(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
新世代のX線診断用検出器として、アクティブマトリクスを用いた平面形のX線検出器が開発されている。このX線検出器に照射されたX線を検出することにより、X線撮影像、あるいはリアルタイムのX線画像がデジタル信号として出力される。そして、このX線検出器では、X線をシンチレータ層により可視光すなわち蛍光に変換させ、この蛍光をアモルファスシリコン(a−Si)フォトダイオード、あるいはCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子で信号電荷に変換することで画像を取得している。
【0003】
シンチレータ層の材料としては、一般的にヨウ化セシウム(CsI):ナトリウム(Na)、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、あるいは酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)などが用いられる。Gd
2O
2Sは、焼結体の粉体をバインダ樹脂と混合して塗膜により形成したり、一体の焼結体として用いたりする。また、これらの塗膜または焼結体にダイシングなどにより溝を形成して解像度を上げる方法なども考えられている。CsI:Tl膜やCsI:Na膜は、真空蒸着法により柱状構造が形成されるようにすることで、解像度特性を向上させることができる。シンチレータの材料としては上述の通り種々のものがあり、用途や必要な特性によって使い分けられる。
【0004】
シンチレータ層の上部には、蛍光の利用効率を高めて感度特性を改善するために、反射膜を形成する場合がある。すなわち、シンチレータ層で発光した蛍光のうち光電変換素子側に対して反対側に向かう蛍光を反射膜で反射させて、光電変換素子側に到達する蛍光を増大させるものである。
【0005】
反射膜の例としては、銀合金やアルミニウムなど蛍光反射率の高い金属層をシンチレータ層上に成膜する方法や、TiO
2などの光散乱性物質とバインダ樹脂とから成る光散乱反射性の反射膜を塗布形成する方法などが知られている。また、シンチレータ膜上に形成するのではなく、アルミなどの金属表面を持つ反射板をシンチレータ層に密着させてシンチレータ光を反射させる方式も実用化されている。
【0006】
シンチレータ層や反射層あるいは反射板などを外部雰囲気から保護して湿度などによる特性の劣化を抑えるための防湿構造は、検出器を実用的な製品とする上で重要な構成要素となる。特に湿度に対して劣化の大きい材料であるCsI:Tl膜やCsI:Na膜をシンチレータ層とする場合には高い防湿性能が要求される。
【0007】
防湿構造としては、ポリパラキシリレンのCVD膜を用いる方法、あるいは、シンチレータの周囲を包囲部材で囲って防湿層との組み合わせで封止する構造などがある。更に高い防湿性能を得られる構造として、防湿性能の優れたアルミニウム箔などを、シンチレータ層を包含するハット状に加工して、シンチレータの周辺で接着層により封止する構造などが知られている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
一実施形態による放射線検出器を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
図1は、一実施形態による放射線検出装置の模式的斜視図である。
図2は、本実施形態による放射線検出器のアレイ基板の回路図である。
図3は、本実施形態による放射線検出装置のブロック図である。
図4は、本実施形態による放射線検出器の断面の一部拡大断面図である。
図5は、本実施形態による放射線検出器の上面図である。
図6は、本実施形態による放射線検出器の側面図である。
【0021】
