は、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
refに基づいて、モータMを制御する(ステップS2)。具体的には、トルク指令選択部32では、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
refをトルククランプ部34に出力する。そして、トルククランプ部34は、トルク指令を
図4に実線及び一点鎖線で示す範囲内の値に制限した後、クランプ後トルク指令T1
refとして電流指令生成部36に出力する。電流指令生成部36では、入力されたクランプ後トルク指令T1
refに応じて、q軸電流指令I
qref及びd軸電流指令I
drefを生成して出力する。
【0058】
その後、このフローを終了する(END)。
【0059】
一方、通信異常検出部33によって、メインコントローラ2との通信が異常であると判定された場合(ステップS1においてNOの場合)には、減速停止要否判定部35によって、モータMが減速停止制御の対象機器(減速停止制御が必要な機器)かどうかを判定する(ステップS3)。
【0060】
減速停止要否判定部35によって、モータMが減速停止制御の対象機器であると判定された場合(ステップS3においてYESの場合)には、モータ制御部3による減速停止制御を行う(ステップS4)。
【0061】
具体的には、トルク指令選択部32は、通信異常検出部33から出力される通信異常信号に基づいて、速度制御部31から出力される代替トルク指令T0
refを選択し、トルククランプ部34に出力する。代替トルク指令T0
refは、モータMの回転速度をゼロにするためのトルク指令である。すなわち、代替トルク指令T0
refは、モータMに対して回生運転を行わせることにより、モータMを減速し停止させるトルク指令である。
【0062】
トルククランプ部34では、減速停止要否判定部35から出力される減速停止判定信号に応じて、回生運転の一部の回転速度領域におけるトルク制限値を通常制御時のトルク制限値よりも小さく設定する(
図4における一点鎖線から実線に変更)。トルククランプ部34は、代替トルク指令T0
refを
図4に実線で示す範囲内に制限して、クランプ後トルク指令T1
refとして電流指令生成部36に出力する。これにより、モータMを回生運転させる際のトルク指令を、モータMの発熱を抑えられるような範囲のトルク指令とすることができる。
【0063】
電流指令生成部36は、モータMの発熱を抑えつつ回転速度を低減するようなクランプ後トルク指令T1
refに応じてq軸電流指令I
qref及びd軸電流指令I
drefを生成し、出力する。
【0064】
一方、減速停止要否判定部35によって、モータMが減速停止の対象機器ではないと判定された場合(ステップS3においてNOの場合)には、モータ制御部3は、図示しないゲートを遮断して、モータMに対する電流の供給を停止する(ステップS5)。これにより、モータMは摩擦等によって徐々に回転速度が低下する。
【0065】
上述のようなモータ制御部3による減速停止制御(ステップS4)及びゲート遮断(ステップS5)を行った後、このフローを終了する(END)。
【0066】
図6は、本実施形態のモータ制御装置1において、通信異常検出部33によってメインコントローラ2とモータ制御部3との間で通信異常が検出された際のモータMに対する速度指令の変化を模式的に示す。この
図6に示すように、メインコントローラ2との通信の異常が検出されると、モータ制御部3は、速度指令がゼロになるように、代替トルク指令T0
refを生成する。これにより、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合にモータMを迅速且つ安全に停止させることができる。
【0067】
以上のように、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
refに応じてモータ制御部3によりモータMを駆動させるモータ制御装置1において、モータ制御部3は、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合に、モータMを減速して停止させるための速度制御部31を有する。これにより、メインコントローラ2からモータ制御部3に対してトルク指令Tn
refが入力されない場合でも、モータMを安全且つ迅速に減速及び停止させることができる。
【0068】
また、モータ制御部3は、メインコントローラ2との通信の異常の有無に応じて、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
ref、及び、速度制御部31から出力される代替トルク指令T0
refのうち一方を選択するトルク指令選択部32を有する。これにより、トルク指令Tn
refと代替トルク指令T0
refとの切換を容易に行うことができる。したがって、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合でも、より確実且つ迅速にモータMを減速及び停止させることができる。
【0069】
さらに、モータ制御部3は、モータMが減速停止制御を行う対象の機器であるかどうかを判定する減速停止要否判定部35を有する。減速停止要否判定部35によってモータMが減速停止制御の対象機器でないと判定された場合には、ゲートを遮断する。一方、減速停止要否判定部35によってモータMが減速停止制御の対象機器であると判定された場合には、モータ制御部3による減速停止制御が行われる。これにより、減速停止制御が必要な機器にモータ制御部3による減速停止制御を行うことができるとともに、減速停止制御が不要な機器にモータ制御部3による減速停止制御が行われるのを防止できる。
【0070】
また、減速停止要否判定部35によってモータMが減速停止制御の対象機器であると判定された場合には、トルククランプ部34によって、回生運転の少なくとも一部の回転速度領域で、通常制御時に比べてトルク制限値を小さくする。これにより、モータMに減速停止制御として回生運転を行う場合に、モータMの温度が上昇するのを防止できる。
【0071】
上述の構成を有するモータ制御装置1を建設機械に設けることにより、より高い効果が得られる。すなわち、モータMが建設機械の旋回等を行う構成の場合、メインコントローラ2とモータ制御部3との通信に異常が生じた場合でも、モータMをフリーラン状態にさせることなく、安全且つ迅速に減速して停止させることができる。
【0072】
(実施形態1の変形例)