本実施形態の放射線検出器11は、放射線像であるX線画像を検出するX線平面センサであり、たとえば一般医療用途などに用いられる。放射線検出装置10は、この放射線検出器11と、支持板31と、回路基板30と、フレキシブル基板32とを有している。放射線検出器11は、アレイ基板12とシンチレータ層13とを有している。放射線検出器11は、入射したX線を検出して蛍光に変換し、その蛍光を電気信号に変換する。放射線検出装置10は、放射線検出器11を駆動し、放射線検出器11から出力された電気信号を画像情報として出力する。放射線検出装置10が出力した画像情報は、外部のディスプレイなどに表示される。
【0022】
アレイ基板12は、蛍光を電気信号に変換する光電変換基板である。アレイ基板12は、ガラス基板16を有している。ガラス基板16の表面には、複数の微細な画素20が正方格子状に配列されている。画素20は、たとえば一辺の長さが13インチの長方形の画素領域(アクティブ領域)内にマトリクス状に配列される。それぞれの画素20は、薄膜トランジスタ22とフォトダイオード21とを有している。また、ガラス基板16の表面には、画素20が配列された正方格子の行に沿って制御ライン18が各画素20の間を延びている。さらに、ガラス基板16の表面には、画素20が配列された正方格子の列に沿って同数のデータライン19が各画素20の間を延びている。シンチレータ層13は、アレイ基板12の画素20が配列された領域の表面に形成されている。
【0023】
シンチレータ層13は、アレイ基板12の表面に設けられ、X線が入射すると可視光領域の蛍光を発生する。発生した蛍光は、アレイ基板12の表面に到達する。
【0024】
シンチレータ層13は、たとえばヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などを真空蒸着法で柱状構造に形成したものである。たとえば、シンチレータ層13にはCsI:Tlの蒸着膜を用い、その膜厚は約600μmである。CsI:Tlの柱状構造結晶の柱(ピラー)の太さは、最表面でたとえば8〜12μm程度である。あるいは、酸硫化ガドリニウム(Gd
2O
2S)蛍光体粒子をバインダ材と混合し、アレイ基板12上に塗布して焼成および硬化し、ダイサによりダイシングするなどで溝部を形成して四角柱状に形成してシンチレータ層13を形成してもよい。これらの柱間には、大気、あるいは酸化防止用の窒素(N
2)などの不活性ガスが封入され、あるいは真空状態としてもよい。
【0025】
アレイ基板12は、シンチレータ層13で発生した蛍光を受光して電気信号を発生する。その結果、入射したX線によってシンチレータ層13で発生した可視光像は、電気信号で表現された画像情報に変換される。
【0026】
放射線検出器11は、シンチレータ層13が形成された面の反対側の面と支持板31とが接触するように、支持板31に支持されている。回路基板30は、支持板31の放射線検出器11に対して反対側に配置されている。放射線検出器11と回路基板30との間は、フレキシブル基板32で電気的に接続されている。
【0027】
それぞれのフォトダイオード21は、スイッチング素子である薄膜トランジスタ22を介して制御ライン18およびデータライン19に接続されている。また、それぞれのフォトダイオード21には、下部に対向して配置され、矩形平板状に形成された蓄積キャパシタ27が並列に接続されている。なお、蓄積キャパシタ27は、フォトダイオード21の容量が兼ねる場合もあり、必ずしも必要ではない。
【0028】
フォトダイオード21およびそれに並列に接続された蓄積キャパシタ27は、薄膜トランジスタ22のドレイン電極25に接続されている。薄膜トランジスタ22のゲート電極23は、制御ライン18に接続されている。薄膜トランジスタ22のソース電極24は、データライン19に接続されている。
【0029】
配列の同じ行に位置する画素20の薄膜トランジスタ22のゲート電極23は、同一の制御ライン18に接続されている。配列の同じ列に位置する画素20の薄膜トランジスタ22のソース電極24は、同一のデータライン19に接続されている。
【0030】
同じ行の画素20中の薄膜トランジスタ22のゲート電極23は、同じ制御ライン18に接続されている。同じ列の画素20中の薄膜トランジスタ22のソース電極24は、同じデータライン19に接続されている。
【0031】
各薄膜トランジスタ22は、フォトダイオード21への蛍光の入射にて発生した電荷を蓄積および放出させるスイッチング機能を担う。薄膜トランジスタ22は、結晶性を有する半導体材料である非晶質半導体としてのアモルファスシリコン(a−Si)、あるいは多結晶半導体であるポリシリコン(P−Si)などの半導体材料にて少なくとも一部が構成されている。
【0032】
なお、
図1および
図2において、画素は5行5列あるいは4行4列分しか記載していないが、実際にはもっと多く、解像度、撮像面積に応じて必要な画素が形成されている。
【0033】
放射線検出装置10は、放射線検出器11と、ゲートドライバー39と、行選択回路35と、積分アンプ33と、A/D変換器34と、並列/直列変換器38と、画像合成回路36とを有している。ゲートドライバー39は、放射線検出器11の各制御ライン18に接続されている。ゲートドライバー39は、各薄膜トランジスタ22の動作状態、すなわちオンおよびオフを制御する。ゲートドライバー39は、たとえばアレイ基板12の表面における行方向に沿った側縁に実装されている。積分アンプ33は、放射線検出器11の各データライン19に接続されている。
【0034】
行選択回路35は、ゲートドライバー39に接続されている。並列/直列変換器38は、積分アンプ33に接続されている。A/D変換器34は、並列/直列変換器38に接続されている。A/D変換器34は、画像合成回路36に接続されている。
【0035】
積分アンプ33は、たとえば放射線検出器11と回路基板30とを接続するフレキシブル基板32上に設けられている。その他の素子は、たとえば回路基板30上に設けられている。
【0036】
ゲートドライバー39は行選択回路35からの信号を受信して、各薄膜トランジスタ22の動作状態、すなわちオンおよびオフを制御する。つまり、制御ライン18の電圧を順番に変更していく。行選択回路35は、X線画像を走査する所定の行を選択するための信号をゲートドライバー39へと送る。積分アンプ33は、アレイ基板12からデータライン19を通じて出力される極めて微小な電荷信号を増幅し出力する。
【0037】
アレイ基板12の表面には、フォトダイオード21および薄膜トランジスタ22などの検出素子、並びに、制御ライン18およびデータライン19などの金属配線を覆う絶縁性の保護膜が形成されている。シンチレータ層13は、保護膜の表面に、画素20が配列された領域を覆うように形成されている。
【0038】
アレイ基板12には、制御ライン18およびデータライン19のそれぞれの端部が露出したパッド29が配列されて、端子群26が形成されている。端子群26は、アレイ基板12の辺に沿って配列されている。制御ライン18につながる端子群26と、データライン19につながる端子群26は、異なる辺に沿って配列されている。これらの端子群26は、フレキシブル基板32を介して、回路基板30と電気的に接続されている。
【0039】
図7は、本実施形態による放射線検出器の外周部近傍の拡大断面図である。
【0040】
シンチレータ層13の表面は、樹脂材を主成分の一つとする平滑化層14で覆われている。平滑化層14は、シンチレータ層13の表面に接して形成されている。平滑化層14の表面は、水蒸気バリア層15で覆われている。水蒸気バリア層15は、平滑化層14の表面に接して形成されている。平滑化層14には、シンチレータ層13で発生した蛍光のうちアレイ基板12から遠ざかっていくものをアレイ基板12側へ反射させる反射膜の機能を持たせてもよい。水蒸気バリア層15の外周部51は、アレイ基板12の表面に直接接触している。
【0041】
平滑化層14は、有機樹脂材料を溶剤により溶かして塗液化し、場合によりセラミックスまたは金属の微粒散乱体を混合分散した後に、シンチレータ層13上に塗布または印刷または噴霧などの方法で塗膜した後に乾燥することにより形成する。水蒸気バリア層15は、物理的または化学的気相成膜法(PVD法またはCVD法)によって金属膜または金属や半導体などの酸化膜または窒化膜または酸窒化膜、あるいはこれらの複合膜を平滑化層上に積層することによって形成する。
【0042】