図7に、実施形態1の変形例におけるモータ制御装置の速度指令の変化パターンを示す。この変形例のモータ制御装置の構成は、実施形態1のモータ制御装置1の構成と同様であり、モータ制御部3の速度制御部31の速度ゼロ指令生成部50において生成される速度指令のパターンのみが異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成には実施形態1と同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
この変形例では、
図7に示すように、メインコントローラ2との通信に異常が検出されると、速度ゼロ指令生成部50は、徐々にモータMの速度がゼロに近づくように、時間に応じて速度が線形に減少する速度指令を生成する。なお、
図7には、時間に対し線形に速度が減少する速度指令を例示しているが、この限りではなく、速度ゼロ指令生成部50は、時間に対して非線形で速度指令が減少するなど、
図7以外のパターンの速度指令を生成してもよい。
【0074】
これにより、メインコントローラ2との間で通信の異常が検出された際に、モータMの速度は徐々に低下する。したがって、モータMが急に減速及び停止するのを防止することができる。
【0075】
(実施形態2)
図8に、実施形態2に係るモータ制御装置の電流制御部101の概略構成を示す。この実施形態は、電流制御部101が速度制御部ではなくトルク指令減算部102(減速制御部)を有する点で、実施形態1の構成と異なる。以下では、実施形態1と同様の構成には実施形態1と同一の符号を付して説明を省略し、主に実施形態1と異なる構成について説明する。
【0076】
図8に示すように、電流制御部101は、トルク指令減算部102と、トルク指令選択部32と、通信異常検出部33と、トルククランプ部34と、減速停止要否判定部35と、電流指令生成部36とを備える。トルク指令選択部32、通信異常検出部33、トルククランプ部34、減速停止要否判定部35及び電流指令生成部36は、実施形態1と同様の構成なので、説明を省略する。
【0077】
トルク指令減算部102は、トルク指令選択部32から出力されたトルク指令に対し、1よりも小さい所定の係数(本実施形態では0.9)を乗じることにより、トルク指令選択部32に入力する代替トルク指令Ts
refを減少させる。具体的には、トルク指令減算部102は、係数出力部103と、乗算器104とを有する。係数出力部103は、1よりも小さい所定の係数が予め記憶されていて、乗算器104に対して出力する。なお、係数出力部103の係数は、0.9以外の値であってもよいし、一定値ではなく、変数であってもよい。
【0078】
乗算器104は、トルク指令選択部32から出力されたトルク指令に対し、係数出力部103から出力される係数を乗じる。これにより、トルク指令選択部32から出力されたトルク指令よりも小さいトルク指令が得られる。乗算器104によって得られたトルク指令は、代替トルク指令Ts
refとしてトルク指令選択部32に入力される。
【0079】
トルク指令選択部32は、メインコントローラ2との通信が正常に行われている場合には、メインコントローラ2から入力されるトルク指令Tn
refをトルククランプ部34に出力する。一方、トルク指令選択部32は、通信異常検出部33によってメインコントローラ2との間の通信の異常が検出された場合、トルク指令減算部102によって、異常の検出直前にトルク指令選択部32から出力されたトルク指令を用いて算出された代替トルク指令Ts
refを、トルククランプ部34に出力する。このとき、トルク指令減算部102では、トルク指令選択部32から出力されるトルク指令を減少させてトルク指令選択部32に再度入力するため、トルク指令部32から出力されるトルク指令は徐々に減少する。なお、トルク指令減算部102は、トルク指令選択部32から出力されるトルク指令が“0”の信号を出力しても、“0”信号の代替トルク指令を出力し続ける。
【0080】
本実施形態では、トルク指令減算部102によって、メインコントローラ2との通信に異常が生じる直前にトルク指令選択部32から出力されたトルク指令を用いて、モータMのトルク指令を算出することができる。これにより、メインコントローラ2からトルク指令Tn
refが入力されなくなった場合でも、モータ制御部によってモータMを駆動制御することができる。
【0081】
しかも、トルク指令減算部102によって、モータMに対するトルク指令を徐々に減少させることができるため、モータMを徐々に減速して、停止させることができる。
【0082】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0083】
前記各実施形態では、モータ制御装置1は、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
refに応じてモータMの駆動を制御する複数のモータ制御部3を備える。しかしながら、モータ制御部3は、メインコントローラ2に対して一つ設けられていてもよい。
【0084】
前記各実施形態では、トルク指令選択部32は、メインコントローラ2との間の通信の異常の有無に応じて、メインコントローラ2から出力されるトルク指令Tn
ref及びモータ制御部3内で生成される代替トルク指令T0
ref,Ts
refのいずれか一方を選択する。しかしながら、メインコントローラ2との通信に異常が生じた際に、モータ制御部によってモータMの減速停止制御が可能な構成であれば、モータ制御部はどのような構成であってもよい。
【0085】
前記各実施形態では、モータ制御部3は、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合、モータMが停止するまで減速停止制御を継続する。しかしながら、モータ制御部3は、モータMの回転速度が所定値以下になるまで減速停止制御を継続するように構成されていてもよい。すなわち、メインコントローラ2との通信に異常が生じた場合に、モータ制御部3は、モータMに対する速度指令をゼロではなく、所定値としてもよい。
【0086】
前記各実施形態では、モータ制御部3の減速停止制御のみによって、モータMの回転速度をゼロにする。しかしながら、モータMをできるだけ早く減速または停止させる必要がる場合には、図示しないメカニカルブレーキを併用してもよい。これにより、メカニカルブレーキ単体でモータMを減速または停止させる場合に比べて、より迅速にモータMを減速または停止させることができるとともに、メカニカルブレーキの負荷も軽減されて、メカニカルブレーキの長寿命化を図れる。
【0087】
前記各実施形態では、モータMは、例えばIPMモータであったが、これに限定されるものではなく、例えば、SPMモータや交流モータ等であってもよい。