図8は、本実施形態の変形例による放射線検出器の外周部近傍の拡大断面図である。
【0043】
この変形例では、平滑化層14の外周部52がある程度の幅でアレイ基板12の表面に接している。
【0044】
シンチレータ層13の保護膜に要求される重要な特性として防湿性がある。特に、X線検出器10で多用されているCsI:Tl膜などの潮解性を有するシンチレータ層13において、防湿性は検出器の信頼性において生命線とも言える。この防湿性能を確保するには、材料自体の物性としての水蒸気バリア性能の高い材質を用いる必要がある。
【0045】
一般的に有機樹脂材料は、その材料本来の物性として水蒸気バリア性は低い。この理由としては、高分子ゆえの分子鎖間にある元々の隙間や、熱運動により生じる隙間のために、水分子の通過がかなり容易であるためと考えられる。樹脂の種類により程度の差はあるものの、水蒸気バリア性能は概して低く、CsI:Tl層の防湿膜として用いるにはあまり適していない。
【0046】
一方、金属やセラミックスなどの無機材料は、その材料本来の物性としての水蒸気バリア性は一般に高い。この理由としては、高分子樹脂材料と異なり金属やセラミックスの無機材質では、金属原子同士や金属と酸素や窒素や炭素などの結合が構造を形作っており、そのバルクの内部には水の分子(水蒸気)を透過させる隙間は殆ど存在しないためと考えられる。このため、無機材質でシンチレータの保護膜を形成した場合には、優れた防湿性能が期待できる。
【0047】
たとえば、AL箔材などを用いた防湿層は、この無機材質の高いガスバリア性能を利用したものである。しかしながら、このような方式の場合には、シンチレータの周辺部で防湿層と基板とを接着封止する必要があり、その接着封止に要するエリアの寸法が製品自体の外形寸法の増大につながる。
【0048】
そこで、高い水蒸気バリア性を有する無機材料の防湿膜を、直接シンチレータ膜を覆うように形成することが望まれる。このときに重要なポイントとして、形成される無機膜が欠陥の少ない膜である必要がある。
【0049】
ところが、一般にCsI:Tlなどのシンチレータ層はピラー構造を有してその膜表面は凹凸が大きい。また、その他のGd
2O
2S:Tbなどの焼成シンチレータ材料にしても、表面に凹凸が形成されている場合がある。したがって、これらのシンチレータ層13の上に直接無機材質の保護膜を形成しても下地となるシンチレータ材の隙間や表面の凹凸によって、欠陥の多い膜となってしまう。CsI:Tlなどは、その柱状(ピラー)構造により、その上に直接連続膜を形成すること自体も困難である。
【0050】
しかし、本実施形態では、シンチレータ層13の直上には、連続かつ平滑な膜を形成し易い有機樹脂材質を主成分の一つとする平滑化層14を形成し、その表面の平滑性を利用して、その上に水蒸気バリア性の高い無機材質で欠陥の少ない水蒸気バリア層15を形成している。この複合膜により、防湿性の優れた防湿層を、シンチレータ層の周辺に最小限の接着封止のエリアを確保すれば形成することができるようになる。
【0051】
このように本実施形態によれば、防湿構造に伴うアレイ基板12のサイズの増大を最小限に抑え、かつCsI;Tlシンチレータ膜などの湿度に対して感度や解像度の特性が敏感なシンチレータ膜においても特性劣化の小さい、高温高湿耐性が極めて優れた放射線検出器を提供することができる。
【0052】
防湿層のそれぞれ必要な膜厚に関しては、先の説明で重要とした膜欠陥を生じないための観点から決まってくる。有機樹脂を主要原料とした平滑化層14は、シンチレータ層13の表面の凹凸を平滑にして、その上部に形成する無機の水蒸気バリア層15を連続な膜として形成させる必要がある。そのためには、有機樹脂を主要成分とした塗膜であることから、粘度などにより多少の違いはあるが、概ね平滑化層14の下地となるシンチレータ層13の凹凸と実質的に同等以上の膜厚を確保する事でその目的が実現される。また無機材料の水蒸気バリア層15は、下地となる平坦化層の表面凹凸を十分にカバーして連続膜となる必要がある。そのためには、無機材料の成膜方法(スパッタリングや真空蒸着、或いはプラズマCVDなど)により多少の違いはあるが、概ね下地の平滑化層表面凹凸と実質的に同等以上の膜厚を確保する事でその目的は実現される。
【0053】
また、このような防湿膜は、平滑化層14と水蒸気バリア層15とを交互に複数回積層して形成してもよい。このように平滑化層14と水蒸気バリア層15とを複数回積層すると、水蒸気バリア層15中に水蒸気を通過するような欠陥が存在しても、その欠陥位置が複数の層の間で重なる確率がきわめて低いことから、より確実な防湿性能を得ることができる。
【0054】
図9は、本実施形態の他の変形例による放射線検出器の外周部近傍の拡大断面図である。
【0055】
本変形例では、平滑化層14の外周部52および水蒸気バリア層15の外周部51は、アレイ基板12の表面に形成された外部接続用のパッド29に接続されたフレキシブル基板53の表面の一部を覆っている。
【0056】
本実施形態の防湿構造では、シンチレータ層13の周辺部に保護膜すなわち平滑化層14および水蒸気バリア層15と基板との密着封止をするためには、僅かな幅(たとえば5mm程度)があれば十分である。しかし、有機樹脂を主要成分途する平滑化層14をディスペンサー法やスクリーン印刷法、あるいはスプレイ法などによって形成する際に、周辺のパッド29などを覆って平滑化層14の材料一部が付着することを避けなければならない。同様に、無機の水蒸気バリア層15をスパッタリングや真空蒸着法などによって形成する場合にも、周辺のパッド29などを覆って水蒸気バリア層15の材料の一部が付着することを避けなければならない。
【0057】
アレイ基板12のパッド29への、これらの膜材料の付着をしっかりと防ぐには、寸法精度や作業性の良好なマスクを製作して用いる必要がある。またマスキングのために、パッド29とシンチレータ層13との間には若干の隙間を設ける事が望まれる。その隙間の分は基板寸法の余分な増大につながる。
【0058】
しかし、本変形例では、防湿膜を形成する工程の前にパッド29に対し外部回路へ導くフレキシブル基板53などの配線を事前に接続する。その結果、防湿膜となる平滑化層14や水蒸気バリア層15がパッド29の表面の一部を被覆することとなるが、何ら特段の問題を生じない。しかも、保護膜形成時のマスクも厳密な寸法精度は不要である。さらに、パッド29をシンチレータ層13のぎりぎりまで近接させることも可能となり、余分なパネル寸法を省いて最小寸法のコンパクトな放射線検出器11を提供することができる。
【0059】
図10は、ポリパラキシリレンCVD防湿膜のCsI:Tl膜ピラー構造への侵入を示す写真である。
【0060】
シンチレータ層13の上に直接形成する(複数の積層の場合には第1の)平滑化層14が樹脂成分のみから形成されている場合、たとえばCsI:Tl膜シンチレータ膜の様なピラー構造の隙間にこの樹脂成分がシンチレータ層13の表面よりも下方の位置60まで侵入してしまう場合がある。樹脂が侵入すると、ピラー間の隙間を埋め、ピラー構造によるライトガイド効果を減じてしまう。この結果、シンチレータ膜の解像度特性の低下を招く。
【0061】
そこで、シンチレータ層13上に直接形成する(複数の積層の場合には第1の)平滑化層14中に、一般的に樹脂材料に比較して屈折率が高いセラミックスの微粒子をシンチレータ光の散乱体として添加してもよい。たとえばCsI:Tl膜のピラー間を平滑化層14の樹脂が埋めることによって生じるピラー間のシンチレータ光のクロストークを、この散乱体の効果で抑えることができる。この結果、平滑化層14の樹脂のシンチレータ層13への侵入に伴う副作用の解像度低下が少ない、良好な解像度特性の放射線検出器を提供することができる。
【0062】
有機樹脂の可視光領域における屈折率は一般的に1.4〜1.5前後であり、酸化物や窒化物などセラミックスの同屈折率は樹脂の屈折率より大きい
ものが多い。特に高屈折率材料である酸化チタン(TiO
2:ルチル型では、n=2.8程度)の微粒子を添加した場合にはシンチレータ光の散乱能が極めて高く、解像度低下を抑える効果が特に大きい。
【0063】
添加するセラミックス粒子の粒径は、シンチレータ光の波長との関係で、その1/2程度の前後の粒径がMie散乱領域といわれて最も散乱が生じ易い。すなわち効果が大きい。シンチレータ光の波長に対して概ね1桁以上小さい粒径で光の散乱は生じにくくなり効果が小さくなる。またシンチレータ光の波長に対してセラミックスの粒径が大きい場合は、幾何光学的な屈折による散乱は期待できるが、粒径が大きくなるほど平滑化層中に添加できるセラミックス微粒子の個数密度が小さくなることから、必然的に単位体積当りの散乱能は低減する。これらのことから、シンチレータ光
の波長に対して概ね1/10〜10倍程度の平均粒径を持ったセラミックス微粒子が散乱体としては好適である。
【0064】
樹脂成分に対するセラミックス微粒子の添加量が極端に大きくなると、平滑化層14として必要な表面の滑らかさが損なわれるため、体積含有率で概ね60vol.%程度が上限となる。一方、添加比率が極端に小さい場合には前記のシンチレータ光の散乱効果が小さくなるので、体積含有率で概ね20vol.%程度以上が望ましい。
【0065】
シンチレータ層13上に形成するセラミックス微粒子を含む平滑化層14は、シンチレータのピラー間のクロストークを抑制する効果のみで無く、シンチレータ全体を覆って反射層の役割を担う。
【0066】
平滑化層14は少なくとも有機樹脂を主成分のとして含有する。その有機樹脂を溶媒で溶いて一旦塗液状態にし、その塗液をシンチレータ層の上に塗布すると、塗液がシンチレータ表面の凹凸を埋め、かつ重力の効果により塗液の最表面がレベリング(平滑化)される。したがって最表面が平滑化した状態で膜化するため、平滑化層14として必要な表面状態を得ることができる。
【0067】
塗液化するための溶媒は、樹脂の種類によってその樹脂を溶かし易いものであることが当然でるが、あわせて乾燥速度が適当なものが望ましい。その目安として溶媒の沸点も重要である。概ね沸点が100℃以上の溶媒を用いることにより、塗布後の速乾を避けることができ、平滑化層14としての好適な最表面を得ることが可能となる。
【0068】
平滑化層14の上に形成する水蒸気バリア層15の製造方法としては、スパッタリング法や真空蒸着法などの物理的気相成膜法(PVD法)やPECVD法などの化学的気相成膜法が望ましい。これは、水蒸気バリア層15の必要な特性として膜が緻密であることと共に、平滑化層14との密着力の信頼性を確保する上で好ましいからである。気相からの成膜によれば、湿式の成膜法に比較して不純物の含有を極力押さえて、またボイドやクラックなども極めて生じにくい。さらに成膜前のスパッタエッチングなどの成膜表面のクリーニングも同じ成膜装置内で直前におこなうことができるなど、有機樹脂の平滑化層14との密着力の信頼性を高める上でも望ましい。
【0069】
本実施形態による放射線検出器11の特性を評価するため、高温高湿試験を行った。
【0070】
図11は、本実施形態によるX線検出器の高温高湿試験の結果を示す表である。
【0071】
最終的な製品としての放射線検出器11は、アレイ基板12上にシンチレータ層13、平滑化層14および水蒸気バリア層15を順次形成するが、高温高湿試験では、ガラス基板上に直接シンチレータ層13を形成し、その上に平滑化層14および水蒸気バリア層15を積層した。高温高湿試験では、輝度と解像度(CTF)特性を測定した。輝度と解像度特性は、X線を水蒸気バリア層15側から入射し、ガラス基板の背面からガラス基板とシンチレータ層13との界面に焦点を合わせてCCDカメラでX線像を撮影する方法を用いた。X線質条件としては、70KVpでRQA−5相当条件とし、輝度は標準とする増感紙(富士フィルム株式会社HG−H2 Back)に対する相対輝度とし、解像度は解像度チャート像の2Lp/mmのCTF(Contrast Transfer Function)の値=CTF(2Lp/mm)%を画像処理により求めた。
【0072】
試験用サンプルは以下のようにして製造した。シンチレータ層13は、40mm□のガラス基板上に25mm□サイズでCsI:Tl膜(600μmt)を真空蒸着法で形成した。次に、シンチレータ層13上に平滑化層14を形成した。平滑化層14の材料としては、ブチラール系樹脂と可塑剤としてのエポキシ化亜麻仁油を夫々50wt.%を混合して、シクロヘキサノンを溶剤として塗液とし、これをシンチレータ層13上に塗布した。塗布方法としては、ガラス基板をXYステージ上でスキャンしながらディスペンサーにより順次塗布する方法、簡易スクリーンを用いてロールコーターなどにより塗布する方法、筆塗りなどの方法が可能である。またシンチレータ層13の種類によっては、塗液の濃度を薄めた状態でスプレイガンを用いて塗布する方法なども可能である。平滑化層14は、CsI:Tlシンチレータ層13の全体を覆い、シンチレータ層13の周辺部でガラス基板と密着する状態に形成した。基板との密着領域は概ね1mm程度である。
【0073】
平滑化層14を直接ガラス基板16に密着させる方法以外にも、ガラス基板16のシンチレータ層13周辺部に予め樹脂や金属やガラスなどでダム状の枠を形成しておいて、その枠に平滑化層14を密着させる方法でも防湿性能を確保できる。ただし、それぞれの枠とガラス基板16との密着封止は水蒸気の侵入を抑えるように作成しておく必要がある。
【0074】
平滑化層14として連続膜を形成するのに必要な膜厚は、下地のシンチレータ層13の凹凸の程度により異なる。厚さが600μmのCsI:Tlシンチレータ層13上に形成する場合には、乾燥時膜厚として概ね100μm程度で十分に平坦度の良好な平滑化層14が得られた。膜厚はこれに限らず、下地となるシンチレータ層13表面の凹凸を連続膜として覆って、後工程で形成する無機の水蒸気バリア層15が連続膜として形成されるのに十分な平滑性が確保できればよい。ピラー構造のCsI:Tl膜などの上に形成する場合には概ね50μm以上の膜厚があれば、平滑化層14の連続性と表面の平坦性が確保できる。
【0075】
平滑化層14の膜厚が厚すぎる場合には、乾燥時の膜応力(シンチレータ膜を剥がそうとする応力が強くなる)や、乾燥に長時間を要する点などが問題となる場合もある。さらに、極端に平滑化層14の膜厚が厚くなると、シンチレータ層13の周辺部でアレイ基板12と接する領域が広くなり易い点で、外形寸法のコンパクト化の効果が薄れる点で望ましくない。これらの観点から、概ね300μm程度を厚いほうの上限とするのが望ましい。
【0076】
平滑化層14の他の例として、平均粒径0.3μm程度のTiO
2(ルチル型)の粉体を塗液化した樹脂材料中に混合して、反射層を兼ねることを狙ったサンプルも製造した。混合比率は、重量比で、樹脂:TiO
2=1:9とした。TiO
2の含有比率がかなり高いが、これは反射膜としての高解像度特性を高く維持したいからである。TiO
2の含有比率がこれ以上に高くなると、平滑化層14としての最表面の平坦性が確保しにくくなるので、実質的にTiO
2の含有はこの辺りを上限とするのが望ましい。TiO
2微粒を混合した平滑化層を600μmtCsI:Tl膜上に塗布・乾燥した段階で断面の状態をSEM観察した結果、樹脂成分と共にTiO
2の微粒がCsI:Tl膜のピラー構造の隙間に侵入していることが確認された。この場合、ピラー間のシンチレータ光のクロストークを抑制する効果が期待できる。
【0077】
次に、平滑化層14の上に水蒸気バリア層15を形成した。水蒸気バリア層15は、X線の透過を阻害しにくく、かつ水蒸気バリア性能が高い材料を選ぶ必要がある。
【0078】
図12は、本実施形態による水蒸気バリア層の成膜条件の例を示す表である。
【0079】
水蒸気バリア層15は、
図12に示したような条件で、EB(Electron Beam)真空蒸着法、RF(高周波)スパッタリング法、PE(plasma enhanced)CVD法などによって成膜することができる。導入ガス圧、投入パワーなどは、
図12に示した条件をベースとして、成膜レイトと膜質を見て適宜チューニングした。
【0080】
水蒸気バリア層15の成膜の際には、成膜領域より外側には膜の付着が生じないようにマスキングした。下地となる平滑化層14の樹脂の耐熱性を考慮し、基板の温度は150℃程度以下に抑えられる条件で成膜した。
【0081】
他の例として、平滑化層14と水蒸気バリア層15を複数回交互に積層した保護層も検討した。材質と膜厚は、1層ずつの場合と同様で、それぞれ交互に2層積層した場合、夫々交互に3層積層した場合を試作した。
【0082】
比較例として、CsI:Tl膜上に防止層としてポリパラキシリレンのCVD膜(膜厚20μm)を形成したもの、および、ハット状のつば部を有するアルミ防湿層を枠でシンチレータの周囲で基板と接着シールした構造のものを作成した。前者の比較例では、パラキシリレンのダイマーを原料として、加熱気化させて成膜チャンバーに運び、シンチレータ膜を含む基板上にポリパラキシリレンの膜を形成させた。後者の比較例では、CsI:Tl膜上にTiO
2微細粒とバインダ樹脂からなる反射膜を予め形成した上に、ALハットのつば部を高気密性の接着材にて接着封止した。ALハットのつば幅は5mmである。
【0083】
実際の放射線検出器11に適用する光電変換素子基板を設計する際には、シンチレータ層13が形成されるエリアの外側に、この防湿層と基板とを接着層で封止するためのエリアを盛り込む必要がある。この例では、片側5mmのALハットつば幅と、接着剤の食み出しなどのマージンで8mm程度、両側では16mmとなり、本実施形態で必要なエリア(実施例では片側1mmで両側では2mm)に比較して、前後方向、左右方向共に14mmほど基板サイズが拡大することになる。
【0084】
このようにして作成した本実施形態によるサンプルと比較例のサンプルを60℃−90%RHの高温高湿試験に供して、輝度および解像度変化(イニシャルに対する維持率)を追跡した。
【0085】
図13は、本実施形態による放射線検出器の高温高湿試験におけるCTF維持率の時間変化を示すグラフである。
図14は、
図13の縦軸を拡大したグラフである。
【0086】
CsI:Tl膜の湿気による特性劣化は解像度により顕著に現れ易いので、解像度の指標であるCTF(2Lp/mm)の特性維持率を調べた。ポリパラキシリレンCVD膜を用いたサンプルは、24時間時点でCTF(2Lp/mm)の値が初期の2/3前後に低下した。それに対して本実施形態によるサンプルとALハットの防湿層を用いたサンプルでは500時間の経過でもCTF(2Lp/mm)の値は初期値とほとんど変化していない。本実施形態の保護膜の中でも、平滑化層14と水蒸気バリア層15の積層回数が多いものは、より防湿性能が高いことが分かる。
【0087】
図15は、本実施形態による放射線検出器の高温高湿試験におけるイニシャルの輝度とCTF
を示すグラフである。
【0088】
CsI:Tlシンチレータ層13上に形成する平滑化層14にTiO
2微粒粉を混合して反射膜機能を持たせたものは、比較例のTiO
2反射膜とALハット防湿層/接着層の構造と同様に、高輝度&高解像度の特性が得られている。一方、ポリパラキシリレンのCVD膜を防湿層として用いた比較例、および本実施形態のサンプルでシンチレータ層13上に形成する平滑化層14にセラミックス微粒粉を添加していないものは、輝度と解像度特性が低めの傾向となっている。輝度に関しては反射膜の機能を果たすものが形成されていないために、基板側と反対方向に発せられる蛍光分のロスによるものと考えられる。
【0089】
解像度の低下に関しては、CsI:Tl膜のピラー構造中に樹脂材料が染み込んでライトガイド効果を減じ、ピラー間でシンチレータ光のクロストークを生じて解像度の低下を招いていると考えられる。特にポリパラキシリレンのCVD膜を防湿層とした場合には、
図10に示すようにピラー間へのポリパラキシリレンの侵入は深い。これは、気相成膜によるためにモノマー分子が
ピラーの深くまで侵入できる事によると思われる。
【0090】
これに対して塗液状態でシンチレータ層上に形成するとその粘度によりCsI:Tl膜のピラー間への侵入深さを制御することができる。溶剤のシクロヘキサノンの添加量により平滑化層14の塗液の粘度を1200mPa・sec程度して塗膜した場合、CsI:Tlシンチレータ膜13の表層からの侵入深さは50μm程度に以下に抑えられている。
【0091】
本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。